説明

発泡樹脂成形品の成形方法および成形装置

【課題】発泡樹脂成形品のウエルド部を補強する成形方法。
【解決手段】成形型2に形成されたキャビティ1内に溶融発泡性樹脂3を射出して供給する主供給工程と、この溶融発泡性樹脂3を流動させてキャビティ1内に略充填する流動工程と、キャビティ1内に略充填された溶融発泡性樹脂3を発泡および硬化させて発泡樹脂成形品を形成する成形工程とを含み、上記成形型2のキャビティ1内に溶融発泡性樹脂3が供給されることにより形成された複数の溶融発泡性樹脂流が合流するウェルド部分13に、当該溶融発泡性樹脂3よりも発泡剤量の少ない溶融低発泡性樹脂19または溶融ソリッド樹脂を、上記溶融発泡性樹脂3が硬化する前に追加供給する追加供給工程を備えた発泡樹脂成形品の成形方法および成形装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型に設けられたキャビティ内に溶融発泡性樹脂を射出して発泡樹脂成形品を形成する発泡樹脂成形品の成形方法および成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1に示されるように、成形型に設けられたキャビティ内に、発泡剤を含有する溶融発泡性樹脂をシートショットの状態で供給、つまりキャビティの容量よりも少ない量の溶融発泡性樹脂を射出して供給した後、上記成形型を型開き方向に移動させるコアバックを行うことにより、キャビティ内で上記樹脂を発泡させるように構成した発泡樹脂成形品の成形方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−17285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記成形型のキャビティに対する樹脂の射出を複数のゲートから行う場合、あるいは成形型に溶融樹脂の流動を分岐させるインサートピンが設けられている場合等には、上記キャビティ内に複数の溶融樹脂流が生じるとともに、その合流により樹脂が融着したウェルド部分(ウェルドライン)が形成されることが知られている。そして、本発明者らは、上記溶融発泡性樹脂により形成される発泡樹脂成形品に、上記のようなウェルド部分が形成されると、当該ウェルド部分における発泡セルの径が他の部分よりも大きくなり、この発泡セルの肥大化によって発泡樹脂成形品に局所的な強度低下が生じ易く、その傾向がソリッド樹脂成形品に比べて顕著であることを見出した。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、溶融発泡性樹脂により発泡樹脂成形品を形成する際に発泡セルが肥大化することに起因して発泡樹脂成形品に局所的な強度低下が生じるのを効果的に防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、成形型に形成されたキャビティ内に溶融発泡性樹脂を射出して供給する主供給工程と、この溶融発泡性樹脂を流動させてキャビティ内に略充填する流動工程と、キャビティ内に略充填された溶融発泡性樹脂を発泡および硬化させて発泡樹脂成形品を形成する成形工程とを含み、上記成形型のキャビティ内における複数の溶融発泡性樹脂流が合流するウェルド部分に、当該溶融発泡性樹脂よりも発泡剤量の少ない溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂を、上記溶融発泡性樹脂が硬化する前に追加供給する追加供給工程を備えたものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の発泡樹脂成形品の成形方法において、上記ウェルド部分に対する溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂の追加供給を、上記主供給工程でキャビティ内に供給された溶融発泡性樹脂がウェルド部分に隣接した位置に到達する直前の時点で開始するように構成したものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の発泡樹脂成形品の成形方法において、上記主供給工程でキャビティ内に供給される溶融発泡性樹脂のベース樹脂材と、上記追加供給工程で追加供給される上記溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂のベース樹脂材とを、同一材料で構成したものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡樹脂成形品の成形方法において、上記流動工程で溶融発泡性樹脂を成形型のキャビティ内に略充填した後、上記成形工程で成形型をコアバックして溶融発泡性樹脂を発泡させるように構成したものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4のいずれか1項に記載の発泡樹脂成形品の成形方法において、上記主供給工程で溶融発泡性樹脂をキャビティ内にショートショットの状態で射出して供給するように構成したものである。
【0011】
請求項6に係る発明は、内部にキャビティが形成された成形型と、この成形型のキャビティ内に溶融発泡性樹脂を射出して供給する主供給手段とを有し、この溶融発泡性樹脂を流動させてキャビティ内に略充填するとともに、キャビティ内に略充填された溶融発泡性樹脂を発泡および硬化させて発泡樹脂成形品を形成するように構成された発泡樹脂成形品の成形装置であって、上記成形型のキャビティ内における複数の溶融発泡性樹脂流が合流するウェルド部分に、当該溶融発泡性樹脂よりも発泡剤量の少ない溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂を追加供給する追加供給手段と、上記主供給手段からキャビティ内に供給された溶融発泡性樹脂が硬化する前に、上記追加供給手段による溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂の追加供給を行うように制御する制御手段とを備えたものである。
【0012】
請求項7に係る発明は、上記請求項6に記載の発泡樹脂成形品の成形装置において、上記制御手段は、主供給手段によりャビティ内に供給された溶融発泡性樹脂がウェルド部分に隣接した位置に到達する直前の時点で、上記追加供給手段によりウェルド部分に対する溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂の追加供給を開始するように制御するものである。
【0013】
請求項8に係る発明は、上記請求項6または7に記載の発泡樹脂成形品の成形装置において、上記主供給手段によりキャビティ内に供給される溶融発泡性樹脂のベース樹脂材と、上記追加供給手段により追加供給される上記溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂のベース樹脂材とを同一材料で構成したものである。
【0014】
請求項9に係る発明は、上記請求項6〜8のいずれか1項に記載の発泡樹脂成形品の成形装置において、上記主供給手段により溶融発泡性樹脂を成形型のキャビティ内に略充填した後、成形型をコアバックして溶融発泡性樹脂を発泡させるように制御するものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1および6に係る発明では、成形型のキャビティ内に射出された溶融発泡性樹脂の流動先端部に発泡セルの破泡が起こることに起因したガスの集合が生じ、かつガス濃度が高い状態で複数の溶融発泡性樹脂流が合流することにより発泡セルが肥大化し易い傾向にあるウェルド部分に、溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂を射出して供給することにより、上記ウェルド部分における発泡の肥大化を抑制して発泡セル径の均一化を図ることができるため、上記ウェルド部分の発泡セル径が肥大化することに起因した局部的な強度の低下が発泡樹脂成形品に生じるのを、簡単な構成で効果的に防止できるという利点がある。
【0016】
請求項2および7に係る発明では、ウェルド部分に対する溶融低発泡性樹脂の追加供給を、上記キャビティ内に供給された溶融発泡性樹脂がウェルド部分に隣接した位置に到達する直前の時点で開始するように構成したため、上記ウェルド部分に対して適量の溶融低発泡性樹脂を供給し、当該溶融低発泡性樹脂と上記溶融発泡性樹脂とを適度に混合して上記発泡樹脂成形品の強度を全体的に均質化できるという利点がある。
【0017】
請求項3および8に係る発明では、キャビティ内に供給される溶融発泡性樹脂のベース樹脂材と、ウェルド部分に追加供給される溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂のベース樹脂材とを同一材料で構成したため、当該溶融低発泡性樹脂と溶融発泡性樹脂との相溶性(親和性)を確保してこれらを強固に結合することにより、上記発泡樹脂成形品の強度を簡単な構成で充分に確保できるという利点がある。
【0018】
請求項4および9に係る発明では、上記溶融発泡性樹脂を成形型のキャビティ内に供給して略充填した後、上記成形工程で成形型を型開きするコアバックを行うことにより、上記溶融発泡性樹脂を発泡させるように構成したため、発泡樹脂成形品に内部に微細な発泡セル層を形成できるとともに、上記溶融低発泡性樹脂をキャビティ内のウェルド部分に射出して追加供給することにより、上記ウェルド部分における発泡セルの肥大化を効果的に抑制できるという利点がある。
【0019】
請求項5に係る発明では、キャビティ内に溶融発泡性樹脂をショートショットの状態で射出して供給するように構成したため、上記溶融発泡性樹脂を確実に発泡させることができるとともに、上記ショートショットの状態を必要に応じて制御することにより、上記発泡セル層の発泡率を適正に調節できるとともに、上記ショートショットに応じてウェルド部分に発泡セル径の肥大化が生じるのを、上記キャビティ内のウェルド部分に溶融低発泡性樹脂を追加供給することにより、効果的に抑制できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る発泡樹脂成形品の成形装置の実施形態を示す説明図である。
【図2】発泡樹脂成形品の一例を示す斜視図である。
【図3】ウェルド部分の形成例を示す説明図である。
【図4】発泡セルが肥大化した状態を示す説明図である。
【図5】発泡樹脂成形品の成形過程を示す説明図である。
【図6】発泡樹脂成形品の別の成形過程を示す説明図である。
【図7】発泡樹脂成形品の成形過程を示すタイムチャートである。
【図8】発泡樹脂成形品の成形方法の参考例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明に係る発泡樹脂成形品の成形装置の実施形態を示している。この発泡樹脂成形品の成形装置は、キャビティ1が内部に設けられた成形型2と、この成形型2のキャビティ1内に溶融発泡性樹脂3を射出して供給する主供給手段4と、上記成形型2内において複数の溶融発泡性樹脂流が合流することにより形成される下記ウェルド部分に、上記溶融発泡性樹脂3よりも発泡剤量の少ない溶融低発泡性樹脂19を追加供給する追加供給手段5と、上記主供給手段4および追加供給手段5を制御する制御手段6とを備えている。
【0022】
そして、上記主供給手段4から成形型2に供給された溶融発泡性樹脂3を流動させてキャビティ1内に略充填するとともに、このキャビティ1内に略充填された溶融発泡性樹脂3を発泡および硬化させ、かつ所定のタイミングで上記追加供給手段5から溶融低発泡性樹脂19を上記キャビティ1内のウェルド部分13に射出して追加供給することにより、自動車用、建築資材用、家電用または日用雑貨用等に使用される発泡樹脂成形品を形成するように構成されている。
【0023】
図2は、上記成形装置により成形される発泡樹脂成形品7の一例を示している。この発泡樹脂成形品7は、所定長さの半円筒状部8と、その両側辺部に設けられたフランジ部9とを有し、上記発泡樹脂成形品7に対応した図外の発泡樹脂成形品と結合されることにより自動車用空調装置のダクトを構成するダクト部材である。上記発泡樹脂成形品7のフランジ部9には、当該発泡樹脂成形品7の取付または位置決め等に利用される貫通孔10,11が形成されている。なお、図2において、符号12a,12aは、上記成形型2に設けられたゲート12,12の位置に対応した樹脂供給部を示し、符号13は、上記ゲート12,12からキャビティ1内に供給された溶融発泡性樹脂3からなる複数の溶融発泡性樹脂流が合流することにより上記発泡樹脂成形品7に生成されたウェルド部分を示している。
【0024】
当実施形態では、成形型2に設けられた一対のゲート12,12から、上記キャビティ1内に溶融発泡性樹脂3がそれぞれ射出されることにより、二本の溶融発泡性樹脂流が形成されるようなっている。したがって、上記両ゲート12,12間に対応した樹脂供給部12a,12aの略中央位置、つまり発泡樹脂成形品7の長さ方向中央位置に、上記二本の溶融発泡性樹脂流が合流して融着したウェルド部分13が形成されることになる。また、上記貫通孔10,11を形成するためにキャビティ1内に配設されたインサートピン等の設置部には、このインサートピンに沿って二本の溶融発泡性樹脂流が形成されるため、その合流部にもウェルド部分13a,13bが形成される。
【0025】
上記ウェルド部分13は、図3に示すように、発泡樹脂成形品7の約10%〜30%の面積を有している。このウェルド部分13に対して下記追加供給手段5による溶融低発泡性樹脂19の射出を行わなければ、発泡セルの肥大化が生じて強度が低下し易い傾向がある。すなわち、図4に示すように、成形型2のゲート12,12からキャビティ1内に射出された溶融発泡性樹脂3の流動先端部には、発泡セルの破泡が起こることに起因したガスの集合が生じ易く、かつ上記ウェルド部分13には、ガス濃度が高い状態で複数の溶融発泡性樹脂流が合流することにより、周辺部に比べて発泡セルが肥大化し易いため、上記ウェルド部分13の樹脂密度が不足してその強度を充分に確保することが困難な傾向にある。なお、図4において符号7aは、上記溶融発泡性樹脂3等が早期に冷却されることにより形成されたスキン層である。
【0026】
上記成形型2は、図1に示すように、支持手段(図示せず)により固定状態で支持された固定型14と、この固定型14に対して相対移動可能に支持された移動型15とを有し、上記固定型14および移動型15には、それぞれ相対応する凹部16および凸部17が形成されている。そして、上記固定型14の凹部16内に移動型15の凸部17が嵌入されることにより、両者の間にキャビティ1が区画形成されるようになっている。
【0027】
また、成形型2の固定型14には、上記主供給手段4から射出された溶融発泡性樹脂3が導入される主樹脂導入通路18が形成されるとともに、当該主樹脂導入通路18の下流側部を上下に分岐させてなる上記ゲート12,12が設けられている。さらに、上記固定型14には、追加供給手段5から射出された溶融低発泡性樹脂19が導入される追加樹脂導入通路20が、上記ウェルド部分13の生成位置に対応する部位、つまり固定型14の上下方向中央部近傍位置等に設けられている。
【0028】
上記主供給手段4は、円筒状の射出シリンダ21と、この射出シリンダ21内に配設されて回転可能かつ進退可能に支持されたスクリュー22と、このスクリュー22を回転駆動するとともに、進退駆動する駆動機構23とを有している。上記射出シリンダ21の後方上部には、例えばポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリスチレン等からなる樹脂ペレットPを投入するためのホッパー24が設置され、かつ上記射出シリンダ21の周壁部には、ホッパー24から投入された樹脂ペレットPを加熱して溶融させるヒータ(図示せず)が設置されている。また、上記射出シリンダ21の長手方向略中央部には、超臨界流体供給装置25において生成された超臨界状態(臨界圧力および臨界温度を超えた状態)の窒素や二酸化炭素等からなる超臨界流体を射出シリンダ21内に注入する注入ノズル26が接続されている。
【0029】
そして、上記射出シリンダ21内に投入された樹脂ペレットPがヒーターの熱に応じて溶融状態となることにより生成された溶融樹脂と、上記注入ノズル26から注入された超臨界流体とが、上記スクリュー22の回転に応じて混ぜ合わされることにより、溶融発泡性樹脂3が形成され、発泡樹脂成形品7の成形時に上記超臨界流体が気化して溶融発泡性樹脂3が発泡するようになっている。すなわち、当実施形態では、上記溶融発泡性樹脂3の発泡剤として、超臨界流体からなる物理発泡剤を使用することにより、液体としての粘度および溶解力と気体としての激しい分子運動性とを併せ持つ上記超臨界流体の性質を利用して超微細発泡成形を行うように構成されている。
【0030】
上記射出シリンダ21内の溶融発泡性樹脂3は、上記スクリュー22の回転に応じて射出シリンダ21の前方側へと押し出される。また、その反力でスクリュー22が後退し、このスクリュー22の後退量が上記溶融発泡性樹脂3の射出量に対応した距離となった時点で、スクリュー22の回転が停止される。その後、上記スクリュー22を駆動機構23により高速で前進させることにより、上記射出シリンダ21の前方部に設けられた先端ノズル27から固定型14の主樹脂導入通路18を介して上記キャビティ1内に溶融発泡性樹脂3が射出されるようになっている。
【0031】
上記追加供給手段5は、注入ノズル26から注入される超臨界流体の割合が上記主供給手段4に比べて少なく設定されている点を除いて、当該主供給手段4と同様の構成を有している。また、上記追加供給手段5は、主供給手段4によりキャビティ1内に供給されるポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリスチレン等からなる溶融発泡性樹脂3と同一材料のベース樹脂材を有する溶融低発泡性樹脂19をキャビティ1内に追加供給するものである。
【0032】
上記追加供給手段5は、制御手段6から出力される制御信号に応じ、図5(a)に示すように、上記主供給手段4からキャビティ1内に供給された溶融発泡性樹脂3がウェルド部分13に隣接した位置に到達した時点、例えば上記溶融発泡性樹脂3の充填量がキャビティ1の50%〜80%程度となった時点から、溶融低発泡性樹脂19を固定型14の追加樹脂導入通路20を介してキャビティ1のウェルド部分13に射出する追加供給を開始する。そして、図5(b)に示すように、上記溶融発泡性樹脂3および溶融低発泡性樹脂19によりキャビティ1内が満たされた状態となるまでの間に亘り、上記溶融低発泡性樹脂19の追加供給を継続することにより、上記ウェルド部分13に溶融低発泡性樹脂19を充填するように構成されている。
【0033】
なお、図6に示すように、上記ウェルド部分13に向けて供給される一対の溶融発泡性樹脂流の上流側位置に追加樹脂導入通路20a,20bをそれぞれ設け、この追加樹脂導入通路20a,20bの近傍に上記溶融発泡性樹脂3が到達した時点で、上記溶融低発泡性樹脂19の追加供給を開始するように構成してもよい。このように構成した場合には、上記ウェルド部分13に対する溶融低発泡性樹脂19の充填量を効果的に増大させることができるとともに、この溶融低発泡性樹脂19と上記溶融発泡性樹脂3とを適度に混合した状態でウェルド部分13に充填できるという利点がある。
【0034】
次に、図7に示すタイミングチャート等を参照しつつ、上記成形装置を使用した発泡樹脂成形品7の成形方法について説明する。まず、成形サイクルの開始時点T0で成形型2を型開きすることにより、前回の成形サイクルで形成した発泡樹脂成形品7を取り出した後、所定時間が経過した時点T1で上記移動型15を駆動して型締めを開始する。そして、この型締め開始時点T1から例えば5sec程度が経過して型締め動作が終了した後の所定時点T2で、上記主供給手段4のスクリュー22を高速で前進させて射出シリンダ21内の溶融発泡性樹脂3を先端ノズル27から成形型2の樹脂導入通路18に対する射出を開始し、上記ゲート12,12を介してキャビティ1内に上記溶融発泡性樹脂3を供給する。
【0035】
上記溶融発泡性樹脂3の供給量は、キャビティ1の容量よりも少なく設定することにより、いわゆるショートショットの状態で上記キャビティ1内に溶融発泡性樹脂3が供給されるように、当該溶融発泡性樹脂3の射出完了時点T3が設定されている。上記溶融発泡性樹脂3の射出開始時点T2から射出完了時点T3までの間に、成形型2に形成されたキャビティ1内に溶融発泡性樹脂3を射出して供給する主供給工程の作業を実行し、その実行時間は例えば約1secに設定されている。
【0036】
上記溶融発泡性樹脂3の射出完了時点T3から例えば1sec程度の遅延時間が経過するまで上記成形型2を型閉じ状態に保持し、この間に溶融発泡性樹脂3を流動させてキャビティ1内に略充填する流動工程の作業を実行する。そして、上記遅延時間が終了した時点T4で、成形型2の移動型15を型開き方向に移動させるコアバックを開始することにより、キャビティ1内に略充填された溶融発泡性樹脂3を発泡および硬化させて発泡樹脂成形品7を形成する(成形工程)。上記コアバックの開始時点T4から、例えば3秒程度に設定された成形工程時間が経過した時点T5で、上記コアバック動作を終了し、その後に所定時間が経過した時点T6で、成形型2を型開きして発泡樹脂成形品7の取り出し作業を行う。
【0037】
また、上記主供給手段4により溶融発泡性樹脂3をキャビティ1内に供給する主供給工程の途中であって、上記溶融発泡性樹脂3が硬化する前の所定タイミングで、上記追加供給手段5によりキャビティ1内のウェルド部分13に溶融低発泡性樹脂19を射出して追加供給する。例えば上記主供給工程時間が1sec程度に設定されている場合には、上記溶融発泡性樹脂3の射出開始時点T2から0.1sec〜0.5sec程度が経過して、上記主供給工程においてキャビティ1内に供給された溶融発泡性樹脂3がウェルド部分13に隣接した位置に到達した時点T21で、上記溶融低発泡性樹脂19の射出を開始するように制御する。
【0038】
上記溶融低発泡性樹脂19の追加供給工程は、キャビティ1のウェルド部分13に対して充分な量の溶融低発泡性樹脂19が追加供給された時点、例えば上記溶融発泡性樹脂3の射出完了時点T3に対応した時点または上記流動工程時間内の所定時点、具体的には上記キャビティ1に対する樹脂の総充填量に対する溶融低発泡性樹脂19の充填率が3%〜20%となった時点T32で終了する。このようにように上記制御手段6を介して溶融発泡性樹脂3および溶融低発泡性樹脂19の射出開始タイミングおよび射出完了タイミング等を制御することにより、上記ウェルド部分13の近傍に溶融低発泡性樹脂19が充填された発泡樹脂成形品7が形成される。
【0039】
上記のように内部にキャビティ1が形成された成形型2と、この成形型2のキャビティ1内に溶融発泡性樹脂3を射出して供給する主供給手段4とを有し、この溶融発泡性樹脂3を流動させてキャビティ1内に略充填するとともに、キャビティ1内に略充填された溶融発泡性樹脂3を発泡および硬化させて発泡樹脂成形品7を形成するように構成された発泡樹脂成形品7の成形装置およびこの成形装置を使用した成形方法において、上記成形型2のキャビティ1内に溶融発泡性樹脂3が供給されることにより形成された複数の溶融発泡性樹脂流が合流するウェルド部分13に、当該溶融発泡性樹脂3よりも発泡剤量の少ない溶融低発泡性樹脂19を、上記溶融発泡性樹脂3が硬化する前に追加供給するように構成したため、発泡樹脂成形品7を形成する際に、発泡セルの肥大化に起因して発泡樹脂成形品7に局所的な強度低下が生じるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0040】
すなわち、上記ゲート12,12からキャビティ1内に射出された溶融発泡性樹脂3の流動先端部に発泡セルの破泡が起こることに起因したガスの集合が生じ、かつガス濃度が高い状態で複数の溶融発泡性樹脂流が合流することにより発泡セルが肥大化し易い傾向にある上記ウェルド部分13に、追加供給手段5から溶融低発泡性樹脂19を射出して供給することにより、上記ウェルド部分13における発泡セルの肥大化を抑制して発泡セル径の均一化を図ることができる。したがって、上記ウェルド部分13の発泡セル径が肥大化することに起因した局部的な強度の低下が上記発泡樹脂成形品7に生じるのを、簡単な構成で効果的に防止できるという利点がある。
【0041】
また、上記実施形態では、ウェルド部分13に対する溶融低発泡性樹脂19の追加供給を、上記主供給工程でキャビティ内に供給された溶融発泡性樹脂3がウェルド部分13に隣接した位置に到達する直前の時点T31で開始するように構成したため、上記ウェルド部分13に対して適量の溶融低発泡性樹脂19を供給し、当該溶融低発泡性樹脂19と上記溶融発泡性樹脂3とを適度に混合して上記発泡樹脂成形品7の強度を全体的に均質化できるという利点がある。
【0042】
さらに、上記実施形態に示すように、主供給工程で上記主供給手段4からキャビティ1内に供給される溶融発泡性樹脂3のベース樹脂材と、追加供給工程で上記追加供給手段5からウェルド部分13に追加供給される上記溶融低発泡性樹脂19のベース樹脂材とを同一材料で構成した場合には、当該溶融低発泡性樹脂19と溶融発泡性樹脂3との相溶性(親和性)を確保してこれらを強固に結合することができるため、上記発泡樹脂成形品7の強度を簡単な構成で充分に確保できるという利点がある。
【0043】
なお、上記のように当該溶融発泡性樹脂よりも発泡剤量の少ない溶融低発泡性樹脂を追加供給するように構成した上記実施形態に代え、上記追加供給手段5からウェルド部分13に溶融ソリッド樹脂、つまり上記超臨界流体からなる物理発泡剤の注入量を0に設定した溶融樹脂を追加供給するように構成してもよい。このようにウェルド部分13に溶融ソリッド樹脂を追加供給するように構成した場合には、上記ウェルド部分13の発泡セル径が肥大化するのを確実に抑制して、上記発泡樹脂成形品7に局部的な強度の低下が生じるのを、より効果的に防止できるという利点がある。
【0044】
さらに、上記追加供給手段5からウェルド部分13に追加供給される溶融ソリッド樹脂と、上記主供給工程でキャビティ1内に供給される溶融発泡性樹脂3との相溶性(親和性)を確保してこれらを強固に結合するためには、上記溶融ソリッド樹脂のベース材料と、溶融発泡性樹脂3のベース材料とを同一材料で構成ことが好ましい。
【0045】
また、上記実施形態では、主供給手段4からキャビティ1内に供給された溶融発泡性樹脂3を上記流動工程で成形型のキャビティ1内に略充填した後、上記成形工程で成形型2の移動型15を型開き方向に移動させるコアバックを行うことにより上記溶融発泡性樹脂3を発泡させるように構成したため、発泡樹脂成形品7に内部に微細な発泡セル層を形成することができるとともに、上記コアバックのタイミングおよびコアバック量を必要に応じて制御することにより、上記発泡セル層の発泡率を適正に調節することができる。
【0046】
しかも、上記コアバックにより溶融発泡性樹脂3を積極的に発泡させるように構成した場合には、上記ウェルド部分13における発泡セル径の肥大化が顕著に生じ易い傾向があるが、上記のように追加供給手段5から溶融低発泡性樹脂19をキャビティ1内のウェルド部分13に射出して追加供給することにより、上記ウェルド部分13における発泡セルの肥大化を効果的に抑制することができる。このため、上記発泡セル径が肥大化することに起因して局部的に強度が低下するという事態の発生を、簡単な構成で効果的に防止しつつ、均一径の発泡セルを有する発泡樹脂成形品7を形成できるという利点がある。
【0047】
さらに、上記実施形態に示すように、主供給手段4によりキャビティ1内に上記溶融発泡性樹脂3をショートショットの状態で射出して供給するように構成した場合には、上記溶融発泡性樹脂3を確実に発泡させることができるとともに、上記ショートショットの状態を必要に応じて制御することにより、上記発泡セル層の発泡率を適正に調節でき、かつ上記追加供給手段5からキャビティ1内のウェルド部分13に溶融低発泡性樹脂19を射出して追加供給することにより、上記ショートショットに応じた発泡セル径の肥大化を効果的に抑制できるという利点がある。したがって、上記発泡セル径が肥大化することに起因した局部的な強度の低下が生じるのを、簡単な構成で効果的に防止しつつ、均一径の発泡セルを有する発泡樹脂成形品7を形成することができる。
【0048】
図8は、発泡樹脂成形品7を形成する成形方法の第1参考例を示している。この第1参考例では、回転軸31を支点として回転自在に支持された回転テーブル32上に設置された単一の移動型33および回転テーブル32の上方に配設された第1,第2固定型34,35からなる第1,第2成形型と、上記第1固定型34に形成された一対のゲート36,36から第1成形型のキャビティ内に溶融発泡性樹脂3aを射出して供給する第1供給手段5aと、上記第2固定型35に形成された一対のゲート37,37から第2成形型のキャビティ内に、上記溶融発泡性樹脂3aと同一材料からなる溶融発泡性樹脂3bを射出して供給する第2供給手段5bとを有している。
【0049】
上記第1固定型34のゲート36,36は、キャビティの中心部からその一方側にオフセットした位置に配設されるとともに、第2固定型35のゲート37,37は、キャビティの中心部からその他方側にオフセットした位置に配設されている。なお、図例では、第1固定型34のゲート36,36と第2固定型35のゲート37,37とが、それぞれ同方向(図8の左側)にオフセットして配設されているが、上記回転軸31を支点とした回転テーブル32の回転に応じて上記移動型33が180°旋回することにより、そのキャビティの逆側に、上記第1固定型34のゲート36,36と第2固定型35のゲート37,37とが配設されるようになっている。
【0050】
そして、図8(b)に示すように、上記第1固定型34と移動型33とからなる第1成形型を型閉じした状態で、上記第1供給手段5aから第1成形型のキャビティ内に溶融発泡性樹脂3aを射出することにより発泡樹脂成形品の第1層7aを形成する。その後、図8(c)に示すように、上記第1成形型を型開きするとともに、上記回転テーブル32を回転させて移動型33を第2固定型35に対向させる。次いで、図8(d)に示すように、上記第2固定型35と移動型33とからなる第2成形型を型閉じした状態で、上記第2供給手段5bから第2成形型のキャビティ内に溶融発泡性樹脂3bを射出することにより、上記第1層7b上に第2層7bが積層された発泡樹脂成形品を形成する。そして、上記第2成形型を型開きして上記第1層7aと第2層7bとの積層体からなる発泡樹脂成形品を取り出す。
【0051】
上記のように第1,第2成形型を使用して上記第1層7aおよび第2層7bの積層体からなる発泡樹脂成形品を形成するとともに、第1固定型34のゲート36,36と、第2固定型35のゲート37,37とを互いに逆方向にオフセットして配設した場合には、上記第1層7aに形成されるウェルド部分13aと、第2層7bに形成されるウェルド部分13bとが、上記発泡樹脂成形品の長手方向にオフセットした位置に形成されることになる。したがって、上記発泡樹脂成形品の一個所に、発泡セル径が肥大化したウェルド部分13a,13bが集中して形成されるのを防止することにより、上記発泡樹脂成形品の強度を簡単かつ効果的に向上できるという利点がある。
【0052】
なお、上記第1参考例では、その工程を容易に理解できるように、上記回転テーブル32上に単一の移動型33を設置することにより、一つの発泡樹脂成形品を独立して形成した例について説明したが、上記回転テーブル32上に一対の移動型33を設置することにより、一対の発泡樹脂成形品を並列的に形成するように構成可能であることは勿論である(図8の仮想線参照)。また、上記回転テーブル32上に移動型33を設置してなる上記第1参考例に代えて、縦軸の側方に配設された移動型33を回転軸回りに旋回可能に設置するとともに、上記縦軸の左右側方部にそれぞれ固定型35,36および第1,第2供給手段5a,5bを配設した構造としてもよい。
【0053】
また、上記第1参考例に代え、図8(b)において、第1供給手段5aから第1成形型のキャビティ内に溶融発泡性樹脂3をショートショットの状態で射出することにより、上記第1層7aのウェルド部分13aに相当する個所に空隙部を形成するとともに、図8(d)において、上記第1層7aの空隙部内に第2供給手段5bから第2成形型のキャビティ内に射出された溶融発泡性樹脂3bを供給して充填するように構成してもよい。
【0054】
上記のように第1供給手段5aから第1成形型のキャビティ内に溶融発泡性樹脂3をショートショットの状態で射出した後、上記第1層7aに形成された空隙部に上記第2供給手段5bから溶融発泡性樹脂3bを供給して充填するように構成した場合には、上記第1層7bに、発泡セル径が肥大化したウェルド部分13aが形成されるのを防止できるため、上記第1,第2層7a,7bからなる発泡樹脂成形品の強度低下を、より効果的に防止することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 キャビティ
2 成形型
3 溶融発泡性樹脂
4 主供給手段
5 追加供給手段
6 制御手段
7 発泡樹脂成形品
12 ウェルド部分
19 溶融低発泡性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型に形成されたキャビティ内に溶融発泡性樹脂を射出して供給する主供給工程と、この溶融発泡性樹脂を流動させてキャビティ内に略充填する流動工程と、キャビティ内に略充填された溶融発泡性樹脂を発泡および硬化させて発泡樹脂成形品を形成する成形工程とを含み、上記成形型のキャビティ内における溶融発泡性樹脂流が合流するウェルド部分に、当該溶融発泡性樹脂よりも発泡剤量の少ない溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂を、上記溶融発泡性樹脂が硬化する前に追加供給する追加供給工程を備えたことを特徴とする発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
上記ウェルド部分に対する溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂の追加供給を、上記主供給工程でキャビティ内に供給された溶融発泡性樹脂がウェルド部分に隣接した位置に到達する直前の時点で開始するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
上記主供給工程でキャビティ内に供給される溶融発泡性樹脂のベース樹脂材と、上記追加供給工程で追加供給される上記溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂のベース樹脂材とを、同一材料で構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
上記流動工程で溶融発泡性樹脂を成形型のキャビティ内に略充填した後、上記成形工程で成形型をコアバックして溶融発泡性樹脂を発泡させるように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
上記主供給工程で溶融発泡性樹脂をキャビティ内にショートショットの状態で射出して供給するように構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項6】
内部にキャビティが形成された成形型と、この成形型のキャビティ内に溶融発泡性樹脂を射出して供給する主供給手段とを有し、この溶融発泡性樹脂を流動させてキャビティ内に略充填するとともに、キャビティ内に略充填された溶融発泡性樹脂を発泡および硬化させて発泡樹脂成形品を形成するように構成された発泡樹脂成形品の成形装置であって、上記成形型のキャビティ内における複数の溶融発泡性樹脂流が合流するウェルド部分に、当該溶融発泡性樹脂よりも発泡剤量の少ない溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂を追加供給する追加供給手段と、上記主供給手段からキャビティ内に供給された溶融発泡性樹脂が硬化する前に、上記追加供給手段による溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂の追加供給を行うように制御する制御手段とを備えたことを特徴とする発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項7】
上記制御手段は、主供給手段によりャビティ内に供給された溶融発泡性樹脂がウェルド部分に隣接した位置に到達する直前の時点で、上記追加供給手段によりウェルド部分に対する溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂の追加供給を開始するように制御することを特徴とする請求項6に記載の発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項8】
上記主供給手段によりキャビティ内に供給される溶融発泡性樹脂のベース樹脂材と、上記追加供給手段により追加供給される上記溶融低発泡性樹脂または溶融ソリッド樹脂のベース樹脂材とを同一材料で構成したことを特徴とする請求項6または7に記載の発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項9】
上記主供給手段により溶融発泡性樹脂を成形型のキャビティ内に略充填した後、成形型をコアバックして溶融発泡性樹脂を発泡させるように制御することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の発泡樹脂成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−264650(P2010−264650A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117565(P2009−117565)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】