説明

白色導電性粉末

【課題】 アンチモン等の有害成分を含有せずに、特定の導電性、および優れた白色度を有し、かつ環境汚染等を生じる虞がなく、環境への負担が少ない白色導電性粉末を提供する。さらに本発明は、粉体体積抵抗値の経時変化が少ない白色導電性粉末も提供する。
【解決手段】 白色無機粉末表面に、酸化錫の導電層を有する白色導電性粉末であって、(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)が2.0〜5.0であり、かつ粉体体積抵抗値が100〜100000Ω・cmであることを特徴とする、白色導電性粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチモン等を含有せずに導電性を有し、優れた白色度を有する白色粉末に関する。より詳しくは、本発明は、白色無機粉末表面に導電層を有する白色導電性粉末であって、アンチモン等の有害成分を含有せずに導電性及び優れた白色度を有し、環境汚染等を生じる虞のない白色導電性粉末に関する。本発明の白色導電性粉末は、帯電防止、帯電制御、静電防止、防塵等の機能が必要な分野に用いられ、さらに詳しくは、帯電防止フィルムや繊維の分野、ICパッケージやテープの分野、インキ、帯電防止塗料や静電塗装材料の分野等に応用される。
【背景技術】
【0002】
導電粉末は帯電防止・帯電制御・静電防止・防塵等の用途に現在広く用いられている。従来、導電性を高めるために、アンチモン等をドープした導電粉末が使用されているが、近時、環境汚染防止等の観点から、アンチモンフリーの導電材料が求められている。
【0003】
具体的には、白色度の損なわれない改良された白色導電性粉末として、酸化アンチモンをドープした酸化錫導電層を有する白色顔料において、被覆層にさらに、リン、アルミニウム、モリブデンの少なくとも1種を酸化物として少量含有させたものが開示されている(特許文献1、2)。
【0004】
また、二酸化チタン粒子表面に、リンを0.1〜10重量%含む酸化スズの被覆層を有するアンチモンを含有しない白色導電性二酸化チタン粉末(特許文献3)や、タングステン、ニオブ、タンタル、アンチモン、フッ素及びリンのいずれか1種の元素を含む二酸化スズの被覆層を有する白色導電粉、ならびにこの白色導電粉の電子写真用トナー外添剤への応用(特許文献4)が開示されている。
【0005】
しかしながら、酸化アンチモンをドープした酸化錫導電層を有する白色顔料は、アンチモンの含有により、導電性は安定しているものの、顔料が、黒みまたは青みを帯びており、白色度が十分ではない。また、リンを0.1〜10重量%含む酸化スズの被覆層を有する白色導電性二酸化チタン粉末は、導電性が高過ぎることにより、例えば、静電気的な用途に用いると、いわゆるESD障害(静電気放電障害)が発生し、さらに安定性、特に、粉体体積抵抗値の経時変化にも問題があった。タングステン等を含む二酸化スズの被覆層を有する白色導電粉も、導電性が高過ぎることによる上記の不具合、安定性が十分でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−183708号公報
【特許文献2】特開平6−183733号公報
【特許文献3】特開平6−207118号公報
【特許文献4】特開2004−349167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、白色無機粉末表面に導電層を有する白色導電性粉末であって、特定の〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕の値を有する白色導電粉末を開発し、この白色導電粉末が、従来の導電粉末における上記問題を解決できることを見出した。本発明は、アンチモン等の有害成分を含有せずに、特定の導電性、および優れた白色度を有し、かつ環境汚染等を生じる虞がなく、環境への負担が少ない白色導電性粉末を提供する。さらに本発明は、粉体体積抵抗値の経時変化が少ない白色導電性粉末も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決した白色導電性粉末に関する。
(1)白色無機粉末表面に、酸化錫の導電層を有する白色導電性粉末であって、〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕が2.0〜5.0であり、かつ粉体体積抵抗値が100〜100000Ω・cmであることを特徴とする、白色導電性粉末。
(2)白色導電性粉末のLab表色系におけるb値が、−5.0〜+2.0である、上記(1)記載の白色導電性粉末。
(3)白色無機粉末100質量部に対して、導電層が10〜50質量部である、上記(1)または(2)記載の白色導電性粉末。
(4)初期の粉体体積抵抗値を(Y)とし、100℃、相対湿度:50%で10時間保持後の粉体体積抵抗値を(Z)としたとき、〔(Y)/(Z)〕が、0.1〜1.0である、上記(1)〜(3)のいずれか記載の白色導電性粉末。
(5)酸化錫中のAl、Si、MgおよびZnが、それぞれ1質量%未満である、上記(1)〜(4)のいずれか記載の白色導電性粉末。
(6)白色無機粉末が、酸化チタンおよびチタン酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である、上記(1)〜(5)のいずれか記載の白色導電性粉末。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか記載の白色導電性粉末を分散してなる、分散液。
(8)上記(1)〜(6)のいずれか記載の白色導電性粉末を含有する、膜組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明(1)の白色導電性粉末は、上記アンチモン等のドープ成分を含まずに特定の導電性、および優れた白色度を有し、アンチモン、インジウムを何れも含まないので、製造が容易であり、環境汚染を生じる懸念がなく、かつ低コストである。また、この白色導電性粉末は、水や有機溶剤等の溶媒に分散可能であるので、分散液、さらには塗料等の導電材料として用いることができ、表面抵抗が低い樹脂被膜が、容易に得られる。さらに、帯電防止、帯電制御、静電防止、防塵等の機能が必要な分野に用いられ、詳しくは、帯電防止フィルムや繊維の分野、ICパッケージやテープの分野、インキ、帯電防止塗料や静電塗装材料の分野等における導電材料として好適に使用される。また、本発明(4)の白色導電性粉末は、粉体体積抵抗値の経時変化が少なく、導電材料としてより好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
【0011】
〔白色導電性粉末〕
本発明の白色導電性粉末は、白色無機粉末表面に、酸化錫の導電層を有する白色導電性粉末であって、〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕が2.0〜5.0であり、かつ粉体体積抵抗値が100〜100000Ω・cmであることを特徴とする。
【0012】
白色無機粉末は、酸化チタン、またはチタン酸カリウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩であると、白色度、隠蔽性の観点から好ましい。白色無機粉末は、メジアン径が0.01〜0.5μmのものが好ましい。メジアン径が0.01μm以下であると、白色無機粉末および/または白色導電性粉末の凝集の問題が生じる、白色度を損なう、多量の導電層用材料(すなわち、酸化錫)を必要とするため、コスト高になる、等の問題がある。メジアン径が0.5μm以上であると、分散時沈降等の問題が生じ易くなる。なお、白色無機粉末が、チタン酸カリウムのときは、線維径0.01〜1.0μm、繊維長さ5〜25μmのものが好ましい。ここで、メジアン径は、レーザー回折/散乱法で測定する。また、白色無機粉末の形状としては、球状、針状等が挙げられる。なお、上記メジアン径は、いわゆる一次粒子径であるが、いわゆる二次粒子径は、1〜30μmであると、導電層被覆状態の観点から好ましい。ここで、二次粒子径は、電子顕微鏡(SEM)観察により行う。
【0013】
白色無機粉末が、酸化チタンであるときには、酸化チタンの結晶形は、特に限定するわけではないがルチル型が好ましい。アナターゼ型やブルッカイト型では表面に導電層を、共沈法等により析出、または形成し難いので工夫が必要である。
【0014】
酸化錫の導電層は、白色導電性粉末に導電性を付与する。酸化錫は、その一部がSnO1.2〜2.0の構造に還元されていると、導電性、白色度の点から、好ましい。また、酸化錫は、P、F、Cl等でドープされていると、還元されている酸化錫の導電性等を安定化させることができ、より好ましい。
【0015】
酸化錫中のAl、Si、MgおよびZnは、それぞれ1質量%未満であると好ましく、1質量%以上であると、白色無機粉末上への導電層の均一なコーティングができず、白色導電性粉末に良好な導電性が得られなくなる。ここで、酸化錫は、SnOとして換算し、Sn、Al、Si、MgおよびZnの定量は、ICP分析法により行う。
【0016】
また、〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕は、2.0〜5.0である。〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕が、2.0未満であると白色無機粉末表面への酸化錫のコーティングが十分でなくなり、粉末体積抵抗値の経時変化等の不具合が生じ易くなる。他方、〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕が、5.0より大きいと、白色導電性粉末を溶媒等に分散するときに、過剰な酸化錫が、溶媒等の中に遊離し易くなる。本発明の白色導電性粉末は、後述する白色無機粉末に均一処理を施した後、導電層をコーティングすることにより、〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕を、2.0〜5.0にすることができる。ここで、比表面積は、BET法で測定する。
【0017】
白色無機粉末100質量部に対して、導電層が10〜50質量部であると好ましい。導電層が、1質量部未満であると、均一にコーティングされない。一方、導電層が50質量部より多いと、白色無機粉末にコーティングされない遊離した酸化錫が生じやすくなる。なお、白色無機粉末が、酸化チタンであるとき、酸化チタンは光触媒活性を有するので、酸化チタン表面のOH基を導電層でコーティングしてOH基を覆い、白色導電性粉末とともに使用される樹脂の分解を抑制する観点から、導電層が20〜50質量部であると、より好ましく、25〜50質量部であると、さらに好ましい。
【0018】
本発明の白色導電性粉末は、粉体体積抵抗値が100〜100000Ω・cmであり、好ましくは500〜50000Ω・cm、より好ましくは500〜10000Ω・cmである。粉体体積抵抗値が、100Ω・cm未満であると、例えば、静電気的に用いる場合、ESD障害が起こる不具合が生じる。粉体体積抵抗値が、100Ω・cm以上であると、ESD障害を起こさず、帯電の抑制(すなわち、帯電防止)をすることができ、帯電を速やかに拡散することができる(すなわち、静電気拡散性がよい)という良好かつ安定な特性が得られる。一方、粉体体積抵抗値が、100000Ω・cmより高いであると、導電性が不十分である。ここで、粉体体積抵抗値は、試料粉末を圧力容器に入れて100MPaで圧縮し、この圧粉をデジタルマルチメーターによって測定する。
【0019】
また、白色導電性粉末の初期の粉体体積抵抗値を(Y)とし、100℃、相対湿度:50%で10時間保持後の粉体体積抵抗値を(Z)としたとき、〔(Y)/(Z)〕が、0.1〜1.0であると、好ましい。この範囲内であると、導電性の経時安定性が良好であり、使用環境や季節による導電性の変化が少ない材料として使用することができる。ここで、「相対湿度」とは、所定の温度で大気中に含まれる水蒸気の量(質量絶対湿度)を、その温度の飽和水蒸気量(質量絶対湿度)で割ったもの(単位:%)をいう。
【0020】
また、本発明の白色導電性粉末は、粉末の色調が、白色度の観点から、Lab表色系におけるb値が、−5.0〜+2.0であるものが好ましく、−2.0〜+1.5であると、より好ましい。b値が、−5.0より小さいと、粉末の青味が強くなり、b値が、+2.0より大きいと、黄味が強くなり、優れた白色導電性粉末とはいえなくなる。また、本発明の白色導電性粉末は、粉末の色調が、Lab表色系におけるL値が、L値が70以上であると好ましく、80以上であると、より好ましい。ここで、白色導電性粉末のb値、およびL値は、例えば、スガ試験機社製装置(型番:SM−7-IS−2B)を用いて測定する。
【0021】
本発明の白色導電性粉末の粒径は、特に限定されないが、0.01〜1μmが好ましい。ここで、粒径は、レーザー回折/散乱法で測定するメジアン径をいう。白色導電性粉末の形状は、粒状、薄片状、繊維状が好ましい。
【0022】
本発明の白色導電性粉末は、酸化錫層にアンチモン、インジウムを何れも含まないので環境汚染を生じる懸念がない。また、アンチモン、インジウムを含まないので低コストである。なお、本発明において、アンチモン、およびインジウムを含まないとは、原料および工程中でアンチモン、およびインジウム源を使用せず、従って検出限界500ppmの標準的な測定装置によってこれらの元素が検出されないことをいう。
【0023】
本発明の白色導電性粉末は、上記アンチモン等のドープ成分を含まずに高い導電性を有しており、適度な導電性と、良好な白色度を有するので、安全な導電材料として広く用いることができる。具体的には、例えば、帯電防止、帯電制御、静電防止、防塵等の機能が必要な分野に用いられ、詳しくは、帯電防止フィルムや繊維の分野、ICパッケージやテープの分野、インキ、帯電防止塗料や静電塗装材料の分野等における導電材料として好適に使用される。
【0024】
〔製造方法〕
以下に、本発明の白色導電性粉末の製造方法の一例を説明する。本発明の白色導電性粉末は、例えば、白色無機粉末の表面上に、共沈法により水酸化錫化合物を析出させ、この水酸化錫化合物を乾燥し、不活性ガス雰囲気下で焼成して、製造することができる。
【0025】
白色無機粉末については、上記のとおりである。この白色無機粉末を、溶液中に添加し、スラリーとした後、均一処理を行う。均一処理は、白色無機粉末の単分散を目的として行い、具体的には、均一処理は、白色無機粉末の微細化、または分散剤による均一分散により行う。白色無機粉末の微細化のときには、導電層被覆後の白色導電性粉末も微細化され、単位体積当たりの白色導電性粉末同士の接触面(もしくは接触点)が多くなるため、抵抗が大きくなる。また、分散剤を使用するときには、分散剤により、白色無機粉末表面への導電層の被覆性が極端に低下し、もしくは導電層の被覆が偏在し、良好な導電性が得られない。このように、一般に、白色無機粉末に、均一処理を施した後、導電層をコーティングすると、白色導電性粉末の導電性が高くならないため、高導電性の白色導電性粉末の作製方法として均一処理は適切でない、と考えられている。しかし、本発明の特定の導電性、および優れた白色度、さらには優れた経時変化を有する白色導電性粉末を製造するためには、均一処理が白色導電性粉末に顕著な効果を与える。白色無機粉末が酸化チタンである場合の例を示すと、均一処理は、所定濃度(例えば、スラリーに対して、10〜30質量%の酸化チタンを含む)の酸化チタンスラリーに、酸化チタン質量に対し、0.01〜0.1質量%の無機分散剤、もしくは0.2〜2.0質量%の有機分散剤、またはそれらの混合物を投入し、ビーズミル等を用いてスラリーを分散し、酸化チタンを単分散する。ここで、無機分散剤としては、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸等が、有機分散剤としては、ルーブリゾール社のソルスパースシリーズ、ビックケミー社のBYKシリーズ等が挙げられる。分散度は、レーザー回折/散乱法によるメジアン径の測定と、SEM観察にて確認する。なお、予め、白色無機粉末を湿式処理する前に、乾式法で解砕や粉砕しておいてもよい。
【0026】
水酸化錫化合物の原料としては、塩化錫などのハロゲン化錫、酸化錫、水酸化錫或いは、錫の硫酸塩、硝酸錫などの錫の無機酸塩(第一錫塩、第二錫塩)などが挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。第一錫塩としては、フッ化第一錫、塩化第一錫、ホウフッ化第一錫、硫酸第一錫、酸化第一錫、硝酸第一錫、ピロリン酸錫、スルファミン酸錫、亜錫酸塩などの無機系の塩、アルカノールスルホン酸第一錫、スルホコハク酸第一錫、脂肪族カルボン酸第一錫などの有機系の塩などが挙げられ、第二錫塩としては、上記第一錫塩のそれぞれの第二錫塩が挙げられるが、気体であるもの、難溶性のものなどがあるので、水酸化錫化合物の原料としては、液体である塩化第二錫または塩化第一錫を用いるのが一般的であり、中でも塩化第二錫または塩化第一錫の塩酸水溶液を用いるのが、工業的にも望ましい。水酸化錫化合物は、原料を共沈させることにより得ることができ、この共沈の方法は、加水分解等の当業者に公知の方法でよい。具体的には、塩化錫の塩酸水溶液をアルカリ中に滴下することによる共沈により得られる。
【0027】
溶液としては、上記第二錫塩や第一錫塩を溶解可能なものであればよく、水、アルコール等が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。なお、溶液に水を用いる場合には、第二錫塩や第一錫塩を溶解した後、第二錫塩や第一錫塩が自発的に加水分解を始める前に、共沈させることが好ましい。
【0028】
次に、得られた水酸化錫化合物に、通常の洗浄、乾燥、粉砕等の処理を行う。
【0029】
焼成の温度は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で、300℃以上800℃以下が好ましく、400℃以上700℃以下が特に好ましい。300℃以上であると、酸化第二錫の生成、酸化第二錫への酸素欠損の形成ができ、800℃以下であると目的の導電性が得られる。また、熱処理時間は、10分以上150分以下が好ましく、20分以上120分以下が特に好ましい。10分以上150分以下であると導電性が良好である。
【0030】
この熱処理の温度は、100℃以上300℃以下が好ましく、150℃以上250℃以下が特に好ましい。100℃以上であると、酸化第二錫の生成、酸化第二錫への酸素欠損の形成ができ、300℃以下であると導電性が良好となる。また、熱処理時間は、10分以上150分以下が好ましく、20分以上120分以下が特に好ましい。10分以上150分以下であると、導電性が高くなる。なお、熱処理は、焼成と同時に行うこともできる。
【0031】
また、酸化錫の導電層は、フッ素を含むと導電性、及び導電性の安定性の観点から好ましい。この場合には、焼成前の水酸化錫化合物が、フッ素処理されていることが好ましく、湿式により、水酸化錫化合物にフッ素源を含有させることもできる。
【0032】
フッ素源としては、フッ化アンモニウム、ケイフッ化アンモニウム、フッ化水素酸アンモニウム、フッ化スズ、フッ化スズ酸、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化ホウ素、フッ化臭素等を用いることができる。
【0033】
具体的には、水酸化錫化合物の原料の一部に、錫を含有するフッ素源を用いる方法、水酸化錫化合物を生成するとき、フッ素源を含有させておく方法等が挙げられる。
【0034】
また、水酸化錫化合物を、フッ素処理することもできる。このフッ素処理は、湿式で行うことが、より好ましい。
【0035】
具体的には、例えば、水酸化錫化合物にフッ素源を添加し、水酸化錫化合物中のスズ成分とフッ素源を水溶液中で混合し、接触させることによって、スズ成分の表面に、フッ素を均一に付着させることができる。
【0036】
また、水酸化錫化合物を焼成した後、更にフッ素処理することもできる。このフッ素処理は、焼成前の水酸化錫化合物のフッ素処理と同様に行うことができる。
【0037】
ここで、フッ素処理としては、これらの湿式処理の後、熱処理する方法が、好ましい。この熱処理の温度は、300〜550℃であると、フッ素を十分に拡散することができる点から好ましい。さらに、熱処理の際に、窒素ガスや、水素もしくは水蒸気を含んだ不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)を流すことで、更にフッ素処理の反応が進行し、好ましい。
【0038】
フッ素のドープ量は、フッ素源の添加量、熱処理温度および熱処理時間等を調整して制御することができるので、粉体体積抵抗値を特定の範囲にした白色導電性粉末を製造することができる。一例としては、フッ素の添加量は、SnOに対して、Fとして0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%、より好ましくは、0.1〜0.2質量%であり、少な過ぎると所望の導電性が得られず、多過ぎると酸化錫の結晶性が悪くなり、所望の導電性が得られない。
【0039】
他方、酸化錫の導電層は、リンを含むと導電性、及び導電性の安定性の観点から好ましい。水酸化錫化合物にリンを含有させる方法としては、例えば、水酸化錫化合物の原料として、リンを含む化合物を用いる方法、あるいは、予め、リンの原料を、水酸化錫の原料を含有する溶液に溶解しておき、水酸化錫の形成と同時に導電層を形成する方法、水酸化錫の被膜を形成した後に、リンの原料を添加する方法等がある。水酸化錫の被覆をより均一に形成するには、後者の方がより好ましい。
【0040】
リンの原料としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸およびこれらのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を使用することができる。
【0041】
リンの添加量は、SnOに対して、Pとして0.1〜20質量%、好ましくは1〜5質量%であり、少な過ぎると所望の導電性が得られず、多過ぎると酸化錫の結晶性が悪くなり、所望の導電性が得られない。かかる量のリンを添加することにより、無添加のものに比べ、粉体体積抵抗を1/10〜1/20程度低くすることができる場合がある。
【0042】
〔用途〕
【0043】
本発明の白色導電性粉末は、溶媒に分散させて、分散液として使用することができる。ここで、溶媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。
【0044】
上記分散液の固形分濃度は、質量基準で1〜70%、好ましくは10〜50%で、分散液のpHは4〜12、好ましくは5〜10である。ここで、固形分には、白色導電性粉末、無機及び有機分散剤が含まれる。
【0045】
上記分散液に、樹脂を添加し、塗料として利用することができる。分散液を塗料化に供すると、塗料化時の分散エネルギーや、白色導電性粉末製造工程における脱水、乾燥エネルギーの軽減を図る上で、好ましい。ここで、樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、塩ビ−酢ビ樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル−スチレン共重合体、繊維素樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、石油樹脂、セラック、ロジン誘導体、ゴム誘導体などの天然系樹脂などが挙げられる。
【0046】
白色導電性粉末の樹脂への配合量は、樹脂100質量部に対して20〜400質量部、好ましくは100〜300質量部である。
【0047】
塗料を導電性用途に使用する場合には、塗料をプラスチック成形体、紙や高分子フィルムなどの絶縁性基体に塗布することにより、基体上に表面平滑性や密着性に優れた導電性の膜組成物を形成させる。
【0048】
本発明の白色導電性粉末は、帯電防止、帯電制御、静電防止、防塵等の機能が必要な分野に用いられ、詳しくは、帯電防止フィルムや繊維の分野、ICパッケージやテープの分野、インキ、帯電防止塗料や静電塗装材料の分野等における導電材料として好適に使用される。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例において、粉体体積抵抗値は、横河電機製測定装置(DM−7561)を用い、試料5gを10MPaに加圧し、加圧時の抵抗値(R)と試料の厚み(H)を測定し、式:R(Ω)×S(電極面積:cm)/H(試料厚み:cm)に基づいて求めた。粉体のb値、L値は、スガ試験機社製装置(SM−7−IS−2B)を用いて測定した。実施例および比較例において、粉体体積抵抗値は、試料粉末を圧力容器に入れて10MPaで圧縮し、この圧粉をデジタルマルチメーター(横河電機製品:型式7561−02)によって測定した。粉末のb値、L値は、スガ試験機社製装置(型番:SM−7-IS−2B)を用いて測定した。
【0050】
〔実施例1〕
水:500cmに、市販の平均1次粒子径約0.21μmの二酸化チタン粉末:100gとヘキサメタリン酸1gを加え、ビーズミルで分散した。分散中は使用する酸化チタンの等電点を避けたpH(pH=9〜11)を保持した。分散後のスラリーをSEMで観察したところ、およそ単分散していることが確認できた。また、分散後のスラリーをレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、型番:LA−950)でメジアン径を測定したところ、0.21μmであった。このスラリーを95℃に加温した。この分散液に、酸化錫換算で25gとなるように塩化錫水溶液を加え、加水分解反応により二酸化チタン表面に錫の水酸化物の結晶を析出させた。この湿式処理した粉末を取り出して、洗浄し、乾燥した。上記湿式処理で加えた塩化錫は、実質的に全量が加水分解され、粉末表面に水酸化第二錫化合物(X線回折ではSnOパターンを示す水酸化第二錫)が析出していた。この乾燥粉末:20gを、石英管状炉に入れ、昇温速度10℃/分で昇温し、温度を700±50℃の範囲で制御しながら2時間、窒素雰囲気中にて焼成した。冷却後の白色導電性粉末の〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕(以下、「〔X/B〕」という)は3.1、粉体体積抵抗値は3.1E+04Ω・cmであった。ここで、3.1E+04は、3.1×10+04を示す。以下、同様である。この白色導電粉についての〔(Y)/(Z)〕は0.7、b値は0.2であった。表1に、結果を示す。なお、表1の「Al、Si、Mg、Zn」は、塩化錫水溶液中で添加され、酸化錫換算したときの、酸化錫中での含有量を示す。
【0051】
〔実施例2〕
二酸化チタン粉末:100質量部に対して、酸化錫:50質量部として湿式処理した粉末を作製し、焼成温度を800±50℃の範囲で制御しながら1時間焼成したこと以外は、実施例1と同条件にして、白色導電性粉末を作製した。冷却後の白色導電性粉末の〔X/B〕は3.5、粉体体積抵抗値は2.5E+03Ω・cmであった。この白色導電性粉末についての〔(Y)/(Z)〕は0.5、b値は0.1であった。表1に、結果を示す。
【0052】
〔実施例3〕
水500cmに、市販の平均1次粒子径約0.07μmの二酸化チタン粉末100gとヘキサメタリン酸1.8gを加え、ビーズミルで分散した。分散中は使用する酸化チタンの等電点を避けたpH(pH=9〜10)を保持した。分散後のスラリーをSEMで観察したところ、およそ単分散していることが確認できた。また、分散後のスラリーをレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、型番:LA−950)でメジアン径を測定したところ、0.07μmであった。このスラリーを95℃に加温した。この分散液に、酸化錫換算で25gとなるように塩化錫水溶液を加え、加水分解反応により二酸化チタン表面に水酸化物の結晶を析出させた。この湿式処理した粉末を取り出して洗浄し、乾燥した。上記湿式処理で加えた塩化錫は、実質的に全量が加水分解され、粉末表面に水酸化第二錫化合物(X線回折ではSnO2パターンを示す水酸化第二錫)が析出していた。この乾燥粉末20gを石英管状炉に入れ、昇温速度10℃/分で昇温し、温度を600±50℃の範囲で制御しながら3時間、窒素雰囲気中にて焼成した。冷却後の白色導電粉の〔X/B〕は2.8、粉体体積抵抗値は、9.4E+04Ω・cmであった。この白色導電粉についての〔(Y)/(Z)〕は0.6、b値は0であった。表1に、結果を示す。
【0053】
〔実施例4〕
水500ccに、市販の平均1次粒子径約0.15μmのチタン酸バリウム粉末100gとヘキサメタリン酸1.4gを加え、ビーズミルで分散した。分散中は使用する酸化チタンの等電点を避けたpH(pH=9〜10)を保持した。分散後のスラリーをSEMで観察したところ、およそ単分散していることが確認できた。また、分散後のスラリーをレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、型番:LA−950)でメジアン径を測定したところ、0.15μmであった。このスラリーを95℃に加温した。この分散液に、酸化錫換算で25gとなるように塩化錫水溶液を加え、加水分解反応により二酸化チタン表面に水酸化物の結晶を析出させた。この湿式処理した粉末を取り出して洗浄し、乾燥した。上記湿式処理で加えた塩化錫は、実質的に全量が加水分解され、粉末表面に水酸化第二錫化合物(X線回折ではSnOパターンを示す水酸化第二錫)が析出していた。この乾燥粉末20gを石英管状炉に入れ、昇温速度10℃/分で昇温し、温度を850±50℃の範囲で制御しながら1時間、窒素雰囲気中にて焼成した。冷却後の白色導電粉の〔X/B〕は2.3、粉体体積抵抗値は5.0E+02Ω・cmであった。この白色導電粉についての〔(Y)/(Z)〕は1.0、b値は−1.3、であった。表1に、結果を示す。
【0054】
〔実施例5〕
加水分解反応による酸化チタン表面へ析出する酸化錫重量に対し、Pが1質量%となるように塩化錫水溶液にリン酸を加えたこと以外は、実施例1と同条件にして、白色導電性粉末を作製した。冷却後の白色導電性粉末の〔X/B〕は3.8、粉体体積抵抗値は8.8E+02Ω・cmであった。この白色導電性粉末についての〔(Y)/(Z)〕は0.9、b値は0.1であった。表1に、結果を示す。
【0055】
〔実施例6〕
加水分解反応による酸化チタン表面へ析出する酸化錫重量に対し、Fが0.1質量%となるように塩化錫水溶液にフッ化第一錫を加えたこと以外は、実施例1と同条件にして、白色導電性粉末を作製した。冷却後の白色導電性粉末の〔X/B〕は3.7、粉体体積抵抗値は1.2E+02Ω・cmであった。この白色導電性粉末についての〔(Y)/(Z)〕は0.9、b値は1.1であった。表1に、結果を示す。
【0056】
〔比較例1〕
実施例1の二酸化チタン100質量部に対して、導電層を100質量部にした以外は、同条件にして、行った。冷却後の白色導電粉の〔X/B〕は5.5、粉体体積抵抗値は5.0E+01Ω・cmであった。この白色導電粉について〔(Y)/(Z)〕は0.08、b値は2.0であった。表1に、結果を示す。
【0057】
〔比較例2〕
実施例3の導電層中にAl(塩化アルミニウムで添加)を1.2質量%含有させた以外は、同条件にして、行った。冷却後の白色導電粉の〔X/B〕は1.5、粉体体積抵抗値は4.1E+07Ω・cmであった。この白色導電粉についての〔(Y)/(Z)〕は0.5、b値は−0.7であった。表1に、結果を示す。
【0058】
〔比較例3〕
実施例3の均一化処理を行わない以外は、同条件にして、行った。冷却後の白色導電粉の〔X/B〕は1.7、粉体体積抵抗値は6.0E+02Ω・cmであった。この白色導電粉についての〔(Y)/(Z)〕は0.02、b値は−0.3であった。表1に、結果を示す。
【0059】
〔比較例4〕
加水分解反応による酸化チタン表面へ析出する酸化錫重量に対し、Fが0.5質量%となるように塩化錫水溶液にフッ化第一錫を加えたこと以外は、実施例1と同条件にして、白色導電性粉末を作製した。冷却後の白色導電性粉末の〔X/B〕は4.2、粉体体積抵抗値は2.0E+01Ω・cmであった。この白色導電性粉末についての〔(Y)/(Z)〕は1.0、b値は0.0であった。表1に、結果を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、実施例1〜6は、X/Bが2.3〜3.8であり、粉体体積抵抗値も120〜94000Ω・cmと所望の範囲であった。b値も−1.3〜0.2と白色度も良好で、〔(Y)/(Z)〕も0.5〜1.0と経時変化も少なく、全てにおいて良好な結果であった。これに対して、導電層の量が100質量部であり、X/Bが5.5と高い比較例1は、粉体体積抵抗が低く、〔(Y)/(Z)〕も0.08と低く、経時変化も悪い結果であった。また、X/Bが低い比較例2は、粉体体積抵抗値が高かった。均一処理をせず、X/Bが低い比較例3は、〔(Y)/(Z)〕が0.02と大変低かった。導電層にFを0.5質量%含有する比較例4は、粉体体積抵抗値が低かった。
【0062】
本発明は、実施例1〜6に示したように、アンチモン等の有害成分を含有せずに、特定の導電性、優れた白色度を有し、環境汚染等を生じる虞がなく、環境への負担が少ない上に、粉体体積抵抗値の経時変化に優れた導電性酸化錫粉末を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色無機粉末表面に、酸化錫の導電層を有する白色導電性粉末であって、〔(白色導電性粉末の比表面積)/(白色無機粉末の比表面積)〕が2.0〜5.0であり、かつ粉体体積抵抗値が100〜100000Ω・cmであることを特徴とする、白色導電性粉末。
【請求項2】
白色導電性粉末のLab表色系におけるb値が、−5.0〜+2.0である、請求項1記載の白色導電性粉末。
【請求項3】
白色無機粉末100質量部に対して、導電層が10〜50質量部である、請求項1または2記載の白色導電性粉末。
【請求項4】
初期の粉体体積抵抗値を(Y)とし、100℃、相対湿度:50%で10時間保持後の粉体体積抵抗値を(Z)としたとき、〔(Y)/(Z)〕が、0.1〜1.0である、請求項1〜3のいずれか1項記載の白色導電性粉末。
【請求項5】
酸化錫中のAl、Si、MgおよびZnが、それぞれ1質量%未満である、請求項1〜4のいずれか1項記載の白色導電性粉末。
【請求項6】
白色無機粉末が、酸化チタンおよびチタン酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1〜5のいずれか1項記載の白色導電性粉末。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の白色導電性粉末を分散してなる、分散液。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の白色導電性粉末を含有する、膜組成物。

【公開番号】特開2011−54508(P2011−54508A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204328(P2009−204328)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】