説明

発酵セルロース含有洗浄剤

【課題】洗浄剤中に含まれる各種成分や粒状物を、安定に分散させる。
【解決手段】洗浄剤中に発酵セルロースを添加することにより、洗浄剤中の成分や固形物を安定に分散できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定性に優れた洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
洗浄剤中には、洗浄の対象物に適した溶媒や多様な成分が混合されており、使用時の利便性も考慮された剤形が取られている。特に近年では、液体石鹸やシャンプー、洗濯洗剤や柔軟剤、台所用洗剤など、そのほとんどが液状のものとなる傾向にある。
【0003】
液状の洗剤中には、キレート剤や分散剤、界面活性剤、石けん、多糖類等が添加されている。これら各成分は洗浄剤を形成するために必要な機能を備えているが、これらを組み合わせることによって、他の成分と反応し思わぬ不都合を生じる場合があった。
【0004】
例えば、石けんを含む洗剤がカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の金属多価イオンを多く含む硬水中で使用されると、これら金属イオンが石けんと反応して不溶性の石灰石けんを生成し、これが被洗浄物に付着して黄色く変色したり、不快臭の原因となるといった問題が生じていた。
【0005】
このような石灰石けんの問題を解消するために、金属イオンを封鎖しうるキレート剤が添加され、また生成した石灰石けんの凝集を抑制するために分散剤がさらに添加される、といった改善が行われている。
【0006】
また、洗濯用洗剤にはプロテアーゼやセルラーゼといった酵素が配合されている。プロテアーゼは蛋白質のしみを除去するために、セルラーゼは繊維の内部に入り込んだしみや汚れを、セルロース性の物質を分解し除去するために添加されている。
【0007】
このように、洗浄剤中には様々な成分が添加されているが、性質が異なる成分が多種併用されていることから、各成分間の影響を抑えながら洗浄剤全体の安定性を向上すること、併せて洗浄力や泡立ち感などはそのままに、皮膚や洗浄対象物を過度に痛める成分は使用できないなど、様々な問題点があった。
【0008】
このように洗浄剤に関する問題点を解決するために、様々な手法が検討されている。具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、特定のシリコーン化合物、芳香族カルボン酸又はその塩、カチオン化セルロース等、塩化ジメチルジアリルアンモニウムと(メタ)アクリルアミドの共重合体とを含有する洗浄剤組成物(特許文献1)、石けんとウロン酸を含む多糖類(ガッティガム、アラビアガム、大豆抽出水溶性ヘミセルロース等)を含有してなる洗浄剤組成物(特許文献2)、アルキル硫酸塩を含有することを特徴とする衣料用液体洗浄剤(特許文献3)、固形酸化剤、好適には過ホウ酸ナトリウムを含有し、アルカリ金属ホウ酸塩、ホウ酸、アルカリ金属塩化物、またはこれらの混合物を使用して非常に安定性の良い酸化性を維持した相安定な液状洗剤(特許文献4)、界面活性剤、有機キレート化剤、クエン酸塩またはその塩および増量剤としての調整化剤を含有し、天然物に由来する成分を主成分とする洗浄剤(特許文献5)、特定の非イオン界面活性剤およびアミノ酸誘導体を必須成分として含有する洗浄剤組成物(特許文献6)等が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2007−70469号公報
【特許文献2】特開平8−48999号公報
【特許文献3】特開平6−33090号公報
【特許文献4】特開平3−182600号公報
【特許文献5】特開平9−59674号公報
【特許文献6】特開平10−251696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記技術を用いることにより洗浄剤が有する課題(例えば、長期安定性の付与、洗浄力の改善等)を解決することは可能であるが、添加する成分が化学的合成品を多様化する傾向にあった。これらの成分は、洗浄剤の安定化等には有意に効果を付与するが、使用後の自然環境への影響も無視できず、極力その使用を抑えるための検討が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、洗浄剤の安定化を向上させるために、自然分解される発酵セルロースを使用することにより、従来技術で得られていた安定性と同等の効果を付与し、かつ、自然環境への影響も抑えることができるとの知見に至り、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明による洗浄剤によれば、従来の洗浄剤と同等の性質を有しながら、洗浄剤中に含まれている成分、特に香りや洗浄成分、保湿成分を含む粒状ゲル、装飾用のラメやビーズのような、比較的大きな固形物であっても安定に分散させることが可能となった。このような成分を安定に分散させることが可能となっても、自然界への影響を抑えることが可能な洗浄剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で使用する発酵セルロースは、工業的に酢酸菌を通気撹拌培養させ、菌体から作られた非常に細い繊維状のセルロースを分離・回収し得られたものである。市販されている商品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のサンアーティスト〔商標〕シリーズが挙げられる。
【0014】
発酵セルロースの添加量は、洗浄剤中に分散させる構成成分の種類や添加量、固形物においてはその比重に応じて、適宜調節することができるが、一般には0.01〜2質量%、好ましくは0.03〜1質量%である。発酵セルロースの添加量が0.01質量%以下になると、好ましい分散効果が得られず、2質量%以上を添加すると、粘度が高くなり使用の際の取り扱いが困難になる場合がある。
【0015】
発酵セルロースを洗浄剤に添加する方法は、調製する洗浄剤の一原材料として発酵セルロースを添加すれば良く、その添加時期や温度条件等に特に制限はないため、通常の洗浄剤の製造ラインを利用できるメリットがある。
【0016】
本発明に係る洗浄剤は、発酵セルロースを必須成分とする以外は、従来使用されている各種成分を制限無く利用することができる。例えば、固形石けん、粉末石けん、複合石けん等の石けん類;アニオン界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、α−オレフィンスルフォン酸塩、エーテル硫酸エステル塩、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテル、アルキルポリエチレングリコールエーテル等)、ノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルポリグルコシド等)、カチオン界面活性剤(ジ長鎖アルキル型第四級アンモニウム塩、モノ長鎖アルキル第四級アンモニウム塩等)、両性界面活性剤(アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン等)等の界面活性剤;無機ビルダー(各種ゼオライト、非晶質アルミノ珪酸塩、ピロリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、結晶性珪酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等)、有機ビルダー(アミノカルボン酸塩、ヒドロキシアミノカルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、シクロカルボン酸塩、エーテルカルボン酸塩、有機カルボン酸塩ポリマー等)等の洗浄力補助剤;炭酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、アミン類等のアルカリ剤;プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ等の酵素剤;カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等の再汚染防止剤;コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、コラーゲン等の保湿成分;その他漂白剤、柔軟化剤、泡コントロール剤、蛍光増白剤、還元剤、香料、色素、抗菌剤等を配合することができる。
【0017】
また、発酵セルロースに加え、アラビアガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラヤガム、グァーガム、トラガントガム、ガッティガム、アルギン酸及びその塩、デンプン、ヒアルロン酸、ペクチン、ジェランガム、カラヤガム、水溶性ヘミセルロースの何れか1種以上を、本発明の効果を妨げない範囲において組み合わせて使用することができる。
【0018】
さらに、本発明では固形物を洗浄剤に安定に分散させることが可能となる。係る固形物の例として、上述の洗浄成分や香り成分、酵素等を粒状のゲルにしたものや、装飾目的で添加するラメやプラスチック製のビーズを洗浄剤中に添加することが可能である。従来にも、洗浄剤中に粒状のゲルを含有させたり、装飾用のラメを分散させたものがあり、ラメの様な質量の小さいものであれば洗浄剤中に分散されていたが、長期的には沈殿する場合もあった。ラメよりも大きな粒状ゲルであれば、すぐに容器の底部に沈殿しやすく、使用時に振り混ぜるなどの処置が必要であった。しかし、洗剤を振り混ぜて使用すると不必要な泡立ちが生じ使用の際に不都合が生じるため、添加している粒状ゲルによる何らかの効果を期待することはできなかった。或いは、高分子のポリマーを添加して粒状ゲルを浮遊させたものもあるが、その粘度は2000〜3000mPa・s程度と高粘度であり、使用されている成分による環境への影響が問題となるおそれがある。
【0019】
本発明では、従来の洗浄剤中に添加した場合は容器底部に沈み、利用することが困難であった粒状ゲルであっても、安定に洗浄剤全体に均一に分散することが可能となる。また、装飾用のラメやビーズが長期保存された状況であっても、洗浄剤全体に均一に分散された状態を保つことができる。
【0020】
ここで、洗浄剤中に添加できる固形物、具体的には香り成分や洗浄成分を含む粒状ゲルの一例を挙げる。係る粒状ゲルに添加できる香り成分としては、一般に賦香のために用いられる香気成分を制限無く利用できる。具体的には天然・合成に関わらず、レモン香料、オレンジ香料、パイン香料、サンダルウッド香料、ラベンダー香料、ゼラニウム香料、シトロネラ香料、レモングラス香料、ジャスミン香料、ライラック香料、バラ香料、ローズマリー香料、ライム香料等が挙げられ、これらの1種以上を使用することができる。
【0021】
さらに、保湿成分としてコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、コラーゲン等を添加することもできる。
【0022】
また、粒状ゲル中に先述の洗浄剤の1種以上を添加することで、一つの洗浄剤をもって異なる洗浄力を享受することが可能となる。
【0023】
係る粒状ゲルを調製するために、各種の増粘多糖類を利用すると簡便に当該ゲルを調製することができる。具体的には、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナン、グァーガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、タマリンドシードガム、グルコマンナン、水溶性大豆ヘミセルロース、アルギン酸等の増粘多糖類と香気成分或いは洗浄成分を混合しゲル化させ、ゲルを破砕することにより粒状のゲルを得ることができる。或いは、ジェランガム、アルギン酸やペクチン等のカルシウム反応性を有するゲル化剤と香気成分或いは洗浄成分を混合した溶液を調製し、得られた調製液をカルシウムを含む溶液中に滴下することにより、粒状のゲルを得ることもできる。
【0024】
また、本発明に係る洗浄剤中に浮遊させる固形物は、上述のような粒状ゲルに制限されず、公知の方法で調製された被膜を有するカプセル状のものや、裁断されたプラスチック片やラメ、プラスチック製やナイロン製のビーズ等であってもよい。
【0025】
従来の技術において、洗浄剤にカルボキシメチルセルロースを再沈着防止剤として添加すること(例えば特許文献4に記載)が知られているが、これは洗浄により除去された汚れが、再度洗浄対象物に付着することを防止するために添加されたものである。後述の実験例にもある通り、カルボキシメチルセルロースには本願発明で使用する発酵セルロースのような分散安定化効果は得られなかった。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、下記処方中の単位は特に言及しない限り「%」は「質量%」であることを意味する。文中の「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示し、「*」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品であることを意味する。
【0027】
実験例1
市販されている洗浄剤に粒状ゲルを添加し、発酵セルロースによる分散安定効果を調べた。
<発酵セルロース溶液の調製>
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンアーティスト※(発酵セルロース製剤)*を水に添加し、プロペラ撹拌の後にホモジナイズ(150kgf/cm2)して発酵セルロース溶液を調製した。
【0028】
<評価方法>
市販されている洗浄剤に上記発酵セルロース溶液とナイロンビーズ(19mg/個)を添加し、1日静置後のビーズの分散状況を目視で確認した。各実施例品に添加した発酵セルロースとしての添加量をそれぞれに記す。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
<結果>
上記実験より、発酵セルロースを添加することにより、ナイロンビーズを洗浄剤中に安定に分散できることが明らかとなった。実施例3では、ナイロンビーズは分散されていたが、他の実施例に比べると、若干下方へナイロンビーズが沈んでいる傾向にあった。しかし、既存の洗浄剤でラメを分散させている商品の粘度が、前述のように2000〜3000mPa・sであることと比較すると、遥かに低粘度の状態で分散可能となっていることが明らかとなった。
【0031】
以上の結果より、市販されている洗浄剤においてナイロンビーズを安定に洗浄剤中に浮遊させることが可能となるので、装飾用のナイロンビーズを添加したり、様々な香気成分や洗浄成分を含有した粒状ゲルを調製し、これを添加した新規な付加価値を持つ洗浄剤を提供することが可能となる。
【0032】
実験例2
発酵セルロース溶液の代わりに、他の多糖類を用いて同等の粘度を付与した場合のビーズの分散状況を調べた。
【0033】
<評価方法>
実験例1で調製した発酵セルロースの添加量を0.03%、0.05%、0.1%及び0.5%に調整した溶液と、表2記載の多糖類水溶液を同程度の粘度になるようにした溶液を調製(80℃ 10分間の加温溶解後冷却)し、それぞれを洗浄剤(「液体アタック」花王社製)とプロペラ撹拌で混合し、ナイロン製ビーズ(0.27mg/個)を添加して、当該ビーズの分散状況を目視で確認した(洗浄剤83gに発酵セルロース溶液又は多糖類水溶液17gを添加)。
【0034】
【表2】

【0035】
<結果>
上記実験により、多糖類に比べて発酵セルロースの溶液は洗浄剤と好適に混ざり合い、発酵セルロースの添加量が増えるとやや白濁するものの、添加したビーズを安定に分散させることが明らかとなった。しかも発酵セルロースは添加量0.03%(実施例4)でも十分な分散安定効果を発揮していた。一方の多糖類は、洗浄剤中の成分の影響を受けたためかゲルを生じたり(比較例6、7)、混ざり合わないため分散効果が全く得られない(比較例4、5、8)との結果が得られた。
実験例3
【0036】
特許文献4等において、カルボキシメチルセルロース(CMC)が洗濯用洗剤に汚れの再付着防止剤として利用されていることが記載されている。本願発明に係る発酵セルロースとその効果の比較を行った。
【0037】
<評価方法>
CMC溶液を同程度の粘度に調整し洗浄剤に添加して、実験例2と同じビーズを用いて分散効果を目視で確認した。本願発明品の実験例2で調製した実施例7と比較した。その結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
<結果>
上記結果より、洗濯用洗剤に再付着防止剤として添加されるCMCには、ビーズ等に対する分散効果がないことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵セルロースを全量に対し0.01〜2質量%含有することを特徴とする洗浄剤。
【請求項2】
洗浄剤が、頭髪用シャンプー、ボディシャンプー、液体石鹸、台所用洗剤、浴室用洗剤、洗濯用洗剤のいずれかである請求項1記載の洗浄剤。
【請求項3】
固形物を分散させたものである請求項1又は2に記載の洗浄剤。

【公開番号】特開2009−40968(P2009−40968A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210069(P2007−210069)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】