説明

白色発光装置のための演色性改善方法および白色発光装置

【課題】白色光の成分となる青色光の発生源として青色蛍光体を用いて色温度の高い白色光を発生させる白色発光装置のための、青色に関する演色性改善方法を提供すること。
【解決手段】白色光は、半導体発光素子により励起される青色蛍光体からの発光を成分に含むとともに、そのスペクトルの青色波長域にピーク波長Λ(nm)を有している。青色蛍光体は、発光ピーク波長がλ(nm)、発光強度が波長λより長波長側において波長λにおける値の半分となる波長がλ+Δλ(nm)である。λ<Λ<490となるように、下記(A)に規定する第1蛍光体により青色蛍光体からの発光の一部を吸収させる。(A)第1蛍光体は、その励起スペクトルの強度が、波長λ−Δλからλまでの範囲内ではλにおける強度の90%以上であり、かつ、波長λからλ+Δλにかけてλにおける強度の半分未満となるまで減少している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子を励起源として備える白色発光ダイオード(白色LED)などの白色発光装置、とりわけ、白色光の成分となる青色光の発生源として青色蛍光体を用いて、色温度の高い白色光を発生させる白色発光装置のための、演色性改善方法に関する。本発明は、また、演色性の改善された白色光を生成する白色発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)素子を用いたLEDランプ、とりわけ、発光ダイオード素子と蛍光体とを組み合わせて白色光を放出するように構成してなる白色LEDの用途が、近年、飛躍的に広がっている。従来、白色LEDの主な用途は携帯電話用液晶パネルのバックライトであったが、輝度の改善に伴い、一般照明用途における実用化が本格化しつつある。
【0003】
よく知られているように、照明装置の重要な評価項目は演色性である。
白色LEDの中でも相関色温度の高いもの(4500K以上)においては、高性能な窒化物系の赤色蛍光体が開発されたことによって、演色性のよい白色光が得られるようになったといわれている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−63233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された実験例が示すように、相関色温度の高い白色LEDにおいては、青色の見え方を示す特殊演色評価数R12が低くなる傾向がある。さらに、注目すべきは、波長390nmの紫外光を用いて青色、緑色、橙色および赤色の4種類の蛍光体を含む混合物を発光させたときでさえ、いわゆる昼白色の光については特殊演色評価数R12が90を超えるものが得られていないことである。
【0006】
相関色温度の高い白色LEDにおいて特殊演色評価数R12を改善するには、青色光の発生源に用いる半導体発光素子または青色蛍光体の発光ピークを長波長化すること(特に、470nm以上とすること)が有効であると記載する特許文献がある(特開2007−191680号公報)
【0007】
空間的な色調の均一性(spatial color uniformity)の高さが要求される照明用の白色LEDにおいては、LED素子は専ら蛍光体の励起源として使用し、蛍光体により三原色光(RGB)を発生させる方式を採用することが望ましい。この方式の白色LEDでは、InGaN系の紫色発光素子(発光ピーク波長395nm〜435nm)を励起源として好適に用いることができる。InGaN系LED素子の発光効率は、発光ピーク波長を395nm〜450nmの範囲内としたとき最大となるからである(G. Chen, et al., phys. stat. sol. (a) 205, No.5, 1086-1092(2008))。
【0008】
波長395nm以上の光で励起できる高性能な青色蛍光体の多くは、発光ピーク波長を460nm未満に有している。このような青色蛍光体を用いることにより、発光輝度の良好な照明用の白色LEDを得ることができる一方、上記のように、昼白色光またはそれより色温度の高い白色光を発生させる場合には、特殊演色評価数R12が90を超えるもの
を得ることが難しくなる。
【0009】
本発明はこの問題を解決しようとしてなされたものであり、白色光の成分となる青色光の発生源として青色蛍光体を用いて色温度の高い白色光を発生させる白色発光装置のための、青色に関する演色性改善方法を提供することを、主たる目的とする。本発明は、また、青色に関する演色性の改善された色温度の高い白色光を発生させる、白色発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において「青色蛍光体」とは、発光ピーク波長を360nm以上435nm以下の範囲に有する半導体発光素子で励起したとき、波長440nm以上490nm以下の範囲内に主発光ピーク波長を有する青色光を放出する蛍光体をいう。青色光は、CIE色度図(特公昭48−22117号公報の第2図参照)にいう「紫がかった青色」、「青色」、「緑色を帯びた青色」または「青緑色」に該当する色調の光を含む。
本発明において「青色波長域」とは、波長440nm以上490nm以下の波長領域をいう。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によれば、次の方法が提供される:
相関色温度4500K以上の白色光を放出する白色発光装置のための演色性改善方法であって、
前記白色光は、半導体発光素子により励起される青色蛍光体からの発光を成分に含むとともに、そのスペクトルの青色波長域にピーク波長Λ(nm)を有しており、
前記青色蛍光体は、発光ピーク波長がλ(nm)、発光強度が波長λより長波長側において波長λにおける値の半分となる波長がλ+Δλ(nm)であり、
λ<Λ<490となるように、下記(A)に規定する第1蛍光体により前記青色蛍光体からの発光の一部を吸収させる、方法。
(A)第1蛍光体は、波長λの光を吸収して異なる波長の可視光に変換することができ、その励起スペクトルの強度が、波長λ−Δλからλまでの範囲内ではλにおける強度の90%以上であり、かつ、波長λからλ+Δλにかけてλにおける強度の半分未満となるまで減少している。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、次の白色発光装置が提供される:
相関色温度4500K以上の白色光を放出する白色発光装置であって、
前記白色光は、半導体発光素子により励起される青色蛍光体からの発光を成分に含むとともに、そのスペクトルの青色波長域にピーク波長Λ(nm)を有しており、
前記青色蛍光体は、発光ピーク波長がλ(nm)、発光強度が波長λより長波長側において波長λにおける値の半分となる波長がλ+Δλ(nm)であり、
前記青色蛍光体からの発光の一部を吸収するように下記(A)に規定する第1蛍光体が配置されており、
λ<Λ<490である、白色発光装置。
(A)第1蛍光体は、波長λの範囲の光を吸収して異なる波長の可視光に変換することができ、その励起スペクトルの強度が、波長λ−Δλからλまでの範囲内ではλにおける強度の90%以上であり、かつ、波長λからλ+Δλにかけてλにおける強度の半分未満となるまで減少している。
【0013】
上記方法または装置においては、青色蛍光体が放出する光のスペクトルを、一種の光学的フィルターを用いて変形させる。それによって、青色蛍光体の発光波長そのものが長波長化されたときと同様の作用が発生して、該青色蛍光体の発光を成分に含む白色光の、青色に関する演色性改善が生じる。
【0014】
上記方法または装置の主要な特徴は、上記光学的フィルターの機能を担う物質として、波長変換物質である「第1蛍光体」を用いていることである。第1蛍光体が吸収した青色光は、異なる色の可視光に変換され、白色発光装置の出力光の一部として用いられる。そのため、この第1蛍光体が奏するフィルター作用に伴う損失は、吸収した光を全て熱に変換するタイプの光学的フィルターを用いた場合の損失に比べて小さいものとなる。
【0015】
上記方法または装置のもうひとつの主要な特徴は、第1蛍光体の励起特性に関する上記(A)の限定である。
上記(A)の限定において、λおよびΔλは、青色蛍光体単独の発光スペクトル測定から求められる数値である。すなわち、λは青色蛍光体の発光ピーク波長である。また、Δλは、青色蛍光体の発光強度が波長λより長波長側において波長λにおける強度の半分となる波長を、λ+Δλとすることにより、定義される。この発光スペクトル測定に用いる励起波長は、白色発光装置で励起源として用いる半導体発光素子の発光ピーク波長をλ(nm)したとき、λ±10(nm)の範囲内の波長であればよい。
【0016】
上記(A)の限定を充たす第1蛍光体は、青色蛍光体が放出する光のうち、λより短波長の成分を、λより長波長の成分に比べて、著しく強く吸収する性質を持つ。従って、十分な量の第1蛍光体が存在すれば、その吸収により青色蛍光体の発光スペクトルが、あたかも発光ピークが長波長化したかのように変形する。4500K以上という高い相関色温度を有する白色光を放出する発光装置においては、それによって、特殊演色評価数R12の改善がもたらされる。このような青色蛍光体の発光スペクトルの変形が生じるとき、白色発光装置の出力光(白色光)のスペクトルが青色波長域に有するピークの波長Λは、λよりも長波長となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る上記方法によれば、青色に関する演色性の良好な白色光を生成する白色発光装置を得ることができる。
また、本発明に係る上記白色発光装置は、青色に関する演色性が良好な白色光を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る白色LEDの断面構造である。
【図2】実施例1で使用した蛍光体BSSの励起スペクトルである。
【図3】本発明の実施形態に係る白色LEDの発光スペクトルである。
【図4】本発明の実施形態に係る白色LEDの発光スペクトルである。
【図5】実施例3で使用した蛍光体BSONの励起スペクトルである。
【図6】本発明の実施形態に係る白色LEDの発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明にいう白色発光装置は、半導体発光素子を蛍光体の励起源として備え、蛍光体が放出するルミネッセント光を成分として白色光を生成する構成を備えた、あらゆる発光装置を包含する。
【0020】
半導体発光素子には、LEDの他に、LD(レーザダイオード)なども含まれる。発光素子の主要部分を構成する半導体の種類に限定はなく、窒化ガリウム系半導体や酸化亜鉛系半導体など、蛍光体の励起に適した短波長光を発生可能な半導体が好ましく例示される。半導体発光素子は、砲弾型パッケージ、SMD型パッケージなどのパッケージに固定してもよいし、チップ・オン・ボード型の発光装置の例のように基板上に直接固定してもよい。
【0021】
半導体発光素子と蛍光体との光学的な結合の形態に限定はなく、両者の間は単に透明な媒体(空気を含む)で充たされているだけであってもよいし、あるいは、レンズ、光ファイバ、導光板などの光学素子が両者の間に介在していてもよい。
【0022】
蛍光体は粒子状として供されるものを好ましく用い得る他、蛍光体相を含有する発光セラミックの形態で供されるものを用いることもできる。粒子状として供される蛍光体は、透明マトリックス中に分散させて用いることができる他、電気泳動法やエアロゾル・デボジション法により何らかの表面上に層状に堆積された形態としたうえで使用することもできる。
【0023】
白色発光装置の典型例は白色LEDである。最も一般的な白色LEDでは、砲弾型、SMD型などのパッケージにLEDチップが実装され、そのLEDチップの表面を覆う透光性の樹脂コーティング中に粒子状の蛍光体が添加される。白色LEDを部品として含む照明装置(室内灯、屋外灯、懐中電灯、ヘッドライトなどを含む)も、本発明にいう白色発光装置の範疇に入る。
【0024】
演色性という特性は、照明用の発光装置において評価される項目である。照明用の白色光の相関色温度は、2500K〜8000Kの範囲に設定されるのが普通である。本発明は、相関色温度が4500K以上8000K以下の白色光を生成する白色発光装置に好ましく適用することができ、特に、昼白色または昼光色と分類される色温度の白色光を放出する発光装置に好ましく適用することができる。
【0025】
図1に、本発明の一実施形態に係る白色LEDの断面構造を示す。この図に示す白色LED1はSMD(表面実装)型LEDであり、パッケージ10に設けられたキャビティ(カップ状部分)の底面上に、InGaN系LEDチップ20が接着剤(図示せず)を用いて固定されている。
【0026】
パッケージ10は、セラミック(アルミナ、AlNなど)、白色樹脂(シリコーン樹脂などの透明樹脂に白色顔料を分散させた組成物)などで形成された絶縁基板11と、二つのパッケージ電極12と、金属または白色材料(セラミックまたは樹脂)で形成されたリフレクタ13とから構成されている。この図では絶縁基板11とリフレクタ13とを別個の部材のように示しているが、これらは同一材料を用いて一体的に形成することもできる。
【0027】
InGaN系LEDチップ20は、サファイア、SiC、GaNなどからなる結晶基板21と、その上に形成された窒化ガリウム系半導体膜22とを有している。窒化ガリウム系半導体膜22は、InGaN活性層と、これを挟むp型およびn型の窒化ガリウム系半導体層からなる積層構造(図示せず)を有しており、p型半導体層上に正電極23が、部分的に露出したn型半導体層上に負電極24が形成されている。好ましくは、結晶基板21の下面に金属または誘電体からなる反射膜25を形成する。正電極23および負電極24は、Au、Al、Cuなどからなるボンディングワイヤ30により、2つのパッケージ電極12のそれぞれに接続されている。
【0028】
InGaN系LEDチップ20は透光性のコーティング40により覆われている。コーティング40の表面はモールド成形などの方法で凸面や凹凸面とすることも可能である。コーティング40のベース材料は透明な樹脂またはガラスであり、その中でも好ましいのは、ケイ素含有化合物からなるものである。
【0029】
ケイ素含有化合物とは、分子中にケイ素原子を有する化合物をいい、例えば、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系材料)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケ
イ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、透明性、接着性、ハンドリングの容易さ、機械的・熱的応力の緩和特性に優れる等の点から、シリコーン系材料が好ましい。シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、その硬化機構に応じて、縮合型、付加型、ゾルゲル型、光硬化型などの種類がある。
【0030】
コーティング40の内部には、粒子状の青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体が分散されている(蛍光体は図示せず)。これらの蛍光体に加えて、あるいは、緑色蛍光体に代えて、黄色蛍光体を分散させることもできる。各蛍光体はコーティング40の内部全体に一様に分散させることができる。一例では、コーティング40を多層構造化し、蛍光体を含有する層と含有しない層とを設けてもよく、あるいは、層毎に含有する蛍光体の種類および/または量を異ならしめることもできる。
【0031】
青色蛍光体が十分に励起されるよう、InGaN系LEDチップ20の発光ピーク波長は360nm以上435nmとされる。LED素子の発光効率も考慮すると、InGaN系LEDチップ20の発光ピーク波長は好ましくは395nm以上435nm以下、より好ましくは405nm以上430nm以下である。更に、LEDチップの発光ピーク波長を420nm以下とすると、LEDチップから出る光の視感度が十分に低くなるので、白色LED1が放出する光の空間的な色調の均一性が特に良好となる。
【0032】
コーティング40に添加して使用することができる青色蛍光体を表1に例示する。使用する青色蛍光体の発光ピークの半値幅が大きいほど、Λとλの差を大きくすることができる、すなわち、上記機構による青色の演色性(R12)の改善効果が顕著に現れる。具体的には、発光ピークの半値幅が50nm以上、特に、60nm以上の青色蛍光体を用いた場合である。
発光ピークの半値幅が比較的大きいにもかかわらず、良好な発光効率を有する青色蛍光体の典型例は、Eu付活アルミン酸塩系蛍光体、とりわけ、BAMと呼ばれる(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Euである。
【0033】
【表1】

【0034】
コーティング40の内部に青色蛍光体とともに分散される、青色以外の蛍光体の少なくとも一部は、前記(A)の規定を充たす蛍光体、即ち、「第1蛍光体」に該当する蛍光体である。青色蛍光体の発光特性にもよるが、一般的には、前記(A)の規定を充たし得る
蛍光体は、440nmから500nmまでの波長範囲内に、励起スペクトルの強度が波長とともに急激に低下する波長領域を有する蛍光体である。
【0035】
従って、Eu付活アルカリ土類シリケート系蛍光体、Eu付活アルカリ土類ハロシリケート系蛍光体およびEu付活BSON系蛍光体が、「第1蛍光体」の候補として好ましく例示される。
【0036】
Eu付活アルカリ土類シリケート系蛍光体は、一般式(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Euで表されるものである。特開2006−124422号公報には、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムから選ばれる一種以上のアルカリ土類金属のシリケート(ケイ酸塩)を母体とするEu付活アルカリ金属土類シリケート系の蛍光体の製造例が開示されており、その図4、図6および図7によれば、発光色を緑色、黄色または黄緑色とした場合に、440nmから500nmまでの波長範囲内に励起スペクトルの強度が波長とともに急激に低下する波長領域を含むものが得られている。
【0037】
特開2006−111829号公報には、Eu付活アルカリ土類金属シリケート系の黄色蛍光体である(Sr0.915La0.06Eu0.0252SiO4および(Sr0.915Ba0.06
0.0252SiO4の製造例および励起スペクトル(図2)が開示されている。励起スペ
クトルには、440nmから500nmまでの波長範囲内に、波長とともに強度が急激に低下する波長領域が含まれている。
【0038】
Eu付活アルカリ土類ハロシリケート系蛍光体については、例えば、特表2003−535478号公報、および、特表2009−517525号公報を参照することができる。特表2003−535478号公報には、Ca−Mg−クロロシリケート骨格を有する緑色蛍光体CaMg(SiOCl:Euの製造例と励起スペクトル(図1)が開示されている。
特表2009−517525号公報には、緑色蛍光体(Ca,Sr)SiOCl:Euの製造例と励起スペクトル(図5)、および、緑色蛍光体(Ca,Sr)Mg(SiOCl:Euの製造例と励起スペクトル(図7)が、開示されている。
いずれの励起スペクトルも、440nmから500nmまでの波長範囲内に、波長とともに強度が急激に低下する波長領域を含んでいる。
【0039】
Eu付活BSON系蛍光体は、特開2008−138156号公報に開示された発明に係る蛍光体であり、典型的には、同文献中で定義される「BSON相」を含む複合酸窒化物系蛍光体である。Eu付活BSON系蛍光体の好ましい化学組成の具体例は、特開2008−138156号公報の段落[0056]を参照されたいが、一例を挙げれば、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si:Eu、(Ba,Sr,Ca)Si12:Eu、(Ba,Sr,Ca)Si:Euなどがある。
【0040】
特開2008−138156号公報には、Ba1.88Eu0.12Siという仕込み組成を用いたEu付活BSON系緑色蛍光体の合成例と、その励起スペクトル(図43)が開示されている。
WO2009/017206号公報には、Euの添加量を種々変化させたBa−Si−複合酸窒化物骨格を有するEu付活BSON系緑色蛍光体の合成例と、励起スペクトル(図6)が開示されている。また、緑色蛍光体Ba2.7(Pr0.063Eu0.9370.3Si12の合成例と励起スペクトル(図27)が開示されている。
これらの例のいずれにおいても、励起スペクトルには、440nmから500nmまでの波長範囲内に、波長とともに強度が急激に低下する波長領域が含まれている。
【0041】
上記の蛍光体の他に、Mn付活フッ化物錯体系蛍光体もまた「第1蛍光体」の候補とし
て挙げられる。この蛍光体は、アルカリ金属、アミンまたはアルカリ土類金属のフッ化物錯体塩を母体結晶とする赤色蛍光体である。母体結晶を形成するフッ化物錯体には、配位中心が3価金属(B、Al、Ga、In、Y、Sc、ランタノイド)のもの、4価金属(Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Re、Hf)のもの、5価金属(V、P、Nb、Ta)のものがあり、その周りに配位するフッ素原子の数は5〜7である。具体例としては、A[MF]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、NHから選ばれる一種以上;MはGe、Si、Sn、Ti、Zrから選ばれる一種以上)、E[MF]:Mn(EはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる一種以上;MはGe、Si、Sn、Ti、Zrから選ばれる一種以上)、Ba0.65、Zr0.352.70:Mn、A[ZrF]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、NHから選ばれる一種以上)、A[MF]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、NHから選ばれる一種以上;MはAl、Ga、Inから選ばれる一種以上)、A[MF]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、NHから選ばれる一種以上;MはAl、Ga、Inから選ばれる一種以上)、Zn[MF]:Mn(MはAl、Ga、Inから選ばれる一種以上)、A[In]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、NHから選ばれる一種以上)などが挙げられる。
【0042】
米国特許第3576756号公報の図1に開示されたKTiF:Mnの励起スペクトル、および、特表2009−528429号公報の図11に開示されたKAlF:Mnの励起スペクトルから分かるように、Mn付活フッ化物錯体系蛍光体は、440nmから500nmまでの波長範囲内に、励起スペクトルの強度が波長とともに急激に低下する波長領域を有している。
【0043】
「第1蛍光体」の作用により、白色LED1の出力光(白色光)のスペクトルが青色波長域に有するピークの波長Λは、青色蛍光体単独の発光ピーク波長λよりも長波長となる。以下では、このΛとλとの差(Λ−λ)を「青領域の波長シフト」と呼ぶことにする。
青領域の波長シフトは青色蛍光体の発光の一部を「第1蛍光体」が吸収することにより生じるので、コーティング40に含まれる青色蛍光体と「第1蛍光体」の量的比率を変えることにより制御することが可能である。
【0044】
白色LED1の出力光の特殊演色評価数R12(青色に関する演色性の指標)の改善度を高めるために、青領域の波長シフトは、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。ただし、Λが490nmを超えると演色性の低下が生じる恐れがあることに注意すべきである。青領域の波長シフト後のΛは、好ましくは460nm以上、より好ましくは470nm以上である。
白色LED1の色温度を調整するために、「第1蛍光体」の他に、緑色蛍光体、橙色蛍光体、赤色蛍光体等をコーティング40に適宜含有等させることが可能である。
【0045】
[実験例1]
シリコーン樹脂を主成分とする透明なバインダに、Eu付活アルミン酸塩系青色蛍光体BaMgAl1017:Eu(略称:BAM)と、Eu付活アルカリ土類シリケート系緑色蛍光体(Ba,Sr)SiO:Eu(略称:BSS)と、Eu付活酸窒化物系赤色蛍光体(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu(略称:CASON)とを、表2に示す配合量で混合することにより、蛍光体ペーストを作製した。
【0046】
【表2】

【0047】
上記蛍光体ペーストに使用したBAMは、励起波長400nmにて発光スペクトルを測定したとき、発光ピークの波長λが455nm、半値幅が53nmであった。また、波長λより長波長側において、発光強度が波長λにおける値の半分となる波長λ+Δλは、487nmであった。よって、Δλは32nmと計算される。
一方、上記蛍光体ペーストに使用したBSSについて測定した励起スペクトルにおいては、波長455nm(λ)における強度を100%としたとき、波長423nm(λ−Δλ)と波長455nmの間での強度は100%〜112%であり、また、波長487nm(λ+Δλ)における強度は45%であった。波長455nmから487nmにかけて、励起スペクトルの強度は単調減少していた。使用した蛍光体BSSの励起スペクトルを図2に示す。
【0048】
次に、サファイア基板を用いて形成された350μm角、発光ピーク波長403nmのInGaN系LEDチップをSMD型パッケージに実装し、実装したLEDチップの表面を上記蛍光体ペーストで被覆した。続いて、加熱処理を行うことにより蛍光体ペーストを硬化させ、白色LEDを得た。
【0049】
得られた白色LEDに対し、LEDチップ1個あたり36mAの電流を印加したときの発光特性を調べた。CIE色度座標値、相関色温度、平均演色評価数Ra、特殊演色評価数R12についての評価結果を表3に示す。発光スペクトルは図3に示す通りであり、青色領域に存在する発光ピークの波長Λは468nmであった。
【0050】
【表3】

【0051】
[実験例2]
蛍光体ペーストに添加する蛍光体の全量に対する重量比率で表したとき、BAMについては2%の減量、BSSおよびCASONについてはそれぞれ1%ずつの増量を行ったこ
と、加えて、発光ピーク波長410nmのInGaN系LEDチップを用いたことの他は、実験例1と同様にして、白色LEDを作製し、発光特性を調べた。CIE色度座標値、相関色温度、Ra(平均演色評価数)、R12(特殊演色評価数)についての評価結果を表3に示す。発光スペクトルは図4に示す通りであり、青色領域に存在する発光ピークの波長Λは478nmであった。
【0052】
[実験例3]
BSSに代えてEu付活BSON系緑色蛍光体(略称:BSON)を用いるとともに、バインダと各蛍光体の配合量を表2に示す通りとした他は、実験例1と同様にして蛍光体ペーストを作製した。
蛍光体ペーストに使用したBSONについて測定した励起スペクトルにおいては、波長455nm(λ)における強度を100%としたとき、波長423nm(λ−Δλ)と波長455nmの間での強度は100%〜115%であり、また、波長487nm(λ+Δλ)における強度は42%であった。波長455nmから487nmにかけて、励起スペクトルの強度は単調に減少していた。使用した蛍光体BSONの励起スペクトルを図5に示す。
【0053】
蛍光体ペーストを上記の通り変更した他は実験例1と同様にして、白色LEDを作製し、発光特性を調べた。CIE色度座標値、相関色温度、平均演色評価数Ra、特殊演色評価数R12についての評価結果を表3に示す。発光スペクトルは図6に示す通りであり、青色領域に存在する発光ピークの波長Λは468nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相関色温度4500K以上の白色光を放出する白色発光装置のための演色性改善方法であって、
前記白色光は、半導体発光素子により励起される青色蛍光体からの発光を成分に含むとともに、そのスペクトルの青色波長域にピーク波長Λ(nm)を有しており、
前記青色蛍光体は、発光ピーク波長がλ(nm)、発光強度が波長λより長波長側において波長λにおける値の半分となる波長がλ+Δλ(nm)であり、
λ<Λ<490となるように、下記(A)に規定する第1蛍光体により前記青色蛍光体からの発光の一部を吸収させる、方法。
(A)第1蛍光体は、波長λの光を吸収して異なる波長の可視光に変換することができ、その励起スペクトルの強度が、波長λ−Δλからλまでの範囲内ではλにおける強度の90%以上であり、かつ、波長λからλ+Δλにかけてλにおける強度の半分未満となるまで減少している。
【請求項2】
Λ−λ≧5である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
λ<460、460<Λである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
470<Λである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1蛍光体が、Eu付活アルカリ土類シリケート系、Eu付活アルカリ土類ハロシリケート系、Eu付活BSON系蛍光体またはMn付活フッ化物錯体系の蛍光体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記青色蛍光体の発光ピークの半値幅が50nm以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記青色蛍光体がEu付活アルミン酸塩系の青色蛍光体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
相関色温度4500K以上の白色光を放出する白色発光装置であって、
前記白色光は、半導体発光素子により励起される青色蛍光体からの発光を成分に含むとともに、そのスペクトルの青色波長域にピーク波長Λ(nm)を有しており、
前記青色蛍光体は、発光ピーク波長がλ(nm)、発光強度が波長λより長波長側において波長λにおける値の半分となる波長がλ+Δλ(nm)であり、
前記青色蛍光体からの発光の一部を吸収するように配置された、下記(A)に規定する第1蛍光体を備え、
λ<Λ<490である、装置。
(A)第1蛍光体は、波長λの光を吸収して異なる波長の可視光に変換することができ、その励起スペクトルの強度が、λ−Δλからλまでの波長範囲内ではλにおける強度の90%以上であり、かつ、波長λからλ+Δλにかけてλにおける強度の半分未満となるまで減少している。
【請求項9】
Λ−λ≧5である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
λ<460、460<Λである、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
470<Λである、請求項9または10に記載の装置。
【請求項12】
前記第1蛍光体が、Eu付活アルカリ土類シリケート系、Eu付活アルカリ土類ハロシリ
ケート系、Eu付活BSON系蛍光体またはMn付活フッ化物錯体系の蛍光体である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記青色蛍光体の発光ピークの半値幅が50nm以上である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記青色蛍光体がEu付活アルミン酸塩系の青色蛍光体である、請求項13に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−71333(P2011−71333A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221286(P2009−221286)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】