説明

発進の緩やかさ評価装置および評価方法

【課題】停車状態から車両を発進させて巡航車速に加速する場合に、緩やかな加速操作が行われているかを評価するために利用する。ディジタル走行記録から、各運転者に安全かつ経済的な運転を実行してもらうために、個々の運転者の加速操作の評価値をわかりやすい形態で提示する。
【解決手段】ディジタル・タコメータに記録される走行車速の記録から、停車状態から巡航車速にいたる数十秒間の車速変化を分析し、その平均加速度を多数の加速操作について評価する。車種ごとに標準加速度を越える加速を行った回数または割合を演算し、運転者の技量を統計的に評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取付けられた運行記録装置(通称、タコグラフ)から読み出されるデータを利用して、運転者の運転技量を評価するための装置および方法に関する。とくに、停車している車両を発進させる運転操作が行われた記録から、その発進の緩やかさを定量的に演算し、これを運転技量を評価するために利用する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バス・トラック・タクシー・ハイヤーなどの営業用車両には、走行状態を記録する運行記録装置(通称、タコグラフ)が装備されている。一般に一人の運転者が一日の勤務を終えると、その車両から走行状態の記録を取り出して運行管理者に提出し、これが記録として長く保管される。
【0003】
近年この運行記録装置として、ディジタル運行記録装置(通称、デジタコ)と言われる装置が利用されるようになった。これは、車両に装備されている記録装置に、小型で可搬形の記録媒体を装着して、これに時間の経過とともに車両の走行状態を磁気的にあるいは電子的に記録するものである。この形式の記録装置では、従来のタコグラフに比較して飛躍的に大量のデータを記録することができる。
【0004】
運転者は、たとえば始業時にその記録媒体を車載装置に装着設定し、一日の走行を終えたときに、その記録媒体を車載装置から取り出して運行管理者に提出する。運行管理者は事務所のコンピュータ装置にその記録媒体の内容を取込み保存するとともに、そのコンピュータ装置を利用してその記録を管理し評価することができる。
【0005】
本発明は、このようなディジタル運行記録装置に記録されたデータを後から分析することにより、発進の緩やかさに着目して、運転の技量を数量的に評価するものである。なお、従来から知られている運転状態の評価システム、特に発進または停車の状況に着目するものとして下記文献に記載のものがある。
【特許文献1】特開2004−270580(ダイハツ)
【特許文献2】特開2002−89349(ミヤマ)
【特許文献3】実公昭62−39518(阪和工材)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなディジタル運行記録装置として、車速をt秒毎に(例、t=0.5秒)かつ継続的に計測して、ディジタル数値として記録するものが普及している。そしてこのディジタル運行記録装置に記録された数値は、多数の車両を運行するある程度の規模の企業では、車両毎に、運転者毎に、毎日、あるいは勤務交代毎に、その記録を管理者がパソコンに取込み、長く保存することができるように管理されている。本発明は、このパソコンに取込まれた運行記録を利用して、運転者の技量を定量的に評価しようとするものである。
【0007】
運転者の技量のうち本願では、とくに車両の発進時の円滑な運転操作について着目する。車両の減速および停止の円滑さについては、従来から定量的かつ合理的に評価する基準がほとんど知られていない。一般に、車両を急発進させるような運転操作は、乗客にとって不快であり、場合によってはけがの原因にもなる。貨物車両の場合には積み荷破損の原因になることもある。また習慣的に急発進を行う運転者が運転する車両は、燃料消費率が大きくなり、タイヤやクラッチの摩耗も大きくなり、経済的に運行されていないことになる。
【0008】
本発明はこのような背景に行われたものであって、運転者の技量、とくに発進の緩やかさを定量的に評価することができる評価方法および装置を提供することを目的とする。本発明は、運転者に経済的な運転操作を心がけてもらうための評価値を提供することを目的とする。本発明は、ディジタル運行記録装置による記録を利用して、一連の走行後に、発進の緩やかさを評価するための評価方法および装置を提供することを目的とする。本発明は、演算を単純化して感覚的にわかりやすく、しかも実体を的確に表すことができる、発進の緩やかさを評価する方法および装置を提供することを目的とする。本発明は、運転者に一つの定量的な目標を提示して、円滑な運転操作を心がけてもらうように利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一は発進の緩やかさ評価装置であって、車載の記録装置で記録されたメモリ内容からt秒毎(例、0.5秒毎)の車速vに係る情報を読み出す手段と、
車速vが零(v=0)から時間の経過にしたがって増大する記録に着目しその車速vがあらかじめ設定した基準値(Vc、例38km/h)を最初に越えるまでの時間(Tc)の平均加速度(Vc/Tc)を発進の緩やかさ評価値として演算する手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記着目した記録について車速vがあらかじめ設定された時間(to、例35秒)内に前記基準値(Vc)に達しないとき、または前記車速vが前記基準値(Vc)に達する前に車速vが所定勾配以下(dv/dt≦a,aは0または正の定数)になる部分が認識されるときにはこれを前記発進の緩やかさ評価値から除外する手段とを備えることができる。
【0011】
前記車載の記録装置で記録されたメモリ内容の比較的長時間(例、一日、または一運行時間)の記録にわたり、発進毎に前記評価値(Vc/Tc)を多数(望ましくは全てを)演算する手段と、その多数の評価値について設定した基準値を越える(または下回る)数の割合を長時間にわたる発進の緩やかさ評価値とすることが望ましい。
【0012】
本発明の第二は、発進の緩やかさ評価方法の発明であって、車載の走行記録から時間の経過に対して車速を記録した情報を読み出し、その中で車速が設定された時間内に時間の経過にしたがって基準値まで連続的に増大する複数の区間の記録について、それぞれその平均加速度を演算し、その複数の平均加速度について統計的な処理を施すことを特徴とする。
【0013】
すなわち本発明の装置および方法では、停車状態からあらかじめ設定した基準値(例、38km/h)まで、あらかじめ設定した時間内に車速が単調増加した(すなわち中断することなく増加を続けた)記録に着目して、その平均加速度を演算しこれを統計処理する。加速の途中で加速を中断した記録は除外するが、こまかく加速度を変更した記録があったとしてもこれに着目することなくデータを捨てることにする。多数の加速記録について単純に車速が零の状態から基準値(例、38km/h)までの平均加速度を演算して、これを基礎にして統計的に処理するものである。運転操作にしたがってこまかい加速度の変更が記録されていて、これを評価の対象として統計処理を試みても、実体は複雑になり個々の運転者にとって分かりにくい情報となるだけであって、運転操作を改善するためのわかりやすい指標とはならないからである。
【発明の効果】
【0014】
上記構成により、発進のための運転操作について、その緩やかさという観点から定量的な評価が可能になる。発進の緩やかさを定量的に評価することにより、運転者の運転技量を正しく公平に評価することができる。これにより運転者が不必要に急発進する運転操作が回避され、経済的かつ合理的な運転を行うように推奨することができる。本発明の方法および装置による発進加速の評価は単純であるが、運転者にとって理解しやすく、運転者を適正に指導するために必要かつ十分である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明実施例装置の全体構成を説明する模式図である。この発明を実施する企業は、一般に一つのトラック基地で多数(数十台ないし数千台)の配送トラックを運行している。指定のトラック基地に出勤した運転者は、所定の個人宛て指示書にしたがって、その日に運転するように指定された車両1に乗車する。そして指示書とともに渡された記録媒体3を運転席に装備されたディジタル・タコメータ2に装着する。
【0016】
記録媒体3は、一例を示すと一枚のプラスチック・カードである。これは鉄道の改札口で使用するプリペイド・カードに類似するやや厚手のカードである。表面には識別番号の記載があるが、情報はすべてカード内の磁性体(または半導体)に記録されていて、表面から記録内容を肉眼で読むことはできない。
【0017】
車両1に装備されたディジタル・タコメータ2は、エンジン制御装置(ECU)および各種センサと電気的に結線されている。この結線を介してそれぞれ情報が取込まれ、これをディジタル・タコメータ2に内蔵されている時計が発生する時刻情報とともに、これを所定の形式で上記記録媒体3に記録することができる。この記録の形態はある程度標準化されているが、記録媒体3が装着されると、ディジタル・タコメータ2が起動し、基礎データ(時刻、車速、走行距離など)、運行管理データ(走行状態、作業、温度など)、その他(燃料流量、エンジン回転、アクセル開度など)が所定の方式にしたがって自動的に編集され、この記録媒体3に順次記録される。この記録内容は磁性媒体(または半導体記録媒体)に記録され、この内容を肉眼で外部から読み取ることはできない。
【0018】
この車両を運転する運転者は、本発明の内容とは直接に関係のない運行指示書にしたがって車両を運行し、貨物の集積基地、および一つまたは複数の目的地に立ちより、積み荷を配送しまたは積み荷を受領する。必要があれば所定の給油所に立ちより燃料を補給する。一つの運行事務所はたとえば数十台ないし数千台の車両、およびそれぞれその車両を運転する運転者を管理する。
【0019】
各運転者は一日の配送または集荷を終えると、この運行事務所のある基地に戻る。基地では積み荷を指定の位置に下ろし、あるいは新しい積み荷を積載する。そして勤務時間の終了前に、車両のエンジンを停止させた時点で、上記記録媒体3をディジタル・タコメータ2から抜取る。この記録媒体を配送集荷報告とともに運行事務所に提出する。
【0020】
運行事務所にはパソコン4が装備されていて、運転者から差し出された記録媒体3をこれに装着してその記録内容を読み出す。これは所定の手順にしたがって自動的にパソコン4の記憶装置に保存される。必要があればこの記録内容を読み出し表示装置5により確認することができる。表示装置を見ながら、パソコン4を操作して分析処理もしくは統計処理することができる。その結果は全体として、あるいは個別に表示装置5に表示することができるし、分析レポート6として印刷し出力することができる。
【0021】
ここで本発明の特徴はこの分析処理の一つの手法にある。すなわち会社(または運行管理者)は、多数の運転者に対して、車両をできるだけ円滑に運転してもらいたい。とくに急発進を繰り返して貨物を破損する、あるいは乗客に不快な思いを抱かせることになるから、このような運転は回避してもらいたい。
【0022】
図2を参照して本発明の論理演算実施例を説明する。図2は横軸に時間の経過をとり、縦軸に当該車両の車速を表示する。実線は上記記録媒体3に記録された内容から、車両が発進してから35秒間のデータを表示したものである。この35秒という数字は経験的に実情に即した値であって、とくに理論的な意味はない。すなわち記録内容について車速を0.5秒ごとにプロットし、これを実線で表示する。巡航車速はこの実施例では38km/hに設定した。この巡航車速Vcはこの車両が主として市街地あるいは住宅地を走行する場合の例である。この車両が主として高速道路を走行する場合には、巡航車速Vcはやや高く例えば50km/h程度に設定することがよい。
【0023】
本発明の装置は、論理演算として実線で表示する記録された車速が巡航車速(Vc=38km/h)に達する点Pcを特定し、車両が発進してからその巡航車速に達するまでの時間Tcを特定する。そして発進してから点Pcに達するまでの平均加速度(Δ=Vc/Tc)を演算する。すなわち本発明の統計処理では、発進後に点Pcまでどのような経過をたどったかを無視して、点Pcにいたるまでの平均加速度のみを評価する。
【0024】
一日の走行記録の全体についてすべての発進操作について、平均加速度(Δ=Vc/Tc)を演算し、この値が設定された基準加速度を越える回数nを求める。この基準値は車種によりそれぞれ異なる最適値が設定される。例示すると基準加速度は1.5〜2.0km/sec2程度に設定することができる。さらに統計的処理として、一日の全走行記録のなかに車速零から巡航車速まで加速した全部の回数Nに対して基準加速度を越える回数nの比(n/N)をその評価値とする。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、記録されたデータについて、上述のような単純な統計処理を行うことにより、運転者の発進操作にたいする技量評価を行うことができる。この技量評価により運転者に適正な発進加速の操作を行うように指導することができる。適正な減速操作を行う運転者に奨励金を支給するなど、運転者の管理に利用することができる。本発明の論理は単純であり、多くの運転者に受け入れられやすい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明実施例装置のブロック構成図。
【図2】本発明実施例装置の演算処理を説明する図。
【図3】本発明実施例装置の演算処理を説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0027】
1 車両
2 ディジタル・タコメータ
3 記録媒体
4 パソコン
5 表示装置
6 分析レポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載の記録装置で記録されたメモリ内容からt秒毎の車速に係る情報を読み出す手段と、車速が零から時間の経過にしたがって増大する記録に着目しその車速があらかじめ設定した基準値(Vc)を最初に越えるまでの時間(Tc)の平均加速度(Vc/Tc)を発進の緩やかさ評価値として演算する手段とを備えたことを特徴とする発進の緩やかさ評価装置。
【請求項2】
前記着目した記録について車速vがあらかじめ設定された時間(to)内に前記基準値(Vc)に達しないとき、または前記車速vが前記基準値(Vc)に達する前に車速vが所定勾配以下(dv/dt≦a,aは0または正の定数)になる部分が認識されるときにはこれを前記発進の緩やかさ評価値から除外する手段とを備えた請求項1記載の発進の緩やかさ評価装置。
【請求項3】
前記車載の記録装置で記録されたメモリ内容の比較的長時間の記録にわたり、発進毎に前記評価値(Vc/Tc)を多数演算する手段と、その多数の評価値について設定した基準値を越える数の割合を長時間にわたる発進の緩やかさ評価値とする請求項2記載の発進の緩やかさ評価装置。
【請求項4】
車載の走行記録から時間の経過に対して車速を記録した情報を読み出し、その情報から車速が設定された時間内に時間の経過にしたがって基準値まで連続的に増大する複数の区間の記録について、それぞれその平均加速度を演算し、その複数の平均加速度について統計的な処理を施すことを特徴とする発進の緩やかさ評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−301957(P2006−301957A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122694(P2005−122694)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】