説明

皮革様シートおよびその製造方法

【課題】
本発明の課題は、ドライクリーニング堅牢度に優れ、柔軟な風合いを有し、かつ、形態安定性に優れる皮革様シートを提供することにある。
【解決手段】
以下の工程により製造することを特徴とする皮革様シートの製造方法。
A.単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が発生可能な、単繊維繊度1〜10デシテックスの極細繊維発生型繊維をニードルパンチにより絡合させる工程
B.0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維を発生させた後に、10MPa以上の噴射圧力で高速流体処理し、極細繊維不織布層を得る工程
C.極細繊維不織布層における不織布をバフィングする工程
D.極細繊維不織布層を染色する工程
E.高分子弾性体をシート表面に塗布して、非拘束極細繊維と高分子弾性体の混在層を形成する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堅牢度や充実感に優れる銀付き調またはヌバック調の皮革様シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表層に高分子弾性体層を有する皮革様シートは、その表面の立毛状態の有無や立毛数、立毛長等の差異によって銀付き調や銀擦り調、ヌバック調等の名称で呼ばれ、衣料や家具、自動車シート等に多く使用されている。これらの皮革様シートは、一般に不織布に高分子弾性体を含浸した基材に高分子弾性体を塗布して製造される(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、高分子弾性体を塗布する際、使用する熱や溶剤等によって不織布内の高分子弾性体に汚染した染料が表面に移行し、堅牢度が低下する問題があった。また、高分子弾性体の存在によりドレープ性が低下し、またゴム状の反発感から低反発で柔軟な風合いを得ることが困難であった。
【0004】
一方、高分子弾性体を含浸しない不織布からなるものは、上記課題を解決することが可能である。例えば、未含浸層と含浸層とからなる皮革様シートが提案されている(例えば、特許文献2)。この方法であれば、高分子弾性体を含浸した不織布を基材とした皮革様シートと比較してゴム状反発を抑制でき、低反発で風合いに優れる皮革様シートを得ることができる。しかし、逆に形態安定性は低下し、長期間の使用によって皮革様シートに歪が生じ、型崩れしやすくなる問題がある。従って、ドレープ性や柔軟な風合いと形態安定性を同時に両立することは困難であった。
【0005】
なお、基材となる不織布に高強力織編物を積層することで形態安定性を向上させる方法がある(例えば、特許文献3)。この方法であれば、荷重に対して高い形態保持性を有するため定荷重法のバギングが優れると想定されるが、一旦伸びると回復しにくいために定伸長法のバギングは不十分となり、十分な形態安定性を得るには至っていない。また、当該技術を用いた場合、不織布に塗布した高分子弾性体が剥離しやすい問題があった。さらに、高分子弾性体を塗布すると、高分子弾性体が不織布に浸透して風合いが硬くなり、高分子弾性体が含浸されていない不織布を用いる効果が薄れる問題があった。
【特許文献1】特開平7−133592号公報
【特許文献2】特開2004−197232号公報
【特許文献3】特開平10−131058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ドライクリーニング堅牢度に優れ、柔軟な風合いを有し、かつ、形態安定性に優れる皮革様シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために以下の構成を有する。すなわち、本発明の皮革様シートは、0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が相互に絡合し、かつ実質的に繊維素材からなる不織布で構成される不織布層と、非拘束極細繊維に高分子弾性体が付与された混在層とからなることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の皮革様シートの製造方法は、以下の工程により製造することを特徴とするものである。
A.単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が発生可能な、単繊維繊度1〜10デシテックスの極細繊維発生型繊維をニードルパンチにより絡合させる工程
B.0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維を発生させた後に、10MPa以上の噴射圧力で高速流体処理し、極細繊維不織布層を得る工程
C.極細繊維不織布層における不織布をバフィングする工程
D.極細繊維不織布層を染色する工程
E.高分子弾性体をシート表面に塗布して、非拘束極細繊維と高分子弾性体の混在層を形成する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮革様シートは、堅牢度や形態安定性、耐摩耗性に優れているため、衣料や家具、カーシート、雑貨等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の皮革様シートを構成する不織布の単繊維繊度は0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維からなる。単繊維繊度は、好ましくは0.001〜0.3デシテックス、より好ましくは0.005〜0.15デシテックスである。単繊維繊度が0.0001デシテックス未満であると、皮革様シートの強度が低下するため好ましくない。また単繊維繊度が0.5デシテックスを超えると、皮革様シートの表面品位が低下したり、繊維の絡合が不十分になって形態安定性が低下したりする他、風合いの硬化等の問題も発生するため好ましくない。なお、本発明の効果が損なわれない範囲で、単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維もしくは単繊維繊度が0.5デシテックスを超える繊維が含まれていてもよい。単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維および単繊維繊度が0.5デシテックスを超える繊維の含有量は、数にして、不織布を構成する繊維の30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、全く含まれないことがもっとも好ましい。
【0011】
本発明でいう単繊維繊度は、繊維断面を100個無作為に選んで断面積を測定した後、100個の繊維断面積の数平均を求め、繊維の比重から繊度を計算により求めた値を用いる。なお、繊維の比重はJIS L 1015 8.14.2(1999)に従って求めた値を用いる。
【0012】
本発明における不織布は、極細繊維が相互に絡合しているものである。繊維を絡み合わせる絡合により、皮革様シートの形態安定性が向上する。本発明においては、高分子弾性体等により固定せずとも、例えば家庭洗濯を行った場合でも不織布形状を維持できる程度に、極細繊維が相互に絡み合っている状態が好ましい。これにより、優れた耐バギング性を得ることができると共に、緻密な表面外観を得ることが可能となる。特に繊維長が1cm以上の場合、形態安定性向上効果が顕著である。従来の極細繊維からなる皮革様シートにおいて、繊維長が1cm以上の場合、極細繊維が集束した繊維束の状態で絡合した構造を有しているのが通常であるが、本発明の皮革様シートは、繊維束がほとんど確認できない程度にまで極細繊維同士が相互に絡合した構造を有しているものである。なお、本発明の効果である形態安定性や耐摩耗性が損なわれない範囲で繊維束の状態で絡合した繊維が含まれていてもよい。
【0013】
不織布は短繊維からなるものでも、長繊維からなるものでもよい。短繊維不織布は高品位な表面となる点で好ましいが、長繊維不織布は製造工程を単純化できる点で好ましい。また、短繊維不織布の場合、その製造方法から乾式不織布と湿式不織布に類別することができるが、乾式不織布が高品位な表面を形成できるため好ましい。
【0014】
短繊維の場合の繊維長は、特に限定されるものではないが、20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましい。また、100mm以下が好ましく、70mm以下がさらに好ましい。繊維長が20mm以上となると耐摩耗性が向上し、100mm以下とすると表面品位が向上する傾向があるので好ましい。また、さらに、表面品位を向上させる目的で、20mm〜100mmの極細繊維の中に、0.1mm以上、20mm未満の極細繊維を混在させることも、好ましい態様である。
【0015】
本発明でいう繊維長は、任意の3箇所からそれぞれ繊維を100本抜き出して繊維長を測定し、測定した300本分の繊維長の数平均を用いる。
【0016】
また、長繊維不織布の場合、スパンボンド法によって得られる不織布を用いることができ、連続フィラメントの状態で捕集されるものであれば、皮革様シートとする過程において繊維の一部が切断されていてもよい。
【0017】
本発明において不織布は実質的に繊維素材からなるものである。これにより、高分子弾性体を表面に塗布する際に、不織布に含浸された高分子弾性体に汚染している染料等のブリードを抑えることができ、堅牢度や耐変色性が向上できる。また、柔軟性にも優れる。
【0018】
本発明でいう、実質的に繊維素材からなるとは、実質的に高分子弾性体を含まないものをいう。実質的に高分子弾性体を含まないとは、不織布に高分子弾性体が全く含まれていないものの他、本発明の効果を損なわない範囲で少量の高分子弾性体が含まれていることを許容するものである。具体的には、皮革様シートに含まれる高分子弾性体が5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることがさらに好ましく、全く高分子弾性体を含まないことが最も好ましい。高分子弾性体が5重量%以下であれば、堅牢度の低下が抑制できる。
【0019】
また、本発明の不織布層は、JIS L 1061(1987)B−1法(定荷重法)で得られる耐バギング性の値が4〜8mmであることが好ましい。より好ましくは、7mm以下であり、さらに好ましくは6mm以下である。定荷重法における耐バギング性の値が8mm以下であると、特に力の掛かりやすい部位において型崩れしにくくなる。一方、この値が小さいほど耐バギング性が良いことを示すが、本発明においては、衣料の着用感や成型体での成型性を重視し、なじみ等が優れるものを提供することを目的としていることから、好ましくは4mm以上であり、より好ましくは5mm以上である。
【0020】
また、本発明の不織布層は、さらにJIS L 1061(1987)B−2法(定伸長法)で得られる耐バギング性の値が4〜8mmであることが好ましい。より好ましくは7mm以下であり、さらに好ましくは6mm以下である。定伸長法における耐バギング性の値が8mm以下であると、特に伸びやすい部分において型崩れがしにくくなる。また、本発明においては、衣料の着用感や成型体での成型性を重視し、なじみ等が優れるものを提供することを目的としていることから、好ましくは4mm以上であり、より好ましくは5mm以上である。
【0021】
特に、定伸長法及び定荷重法の耐バギング性を特定の範囲で両立させることにより、さらに型崩れなく長期に使用できる衣料や資材を提供することができる。また、銀面層との剥離が生じにくく、高品質な皮革様シートとすることができる。銀付き調皮革様シートを得るためには、ポリウレタン等の高分子弾性体層からなる銀面層を表層に形成させるのが一般的である。不織布層に高分子弾性体が存在している場合には、当該高分子弾性体に汚染している染料が移行し、堅牢度が低下する問題があるが、本発明では堅牢度がほとんど低下しないため、本発明の効果がより発揮できる点で好ましい態様である。
【0022】
ここで、不織布層の伸長率が5%以上であれば、特に定伸長法による耐バギング性を向上させることができる点で好ましい。伸長率は高いほどよい傾向を示すが、25%以下であると、定荷重法による耐バギング性が向上するため好ましい。
【0023】
さらに、伸長率はタテ方向およびヨコ方向のいずれも5〜25%の範囲にあることが好ましい。一方のみであると、上述した定伸長法または定荷重法のいずれか、又は、その両方の耐バギング性が劣る傾向があるため、いずれも5〜25%の範囲にあることが好ましいのである。タテ方向とヨコ方向の伸長率の比は、定伸長法及び定荷重法の耐バギング性を本発明の数値範囲とするために重要であり、タテ方向の伸長率をヨコ方向の伸長率で割った値が0.6〜1.3の範囲であることが好ましく、0.6〜1.1であることがより好ましく、0.7〜1.0であることがさらに好ましい。0.6以上および1.3以下であると、荷重や伸長が一定方向に偏ることなく、良好な耐バギング性を得ることができる。
【0024】
本発明でいう伸長率とはJIS L 1096(1999)8.14.1 A法(定速伸長法)で規定される試験片幅5cm(つかみ間隔20cm)に対し14.7Nの荷重をかけた場合(試験片幅1cmあたり2.94N)の伸長率(%)をいう。
【0025】
また、本発明の不織布層は、いずれか一方向の伸長回復率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。伸長回復率が80%以上であれば、繰り返しの伸長による型崩れを起こしにくくなるため好ましい。なお、タテ方向およびヨコ方向のいずれも、80%以上であることがより好ましい。いずれの方向も伸長回復率に優れることによって、本発明の特に定伸長法における耐バギング性を向上させることができる。ここで、伸長回復率とは、JIS L 1096(1999)8.14.2 A法(つかみ間隔20cm)で規定されるものをいう。
【0026】
なお、本発明において、不織布層の形成方向をタテ方向とし、幅方向をヨコ方向とするものである。形成方向は、構成する繊維の配向方向、ニードルパンチや高速流体処理等によるスジ跡や処理跡、織編物の組織等の複数の要素から、一般に判断可能である。これらの複数の要素による判断が相反している、明確な配向がない、またはスジ跡などがない等の理由で、明確なタテ方向の推定や判断が不可能な場合には、引張強力が最大となる方向をタテ方向として、それと直交する方向をヨコ方向とするものである。
【0027】
不織布層の目付は、50g/m以上であることが好ましく、80g/m以上であることがより好ましく、100g/m以上であることがさらに好ましい。500g/m以下であることが好ましく、400g/m以下であることがより好ましく、300g/m以下であることがさらに好ましい。50g/m以上であれば、緻密な表面層の形成が容易になる。また500g/m以下であれば、風合いが柔軟となり、また、より高い耐摩耗性を得ることができる。
【0028】
なお、上記に述べた不織布層は、後述する織編物が積層されてなるときは、積層された織編物を含んだものを指すものとする。
【0029】
不織布層を構成する繊維は、非弾性繊維からなることが好ましい。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる繊維が好ましく用いられる。ポリエーテルエステル系繊維やいわゆるスパンデックス等のポリウレタン系繊維などの弾性繊維は好ましくない。
【0030】
ポリエステルとしては、繊維化が可能なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0031】
また、ポリアミドとしては、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、等のアミド結合を有するポリマーを挙げることができる。
【0032】
これらのポリマーには、隠蔽性を向上させるためにポリマー中に酸化チタン粒子等の無機粒子を添加してもよいし、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱材、抗菌剤等、種々目的に応じて添加することもできる。
【0033】
また、本発明では不織布層として不織布と織編物が積層されてなることが、良好な耐バギング性を得ることができる点で好ましい。織編物がない場合、高分子弾性体を多量に塗布することで、例えば定荷重法における耐バギング性を向上させることは可能である。しかし、風合いが硬化すると共に、逆に定伸長法における耐バギング性は低下する傾向にある。ここで、織編物とは織物と編物を指すが、編物は織物と比較して形態安定性に劣る傾向があるため、織物であることがより好ましい。
【0034】
織編物に用いられる繊維は特に限定されるものではないが、皮革様シートの伸長率や耐バギング性に大きく影響する点に留意して選択し、好ましくは伸長性を有する繊維である。また、表面への露出によるいらつきを防止するため、非弾性繊維であることが好ましい。また、リサイクル性や染色性等を考慮して、皮革様シートを構成する繊維、すなわち、不織布及び織編物を構成する繊維が単一素材となるように選択することがより好ましい。
【0035】
ここで単一素材とは、同一の染料で実用上問題ないレベルで染色できる素材の範囲を示し、例えばポリエステル単一素材であれば、ポリエチレンテレフタレートのほか、分散染料で染色できる素材としてポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等や、その共重合体を含むが、堅牢度に問題が生じるナイロン6は含まない。逆に、ポリアミド単一素材であれば、酸性染料で染色できるナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等や、その共重合体等をいう。
【0036】
また、織編物の伸長率はいずれか一方向の5〜40%であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましく、10〜25%であることがさらに好ましい。特に伸長率を5%以上とすると、定伸長法の耐バギング性が向上できる点で好ましい。また、40%以下とすると、不織布層の定荷重法の耐バギング性が向上でき、ドレープ性や形態安定性の悪化を防ぐことができる点で好ましい。なお、タテ方向、ヨコ方向のいずれも上記範囲とすることが、良好な耐バギング性を得る点で好ましい態様である。
【0037】
さらに、不織布層の伸長率は織編物が積層されている場合、その伸長率に大きく影響されるため、タテ方向の伸長率をヨコ方向の伸長率で割った値を0.6〜1.3の範囲とするために、織編物のタテ方向の伸長率とヨコ方向の伸長率を0.6〜2.5の範囲とすることが好ましい。ここで、タテ方向の伸長率をヨコ方向の伸長率で割った値について、織編物の方を不織布よりも大きくしておくことが有効である。これは、ヨコ方向の伸長率は織編物の影響を比較的強く反映できる半面、タテ方向の伸長率は、工程張力により低下する傾向があるためである。
【0038】
織編物の組織は特に限定されるものではなく、織物としては例えば平織、綾織、朱子織等が挙げられ、編物としてはたて編み、よこ編みが挙げられる。この内、コストや平滑性の点で平織であることが好ましいが、通気量向上の点で紋紗等適宜選択することができる。
【0039】
また、織編物の目付は、目的とする皮革様シートの目付に合わせ適宜調整することができる。衣料用途の場合は10g/m以上であることが好ましく、30g/m以上であることがより好ましい。また、300g/m以下であることが好ましく、200g/m以下であることがより好ましい。織編物の目付が10g/m未満であると、織編物の形態が不安定であり、取り扱い性が悪くなり、300g/mを超えると得られる皮革様シートのドレープ性が低下するため好ましくない。
【0040】
織編物の皮革様シートにおける重量比は、皮革様シート全体の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。また、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。重量比が10%以上となると耐バギング性や、織編物の有する特性を皮革様シートに反映することが容易となる。ただし、重量比が50%を超えると、得られた皮革様シートが織編物様の風合いとなり、皮革様シートとしての高級感が得られにくくなると共に、耐バギング性も低下するため、好ましくない。
【0041】
なお、本発明でいう不織布層とは、実質的に繊維素材からなる不織布を有する層であって、本発明の皮革様シートから後述する非拘束極細繊維と高分子弾性体の混在層を除いた部分をいう。よって、本発明における不織布層の物性等の値は、高分子弾性体を塗布して混在層を形成させる前の不織布、又は、皮革様シートから高分子弾性体層を肉眼で明瞭に観察できないまで研削等により除いた部分、につき測定し、いずれかが本発明の範囲に含まれるものであれば良い。
【0042】
本発明の皮革様シートは、非拘束極細繊維に高分子弾性体が付与された、これらが混在した層(混在層)を有することを特徴とする。非拘束繊維に高分子弾性体を付与することによって、拘束繊維に高分子弾性体を付与した場合と比較して、より柔軟な風合いを得ることが可能となる。非拘束繊維とは、高分子弾性体が付与される前においては、繊維が手などでこする程度で容易に方向が変わる程度の自由度を有する繊維をいい、例えば織編物やニードルパンチや高速流体処理等によって絡合した不織布を、針布やサンドペーパーにより起毛処理して起毛された部分が挙げられる。ただし、高分子弾性体が付与された「混在層」の状態においては、高分子弾性体により「拘束」されるものである。また、実質的に絡合していない単に交差している極細繊維も含むものである。非拘束繊維として起毛処理により形成される立毛を用いる場合、その長さは、0.1〜5mmが好ましい。より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1mm以上である。また、より好ましくは4mm以下であり、さらに好ましくは3mm以下である。0.1mm以上であれば、混在層を形成することが容易となる。一方、5mm以下であれば、混在層を厚くする必要がなく、柔軟な風合いの皮革様シートとすることができる。この非拘束繊維は、布帛を構成する繊維と連続していることが、剥離強力や一体感のある風合いを得る点で好ましく、例えば上述のように、布帛を起毛して得られる繊維であることが好ましい。
【0043】
また、高分子弾性体は、より柔軟な風合いが得られる点で多孔質であることが好ましい。高分子弾性体については、特に限定されるものではないが、ポリウレタン等が柔軟性や物性を両立させることができる点で好ましい。ポリウレタンの種類としては特に制限はなく、例えばポリエーテルジオール系、ポリエステルジオール系、ポリカーボネートジオール系ポリウレタンを用いることができる。また、必要に応じて架橋剤や、コラーゲンやフィブロインなどの蛋白質、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの耐候剤、顔料、染料、難燃剤、撥水剤等を含むことができる。
【0044】
本発明に係る皮革様シートでは、非拘束極細繊維と高分子弾性体からなる混在層が存在するため、高分子弾性体のみからなる層で形成された皮革様シートと比較し、高分子弾性体が容易に剥離することなく、優れた耐摩耗性と柔軟性を得ることが可能となる。当該効果をより発揮できる点で、本発明は銀付き調皮革様シートとすることが好ましいが、当該混在層をバフィングし、ヌバック調皮革様シートとすることも可能である。
【0045】
本発明の皮革様シートの目付は、好ましくは130g/m以上であり、より好ましくは150g/m以上、さらに好ましくは170g/m以上である。また、好ましくは550g/m以下であり、より好ましくは500g/m以下、さらに好ましくは450g/m以下である。皮革様シートの目付が130g/m以上であると、形態安定性が向上すると共に、良好な反発感が得られやすくなるため好ましい。また皮革様シートの目付が550g/m以下の場合は、種々の用途への加工性が向上する傾向があるため好ましい。
【0046】
皮革様シートは染色されてなることが、特に衣料や家具、カーシート等の場合好ましい。本発明においては、不織布が実質的に繊維素材からなり、高分子弾性体をほとんど含まないため、染色されている場合であっても高分子弾性体に汚染した染料はほとんど存在しない。従って、高分子弾性体層を形成させる際に生じる染料のブリードを抑制することができ、変色の抑制の他、高いドライクリーニング堅牢度を得ることが可能となる。特に、繊維がポリエステルからなる場合、ポリエステルを染色する際に使用する分散染料が高分子弾性体に汚染しやすいことから、その効果がより顕著となる点で好ましい態様である。
【0047】
本発明の不織布層を構成する繊維は上述のように染色されてなるものであるポリエステルであり、かつ、ドライクリーニング堅牢度の汚染が3級以上であることが好ましい。より好ましくは4級以上である。3級以上であると、ドライクリーニングにおいて、他の染色物への汚染を防止することが可能となる。なお、本発明でいうドライクリーニング堅牢度の汚染とは、JIS L0860(1996)A法により測定される汚染をいう。
【0048】
本発明の皮革様シートは、本発明の効果を逸脱しない範囲において、上述した以外に、他の染料、柔軟剤、風合い調整剤、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤、耐侯剤等の機能性薬剤が含まれていてもよい。
【0049】
次に、本発明の皮革様シートを得る製造方法の一例を述べる。
【0050】
本発明の皮革様シートにおいて、不織布を構成するいわゆる極細繊維の製造方法は特に限定されず、通常のフィラメント紡糸法の他、スパンボンド法、メルトブロー法、エレクトロスピニング法、フラッシュ紡糸法等の、不織布として製造する方式であってもよい。また、極細繊維を得る手段として、直接極細繊維を紡糸する方法でもよいが、単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が発生可能な、単繊維繊度1〜10デシテックスの極細繊維発生型繊維(以下、極細繊維発生型繊維という)を紡糸し、次いで、極細繊維を発生させる方法が好ましい。
【0051】
ここで、極細繊維発生型繊維を用いて極細繊維を得る方法としては、具体的には、海島型繊維を紡糸してから海成分を除去する方法、あるいは、分割型繊維を紡糸してから分割して極細化する方法等の手段を採用することができる。
【0052】
これら手段の中でも、本発明においては、極細繊維を容易に安定して得ることができる点で、極細繊維発生型繊維によって製造することが好ましく、さらには皮革様シート状物とした場合、同種の染料で染色できる同種ポリマーからなる極細繊維を容易に得ることができる点で、海島型繊維によって製造することがより好ましい。
【0053】
海島型繊維を得る方法としては、特に限定されず、例えば、以下の(1)〜(4)に記載する方法等が挙げられる。
(1)2成分以上のポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸する方法。
(2)予め2成分以上のポリマーを混練してチップ化した後、紡糸する方法。
(3)溶融状態の2成分以上のポリマーを紡糸機のパック内で静止混練器等を用いて混合する方法。
(4)特公昭44−18369号公報、特開昭54−116417号公報等の複合口金を用いて製造する方法。
【0054】
本発明においては、いずれの方法でも良好に製造することができるが、ポリマーの選択が容易である点で上記(4)又はこれに類する方法が好ましい。
【0055】
かかる(4)の方法において、海島型繊維および海成分を除去して得られる島繊維の断面形状は特に限定されず、例えば、丸型、多角形型、Y字型、H字型、X字型、W字型、C字型、π字型等が挙げられる。
【0056】
また、用いられるポリマー種の数も特に限定されるものではないが、紡糸安定性や染色性を考慮すると2〜3成分であることが好ましく、特に海成分が1成分で、島成分が1成分の計2成分で構成されることが好ましい。このときの成分比は、島繊維の海島型繊維に対する重量比で0.3以上であることが好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。また、0.99以下であることが好ましく、0.97以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。0.3未満であると、海成分の除去率が多くなるためコスト的に好ましくない。また、0.99を超えると、島成分同士の合流が生じやすくなり、紡糸安定性の点で好ましくない。
【0057】
また、海島型繊維を製造する方法については、特に限定されず、例えば、上記(4)の方法に示した口金を用いて通常2500m/分以下の紡速で紡糸した未延伸糸を引き取った後、湿熱または乾熱、あるいはその両者によって1段〜3段延伸する方法や、4000m/分以上の紡速で引き取る方法により得ることができる。
【0058】
次いで、得られた極細繊維または極細繊維発生型繊維をウェブ化する。その方法としては、不織布が短繊維不織布の場合、カード、クロスラッパー、ランダムウエバー等を用いる乾式法や、抄紙法等の湿式法を採用することができる。また、長繊維不織布の場合は、スパンボンド法を採用することができる。
【0059】
本発明では、実質的に繊維素材からなる不織布を容易に製造できる点でニードルパンチ法と高速流体処理の2種の絡合方法を組み合わせた乾式法が好ましい。
【0060】
乾式法の場合、極細繊維発生型繊維から得られたウェブを、ニードルパンチ処理によって、繊維見掛け密度が好ましくは0.12g/cm以上、より好ましくは0.15g/cm以上となるようにする。また、好ましくは0.30g/cm以下、より好ましくは0.25g/cm以下となるようにする。繊維見掛け密度が0.12g/cm未満であると、繊維の絡合が不十分であり、引張強力、引裂強力、耐摩耗性等の物性について良好な値が得られにくくなる。また繊維見掛け密度の上限は特に限定されないが、0.30g/cmを超えると、ニードル針の折れや、針穴が残留するなどの問題が生じるため、好ましくない。
【0061】
また、ニードルパンチを行う際には、極細繊維発生型繊維の単繊維繊度が1デシテックス以上であることが好ましく、2デシテックス以上がより好ましい。また、10デシテックス以下であることが好ましく、8デシテックス以下がより好ましく、6デシテックス以下がさらに好ましい。単繊維繊度が1デシテックス未満である場合や10デシテックスを超える場合は、ニードルパンチによる絡合が不十分となり、良好な物性を得ることが困難になる。
【0062】
本発明においてニードルパンチは、単なる工程通過性を得るための仮止めとしての役割のみではなく、繊維を十分に絡合させる役割を有するものとすることが好ましい。従って好ましくは、100本/cm以上の打ち込み密度がよく、より好ましくは500本/cm以上、さらに好ましくは1000本/cm以上がよい。また、ニードルは表面品位が優れる点で、1バーブ型を用いることが好ましい。
【0063】
一方、スパンボンド法の場合、ポリマーを口金から溶融吐出して連続フィラメントを形成させ、これをエジェクター等の牽引作用により2000〜8000m/分の速度で紡糸し、移動する捕集装置上に捕集して長繊維ウェブを得ることができる。
【0064】
得られた長繊維ウェブは、コストの観点からは巻き取ることなく絡合することが好ましいが、搬送性や取扱い性、製造スピードの調整等の観点から一旦巻き取ることも可能である。この場合、巻き取るために一定の形態安定性を付与する観点から80〜240℃の加熱下でプレス処理をすることもできるが、風合いや品位に優れる点では上述と同様の方法でニードルパンチを行うことが好ましい。
【0065】
このようにして得られた短繊維、又は、長繊維のウェブは、乾熱処理または湿熱処理、あるいはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。
【0066】
次いで、極細繊維発生型繊維からなるウェブについて、極細化処理により極細繊維ウェブとし、かかる極細繊維ウェブについて、高速流体処理により極細繊維同士の絡合を行い、不織布を得る。極細化処理をした後に高速流体処理を行ってもよいし、極細化処理と同時に高速流体処理を行っても良い。また極細化処理と同時に高速流体処理を行い、その後に、さらに高速流体処理を行ってもよい。高速流体処理を極細化処理と同時に行う場合、少なくとも極細化処理が大部分終了した後にも高速流体処理を行うことが、極細繊維同士の絡合をより進める上で好ましい。極細化処理を行った後に、高速流体処理を行うことがより好ましい。
【0067】
極細化処理の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば機械的方法、および、化学的方法が挙げられる。機械的方法とは、物理的な刺激を付与することによって、極細繊維発生型繊維を極細化する方法である。具体的には、例えば上記のニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法等の衝撃を与える方法の他に、ローラー間で加圧する方法、超音波処理を行う方法等が挙げられる。また化学的方法としては、例えば、海島型繊維を構成する少なくとも1成分に対し、薬剤によって膨潤、分解、溶解等の変化を与える方法が挙げられる。特に、海成分としてアルカリ易分解性ポリマーを用いた極細繊維発生型繊維でウェブを作製し、次いで中性〜アルカリ性の水溶液で処理して極細化する方法は、有機溶剤を使用せず作業環境上好ましいことから、本発明の好ましい態様の一つである。ここでいう中性〜アルカリ性の水溶液とは、pH6〜14を示す水溶液である。例えば有機または無機塩類を含み、上記範囲のpHを示す水溶液を好ましく用いることができる。有機または無機塩類としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、必要によりトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアミンや減量促進剤、キャリアー等を併用することもできる。中でも水酸化ナトリウムが価格や取り扱いの容易さ等の点で好ましい。さらに上述の中性〜アルカリ性の水溶液処理を施した後、必要に応じて中和および洗浄して残留する薬剤や分解物等を除去してから乾燥を施すことが好ましい。
【0068】
高速流体処理としては、作業環境の点で、水流を使用するウォータージェットパンチ処理が好ましい。ウォータージェットパンチ処理において、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流は、通常、直径0.06〜1.0mmのノズルから噴射圧力1〜60MPaで水を噴出させることで得られる。効率的な絡合および良好な表面品位の不織布を得るために、ノズルの直径は0.06〜0.15mm、間隔は5mm以下であることが好ましく、直径0.08〜0.14mm、間隔は1mm以下がより好ましい。これらの構成のノズルプレートは、複数回処理する場合すべて同じものとする必要はなく、例えば大孔径と小孔径のノズルが含まれるノズルプレートを使用したり、異なる構成のノズルプレートを併用したり、また上記範囲外のノズルプレートを併用することも可能である。ノズルの直径が0.15mmを超えると極細繊維同士の絡合が低下し、表面平滑性も低下するため好ましくない。従ってノズル孔径は小さい方が好ましいが、0.06mm未満となるとノズル詰まりが発生しやすくなるため、水を高度に濾過する必要性からコストが高くなり好ましくない。また、ノズル間隔が5mmを超えると、発生する筋が目立ちやすくなるため好ましくない。厚さ方向に均一な交絡を達成する目的、および/または不織布表面の平滑性を向上させる目的で、高速流体処理を複数回繰り返して行うことが好ましい。
【0069】
流体の噴射圧力は、処理する極細繊維ウェブの目付によって適宜選択し、高目付のもの程高圧力とすることが好ましい。さらに、極細繊維同士を高度に絡合させ、目的の引張強力、引裂強力、耐摩耗性等の物性を得るため、少なくとも1回は10MPa以上の噴射圧力で処理することが好ましい。圧力は、15MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることがさらに好ましい。また圧力の上限は特に限定されないが、圧力が上昇する程コストが高くなり、また、低目付不織布の場合は不織布が不均一になりやすく、繊維の切断により毛羽が発生する場合もあるため、好ましくは40MPa以下であり、より好ましくは35MPa以下である。
【0070】
なお、少なくとも1回の処理とは、複数のノズル孔を有するノズルプレートを含む1ノズルヘッド(1インジェクター)で処理することを意味する。連続的に複数ノズルヘッドで処理した場合はその複数ノズルヘッド数の回数を処理したとし、1回とはカウントしない。
【0071】
極細繊維発生型繊維から得た極細繊維の場合、極細繊維が集束した繊維束の状態で絡合しているものが一般的であるが、前記のような条件で高速流体処理を行うことによって、繊維束の状態のままでの絡合がほとんど観察されない程度にまで極細繊維同士が相互に絡合した極細繊維不織布を得ることができる。これにより、一旦繊維束で絡合し、これに加えて極細繊維が絡合することになり、形態安定性に優れる実質的に繊維素材からなる不織布を得ることができる。なお、高速流体処理を行う前に、水浸漬処理を行ってもよい。さらに不織布表面の品位を向上させるために、ノズルヘッドと不織布を相対的に移動させる方法や、不織布とノズルの間に金網等を挿入して散水処理する等の方法を行うこともできる。
【0072】
なお、極細化処理と高速流体処理を同時に行う方法としては、例えば、海成分として水可溶性ポリマーを用いた海島型繊維を用い、ウォータージェットパンチによって海成分の除去と極細繊維の絡合を行う方法、海成分としてアルカリ易溶解性ポリマーを用いた海島型繊維を用い、アルカリ処理液を通して海成分を分解処理した後に、ウォータージェットパンチによって海成分の最終除去および極細繊維の絡合処理を行う方法、等が挙げられる。
【0073】
不織布と織編物を積層する場合、その積層方法は特に限定されず、接着や絡合等により行うことができるが、風合いが柔軟な点で絡合によることが好ましい。この場合、不織布の製造方法に合わせ、ニードルパンチや高速流体処理等で行うことができるが、特に高速流体処理で積層することが、織編物の損傷を防ぐことができる点で好ましい。
【0074】
このようにして得られた不織布層は、ついで起毛する。起毛方法は、針布起毛やサンドペーパーによるバフィングを採用することが出来るが、バフィングの方がより微細な立毛が形成し、均一な表面が得られるため好ましい。
【0075】
品位を向上させるためには、不織布を染色することがよい。染色方法は特に限定されるものではなく、用いる染色機としても、液流染色機、サーモゾル染色機、高圧ジッガー染色機等いずれでもよいが、得られる皮革様シートの風合いが優れる点で液流染色機を用いて染色することが好ましい。また、伸長性に優れる織物と不織布を積層するに際して、織物が工程張力により伸長し、皮革様シートのタテ方向の伸長率が低下する場合がある。この場合、液流染色機等により揉み効果を与えて緩和させることが、タテ方向の伸長性を向上させる点で好ましい。
【0076】
また、必要に応じて撥水剤、浸透剤、柔軟剤、樹脂や微粒子等を付与することができるが、その手段としては、パッド法、液流染色機やジッガー染色機を用いる方法、スプレーで噴射する方法等、適宜選択することができる。
【0077】
次に、高分子弾性体を塗布する。この際、高分子弾性体は、不織布層に対し10〜300g/mとすることが好ましく、厚みは30〜150μmとすることが、風合いや折れシボの点で好ましい。
【0078】
基材に塗布する方法としては、特に制限はなく、基材の表面に直接塗布する方法、基材と膜を別々に形成した後に両者を張り合わせる方法を採用することができる。基材の表面に直接塗布する方法としては、リバースロールコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、スリットコーティング、スプレー等の方法を用いることができる。この中で、繊維と高分子弾性体の混在層をより容易に形成できる点で、グラビアコーティング法が好ましく採用される。また、基材と膜を別々に形成した後に両者を張り合わせる方法、例えば、フィルムを単独で形成した後に基材と一体化する方法や、離型紙上に膜を形成した後に基材上に転写する方法も採用することができるが、この場合、繊維との混在層を形成する必要があるため、不織布層と重ねた後、流動状態として積層する必要がある。なお、高分子弾性体を凝固せしめる方法としては、本発明の目的を満足するものであれば、乾式法、湿式法いずれの方法でもかまわない。
【0079】
銀面層を有する銀付き調皮革様シートの場合は、高分子弾性体による銀面層を形成させた後、必要に応じて耐摩耗性等を向上させるための表面処理を行うことができる。また、スエード調やヌバック調の立毛を有した皮革様シートの場合は、上述の製法で得た積層シートの表面をサンドペーパーやブラシ等により起毛処理することで得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。なお、実施例中の各物性値の測定方法は、以下の方法を用いた。
【0081】
(1)繊維目付、繊維見掛け密度
繊維目付(g/m)はJIS L 1096 8.4.2(1999)に記載された方法で測定した。また、厚み(mm)として、ダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)により、無作為に10箇所測定してその平均値を求め、小数点第3位を四捨五入した値を用い、目付の値を厚みの値で割って、繊維見掛け密度(g/cm)を求め、小数点第3位を四捨五入した。
【0082】
(2)伸長率、伸長回復率
JIS L 1096(1999)8.14.1 A法(定速伸長法)にて伸長率を測定した(つかみ間隔は20cmである)。
【0083】
また、JIS L 1096(1999)8.14.2 A法(繰り返し定速伸長法)により伸長回復率を求めた(繰り返し定速伸長法)(つかみ間隔は20cmである)。
【0084】
(3)耐バギング性
JIS L 1061(1987)B−1法(定荷重法)、およびB−2法(定伸長法)により耐バギング性を評価した。
【0085】
(4)繊維長
任意の3箇所から、それぞれ繊維を100本抜き出して繊維長を測定した。測定した300本分の繊維長の数平均を求めた。
【0086】
(5)単繊維繊度
光学顕微鏡にて繊維横断面を100個ランダムに選んで断面積を測定した後、100個の繊維断面積の数平均を求めた。求められた繊維断面積の平均値と繊維の比重から、繊度を計算により求めた。なお、繊維の比重はJIS L 1015(1999)に基づいて測定した。
【0087】
(6)ドライクリーニング堅牢度
JIS L 0860(1996)に規定するドライクリーニングに対する染色堅牢度試験方法に基づき、A法で汚染を評価した。
【0088】
製造例1
極限粘度が0.50のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレートからなる高粘度成分とを重量複合比50:50でサイドバイサイドに貼りあわせて紡糸および延伸し、56デシテックス12フィラメントの複合繊維を得た。これを1300T/mで追撚した後、94×65本/2.54cmの織密度で製織した。
【0089】
ついでソフサーにて85〜98℃で処理し、液流染色機にて115℃で処理した後、オーバーフィード率3%、180℃でテンターにてセットした。
【0090】
得られた織物の密度は123×89本/2.54cm、目付は64.1g/m、伸長率はタテ18.9%、ヨコ22.4%であった。
【0091】
製造例2
56デシテックス24フィラメントのポリエチレンテレフタレートからなる仮撚り加工糸を経糸とし、緯糸に製造例1で用いたものと同一の繊維を用いて平織し、93×80本/2.54cmの織密度で製織した。その後、製造例1と同様にリラックス処理した。
【0092】
得られた織物の密度は、118×84本/2.54cm、目付70.9g/m、伸長率はタテ5.0%、ヨコ34.3%であった。
【0093】
実施例1
海成分としてポリスチレン45重量部、島成分としてポリエチレンテレフタレート55重量部からなる単繊維繊度3デシテックス、36島、繊維長51mmの海島型複合短繊維を、カード機およびクロスラッパーに通してウェブを作製した。得られたウェブを、1バーブ型のニードルパンチ機を用いて、2500本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、繊維見掛け密度0.22g/cmの複合短繊維不織布を得た。次に95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール(PVA)5重量%の水溶液に2分間浸積し、PVAを不織布に、不織布重量に対し固形分換算で12%の付着量になるように含浸させると同時に収縮処理を行った。その後、不織布を100℃にて乾燥して水分を除去した。次いで、この複合短繊維不織布を液温30℃のトリクレンでポリスチレンが完全に除去されるまで処理することにより、複合短繊維から単繊維繊度0.046デシテックスの極細繊維を発現させた。これにより得られたシートを、室田製作所(株)製の標準型漉割機を用いて、厚み方向に対して垂直に2枚にスプリット処理して繊維目付90.5g/mの極細繊維ウェブを得た。
【0094】
一方、抄造法により作製した単繊維繊度0.33デシテックス、繊維長5mm、目付33g/mのポリエチレンテレフタレートからなる抄造ウェブに、製造例1で作製した織物をタテ方向に10%伸ばしながら重ね、抄造ウェブ側から0.1mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルプレートが挿入されたノズルヘッドを有するウォータージェットパンチ機にて、7m/分の処理速度で、9MPaの噴射圧力で3回ウォータージェットパンチ処理を行った。
【0095】
次に、極細繊維ウェブを製造例1で得られた織物が中央になるように重ね、極細繊維ウェブの方から上記と同一のウォータージェットパンチ機を用い、7m/分の処理速度で、17MPaの噴射圧力で3回処理し、ついで裏側から同様に3回処理した。
【0096】
このようにして得られた積層シートの極細繊維不織布側を、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度がP500の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーにてバフィングし、非拘束繊維としての立毛を形成させた。さらに、液流染色機にて分散染料で黒色に染色した。ここで得られた不織布層を評価した結果を表1に示した。
【0097】
次に、黒顔料を分散させたポリウレタンのジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液を、立毛面へ固形分で5g/mとなるようにグラビアで塗布し、湿式凝固させた。
【0098】
このようにして得られた皮革様シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、表層には極細繊維とウレタンが混在していることが確認できた。また、形態安定性に優れると共に、ドライクリーニング堅牢度の汚染は3級であった。
【0099】
実施例2
製造例2の織物を用いた以外は実施例1と同様に処理して皮革様シートを得た。
【0100】
ここで得られた不織布層の評価結果は表1に示したように、実施例1の皮革様シートの方が、耐バギング性が優れていることが判った。実施例2においては、織物自体の伸長率は優れるものであったが、織物の高密度性が不織布との一体性を阻害し、皮革様シートの伸長率が低下したことが原因と推定される。
【0101】
このようにして得られた皮革様シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、表層には極細繊維とウレタンが混在していることが確認できた。また、形態安定性に優れると共に、ドライクリーニング堅牢度の汚染は3級であった。
【0102】
比較例1
海成分としてポリスチレン45重量部、島成分としてポリエチレンテレフタレート55重量部からなる単繊維繊度3デシテックス、36島、繊維長51mmの海島型複合短繊維を、カード機およびクロスラッパーに通してウェブを作製した。得られたウェブを、1バーブ型のニードルパンチ機を用いて、2800本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、繊維見掛け密度0.25g/cmの複合短繊維不織布を得た。次に95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のPVA5重量%の水溶液に2分間浸積し、PVAを不織布に、不織布重量に対し固形分換算で12%の付着量になるように含浸させると同時に収縮処理を行った。その後、不織布を100℃にて乾燥して水分を除去した。次いで、この複合短繊維不織布を液温30℃のトリクレンでポリスチレンが完全に除去されるまで処理することにより、複合短繊維から単繊維繊度0.046デシテックスの極細繊維を発現させた。
【0103】
次に、ポリエーテル系ポリウレタンのDMF溶液を用い、固形分として極細繊維あたり30重量%となるように含浸させ、湿式凝固させた。
【0104】
このシートを厚み方向にスプリット処理し、このようにして得られた積層シートの極細繊維不織布側を、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度がP320の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーにて起毛処理した。さらに、液流染色機にて分散染料で黒色に染色した。ここで得られた不織布層を評価した結果を表1に示した。
【0105】
次に、黒顔料を分散させたポリウレタンのDMF溶液を、立毛面へ固形分で5g/mとなるようにグラビアで塗布し、湿式凝固させた。
【0106】
このようにして得られた皮革様シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、表層には極細繊維とウレタンが混在していることが確認できた。しかし、形態安定性に劣り、ドライクリーニング堅牢度の汚染は1級であった。
【0107】
比較例2
海成分としてポリエチレン50重量部、島成分としてナイロン50重量部を混合紡糸してなる単繊維繊度3デシテックス、繊維長51mmの海島型複合短繊維を、カード機およびクロスラッパーに通してウェブを作製した。得られたウェブを、1バーブ型のニードルパンチ機を用いて絡合させた後、ポリエーテル系ポリウレタンのDMF成液を用い、固形分で極細繊維あたり60重量%となるように含浸させ、湿式凝固させた。次いで、ポリエチレンをパ−クレンで処理して除去し、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度がP180の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーにて起毛処理した。その後、液流染色機にて酸性染料で黒色に染色した。
【0108】
得られたシートは、ポリウレタンと極細繊維の間の空隙が広く、かつ、低目付であるため、非常に伸びやすい構造であった。ここで得られた不織布層を評価した結果を表1に示した。
【0109】
次に、黒顔料を分散させたポリウレタンのDMF溶液を、立毛面へ固形分で5g/mとなるようにグラビアで塗布し、湿式凝固させた。
【0110】
このようにして得られた皮革様シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、表層には極細繊維とウレタンが混在していることが確認できた。また、ドライクリーニング堅牢度も3級であった。しかし、形態安定性に劣り、容易に変形するものであった。
【0111】
比較例3
バフィングしない以外は実施例1と同様にして皮革様シートを得た。得られた皮革様シートは、絡合繊維と高分子弾性体からなる混在層であるため、風合いが非常に硬いものであった。また、高分子弾性体が浸透しにくいため、表層に高分子弾性体のみからなる層が形成しおり、容易に剥がれるものであった。
【0112】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が相互に絡合し、かつ実質的に繊維素材からなる不織布を有する不織布層と、非拘束極細繊維に高分子弾性体が付与された混在層とからなる皮革様シート。
【請求項2】
不織布層が不織布と織編物が積層されてなることを特徴とする請求項1に記載の皮革様シート。
【請求項3】
シート表面に銀面を有することを特徴とする請求項1または2に記載の皮革様シート。
【請求項4】
不織布層のJIS L 1061(1987)のB−1法(定荷重法)で得られる耐バギング性の値が4〜8mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の皮革様シート。
【請求項5】
不織布層のJIS L 1061(1987)のB−2法(定伸長法)で得られる耐バギング性の値が4〜8mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の皮革様シート。
【請求項6】
不織布層を構成する繊維が染色されてなるものであるポリエステルであり、かつ、皮革様シートのドライクリーニング堅牢度の汚染が3級以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の皮革様シート。
【請求項7】
以下の工程により製造することを特徴とする皮革様シートの製造方法。
A.単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が発生可能な、単繊維繊度1〜10デシテックスの極細繊維発生型繊維をニードルパンチにより絡合させる工程
B.0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維を発生させた後に、10MPa以上の噴射圧力で高速流体処理し、極細繊維不織布層を得る工程
C.極細繊維不織布層における不織布をバフィングする工程
D.極細繊維不織布層を染色する工程
E.高分子弾性体をシート表面に塗布して、非拘束極細繊維と高分子弾性体の混在層を形成する工程

【公開番号】特開2009−235642(P2009−235642A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85842(P2008−85842)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】