説明

皮膜形成方法

【課題】 電着塗装性及び安定性に優れた水性皮膜形成剤を用いる皮膜形成方法によって防食性に優れた塗装物品を提供すること。
【解決手段】 ジルコニウム化合物を含有し、且つ基体樹脂として、ジエポキシド化合物、ビスフェノール型エポキシ樹脂及びビスフェノール類を反応させてなるエポキシ樹脂とアミノ基含有化合物とを反応させることにより得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂を含んでなる水性皮膜形成剤を含有する電着浴を用い、金属基材に2段階以上の多段階通電方法によって皮膜を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装性及び安定性に優れた水性皮膜形成剤を用いて、金属基材に多段階通電方式により皮膜を形成する方法、ならびに該皮膜形成方法により形成される防食性が良好な塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業用の金属基材には、防食性や付着性の向上を目的として、下地処理としてリン酸亜鉛処理が行われている。しかしながら、リン酸亜鉛処理剤は、リンや窒素を多量に含んでおり且つ形成される化成被膜の性能を向上させるためにニッケル、マンガン等の重金属を多量に含有せしめているため、リン酸亜鉛処理剤による化成処理は、環境への影響や、処理後にリン酸亜鉛、リン酸鉄等のスラッジが多量に発生し、産業廃棄物処理などの問題が生じる。
【0003】
また、工業用の金属基材の防食性向上を目的として、塗装ラインにおいては、「脱脂−表面調整−化成処理−電着塗装」等の処理工程に多くのスペースや時間を要している。
【0004】
特許文献1には、上記の如き問題を生じない下地処理剤として、実質的にリン酸イオンを含有せず、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン並びにフッ素イオンを含有してなる鉄及び/又は亜鉛系基材用化成処理剤が提案されている。しかし、特許文献1に記載の鉄及び/又は亜鉛系基材用化成処理剤は、それによる処理後に、塗装工程によって塗膜を施さないと、十分な防食性を確保することができないという問題がある。
【0005】
特許文献2には、(A)Ti、Zr、Hf及びSiから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物と、(B)フッ素イオンの供給源としてフッ素含有化合物とを含有する金属の表面処理用組成物を用いることにより、鉄又は亜鉛の少なくとも1種を含む金属基材の表面に耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることができ、且つ表面調整(表調)工程を必要としないため処理工程の短縮、省スペース化を図ることが可能な金属の表面処理法が開示されている。しかし、特許文献2に記載の表面処理用組成物を用いた処理法は、その処理後に塗装工程によって塗膜を施さないと、十分な防食性を確保することができないという問題がある。
【0006】
特許文献3及び特許文献4には、(A)アミン変性アクリル樹脂、(B)リン酸系化合物、弗化水素酸、金属弗化水素酸及び金属弗化水素酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物、(C)モリブデン化合物、タングステン化合物及びバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する潤滑鋼板用表面処理組成物を、自動車車体や家電製品等に使用される亜鉛系めっき鋼板に被覆することにより、プレス成形性と耐食性に優れた潤滑鋼板を得ることのできる潤滑鋼板用表面処理組成物が開示されている。しかし、特許文献3及び特許文献4に記載の潤滑鋼板用表面処理組成物を用いて処理された鋼板には、化成処理及び塗膜を施さなくては十分な防食性を確保することができないため、工程の短縮、省スペース化を図ることができないという問題がある。
【0007】
特許文献5には、サリチリデンアミノ基とアミノ基を有する特定の共重合体からなる金属表面処理剤用ポリマー組成物が開示されている。しかし、引用文献5の金属表面処理剤用ポリマー組成物を用いて処理された鋼板もまた、塗装工程によって塗膜を施さないと、十分な防食性を確保することができず、工程の短縮や省スペース化を図ることができないという問題がある。
【0008】
また、特許文献6には、500μm以下の間隙を有する被塗物を多段通電法によるカチオン電着塗装によって、自動車ボディなどの複雑な構造を有する被塗物の間隙部に塗膜を形成する方法が開示されている。特許文献6に記載の多段通電法は、500μm以下の間隙を有する被塗物の隙間部を被覆して防食性の向上に有効であるが、十分な防食性を確保できるまでには至っていない。
【0009】
さらに、特許文献7には、析出開始に必要な電気量の差を一定とした複数のエマルションを含有するカチオン電着塗料を多段通電方法によって電着塗装することにより複層塗膜を形成する方法が開示されているが、この方法によっては十分な防食性が得られるまでには至っていない。
【0010】
【特許文献1】特開2003−155578号公報
【特許文献2】国際公開第02/103080号パンフレット
【特許文献3】特開2003−166073号公報
【特許文献4】特開2003−226982号公報
【特許文献5】特開2003−293161号公報
【特許文献6】特開平2−282499号公報
【特許文献7】特開2003−328192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、電着塗装性及び安定性に優れた水性皮膜形成剤を用いて、金属基材に多段階通電方式によって防食性に優れた皮膜を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、今回、金属基材に、特定の皮膜形成剤を多段通電方法によって特定の条件下で塗装することにより、上記の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして、本発明は、ジルコニウム化合物(A)を金属質量換算で30〜20,000ppm含有し、且つ基体樹脂として、下記式(1)
【化1】

[式中、nは1〜50の整数である]
で示されるジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール類(a3)を反応させてなるエポキシ樹脂(a)とアミノ基含有化合物(b)とを反応させることにより得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)を含んでなる水性皮膜形成剤(I)を含有する電着浴を用い、金属基材を陰極として塗装電圧(V)1〜50Vで10〜360秒間通電することにより1段目の電着塗装を行い、次いで、金属基材を陰極として塗装電圧(V)50〜400Vで60〜600秒間通電することにより2段目以降の電着塗装を行うことからなり、塗装電圧(V)と塗装電圧(V)の差が10V以上であることを特徴とする、金属基材に2段階以上の多段階通電方法によって皮膜を形成する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の皮膜形成方法において使用される水性皮膜形成剤(I)は電着塗装性や安定性に優れており、本発明の皮膜形成方法によれば、防食性に優れた塗装物品を提供することができる。
【0015】
しかして、本発明の皮膜形成方法によれば、リン酸亜鉛処理工程を省略した金属基材であっても、該金属基材上に防食性に優れた皮膜を形成せしめることができ、リン酸亜鉛処理工程の省略によって、スラッジ処理問題等を解消することができる。また、化成処理工程を省略できることから、塗装ラインにおいて省スペース化や時間短縮が可能となる。
【0016】
本発明の皮膜形成方法による皮膜が防食性に優れる理由は、被塗物側に析出した皮膜(F1)が塗膜下腐食の抑制に寄与し、且つ表面側に析出した皮膜(F2)が腐食促進物質(例えば、O、Cl、Na)を遮断するという2つの機能を、皮膜中において分担できているためであろうと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の皮膜形成方法は、特定の水性皮膜形成剤(I)を用いて、2段階以上の多段階通電方法によって表面処理皮膜を形成するものである。以下、本発明の皮膜形成方法について、さらに詳細に説明する。
【0018】
水性皮膜形成剤(I):
水性皮膜形成剤(I)は、ジルコニウム化合物(A)を金属量(質量換算)で30〜20,000ppm、好ましくは50〜10,000ppm、さらに好ましくは100〜5,000ppm、並びに基体樹脂として、特定のジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール類(a3)を反応させてなるエポキシ樹脂(a)とアミノ基含有化合物(b)とを反応させることにより得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)を含んでなるものである。
【0019】
ジルコニウム化合物(A):
本発明に従う1段目の塗装は、ジルコニウム化合物(A)から生じるオキシジルコニウムイオン、フルオロジルコニウムイオンなどのジルコニウム含有イオンを金属素材の表面に析出させることにより皮膜(F1)を形成する工程である。
【0020】
しかして、ジルコニウム化合物(A)には、オキシジルコニウムイオンを生じる化合物として、例えば、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニルなど;フルオロジルコニウムイオンを生じる化合物として、例えば、ジルコニウムフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化水素酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩など)などが挙げられる。これらのうち、特に、ジルコニウムフッ化アンモニウムが好適である。
【0021】
さらに、水性皮膜形成剤(I)は、ジルコニウム化合物(A)の他に、適宜、ビスマス含有イオンを生じる化合物を含んでなることができる。ビスマス含有イオンを生じる化合物としては、例えば、塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、臭化ビスマス、ケイ酸ビスマス、水酸化ビスマス、三酸化ビスマス、硝酸ビスマス、亜硝酸ビスマス、オキシ炭酸ビスマスなどの無機系ビスマス含有化合物;乳酸ビスマス、トリフェニルビスマス、没食子酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、メトキシ酢酸ビスマス、酢酸ビスマス、ギ酸ビスマス、2,2−ジメチロールプロピオン酸ビスマスなどの有機系ビスマス含有化合物が挙げられる。
【0022】
樹脂成分
水性皮膜処理剤(I)において使用される樹脂成分は、基体樹脂と場合により架橋剤を含んでなり、防食性向上などの面から、カチオン性樹脂組成物が好適である。カチオン性樹脂組成物における基体樹脂としては、例えば、分子中にアミノ基、アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ホスホニウム塩基などの水性媒体中でカチオン化可能な基を有する樹脂が挙げられ、基体樹脂の樹脂種としては、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ポリブタジエン樹脂系、アルキド樹脂系、ポリエステル樹脂系などが挙げられる。
【0023】
本発明では、防食性の面から、基体樹脂の少なくとも一部として、アミノ基含有エポキシ樹脂(B)が使用される。基体樹脂は、アミノ基含有エポキシ樹脂(B)を、樹脂成分の合計固形分を基準にして、一般に40〜80質量%、特に45〜75質量%、さらに特に50〜70質量%の範囲内で含有することが好ましい。
【0024】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B):
基体樹脂として使用されるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)は、特定のジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール類(a3)を反応させてなるエポキシ樹脂(a)と、アミノ基含有化合物(b)とを反応させることにより得られる樹脂である。
【0025】
エポキシド化合物(a1):
ジエポキシド化合物(a1)は、下記式(1)
【化2】

[式中、nは1〜50、好ましくは5〜24、さらに好ましくは8〜14の整数であ
る]
で示される化合物(以下、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルと称することもある)であり、水性皮膜形成剤(I)の安定性や得られた皮膜の防食性などの面から、通常230〜2,000、特に340〜1,200の範囲内の分子量を有することが好ましい。
【0026】
かかるジエポキシド化合物(a1)の市販品としては、例えば、デナコールEX−810、EX−821、EX−832、EX−841、EX−851、EX−861(以上、いずれもナガセケムテックス株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0027】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2):
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)の製造に使用されるビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)には、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られる樹脂が包含され、一般に340〜2,000、特に340〜1,000の範囲内の数平均分子量、及び一般に170〜1,500、特に170〜800の範囲内のエポキシ当量を有するものが適している。
【0028】
なお、本明細書において、「数平均分子量」は、JIS K 0124−83に記載の方法に準じ、分離カラムとして「TSK GEL4000HXL」、「TSK G3000HXL」、「TSK G2500HXL」、「TSK G2000HXL」(東ソー株式会社製)の4本を使用し、溶離液としてGPC用テトラヒドロフランを用いて、温度4
0℃及び流速1.0ml/分において、RI屈折計で得られたクロマトグラムと標準ポリスチレンの検量線から求めたものである。
【0029】
該ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)の製造に用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、クレゾールノボラックなどを挙げることができる。
【0030】
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式(2)
【化3】

[式中、nは0〜8、好ましくは1〜5、さらに好ましくは2〜4の整数である]
で示されるエポキシ樹脂が好適である。
【0031】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、jER828EL、jER1002、jER1004(以上、いずれもジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0032】
ビスフェノール類(a3):
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)の製造に使用されるビスフェノール類(a3)には、下記一般式(3)
【化4】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びR10はそれ
ぞれ水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す]
で示される化合物が包含され、具体的には、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]などが挙げられる。
【0033】
エポキシ樹脂(a):
エポキシ樹脂(a)は、以上に述べたジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール類(a3)を付加反応させることにより製造することができる。この付加反応はそれ自体既知の方法で行うことができる。具体的には、例えば、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタンなどのチタン化合物;オクチル酸錫、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ラウレート等の有機錫化合物;塩化第1錫などの金属化合物のような触媒の存在下に、ジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール類(a3)を混合し、約100〜約250℃の温度で約1〜約15時間加熱することによってエポキシ樹脂(a)を得ることができる。
【0034】
ジエポキシド化合物(a1)は、電着塗装性や安定性などの面から、ジエポキシド化合物(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とビスフェノール類(a3)の合計固形分を基準にして、一般に20〜70質量%、特に25〜68質量%、さらに特に30〜65質量%の範囲内で、且つアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)の固形分を基準にして、一般に15〜50質量%、特に18〜45質量%、さらに特に20〜42質量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0035】
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)は、電着塗装性や安定性などの面から、ジエポキシド化合物(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とビスフェノール類(a3)の合計固形分を基準にして、一般に11〜53質量%、特に13〜48質量%、さらに特に16〜42質量%の範囲内で使用することができる。
【0036】
上記触媒は、ジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール類(a3)の合計量を基準にして、一般に0.5〜1,000ppmの量で使用することができる。上記付加反応は通常溶媒中で行われ、使用し得る溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0037】
アミノ基含有化合物(b):
エポキシ樹脂(a)と反応させるアミノ基含有化合物(b)は、エポキシ基と反応する活性水素を少なくとも1個含有し且つエポキシ樹脂(a)にアミノ基を導入してカチオン化することができるものであればその種類には特に制限はなく、従来からエポキシ樹脂のカチオン化に用いられるものを同様に使用することができ、具体的には、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのケチミン化物;ジエタノールアミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノールなどが挙げられる。
【0038】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B):
以上に述べたエポキシ樹脂(a)とアミノ基含有化合物(b)を、それ自体既知の方法により付加反応させることによりアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)を得ることができる。上記付加反応は、適当な溶媒中で、約80〜約170℃、好ましくは約90〜約150℃の温度で1〜6時間、好ましくは1〜5時間程度行うことができる。
【0039】
このようにして得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)は、一般に600〜3,000、特に1,000〜2,500の範囲内の数平均分子量及び一般に30〜100mgKOH/g樹脂固形分、特に40〜80mgKOH/g樹脂固形分の範囲内のアミン価
を有することが好ましい。
【0040】
水性皮膜形成剤(I)における基体樹脂は、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)に加えて、適宜、それ自体既知のアミノ基含有エポキシ樹脂(C)をさらに含んでなることができる。このようなアミノ基含有エポキシ樹脂(C)としては、エポキシ樹脂(c1)にアミン化合物(c2)を付加反応させることにより製造されるものが挙げられる。エポキシ樹脂(c1)は、皮膜の防食性等の観点から、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリン、例えば、エピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。
【0041】
上記エポキシ樹脂(c1)の製造のために用い得るポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン[ビスフェノールS]、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどを挙げることができる。
【0042】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式
【化5】

示されるものが好適である。
【0043】
エポキシ樹脂(c1)としては、エポキシ当量が一般に200〜2,000、特に400〜1,500の範囲内にあり、そして数平均分子量が一般に400〜4,000、特に800〜2,500の範囲内にあるものが適している。
【0044】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、jER828EL、jER1002、jER1004、jER1007(以上、いずれもジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0045】
上記エポキシ樹脂(c1)と反応せしめられるアミン化合物(c2)は、エポキシ基と反応する活性水素を少なくとも1個含有し且つ該エポキシ樹脂(c1)をカチオン化することができるものであれば特に制限はなく、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)について前述したアミノ基含有化合物(b)と同様のアミン化合物を使用することができる。
【0046】
エポキシ樹脂(c1)とアミン化合物(c2)を、それ自体既知の方法により反応させることによりアミノ基含有エポキシ樹脂(C)を得ることができる。さらに、アミノ基含有エポキシ樹脂(C)は、可塑変性剤等を用いて変性することもできる。
【0047】
水性皮膜形成剤(I)は、場合により、樹脂成分として、さらに架橋剤を含有すること
ができる。
【0048】
架橋剤としては、特に、ポリイソシアネート化合物を適当なブロック剤でブロックしてなるブロック化ポリイソシアネート化合物が好適である。該ポリイソシアネート化合物としては、芳香族、脂環族又は脂肪族のポリイソシアネート化合物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組合せて使用することができる。
【0049】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、1,3−もしくは1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−もしくは2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、2,4’−もしくは4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、クルードMDI、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−もしくはp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどが挙げられ、脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
【0050】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、p−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、シクロヘキシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0051】
ブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、ブロック剤の付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温においては安定であるが、例えば一般的な焼付け硬化型塗膜の焼き付け温度である約100〜約200℃に加熱するとブロック剤が解離してイソシアネート基が再生する。
【0052】
このような要件を満たすブロック剤としては、例えば、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム系化合物;メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール化合物などが挙げられる。
【0053】
樹脂成分における基体樹脂と架橋剤の配合割合は、水性皮膜形成剤(I)の電着塗装性や安定性、皮膜の防食性などの面から、両成分の合計固形分を基準にして、基体樹脂が一般に50〜90質量%、特に60〜80質量%の範囲内、そして架橋剤が一般に10〜50質量%、特に20〜40質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0054】
以上に述べた基体樹脂及び架橋剤を含んでなる樹脂成分は、カルボン酸などの中和剤及び脱イオン水によって水分散化することができ、それによって得られる樹脂エマルションを水性皮膜形成剤(I)の製造に用いることができる。
【0055】
水性皮膜形成剤(I)には、必要に応じて、その他の添加剤、例えば、顔料、触媒、有
機溶剤、顔料分散剤、表面調整剤、界面活性剤などを通常使用されている配合量で含有せしめることができる。
【0056】
上記顔料や触媒としては、例えば、チタン白、カーボンブラックなどの着色顔料;クレー、タルク、バリタなどの体質顔料;トリポリリン酸二水素アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料;ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイドなどの有機錫化合物;ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ベンゾエートオキシ、ジブチル錫ベンゾエートオキシ、ジオクチル錫ジベンゾエート、ジブチル錫ジベンゾエートなどのジアルキル錫の脂肪族もしくは芳香族カルボン酸塩などの錫化合物が挙げられる。
【0057】
水性皮膜形成剤(I)の調製は、例えば、以下に述べる方法(1)〜方法(3)により行うことができる。
【0058】
方法(1): 樹脂成分及び場合によりその他の添加剤を一緒にし、十分に混ぜ合わせて溶解ワニスを作製し、それに水性媒体中で、蟻酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸又はこれらの1種もしくはそれ以上の混合物などから選ばれる中和剤を添加して水分散化してなるエマルション中に、ジルコニウム化合物(A)を配合する方法。
【0059】
方法(2): ジルコニウム化合物(A)に、顔料や触媒、その他の添加剤、水を加え顔料分散して予め顔料分散ペーストを調製し、その顔料分散ペーストを樹脂成分のエマルションに添加する方法。
【0060】
方法(3): あらかじめ作製した水性皮膜形成剤(I)の浴に、ジルコニウム化合物(A)を水で希釈して配合する方法。
【0061】
水性皮膜形成剤(I)を含有する電着浴は、例えば、上記の如くして調製される水性皮膜形成剤(I)を、脱イオン水などで希釈して、固形分濃度が通常5〜40質量%、好ましくは8〜25質量%で、pHが通常3.0〜9.0、好ましくは4.0〜7.0の範囲内となるように調整することにより得ることができる。なお、浴温としては、通常5〜45℃、好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは20〜35℃の範囲内が適している。
【0062】
被塗物:
本発明において被塗物として使用される金属基材としては、例えば、冷延鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−鉄二層めっき鋼板、有機複合めっき鋼板などの金属鋼板や、これら金属鋼板から成形された自動車ボディ、2輪車部品、家庭用機器、その他の機器などが挙げられる。
【0063】
電着塗装:
本発明に従えば、水性皮膜形成剤(I)を含有する電着浴を用いて、以下に述べる少なくとも2段階の多段階通電方式によって、金属基材上に本発明が目的とする皮膜を形成せしめることができる。
【0064】
水性皮膜形成剤(I)含有電着浴を用いての金属基材の塗装は、具体的には、以上に述べた皮膜形成剤(I)含有電着浴を用い、金属基材を陰極として塗装電圧(V)1〜50V、好ましくは2〜40V、さらに好ましくは2.5〜30Vで10〜360秒間、好ましくは30〜300秒間、さらに好ましくは60〜240秒間通電することにより1段目の電着塗装を行い、次いで、金属基材を陰極として塗装電圧(V)50〜400V、好ましくは100〜350V、さらに好ましくは125〜300Vで且つ塗装電圧(V
)と塗装電圧(V)の差を10V以上、好ましくは15〜50Vの範囲内に保持しつつ60〜600秒間、好ましくは90〜240秒間、さらに好ましくは120〜220秒間通電することにより2段目以降の電着塗装を行うことによって実施することができる。
【0065】
上記の多段階通電方式による皮膜の析出機構としては、次のような機構が考えられる:
まず、1段目の通電によって、陰極近傍のpHが上昇し、それにより水性皮膜形成剤(I)中のジルコニウム化合物の加水分解反応が起こり、ジルコニウムイオン種、例えば、ジルコニウムとフッ素との錯体イオンが難溶性の皮膜(F1)、主に、酸化ジルコニウムとして金属基材上に析出する。
【0066】
なお、1段目の通電条件では、陰極上が低電流密度であるため、樹脂成分は電着浴中で拡散(分散)し又は電極上に析出して再溶解し、陰極上に実質的な皮膜を形成するに至らない。
【0067】
次いで、2段目の通電によって、樹脂成分や顔料を主成分とする皮膜(F2)が金属基体上に形成される。
【0068】
形成される皮膜の焼き付け温度は、被塗物表面で約100〜約200℃、好ましくは約120〜約180℃の範囲内の温度が適しており、焼き付け時間は通常5〜90分、好ましくは10〜50分程度とすることができる。
【0069】
かくして、本発明の方法によれば、電着塗装性と安定性に優れた水性皮膜形成剤を用いることにより、防食性が良好な皮膜をもつ塗装物品を提供することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」である。
【0071】
製造例1:アミノ基含有エポキシ樹脂溶液No.1
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名、エポキシ樹脂)638.9部、デナコールEX821(注1)300.0部、ビスフェノールA 404.2部及びジメチルベンジルアミン0.2部を仕込み、130℃でエポキシ当量900になるまで反応させた。
【0072】
次に、ジエタノールアミン156.9部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル375.0部を加え、樹脂固形分80質量%のアミノ基含有エポキシ樹脂溶液No.1溶液を得た。
【0073】
アミノ基含有エポキシ樹脂No.1は、アミン価が56mgKOH/g、数平均分子量が2,000、ジエポキシド化合物(a)の割合(%)が20質量%であった。
【0074】
製造例2〜5:アミノ基含有エポキシ樹脂溶液No.2〜No.5
下記表1の組成及び配合内容とする以外は、製造例1と同様にしてアミノ基含有エポキシ樹脂溶液No.2〜No.5を得た。
【0075】
【表1】

【0076】
(注1)デナコールEX821: ナガセケムテックス(株)製、商品名、エポキシ当量185。
(注2)デナコールEX841: ナガセケムテックス(株)製、商品名、エポキシ当量372。
【0077】
製造例6:アミノ基含有エポキシ樹脂溶液No.6
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名、エポキシ樹脂)1010部、ビスフェノールA 390部及びジメチルベンジルアミン0.2部を仕込み、130℃でエポキシ当量700になるまで反応させた。
【0078】
次に、ジエタノールアミン160部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物65部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル355部を加え、樹脂固形分80質量%のアミノ基含有エポキシ樹脂溶液No.6を得た。
【0079】
アミノ基含有エポキシ樹脂No.6は、アミン価が70mgKOH/g、数平均分子量が1,700であった。
【0080】
製造例7:硬化剤の製造
イソホロンジイソシアネート222部にメチルイソブチルケトン44部を加え、70℃に昇温した。その後、メチルエチルケトキシム174部を2時間かけて滴下して、この温度を保ちながら経時でサンプリングし、赤外吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアネートの吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分90%のブロックポリイソシアネート化合物(硬化剤)を得た。
【0081】
製造例8:エマルションNo.1の製造
上記製造例1で得た80%のアミノ基含有エポキシ樹脂No.1 87.5部(固形分70部)、製造例7で得た硬化剤No.1 33.3部(固形分30部)及び10%ギ酸10.7部を混合し、均一に攪拌した後、脱イオン水181部を強く攪拌しながら約15分かけて滴下し、固形分32.0%のエマルションNo.1を得た。
【0082】
製造例9〜17:エマルションNo.2〜No.10の製造
製造例8と同様の操作により、下記表2の組成及び配合内容のエマルションNo.2〜No.10を得た。
【0083】
【表2】

【0084】
製造例18:顔料分散用樹脂の製造
jER828EL(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名、エポキシ樹脂)1010部に、ビスフェノールA 390部、プラクセル212(ポリカプロラクトンジオール、ダイセル化学工業(株)、商品名、重量平均分子量約1,250)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1090になるまで反応させた。
【0085】
次に、ジメチルエタノールアミン134部及び濃度90%の乳酸水溶液150部を加え、120℃で4時間反応させた。次いで、メチルイソブチルケトンを加えて固形分を調整し、固形分60%のアンモニウム塩型樹脂系の顔料分散用樹脂を得た。
【0086】
製造例19:顔料分散ペーストNo.1の製造
製造例18で得た60%の顔料分散樹脂8.3部(固形分5部)、JR−600E(注3)14部(固形分14部)、カーボンMA−7(注4)0.3部(固形分0.3部)、ハイドライトPXN(注5)9.7部(固形分9.7部)、ジオクチル錫オキサイド1部(固形分1部)及び脱イオン水21.2部を混合分散し、固形分55質量%の顔料分散ペーストNo.1を得た。
【0087】
製造例20:顔料分散ペーストNo.2の製造
下記表3に示す化合物を用いる以外は製造例19と同様に操作して、顔料分散ペーストNo.2を得た。
【0088】
【表3】

【0089】
(注3)JR−600E: テイカ社製、商品名、チタン白。
(注4)カーボンMA−7: 三菱化成社製、商品名、カーボンブラック。
(注5)ハイドライトPXN: ジョージアカオリン社製、商品名、カオリン。
【0090】
製造例21:皮膜形成剤No.1の製造
製造例8で得たエマルションNo.1 219部(固形分70部)に、製造例19で得た55%顔料分散ペーストNo.1 54.5部(固形分30部)及び脱イオン水726.5部を加えて固形分10%の浴とし、次いでジルコンフッ化アンモニウム5.3部を加えて皮膜形成剤No.1を得た。
【0091】
製造例22〜32
下記表4及び表5に示す組成及び配合とする以外は、製造例21と同様にして皮膜形成剤No.2〜No.12を得た。
【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
製造例33
製造例14で得たエマルションNo.10 219部(固形分70部)に製造例19で得た55%顔料分散ペーストNo.1 54.5部(固形分30部)及び脱イオン水726.5部を加えて固形分10%の浴とし、次いでジルコンフッ化アンモンモニウム5.3部を加えて皮膜形成剤No.13を得た。
【0095】
製造例34
下記表6に示す組成及び配合とする以外は、製造例33と同様にして皮膜形成剤No.14を得た。
【0096】
【表6】

【0097】
実施例1
皮膜形成剤No.1の浴を28℃に調整し、冷延鋼板(70mm×150mm×0.8mm)を陰極(極間距離15cm)として浸漬し、第1段目を塗装電圧:5V、通電時間:60秒間の条件下で、そして第2段目を塗装電圧:150V、通電時間:180秒間の条件下で、乾燥膜厚が20μmとなるように通電を行った。得られた皮膜を電気乾燥機によって170℃で20分間焼付け乾燥し、試験板No.1を得た。
【0098】
実施例2〜12
下記表7及び表8に示す皮膜形成剤及び塗装条件を用いる以外は、実施例1と同様にして試験板No.2〜No.12を得た。
【0099】
【表7】

【0100】
【表8】

【0101】
比較例1〜6
表9に示す皮膜形成剤及び塗装条件を用いる以外は、実施例1と同様にして試験板No.13〜No.20を得た。
【0102】
【表9】

【0103】
(注6)電着塗装性:
20μmの乾燥塗膜が得られる条件にて電着塗装を行った後、水洗し、170℃で20分間焼付け乾燥した後、目視でワキ、ヘコミ、ピンホール、平滑性を評価した。
○は問題なく良好である。
△はワキ、ヘコミ、ピンホール、平滑性のいずれかの低下がみられる。
×はワキ、ヘコミ、平滑性のいずれかの低下が著しくみられる。
【0104】
(注7)皮膜形成剤安定性:
各皮膜形成剤を密閉容器内で30℃にて30日間攪拌した後、皮膜形成剤を400メッシュ濾過網を用いて全量濾過し、濾過網上の残さ量(mg/L)を測定した。
◎は5mg/L未満、
○は5mg/L以上で、且つ10mg/L未満、
△は10mg/L以上で、且つ15mg/L未満、
×は15mg/L以上、を示す。
【0105】
(注8)防食性:
試験板の素地に達するように電着塗膜にナイフでクロスカット傷を入れ、これを用いJISZ−2371に準じて480時間耐塩水噴霧試験を行った。評価はナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
◎は錆、フクレの最大幅がカット部より2mm未満(片側)であり、
○は錆、フクレの最大幅が且つト部より2mm以上で且つ3mm未満(片側)であり

△は錆、フクレの最大幅が且つト部より3mm以上で且つ4mm未満(片側)であり

×は錆、フクレの最大幅が且つト部より4mm以上(片側)である、
ことを示す。
【0106】
(注9)耐ばくろ性:
試験板に、スプレー塗装方法で、水性中塗り塗料:WP−300(関西ペイント株式会社製、商品名)を硬化膜厚が25μmとなるように塗装した後、電気熱風乾燥器で140℃×30分焼き付けを行なった。さらに、その中塗塗膜上に、スプレー塗装方法で、上塗り塗料:ネオアミラック6000(関西ペイント株式会社製、商品名)を硬化膜厚が35μmとなるように塗装した後、電気熱風乾燥器で140℃×30分焼き付けを行ない、暴露試験板を作製した。
【0107】
得られた暴露試験板上の塗膜に、素地に達するようにナイフでクロスカットキズを入れ、これを千葉県千倉町で、水平にて1年間暴露した後、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
◎は錆またはフクレの最大幅が且つト部より2mm未満(片側)であり、
○は錆またはフクレの最大幅が且つト部より2mm以上で且つ3mm未満(片側)で
あり、
△は錆またはフクレの最大幅が且つト部より3mm以上で且つ4mm未満(片側)で
あり、
×は錆またはフクレの最大幅が且つト部より4mm以上(片側)である、
ことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム化合物(A)を金属質量換算で30〜20,000ppm含有し、且つ基体樹脂として、下記式(1)
【化1】

[式中、nは1〜50の整数である]
で示されるジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール類(a3)を反応させてなるエポキシ樹脂(a)とアミノ基含有化合物(b)とを反応させることにより得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)を含んでなる水性皮膜形成剤(I)を含有する電着浴を用い、金属基材を陰極として塗装電圧(V)1〜50Vで10〜360秒間通電することにより1段目の電着塗装を行い、次いで、金属基材を陰極として塗装電圧(V)50〜400Vで60〜600秒間通電することにより2段目以降の電着塗装を行うことからなり、塗装電圧(V)と塗装電圧(V)の差が10V以上であることを特徴とする、金属基材に2段階以上の多段階通電方法によって皮膜を形成する方法。
【請求項2】
ジエポキシド化合物(a1)の量が、ジエポキシド化合物(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とビスフェノール類(a3)の合計固形分を基準にして20〜70質量%であり、且つアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)の固形分を基準にして15〜50質量%である請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項3】
水性皮膜形成剤(I)が、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)を樹脂成分の合計固形分を基準にして40〜80質量%含有する請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項4】
水性皮膜形成剤(I)がブロック化ポリイソシアネート化合物をさらに含んでなる請求項1又は2に記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膜形成方法により得られた塗装物品。

【公開番号】特開2009−280884(P2009−280884A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136735(P2008−136735)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】