説明

白色マーキング可能な樹脂構造体及び白色マーク形成構造体

【課題】 良好なマーキングが可能であり、マーキング後に汚損・損耗等で発色部分の意匠性が低下することがなく、且つ視認性に優れる白色マーキング可能な樹脂構造体を提供する。
【解決手段】 レーザー光線の照射による発泡構造の形成で白発色可能なオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂及びポリアミド系樹脂から選択された少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体と、該樹脂成形体の表面に密着形成された単層又は多層の保護層とで構成されている樹脂構造体であって、前記保護層の全光線透過率が35〜100%であり、且つ保護層のうち少なくとも樹脂成形体に隣接する層がISO527における引張伸度(引張速度50mm/min)30%以上の樹脂で構成されている白色マーキング可能な樹脂構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光線の照射による発泡構造の形成で白色マーキングが可能な樹脂構造体と、白色マーキングが施された白色マーク形成構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インキによる印刷・塗装に替わる技術としてレーザー光線照射による印刷(レーザーマーキング)が普及しているが、被視認性・品質感の向上のために、最近では背景色に対する印字部分のコントラストが高いことが要求されることが多くなっている。しかし、マーキング直後のコントラストが優れていても、経時的にマーキング部分が汚損・摩耗することでコントラストが低下するという問題がある。とりわけ白色マーキングの場合には、発泡層が外部からの圧力で潰れることにより退色したり、発泡層が摩耗で退色したり、凹凸に埃や汚れが付着することなど、マーキング部分のコントラストの経時変化が顕著であるため特に対策が求められてきた。
【0003】
この問題を解決する手段として、マーキング部に直接触れないように保護層を設けることが考えられ、例えばマーキング後にマーキング部をコーティングすることが提案されている(特許文献1参照)。しかし、マーキング後のコーティングは、塗料中の溶剤が印字部に影響を与える可能性があり、必ずしも好ましいとは言えない。また通常マーキング工程は部品組み立て後に実施されることが多いため、さらにその後にコーティングすることは部品へ与える影響が懸念される。
【0004】
一方、樹脂の多層化による保護についても考えられている。一つはマーキング後に多層化する方法であるが、多層化の工程で発色部分が損傷を受けたり、あるいはマーキング材との密着が不十分になることで、マーキング部の視認コントラストが低下する恐れがある。これに対して、多層化してからマーキングという方法も提案されているが、マーキング時に保護層との隙間が発生して文字のコントラストが悪くなったり、あるいは密着が十分であっても発色が不十分になったりすることが問題になる。この原因をマーキング時の発生ガスの影響と考え、ガス透過性の良い材料を保護層に使用し解決を図る試みが提案されている(特許文献2参照)。しかし、マーキング時のガス発生速度と保護層のガス透過速度のバランスから考えると、この提案方法の効果には疑問が残る。
【0005】
以上のことから、印字部分の汚損・摩耗を防止する目的で保護層を設ける場合、特に発泡層を形成して視覚化される場合には、汚損防止性と視認性とを両立させた方法が無いのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2002−127599
【特許文献2】特開2001−1642
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好なマーキングが可能であり、マーキング後に汚損・損耗等で発色部分の意匠性が低下することがなく、且つ視認性に優れる白色マーキング可能な樹脂構造体を提供することにある。
本発明の他の目的は、汚損や摩耗により発色部分の意匠性が低下することがなく、且つ視認性に優れる白色マーク形成構造体とその工業的に効率のよい製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、レーザー光線の照射による発泡構造の形成で白発色可能な特定の熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体と、全光線透過率が特定の範囲で且つ弾性を有する保護層とを組み合わせることで、汚損防止性と視認性とを両立できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、レーザー光線の照射による発泡構造の形成で白発色可能なオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂及びポリアミド系樹脂から選択された少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体と、該樹脂成形体の表面に密着形成された単層又は多層の保護層とで構成されている樹脂構造体であって、前記保護層の全光線透過率が35〜100%であり、且つ保護層のうち少なくとも樹脂成形体に隣接する層がISO527における引張伸度(引張速度50mm/min)30%以上の樹脂で構成されている白色マーキング可能な樹脂構造体を提供する。
【0010】
樹脂成形体と保護層との積層は、二色成形、インサート成形又はインモールド成形によりなされていてもよい。また、保護層が樹脂成形体表面に塗布により形成されていてもよい。
【0011】
本発明は、また、前記の白色マーキング可能な樹脂構造体にレーザー光線を照射して樹脂成形体表面に白色マーキングを施すことを特徴とする白色マーク形成構造体の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、さらに、上記の白色マーキング可能な樹脂構造体の樹脂成形体表面にレーザー光線の照射により白色マーキングが施された白色マーク形成構造体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の白色マーキング可能な樹脂構造体は、マーキング性が良好であり、マーキング後においては汚損・損耗等で発色部分の意匠性が低下することがなく、しかも視認性に優れる。本発明の白色マーク形成成形体は、汚損や摩耗による発色部分の意匠性の低下が無く、しかも視認性に優れる。本発明の白色マーク形成成形体の製造方法によれば、このような優れた特性を有する白色マーク形成構造体を工業的に効率よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の白色マーキング可能な樹脂構造体は、レーザー光線の照射による発泡構造の形成で白発色可能な熱可塑性樹脂(以下、「白発色熱可塑性樹脂」と称する場合がある)からなる樹脂成形体と、該樹脂成形体の表面に密着形成された単層又は多層の保護層とで構成されている。白発色熱可塑性樹脂として、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂及びポリアミド系樹脂から選択された少なくとも1種の熱可塑性樹脂が用いられる。樹脂成形体は前記白発色熱可塑性樹脂のみで構成されていてもよく、前記白発色熱可塑性樹脂と他の樹脂とで構成されていてもよい。樹脂成形体中の前記白発色熱可塑性樹脂(白発色熱可塑性樹脂としてのスチレン系樹脂やアクリル系樹脂がゴム成分を含む場合には、ゴム成分も該白発色熱可塑性樹脂に含める)の含有量は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上であり、樹脂成形体の80重量%以上或いは100重量%が前記白発色熱可塑性樹脂で構成されていてもよい。
【0015】
本発明におけるオレフィン系樹脂は、オレフィンの単独重合体及び共重合体(ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)のいずれであっても良い。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン単独重合体;エチレン−プロピレン共重合体などのプロピレンをモノマー成分として含む共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体などのエチレンをモノマー成分として含む共重合体などが例示される。
【0016】
スチレン系樹脂としてはスチレン系単量体を構成単量体として含む樹脂であればよく、該スチレン系単量体として、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどのビニルトルエン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば、o−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o−ブロモスチレン等)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等)などが挙げられる。これらの中でも、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどが特に好ましい。
【0017】
前記スチレン系樹脂は、スチレン系単量体以外の単量体の構造単位を含んでいてもよい。このような単量体としてはスチレン系単量体と共重合可能な単量体であればよく、例えば、シアン化ビニル系単量体、無水マレイン酸、イミド系単量体などが挙げられる。また、スチレン系樹脂は構成成分としてゴム成分を含んでいてもよい。
【0018】
前記シアン化ビニル系単量体には、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが含まれる。前記イミド系単量体には、例えば、N−アルキルマレイミド(例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド等)、N−シクロアルキルマレイミド(例えば、N−シクロヘキシルマレイミド等)、N−アリールマレイミド[例えば、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド等]などが含まれる。前記ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴムなどが挙げられる。ゴム成分は、ブレンド法、共重合(グラフト共重合、ブロック共重合)などにより前記スチレン系樹脂中に含有させることができる。なお、本明細書では、ゴム成分をブレンド法により樹脂中に含有させたものも便宜上「共重合体」と称する。
【0019】
スチレン系樹脂の代表的な例として、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(AES)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS;ポリスチレンと合成ゴムとのブレンド、又は合成ゴムにスチレンをグラフト重合したポリマー)などが例示される。
【0020】
アクリル系樹脂としてはアクリル系単量体を構成単量体として含む樹脂であればよく、該アクリル系単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとして、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシルなどの(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸ベンジルなどの(メタ)アクリル酸アラルキルエステルなどが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル[特に、(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステル]が好ましい。アクリル系単量体は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0021】
前記アクリル系樹脂は、アクリル系単量体以外の単量体の構造単位を含んでいてもよい。このような単量体としてはアクリル系単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、シアン化ビニル系単量体、スチレン系単量体、無水マレイン酸、イミド系単量体などが挙げられる。これらの単量体(特に、スチレン系単量体)を構成単量体として用いることにより、より低エネルギーのレーザー光線で白色マーキングを可能にするという顕著なマーキング促進効果や、耐衝撃性、成形性の向上効果が得られる。シアン化ビニル系単量体、スチレン系単量体、イミド系単量体としては前記のものが例示される。
【0022】
アクリル系樹脂は構成成分としてゴム成分を含んでいてもよい。ゴム成分を樹脂中に含有させることにより、成形品の耐衝撃性を向上できる。ゴム成分としては前記のものを使用できる。ゴム成分は、ブレンド法、共重合(グラフト共重合、ブロック共重合)などにより前記アクリル系樹脂中に含有させることができる。
【0023】
アクリル系樹脂としては、発色性、色の鮮明性、成形性等の点から、少なくともメタクリル酸メチルを構成単量体として含む重合体が好ましい。
【0024】
好ましいアクリル系樹脂には、(i)(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル(特にメタクリル酸メチル)、アクリロニトリル及びスチレンからなる共重合体、又は(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル(特にメタクリル酸メチル)、アクリロニトリル、スチレン及びゴム成分(例えば、ブタジエン)からなる共重合体、(ii)エチレン、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル(特にメタクリル酸メチル)、及び一酸化炭素からなる共重合体、(iii)ポリメタクリル酸メチル、(iv)メタクリル酸−スチレン共重合体などが含まれる。
【0025】
前記アクリル系樹脂は他の樹脂と組み合わせて使用できる。このような他の樹脂として、例えば、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(AES)などが例示される。これらの中でもスチレン−アクリロニトリル共重合体が特に好ましい。樹脂中にスチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)を含有させることにより、耐熱性、耐光性、耐油性、機械的強度、成形加工性などが向上する。
【0026】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド12、及び共重合体などが挙げられる。
【0027】
前記樹脂成形体は色材を含有しており、有機又は無機の暗色系の染料又は顔料を少なくとも含むことが好ましい。暗色系の染顔料は、レーザー光線(例えば波長354〜1064nm)を吸収し、熱エネルギーに変換して、樹脂を発泡又はクレージングさせて白色マーキングを発現させる作用をする。
【0028】
暗色系染顔料としては、例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)、グラファイト、チタンブラック、黒色酸化鉄などが挙げられる。これらの中でも、分散性、発色性、コスト等の面からカーボンブラックが好ましい。暗色系染顔料は単独で又は2種類以上組み合わせて使用できる。
【0029】
暗色系染顔料の平均粒子径は、例えば10nm〜3μ?、好ましくは10nm〜1μmの広い範囲から適宜選択できる。暗色系染顔料がカーボンブラックの場合には、平均粒子径は、例えば10〜90nm、好ましくは12〜70nm、さらに好ましくは14〜50nm(特に16〜40nm)程度である。暗色系染顔料の粒子径が小さすぎると分散が困難になり、大きすぎるとマーキングが不鮮明になりやすい。
【0030】
暗色系染顔料の使用量は、前記白発色熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば0.0001〜5重量部、好ましくは0.005〜3重量部、さらに好ましくは0.033〜2重量部程度である。暗色系染顔料の量が少なすぎると、レーザー光線の熱への変換効率が低下して発色が不十分になりやすく、逆に多すぎると、マーキングが過度になり黄変色を起こしやすくなる。
【0031】
本発明では、色材として暗色系染顔料以外の染顔料を用いることもできる。このような非暗色系染顔料は無機又は有機の何れであってもよい。非暗色系染顔料として、例えば、白色顔料(例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、リトポンなど)、黄色顔料(例えば、カドミウムイエロー、黄鉛、チタンイエロー、ジンククロメート、黄土、黄色酸化鉄など)、赤色顔料(例えば、赤口顔料、アンバー、赤色酸化鉄、カドミウムレッド、鉛丹など)、青色顔料(例えば、紺青、群青、コバルトブルーなど)、緑色顔料(例えば、クロムグリーンなど)などが挙げられる。非暗色系染顔料は単独又は2種類以上組み合わせて使用できる。
【0032】
これらの中でも、安価であり、隠蔽力、分散性に優れ、極めて鮮明な白色マーキングを可能とする白色染顔料(例えば、酸化チタン)が好ましい。白色染顔料は、レーザー光線を散乱させることで、前記暗色系染顔料によるレーザー光線の吸収効率を向上させて熱への変換効率を高めるため、暗色系染顔料と白色染顔料とを組み合わせて使用すると、極めて白色度の高いマーキングが得られる。また、白色染顔料を含有させることにより、レーザー光線の照射エネルギーを低くしてもマーキングが可能になる。
【0033】
非暗色系染顔料の使用量は、前記白発色熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば2重量部以下(例えば0.0001〜2重量部)、好ましくは1.5重量部以下(例えば0.01〜1.5重量部)である。非暗色系染顔料の量が少なすぎると、レーザー光線の散乱効果が乏しくなり、逆に多すぎると、マーキング色が染顔料の色相を帯びるようになり好ましくない。
【0034】
樹脂成形体中の色材の総量は、前記白発色熱可塑性樹脂100重量部に対して、一般に0.0001〜5重量部、好ましくは0.01〜4重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度である。
【0035】
前記樹脂成形体は高級脂肪酸又はその誘導体を含んでいてもよい。高級脂肪酸又はその誘導体を配合すると、前記カーボンブラック等の色材の分散性がよくなり、発色性が向上する。また高級脂肪酸の誘導体として高級脂肪酸の金属塩を配合すると、レーザー光線の吸収効率が向上し、白色度の高い白色マーキングが得られる。
【0036】
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数12〜30程度の飽和又は不飽和高級脂肪酸が例示される。高級脂肪酸の誘導体には、塩、エステル、アミドなどが含まれる。高級脂肪酸の塩としては、例えば、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸銅、ステアリン酸鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩などが挙げられる。高級脂肪酸のアミドとしては、例えば、エチレンビスステアリルアミド、ラウリン酸アミドなどが例示される。高級脂肪酸又はその誘導体としては、特にステアリン酸又はステアリン酸誘導体(塩、エステル、アミド等)が特に好ましく用いられる。
【0037】
高級脂肪酸又はその誘導体の使用量は、前記白発色熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜3重量部程度である。この使用量が0.01重量部未満では色材の分散性の向上効果が少なく、5重量部を超えると成形時に蒸発・揮散して金型汚染を起こす可能性が高くなる。
【0038】
前記樹脂成形体は、必要に応じて、相溶化剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、安定剤、滑剤、分散剤、添着剤、発泡剤、抗菌剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
樹脂成形体の形状としては、目的、最終製品の種類等に応じて適宜選択でき、例えば、角柱状、円柱状、平板状(プレート状)、シート状等の何れであってもよい。樹脂成形体は、白発色熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形などの慣用の成形法に供することにより製造することができる。
【0040】
本発明における保護層は前記白発色熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体の表面に密着して形成されている。該保護層は単層又は多層の何れであってもよい。保護層のうち少なくとも前記樹脂成形体に隣接し直接密着する層(以下、「密着樹脂層」と称する場合がある)は弾性を有する樹脂層であり、該密着樹脂層は、ISO527における引張伸度(引張速度50mm/min)が30%以上である。前記引張伸度が30%未満の場合には、密着樹脂層が変形しにくいためにマーキング時の発泡層形成が阻害されて印字が不明瞭になる。一方、前記引張伸度が30%以上であれば、密着樹脂層の変形で発泡層形成が十分に成長して明瞭な印字が得られる。一方、保護層が多層構造の場合には白発色熱可塑性樹脂と直接密着しない層(樹脂層等)が存在するが、これについては特に規定するところはなく、製品用途に適した物性の樹脂等を適宜選択できる。
【0041】
保護層の樹脂種としては、単層の場合は、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー;さらにそれら熱可塑性エラストマーにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体等のポリエステル系樹脂、ポリアミド6、6−66共重合ポリアミド、ポリアミド66、6−12共重合ポリアミド、ポリアミド12等のポリアミド系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレ−ト−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロ二トリル−スチレン−ブタジエン共重合体、メチル(メタ)アクリレート−アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の樹脂を混合した組成物が挙げられる。
【0042】
保護層が多層の場合、上記の密着樹脂層に積層する樹脂種として、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体等のポリエステル系樹脂、ポリアミド6、6−66共重合ポリアミド、ポリアミド66、6−12共重合ポリアミド、ポリアミド12等のポリアミド系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロ二トリル−スチレン−ブタジエン共重合体、メチル(メタ)アクリレート−アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の樹脂の1種または2種以上の混合物を使用できる。
【0043】
多層化の方法については、上記樹脂種においてTダイ法またはインフレーション法等により積層一体化する多層共押出法、押出により積層する押出ラミネート法、熱ラミネートする等のラミネート手段、また上記樹脂を溶剤希釈した樹脂液を公知の印刷又は塗工手段によって多層化することが可能である。またさらに層間に粘着層を介して多層化することも可能である。
【0044】
保護層は、該保護層を透過させたレーザー光線で白発色熱可塑性樹脂を印字でき、かつ印字が保護層を通して視認できる程度の透明性が必要である。本発明における保護層(使用時の厚みにおいて)の全光線透過率は35〜100%であり、好ましくは45〜100%、さらに好ましくは50〜100%である。保護層の全光線透過率が35%未満である場合には保護層を通しての印字の視認が困難になる。
【0045】
保護層の厚みとしては、通常5〜5000μm、より好ましくは10〜3000μm、さらに好ましくは20〜2000μmである。保護層の厚みが5μm未満である場合には印字された発泡層構造の保護が不十分になりやすく、5000μmを超える場合は製品が変形する恐れがある。
【0046】
保護層はレーザー光線を吸収・反射して白発色熱可塑性樹脂での発色を阻害しない限り、必要に応じて色材、相溶化剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、安定剤、滑剤、分散剤、添着剤、発泡剤、抗菌剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0047】
保護層を白発色熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体と密着、積層させる方法としては、既存の方法で可能であり、二色成形、インサート成形、インモールド成形、共押出、熱プレス、真空熱プレス、圧空成形、レーザー溶着、振動溶着、熱板溶着などの方法を採用できる。また、溶剤に溶解した樹脂を前記樹脂成形体の表面に塗布・固化して保護層を形成することも可能である。
【0048】
こうして得られる白色マーキング可能な樹脂構造体にレーザー光線を照射することにより、樹脂成形体表面に白色マーキングが施された白色マーク形成構造体が得られる。マーキングに用いるレーザーの種類は特に限定されず、ガスレーザー、半導体レーザー、エキシマレーザー、YAGレーザーなどの何れであってもよいが、YAGレーザーが最も好適に使用される。マーキングの種類は特に限定されず、文字、記号、図柄、絵、写真等の何れであってもよい。
【0049】
白色マーク形成構造体は、例えば、コンピュータのキーボード等のOA機器、自動車部品(ボタン部品等)、家庭用品、建築材料などに利用できる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0051】
実施例1〜26、比較例1〜18
(白発色可能な熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体の作成)
表2〜3に示す各成分をブレンドし、押出加工によりペレットを製造後、このペレットから射出成形により厚さ2mmの樹脂成形体(マーキング発色樹脂平板;120mm×120mm)を作成した。
【0052】
(保護層用樹脂の作成)
表1に示す保護層用樹脂のうち複数成分のものは、ブレンド後に押出加工を行いペレットを製造した。
【0053】
(保護層用樹脂フィルムの作成)
表1に示す保護層用樹脂でフィルムを作成するものは、Tダイ法によって厚み20μmと200μmのフィルムを作成した。なお、加工温度は、エラストマー3が200℃、エラストマー1、2、4、5、6、ASについては230℃であった。
粘着層を持つフィルム(多層フィルム1;実施例26に使用)については、基材層樹脂[LDPE(低密度ポリエチレン);三井化学(株)製、商品名「ミラソン12」]と粘着層樹脂1をTダイ法によって220℃の加工温度で共押出し、厚さ100μmの基材層上に厚さ100μmの粘着層の積層したフィルムを得た。
【0054】
(保護層用樹脂の評価)
(1)引張伸度
表1に示す各保護層用樹脂は、それぞれ射出成形で試験片を作成し、ISO527に準拠して、引張伸度(%)(引張速度50mm/min)を測定した。結果を表1に示す。
(2)全光線透過率
各保護層用樹脂の全光線透過率は、設置する厚みにおいて、ASTM D 1003に準拠し測定した。厚み2mmの保護層は、射出成形で作成した試験片(50×90mm、厚み2mm)をASTM D 1003に準拠して全光線透過率を測定した。Tダイ法で作成したフィルム(厚み20μm、200μm)及び多層フィルム1(LDPEと粘着層との多層フィルム:厚み200μm)のフィルムは、ASTM D 1003に準拠して全光線透過率を測定した。結果を表2〜3に示す。
【0055】
(樹脂成形体と保護層との積層方法)
厚さ4mmの平板(120mm×120mm)の金型内に上記で得られた樹脂成形体[厚さ2mmの平板(120mm×120mm)]を固定し、表1に示す保護層用樹脂を射出成形して、厚さ2mmの保護層を設けた(インサート成形法)。
また、上記で得られた保護層用樹脂フィルム(厚さ20μm又は200μm)を上記の樹脂成形体(厚さ2mm)に熱プレスによって溶着させた。
【0056】
(マーキング方法)
上記で得られた保護層を設けた樹脂成形体に、保護層側からレーザー光線を照射して、樹脂成形体表面(保護層との境界面)に、白色マーキング[10mm角BOX(線間距離75μm)を描写]を施した。レーザーとしてNd:YAGレーザー(波長1064nm)を使用した。照射条件としては、アパーチャーを径2mmに固定し、光源電流値(LC)、振動数(QS)及び印字スピード(SP)を下記の範囲で変化させ、最も明瞭な白色印字が得られる条件でマーキングを実施した。
光源電流値(LC):8〜20A
振動数(QS):1〜10 kHz
印字スピード(SP):100〜1500mm/sec
【0057】
評価試験
実施例及び比較例で得られた各保護層を設けた樹脂成形体について下記の評価試験を行った。結果を表2〜3に示す。なお、比較例8、9、10、17では、保護層と樹脂成形体が密着しなかったので、マーキングを実施しなかった。比較例18では、保護層を通して樹脂成形体が認識できなかったので、マーキング性(発泡層の形成)の評価を不明とした。実施例1〜26、比較例1〜7、11〜16では、保護層と樹脂成形体が密着し、且つ保護層を通して樹脂成形体が認識できたので、マーキング性(発泡層の形成)の評価が可能であった。
【0058】
(1)保護層の密着性
各保護層を設けた樹脂成形体を捻って保護層と樹脂成形体(マーキング層)の間に空隙が発生するか否かを目視で確認した。空隙が発生したものを×、空隙の発生しなかったものを○と判定した。
【0059】
(2)マーキング性(発泡層の形成)
各保護層を設けた樹脂成形体にレーザーマーキングを施した後、樹脂成形体表面に形状が正しく印字されているか否かを目視で確認した。樹脂成形体表面に、デザインどおりに印字されている場合を○、印字が一部不十分である場合を△、全く印字されない場合を×と判定した。
【0060】
(実施例及び比較例で使用した成分)
・樹脂成分
ポリアミド(PA6):商品名「A1030BRL」、ユニチカ(株)製
AS及びABS
AS:スチレン(St)76重量%、アクリロニトリル(AN)24重量%からなる共重合体、220℃/10kg条件でのMI=32g/10分
ABS−1:St45重量%、AN15重量%、ブタジエン(Bd)40重量%からなる共重合体、MEK(メチルエチルケトン)30℃のη粘度0.47
ABS−2:St40重量%、AN15重量%、Bd40重量%、メタクリル酸(MA)5重量%からなる共重合体、MEK30℃のη粘度0.67
MMA−AN−ST−Bd共重合体:St22重量%、AN11重量%、メタクリル酸メチル(MMA)58重量%及びBd9重量%からなる共重合体(220℃/10kg条件でのMI=18g/10分)、ゴム平均粒子径250μm
PMMA:ポリメチルメタクリレート、商品名「アクリペットVH001」、三菱レイヨン(株)製
SEBS:無水マレイン酸変性SEBS、商品名「タフテックM1943」、旭化成ケミカルズ(株)製
MIP:スチレン−N−フェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体(スチレン47重量%、N−フェニルマレイミド51重量%、無水マレイン酸2重量%、重量平均分子量145,000、ガラス転移温度(Tg):196℃、MFR(265℃×10kg):2.1g/10min)
PP:ポリプロピレン、商品名「サンアロマーPMB60A」、サンアロマー(株)製
LLDPE:線状低密度ポリエチレン、商品名「ウルトゼックス 3021F」、(株)プライムポリマー製
【0061】
・エラストマー
エラストマー1:ポリエーテルエステルアミドエラストマー(PEEA)、商品名「ペレスタットNC6321」、三洋化成工業(株)製
エラストマー2:ポリエステル系熱可塑性エラストマー、商品名「プリマロイA1606C」、三菱化学(株)製
エラストマー3:ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU EL)、商品名「エラストランS95A」、BASFジャパン(株)製
エラストマー4:オレフィン系熱可塑性エラストマー、商品名「ゼラスMC717」、三菱化学(株)製
エラストマー5:下記の原料をブレンド後に2軸押出機にてペレットを作製した。
MMA−AN−ST−Bd共重合体 100重量部
(St22重量%、AN11重量%、MMA58重量%及びBd9重量%からなる共重合体(220℃/10kg条件でのMI=18g/10分)、ゴム平均粒子径250μm)
PMMA 5重量部
(商品名「アクリペットVH001」、三菱レイヨン(株)製)
酸変性PMMA 10重量部
(商品名「デルペット980N」、旭化成(株))
ポリエーテルエステルアミド(PEEA) 35重量部
(商品名「ペレスタットNC6321」、三洋化成(株)製)
【0062】
・粘着成分
下記の原料をブレンド後に二軸押出機にて ペレットを作製した。
SEBS 100重量部
(商品名「タフテックH1052」、旭化成ケミカルズ(株)製)
テルペン樹脂 20重量部
(商品名「クリアロンP125」、ヤスハラケミカル(株)製)
【0063】
・他の成分
酸化防止剤1:商品名「IRGANOX 1010FF」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製
酸化防止剤2:商品名「Sumilizer TPS」、住友化学工業(株)製
ミネラルオイル:商品名「クリストール70」、エッソ石油(株)製
カーボンブラック(CB):市販品、平均粒径17nm
二酸化チタン(TiO2):市販品、平均粒径0.18μm
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光線の照射による発泡構造の形成で白発色可能なオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂及びポリアミド系樹脂から選択された少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体と、該樹脂成形体の表面に密着形成された単層又は多層の保護層とで構成されている樹脂構造体であって、前記保護層の全光線透過率が35〜100%であり、且つ保護層のうち少なくとも樹脂成形体に隣接する層がISO527における引張伸度(引張速度50mm/min)30%以上の樹脂で構成されている白色マーキング可能な樹脂構造体。
【請求項2】
樹脂成形体と保護層との積層が二色成形、インサート成形又はインモールド成形によりなされている請求項1記載の白色マーキング可能な樹脂構造体。
【請求項3】
保護層が樹脂成形体表面に塗布により形成されている請求項1又は2の何れかの項に記載の白色マーキング可能な樹脂構造体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかの項に記載の白色マーキング可能な樹脂構造体にレーザー光線を照射して樹脂成形体表面に白色マーキングを施すことを特徴とする白色マーク形成構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの項に記載の白色マーキング可能な樹脂構造体の樹脂成形体表面にレーザー光線の照射により白色マーキングが施された白色マーク形成構造体。

【公開番号】特開2008−230140(P2008−230140A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75295(P2007−75295)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】