説明

発酵組成物およびその製造方法

【課題】デンシチン含有量の少ない田七人参組成物を提供する
【解決手段】田七人参、その抽出物、及び該抽出物の粗精製物並びに精製物からなる群から選ばれる少なくとも1種をモナスカス属糸状菌によって発酵処理して得られる発酵組成物は、発酵によってデンシチンの含有量が減少し、且つロバスタチンを含有したものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田七人参の発酵組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を用いた発酵は動植物由来の原料へ微生物を作用させることにより、原料の嗜好性を向上させたり、特定の物質や新たな有用物質を生産させたりといったことのできる、古くから用いられている加工技術の一つであり、モナスカス属糸状菌は沖縄の伝統的食材である豆腐ようや中国の紅酒や紅老酒で用いられている。また、食品添加物として使用される赤色色素を産生する有益な微生物である。また、モナスカス属糸状菌のなかにはコレステロール合成を阻害するスタチン類、特にロバスタチン(モナコリンK)を産生する菌株が知られている。
【0003】
近年、発酵することによって単に有用物質の産生や嗜好性の改善だけではなく、新たな生理活性を獲得したり、発酵前の原料よりも生理活性を増強する作用を有するなど、発酵物自身について検討されている(例えば特許文献1)。
【0004】
また、発酵にモナスカス属糸状菌を用いることによってGABAやロバスタチンを有効成分とする高血圧改善機能、高脂血症改善機能、コレステロール合成阻害機能を付与した食品の開発が検討されている(例えば特許文献2〜4)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−193489号公報
【特許文献2】特開平5−184342号公報
【特許文献3】特開2003−325125号公報
【特許文献4】特開2006−75003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウコギ科に属する田七人参は、滋養強壮作用等があり、医薬や健康食品の原料として用いられている。しかしながら、田七人参には、神経毒であるbeta-N-oxalo-L-alpha,beta-diaminopropionic acid(以下、デンシチン)が含まれており、多量に摂取すると神経障害を起こすおそれがあった。本発明は、かかる問題の解決を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、発酵により田七人参に含まれるデンシチンを減少させることに想到し、試行錯誤の末に、上記モナスカス属糸状菌を用いて発酵することによりデンシチンを大幅に減少させ得ることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、田七人参、その抽出物、及び該抽出物の粗精製物並びに精製物からなる群から選ばれる少なくとも1種をモナスカス属糸状菌によって発酵処理して得られる発酵組成物である。上記発酵組成物はロバスチンを含むことが望ましい。
【0009】
また、本発明は、田七人参、その抽出物、及び該抽出物の粗精製物並びに精製物からなる群から選ばれる少なくとも1種をモナスカス属糸状菌によって発酵処理することを特徴とする発酵組成物の製造方法である。かかる製造方法において、前記モナスカス属糸状菌は、ロバスタチンを産生する菌株であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発酵前の田七人参に比べてデンシチン含有量が大幅に減少した発酵組成物が得られる。かかる発酵組成物は、デンシチンによる副作用が少ないため、多量・長期間の摂取が可能である。また、本発明の製造方法おいて、発酵処理においてモナスカス属糸状菌が、ロバスタチンを産生する菌株である場合には、ロバスタチンを含有する発酵組成物が得られる。本発明の発酵組成物がロバスタチンを含有する場合には、高血圧改善機能、高脂血症改善機能、コレステロール合成阻害機能を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の発酵組成物は、ウコギ科に属する田七人参、その抽出物または該抽出物の粗精製物もしくは精製物にモナスカス属糸状菌を作用させ発酵して得られるものである。
【0012】
本発明において、田七人参は刻んだものや粉末化したものを発酵処理に用いることが望ましい。田七人参の粉末化や抽出は常法によって行えばよい。抽出は、例えば田七人参を乾燥して刻み、または粉末状にして抽出溶媒を加え、冷浸または加熱することによって行うことが出来る。抽出溶媒としては、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類などの1種または2種以上の混合溶媒を使用することが出来る。
【0013】
なお、本発明における抽出物とは、抽出液、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出物を乾燥して得られる乾燥物、または該抽出液を濃縮した抽出エキスのいずれかをも意味するものとする。上記抽出物の精製は常法によって行えばよく、例えば吸着剤による吸着および溶出、クロマトグラフィー等を適当に組み合わせて実施することが出来る。
【0014】
以上のようにして得られる田七人参、その抽出物、および該抽出物の精製物は、後述する実施例から明らかなように、培地原料として使用することが出来る。本発明の発酵組成物は、生薬および微生物由来のものを有効成分としているため、副作用が比較的少なく、長期間経口摂取が可能であると考えられる。
【0015】
本発明の発酵組成物は、経口摂取可能な形態、例えば、粉末、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの剤型にすることが出来、またそれ以外常法に従い、例えば、菓子や清涼飲料水や主食に添加する等様々な使用形態の食品とすることが出来る。本発明の発酵人参が添加される食品には、必要に応じて通常食品に用いられる賦形剤、増量剤、甘味剤、香味剤、着色剤等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することが出来る。
【0016】
培養に使用する菌株はモナスカス属糸状菌であれば特に限定されない。具体的には、Monascus pilosus、 Monascus purpureus、 Monascus ruberなどからなる群から1種または2種以上を用いることが挙げられる。
【0017】
培養温度は20℃〜35℃が好ましく、25℃〜27℃がより好ましい。培養日数は7日〜30日が好ましく、10日〜14日がより好ましい。
【0018】
培地への炭素源の添加はでんぷん類、例えば、精白米、玄米、麦、粟、コウリャン、ソバ、トウモロコシ、大豆、小豆およびこれらの糠、フスマ、胚芽など、糖類、例えば、グルコース、セルロース、ラクトース、キシロース、スクロース、マルトース、ガラクトースなど、脂肪酸(油脂類含む)類、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、綿実油、大豆油、オリーブ油、落花生油、コーン油などからなる群から選択された少なくとも1つまたは2つ以上の炭素源を用いることが出来る。
【0019】
発酵後は、さらに必要に応じて、殺菌または除菌してもよい。例えば、加圧式殺菌、熱交換式殺菌、蒸煮殺菌、限外ろ過などの当業者が通常用いる方法が用いられる。加熱殺菌の場合、例えば、60℃〜120℃にて5秒〜12時間行うことができる。
【0020】
以下、本発明を実施例によって説明する。但し、本発明の範囲は以下に示される実施例のみに限定されるものではない。なお「%」は特に断らない限り質量%を意味する。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
抽出エキスを乾燥して得られた田七人参エキス末5%、リン酸水素二カリウム0.1%、Czapek濃縮液1%を含有し(残りは蒸留水)、pH6.0の培養液を基本培地とし、50mlを三角フラスコ(100ml容)に張り込み、殺菌した(121℃、15分)。PDA培地に5〜14日間生育させた紅麹菌Monascus pilosus NBRC4520の菌糸の一部を白金耳で上記の三角フラスコの殺菌済み培養液に接種し、25℃で14日間振とう培養(150rpm)した。培養終了後、100℃、5分殺菌処理を行い、自然ろ過によって菌体を取り除き、実施例1の発酵組成物を得た。
【0022】
<実施例2>
基本培地に炭素源として可溶性でんぷんを2%添加する他は実施例1と同様にして、実施例2の発酵組成物を得た。
【0023】
<実施例3>
基本培地に炭素源としてトウモロコシでんぷんを2%添加する他は実施例1と同様にして、実施例3の発酵組成物を得た。
【0024】
<実施例4>
基本培地に炭素源としてコムギでんぷんを2%添加する他は実施例1と同様にして、実施例4の発酵組成物を得た。
【0025】
<実施例5>
基本培地に炭素源としてバレイショでんぷんを2%添加する他は実施例1と同様にして、実施例5の発酵組成物を得た。
【0026】
<評価1>
実施例1〜5の各発酵組成物、及び、紅麹菌接種前の殺菌済み基本培地(比較例)をそれぞれクロロホルムに分配してクロロホルム層をエバポレーターで濃縮し、メタノールに再溶解して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析を行い、デンシチンとロバスタチンの含有量を測定した。高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下のとおりである。結果を表1に示す。
【0027】
デンシチンHPLC分析条件
カラム: 昭和電工製Shodex Asahipak ES-502N 7C 7.6×100mm
移動層: 20mMリン酸水素二カリウム(pH6.5)/アセトニトリル=40/60
温度 : 45℃
流速 : 0.9ml/分
検出 : UV220 nm
【0028】
ロバスタチンHPLC分析条件
カラム: 東ソー製 Tsk-gel ODS-100S 4.6×150mm
移動層: アセトニトリル/0.1%リン酸=60/40
温度 : 26℃
流速 : 1.0ml/分
検出 : UV237 nm
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、炭素源の添加の有無に関わらず、紅麹菌による発酵によってデンシチンの含有量が発酵前の5%以下に減少したことが確認された。また、基本培地に炭素源を添加することによってロバスタチンの産生量が約4倍に増加したことが確認された。
【0031】
<実施例6>
田七人参エキス末5%、リン酸水素二カリウム0.1%、Czapek濃縮液1%、可溶性でんぷん2%を含有し(残りは蒸留水)、pH6.0の培養液50mlを三角フラスコ(100ml容)に張り込み、殺菌した(121℃、15分)。PDA培地に5〜14日間生育させた紅麹菌Monascus pilosus NBRC4520の菌糸の一部を白金耳で上記の三角フラスコの殺菌済み培養液に接種し、25℃で14日間振とう培養(150rpm)した。培養終了後、100℃、5分殺菌処理を行い、自然ろ過によって菌体を取り除き、実施例6の発酵組成物を得た。
【0032】
<実施例7>
また、Monascus pilosus NBRC4520の代わりにMonascus ruber NBRC4532を接種する他は実施例6と同様にして、実施例7の発酵組成物を得た。
【0033】
<実施例8>
また、Monascus pilosus NBRC4520の代わりにMonascus ruber NBRC32317を接種する他は実施例6と同様にして、実施例8の発酵組成物を得た。
【0034】
<評価2>
実施例6〜8の各発酵組成物を、上記評価1と同様にして高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析を行い、デンシチンとロバスタチンの含有量を測定した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示すように、いずれの菌株の発酵によってもデンシチンが減少し、また、ロバスタチンが産生したことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
田七人参、その抽出物、及び該抽出物の粗精製物並びに精製物からなる群から選ばれる少なくとも1種をモナスカス属糸状菌によって発酵処理して得られる発酵組成物。
【請求項2】
上記発酵組成物にはロバスタチンが含有されていることを特徴とする請求項1記載の発酵組成物。
【請求項3】
田七人参、その抽出物、及び該抽出物の粗精製物並びに精製物からなる群から選ばれる少なくとも1種をモナスカス属糸状菌によって発酵処理することを特徴とする発酵組成物の製造方法。
【請求項4】
前記モナスカス属糸状菌は、ロバスタチンを産生する菌株であることを特徴とする請求項3記載の発酵組成物の製造方法。


【公開番号】特開2009−132655(P2009−132655A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311087(P2007−311087)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000187471)松浦薬業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】