説明

発泡成形用樹脂ペレット、その製造方法及び発泡樹脂成形品の製造方法

【課題】発泡倍率のばらつきを低減可能な発泡成形用樹脂ペレット、その製造方法及び発泡樹脂成形品の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
本発明に係る発泡成形用樹脂ペレットは、被発泡樹脂(ポリアミド樹脂)の粉粒体と化学発泡剤(ADCA)の粉粒体とをバインダで結合して粉粒体混合物を作り、その粉粒体混合物を押出成形して得られる。この製造方法によれば、樹脂ペレットになる前の比較的小さな粉粒体である被発泡樹脂に化学発泡剤が混合されるので、化学発泡剤と被発泡樹脂との分散性を従来より高めることができる。また、発泡成形用樹脂ペレットの水分含有率が5重量%未満になっているので、水の気化による発泡倍率の誤差を小さくすることができる。これらにより、発泡倍率のばらつきを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂成形品の原料となる発泡成形用樹脂ペレット、その製造方法及び発泡樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡樹脂成形品の製造方法として、発泡樹脂成形品の主成分であるベース樹脂のペレットに化学発泡剤の粉粒体をブレンドして射出成形機に投入する製造方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−2998号公報(段落[0002])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、微細な粉粒体である化学発泡剤に対して、ペレットの粒径(1mm以上。一般には、平均粒径1〜5mmのものが多い。)が大きすぎるため、上述した従来の製造方法では、ベース樹脂と化学発泡剤との分散性を高めることが困難であった。このため、発泡倍率のばらつきが発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、発泡倍率のばらつきを低減可能な発泡成形用樹脂ペレット、その製造方法及び発泡樹脂成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る発泡成形用樹脂ペレットは、化学発泡剤の粉粒体と、化学発泡剤にて発泡させられる被発泡樹脂の粉粒体とを、水を含んだバインダで結合してなり、水分含有率が5重量%未満であるところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発泡成形用樹脂ペレットにおいて、被発泡樹脂の融点に代表される溶融開始温度が化学発泡剤の発泡開始温度よりも高いところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の発泡成形用樹脂ペレットにおいて、バインダは、水とポリビニルアルコール系樹脂とで構成されたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の発泡成形用樹脂ペレットにおいて、被発泡樹脂の粉粒体の平均粒径が250〜400μmであり、化学発泡剤の粉粒体の平均粒径が5〜30μmであるところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明に係る発泡樹脂成形品の製造方法は、請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載の発泡成形用樹脂ペレットを用いるところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明に係る発泡成形用樹脂ペレットの製造方法は、化学発泡剤の粉粒体と、化学発泡剤にて発泡させられる被発泡樹脂の粉粒体とを、水を含んだバインダで結合してなる粉粒体混合物を押出成形し、得られた押出成形体を水分含有率が5重量%未満となるまで乾燥するところに特徴を有する。
【0012】
[被発泡樹脂]
本発明に係る「被発泡樹脂」としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びABS樹脂などが挙げられる。
【0013】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のホモポリマー、共重合ポリマー又はブレンドポリマーが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、46−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等のホモポリマー、共重合ポリマー又はブレンドポリマーが挙げられる。ポリエステル樹脂としては、芳香族系ポリエステルが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のホモポリマー、共重合ポリマー又はブレンドポリマーである。ポリカーボネート樹脂としては、脂肪族系ポリカーボネート、芳香族系ポリカーボネートの何れであってもよい。具体例としては、ビスフェノールA−ポリカーボネート(BisA−PC)、イソソルバイド−ポリカーボネート等のホモポリマー、共重合ポリマー又はブレンドポリマーが挙げられる。ABS樹脂としては、特に共重合比に制限されることはなく、ブタジエンの比率を低下させた難燃性ABSであってもよい。
【0014】
[化学発泡剤]
本発明に係る「化学発泡剤」としては、反応型であっても、熱分解型であってもよいが、好ましくは熱分解型である。また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、これらは単独であっても2種以上を併用してもよい。反応型では、炭酸水素ナトリウムと酸との混合物等の無機系化学発泡剤と、イソシアネート化合物のような有機系化学発泡剤とが挙げられる。熱分解型では、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸亜鉛、硝酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等の無機系化学発泡剤と、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルヒドラジド化合物、スルホニルセミカルバジド化合物、トリアゾール化合物等の有機系化学発泡剤とが挙げられる。有機系化学発泡剤としては、具体的には、アゾジカルボンアミド(ADCA)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。
【0015】
[バインダ]
本発明に係る「バインダ」は、水と有機系結合剤から構成されたものである。有機系結合剤としては、具体的には、デンプン、ポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。デンプンとしては、米デンプン、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、完全けん化型ポリビニルアルコール、部分けん化型ポリビニルアルコールの何れであってもよいが、部分けん化型の方が好ましい。
【0016】
[融点に代表される溶融開始温度]
本発明に係る「融点に代表される溶融開始温度」とは、融点を有する樹脂に関してはその融点、融点を有しない樹脂に関しては、その樹脂がガラス転移してから押出成形が可能な程度に溶融される温度をいう。
【0017】
[発泡樹脂成形品]
本発明にかかる「発泡樹脂成形品」としては、自動車用部品、調理器具、医療器具等が挙げられる。自動車用部品としては、エンジンカバー、バッテリートレイ、オイルパン、ラジエタートップ、フューズケース、シリンダーヘッドカバー等が挙げられる。
【0018】
[発泡樹脂成形品の製造方法]
発泡樹脂成形品の成形方法としては、コアバック式の発泡成形方法であってもよいし、コアバックを行わずに単に成形金型のキャビティに被発泡樹脂を充填する成形方法であってもよい。また、発泡成形の際に、発泡成形用樹脂ペレットを溶融する装置は、公知の技術であれば特に限定されない。例えば、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー等の溶融混練機がよく用いられる。
【0019】
本発明に係る「発泡成形用樹脂ペレット」には、化学発泡剤以外にも、発泡核剤、強化剤を含有させることができる。発泡核剤としては、例えば、タルク、クレイ、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。強化剤としては、ガラス繊維、カーボンブラック、グラファイト、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等が挙げられる。
【0020】
また、本発明に係る「発泡成形用樹脂ペレット」には、必要に応じてさらに、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤などの各種安定剤、着色剤、滑剤、難燃剤等を含有させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、被発泡樹脂の粉粒体と化学発泡剤の粉粒体とを混合した粉粒体混合物を押出成形することで発泡成形用樹脂ペレットを製造することができる。このように、本発明によれば、樹脂ペレットになる前の比較的小さな粉粒体である被発泡樹脂に化学発泡剤が混合されるので、化学発泡剤と被発泡樹脂との分散性を従来より高めることができる。ここで、本発明に係るバインダは水を含むため、粉粒体混合物を押出成形して得られる押出成形体をそのまま発泡成形用樹脂ペレットとすると、成形金型内でバインダに含まれる水が気化して発泡倍率に誤差が生じてしまう。ところが、本発明では、押出成形体を乾燥して水分含有率を5重量%未満にしたものを発泡成形用樹脂ペレットとして用いたので、水の気化による発泡倍率の誤差を小さくすることができる。このように、本発明では、化学発泡剤と被発泡樹脂との分散性を高めることができ、しかも、水の気化による発泡倍率の誤差を小さくすることができるので、発泡倍率のばらつきを低減することができる。
【0022】
なお、発泡成形用樹脂ペレットは、発泡成形樹脂品の主原料である主ペレットとして用いてもよいし、主ペレットに混ぜて使用される、所謂、発泡剤マスターバッチペレットとして用いてもよい。
【0023】
本発明に係る被発泡樹脂は、融点に代表される溶融開始温度が化学発泡剤の発泡開始温度より低くてもよいし、請求項2の発明のように化学発泡剤の発泡開始温度より高くてもよい。なお、請求項2の発明の構成によれば、被発泡樹脂を溶融状態にして化学発泡剤と混練する(コンパウンド)方法によって化学発泡剤と混合することができない場合であっても、樹脂ペレットを製造することができる。
【0024】
本発明に係るバインダは、上記したように、水とデンプンとから構成されてもよいし、請求項3の発明のように、水とポリビニルアルコール系樹脂とから構成されてもよい。請求項3の発明によれば、デンプン系樹脂を使用した場合に比べて、被発泡樹脂の粉粒体と化学発泡剤の粉粒体との結合を良好に行うことができる。これは、ポリビニルアルコール系樹脂では、デンプンのように過剰に水分を吸収することが抑えられ、乾燥前と乾燥後の水分含有率の差異が低減されるからであると推測される。
【0025】
また、被発泡樹脂の粉粒体の平均粒径を250〜400μm、化学発泡剤の粉粒体の平均粒径を5〜30μmとすることで、一般に流通している市販品を使用することができる(請求項4の発明)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る発泡成形用樹脂ペレットは、平均粒径が1〜3mmになっていて、従来の樹脂ペレットの平均粒径(1〜5mm)とほぼ同じ大きさになっている。発泡成形用樹脂ペレットは、「被発泡樹脂」としてのポリアミド樹脂の粉粒体と、化学発泡剤の粉粒体と、タルクの粉粒体とが、水を含んだバインダで結合されてなり、水分含有率が0.2重量%になっている。バインダは、ポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAという)と水とで構成されている。そして、水分を除いた残りの99.8重量%分が、ポリアミド樹脂:化学発泡剤:タルク:PVA=72.18/0.27/17.55/10の重量比で配合されている。なお、PVAは、部分けん化型のものが使用されている。
【0027】
なお、化学発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(以下、ADCAという)を使用し、その発泡開始温度は180〜210℃であって、ポリアミド樹脂の融点の220℃より低くなっている。
【0028】
発泡成形用樹脂ペレットは以下のようにして製造される。まず、平均の粉粒体径が250〜400μmのポリアミド樹脂の粉粒体と、平均の粉粒体径が5〜30μmのADCAの粉粒体と、平均の粒径が5.5μmのタルクの粉粒体とを72.18/0.27/17.55の重量比で取り、これら粉粒体を、水を含んだバインダとともに混練し、粘性を有する粉粒体混合物を得る。バインダは、ポリアミド樹脂、ADCA、タルクの総重量を90としたときに、PVAと水の重量が10/35となるように調整されている。
【0029】
次いで、粉粒体混合物を、例えば、多数の円形孔を有するプレートの一方側から加圧して線状に押出成形すると共に1〜3mmの長さに切断する。そして、得られた成形体を80℃下で4時間乾燥することで成形体の水分含有率を0.2重量%まで減少させ、発泡成形用樹脂ペレットを得る。
【0030】
次に、本発明に係る「発泡樹脂成形品」としてのエンジンカバーを、上述した発泡成形用樹脂ペレットを用いて製造する方法について説明する。そのためには、まず、コアバック型射出発泡成形機のシリンダに発泡成形用樹脂ペレットを投入する。なお、このとき、必要に応じて発泡成形用樹脂ペレットを予め乾燥しておく。次いで、シリンダ内でポリアミド樹脂を融点(220℃)以上に加熱して溶融状態とし、その溶融状態のポリアミド樹脂にタルク、化学発泡剤(ADCA)を混練して分散させる。このとき、化学発泡剤が発泡開始温度(180〜210℃)以上に加熱されて発泡が開始する。
【0031】
次いで、シリンダ内における溶融状態のポリアミド樹脂を成形金型内に充填する。そして、成形金型の可動型をコアバックさせて溶融状態のポリアミド樹脂を発泡成形する。次いで、成形金型内のポリアミド樹脂を冷却し、可動型を開放することにより、エンジンカバーが取り出される。
【0032】
本実施形態では、被発泡樹脂(ポリアミド樹脂)の粉粒体と化学発泡剤(ADCA)の粉粒体とを混合した粉粒体混合物を押出成形することで発泡成形用樹脂ペレットを製造することができる。このように、本実施形態によれば、樹脂ペレットになる前の比較的小さな粉粒体である被発泡樹脂に化学発泡剤が混合されるので、化学発泡剤と被発泡樹脂との分散性を従来より高めることができる。ここで、バインダは水を含むため、粉粒体混合物を押出成形して得られる押出成形体をそのまま発泡成形すると、発泡成形の際に成形金型内で水が気化して発泡倍率に誤差が生じてしまう。ところが、本実施形態では、押出成形体を乾燥して水分含有率を5重量%未満にしたものを発泡成形用樹脂ペレットとして用いたので、水が発泡倍率に与える影響を抑えることができる。このように、本実施形態では、化学発泡剤と被発泡樹脂との分散性を高めることができ、しかも、水の気化による発泡倍率の誤差を小さくすることができるので、発泡倍率のばらつきを低減することができる。
【0033】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0034】
(1)前記実施形態における発泡成形用樹脂ペレットは、被発泡樹脂(ポリアミド樹脂)、化学発泡剤(ADCA)及びタルクがバインダで結合された構成であったが、被発泡樹脂と化学発泡剤のみがバインダで結合された構成であってもよいし、被発泡樹脂、化学発泡剤、タルクに加えてガラス繊維や顔料がバインダで結合された構成であってもよい。
【0035】
(2)前記実施形態では、発泡成形用樹脂ペレットのみを射出成形機に投入していたが、発泡成形用樹脂ペレットに加えて、添加剤(例えば、強化剤、酸化防止剤、可塑剤など)の粉粒体、当該添加剤のマスターバッチペレット又は熱可塑性樹脂のペレットを投入してもよい。
【0036】
(3)被発泡樹脂、化学発泡剤、タルクの総重量に対するバインダの重量は、前記実施形態に限定されるものではなく、バインダを増やして被発泡樹脂、化学発泡剤、タルクの粉粒体同士の結合性を向上させてもよい。
【0037】
(4)また、バインダにおけるポリビニルアルコール(PVA)と水の重量比についても、前記実施形態に限定されるものではなく、PVAの割合を増やしてバインダの結合能を向上させてもよい。
【0038】
なお、本発明の技術範囲には属さないが、本発明の技術を利用して、化学発泡剤の粉粒体の替わりに、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤等の各種安定剤の粉粒体又は着色剤の粉粒体を、樹脂の粉粒体に結合させた複合樹脂ペレットを製造してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学発泡剤の粉粒体と、前記化学発泡剤にて発泡させられる被発泡樹脂の粉粒体とを、水を含んだバインダで結合してなり、
水分含有率が5重量%未満であることを特徴とする発泡成形用樹脂ペレット。
【請求項2】
前記被発泡樹脂の融点に代表される溶融開始温度が前記化学発泡剤の発泡開始温度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の発泡成形用樹脂ペレット。
【請求項3】
前記バインダは、前記水とポリビニルアルコール系樹脂とで構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡成形用樹脂ペレット。
【請求項4】
前記被発泡樹脂の粉粒体の平均粒径が250〜400μmであり、前記化学発泡剤の粉粒体の平均粒径が5〜30μmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の発泡成形用樹脂ペレット。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載の発泡成形用樹脂ペレットを用いることを特徴とする発泡樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
化学発泡剤の粉粒体と、前記化学発泡剤にて発泡させられる被発泡樹脂の粉粒体とを、水を含んだバインダで結合してなる粉粒体混合物を押出成形し、得られた押出成形体を水分含有率が5重量%未満となるまで乾燥することを特徴とする発泡成形用樹脂ペレットの製造方法。

【公開番号】特開2012−72279(P2012−72279A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218040(P2010−218040)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】