説明

発泡成形品の成形方法及び発泡成形品の成形装置

【課題】発泡成形品は、発泡ガスのスキン層への巻き込みによる表面性の低下や、内部に気泡を有することによる製品剛性の低下という性質を有する。このような発泡成形品を、製品形状や肉厚の制約を受けず表面性と剛性とを確保し、好ましくは、一つの射出装置で得る成形手段を提供することが課題である。
【解決手段】第1層となる金型キャビティに発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填し、前記金型キャビティを所定時間保持して第1層を成形する工程と、前記所定時間の経過後に金型キャビティを拡大して形成した第2層となる空隙部に、発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填するとともに、該溶融樹脂の充填完了後に前記拡大後の金型キャビティを拡大して保持し樹脂を発泡させて第2層を成形する工程と、所定の冷却時間の経過後に金型を開いて成形品を取り出す工程と、を備え、金型内において発泡層を順次積層して成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型キャビティに発泡剤を含む溶融樹脂を充填して発泡させる発泡成形品の成形方法及び成形装置に係り、特に金型内において発泡層を順次積層してなる発泡成形品を得るための、成形方法及び成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の内部に多数存在する気泡により軽量化、断熱性、吸音性等の物性に優れた効果を示す発泡成形品は、古くから様々な分野で使用されている。
特に近年は、製品に対する樹脂の使用量を減らして軽量化するために樹脂を発泡させる手法が用いられ、軽量化はコストの低減につながることもあいまって発泡成形品の分野を更に広げている。しかしながら、未だに発泡ガスのスキン層への巻き込みによる表面性の低下や、内部に気泡を有することによる製品剛性の低下という技術的な課題が残されている。
【0003】
発泡ガスのスキン層への巻き込みによる表面性の低下がなく、成形品の表面が平滑で荒れが少ない成形方法として、例えば、特許文献1には、射出充填に先立ち金型キャビティに加圧ガス体を注入して加圧状態にし、発泡剤を含む溶融樹脂を充填、その後金型キャビティを拡大して樹脂を発泡させ成形品を得る成形方法(ガスカウンタープレッシャー法)が開示されている。
この特許文献1には、加圧ガス体が金型キャビティを流動する溶融樹脂のフローフロントで発泡ガスにより生じる気泡の破裂を抑制し、表面不良を防止することが記載されている。(特許文献1参照)
【0004】
一方、表面性の改善と製品剛性の確保の両立を狙った成形方法としては、例えば、特許文献2に、発泡剤を含む溶融樹脂を未発泡の状態で金型内に充填し、その後、成形品に中空部が生じるように金型キャビティを拡大、その中空部に発泡剤を含む溶融樹脂を充填させ成形品を得る成形方法が開示されている。
この特許文献2に開示された発泡成形品の成形方法によれば、表面層が表面性の良好な未発泡層で、成形品内部は軽量化を目的とした発泡層からなるサンドイッチ構造の成形品を得ることが可能である。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開昭54−053171
【特許文献2】特開昭54−021384
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前述した従来の特許文献1に記載した成形方法(ガスカウンタープレッシャー法)においては、成形品の表面性は改善されるものの、金型に加圧ガス体を注入して加圧状態とするガス体の供給装置と、注入され加圧状態にあるガス体の漏れを防止するガス体の封止機構を設けた特殊構造の金型とを用いることから、設備費が高価であり製品のコスト高を招くことや、製品形状に制約を与えるといった問題があった。
また、ガス体を金型外に完全に排出することができないガス抜け不良の発生や、製品剛性が低下するといった問題を有していた。
【0006】
製品剛性を確保するためには、発泡専用グレードやタルク、ガラス繊維等の強化剤又は、ゴム等の改質剤を添加した特殊な成形材料を使用したり、あるいは、成形品の肉厚を厚くする、若しくは補強材をインサートする等の工夫が必要であった。
しかし、発泡専用グレードや強化剤等を添加した特殊な成形材料を使用すれば、コストが上昇するといった問題を生じ、成形品の肉厚を厚くする、若しくは補強材をインサートすると、成形品の寸法形状に制約を与え、また、成形品の質量が増え軽量化ができないといった問題があった。
【0007】
また、前述した従来の特許文献2に記載した成形方法では、最初に発泡剤を含む溶融樹脂を未発泡の状態で金型内に充填し、その後中空部が生じるように金型キャビティを拡大、次にその中空部に発泡剤を含む溶融樹脂を充填させ発泡成形品を成形することから、サンドイッチ態様の構造体となり成形品の形状や最小肉厚が制約されるとともに、適用範囲も限定されるといった問題があった。
そして、製品剛性を確保するためには、最初に成形するスキン層と、次に成形するコア層とは異なった成形材料をそれぞれ供給できる、二つの射出装置を備えた特殊な専用成形装置が必要であった。
【0008】
そこで、この発明は、射出成形方法により成形するに際して、成形品の形状や肉厚に制約されず、また、発泡専用グレードや強化剤を添加した特殊な成形材料を使用することなく、剛性を有し、表面が平滑な発泡成形品を一つの射出装置を備えた成形装置で得られるようにすることを、基本的な目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明の第1の方法は、(ア)第1層となる金型キャビティに発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填し、前記金型キャビティを所定時間保持して第1層を成形する工程と、(イ)前記所定時間の経過後に金型キャビティを拡大して形成した第2層となる空隙部に、発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填するとともに、該溶融樹脂の充填完了後に前記拡大後の金型キャビティを拡大して保持し樹脂を発泡させて第2層を成形する工程と、
(ウ)所定の冷却時間の経過後に金型を開いて成形品を取り出す工程と、を備え、金型内において発泡層を順次積層して成形する。
【0010】
本発明の第2の方法は、(あ)第1層となる金型キャビティに発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填するとともに、該溶融樹脂の充填完了後に前記金型キャビティを拡大して樹脂を発泡させ、前記拡大後の金型キャビティを所定時間保持して第1層を成形する工程と、
(い)前記所定時間の経過後に前記拡大後の金型キャビティを拡大して第2層となる空隙部を形成し、発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填して第2層を成形する工程と、(う)所定の冷却時間の経過後に金型を開いて成形品を取り出す工程と、を備え、金型内において発泡層を順次積層して成形する。
【0011】
以上の場合において、第1層及び第2層それぞれの充填方法は、予め前記第1層及び第2層の充填量を加算して可塑化計量し、それぞれの充填工程において順次充填する方法であっても、また、予め第1層の前記充填量を可塑化計量しておき、前記第1層の充填完了後において第2層の充填量を可塑化計量し充填する方法であっても良い。
【0012】
そして、本発明の第3の方法においては、第1の発明において、第1層となる発泡剤を含む溶融樹脂の所定量を、該第1層の金型キャビティ容積と略同一の樹脂量とした。
【0013】
さらに、本発明の第4の方法では、第2の発明において、第2層となる発泡剤を含む溶融樹脂の所定量を、該第2層の金型キャビティ容積と略同一の樹脂量とした。
【0014】
本発明の第3及び第4の方法において、発泡剤を含む溶融樹脂の所定量と、該溶融樹脂が充填される金型キャビティ容積と略同一の樹脂量としたのは、溶融樹脂の充填完了後に充填圧力が作用して発泡圧力が抑制されて発泡できず、冷却によりそのまま固化されることで、発泡セル(気泡)が殆ど含まれない層を成形することにある。この方法では、溶融樹脂を充填後に金型キャビティ容積を保持するので、樹脂の冷却固化収縮挙動に応じて発泡し極低発泡層を得る。一方、樹脂の冷却固化収縮挙動に応じて金型キャビティ容積を減少させ、発泡を抑制することで未発泡層を得る方法であっても良い。
また、本発明の第3及び第4の方法において、金型キャビティ容積と略同一の樹脂量の充填後に金型キャビティ容積を微小量拡大して低発泡層を得る方法や、充填後の金型キャビティ容積を保持した状態で保持圧力(保圧)を作用させて未発泡層とする方法としても良い。
【0015】
そして、本発明の第5の方法では、本発明の第1〜4のいずれかの方法において、第1層及び第2層となる発泡剤を含む溶融樹脂を、同一の熱可塑性樹脂材料とした。
本発明において、第1層及び第2層に用いられる熱可塑性樹脂材料としては、特に限定されるものではなく、第1層と第2層とが金型内において接合して一体化される樹脂が好ましく、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリメチルアクリレート等のアクリル系樹脂、6−ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネイト樹脂、サーモプラスティツクエラストマ等が挙げられる。特に、薄肉であっても高い発泡倍率が得られる流動性を改善したハイフローのポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0016】
また、本発明に使用される発泡剤としては、特に限定されるものではなく、化学発泡剤や物理発泡剤が使用できる。化学発泡剤では、重炭酸ソーダに代表される無機発泡剤やアゾジカルボンアミド(ADCA)に代表される有機発泡剤が挙げられる。
物理発泡剤では、二酸化炭素、窒素、二酸化炭素と窒素との混合ガス等の不活性ガスや空気等が挙げられる。これらの発泡剤は単独で使用しても、混合して使用しても良い。
そして、発泡剤に気泡核形成剤を混合して成形することは、気泡が微細化するとともに分散性がよくなることから、高発泡倍率で高剛性の発泡層が実現できる。気泡核形成剤としては、酸化鉄、珪酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛又はステアリン酸マグネシウム等の無機物の微粉末や、クエン酸、酒石酸等の有機酸、珪酸アルミニウム、ガラス繊維、タルク等の微粉末が挙げられ、成形する樹脂材料に合わせ選択的に使用することが好ましい。
【0017】
本発明に係る成形装置は、可動金型と固定金型とからなる一対の成形用金型と、前記可動金型を前記固定金型に対して開閉駆動する型締装置と、該型締装置には、前記可動金型の開閉位置を多段階に設定し得る型締位置設定部と、前記可動金型の開閉速度を前記開閉位置に応じて可変し得る型締速度設定部とを有し、これら2つの設定部の設定値に基づいて、金型開閉中の型開閉位置及び型開閉速度を制御する型締制御部を、備えるとともに、
熱可塑性樹脂材料からなる発泡剤を含む溶融樹脂を金型キャビティに充填する一つの射出装置と、該射出装置には、第1層及び第2層となる前記溶融樹脂の金型キャビティへの充填量、充填速度及び充填圧力等の射出条件を設定し得る射出設定部を有し、該設定部の設定値に基づいて、溶融樹脂の充填量、充填速度及び充填圧力等の射出条件を制御する射出制御部が設けられ、金型内において発泡層を順次積層して成形する構成とした。
【0018】
本発明においては、可動金型を移動させて金型キャビティを拡大し成形することとしたので、型締装置は可動盤の移動位置を1/100mm以下に制御できるトグル機構の採用が好ましい。そして、トグル機構の駆動手段は、油圧駆動式と電動サーボ駆動式が挙げられるが、制御の安定性や自由度から電動サーボ駆動式の使用がより好ましい。
【0019】
また、本発明において、第1層及び第2層それぞれの発泡剤を含む所定量の溶融樹脂の充填を、予め前記第1層及び第2層の所定量をそれぞれ加算して可塑化計量しておき、それぞれの充填工程において順次充填する方法としたので、第1層目の充填量を精度良く制御するとともに、充填完了後の第2層の充填量も精度良く維持でき、また、溶融樹脂の発泡圧力を抑制するスクリュの位置保持に優れた特性を有する、電動サーボ駆動式の射出装置の使用が好ましい。
また、予め第1層の発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を可塑化計量しておき、前記第1層の充填完了後に第2層の発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を可塑化計量して充填する方法の場合においても、射出装置の駆動は、制御の安定性や自由度から電動サーボ式が好ましい。
前記溶融樹脂の充填速度は、金型キャビティ内のフローフロントにおいて発泡剤の起泡を抑制しスワルマークの発生を防止できる、例えば750g/sec以上とすることが好ましい。
【0020】
本発明に使用する金型は、キャビティ容積を所定の量拡大又は縮小しても金型内に充填した溶融樹脂が漏れ出すことのない半押込み構造を使用することが好ましいが、これに限るものではなく、発泡成形に適用可能であればそれ以外の例えば、平押し構造等の金型を使用しても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の方法によれば、型締状態で第1層となる発泡剤を含む溶融樹脂を充填して所定時間保持し第1層を成形した後、型開を行なって金型キャビティを拡大して第1層と金型キャビティとで形成される空隙部に第2層となる発泡剤を含む溶融樹脂を充填し、その後、再び型開きを行なって金型キャビティ容積を拡大することで第2層を発泡させることで、強度層としての第1層と軽量層としての第2層とからなり、表面が平滑で製品剛性を有した発泡成形品を得ることができる。
そして、第1層の金型キャビティ容積に対する充填量と、第2層の空隙部容積に対する溶融樹脂充填後の金型キャビティ拡大量とを適宜設定することで、汎用の熱可塑性樹脂であっても、発泡倍率の異なる発泡層を積層して製品剛性の確保と軽量化が実現できる。
【0022】
本発明の第2の方法によれば、型締状態で第1層となる発泡剤を含む溶融樹脂を充填し、型開きを行なって金型キャビティ容積を拡大することで第1層を発泡させ、その後、再び型開きを行なって金型キャビティを拡大して第1層と金型キャビティとで形成される空隙部に第2層となる発泡剤を含む溶融樹脂を充填することで、軽量層としての第1層と強度層としての第2層からなり、軽量層が平滑で製品剛性を有した発泡成形品を得ることができる。
そして、第1層の空隙部容積に対する溶融樹脂充填後の金型キャビティ拡大量、及び、第2層の金型キャビティ容積に対する充填量を適宜設定することで、汎用の熱可塑性樹脂であっても、発泡倍率の異なる発泡層を積層して製品剛性の確保と軽量化が実現できる。
【0023】
特に、第1の発明による第1層及び第2の発明による第2層への溶融樹脂の充填量を金型キャビティ容積と略同一としたので、発泡剤を含んだ溶融樹脂を充填しても発泡構造とならず発泡セル(気泡)が殆ど存在しない未発泡層となり、より確実に製品剛性の低下を防止するとともに、製品意匠面側とすれば、高い表面性と転写性とを表現することができる。
更に、以上の場合において、第1層及び第2層は同一の熱可塑性樹脂材料と発泡剤および気泡核形成剤を適宜混合した溶融樹脂とし、充填方法を、予め前記第1層及び第2層の充填量を加算して可塑化計量し、それぞれの充填工程において順次充填する方法、または、予め第1層の前記充填量を可塑化計量して充填し、前記第1層の充填完了後において第2層の充填量を可塑化計量して充填する方法としたので、一つの射出装置を備えた成形装置を用いて表面が平滑で製品剛性を確保した発泡成形品を得ることができる。
【0024】
また、本発明に係る成形装置によれば、型締位置設定部により可動金型の開閉位置を多段階に設定することができ、型締速度設定部により可動金型の開閉速度を開閉位置に応じて可変設定することができる。また、射出設定部により第1層及び第2層溶融樹脂の充填量等の射出条件を設定することができる。そして、型締制御部及び射出制御部により、前記3つの設定部の設定値に基づいて、金型開閉期間中の可動金型の位置及び速度、充填樹脂量、充填速度や充填圧力等を制御することができるので、製品形状や成形条件等に応じて、各設定値をよりきめ細かく制御することができる。これにより、発泡成形方法で発泡層を積層して一体化してなる発泡成形品を成形するに際して、表面が平滑で製品剛性を確保した発泡成形品を安定して得られるように、成形装置を制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。まず、本実施形態に係る成形方法を説明するための成形装置について説明する。図1は、本実施形態に係る成形方法を実施するための成形装置の全体構成を概略的に示す説明図であり、図2及び図3は成形方法の概略を模式的に示す説明図である。図4及び図5は型締動作を説明するための線図で、横軸が時間を表わし、縦軸は可動金型と固定金型との当接ポイント(金型タッチ点)を基準とした位置を示している。
【0026】
図1に示すように、本発明の一実施例に使用される成形装置100は、横型締タイプとされ、金型10、型締装置20、射出装置30、制御装置60とを備えている。
金型10は、固定盤1に取り付けられた固定金型3と可動盤2に取り付けられた可動金型4とからなり、固定金型3と可動金型4とは嵌合部で嵌め合わされた半押込み構造で、該嵌め合わされた状態で金型キャビティを形成している。そして、該半押込み構造の嵌合部は金型キャビティ全周にわたって形成され、溶融樹脂の充填後に金型キャビティの容積を拡大又は縮小しても、金型キャビティに充填した樹脂が金型10から漏れ出すことを防止している。
また、金型10の固定金型3は、図1に示すバルブゲート37を有し図示しない加熱マニホールドを用いたホットランナを備えている。このように構成した金型10は、成形品にランナ(又は、スプル)が残らず製品形状への適合範囲が広く、そして、金型キャビティの直前で発泡ガスをシールするので、バレル内及び金型内の発泡ガスが抜け出すことがない。
【0027】
型締装置20は、固定盤1と、可動盤2と、電動サーボモータ25を駆動源とするリンク駆動機構26と、リンク駆動機構26に駆動されるトグル式型締機構8と、電動サーボモータ25を制御するドライバとを備え、可動盤2は固定盤1とエンドプレート5との間に架設されたタイバー7により案内されて、トグル式型締機構8により可動金型4と共に前後進できるよう構成されている。また、型締装置20に備えたリンク駆動機構26のクロスヘッド駆動軸27には、クロスヘッド28の位置を検出するためのストロークセンサ74が取り付けられている。さらに、型開閉ストロークを検出する型開閉ストロークセンサとして、可動盤位置センサ71が可動盤2の位置を検出するように配されている。
【0028】
射出装置30は、バレル32と、バレル32に内装されたスクリュ34と、バレル32内に熱可塑性樹脂材料を供給するホッパ38とを備え、該スクリュ34を前後進させるスクリュ移動手段40と、該スクリュ34を回転駆動するスクリュ回転手段42が設けられている。そして、前記バレル32の外周面には、図示しないヒータが取り付けられている。
そして、スクリュ回転手段42によってスクリュ34が回転することにより、ホッパ38から熱可塑性樹脂材料がバレル32内に供給される構成となっており、該供給された熱可塑性樹脂材料は、バレル32に取り付けられたヒータによって加熱され、また、スクリュ34の回転によって混練圧縮作用を受けることにより溶融しスクリュ34の前方へ送られる。スクリュ34の前方へ送られた溶融樹脂は、スクリュ移動手段40により前進するスクリュ34によって、バレル32の先端に取り付けられたノズル39と固定金型3に取り付けられたバルブゲート37から金型キャビティへ充填することができる。
【0029】
一方、制御装置60は、マイクロコンピュータを主要部として構成され、金型の開閉や型締力を制御する型締制御部61、熱可塑性樹脂材料の可塑化と溶融樹脂の金型キャビティへの充填を制御する射出制御部63を備えている。
型締装置20の型締制御部61は、図示していない可動金型4の開閉位置を必要に応じて多段階に設定し得る型締位置設定部と、可動金型4の開閉速度を必要により型開閉位置に応じて可変させるように設定し得る型締速度設定部とを備えており、これら2つの設定部の設定値に基づいて、金型開閉期間中(即ち、型閉開始から最終型締を経て型開き完了に至るまでの期間中)の可動金型4の開閉位置及び開閉速度が制御されるようになっている。前記型締速度制御部は、可動金型4の開閉速度を可動金型4の開閉位置に応じて多段階に変化するように設定することができ、また、連続的に変化するように設定することもできる。
そして、可動金型4の開閉位置は、予め記憶した可動盤2の位置に対応するクロスヘッド28の位置との位置関係データに基づき、金型閉作動中に検出されたクロスヘッド28の位置データによって制御されるようになっている。
【0030】
次に、本発明の成形装置100を使用して、金型内において発泡層を順次積層して成形する発泡成形品の成形方法について説明する。
本発明の第1の成形方法は、下記の工程を備えている。
(ア)第1層となる金型キャビティに発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填し、前記金型キャビティを所定時間保持して第1層を成形する工程と。
(イ)前記所定時間の経過後に金型キャビティを拡大して形成した第2層となる空隙部に、発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填するとともに、該溶融樹脂の充填完了後に前記拡大後の金型キャビティを拡大して保持し樹脂を発泡させて第2層を成形する工程。
(ウ)所定の冷却時間の経過後に金型を開いて成形品を取り出す工程。
そして、本発明の第2の方法は、下記の工程を備えている。
(あ)第1層となる金型キャビティに発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填するとともに、該溶融樹脂の充填完了後に前記金型キャビティを拡大して樹脂を発泡させ、前記拡大後の金型キャビティを所定時間保持して第1層を成形する工程。
(い)前記所定時間の経過後に前記拡大後の金型キャビティを拡大して第2層となる空隙部を形成し、発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填して第2層を成形する工程。
(う)所定の冷却時間の経過後に金型を開いて成形品を取り出す工程。
【0031】
以上の工程を備えた成形方法によれば、各層の金型キャビティ容積に対する充填樹脂量と溶融樹脂の充填後の金型キャビティ容積の拡大量とが調整できるので、発泡倍率の異なる発泡層を金型内において順次積層することができる。これにより、発泡剤を含む溶融樹脂を金型キャビティに充填する発泡成形方法で発泡層を積層してなる発泡成形品を成形するに際して、成形品の形状や肉厚に制約されず、軽量で剛性を有し、表面が平滑な成形品を安定して得ることができるのである。
【0032】
以下、本発明の第1の成形方法における各工程の詳細について、図2の説明図を参照しながら説明する。図2は成形方法の概略を模式的に示す説明図である。
工程(ア)の第1層51の成形工程では、図2(a)に示すように、可動金型4と固定金型3は当接して所定の型締力が作用した状態で形成された金型キャビティに、予め可塑化して計量された発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填して保持する。例えば、金型キャビティに充填する樹脂量を金型キャビティ容積より少量とした場合は、充填樹脂の不足を発泡ガスの膨張によって補い前記金型キャビティ容積と充填樹脂量の割合に応じた発泡倍率で薄いスキン層と発泡したコア層及び薄いスキン層とからなる発泡層が得られ、一方、金型キャビティ容積と略同一の樹脂量とした場合には、溶融樹脂の充填完了後に充填圧力が作用して発泡圧力が抑制されて発泡できず、冷却によりそのまま固化されることで、発泡セル(気泡)が殆ど含まれない未発泡層を得ることができる。
【0033】
工程(イ)の第2層52の成形工程では、第1層51の冷却固化後に、図2(b)に示すように、可動盤2を後退させ金型キャビティを拡大して空隙部を形成し、前記形成した空隙部に発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填する。そして、図2(c)に示すように、充填完了後に再び可動盤2を後退させ金型キャビティを拡大して充填した溶融樹脂を発泡させて、第2層52を形成させる。ここで、第2層52の発泡成形は、表面スキン層の形成程度に応じて金型キャビティを拡大させるタイミングと、発泡セルの成長速度と樹脂の伸長粘度とのバランスに応じて金型キャビティの拡大速度を適宜調整する。また、必要に応じて発泡核の形成と発泡セルの成長を別々に行なうよう金型キャビティを多段制御としても良い。そして、金型キャビティの拡大量(S2マイナスS1)によって、製品厚みと発泡倍率の制御を行なう。
このようにして、金型内において未発泡層と発泡層、低発泡倍層と高発泡倍層等発泡倍率の異なる成形品53を得る。
【0034】
そして、上記第2層52の成形工程後に、図2(d)に示すように、可動金型4を後退させて型開きを行い金型10から押出すことで成形品53が取り出され(成形品の取り出し工程(ウ))、1成形サイクルが完了する。
【0035】
次に、本発明の第2の成形方法における各工程の詳細について、図3の説明図を参照しながら説明する。図3は成形方法の概略を模式的に示す説明図である。
工程(あ)の第1層51の成形工程では、図3(a)に示すように、可動金型4と固定金型3は当接して所定の型締力が作用した状態で形成された金型キャビティに、予め可塑化して計量された発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填するとともに、図3(b)に示すように、該充填後に可動盤2を後退させ金型キャビティを拡大して樹脂を発泡させ、拡大した金型キャビティを所定時間保持し冷却固化させ第1層51を得る。ここで、第1層51の発泡成形は、表面スキン層の形成程度に応じて金型キャビティを拡大させるタイミングと、発泡セルの成長速度と樹脂の伸長粘度とのバランスに応じて金型キャビティの拡大速度を適宜調整する。また、必要に応じて発泡核の形成と発泡セルの成長を別々に行なうよう金型キャビティを多段制御としても良い。そして、金型キャビティの拡大量(S12マイナスS11)によって、製品厚みと発泡倍率の制御を行なう。
【0036】
工程(い)の第2層52の成形工程では、第1層51の冷却固化後に、図3(c)に示すように、可動盤2を後退させ金型キャビティを拡大して空隙部を形成し、その空隙部に発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填して保持する。例えば、金型キャビティに充填する樹脂量を金型キャビティ容積より少量とした場合は、充填樹脂の不足を発泡ガスの膨張によって補い前記金型キャビティ容積と充填樹脂量の割合に応じた発泡倍率で薄いスキン層と発泡したコア層及び薄いスキン層とからなる発泡層が得られ、一方、金型キャビティ容積と略同一の樹脂量とした場合には、溶融樹脂の充填完了後に充填圧力が作用して発泡圧力が抑制されて発泡できず、冷却によりそのまま固化されることで、発泡セル(気泡)が殆ど含まれない未発泡層を得ることができる。
【0037】
そして、第2層52充填後の所定の冷却時間経過後に、図3(d)に示すように、可動金型4を後退させて型開きを行い金型10から押出すことで成形品53が取り出され(成形品の取り出し工程(う))、1成形サイクルが完了する。
このようにして、金型内において未発泡層と発泡層、低発泡倍層と高発泡倍層等発泡倍率の異なる成形品53を得る。
【0038】
以上のように構成したので、成形品の形状や肉厚の制約されず、また、発泡専用グレードや強化剤を添加した特殊な樹脂材料を使用することなく、剛性を有し、表面が平滑な発泡成形品を一つの射出装置30を備えた成形装置100で得られることが可能となった。
【実施例】
【0039】
図1に示される成形装置100(宇部興産機械株式会社製電動ダイプレスト機UBE−MD350DP)により、次のような材料を用い、本発明の第1の方法で、以下の条件を設定して成形試験を行なった。
(1)成形品樹脂材料:ポリプロピレン樹脂(メルトフローレート(ISO−1133)30g/10分)
(2)金型温度:30〜40℃
(3)樹脂温度:190〜200℃
(4)充填時間:1層=0.9秒、2層=1.1秒
(5)発泡剤及び気泡核形成剤:重炭酸ソーダとクエン酸の混合発泡剤を3質量%添加
(6)第1層の肉厚及び発泡倍率:0.9mm、発泡倍率=1.0(未発泡)
(7)第2層の空隙厚(S1):1.3mm
(8)キャビティ拡大寸法(S2寸法とS1寸法の差)及び発泡倍率:1.1mm、発泡倍率=略1.8
【0040】
そして、成形条件を調整しても従来方法及び成形装置では成形ができなかった成形品を成形可能とした。即ち、第1層の肉厚が0.9mm、第2層の肉厚が2.4mm(空隙厚1.3mm、キャビティ拡大寸法1.1mm)で、肉厚3.3mm、発泡倍率が略1.8の発泡層を積層した発泡成形品を得ることができた。
【0041】
尚、本発明は、以上の実施態様に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲において、種々の変更や改良を加え得るものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る発泡成形品の成形方法及び発泡成形品の成形装置、によって得られる発泡成形品は、表面が平滑で荒れが少なく、剛性を有し、しかも軽量であることから、薄くて剛性が要求される自動車内装品や家電製品等様々な利用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態に係る成形方法を説明するための成形装置の全体構成を概略的に示す説明図である。
【図2】上記第1の発明における成形方法の概略を模式的に示す説明図である。
【図3】上記第2の発明における成形方法の概略を模式的に示す説明図である。
【図4】上記第1の発明の成形方法での型締動作を説明するための線図である。
【図5】上記第2の発明の成形方法での型締動作を説明するための線図である。
【符号の説明】
【0044】
3 固定金型
4 可動金型
10 金型
20 型締装置
30 射出装置
51 第1層
52 第2層
53 成形品
60 制御装置
61 型締制御部
63 射出制御部
100 成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層となる金型キャビティに発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填し、前記金型キャビティを所定時間保持して第1層を成形する工程と、
前記所定時間の経過後に金型キャビティを拡大して形成した第2層となる空隙部に、発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填するとともに、該溶融樹脂の充填完了後に前記拡大後の金型キャビティを拡大して保持し樹脂を発泡させて第2層を成形する工程と、
所定の冷却時間の経過後に金型を開いて成形品を取り出す工程と、を備え、
金型内において発泡層を順次積層して成形する発泡成形品の成形方法。
【請求項2】
第1層となる金型キャビティに発泡剤を含む溶融樹脂をフル充填するとともに、該溶融樹脂の充填完了後に前記金型キャビティを拡大して樹脂を発泡させ、前記拡大後の金型キャビティを所定時間保持して第1層を成形する工程と、
前記所定時間の経過後に前記拡大後の金型キャビティを拡大して第2層となる空隙部を形成し、発泡剤を含む所定量の溶融樹脂を充填して第2層を成形する工程と、
所定の冷却時間の経過後に金型を開いて成形品を取り出す工程と、を備え、
金型内において発泡層を順次積層して成形する発泡成形品の成形方法。
【請求項3】
前記第1層に充填する発泡剤を含む溶融樹脂の所定量を、該第1層の金型キャビティ容積と略同一の樹脂量とした請求項1記載の発泡成形品の成形方法。
【請求項4】
前記第2層に充填する発泡剤を含む溶融樹脂の所定量を、該第2層の金型キャビティ容積と略同一の樹脂量とした請求項2記載の発泡成形品の成形方法。
【請求項5】
前記第1層及び第2層それぞれに用いる発泡剤を含む溶融樹脂が、同一の熱可塑性樹脂材料である請求項1〜4いずれかに記載の発泡成形品の成形方法。
【請求項6】
可動金型と固定金型とからなる一対の成形用金型と、
前記可動金型を前記固定金型に対して開閉駆動する型締装置と、
該型締装置には、前記可動金型の開閉位置を多段階に設定し得る型締位置設定部と、前記可動金型の開閉速度を前記開閉位置に応じて可変し得る型締速度設定部とを有し、これら2つの設定部の設定値に基づいて、金型開閉中の型開閉位置及び型開閉速度を制御する型締制御部を、備えるとともに、
熱可塑性樹脂材料からなる発泡剤を含む溶融樹脂を金型キャビティに充填する一つの射出装置と、
該射出装置には、第1層及び第2層となる前記溶融樹脂の金型キャビティへの充填量、充填速度及び充填圧力等の射出条件を設定し得る射出設定部を有し、該設定部の設定値に基づいて、溶融樹脂の充填量、充填速度及び充填圧力等の射出条件を制御する射出制御部が設けられ、
金型内において発泡層を順次積層して成形する発泡成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−281698(P2006−281698A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107600(P2005−107600)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】