説明

皮膜形成用ガラス組成物

【課題】塩素もしくは塩化物と反応し難く、耐塩化物性に優れ、かつ耐熱性を有したガラス組成物に関するもので、塩素成分を含む高温の溶融塩による腐食から、ステンレス鋼等を保護する皮膜を形成するための皮膜形成用ガラス組成物及びその利用方法を提供すること。
【解決手段】モル%で表して、Pが30〜80、Feが0〜50、Alが0〜30、Bが0〜15、TiOが0〜40、ZrOが0〜10、RO(LiO、NaO、KOから選択される1種以上の合計)が0〜15、R’O(MgO、CaO、SrO、BaOから選択される1種以上の合計)が0〜15で、かつ、Al+B+TiO+ZrOが1〜65、RO+R’Oが0〜20からなる軟化点が550℃以上で、かつ、塩素または塩化物に対する耐性に優れた皮膜形成用ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素もしくは塩化物と反応し難く、耐塩化物性に優れ、かつ耐熱性を有したガラス組成物に関するもので、塩素成分を含む高温の溶融塩による腐食から、ステンレス鋼等を保護する皮膜を形成するための皮膜形成用ガラス組成物及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩素あるいは塩化物に対する耐食性に優れた材料は広く切望されている。
【0003】
例えば、ごみ焼却設備があげられる。人が生活していく上でごみは必ず発生するものであり、これらを処理・処分する必要がある。近年、最終処分場の逼迫、高度資源・エネルギーの循環などの観点から、ごみを焼却処理してごみの減容化あるいはサーマルリサイクルなどの試みがなされている。しかし、ごみ中には塩や塩素系プラスチックスなどが含まれているため、ごみを燃焼させると塩化水素ガスと塩化物(NaCl、KCl、CaCl等)が発生し、このうち塩化物が融点を越えて溶融すると、燃焼設備自体や伝熱管(過熱器や空気加熱器)などにその溶融塩が付着して腐食が起こるという問題がある(例えば、非特許文献1または特許文献1参照)。特にこのような塩化水素ガスと塩化物の腐食は、腐食生成物である金属塩化物の蒸気圧が高いため保護皮膜が形成されないので腐食の進行を抑制できず、著しく腐食する。また、塩素を含むと化合物の溶融開始温度が大きく低下するため、比較的低い温度でも大きな腐食を生じることがある。
【0004】
またごみを燃焼させて水蒸気を発生させる廃熱ボイラでも、溶融塩による過熱器管の腐食が生じるために、石炭焚きボイラにおけるように500℃以上の過熱蒸気をつくることができず、最高でも300℃程度であるのでサーマルリサイクルの効率を低下させ、さらにはダイオキシン類の発生が懸念される。
【0005】
このように、塩化水素ガスと塩化物の高温腐食は、焼却設備やボイラなどの設備自体の直接的な損害ばかりでなく、省エネルギーやエネルギーリサイクルの高効率化を妨げ、さらには燃焼低温化によるダイオキシン類等有害物質の発生が懸念される。従って、前記問題に対処するために、高温でも塩化水素ガスと塩化物の腐食に強い材料の開発が重要な課題となっている。
【0006】
そこで、このような高温腐食を抑制するために、高温腐食の抑制方法として、燃焼ガス中にカリウムを含む有機化合物及び無機化合物を添加することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。またNiやCrの含有量を高めて耐高温腐食性を向上させた金属材料も提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。さらに、耐高温腐食性を向上させるために金属材料に合金あるいはリン酸塩化合物をコーティングする方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−82901号公報
【特許文献2】特開2009−185683号公報
【特許文献3】特開2007−224425号公報
【特許文献4】特開2006−265580号公報
【特許文献5】特開2008−231562号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「鋳造合金の耐高温腐食性と溶接性の評価」小野昇造、入江隆博、鎌田勤也、松野進、三井造船技報、NO.196、2009−2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特開2009−185683号公報に記載のものは、高温時での腐食に関して根本的な対策になっておらず、また条件次第ではより腐食を促進する恐れがある。また、上記特開2009−185683号公報や特開2007−224425号公報に記載の金属材料はNiやCrの含有量を高めたがゆえに、コストが高いという問題点がある。さらに、上記特開2008−231562号公報に記載のものは合金では酸化など合金自体の安定性から必ずしも耐久性があるとは言えず、また合金より安定なリン酸塩化合物では密着性が良好な皮膜を形成することが難しく、またLa等の成分をしているため汎用性にかけるという問題点がある。
【0010】
従って、塩化水素ガスと塩化物の高温腐食性に優れ、また密着性が良好な皮膜を形成し、かつ汎用性の安価な材料が切望されている。
【0011】
本発明の目的は、上記問題を解決するために、塩素もしくは塩化物と反応し難く、耐塩化物性に優れ、かつ耐熱性を有したガラス組成物に関するもので、塩素成分を含む高温の溶融塩による腐食から、ステンレス鋼等を保護する皮膜を形成するための皮膜形成用ガラス組成物及びその利用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、モル%で表して、Pが30〜80、Feが0〜50、Alが0〜30、Bが0〜15、TiOが0〜40、ZrOが0〜10、RO(LiO、NaO、KOから選択される1種以上の合計)が0〜15、R’O(MgO、CaO、SrO、BaOから選択される1種以上の合計)が0〜15で、かつAl+B+TiO+ZrOが1〜65、RO+R’Oが0〜20からなる軟化点が550℃以上で、かつ、塩素または塩化物に対する耐性に優れた皮膜形成用ガラス組成物である。
【0013】
また、モル%で表して、(RO+R’O)/(Al+B+TiO+ZrO)の比が1.0未満であることを特徴とする、上記の皮膜形成用ガラス組成物である。
【0014】
さらに、前記皮膜形成用ガラス組成物を含んでなる皮膜が形成され、またFe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む基材の表面に形成されている、上記の構造体である。
【0015】
またさらに、塩素または塩化物による腐食から基材を保護する方法であって、基材の表面に、前記皮膜形成用ガラス組成物を含んでなる皮膜を形成する工程を含んでいる方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、塩素もしくは塩化物と反応し難く、耐塩化物性を有し、かつ耐熱性も有するため、特に、高温で塩素もしくは塩化物による腐食が懸念される基材の保護や、塩化物系の溶融塩を処理する設備の保護などが可能となり、焼却設備やボイラなどでの省エネルギーやエネルギーリサイクルの高効率化を促進し、さらにはダイオキシン類等有害物質の発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は前記問題点を考慮し、塩素もしくは塩化物と反応し難く、耐塩化物性に優れ、更に耐熱性を有することを特徴とするP系のガラス組成物である。
【0018】
本発明の成分系においてPはガラスの主成分であり、ガラス溶融を容易とするための必須成分である。ガラス中にモル%で30〜80%の範囲で含有させることが望ましい。30%未満では上記作用を発揮しえずかつガラス化が困難となり、80%を超えるとガラスの耐湿性が悪くなる。より好ましくは35〜75%の範囲である。
【0019】
Feは、P系ガラスで問題となる吸湿性を改善し、ガラスを安定化させる成分である。また、ガラスの耐熱性を向上させる成分である。ガラス中にモル%で0〜50%の範囲で含有させることが望ましい。50%を超えるとガラス化しなくなる。より好ましくは1〜45%の範囲である。
【0020】
Alは、Feと同様に、P系ガラスで問題となる吸湿性を改善する効果がある。また、塩化物との反応を抑制し、ガラス作製の際に結晶化を抑制して安定化させる成分である。また、ガラスの耐熱性を向上させる成分である。ガラス中にモル%で0〜30%の範囲で含有させることが好ましい。30%を超えるとガラス化しなくなる。好ましくは0〜25%、より好ましくは0〜23%の範囲である。
はガラスの軟化点を適宜に調整でき、かつ、ガラス作製の際に結晶化を抑制して安定化させる成分である。ガラス中にモル%で0〜15%の範囲で含有させることが好ましい。15%を超えるとガラス化が困難となる。好ましくは0〜12%の範囲である。
【0021】
TiOは、Alと同様にガラスの耐熱性を向上させ、またに塩化物との反応を抑制する成分である。ガラス中にモル%で0〜40%の範囲で含有させることが好ましい。40%を超えるとガラス化が困難となる。より好ましくは0〜35%の範囲である。
【0022】
ZrOは、AlやTiOと同様にガラスの耐熱性を向上させる成分である。ガラス中にモル%で0〜10%の範囲で含有させることが好ましい。10%を超えるとガラス化が困難となる。より好ましくは0〜8%の範囲である。
【0023】
上記組成範囲内において、Al、B、TiO、ZrOのいずれか1種以上の合計(Al+B+TiO+ZrO)が、モル%で1〜65の範囲とすることで塩化物に対する耐性が得られる。1未満だと上記効果は得られず、65以上だとガラス化しない。
【0024】
O(LiO、NaO、KO)はガラス溶融を容易にし、軟化点を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜15%の範囲で含有させることが望ましい。15%を超えると軟化点が高くなり過ぎ耐熱性が悪くなる。また、塩化物との反応が促進される。
【0025】
R’O(MgO、CaO、SrO、BaO)は、RO(LiO+NaO+KO)と同様に、ガラス溶融を容易にし、軟化点を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜15%の範囲で含有させることが望ましい。15%を超えると軟化点が高くなり過ぎ耐熱性が悪くなる。また、塩化物との反応が促進される。
【0026】
上記組成範囲内において、RO(LiO、NaO、KO)、R’O(MgO、CaO、SrO、BaO)のいずれか1種以上の合計(RO+R’O)が、モル%で0〜20の範囲とすることで塩化物に対する耐性が得られる。20以上だと上記効果は得られず塩化物と反応し易くなる。より好ましくは0〜15%の範囲である。
【0027】
さらに、(RO+R’O)/(Al+B+TiO+ZrO)の比が1.0未満とすることで、塩化物に対する耐性が得られ、さらに耐熱性も得られる。1.0以上では、上記効果が得られず、耐塩化物性および耐熱性が悪化する。
【0028】
この他にも、一般的な酸化物で表すZnO、CeO、In、V5、SnO、TeOなど、あるいはFやClなどを上記性質を損なわない範囲で3%まで加えてもよい。3%を超えると、溶融塩との反応がし易くなり、ガラスの性質及び形状を維持出来なくなる。
【0029】
上記成分系において、塩素もしくは塩化物に耐性があれば、ガラスあるいは結晶化ガラスのどちらでも構わない。
【0030】
なお本発明のガラス組成物は、とりわけ塩素あるいは塩化物に対する耐性が高く、塩化物とはNaCl、KCl、CaCl等の塩化物の単一、あるいは混合溶融塩も含み、またPやS等の他の成分を含有しても良い。
【0031】
また、ガラス組成物の軟化点は550℃以上であることを特徴とする。軟化点が550℃未満であると、その皮膜が高温での使用に耐えられなくなり、形状及びその性能を維持出来なくなる。
【0032】
本発明のガラス組成物は、特に形状を問わず、例えば、バルク状、粉末状あるいは繊維状でも構わないが、いずれにしても基材上に皮膜を形成しやすい形状にするのが望ましい。特に、粉末状であれば、基材に塗布・焼成あるいは溶射などの方法により良好な皮膜を形成できる。
【0033】
皮膜を形成する方法は、特に方法を問わず、例えば、有機オイルと混練してペースト化した後に基材表面に塗布・焼成する方法や加熱したガラス粉末を基材表面に吹き付ける方法などが挙げられるが、いずれの方法にしても密着性が良好な皮膜を形成することが望ましい。特に、溶射であれば、基材との密着性が良好な皮膜を形成することができる。
【0034】
上記皮膜は、様々な基材の表面に皮膜を形成することができ、本発明に係る皮膜形成ガラス組成物によって皮膜を形成可能な基材としては、特に限定されるものではないが、中でもFe、Ni、Cr及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属を含む基材、好適に皮膜を形成することができる。より具体的にはFeやNi、Cr等を主成分とする金属基材、例えばステンレス鋼等にも好適に皮膜を形成することができる。
【0035】
なお上記皮膜において、金属粒子あるいはセラミックス粒子をその性質の損なわない範囲で10%まで加えてもよい。含まれる粒子の種類によって、皮膜の基材に対する密着性を向上させたり、得られる皮膜に耐高温溶融塩腐食性以外の機能を持たせたりすることができる。金属粒子やセラミックス粒子の種類としては特に限定されるものではないが、例えば、金属粒子としてはPt、PdやIr等が、セラミックス粒子としてはAlやZrO等が例示できる。
【0036】
また上記皮膜は様々な厚さの皮膜を形成することが可能で、例えば、0.1μm以上500μm以下、さらには100μm以下の厚さの皮膜を好適に形成することができ、このような厚さの皮膜であっても基材を保護することが可能である。
【0037】
本発明に係る構造体は、前記皮膜形成用ガラス組成物を含んでなる皮膜が形成されていればよく、例えば、上記皮膜が形成されたステンレス鋼等の金属材料、当該金属材料から形成されたボイラ管や車の排気ガス管、あるいは燃焼設備等の金属製品を挙げることができる。
【0038】
また本発明に係る塩素または塩化物による腐食から基材を保護する方法に関しては、前記基材の表面に、前記皮膜形成用ガラス組成物を含んでなる皮膜を形成する工程を含めば良い。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づき、説明する。
【0040】
源として正リン酸を、Fe源として酸化鉄を、Al源として酸化アルミニウムを、B源として硼酸を、TiO源として酸化チタンを、ZrO源として酸化ジルコニウムを、KO源として炭酸カリウムを使用し、これらを表の組成となるべく調合したうえで、白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1100〜1300℃、1時間加熱溶融した。溶融ガラスを鋳型に流し込み、ブロック状とし、ガラス転移点以上に保持した電気炉内に移入して徐冷し、表1の実施例1〜7、表2の比較例1〜3に示す組成のガラスを得た。
【表1】

【表2】

【0041】
このようにして作製した各試料について、軟化点、塩化物の溶融塩への耐性を評価した。
【0042】
軟化点は、熱分析装置TG―DTA(リガク(株)製)を用いて測定した。
【0043】
塩化物の溶融塩への耐性評価は、LiCl−KCl―CsCl混合塩を、乾燥した大気中500℃で加熱することで溶融塩とし、上記ガラス試料をその溶融塩に5時間浸漬し、溶融塩への耐性を評価した。
【0044】
(結果)
組成および、各種試験結果を表に示す。
【0045】
表から明らかなように、実施例1〜7の各試料は、各組成が適切な範囲であるため、安定なガラスが得られ、また軟化点も所望の範囲に入っていた。塩化物の溶融塩へ浸漬後もガラス質及び形状をそのまま維持しており、溶融塩への耐性が有る。
【0046】
これらに対して、比較例1〜3の試料は、軟化点は所望の値が得られたものの、組成範囲が適切ではなく、溶融塩と反応し、結晶化もしくは形状が維持出来ずに溶解しており、溶融塩への耐性は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
高温で塩素もしくは塩化物による腐食が懸念される基材の保護や、塩化物系の溶融塩を処理する設備の保護などが可能であるため、各種配管、焼却設備やボイラなどで使用できる。また、概設備において、省エネルギーやエネルギーリサイクルの高効率化を促進し、さらには塩素起因であるダイオキシン類等有害物質の発生を抑制できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で表して、
が30〜80、
Feが0〜50、
Alが0〜30、
が0〜15、
TiOが0〜40、
ZrOが0〜10、
O(LiO、NaO、KOから選択される1種以上の合計)が0〜15、
R’O(MgO、CaO、SrO、BaOから選択される1種以上の合計)が0〜15で、
Al+B+TiO+ZrOが1〜65、
O+R’Oが0〜20
からなる軟化点が550℃以上で、かつ、塩素または塩化物に対する耐食性に優れた皮膜形成用ガラス組成物。
【請求項2】
モル%で表して、(RO+R’O)/(Al+B+TiO+ZrO)の比が1.0未満であることを特徴とする請求項1に記載の皮膜形成用ガラス組成物。
【請求項3】
上記皮膜形成用ガラス組成物を含んでなる皮膜が基材表面に形成されていることを特徴とする構造体。
【請求項4】
上記皮膜は、Fe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む基材の表面に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
塩素または塩化物による腐食から基材を保護する方法であって、上記基材の表面に、請求項1または2に記載の皮膜形成用ガラス組成物を含んでなる皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする方法。



【公開番号】特開2011−219325(P2011−219325A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92465(P2010−92465)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】