説明

皮膚のバリア機能を改善するためのCERTの発現を刺激する活性薬剤をスクリーニングするための方法

本発明は、バリア機能の非病的な障害に起因する皮膚の兆候の予防または抑制を目的とする活性薬剤をスクリーニングするための方法であって、培養されたヒトケラチノサイト中でのセラミド輸送タンパク質CERTの発現を刺激する活性薬剤を選択することを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア機能の非病的な障害に起因する皮膚の兆候の予防または抑制を目的とする活性薬剤をスクリーニングするための方法であって、培養されたヒトケラチノサイト中でのセラミド輸送タンパク質CERTの発現を刺激する活性薬剤を選択することを含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、主に3つの層、すなわち、最上部の層から始めて、表皮、真皮および下皮から成る。
【0003】
表皮は特に、ケラチノサイト(大部分)、メラノサイト(皮膚の着色に関与する)およびランゲルハンス細胞から成る。その機能は、外的環境から身体を保護することおよびその完全性を保証すること、特に、微生物または化学物質の浸透を停止させること、皮膚中に含有されている水分の蒸発を妨げることおよび外的攻撃に対する、特に紫外線(UV)に対するバリアを構成することである。
【0004】
そのためには、ケラチノサイトは、増殖、次いで、連続的な定方向の成熟のプロセスを経る。そのプロセスの間に、表皮の基底層に位置するケラチノサイトは、その分化の最終段階で、タンパク質および表皮性のセラミドなどの脂質から成る角質の鞘の形の全く角質化した死細胞である、角質細胞を形成する。この分化プロセスの間、角質細胞間表皮脂質も形成され、次いで角質層中で二重層(ラメラ)の形で組織化され、この表皮脂質は上述の角質の鞘と共に、表皮のバリア機能に関与する。
【0005】
角質層の脂質の内容は、約50%のセラミド、25%のコレステロール、および15%の遊離脂肪酸から成る。表皮性のセラミドは、小胞体(ER)中で始まる、反応の複雑な多段階カスケードにおいて、ケラチノサイトによって合成される。セラミドは、小胞輸送かまたは非小胞輸送のどちらかを通じてERからゴルジ体に輸送されて、スフィンゴミエリンにさらに改変される。非小胞輸送は、主要な機構である。次いで、スフィンゴミエリンは、層状体へ輸送され、ケラチノサイトから排出されて、最終分化の際に、さらに角質層中でプロセッシングされて表皮性のセラミドの一部となり、次いでそれは水分喪失に対する透過性バリアに役立つ層状の膜構造に組み込まれる(Y. Uchidaら、Journal of Lipid Research、41巻、2071-2082, 2000)。
【0006】
しかしながら、表皮のバリア機能は、いくつかの気候条件下(例えば寒さおよび/または風の効果下)またはストレスもしくは疲労の効果下で撹乱され、それにより、特に、アレルゲン、刺激物質または微生物の浸透が促進される可能性がある。これらの外的要因は、皮膚の乾燥(皮膚が透過性を失い、脱水状態になり、表皮からの水分喪失が増加する)、および熱感または発赤の感覚、ならびに肌の輝きおよび皮膚の柔軟性を損なうことにもつながる可能性がある。皮膚バリアの障害はまた、微少なひび割れ(microchapping)または微小亀裂の出現を促進する可能性がある。
【0007】
その上、増殖および分化プロセスが損なわれたことにより不完全に形成されたバリアは、UV放射またはいかなる他の種類の外的攻撃に対しても皮膚を保護しない。次いで、皮膚に浸透する紫外線はフリーラジカルを生成する可能性があり、フリーラジカルは、様々な標的に対して有害な影響を与える、例えば、コラゲナーゼおよびエラスターゼを活性化する可能性があり、これらはそれぞれコラーゲンおよびエラスチンを分解し、それにより皮膚の弾力性および堅さの低減ならびにしわの形成の原因となる。
【0008】
この現象を阻止または補正するために、皮膚に存在する水分を吸収し、したがってその蒸発を遅らせることを目的とする、糖またはポリオールなどの吸湿剤を含有する化粧料組成物を皮膚に適用することは既知の慣行である。従来、水分の蒸発を遅らせるのに寄与する、閉塞性の薄膜が皮膚に形成されるのを可能にする、脂肪性の物質も使用されている。さらに、これらの組成物には、皮膚ターンオーバープロセス、特にケラチノサイト分化、表皮脂質合成、および角質細胞接着か、皮膚の天然保湿因子(NMF)構成物の内因性の合成、特にプロテオグリカンの合成のどちらかに関与する、様々な生物学的標的の1つまたは複数に対して作用する活性薬剤が組み込まれることが多い。
【0009】
かかる活性薬剤の例は、特にα−およびβ−ヒドロキシ酸、特に乳酸、グリコール酸およびサリチル酸;尿素;ならびにアミノスルホン化合物である。
【0010】
皮膚に、6−ヒドロキシ−4−スフィンゲニンなどの、スフィンガニンおよびスフィンゴシン塩基から選択されるセラミドの合成経路の中間体、または前駆体を適用することによって皮膚バリア機能を改善することも既知の慣行である(FR−2,811,556)。
【0011】
同様に、それはまた、皮膚バリア機能を改善するために、皮膚脂質のセラミド含有量を増加させるいくつかの生物学的標的に対して作用すると提唱されてきた。これらの標的の中で、β−グルコシダーゼを挙げることができ、これはO−オクタノイル−6’−マルトースなどの炭水化物によって刺激されることが示されている(WO02/38110)。
【0012】
しかしながら、皮膚の不快、刺すような痛み、つっぱり、そう痒の感覚、熱感もしくは発赤の感覚、および/または微少なひび割れもしくは微小亀裂の出現および/または肌の輝きの喪失もしくはくすんだ肌および/または皮膚の柔軟性の喪失を予防および/または低減するために、ならびに/あるいはUVに対する表皮の保護を改善するために、皮膚のバリア機能を強化するための新規な化粧用の活性薬剤を提案することが依然として必要とされている。
【0013】
加えて、消費者は合成成分をできるだけ少なく含有する天然の製品を絶えず探し求めていることや、化学工業によって得られる化合物についての規制の制限事項がますます煩わしくなっていることを考慮すると、これらの化粧用の活性薬剤は植物由来であることが望ましいと思われる。
【0014】
そこで、本出願人は、その功績として、意外にも、この活性薬剤は、バリア機能の障害を抑制するために、新規な生物学的標的、すなわちセラミド輸送体CERTの発現を刺激することによって、このタンパク質に対して作用する可能性があることを示した。本出願人はまた、その功績として、この標的に対して作用する植物抽出物などの活性薬剤を選択するための適切なスクリーニング試験を開発し、したがって上述の必要性を満たすことが可能になった。
【0015】
最近発見されたCERTセラミド輸送タンパク質は、ER中で合成されたセラミドをゴルジへ送達してスフィンゴミエリンに変換するための新規な経路を解明した(Hanadaら、Nature 426:803-809)。そのタンパク質は、提唱された機能ではないが、グッドパスチャー抗原結合タンパク質(Goodpasture antigen-binding protein)(GPBP)スプライスバリアントGPBPΔ26と配列が同一である。CERTの変異により、スフィンゴミエリン含有量が著しく減少した細胞をもたらす。キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)細胞において、CERTの変異は、酸化的ストレスからの損傷の増進および生物の寿命の低減をもたらす、細胞膜流動性における変化をもたらした(Raoら、Proc. Nat. Acad. Sci. USA 104:11364-11369)。培養されたケラチノサイトまたはex vivoでのマウスの皮膚のUVBへの曝露は、効率的にセラミドを輸送するためのCERTの無能をもたらし、さらに細胞死の増加をもたらした(Charruyerら、J. Biol. Chem. 283:16682-16692)。
【0016】
セラミド輸送を改善するために、EP1652530において、CERTのアミノ酸配列を有するタンパク質である薬物を含む組成物を投与することが提唱された。この薬物は、抗腫瘍薬、抗炎症剤、器官形成剤(organoregenesis agent)、抗感染症薬または化粧品に使用される分配促進剤(distribution promoting agent)として使用することができる。後者の場合、薬物は、その水分保持を改善するために、皮膚に適用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、本出願人の知る限りでは、CERTの発現を刺激する化粧用の活性薬剤は、今まで開示されたことはない。
【0018】
さらに、表皮性のバリア機能を改善することを視野に入れて、CERTの発現をケラチノサイト中で刺激することができることは今まで提案されたことはない。
【0019】
その上、本出願人は、CERTの発現が年齢と共に減少することを示した。したがって、CERTの発現を刺激する化合物はまた、皮膚老化の兆候を予防および/または治療するのに有用であろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の1つの主題は、バリア機能の非病的な障害に起因する皮膚の兆候を予防または抑制することができる活性薬剤をスクリーニングするための方法であって、
a)ヒトドナー由来の培養されたケラチノサイトの試料を、植物抽出物などの活性薬剤で処置するステップと、
b)処置された試料中でのCERTの発現を、処置されていない同じ細胞試料と比較して定量化するステップと、
c)処置されていない試料と比較して、CERTの発現の増加をもたらす活性薬剤を選択するステップと
を含む方法である。
【0021】
この方法において、CERTの発現の定量化は、培養されたケラチノサイトにおいてリアルタイムRT−PCR法によって行うことができる。この状況において、ステップc)は、好ましくは、処置されていない試料と比べて、少なくとも1.7倍のCERTの遺伝子発現レベルの増加をもたらす活性薬剤を選択することを含む。
【0022】
あるいは、CERTの発現の定量化は、培養されたケラチノサイトにおいてウエスタンブロット法によって行うことができる。かかる場合、ステップc)は、処置されていない試料によって発現されるCERTタンパク質レベルの少なくとも120%である、CERTタンパク質レベルをもたらす活性薬剤を選択することを有利に含む。
【0023】
しかしながら、例えばCERTのメッセンジャーRNAまたはCERTタンパク質のどちらかの産生を定量化することによるなど、CERTの発現を定量化するための任意の他の手段を本発明から逸脱することなく使用することができる。
【0024】
本発明に従って選択することができる活性薬剤は、有利には植物抽出物であり、すなわち、例えば、樹皮、木部、根、根茎、柄、葉、果実または花などの植物の任意の部分を任意の種類の溶媒を使用して抽出することによって得られた活性薬剤である。
【0025】
一般に、抽出は、任意選択で切り刻まれたまたは磨り潰された、植物体の新鮮なまたは乾燥させた部分に対して、常法に従って行うことができる。抽出は、一般に、例えば室温から100℃、有利には30℃から70℃の範囲にわたる温度で、約30分から12時間、好ましくは1時間から8時間の間、1つまたは複数の極性もしくは無極性溶媒またはそれらの混合物に浸すことまたはその中で穏やかに振とうさせることによって行う。次いで、得られた溶液を濾過して、植物の不溶性物質を除去することが好ましい。溶媒も必要に応じて、例えばエタノール、メタノールまたはイソプロパノールなどの揮発性溶媒である場合は除去する。
【0026】
あるいは、植物抽出物は、二酸化炭素などの超臨界流体を使用した抽出によって調製することもできる。
【0027】
さらに別の実施形態によると、植物抽出物は、水蒸気蒸留(hydro-distillation)によって、すなわち、精油の排除後、3.5を超える極性指数を有する極性有機溶媒を、1未満の極性指数を有する無極性有機溶媒と場合により混合して使用することによって蒸気蒸留残留物を抽出するためのステップを含む方法に従って得ることができる。
【0028】
これら全ての抽出方法は、植物抽出物の分野において一般的であり、当業者は、一般知識に基づいてそれらの反応パラメーターを調節することができる。
【0029】
この抽出ステップ後、植物抽出物が得られ、次いで、これを特に溶媒の存在下で活性炭を使用して、脱色ステップに供することができる。活性炭の重量は、好ましくは、抽出物の重量の0.5%から50%の間である。水、メタノール、エタノールもしくはイソプロパノールなどのC〜Cアルコールから選択される1つもしくは複数の溶媒、プロピレングリコールもしくはジプロピレングリコールなどの極性有機溶媒、またはその分野において一般的である任意の他の溶媒を、特に使用することができる。次いで揮発性溶媒を、減圧下で除去することができる。
【0030】
当業者は、例えば使用する植物および溶媒を変えることによって、様々な植物抽出物を調製することができよう。あるいは、市販の植物抽出物を本発明において使用することができる。次いで、これらの植物抽出物のいずれかがCERTの遺伝子またはタンパク質発現レベルの増加をもたらして本発明に従って選抜され得るかどうか判定するために、これらの抽出物は上述および以下の実施例において記載したスクリーニング試験に供されるべきである。
【0031】
上述の(1つまたは複数の)スクリーニング試験に合格した場合、本発明に従って選択された活性薬剤は、バリア機能の非病的な障害に起因する皮膚の兆候を予防または抑制するために、化粧用の目的に使用することができる。上述の方法は、したがって、肌荒れ、肌の輝きの喪失および/または皮膚の柔軟性の喪失などの乾燥の兆候に対して皮膚を保護することができる薬剤を選択するために、ヒトの皮膚に局所的に適用した場合、外的環境、特に紫外線の損傷効果または毒素、薬物、および化学物質の浸透から皮膚を保護するために、ならびに皮膚におけるオキシダント負荷(oxidant load)を低減するために使用することができる。
【0032】
バリア完全性は、特に、当業者によく知られている通常の技法に従って、コルネオメトリー(corneometry)によって測定することができる。
【0033】
変形として、本発明のスクリーニング方法は、ヒトの皮膚に局所的に適用した場合、皮膚の光老化を妨げることができる薬剤を選択するために使用することができる。
【0034】
本発明に従って選択された活性薬剤、または同活性薬剤を含有する組成物は、病的状態ではない乾燥した皮膚および/または老化した皮膚に適用することが好ましい。それらは、顔、首および場合によりネックラインの皮膚、または、変形として、身体の任意の部分に有利に適用することができる。
【0035】
この点において、活性薬剤は、例えば、組成物の総重量と比較して、0.00001重量%から10重量%の割合、好ましくは0.0001重量%から5重量%の割合、より好ましくは0.001重量%から1重量%の割合で、化粧料組成物中に含まれる。
【0036】
この活性薬剤を含有する組成物は、朝および/または晩に、顔全体、首および任意選択でネックラインまたは身体にまでも適用することができる。
【0037】
この組成物は、一般に、前述の活性薬剤に加えて、生理学的に許容される、好ましくは化粧的に許容される媒質、すなわち、毒性、不適合性、不安定性またはアレルギー応答のリスクが全くなく、ヒトの皮膚と接触して使用するのに適しており、特に使用者にとって許容できないいかなる不快の感覚(発赤、つっぱり、刺すような痛みなど)も引き起こさない媒質を含む。
【0038】
この媒質は、一般に、水および任意選択でエタノールなどの他の溶媒を含有する。
【0039】
本発明に従って選択される活性薬剤を含有する組成物は、皮膚への局所的な適用に適した任意の形、特に、任意選択でマイクロエマルションもしくはナノエマルションとすることができる、水中油型、油中水型もしくは多相エマルション(W/O/WもしくはO/W/O)の形、または水分散液、溶液、水性ゲルまたは無水の組成物の形とすることができる。この組成物は、水中油型エマルションの形であることが好ましい。
【0040】
この組成物は、好ましくは、顔および/もしくは身体の皮膚のためのケアおよび/もしくはクレンジング製品として使用され、特に、例えば、ポンプ式ディスペンサーボトル、噴霧器もしくはチューブ中に調整された、流体、ゲルもしくはムースの形、または、例えば、ジャー中に調整されたクリームの形とすることができる。変形として、それは、メイクアップ製品、特に、ファンデーションまたはルースもしくはコンパクトパウダーの形とすることができる。
【0041】
この組成物は、
− 特に、ポリジメチルシロキサン(ジメチコン)、ポリアルキルシクロシロキサン(polyalkylcyclosiloxane)(シクロメチコン(cyclomethicone))およびポリアルキルフェニルシロキサン(フェニルジメチコン)などの直鎖状または環状、揮発性または非揮発性シリコーン油;フッ化油、アルキル安息香酸およびポリイソブチレンなどの分岐炭化水素などの合成油;植物油、特にダイズ油またはホホバ油;ならびに液体ワセリンなどの鉱物油;から選択することができる油;
− オゾケライト、ポリエチレンワックス、蜜蝋またはカルナウバ蝋などのワックス;
− 特に、触媒の存在下で、末端および/または側部において、少なくとも1つの反応基(特に水素またはビニル)を含有し、少なくとも1つのアルキル基(特にメチル)またはフェニルを有するポリシロキサンの、オルガノハイドロジェン−ポリシロキサンなどのオルガノシリコーンとの反応によって得られるシリコーンエラストマー;
− 界面活性剤、好ましくは、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性であろうと両性であろうとも、乳化界面活性剤、特に、グリセロールの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステルおよびスクロースの脂肪酸エステルなどのポリオールの脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールの脂肪アルキルエーテル;アルキルポリグリコシド;ポリシロキサン変性ポリエーテル;ベタインおよびその誘導体;ポリクオタニウム;エトキシ化脂肪アルキル硫酸塩;スルホサクシネート(sulfosuccinate);サルコシネート(sarcosinate);リン酸アルキルおよびジアルキル、およびその塩;ならびに脂肪酸セッケン;
− 直鎖状の脂肪アルコール、特に、セチルアルコールおよびステアリルアルコールなどのコサーファクタント;
− アクリロイルメチルプロパンスルホン酸(AMPS)および/またはアクリルアミドおよび/またはアクリル酸および/またはアクリル酸塩またはエステルの増粘剤および/またはゲル化剤、特に、架橋したまたは架橋していない、親水性または両親媒性のホモポリマーおよびコポリマー;キサンタンガムまたはグアーゴム;セルロース誘導体;ならびにシリコーンゴム(ジメチコノール);
− ジベンゾイルメタン誘導体(ブチルメトキシジベンゾイル−メタンが含まれる)、桂皮酸誘導体(メトキシケイ皮酸エチルヘキシルが含まれる)、サリチレート、パラアミノ安息香酸、アクリル酸β,β’−ジフェニル、ベンゾフェノン、ベンジリデンカンファー誘導体、フェニルベンゾイミダゾール、トリアジン、フェニル−ベンゾトリアゾールおよびアントラニル誘導体などの有機スクリーニング剤;
− コーティングされたまたはコーティングされていない顔料またはナノ顔料の形での鉱物酸化物に基づく、特に、二酸化チタンまたは酸化亜鉛に基づく無機スクリーニング剤;
− 染料;
− 保存剤;
− 賦形剤、特に、ポリアミド、シリカ、タルク、雲母および繊維(特にポリアミド繊維またはセルロース繊維)から特に選択することができる、ソフトフォーカス効果を有する粉末;
− EDTA塩などの金属イオン封鎖剤;
− 香料;
− ならびにそれらの混合物
から選択される少なくとも1つの化合物などの様々な補助剤を含有することができるが、このリストに限定されない。
【0042】
かかる補助剤の例は、特に、CTFA辞典(The Cosmetic, Toiletry and Fragrance Associationによって発行されたInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook、11版、2006)に記述されており、この辞典は、それらに限られないが、スキンケア産業における化粧用および医薬用成分の幅広い種類を記載しており、これらは本発明による組成物中での付加的な成分として使用するのに適している。
【0043】
本発明に従って選択される活性薬剤を含有する組成物はまた、鎮静作用のあるまたは抗炎症性の活性、漂白または色素脱失活性、老化防止活性および/またはクレンジング活性を含めた、付加的な利益をもたらすことができる。
【0044】
この組成物はまた、CERTの発現を刺激するもの以外の活性薬剤、特に、表皮剥奪剤、特に、グリコール酸、乳酸およびクエン酸などのα−ヒドロキシ酸ならびにそのエステルまたは塩;サリチル酸などのβ−ヒドロキシ酸およびその誘導体;直接的かまたは間接的に、例えば、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)の抽出物またはテオブロマ・カカオ(Theobroma cacao)のマメの殻の抽出物、トウモロコシの水溶性の抽出物、ボアンドゥゼイア・スブステラネア(Voandzeia substerranea)のペプチド抽出物およびナイアシンアミドなどの、β−エンドルフィンの産生を刺激することによって、ケラチノサイトの分化および/または角質化を増加させるための薬剤;表皮脂質ならびに、リン脂質、セラミド、ルピナスタンパク質水解物およびジヒドロジャスモン酸誘導体などの、直接的かまたは、グルコシルセラミドからセラミドなど、脂質前駆体の脱グリコシルを調節するいくつかのβ−グルコシダーゼを刺激することによって、表皮脂質の合成を増加させるための薬剤;ポリオール、特に、グリセロール、ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン、糖およびそのアルキルエステル、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、スレオニン、リジン、グルタミン酸、タウリン、プロリン、セリンなどのアミノ酸およびその誘導体、ピロリドンカルボン酸(PCA)およびその塩、尿素およびその誘導体、エクトイン、グルコサミン、クレアチン、コリン、ベタイン、塩素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、マンガンなどの鉱物塩またはリン酸塩ならびにメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンホモポリマーおよびコポリマーならびにグリセリル(メタ)アクリレートホモポリマーおよびコポリマーなどの湿潤剤合成ポリマーなどの湿潤剤;トコフェロールおよびそのエステル、アスコルビン酸およびそのアルキルおよびホスホリルエステルならびに植物または藻類、特にサーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)のいくつかの抽出物などの、酸化防止剤および/またはフリーラジカル消去剤および/または公害防止剤;ならびにそれらの混合物から選択される少なくとも1つの活性薬剤を含むことができるが、このリストに限定されない。
【0045】
CERTの発現を刺激する活性薬剤を上述の薬剤の1つまたは複数と組み合わせることにより、これら2つの種類の活性薬剤の効果も同じように組み合わせ、したがって最大限の長時間効果のある皮膚の保護を得ることが有利に可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、ここで、以下に続く非限定的な実施例によって例示される。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
ウエスタンブロット法によって活性薬剤をスクリーニングするための試験
プロトコール:
ヴァニラ・プラニフォリア(Vanilla planifolia)抽出物を、WO2007/034042の実施例1に記述されているように調製した。
【0048】
植物抽出物がCERTタンパク質の発現に及ぼす効果を、ケラチノサイトにおいて評価する。
【0049】
新生児の包皮由来のケラチノサイト(Cascade Biologics/Invitrogen,Portland,OR,USA)を6ウェルプレート中に接種し、ケラチノサイト増殖培地(Epilife,Invitrogen,CA,USA)、すなわちEpilife defined growth supplement(EDGS)を補充した改変培地中で培養する。
【0050】
インキュベーター中で37℃で24時間培養した後、ほぼコンフルエントな細胞をPBS緩衝液(Invitrogen)で洗浄し、試験対象の抽出物を含有する特定の基本培地(Epilife,Invitrogen)で、濃度を増加させながら三連で24時間インキュベートする。その活性を判定する前に、抽出物の細胞毒性を判定する。
【0051】
処置されていない試料と比較して、処置された試料中でのCERTタンパク質の発現を定量化するために、ウエスタンブロット法(WB)を使用する。上述のようにインキュベートした細胞を溶解し、抽出されたタンパク質を、SDS−PAGEによって分離する。電気泳動に続いて、タンパク質をPVDF(登録商標)膜に転写し、抗CERT抗体(Bethyl Laboratories,TX,USA)でプロービングする。結果を、各試料中の総タンパク質の量へ標準化する。結果を、処置されていない対照に対する処置された試料中での標的タンパク質CERTの発現の増加または減少パーセント(%)によって表す。
【0052】
総タンパク質含有量を、MicroBCAキット(Thermo Scientific,IL,USA)を使用して定量化する。
【0053】
少なくとも2つの異なるドナー由来の細胞を使用すると正の結果が確認される。
【0054】
結果:
結果を、下記の表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
この試験から、ヴァニラ・プラニフォリア(Vanilla planifolia)抽出物は、正常なヒトケラチノサイト中でのCERTタンパク質の発現を刺激することを可能にし、したがって皮膚バリア機能の改善または回復に使用できることが明らかになる。
(実施例2)
【0057】
RT−PCR法によって活性薬剤をスクリーニングするための試験
プロトコール:
2つの活性薬剤がCERTのmRNAの発現に及ぼす効果を、ケラチノサイトにおいて評価した。
【0058】
新生児の包皮由来のケラチノサイト(Cascade Biologics/Invitrogen,Portland,OR,USA)を6ウェルプレートに接種し、ケラチノサイト増殖培地(Epilife,Invitrogen)、すなわちEDGSを補充した改変培地中で培養する。
【0059】
インキュベーター中で37℃で24時間培養した後、70%〜80%コンフルエントな細胞をPBS緩衝液(Invitrogen)で洗浄し、試験する活性薬剤を含有する基本培地(Epilife,Invitrogen)で、濃度を増加させながら三連で24時間インキュベートする。活性薬剤の細胞毒性を調査した後、その活性を評価する。
【0060】
処置されていない試料と比較して、処置された試料中でのCERTメッセンジャーRNAの発現を定量化するために、最初にRNAをRNeasy試薬キット(Qiagen,CA,USA)を使用して単離し、次いでQuantItキット(Invitrogen)を使用して定量化する。製造者の推奨に従ってgene Amp RNA PCRキット(Applied Biosystems)を使用して、逆転写を行う。
【0061】
Taqmanプローブと共にiCYCLER IQ装置(Bio−Rad,CA,USA)を使用して、リアルタイムPCR測定を行う。PCRプライマーをApplied Biosystems(Applied Biosystems,CA,USA)から得る。全ての試験において、標準化されたプログラムを使用してcDNAを増幅する。各試料にTaqman master−mix、Taqmanプライマーおよび水を添加する。反応毎のcDNAの最終的な量は、逆転写に使用した総RNAの75ngに相当する。
【0062】
結果を、これらの試料中のハウスキーピング遺伝子の発現と比較して標準化し、PCRの有効性の相違に関して修正する。ここで使用したハウスキーピング遺伝子はRPLPOであった。標的遺伝子の発現の相対定量化を、Pfaffl mathematical model(Pfaffl, MW, Nucleic Acids Res. 29(9), p. E45, 2001)を使用して行う。結果を、処置された試料中での標的遺伝子CERTの発現の増加または減少の倍数によって表す。
【0063】
結果:
結果を、下記の表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
この試験から、試験した活性薬剤は、正常なヒトケラチノサイト中でのCERTタンパク質の発現を刺激することを可能にし、したがって皮膚バリア機能の改善または回復に使用できることが明らかになる。
(実施例3)
【0066】
年齢に伴うCERTの発現の評価
プロトコール:
CERTタンパク質の発現の変動を、様々な年齢群のドナー由来のパラフィン埋包した皮膚試料(Cybrdi,MD,USAおよびTissue Array Networks,MD,USA)において免疫組織化学的検査(IHC)によって評価した。4つの年齢群(生後20〜30週、28〜35歳、39〜49、および50〜69歳)におけるドナー由来の6μmの切片において、抗CERT抗体(Bethyl Laboratories,TX,USA)および二次抗体(Lab Vision,CA,USA)で、染色を行った。染色を、AEC system(Lab Vision)を使用して可視化した。染色を、1〜5(1=最少の強さ、5=最大の強さ)のスケールを使用した染色の強さおよび範囲の盲目視覚評価(blind visual assessment)を行うことによって、各年齢群における3〜6人のドナー由来のそれぞれ2〜6つの画像において評価した。評点の平均値を、有意性について独立t検定を使用して比較した。
【0067】
結果:
若年成人の皮膚(28〜35歳)におけるCERT染色の評価は、4.63(±0.5)の評点を意味する、表皮において強い細胞質の染色を示した(図1、ダークグレーの棒)。次いで、染色の強さは、年長のドナーの皮膚(39〜49)の切片において目に見えて減少し、特に年齢が50〜69歳で、染色の強さは3.06(±0.66)の評点が付けられた。これは、CERTタンパク質の発現が加齢と共に有意に減退する(P<0.0001)ことを実証している。
(実施例4)
【0068】
化粧料組成物
以下の組成物は、当業者にとって通常の方法で調製することができる。以下に示す量は、重量百分率として表す。大文字の成分は、INCI名に従って特定される。
EDTA四ナトリウム 0.05%
メタクリル酸ポリグリセリルおよび
プロピレングリコール(1) 5.00%
グリセロール 6.00%
水相ゲル化剤 5.50%
非イオン性乳化剤 4.00%
セテアリルアルコール 2.00%
軟化剤 17.00%
酢酸トコフェロール 0.50%
保存剤 2.20%
植物抽出物(2) 0.05%
ヒアルロン酸ナトリウム 5.00%
香料 十分量
染料 十分量
水 100.00%まで十分量
(1)Guardian LaboratoriesからのLUBRAJEL MS(登録商標)
(2)実施例1または2で開示した試験において様々な植物抽出物をスクリーニングすることによって得られた
【0069】
水中油型エマルションの形での、この組成物は、朝および/または晩、顔の皮膚を加湿するおよび柔軟、滑らかで輝くようにするために、顔の皮膚に毎日適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリア機能の非病的な障害に起因する皮膚の兆候を予防または抑制することができる活性薬剤をスクリーニングするための方法であって、
a)ヒトドナー由来の培養されたケラチノサイトの試料を、植物抽出物などの活性薬剤で処置するステップと、
b)前記処置された試料中でのCERTの発現を、処置されていない同じ細胞試料と比較して定量化するステップと、
c)処置されていない試料と比較して、CERTの発現の増加をもたらす活性薬剤を選択するステップと
を含む方法。
【請求項2】
CERTの発現の定量化が、RT−PCR法によって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップc)が、処置されていない試料における発現を1とした場合と比べて、少なくとも1.7倍のCERTの遺伝子発現レベルの増加をもたらす活性薬剤を選択することを含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
CERTの発現の定量化が、ウエスタンブロット法によって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)が、処置されていない試料によって発現されるCERTタンパク質レベルの少なくとも120%である、CERTタンパク質レベルをもたらす活性薬剤を選択することを含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ヒトの皮膚に局所的に適用した場合、バリア機能の非病的な障害に起因する皮膚の兆候を予防または抑制することができる活性薬剤を選択するための、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項7】
ヒトの皮膚に局所的に適用した場合、乾燥の兆候から皮膚を保護すること、外的環境から、特に紫外線の損傷効果からまたは毒素、薬物、および化学物質の浸透から皮膚を保護すること、ならびに皮膚におけるオキシダント負荷を低減することができる活性薬剤を選択するための、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項8】
前記兆候が、肌荒れ、肌の輝きの喪失および/または皮膚の柔軟性の喪失から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
ヒトの皮膚に局所的に適用した場合、皮膚の光老化を妨げることができる活性薬剤を選択するための、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法の使用。

【公表番号】特表2013−512681(P2013−512681A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542471(P2012−542471)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068849
【国際公開番号】WO2011/069913
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(508283406)シャネル パフュームズ ビューテ (23)
【Fターム(参考)】