説明

発電糸,その製造方法及び装置,太陽電池

【課題】大面積化が可能で生産性に優れた柔軟性のある太陽電池を提供する。
【解決手段】太陽光が発電層24に入射すると、光による電子の励起によって電子−ホール対が形成され、ホールはp型シリコン層22pからヨコ糸20に達し、電子はn型シリコン層22nからタテ糸30に達する。これにより、ヨコ糸20とタテ糸30との間に起電力が得られる。ヨコ糸20とタテ糸30を生地のように織り込んで太陽電池10が形成されているため、極めて大面積のものを簡便に得ることができ、柔軟性にも富む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発電糸,その製造方法及び装置,太陽電池に関し、特に太陽電池の大面積化に好適な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
大面積化を目的とした太陽電池としては、適宜のプラスチックフィルム基材上に、金属電極を挟んで、プラズマCVDによるシリコンの低温成膜,水素化やフッ素化による未結合手の安定化処理を行なってアモルファスシリコンによるPIN接合を形成し、その上に透明導電膜を介して集電用電極を形成したシート型の太陽電池が知られているが、大型のシートに一括して発電層を成膜するため、大面積の太陽電池を得るためには製造装置が大型化し、価格面でも不利となる。また、プラスチックフィルム基材を使用しており、柔軟性を有しているが、基材の耐熱性の低さ故に膜質を低下させ、その結果として発電効率が劣化する恐れがある。
【0003】
このようなシート型の太陽電池に対し、下記特許文献1には、石英管などの透明材料からなる管の内面に透明導電層および色素増感多孔質半導体層を順次設け、管の中央部に棒状の対極を挿入し、管の両端部と対極との間を封止部材により封止し、色素増感多孔質半導体層と対極との間の空間に電解質層を封入した色素増感光電変換素子が開示されており、ガラス基板上に並べることで光電変換素子モジュールとなる。また、下記特許文献2には、p型半導体層及びn型半導体層により構成されるpn接合層の主面に沿った方向に、p電極及びn電極をそれぞれ形成した光電変換素子が開示されており、渦巻き状や同心形状に形成される。
【特許文献1】特開2007−012545号公報
【特許文献2】特開2007−273491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1記載の背景技術では、石英管の内側に発電層を形成し、その中に電極を挿通しており、構造が複雑で、大面積化に好適とはいえない。また、前記特許文献2記載の背景技術では、テープ状となっており、特許文献1の手法よりも大面積化に向いているものの、限界がある。
【0005】
本発明は、以上のような点に着目したもので、その目的は、大面積化が可能で生産性に優れた太陽電池を提供することである。他の目的は、柔軟性に優れた太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の発電糸は、糸の長手方向に連続して発電層を形成したことを特徴とする。本発明の太陽電池は、前記発電糸を使用した織物もしくは編物として構成される。前記発電糸は、電極糸を連続的に移送する途中に、ガス状や液体状の原料をCVD(常圧−CVDや低圧−CVD),プラズマ熱分解,電子線熱分解などの方法で発電層を形成することで得られる。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、糸に発電層を形成したので、大面積化が可能で、生産性にも優れた太陽電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1には、本発明の一実施例が示されている。同図(A)は斜視図であり、これを矢印FA方向から見ると同図(B)のようになる。これらの図において、本実施例の太陽電池10は、ヨコ糸20とタテ糸30を生地のように織り込んだ構成となっている。これらのうち、ヨコ糸20,タテ糸30としては、アルミニウム,銅,ニッケル,クロム,すず,鉄,銀,金,白金,パラジウム,などの金属線やその合金,炭素繊維,導電性ポリマーなどが使用される。必要があれば、複数本の糸を撚った撚糸として形成してもよい。ヨコ糸20の表面には、p型シリコン層22p,n型シリコン層22nが積層形成されており、これらによって発電層24が形成されている。これらヨコ糸20及び発電層24によって発電糸26が構成されており、タテ糸30は電極糸として作用する。ヨコ糸20とタテ糸30が交差する部位では、ヨコ糸20とタテ糸30の間に発電層24が挟まれた構成となり、pn接合型の太陽電池となる。
【0010】
本実施例の作用を説明すると、太陽光などの光が発電層24に入射すると、光による電子の励起によって電子−ホール対が形成される。これらのうち、ホールはp型シリコン層22pからヨコ糸20に達し、電子はn型シリコン層22nからタテ糸30に達する。これにより、ヨコ糸20とタテ糸30との間に起電力が得られるようになる。なお、発電層24における発電の原理は、一般的に知られているものである。
【0011】
ところで、本実施例によれば、ヨコ糸20とタテ糸30を生地のように織り込んで太陽電池10が形成されている。このため、極めて大面積のものを簡便に得ることができる。また、従来の太陽電池では、入射する光を有効に活用するために表面に凹凸を形成するテクスチャ構造が知られているが、本実施例によれば、ヨコ糸20の周面の全体に発電層24が形成されているので、太陽光がいずれの方向から入射しても多重反射により効果的に発電を行なうことができる。また、全体が生地となっているので、極めて柔軟性に富むという利点もある。
【0012】
以上のように、本実施例によれば、以下のような効果が得られる。
(1)シリコンによる発電層を細い糸に成膜することから、製造装置を小型化することができる。また、糸を流しながら連続成膜が可能となり、生産性が向上する。
(2)布状とした太陽電池を、縫製で繋ぎ合わせることもできるため、製造装置の大型化を招くことなく大面積化が可能となり、かつ、発電糸の状態で多くの機能が完結しているので、太陽電池としての大型化と製造工程内の不良率の相関関係を抑制することができる。
(3)起電力取出し用の糸を多数設けることができ、導体抵抗による発電電力の損失が低減され、高効率となる。
(4)発電糸がほぼ全方位からの光に対して発電可能なため、テクスチャ構造の代わりにすることができ、散乱光や反射光も発電に用いることができるため、発電効率が向上する。
(5)繊維のため、金属や炭素繊維等の材料を用いてもプラスチックフィルム以上の柔軟性が得られる。また、金属や炭素繊維等の高耐熱材料を用いており、成膜温度を上げることが可能となって、太陽電池としての生地の柔軟性も維持できる。
【実施例2】
【0013】
次に、図2を参照しながら、実施例2について説明する。なお、上述した実施例と対応する構成要素には同一の符号を用いることとする(以下の実施例においても同様)。本実施例の発電糸40は、上述した実施例1の発電糸26の表面に透明電極層42を形成した構成となっている。このため、タテ糸30は、透明電極層42と接触するようになる。前記透明電極層42は、例えば、透明導電性有機化合物(ポリアセチレンやポリチオフェン類)もしくは透明導電性無機化合物(ITO,SnO,ZnO等)で構成される。本実施例によれば、発電層24によって発電された電荷が透明電極層42で集められるようになり、電池としての内部抵抗が低減されるようになる。
【実施例3】
【0014】
次に、図3を参照しながら、実施例3について説明する。上述したように、電力は、ヨコ糸20とタテ糸30から取り出すことができるが、織物の状態ではヨコ糸20が連続している。このため、大面積の場合にヨコ糸20の両端から電力を取り出そうとすると、全長の電気抵抗が大きくなってしまう。そこで本実施例では、図3(A),(B)に示すように、発電糸40の発電層24及び透明電極層42を周期的に部分除去し、ヨコ糸20を露出させる。そして、この露出部52にタテ糸50を編み込むようにすれば、タテ糸50がヨコ糸20に電気的に接触し、タテ糸30とタテ糸50との間に発電層24が挟まれるようになる。タテ糸30とタテ糸50は、交互であってもよいし、図3(C)に示すように、タテ糸30の複数本置きにタテ糸50を配置するようにしてもよい。また、図3(D)に示すように、タテ糸50を2本連続して配置し、次に複数本のタテ糸30を配置するようにしてもよい。このようにすれば、タテ糸30,50から発電電力を取り出すことができ、ヨコ糸20から発電電力を引き出す場合と比較して電気抵抗が低減され、効率よく発電電力を取り出すことができる。
【実施例4】
【0015】
次に、図4も参照しながら、上述した発電糸26,40の製造方法,製造装置の実施例について説明する。同図に示すように、発電糸の製造装置は、低圧−CVD(Low Pressure Chemical Vaper Deposition)装置100,120,130を連続的に配置した構成となっている。低圧−CVD装置100内は、入口と出口にそれぞれオリフィスやゴムのコロ(以下「オリフィス」と総称する)102,104が形成されており、外気の流入を減少させながら反応室106に連通している。装置全体は、例えば、アルミ合金管やニッケル合金管により、直径10mm,長さ10m程度の大きさに、円筒状に形成されている。
【0016】
反応室106の中央付近には原料ガス108が供給されており、反応室106の両端から真空ポンプ110によって外部に排気される構造となっている。また、反応室106の外側には、プラズマ生成コイル(インダクティブカップリングプラズマ用コイル)112(112a〜112d)が巻回されている。低圧−CVD装置120,130についても、原料ガスが異なるものの、基本的な構造は同様となっている。
【0017】
次に、本実施例の動作を説明すると、ヨコ糸20は、低圧−CVD装置100の入口オリフィス102から反応室106内に挿通される。一方、反応室106内は、真空ポンプ110によって真空引きされるとともに、例えばシランとジボランの混合ガスが原料ガス108として供給され、低圧の原料ガス108によって満たされる。この状態でプラズマ生成コイル112に対する通電を行なうと、生じた磁場による誘導電流がガス中に流れてプラズマが生成され、原料ガスの分解反応が生ずる。これにより、ヨコ糸20の表面上にp型シリコン層22pが成膜される。
【0018】
次に、表面にp型シリコン層22pが形成されたヨコ糸20は、低圧−CVD装置100の出口オリフィス104から出て次の低圧−CVD装置120に送られる。低圧−CVD装置120では、原料ガス128として、例えばシランとホスフィンの混合ガスが供給され、同様にプラズマ反応による成膜が行なわれる。これにより、ヨコ糸20の表面上のp型シリコン層22p上に、n型シリコン層22nが成膜される。以上の工程により、図1に示した発電糸26が得られる。
【0019】
次に、同様にして、低圧−CVD装置130によって、ヨコ糸20の発電層24上に、透明電極層42を形成する。原料ガス138としては、例えば、亜鉛アルコキシドのガス及び薄い霧を使用する。これにより、図2に示した発電糸40が得られる。
【0020】
次に、図3に示した露出部52を発電糸40に形成する手法について説明する。上述したように、p型シリコン層22p,n型シリコン層22n,透明電極層42は、いずれもプラズマ生成コイル112の磁界によって原料ガスのプラズマを発生させることで形成される。従って、プラズマ生成コイル112への通電を停止すれば、磁界が発生せず、成膜を止めることができる。そこで、ヨコ糸20の移送に同期して、プラズマ生成コイル112への通電停止部位を順次移動することで、成膜が行なわれない箇所を形成することができる。具体的には、プラズマ生成コイル112aに対する通電を停止すると、その付近のヨコ糸20にはp型シリコン層22pは形成されない。この部位が移動すると、今度はプラズマ生成コイル112bに対する通電が停止する。すると、同様にp型シリコン層22pは形成されない。この部位が移動すると、今度はプラズマ生成コイル112cに対する通電が停止する。このような動作を、プラズマ生成コイル112a〜112dに対して順次行なうとともに、低圧−CVD装置100,120,130でも順次行なうことで、ヨコ糸20の表面に成膜が行なわれない露出部52が形成される。
【0021】
このように、本実施例によれば、低圧−CVD装置を直列に設け、ヨコ糸20を移送することとしたので、簡便な構成でありながら、発電糸を連続的に効率よく製造することができる。
【実施例5】
【0022】
次に、図5を参照しながら、発電糸26,40の製造方法,製造装置の他の実施例について説明する。上述したCVD装置は低圧下で成膜を行なったが、本実施例は大気圧下で成膜を行なうようにした例である。図5(A)に示すように、プラズマ熱分解装置200の下部には原料202を蓄積するタンク204が設けられており、その上部中央は熱分解室206が設けられており、更にプラズマ生成コイル208が巻回されている。
【0023】
タンク204には、例えば原料202としてポリシラン液や有機シリコン化合物等が入れられており、タンク上部の空間にはドライ窒素,アルゴン,もしくはそれらのガスに水素やフッ素を混合したもの,が充填されている。また、熱分解室206は、例えば、アルミ合金やニッケル合金によって、直径10mm,長さ10m程の管状に形成されている。プラズマ熱分解装置200には、更に同様の構成のプラズマ熱分解装置210,220が連続して設けられている。
【0024】
本実施例によれば、ヨコ糸20は、プラズマ熱分解装置200のタンク204の原料202内を通過する。これによって、ヨコ糸20の外周表面にホウ素含むポリシラン液が付着する。このヨコ糸20が熱分解室206に送られると、プラズマ生成コイル208の磁界に基づくプラズマ発光による光化学的な分解と熱分解が行われ、ヨコ糸20の表面にp型シリコン層22pが形成される。次に、ヨコ糸20は、次のプラズマ熱分解装置210に送られる。このプラズマ熱分解装置210では、タンク204内に、原料としてリン,砒素,アンチモンの何れかを含むポリシラン液が入れられており、これらのプラズマ発光熱分解によってn型シリコン層22nが形成される。更に、次のプラズマ熱分解装置220では、タンク204内に、原料として亜鉛アルコキシドのアルコール溶液やそれを加水分解したゾル・ゲル水溶液が入れられており、これらのプラズマ発光熱分解によって透明電極層42が形成される。このように、本実施例では、大気圧塗布熱分解法によって、発電層24や透明電極層42がヨコ糸20に形成される。
【0025】
図5(B)は、上述したプラズマ生成コイル208によるプラズマ発光熱分解の代わりに、電子線照射によって成膜を行うようにした例である。電子線熱分解装置230のタンク232内に適宜の原料を用意し、この中にヨコ糸20を通す。そして、電子線照射装置234で電子線を照射することで、原料の電子線によって化学結合を直接切断させる反応と熱分解による補助反応が同時に起こり、ヨコ糸20の表面に成膜が行われる。
【実施例6】
【0026】
次に、図6を参照しながら、実施例6について説明する。この実施例は、上述した図3の実施例における発電糸40の露出部52を形成する他の手法を示すものである。まず、ヨコ糸20に他の糸300を撚ったものを得る(同図(A)及び(B)参照)。これは、ピッコ諸撚糸と呼ばれるものである。この状態で、ヨコ糸20及び糸300の表面に、上述した発電層24を成膜する(同図(C)参照)。図2の実施例であれば、更に透明電極層42を成膜する。その後、糸300を剥がすようにすると、(D)に示すように、糸300に形成された発電層24が除去され、ヨコ糸20が露出して露出部52が形成される。糸300を樹脂製とし、成膜後に溶剤にて溶かすようにしてもよい。前記糸300の材料としては、例えば、ポリビニールアルコール,エチルセルロース,アクリル樹脂等が用いられ、ポリビニールアルコールの溶剤としては温水やアルコール、エチルセルロースの溶剤としてはアルコール、アクリル樹脂の溶剤としてはトルエン,酢酸エチル,アセトン等が用いられる。
【実施例7】
【0027】
次に、図7を参照しながら、実施例7について説明する。本実施例は、ヨコ糸20の各種の形態を示すものである。同図(A)は、上述した実施例におけるヨコ糸20で、導体で形成した例である。同図(B)のヨコ糸20Aは、絶縁体20Aaの表面に導体層20Abを形成した例である。同図(C)のヨコ糸20Bは、導体20Bbによって筒状ないしパイプ状に形成した例で、内部は空洞20Baとなっている。空洞20Baに例えば水を通すことでpn接合部が冷却され、不純物半導体中の少数キャリアの熱励起による漏洩電流の低減化による光-電力変換効率改善といった効果が得られる。
【0028】
同図(D)のヨコ糸20Cは、導線20Caの表面にメッキ20Cbを施した例である。同図(E)のヨコ糸20Dは、断面が楕円形の例である。同図(F)のヨコ糸20Eは、断面が平らな板状の例である。もちろん、これらを組み合わせてもよい。例えば、同図(B)〜(D)を同図(E)〜(F)のような形状とするという具合である。本実施例は、タテ糸30に対しても同様に適用可能である。
【0029】
前記導体層20Ab,導体20Bb,導線20Ca,ヨコ糸20D及び20Eとしては、例えば、アルミニウム,銅,ニッケル,クロム,すず,鉄,銀,白金,パラジウムなどの金属線やその合金、炭素繊維、導電性ポリマーなどが用いられる。また、前記絶縁体20Aaとしては、例えば、アルミナ長繊維,不純物の少ない炭素繊維,ガラス繊維,ポリエチレン,ポリイミド,ポリプロピレン,テフロン(登録商標)やナイロン66等の化学繊維が用いられる。前記絶縁体20Aaを用いた図7(B)の構造においては、特に化学繊維を用いた場合、軽量である,打撃等の機械的衝撃に強い,熱衝撃に強い,屈曲性に富む,生産性に富む,低価格であるといった利点がある。更に、前記メッキ20Cbとしては、例えば、電気伝導を司る部分には銅や銀,Niメッキが用いられ、その表面が防食用の白金,パラジウム,Ni,金,銀等の薄いメッキ層で覆われて保護されるため、表面の酸化が抑制される。
【実施例8】
【0030】
次に、図8を参照しながら、実施例8について説明する。上述した実施例は、いずれも、タテ糸とヨコ糸を利用して発電電力を取り出すようにしたものであるが、本実施例は、ヨコ糸のみ,あるいはタテ糸のみで発電起電力を取り出すことができる例である。同図(A)の発電糸500は、導体502pの表面にp型シリコン層504pが形成されたp型原糸506pと、導体502nの表面にn型シリコン層504nが形成されたn型原糸506nを、それぞれ複数本撚ったもので、撚糸の外側には、真性半導体層のような透明絶縁層508が形成されている。発電糸500は、タテ糸もしくはヨコ糸のみに使用して織ってもよいし、タテ糸及びヨコ糸の両方に発電糸500を使用して織ってもよい。
【0031】
本実施例によれば、p型原糸506pとn型原糸506nを撚っているので、表面のp型シリコン層504pとn型シリコン層504nが接触してpn接合が形成され、これが太陽電池として作用する。起電力は、p型原糸506pの導体502pとn型原糸506nの導体502nから取り出される。
【0032】
本実施例によれば、pn接合が各所に形成されるので、入射光を閉じ込める効果が得られ、テクスチャ構造を形成するための行為を行うことなく、良好に発電を行なうことができる。また、透明絶縁層508として真性半導体層を形成すれば、いわゆるpin接合が形成されるようになり、この部分も発電に寄与する。
【0033】
図8(B)の発電糸510は、導体512の表面にpn接合などの発電層514を形成し、更に透明電極516を形成した発電原糸518を複数撚ったもので、導体512と透明電極516とによって発電層514の起電力が取り出される。この例も、タテ糸もしくはヨコ糸の一方もしくは両方に発電糸510を使用することができる。
【0034】
図8(C)は、上述した実施例2の発電糸40と本実施例の発電糸530とを利用して織ったものである。発電糸530は、タテ糸532の表面に、n型シリコン層534n及びp型シリコン層534pによる発電層536を形成し、更にその上に透明電極層538を形成した構成となっており、発電糸40と比較してpn接合が逆の関係となっている。このため、起電力の方向も逆となり、発電糸40と発電糸530の接合部分では2つの太陽電池が直列に接続されたようになって、起電力が加算される。なお、透明電極層42,538の一方又は両方を省略してもよい。前記導体502p,502n,512としては、例えば、アルミニウム,銅,ニッケル,クロム,すず,鉄,銀,金,白金,パラジウムなどの金属線やその合金、炭素繊維、導電性ポリマー等が用いられる。また、前記透明電極層42,538としては、例えば、透明導電性有機化合物(ポリアセチレンやポリチオフェン類)や透明導電性無機化合物(ITO,SnO,ZnO等)が用いられる。
【実施例9】
【0035】
次に、図9を参照しながら、実施例9について説明する。上述した実施例では、図9(A)に示すように、発電糸40の中心に導体によるヨコ糸20があり、その表面に発電層24や透明電極層42が形成されている。しかし、同図(B)に示す発電糸600のように、内側に発電層602を形成し、その表面に電極層604を形成するようにしてもよい。この例では、上述した図3のように発電層602に露出部(図示せず)を形成し、この露出部に導電性糸(図示せず)を当てるようにする。これにより、発電層602の起電力を、前記導電性糸と電極層604とから取り出すことができる。電極層604は、膜厚が薄ければ光学的に透明となる。電極層604が透明導電性有機化合物(ポリアセチレンやポリチオフェン類)や透明導電性無機化合物(ITO,SnO,ZnO等)の場合は、膜厚を薄くすることなく、そのまま透明電極として利用することができる。
【0036】
しかし、電極層604が透明でないときは、太陽光が電極層604で反射されてしまうので、同図(C)に示す発電糸610のように、発電層602の表面の一部にのみ電極層604を形成する。発電層602の起電力の取り出し方は同図(B)と同様であり、発電層602の露出部と接触する導電性糸と、電極層604との間で取り出すようにする。なお、同図(B)及び(C)のいずれにおいても、電極層604を引き出すための導電性糸を設けるようにしてよい。前記電極604としては、例えば、アルミニウム,銅,ニッケル,クロム,すず,鉄,銀,金,白金,パラジウムなどの金属線やその合金、炭素繊維、導電性ポリマー等が用いられるが、特に、アルミニウムや銅の合金と炭素繊維を用いると、半導体の特性を劣化させ難いので都合がよい。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した構成は一例であり、同様の作用を奏するように設計変更可能である。例えば、反射防止膜を設けるなど、公知の太陽電池に関する各種の技術を適用することを妨げるものではない。
(2)前記実施例では、発電層をpn接合によって構成した場合を説明したが、他に、ショットキーバリアのような単層型としてもよいし、pn型やpin型であっても、シリコン,ガリウムヒ素,カドミウムテルライトなど他の材料を使用してもよいし、同一材料であっても単結晶,多結晶,微結晶,アモルファスのいずれとしてもよい。異なる材料の発電層を積層したタンデム型でもよい。タンデム型の場合、太陽光利用波長が異なるため、より高効率発電になる。また、上記例の他、各種のタイプの太陽電池の形態を適用してよい。例えば、タテ糸とヨコ糸が発電層を有するときや、発電層を有する複数の糸を撚るときに、異なる材料の発電糸を使用し太陽光利用波長が異なる発電層が含まれるようにするという具合である。
【0038】
(3)前記実施例では、タテ糸とヨコ糸を織るようにしたが、発電糸を編むようにして生地状にしてもよい。この場合糸は1本となる。その他、織り方,編み方など生地に関する公知の技術をそのまま適用してよい。例えば、生地としての強度を持たせるために、アクリルやポリカーボネート等の電気絶縁性を持つ糸を、タテ糸やヨコ糸に混ぜるという具合である。上述したタテとヨコの方向についても、前記実施例と逆であってもよい。更に、編み方や織り方の目を粗くすることで、太陽光の一部が太陽電池の生地を通過するようになり、例えばビニールハウスなどのビニールとしての用途にも適用可能となる。
(4)前記実施例は、本発明を太陽電池として使用した例であるが、光電変換全般に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、糸に発電層を形成したので、大面積化が可能で生産性に優れた光電変換生地を得ることができ、大面積の太陽電池に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例1を示す図である。
【図2】本発明の実施例2を示す図である。
【図3】本発明の実施例3を示す図である。
【図4】本発明の実施例4を示す図である。
【図5】本発明の実施例5を示す図である。
【図6】本発明の実施例6を示す図である。
【図7】本発明の実施例7を示す図である。
【図8】本発明の実施例8を示す図である。
【図9】本発明の実施例9を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10:太陽電池
20:ヨコ糸
20A:ヨコ糸
20Aa:絶縁体
20Ab:導体層
20B:ヨコ糸
20Ba:空洞
20Bb:導体
20C:ヨコ糸
20Ca:導線
20Cb:メッキ
20D:ヨコ糸
20E:ヨコ糸
22n:n型シリコン層
22p:p型シリコン層
24:発電層
26,40:発電糸
30,50:タテ糸
42:透明電極層
50:タテ糸
52:露出部
100,120,130:低圧−CVD装置
102,104:オリフィス
106:反応室
108:原料ガス
110:真空ポンプ
112,112a〜112d:プラズマ生成コイル
120,130:装置
128:原料ガス
138:原料ガス
200:プラズマ熱分解装置
202:原料
204:タンク
206:熱分解室
208:プラズマ生成コイル
210:プラズマ熱分解装置
210,220:プラズマ熱分解装置
230:電子線熱分解装置
232:タンク
234:電子線照射装置
300:糸
500:発電糸
502n:導体
502p:導体
504n:n型シリコン層
504p:p型シリコン層
506n:n型原糸
506p:p型原糸
508:透明絶縁層
510:発電糸
512:導体
514:発電層
516:透明電極
518:発電原糸
530:発電糸
532:タテ糸
534n:n型シリコン層
534p:p型シリコン層
536:発電層
538:透明電極層
600:発電糸
602:発電層
604:電極層
610:発電糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電層が長手方向に連続して形成されたことを特徴とする発電糸。
【請求項2】
少なくとも表面が導電性を有する電極糸の表面に、長手方向に連続して発電層を形成したことを特徴とする発電糸。
【請求項3】
前記発電層が、p型シリコンとn型シリコンが積層形成されて構成されることを特徴とする請求項2記載の発電糸。
【請求項4】
請求項2又は3記載の発電層の表面に透明電極層を形成したことを特徴とする発電糸。
【請求項5】
前記透明電極層が、透明導電性有機化合物もしくは透明導電性無機化合物で構成されることを特徴とする請求項4記載の発電糸。
【請求項6】
前記透明導電性有機化合物が、ポリアセチレンもしくはポリチオフェン類であることを特徴とする請求項5記載の発電糸。
【請求項7】
前記透明導電性無機化合物が、ITO,SnO,ZnOのいずれかであることを特徴とする請求項5記載の発電糸。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかに記載の発電糸を複数本撚って撚り糸としたことを特徴とする発電糸。
【請求項9】
少なくとも表面が導電性を有する第1の電極糸の表面に第1の半導体層が形成されており、少なくとも表面が導電性を有する第2の電極糸の表面に第2の半導体層が形成されており、第1及び第2の電極糸を撚って撚り糸としたときに、前記第1及び第2の半導体層が接触して発電層を形成することを特徴とする発電糸。
【請求項10】
請求項1又は2記載の発電層が、太陽電池であることを特徴とする発電糸。
【請求項11】
請求項2,4,又は8のいずれかに記載の発電糸と、他の導電性の電極糸を織って織物としたことを特徴とする太陽電池。
【請求項12】
請求項4,8,又は9のいずれかに記載の発電糸を織って織物とするか、もしくは編んで編物としたことを特徴とする太陽電池。
【請求項13】
一部に前記電極糸の露出部を形成した請求項4記載の発電糸と、前記露出部に当接する電極糸と、前記透明電極層に当接する電極糸とを、織って織物としたことを特徴とする太陽電池。
【請求項14】
請求項2又は4の一方もしくは両方の発電糸を、タテ糸及びヨコ糸として織って織物としたときに、タテ糸及びヨコ糸のうちの一方の発電糸の起電力が他方の発電糸の起電力に加算されるように、前記発電糸に発電層を形成したことを特徴とする太陽電池。
【請求項15】
請求項2又は4記載の発電糸を製造する製造方法であって、
前記電極糸を連続的に移送するとともに、移送途中に成膜装置を必要数配置し、これらによって前記発電層もしくは透明電極層を形成することを特徴とする発電糸の製造方法。
【請求項16】
請求項15載の発電糸の製造方法で使用する装置であって、
CVD,プラズマ熱分解,電子線熱分解のいずれかの方法で前記発電層もしくは透明電極層を形成することを特徴とする発電糸の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−200126(P2009−200126A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38063(P2008−38063)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】