説明

発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法

【課題】発酵アルコール水溶液の高脱水濃縮処理を低ランニングコストで実現することのできる発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法を提供する。
【解決手段】発酵槽2での糖発酵により得られる発酵アルコール水溶液を蒸留塔3で蒸留処理して含水アルコール蒸気を生成し、この含水アルコール蒸気を、分離膜モジュール4の非透過側室13内に供給する一方で、発酵槽2での糖発酵により得られる炭酸ガスを除湿した後にその分離膜モジュール4の透過側室14内に供給して、非透過側室13から透過側室14に透過した水蒸気をその除湿後の炭酸ガスでパージする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留塔による蒸留処理と分離膜を用いた脱水処理との組み合わせによって発酵アルコール水溶液を脱水濃縮する発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、サトウキビやビートなどの植物を原料として得られるバイオマスエタノールは、ガソリンと混合してあるいは単独で自動車用燃料として用いられるため、バイオマスエタノールの脱水濃縮技術が地球環境保全技術の一つとして注目されている。自動車用燃料として用いられるエタノールは、ガソリンとの相容性を上げるため、高濃度(99.6wt%以上)でなければならない。エタノール水溶液はエタノール濃度95wt%付近に共沸点が存在するため、通常の蒸留法では95wt%を超えてエタノールの濃縮ができない。そこで、第三成分を加えかつ蒸留塔も増やして共沸蒸留法により、無水エタノール(99.6wt%以上)を得ている。しかし、この共沸蒸留法では、設備の大型化が免れない上に、エタノールの濃縮・精製に多大のエネルギが必要であるという問題点がある。
【0003】
この共沸蒸留法の問題点を解決し得るものとして、近年、蒸留塔による蒸留処理と分離膜を用いた脱水処理とを組み合わせた脱水濃縮方法が注目されており、該脱水濃縮方法に関する技術を本出願人は既に提案している(特願2007−215025号明細書)。
【0004】
ところで、製品である無水エタノールにおいては、その用途やユーザの要望により、水分濃度を更に低下させたものが求められる場合がある。無水エタノールの水分濃度を更に低下させる方法としては、非特許文献1や特許文献1にて開示されているようなものがある。これら文献に開示されている方法は、分離膜の低圧側に透過した水蒸気を製品蒸気または不活性ガスでパージして、分離膜の低圧側の水蒸気分圧を低めることにより、分離膜の高圧側に存在する水蒸気を高効率で分離膜の低圧側に透過させるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特許第2743346号公報
【非特許文献1】「化学装置」、1992年、9月号、p.65−68
【0006】
しかしながら、分離膜透過水蒸気を製品蒸気でパージする方法では、分離膜透過液中に製品である無水エタノールが多量に混ざるため、この分離膜透過液中の無水エタノールを回収するための分離操作とその分離操作のためのエネルギが必要となり、ランニングコストが嵩むという問題点がある。
一方、分離膜透過水蒸気を不活性ガスでパージする方法では、不活性ガスを別途購入する必要があるため、やはりランニングコストが嵩むという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたもので、発酵アルコール水溶液の高脱水濃縮処理を低ランニングコストで実現することのできる発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明による発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法は、
糖発酵により得られる発酵アルコール水溶液を脱水濃縮する発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法であって、
発酵アルコール水溶液を蒸留塔で蒸留処理して含水アルコール蒸気を生成し、この含水アルコール蒸気を、水蒸気を選択的に透過させる分離膜の高圧側に供給する一方で、糖発酵により得られる炭酸ガスを除湿した後にその分離膜の低圧側に供給して、該分離膜の高圧側から低圧側に透過した水蒸気をその除湿後の炭酸ガスでパージすることを特徴とするものである(第1発明)。
【0009】
本発明において、前記分離膜の高圧側に供給される含水アルコール蒸気と、前記分離膜の低圧側に供給される除湿後の炭酸ガスとが、該分離膜を介して向流接触されるのが好ましい(第2発明)。
【0010】
第1発明または第2発明において、前記分離膜の高圧側から低圧側に透過した水蒸気をパージした後の炭酸ガスが、糖発酵により得られる炭酸ガスを貯留するための中継タンクに導入され、この中継タンクに貯留されている炭酸ガスと共に除湿された後に再び前記分離膜の低圧側に供給されるのが好ましい(第3発明)。
【0011】
第1発明乃至第3発明において、糖発酵に伴い発生した炭酸ガスを主成分とする発酵ガスが所定値以上に圧縮された後に冷却されて該発酵ガス中に含まれる水分およびアルコール分が凝縮され、この凝縮によって生じた水およびアルコールの混合液が前記蒸留塔で蒸留処理されるのが好ましい(第4発明)。
【0012】
第1発明乃至第4発明において、前記除湿は、糖発酵により得られる炭酸ガスを所定値以上に圧縮した後に冷却して該炭酸ガス中に含まれる水分を凝縮することで成される第1の除湿処理と、この第1の除湿処理が施された後の炭酸ガスを更に除湿膜モジュールを用いて除湿する第2の除湿処理とを含むものであるのが好ましい(第5発明)。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、糖発酵により得られる水分を含む炭酸ガスが除湿された後に分離膜の低圧側に供給され、分離膜の低圧側に透過した水蒸気がその除湿後の炭酸ガスによってパージされるので、分離膜の低圧側の水蒸気分圧が低められて分離膜の高圧側に存在する水蒸気が高効率で分離膜の低圧側に透過され、分離膜の高圧側に高脱水されたアルコール蒸気を得ることができる。また、糖発酵により得られた炭酸ガスをパージ用不活性ガスとして利用するようにされているので、従来のようにパージ用不活性ガスを別途購入する必要がなく、ランニングコストを低く抑えることができる。したがって、発酵アルコール水溶液の高脱水濃縮処理を低ランニングコストで実現することができるという効果がある。
【0014】
また、第2発明の構成を採用することにより、含水アルコール蒸気中の水分をより効率良く分離膜の低圧側に透過させることができる。
【0015】
また、第3発明の構成を採用することにより、糖発酵により得られた炭酸ガスをパージ用不活性ガスとして無駄なく長期に亘って利用することができる。
【0016】
また、第4発明の構成を採用することにより、アルコール回収率を向上させることができる。
【0017】
また、第5発明の構成を採用することにより、製品アルコール中の水分濃度を更に低めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明による発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
〔第1の実施形態〕
図1には、本発明の第1の実施形態に係る発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システムの概略構成図が示されている。
【0020】
図1に示される発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1は、とうもろこし、甘しょ等のでん粉質や、さとうきび、糖蜜等の糖質を原料として嫌気性雰囲気下で糖発酵が行われる発酵槽2と、スチーム等を熱源として蒸留処理が行われる蒸留塔3と、水蒸気を含む被処理蒸気から水蒸気を分離する分離膜モジュール4と、発酵槽2での糖発酵に伴い発生した炭酸ガスを主成分とする発酵ガスを貯留するための中継タンク5とを備えている。なお、発酵ガスには、炭酸ガスの他に、水分、アルコール分などが含まれている。
【0021】
ここで、糖発酵により得られるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどが挙げられる。
【0022】
発酵槽2と蒸留塔3との間には原液タンク6が設けられており、発酵槽2での糖発酵により得られた発酵アルコール水溶液が原液タンク6に一旦貯留された後に蒸留塔3に送り込まれるようになっている。蒸留塔3においては、塔内に送り込まれた発酵アルコール水溶液に対して蒸留処理が行われることにより、含水アルコール蒸気が発生される。
【0023】
分離膜モジュール4は、ケーシング7内に中空糸束エレメント8が組み込まれて構成されている。中空糸束エレメント8は、水蒸気を選択的に透過させる芳香族ポリイミド製の中空糸状分離膜9を多数本集束した中空糸束10と、この中空糸束10の一端部および他端部のそれぞれに各中空糸状分離膜9の開口状態を保持するように固着される樹脂製の第1管板11および第2管板12とを備えて構成されている。分離膜モジュール4においては、各中空糸状分離膜9の中空部によって非透過側室13が区画形成されるとともに、ケーシング7、第1管板11、第2管板12および各中空糸状分離膜9の外側面によって透過側室14が区画形成されている。
【0024】
ケーシング7の一端側には、含水アルコール蒸気を各中空糸状分離膜9の一端側開口に向けて導入するための含水アルコール蒸気導入口15が設けられる一方、ケーシング7の他端側には、各中空糸状分離膜9の他端側開口からの非透過蒸気を導出するための非透過蒸気導出口16が設けられている。また、ケーシング7の一端部には、各中空糸状分離膜9を透過した透過蒸気を導出するための透過蒸気導出口17が設けられる一方、ケーシング7の他端部には、各中空糸状分離膜9を透過した透過蒸気をパージするための不活性ガスが導入されるパージ用不活性ガス導入口18が設けられている。
【0025】
発酵槽2と中継タンク5との間には、発酵槽2での糖発酵に伴い発生した炭酸ガスを主成分とする発酵ガスを中継タンク5に向けて圧送するブロワ20が設けられている。中継タンク5とパージ用不活性ガス導入口18との間には、中継タンク5側から順に圧縮機21、凝縮器22、受器23および流量調整弁24がそれぞれ設けられている。また、透過蒸気導出口17と中継タンク5との間には、透過蒸気導出口17側から順に凝縮器25、受器26および真空ポンプ27がそれぞれ設けられている。ここで、透過側室14は、真空ポンプ27によって減圧されることにより、非透過側室13よりも低い圧力に保たれている。
【0026】
以上に述べたように構成される発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1において、発酵槽2での糖発酵により得られた発酵アルコール水溶液は、原液タンク6に一旦貯留された後に蒸留塔3に送り込まれる。蒸留塔3での蒸留処理によって発生された含水アルコール蒸気は、過熱器30によってスーパーヒートされた後に、含水アルコール蒸気導入口15を介して非透過側室13内に供給される。
【0027】
一方、発酵槽2での糖発酵に伴い発生した炭酸ガスを主成分とする発酵ガスは、ブロワ20によって圧送されて中継タンク5に一旦貯留される。中継タンク5に溜められた発酵ガスは、圧縮機21で所定値以上に圧縮された後に凝縮器22で冷却されて一旦受器23に導入される。この際、圧縮機21および凝縮器22による圧縮・冷却作用によって発酵ガス中に含まれる水分およびアルコール分が凝縮され、この凝縮によって生じた水およびアルコールの混合液が受器23に溜められる。こうして、発酵ガスから水分およびアルコール分が取り除かれた除湿後の炭酸ガスは、受器23から流量調整弁24へと送り出され、流量調整弁24にて所定流量に調整された後に、パージ用不活性ガス導入口18を介して透過側室14内に供給される。
【0028】
含水アルコール蒸気導入口15を介してケーシング7内に供給される含水アルコール蒸気は、各中空糸状分離膜9の一端側開口から非透過側室13内を通って他端側開口に向かって流れる。一方、透過側室14内に供給される除湿後の炭酸ガスは、ケーシング7の他端部に設けられたパージ用不活性ガス導入口18からケーシング7の一端部に設けられた透過蒸気導出口17に向かって流れる。こうして、非透過側室13内に供給される含水アルコール蒸気と、透過側室14内に供給される除湿後の炭酸ガスとが中空糸状分離膜9を介して向流接触される。
【0029】
含水アルコール蒸気が中空糸状分離膜9の一端側開口から非透過側室13内を通って他端側開口に向かって流れている間に、含水アルコール蒸気中の水蒸気が非透過側室13から透過側室14に透過され、非透過蒸気導出口16から脱水アルコール蒸気が導出される。この脱水アルコール蒸気は凝縮器31を経て無水アルコールとされ、この無水アルコールは製品アルコールとして製品タンク32に貯留される。
【0030】
非透過側室13から透過側室14に透過された水蒸気は、パージ用不活性ガス導入口18から透過側室14内に供給される除湿後の炭酸ガスによって透過蒸気導出口17へと向かって押し流され、炭酸ガスと共に透過蒸気導出口17から導出される。なお、非透過側室13から透過側室14に微量ながらアルコール分も透過され、このアルコール分もパージ用不活性ガス導入口18から透過側室14内に供給される除湿後の炭酸ガスによって透過蒸気導出口17へと向かって押し流され、炭酸ガスと共に透過蒸気導出口17から導出される。
【0031】
透過蒸気導出口17から導出された水蒸気、微量のアルコール分および炭酸ガスの混合気は、凝縮器25で冷却された後に一旦受器26に導入される。この際、凝縮器25による冷却作用によって混合気中の水分および微量のアルコール分が凝縮され、この凝縮によって生じた水および微量のアルコールの混合液が受器26に溜められる。そして、受器26内の炭酸ガスは真空ポンプ27で大気圧まで戻された後に中継タンク5に導入され、中継タンク5に溜められている発酵ガスと共に圧縮機21および凝縮器22による除湿処理を経て再び分離膜モジュール4の透過側室14内に供給される。
【0032】
受器23に溜められた水およびアルコールの混合液は、凝縮液抜出用ポンプ33によって随時抜き出されて原液タンク6に送り込まれ、原液タンク6に溜められている発酵アルコール水溶液と共に蒸留塔3で蒸留処理される。また同様に、受器26に溜められた水および微量のアルコールの混合液も、凝縮液抜出用ポンプ34によって随時抜き出されて原液タンク6に送り込まれ、原液タンク6に溜められている発酵アルコール水溶液と共に蒸留塔3で蒸留処理される。
【0033】
本実施形態の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1によれば、炭酸ガスを主成分とする発酵ガスから圧縮機21および凝縮器22による圧縮・冷却作用にて水分およびアルコール分が取り除かれた除湿後の炭酸ガスが透過側室14内に供給され、非透過側室13から透過側室14に透過した水蒸気がその除湿後の炭酸ガスによってパージされるので、透過側室14の水蒸気分圧が低められて非透過側室13内に存在する水蒸気が高効率で透過側室14に透過され、非透過蒸気導出口16から高脱水された脱水アルコール蒸気を得ることができる。また、糖発酵により得られた炭酸ガスをパージ用不活性ガスとして利用するようにされているので、従来のようにパージ用不活性ガスを別途購入する必要がなく、ランニングコストを低く抑えることができる。したがって、発酵アルコール水溶液の高脱水濃縮を低ランニングコストで実現することができる。
【0034】
また、非透過側室13内に供給される含水アルコール蒸気と、透過側室14内に供給される除湿後の炭酸ガスとが中空糸状分離膜9を介して向流接触されるので、非透過側室13内の水蒸気をより効率良く透過側室14へと透過させることができる。
【0035】
また、透過蒸気導出口17から導出されるパージ処理に使用された後の炭酸ガスが中継タンク5に溜められている発酵ガスと共に圧縮機21および凝縮器22による除湿処理を経て再び分離膜モジュール7の透過側室14内に供給されてリサイクル使用されるので、糖発酵により得られた炭酸ガスをパージ用不活性ガスとして無駄なく長期に亘って利用することができる。
【0036】
また、受器23,26に溜められた水およびアルコールの混合液が原液タンク6に溜められている発酵アルコール水溶液と共に蒸留塔3で蒸留処理されるので、アルコール回収率を向上させることができる。
【0037】
〔第2の実施形態〕
図2には、本発明の第2の実施形態に係る発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システムの概略構成図が示されている。なお、本実施形態の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1Aにおいて、先の実施形態の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1と同一または同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては、先の実施形態の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1と異なる点を中心に説明することとする。
【0038】
図2に示される発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1Aにおいては、受器23と流量調整弁24との間に、水分を含む被処理ガスを除湿する除湿膜モジュール40が設けられている。
【0039】
除湿膜モジュール40は、ケーシング41内に中空糸束エレメント42が組み込まれて構成されている。中空糸束エレメント42は、水蒸気を選択的に透過させる芳香族ポリイミド製の中空糸状分離膜43を多数本集束した中空糸束44と、この中空糸束44の一端部および他端部のそれぞれに各中空糸状分離膜43の開口状態を保持するように固着される樹脂製の第1管板45および第2管板46とを備えて構成されている。除湿膜モジュール40においては、各中空糸状分離膜43の中空部によって非透過側室47が区画形成されるとともに、ケーシング41、第1管板45、第2管板46および各中空糸状分離膜43の外側面によって透過側室48が区画形成されている。
【0040】
ケーシング41の一端側には、被処理ガスを各中空糸状分離膜43の一端側開口に向けて導入するための被処理ガス導入口49が設けられる一方、ケーシング41の他端側には、各中空糸状分離膜43の他端側開口からの非透過ガスを導出するための非透過ガス導出口50が設けられている。また、ケーシング41の一端部には、各中空糸状分離膜43を透過した透過ガスを導出するための透過ガス導出口51が設けられる一方、ケーシング41の他端部には、各中空糸状分離膜43を透過した透過ガスをパージするための不活性ガスが導入されるパージ用不活性ガス導入口52が設けられている。
【0041】
本実施形態の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1Aにおいては、圧縮機21および凝縮器22による除湿処理を経て受器23から送り出された炭酸ガスが被処理ガス導入口49を介してケーシング41内に供給される。このケーシング41内に供給された炭酸ガスが中空糸状分離膜43の一端側開口から非透過側室47内を通って他端側開口に向かって流れている間に、該炭酸ガス中に含まれる水分が非透過側室47から透過側室48に透過され、非透過ガス導出口50から脱水処理後の炭酸ガスが導出される。この脱水処理後の炭酸ガスの一部はパージ用不活性ガス導入口52を介して透過側室48内に供給され、非透過側室47から透過側室48に透過した水分がその脱水処理後の炭酸ガスによってパージされる。これにより、高度に除湿された炭酸ガスが非透過ガス導出口50から送り出されることになる。非透過ガス導出口50から送り出された高除湿炭酸ガスは、流量調整弁24にて所定流量に調整された後に、分離膜モジュール4におけるパージ用不活性ガス導入口18を介して透過側室14内に供給される。
【0042】
本実施形態の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1Aによれば、圧縮機21および凝縮器22による除湿処理(本発明の「第1の除湿処理」に相当する。)が施された後の炭酸ガスに対して更に除湿膜モジュール40を用いて除湿する除湿処理(本発明の「第2の除湿処理」に相当する。)を施して得られた高除湿炭酸ガスを分離膜モジュール4でのパージ用不活性ガスとして用いるようにされているので、分離膜モジュール4における非透過側室13と透過側室14との水蒸気分圧差をより高めることができる。これにより、分離膜モジュール4における非透過側室13に存在する水蒸気がより高効率で透過側室14に透過されるので、水分濃度を更に低めた製品アルコールを得ることができる。
【0043】
なお、本実施形態の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1Aにおいて、除湿膜モジュール40に代えて、水分吸着剤が充填されてなる除湿器を採用してもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明による発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法の具体的な実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0045】
〔実施例1:図1参照〕
本実施例においては、蒸留塔3として段数10段の多孔板塔を用い、発酵エタノール水溶液(EtOH:10wt%、HO:90wt%)を塔頂部から塔内に供給した。蒸留塔3の塔底部に付設の伝熱コイル(図示省略)に熱媒体を流すことで塔内に供給された発酵エタノール水溶液を加熱し、含水エタノール蒸気を発生させた。蒸留塔3で発生させた含水エタノール蒸気を、過熱器30で10℃スーパーヒートした後に、分離膜モジュール4(膜面積:2m、膜素材:芳香族ポリイミド)を2本並列に接続したもの(図1では1本の分離膜モジュールのみを表示)に供給した。中継タンク5に貯留された発酵ガスを圧縮機21で0.5〜1.0MPaGに圧縮した後に凝縮器22で冷却し、発酵ガス中に含まれる水分およびエタノール分を凝縮した。この凝縮によって得られる水およびエタノールの混合液は受器23、原液タンク6を経て蒸留塔3で蒸留処理した。圧縮機21および凝縮器22による除湿処理により、分離膜モジュール4の透過側室14に供給する炭酸ガス中の水分濃度を1.05mol%程度まで下げることができた。そして、分離膜モジュール4において、透過側室14を真空ポンプ27の稼働で100Torrに維持しながら、含水エタノール蒸気と除湿後の炭酸ガスとを中空糸状分離膜9を介して向流接触させて脱水処理を行った。
【0046】
本実施例において適用される図1の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1の主要各部における流量、温度、圧力等の計測結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
本実施例によれば、10wt%発酵エタノール水溶液33.5kg/hから99.7wt%の無水エタノールが3.13kg/hの速度で得られた。膜透過液量は、2.89kg/h(EtOH=0.20kg/h、HO=2.69kg/h)であった。
【0049】
〔実施例2:図2参照〕
本実施例においては、除湿膜モジュール40の非透過ガス導出口50から導出される脱水処理後の炭酸ガスの約20%をパージ用不活性ガス導入口52を介して透過側室48内に供給し、非透過側室47から透過側室48に透過した水分をその脱水処理後の炭酸ガスでパージした。その他の点については実施例1と同様である。
【0050】
除湿膜モジュール40による除湿処理の実施により、分離膜モジュール4の透過側室14に供給する炭酸ガス中の水分濃度を実施例1のそれよりも1桁程度低い0.135mol%程度まで下げることができた。そして、分離膜モジュール4において、透過側室14を真空ポンプ27の稼働で100Torrに維持しながら、含水エタノール蒸気と、除湿膜モジュール40で更に除湿された後の炭酸ガスとを中空糸状分離膜9を介して向流接触させて脱水処理を行った。
【0051】
本実施例において適用される図2の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1Aの主要各部における流量、温度、圧力等の計測結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
本実施例によれば、除湿膜モジュール40を用いて、分離膜モジュール4の透過側室14に供給する炭酸ガス中の水分濃度を実施例1のそれよりも1桁程度低い0.135mol%程度まで低下させたことにより、無水エタノール中の水分濃度を実施例1の0.3wt%から1桁程度低い0.04wt%まで下げることができた。
【0054】
図3には、比較例1に係る発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システムの概略構成図が示されている。なお、図3に示される発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム100において、図1に示される発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム1と同一または同様のものについては図に同一符号が付されている。
【0055】
実施例1および実施例2においては、糖発酵により得られる炭酸ガスを分離膜モジュール4の透過側室14に供給して非透過側室13から透過側室14に透過した透過蒸気をパージするようにされているが、本比較例においては、図3に示されるように、分離膜モジュール4の非透過蒸気導出口16から導出される無水エタノール蒸気の一部を分離膜モジュール4の透過側室14に供給して非透過側室13から透過側室14に透過した透過蒸気をパージするようにされている。
【0056】
本比較例において適用される図3の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システム100の主要各部における流量、温度、圧力等の計測結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

注1:膜透過液量は無水エタノールのパージ量を含む。
【0058】
本比較例では、10wt%発酵エタノール水溶液33.5kg/hから99.7wt%の無水エタノールが2.89kg/hの速度で得られ、実施例1よりも0.24kg/h少なかった。膜透過液量は、3.15kg/h(EtOH=0.45kg/h、HO=2.70kg/h)であり、無水エタノールのパージ量を考慮すると、実際の膜透過液量は、エタノール0.20kg/h、水2.50kg/hで合計2.90kg/hであり、実施例1の膜透過液量合計の2.89kg/hとほぼ一致する値であった。
【0059】
以上、本発明の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法について、複数の実施形態および複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態等に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システムの概略構成図
【図2】本発明の第2の実施形態に係る発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システムの概略構成図
【図3】比較例1に係る発酵アルコール水溶液の脱水濃縮システムの概略構成図
【符号の説明】
【0061】
1 脱水濃縮システム
2 発酵槽
3 蒸留塔
4 分離膜モジュール
5 中継タンク
6 原液タンク
9 中空糸状分離膜
13 非透過側室(高圧側室)
14 透過側室(低圧側室)
21 圧縮機
22 凝縮器
23 受器
25 凝縮器
26 受器
27 真空ポンプ
32 製品タンク
40 除湿膜モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖発酵により得られる発酵アルコール水溶液を脱水濃縮する発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法であって、
発酵アルコール水溶液を蒸留塔で蒸留処理して含水アルコール蒸気を生成し、この含水アルコール蒸気を、水蒸気を選択的に透過させる分離膜の高圧側に供給する一方で、糖発酵により得られる炭酸ガスを除湿した後にその分離膜の低圧側に供給して、該分離膜の高圧側から低圧側に透過した水蒸気をその除湿後の炭酸ガスでパージすることを特徴とする発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法。
【請求項2】
前記分離膜の高圧側に供給される含水アルコール蒸気と、前記分離膜の低圧側に供給される除湿後の炭酸ガスとが、該分離膜を介して向流接触される請求項1に記載の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法。
【請求項3】
前記分離膜の高圧側から低圧側に透過した水蒸気をパージした後の炭酸ガスが、糖発酵により得られる炭酸ガスを貯留するための中継タンクに導入され、この中継タンクに貯留されている炭酸ガスと共に除湿された後に再び前記分離膜の低圧側に供給される請求項1または2に記載の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法。
【請求項4】
糖発酵に伴い発生した炭酸ガスを主成分とする発酵ガスが所定値以上に圧縮された後に冷却されて該発酵ガス中に含まれる水分およびアルコール分が凝縮され、この凝縮によって生じた水およびアルコールの混合液が前記蒸留塔で蒸留処理される請求項1〜3のいずれかに記載の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法。
【請求項5】
前記除湿は、糖発酵により得られる炭酸ガスを所定値以上に圧縮した後に冷却して該炭酸ガス中に含まれる水分を凝縮することで成される第1の除湿処理と、この第1の除湿処理が施された後の炭酸ガスを更に除湿膜モジュールを用いて除湿する第2の除湿処理とを含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の発酵アルコール水溶液の脱水濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−172463(P2009−172463A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11151(P2008−11151)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000230582)日本化学機械製造株式会社 (16)
【Fターム(参考)】