説明

目的物質の検出方法、それに用いる検出試薬およびその用途

【課題】 目的物質とそれに対する結合物質との結合による凝集体の形成を利用した目的物質の検出方法であって、検出の精度および感度に優れる新たな検出方法、ならびに、それに用いる新たな検出試薬を提供する。
【解決手段】 目的物質に結合する結合物質に最大径50nm以下の修飾物質を結合させ、修飾化結合物質を結合試薬として調製する。この修飾化結合試薬を試料と接触させ、前記修飾化結合物質と前記試料中の目的物質との結合により形成された凝集体を、光学的に検出することで、試料中の目的物質を検出する。前記修飾物質は、ビオチンまたはビオチン誘導体を含むことが好ましく、さらに、アビジンまたはアビジン誘導体を含み、前記ビオチンまたはビオチン誘導体に結合していることが好ましい。また、前記ビオチンまたはビオチン誘導体は、スペーサーを介して前記結合物質に結合していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的物質の検出方法、それに用いる検出試薬およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
目的物質の検出方法として、前記目的物質に特異的に結合する結合物質を用いる方法が広く採用されている。この方法では、前記目的物質と前記結合物質とを反応させ、両者の結合の有無や量を測定することで、間接的に前記目的物質の検出が行われる。中でも、抗原抗体反応を利用する検出方法が一般的であり、代表的な方法として、免疫比濁法(TIA:Turbidimetric Immunoassay)およびラテックス凝集比濁法(LA:Latex Agglutination−Turbidimetric Immunoassay)があげられる(特許文献1および特許文献2)。前者のTIA法は、目的物質に対する抗体を試料に添加し、試料中の目的物質と前記抗体との抗原抗体反応により複合体を形成させ、その凝集塊に光を照射して、吸光度を測定する方法である。前記吸光度は、試料中の目的物質量と相関関係にあることから、これによって、間接的に目的物質量を測定できる。後者のLA法は、ラテックス粒子に固相化した抗体を使用し、目的物質と前記抗体との抗原抗体反応により複合体を生成させると同時に、前記抗体が固相化された前記ラテックス粒子を凝集させ、この凝集塊を検出する方法である。
【0003】
しかしながら、これらの方法は、以下の点が問題視されている。すなわち、前者のTIA法は、形成される凝集塊が小さいため、測定感度が不十分であるという問題がある。特に、試料中の目的物質濃度が低い場合は、検出することが極めて困難である。他方、後者のLA法は、形成される凝集塊が大きいため、低濃度域における測定感度が優れている。しかし、その反面、高濃度域においては、測定値が低下するフック現象(プロゾーン現象およびポストゾーン現象等の「ゾーン現象」ともいう)が生じるという問題がある。このフック現象の問題に対しては、例えば、大きさの異なる複数のラテックス粒子にそれぞれ抗体を固相化し、各固相化抗体を用いて測定を行い、プロゾーンが生じない結果を採用するという措置がある。しかしながら、このような方法では、複数の固相化抗体を準備する必要があり、非常に手間とコストがかかってしまう。プロゾーンの問題に関しては、この他に、例えば、試料の希釈率を上げる等して希釈率を最適化し、再度測定するという対応法もある。しかし、このような方法は、希釈や希釈倍率の最適化、再測定に手間がかかる。また、LA法には、例えば、バックグラウンドが上昇し、S/N比が低下するという問題もある。
【0004】
さらに、近年では、マイクロチップやマイクロタス(μTAS:Micro Total Analysis System)のような、流路や反応部等が微細化されている使い捨ての小型分析用具が着目されている。これらの小型分析用具の実用化や、ポイント・オブ・ケア検査の市場要求から、試料を希釈することなく、目的の濃度域の検出を可能とすることが求められている。この場合、低濃度域が十分に検出可能であることはもちろんのこと、希釈手段を使用することなく、高濃度域をも十分に検出できることが必要となる。そこで、未希釈試料についての前述のフック現象の回避手段としては、例えば、目的物質(例えば、抗原)に対する結合物質(例えば、抗体)を十分量添加する、つまり、抗原に対する抗体の添加比率(以下、「抗原−抗体比」ともいう)を高く設定するという手段がある。しかしながら、抗体量の増加は、コストが上がるだけでなく性能的にも限度があり、前述のLA法では、抗原−抗体比を高く設定しても、フック現象の回避が困難という問題がある。また、TIA法の場合、前述と同様に、低濃度域の測定精度が不十分である。
【0005】
さらに、LA法に使用するラテックスは、測定セルに吸着し易い。このため、LA法の反応液を、自動分析装置の測定セルに順次分注して測定を行うと、前記セルへのラテックスの吸着により、ブランクが徐々に悪化するという問題がある。このような問題に対しては、例えば、測定セルのアルカリ洗浄等を頻繁に行うという対応策があげられるが、手間やメンテナンスコストがかかる。また、前述のマイクロチップやマイクロタスは、流路や反応部等が微細化されているため、例えば、試料や試薬の軽減、反応時間の短縮化、廃棄物の低減等が期待されている。このような分析用具にLA法を適用する場合、通常、分析用具の試薬部に、ラテックス粒子に固相化した抗体が配置され、使用時まで保存されるが、保存中に、ラテックス粒子が前記試薬部に吸着してしまうという問題がある。このため、実際に使用する際、前記分析用具に供給した液体試料中の目的物質に対して反応可能な抗体量が減少し、さらに、前記試薬部が測定部を兼ねる場合は、吸着によりブランクが上昇して、S/N比が悪化するおそれがある。
【0006】
また、前述のマイクロチップ等の小型分析用具に、LA法やTIA法を適用する場合、以下のような問題がある。前記小型分析用具は、光学的検出を行う検出部(光照射部)のセル長がマイクロメートルオーダーであり、例えば、100μmが一般的である。他方、これまで光学的検出に使用されてきた石英セル等は、セル長1cmが一般的なものとして知られている。しかしながら、セル長1cmで検出可能であっても、同じ被検体を、1/100のセル長(100μm)で検出するとなると、低濃度域から高濃度域まで十分な検出感度が得られないという問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−133454号公報
【特許文献2】特開2007−315883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、目的物質とそれに対する結合物質との結合による凝集体の形成を利用した目的物質の検出方法であって、検出の精度および感度に優れる新たな検出方法、ならびに、それに用いる新たな検出試薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の検出方法は、目的物質に結合する結合物質を用いて、試料中の目的物質を検出する方法であって、
前記結合物質が、最大径50nm以下の修飾物質が結合した結合物質であり、
下記(A)工程および(B)工程を含むことを特徴とする。
(A)前記結合物質と試料とを接触させ、前記結合物質と前記試料中の目的物質との結合により凝集体を形成させる工程
(B)前記凝集体を検出する工程
【0010】
本発明の検出試薬は、本発明の目的物質の検出方法に使用する検出試薬であって、
前記目的物質に結合する結合物質を含み、
前記結合物質が、最大径50nm以下の修飾物質が結合した結合物質であることを特徴とする。
【0011】
本発明の検出用具は、本発明の目的物質の検出方法に使用する検出用具であって、本体と、本発明の検出試薬とを含み、前記本体に、前記検出試薬が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前述のような修飾物質が結合した結合物質を使用することにより、優れた精度および感度で目的物質の検出が可能である。このため、本発明は、分析や臨床の分野等において、極めて有用であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施例1におけるアビジン−ビオチン化抗体を用いたCRP測定の結果であり、(A)は、CRP濃度と吸光度との関係を示すグラフであり、(B)は、CRP低濃度域を拡大したグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施例2におけるアビジン−ビオチン化抗体を用いたCRP測定の結果であり、CRP濃度と吸光度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施例3におけるストレプトアビジン−ビオチン化抗体を用いたCRP測定の結果であり、CRP濃度と吸光度との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の実施例4におけるビオチン化抗体を用いたCRP測定の結果であり、(A)は、CRP濃度と吸光度との関係を示すグラフであり、(B)は、CRP低濃度域を拡大したグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例6におけるアビジン−ビオチン化抗体を用いたCRP測定の結果であり、(A)は、透過光強度から算出した吸光度および散乱光強度と、対数表示したCRP濃度との関係を示すグラフであり、(B)は、前記吸光度および散乱光強度と、常数表示したCRP濃度との関係を示すグラフであり、(C)は、前記吸光度および散乱光強度と、常数表示したCRP濃度との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、比較例1における抗CRP抗体を用いたTIA法によるCRP測定の結果であり、(A)は、CRP濃度と吸光度との関係を示すグラフであり、(B)は、CRP低濃度域を拡大したグラフである。
【図7】図7は、比較例2におけるラテックス結合抗CRP抗体を用いたLA法によるCRP測定の結果であり、(A)は、CRP濃度と吸光度との関係を示すグラフであり、(B)は、CRP低濃度域を拡大したグラフである。
【図8】図8は、本発明の実施形態における散乱光測定装置を示す斜視図である。
【図9】図9は、図8に示す前記散乱光測定装置の断面図である。
【図10】図10は、本発明のその他の実施形態における散乱光測定装置を示す斜視図である。
【図11】図11は、本発明のその他の実施形態における試料保持用具を示す概略図であり、(a)は構成部材を離して表した斜視図、(b)は上面側からの斜視図、(c)は裏面側からの斜視図である。
【図12】図12は、本発明のその他の実施形態における試料保持用具を示す概略図であり、(a)は構成部材を離して表した斜視図、(b)は上面側からの斜視図、(c)は裏面側からの斜視図である。
【図13】図13は、本発明の実施例6における試料保持用具の概略を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<検出試薬>
本発明の検出試薬は、本発明の目的物質の検出方法に使用する検出試薬であって、
前記目的物質に結合する結合物質を含み、前記結合物質が、最大径50nm以下の修飾物質が結合した結合物質であることを特徴とする。
【0015】
本発明において、前記結合物質は、前記修飾物質が結合されていればよく、その他の構成は、何ら制限されない。前記修飾物質が結合した前記結合物質を、以下、「修飾化結合物質」ともいう。前記結合物質への前記修飾物質の結合形態は、特に制限されないが、例えば、目的物質を検出するにあたって、前記結合物質から前記修飾物質が解離しないことが好ましく、例えば、不可逆反応による結合であることが好ましい。
【0016】
前記修飾物質の最大径は、その上限が、例えば、50nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以下、特に好ましくは15nm以下である。また、その下限が、例えば、2nm以上であることが好ましく、より好ましくは3nm以上、特に好ましくは5nm以上である。また、前記最大径の範囲は、例えば、2〜50nmであることが好ましく、より好ましくは3〜30nm、特に好ましくは5〜15nmである。
【0017】
前記修飾物質としては、前記大きさの物質であれば、特に制限されない。前記修飾物質は、例えば、ビオチン、ビオチン誘導体、核酸、カーボンナノチューブ等を含むことが好ましく、一種類のみから形成されてもよいし、二種類以上から形成されてもよく、さらに、その他の物質を含んでもよい。前記その他の物質としては、例えば、スペーサーがあげられ、ビオチン等は、前記スペーサーを介して、前記結合物質と結合してもよい。
【0018】
前記ビオチンおよびビオチン誘導体を、以下、「ビオチン類」という。前記修飾物質が、前記ビオチン類を含む場合、前記修飾物質が結合した前記修飾化結合物質を、以下、「ビオチン化結合物質」ともいう。
【0019】
前記修飾物質が前記ビオチン類を含む場合、前記ビオチン類には、さらに、その他の物質が結合してもよい。前記その他の物質は、例えば、前述のようにスペーサーがあげられる。また、前記修飾物質は、前記その他の物質として、アビジンおよびアビジン誘導体の少なくとも一方を含むことが好ましい。アビジンおよびアビジン誘導体を、以下、「アビジン類」ともいう。前記修飾物質が、さらに、前記アビジン類を含む場合、前記アビジン類は、前記ビオチン類に結合していることが好ましい。前記修飾物質が、前記ビオチン類およびこれに結合したアビジン類を含む場合、以下、前記修飾物質が結合した前記修飾化結合物質を、前記ビオチン化結合物質の中でも、「アビジン−ビオチン化結合物質」、「アビジン−ビオチン複合体化結合物質」、または、「複合体化結合物質」ともいう。
【0020】
ビオチン類とアビジン類との結合反応は、通常、不可逆反応である。このため、本発明において、アビジン−ビオチン化結合物質は、試薬として安定性に優れる点からより好ましい。以下、ビオチン化結合物質とは、特に示さない限り「アビジン−ビオチン化結合物質」の意味も含む。
【0021】
前記アビジン−ビオチン化結合物質において、ビオチン類とアビジン類とのモル比は、特に制限されない。アビジン類は、4つのサブユニットを有するため、1分子あたり最大4分子のビオチン類と結合できるが、アビジン類とビオチン類のモル比は、例えば、1:3であり、好ましくは1:2、より好ましくは1:1である。
【0022】
前記ビオチン化結合物質は、例えば、以下に示すように、前記ビオチン類が、スペーサー(X)を介して、目的物質に対する前記結合物質に結合していることが好ましい。また、前記ビオチン化結合物質が、ビオチン類とアビジン類とを有する場合は、以下に示すように、前記ビオチン類が、前記スペーサー(X)を介して前記結合物質に結合し、前記ビオチン類に前記アビジン類が結合していることが好ましい。前記スペーサー(X)は、その一端が、前記ビオチン類のカルボキシル基に結合していることが好ましく、その結合は、アミド結合(−NH−CO−)であることが好ましい。また、前記結合物質が、例えば、タンパク質等のアミン化合物の場合、前記スペーサーの他端は、前記結合物質のアミノ基と結合していることが好ましく、その結合は、アミド結合(−NH−CO−)であることが好ましい。
結合物質−X−ビオチン類
結合物質−X−ビオチン類−アビジン類
【0023】
前記スペーサーの長さは、特に制限されないが、ビオチン類の縮合複素環とスペーサーとをあわせた長さが、例えば、10〜50Å(1〜5nm)であることが好ましい。
【0024】
前記スペーサー(X)の具体例としては、例えば、以下の構造があげられる。なお、各スペーサー(X)について、ビオチン類とスペーサー(X)とを合わせた長さを示す。これらの中でも、下記(2)および(3)のスペーサーが好ましく、より好ましくは下記(2)のスペーサーである。
【表1】

【0025】
前記ビオチン化結合物質において、前記スペーサー(X)の前記結合物質への結合は、前述のアミド結合には制限されない。前記スペーサー(X)は、例えば、前記結合物質のチオール基、カルボキシル基等との結合であってもよい。このようなスペーサー(X)を以下に例示するが、これには制限されない。
【0026】
【表2】

【0027】
ビオチンおよびビオチン誘導体としては、特に制限されず、例えば、後述するアビジンまたはアビジン誘導体と結合できるものがあげられる。前記ビオチンとしては、例えば、下記式で表される化合物(5-[(3aS,4S,6aR)-2-オキソヘキサヒドロ-1H-シエノ[3,4-d]イミダゾル-4-イル]ペンタン酸)、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩があげられる。
【化1】

【0028】
塩の場合、対イオン(カウンターイオン)は、特に制限されないが、例えば、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)等があげられる。
【0029】
また、前記ビオチン誘導体としては、特に制限されず、前述のビオチンにおいて、任意の原子が置換されてもよい。具体例としては、例えば、水素原子が、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素等のハロゲン等で置換されてもよい。
【0030】
前記アビジン類としては、特に制限されず、アビジンやアビジン誘導体があげられ、前記アビジン誘導体としては、ストレプトアビジン、修飾されたストレプトアビジン、脱グリコシル化アビジン(例えば、登録商標NeutrAvidin、PIERCE社)等が例示できる。前記修飾ストレプトアビジンとしては、例えば、ヒドラジド残基で修飾されたストレプトアビジン等があげられる。これらの中でも、アビジンが好ましい。前記ビオチン類に結合させるアビジン類は、例えば、天然物由来でもよいし、合成物であってもよい。
【0031】
また、前記修飾物質は、ビオチン類に代えて、アビジン類を含んでもよい。前記修飾物質がアビジン類とビオチン類とを有する場合、前記結合物質に、前記アビジン類を介して前記ビオチン類が結合してもよい。
【0032】
前記修飾物質は、前述のように、例えば、核酸を含んでもよい。前記修飾物質は、例えば、核酸のみから構成されてもよいし、さらに、他の物質を含んでもよい。前記他の物質としては、例えば、スペーサー等があげられる。前記核酸を前記結合物質に結合させる方法は、特に制限されず、公知の方法が採用でき、前記結合物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0033】
前記核酸としては、特に制限されないが、例えば、ポリヌクレオチド、修飾されたポリヌクレオチド等があげられる。前記ポリヌクレオチドの構成単位は、特に制限されず、例えば、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド等があげられ、いずれか一種類から構成されてもよいし、両方から構成されてもよい。また、前記核酸は、例えば、PNA等の人工核酸であってもよい。前記ポリヌクレオチドの長さは、特に制限されないが、例えば、6〜150merであり、好ましくは9〜90merであり、より好ましくは15〜45merである。また、その配列は、特に制限されない。
【0034】
また、前記修飾物質は、前述のように、例えば、カーボンナノチューブを含んでもよい。前記修飾物質は、例えば、前記カーボンナノチューブのみから構成されてもよいし、さらに、他の物質を含んでもよい。前記他の物質としては、例えば、スペーサー等があげられる。前記カーボンナノチューブを前記結合物質に結合させる方法は、特に制限されず、公知の方法が採用でき、例えば、前記結合物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0035】
前記カーボンナノチューブは、一般に、有底円筒状であり、単層または、円筒が重なった多層があげられ、本発明においては、多層が好ましい。前記カーボンナノチューブの大きさは、特に制限されないが、単層の長さは、例えば、2〜50nmであり、好ましくは3〜30nmであり、より好ましくは5〜15nmであり、外径は、例えば、2〜10nmであり、好ましくは3〜9nmであり、より好ましくは5〜8nmであり、内径は、例えば、1〜9nmであり、好ましくは2〜8nmであり、より好ましくは4〜7nmである。また、多層の場合、全体長さは、例えば、2〜50nmであり、好ましくは3〜30nmであり、より好ましくは5〜15nmである。
【0036】
本発明において、検出対象の目的物質の種類は、何ら制限されないが、例えば、タンパク質、ペプチド等のアミン化合物、炭水化物、多糖、核酸、オリゴヌクレオチド、ハプテン、ダイオキシンや環境ホルモン等の化合物、残留農薬や殺鼠剤等の薬物等があげられる。また、前記結合物質は、前記目的物質に結合できる物質であればよいが、前記目的物質に特異的に結合できる物質であることが好ましい。前記目的物質が、抗原となり得る物質の場合、前記結合物質としては、例えば、前記目的物質を認識する抗体があげられる。また、前記目的物質が、抗体の場合、前記結合物質としては、例えば、前記抗体が認識する抗原があげられる。
【0037】
本発明を適用する試料の種類は、何ら制限されず、例えば、目的物質の存在が予測される試料や存在が知られている試料があげられる。具体例として、例えば、全血、血漿、血清、血球等の血液試料、尿、髄液、便、唾液、リンパ液、精液、子宮頸管粘液等の膣分泌液等の生体試料、飲料、食品、各種排水、土壌、雨水、河川水等があげられる。前記試料の形態としては、液体が好ましく、固体の場合は、例えば、水や緩衝液等の適当な溶媒に、前記試料を溶解、分散もしくは懸濁し、または前記溶媒による抽出等を行い、液体画分を試料として、本発明に供することが好ましい。
【0038】
本発明において、目的物質や適用する試料は何ら制限されないが、例えば、血液中のC反応性タンパク質(CRP)、HbA1c、TSH、FT3、FT4、hCG、HBs抗原、HBc抗体、HCV抗体、TY抗原、アンチ−ストレプトリシン O(ASO)、IV型コラーゲン、マトリックスメタロプロテナーゼ−3(MMP−3)、PIVAK−II、α1マイクログロブリン、β1マイクログロブリン、アミロイドA(SAA)、エラスターゼ1、塩基性フェトプロテイン(BFP)、カンジダ抗原、子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ、ジゴキシン、シスタチンC、第XIII因子、尿中トランスフェリン、梅毒、ヒアルロン酸、フィブリンモノマー複合体(SFMC)、フォン・ウィルブランド因子(第VIII因子様抗原)、プロテインS、リウマチ因子(RF)、IgD、α1アシドグリコプロテイン(α1AG)、α1アンチトリプシン(α1AT)、α2マクログロブリン、アルブミン(Alb)、セルロプラスミン(Cp)、ハプトグロビン(Hp)、プレアルブミン、レチノール結合蛋白(RBP)、β1C/β1Aグロブリン(C3)、β1Eグロブリン(C4)、IgA、IgG、IgM、βリポ蛋白(β−LP)、アポ蛋白A−I、アポ蛋白A−II、アポ蛋白B、アポ蛋白C−II、アポ蛋白C−III、アポ蛋白E、トランスフェリン(Tf)、尿中アルブミン、プラスミノーゲン(PLG)、リポ蛋白(a)(LP(a))等の検出に、本発明を適用することが好ましい。
【0039】
中でも、CRPは、炎症の指標となる血中タンパク質であり、通常、約1mg/100mL前後が炎症の有無を判断する臨界値である。このため、特に、この臨界値付近(例えば、0.1〜1mg/100mL)の濃度域を正確に測定することが求められている。しかしながら、例えば、従来のTIA法では、このような低濃度域を検出することが困難であった。また、従来のLA法によると、低濃度域の検出は可能であるものの、ラテックス粒子の吸着等によるバックグラウンドの上昇という問題がある。また、CRPは、一般に、血中での極限の上限濃度が約50〜60mg/100mLといわれており、約4〜20mg/100mLの濃度域で重篤な炎症と判断されることから、この濃度域についても、正確に測定することが求められている。しかしながら、マイクロチップやマイクロタス等の100μm程度のセル長の検出用具を用いた場合、従来のTIA法では、CRP約1mg/100mLの低濃度域では、十分な測定感度が得られないという問題があり、従来のLA法では、約1mg/100mLの低濃度域を検出可能であっても、バックグラウンドが高いという問題がある。さらに、LA法は、前述のように、高濃度においてプロゾーンが発生するため、高濃度の試料については、例えば、複数種類の固相化抗体の調製や、希釈、希釈率の最適化、再測定等が必要という問題もある。また、プロゾーンの発生を回避する手段として、抗原−抗体比の向上という手段があるが、例えば、試料が未希釈の場合、この方法では、プロゾーンの回避が困難という問題がある。これに対して、本発明では、例えば、CRP1mg/100mLの低濃度域での検出はもちろんのこと、CRP4mg/100mL〜20mg/100mLの高濃度域においても、プロゾーンを回避して検出が可能である。さらに、本発明によれば、例えば、未希釈の試料であっても、プロゾーンを回避して、広濃度範囲について、優れた感度と精度で検出することができる。また、本発明によれば、例えば、マイクロメートルオーダーのセル長を有するマイクロチップやマイクロタスに適用しても、優れた感度と精度を維持することが可能である。
【0040】
本発明の検出試薬の形態は、特に制限されず、液体試薬でも乾燥試薬でもよい。前者の液体試薬の場合、溶媒としては、例えば、蒸留水等の水、生理食塩水、MOPS緩衝液等のグッド系緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等があげられる。液体試薬のpHは、特に制限されないが、例えば、pH6〜9である。後者の乾燥試薬の場合、例えば、使用時に、前述の試料や液体試料の供給によって、前記試薬が前記試料中に溶解、懸濁または分散されてもよいし、また、溶媒の供給によって、前記試薬が前記溶媒中に溶解、懸濁または分散されてもよい。前記供給する溶媒としては、例えば、液体試薬の溶媒と同様のものがあげられる。また、前記液体試料や前記溶媒に前記検出試薬が溶解、懸濁または分散された際、その混合液のpHが、例えば、pH6〜9となるように、設定することが好ましい。前記乾燥試薬は、例えば、前述のような液体試薬を乾燥することによって調製できる。
【0041】
本発明の検出試薬は、前述のように、前記修飾化結合物質を含んでいればよいが、さらに他の成分を含んでもよい。前記他の成分としては、例えば、本発明の検出試薬を前記本発明の検出方法に適用した際、本発明の効果を著しく阻害しないものであれば、何ら制限されない。前記成分の具体例としては、例えば、前述のような溶媒、MOPS、MES、トリス、リン酸塩等の緩衝剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤、サポニン、Triton(登録商標)X−100、Triton(登録商標)X−305、Triton(登録商標)X−405、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60、Tween(登録商標)80等の界面活性剤等があげられる。
【0042】
本発明において、前記修飾化結合物質の製造方法は、特に制限されない。以下に、抗体等のアミン化合物を結合物質として、ビオチン化結合物質およびアビジン−ビオチン化結合物質を製造する方法を例示する。なお、本発明は、これには制限されない。
【0043】
まず、目的物質に対する前記結合物質にビオチン類を接触させる。これによって、前記結合物質にビオチン類が結合し、ビオチン化結合物質が得られる。前記結合物質のビオチン化は、例えば、HABA法等によって確認できる。
【0044】
抗体等のアミン化合物をビオチン化する際には、例えば、ビオチン類のカルボキシル基にアミン反応性基をエステル結合させた、ビオチン化試薬を使用することが好ましい。このようなビオチン化試薬を使用すれば、アミド結合によってビオチン類をアミン化合物に安定に結合することができる。一般的に、液体中で、前記結合物質と前記ビオチン化試薬とを混合し、この反応液を放置することによって、前記両者の結合反応を行うことができる。前記ビオチン化試薬としては、例えば、スクシンイミドビオチン(製品名EZ-Link(登録商標)NHS-Biotin、PIERCE社)等があげられる。
【0045】
また、前述のように、スペーサーを介して前記結合物質にビオチンを結合させる際には、例えば、前記結合物質に、スペーサーがビオチン類に結合したビオチン化試薬を接触させればよい。前記ビオチン化試薬において、前記スペーサーは、前述のように、ビオチン類のカルボニル基に結合していることが好ましく、その結合は、アミド結合であることが好ましい。そして、前記ビオチン化試薬において、前記スペーサーの他端には、アミン反応性基が結合していることが好ましく、その結合は、アミド結合であることが好ましい。このようなビオチン化試薬を使用すれば、アミン化合物に対して、アミド結合によって、前記スペーサーを介して安定にビオチン類を結合することができる。スペーサーが結合したビオチン化試薬としては、例えば、スクシンイミジル-6-(ビオチンアミド)ヘキサノエート(製品名EZ-Link(登録商標)NHS-LC-Biotin、PIERCE社)、スルホスクシンイミジル-6-(ビオチンアミド)ヘキサノエート(製品名EZ-Link(登録商標)Sulfo-NHS-LC-Biotin、PIERCE社)、スクシンイミジル-6-[ビオチンアミド]-6-ヘキサンアミドヘキサノエート(製品名EZ-Link(登録商標)NHS-LC-LC-Biotin、PIERCE社)、スルホスクシンイミジル-6-[ビオチンアミド]-6-ヘキサンアミドヘキサノエート(製品名EZ-Link(登録商標)Sulfo-NHS-LC-LC-Biotin、PIERCE社)、N-[1-(ビオチニルアミド)4,7,10-トリオキザトリデック-13-イル]スクシンアミックアシッド2,3,5,6-テトラフルオロフェニルエステル(製品名EZ-Link(登録商標)FP-PEG3-Biotin、PIERCE社)、スルホスクシンイミジル-2-[ビオチンアミド]エチル-1,3-ジチオプロピオネート(製品名EZ-Link(登録商標)Sulfo-NHS-SS-Biotin、PIERCE社)、12-ビオチニルアミド-4,7,10-トリオキサドデカン酸N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(製品名EZ-Link(登録商標)NHS-PEO4-Biotin、PIERCE社)等があげられる。この他にも、スペーサーが結合したビオチン化試薬としては、例えば、チオール基を持つ分子にビオチンを結合させる、(+)-ビオチニル-マレイミジル-3,6-ジオキサオクタンジアミン(製品名EZ-Link(登録商標)Maleimide-PEG2-Biotin、PIERCE社)、(+)-ビオチニル-イオドアセトアミジル-3,6-ジオキサオクタンジアミン(製品名EZ-Link(登録商標)Iodoacetyl-PEG2-Biotin、PIERCE社)、カルボキシル基を持つ分子にビオチンを結合させる、(+)-ビオチニル-3,6-ジオキサオクタンジアミン(製品名EZ-Link(登録商標)Amine-PEG2-Biotin、PIERCE社)、(+)-ビオチニル-3,6,9-トリオキサウンデカンジアミン(製品名EZ-Link(登録商標)Amine-PEG3-Biotin、PIERCE社)、5-ビオチンアミドペンチルアミン(製品名EZ-Link(登録商標)Pentylamine-Biotin、PIERCE社)、DNAやRNA等の核酸やタンパク質をビオチンでラベルするビオチン化ソラレン(製品名EZ-Link(登録商標)Psoralen-PEG3-Biotin、PIERCE社)、ビオチン結合物質をさらにビオチンでラベルする二量体化ビオチン(製品名EZ-Link(登録商標)PEG5-Biotin Dimer、PIERCE社)等があげられる。これらのビオチン化試薬には、例えば、それぞれ、前述のスペーサー(1)〜(12)の構造が含まれる。
【0046】
前記反応液において、前記結合物質と前記ビオチン類(またはビオチン化試薬)との割合は、特に制限されないが、結合物質1mmol/Lに対してビオチン類0.1〜4mmol/Lであることが好ましく、より好ましくはビオチン類0.5〜2mmol/Lである。具体例として、前記結合物質が抗体の場合、抗体1mgに対してビオチン類0.1×10−4mmol/L〜0.1mmol/Lであることが好ましく、より好ましくは、ビオチン類0.2×10−4mmol/L〜0.05mmol/Lである。前記反応液におけるビオチン類の濃度は、特に制限されないが、例えば、0.1×10−3mmol/L〜0.01mmol/Lであることが好ましい。また、前記反応液の溶媒は、特に制限されず、例えば、蒸留水等の水、リン酸緩衝液等の緩衝液等があげられ、そのpHは、例えば、6〜9である。処理条件は、特に制限されないが、例えば、室温(例えば、10〜40℃)、5〜120分である。
【0047】
つぎに、前記反応液から、未反応のビオチン類を除去し、ビオチン化結合物質を含む画分を回収する。未反応のビオチン類の除去方法は、特に制限されないが、例えば、脱塩カラムを用いた遠心分離によって行える。前記カラムとしては、例えば、商品名Zeba(商標)Desalt Spin columns(PIERCE社製)等があげられる。
【0048】
前記ビオチン化結合物質を含む画分は、例えば、濃縮処理を行ってもよい。濃縮は、例えば、限外ろ過フィルターを用いて遠心分離により行える。前記結合物質が抗体等のタンパク質の場合、前記限外ろ過フィルターの分画分子量は、例えば、10K〜500Kである。
【0049】
前記濃縮液に含まれるビオチン化結合物質については、ビオチン化率を確認することが好ましい。ビオチン化率は、例えば、市販のキット等を使用して、HABA法により確認できる。
【0050】
また、アビジン−ビオチン化結合物質を調製する場合は、次工程のアビジンとの反応に先立って、前記濃縮液における前記結合物質の量を測定することが好ましい。前記測定方法は、特に制限されず、前記結合物質の種類に応じて適宜決定できる。前記結合物質が抗体等のタンパク質の場合、測定方法としては、例えば、波長280nmの吸光度測定のような光学的測定法があげられる。
【0051】
続いて、アビジン―ビオチン化結合物質を調製する場合は、先に得られたビオチン化(ビオチニル化)結合物質にアビジン類を接触させる。これによって、ビオチン化結合物質におけるビオチン類に、さらにアビジン類が結合し、前記アビジン−ビオチン化結合物質が得られる。ビオチン化結合物質へのアビジン類の結合は、例えば、液体中で、前記ビオチン化結合物質とアビジン類とを混合し、この反応液を放置することによって行える。
【0052】
前記反応液において、前記ビオチン化結合物質とアビジン類との割合は、特に制限されないが、ビオチン化結合物質1mmol/Lに対してアビジン類0.1mmol/L〜4mmol/Lであることが好ましく、より好ましくはアビジン類0.5mmol/L〜2mmol/Lである。具体例として、結合物質が抗体の場合、ビオチン化抗体1mgに対してアビジン類1×10−6mmol/L〜100mmol/Lであることが好ましい。前記反応液におけるアビジン類の濃度は、特に制限されないが、例えば、1×10−4mmol/L〜10mmol/Lであることが好ましく、より好ましくは1×10−2mmol/L〜5mmol/Lである。また、前記反応液の溶媒は、特に制限されず、例えば、ビオチン化処理と同様の溶媒があげられる。処理条件は、特に制限されないが、例えば、室温(例えば、10℃〜40℃)、1分〜120分である。
【0053】
そして、前記反応液から、未反応のアビジン類を除去し、アビジン−ビオチン化結合物質を含む画分を回収する。未反応アビジン類の除去方法は、例えば、未反応ビオチン類の除去と同様に行うことができる。
【0054】
以上のような方法によれば、例えば、ビオチン類とアビジン類のモル比が1:1であるアビジン−ビオチン化結合物質を効率良く製造できる。
【0055】
なお、アビジン−ビオチン化結合物質の製造方法は、上記の方法には制限されない。例えば、予めアビジン類とビオチン類とを反応させて、アビジン−ビオチン複合体を形成し、この複合体と前記結合物質とを反応させて、アビジン−ビオチン化結合物質を作製することもできる。
【0056】
また、前記修飾物質が、例えば、前記カーボンナノチューブの場合、特表2002−503204号公報等に記載されるように、前記カーボンナノチューブの表面に官能基を結合させ、それを介して、抗体等の前記結合物質と結合させることで、カーボンナノチューブ化結合物質を作製することができる。また、前記修飾物質が、例えば、核酸の場合、例えば、国際公開WO2004/111232号パンフレット等に記載されるように、ポリヌクレオチドの5’末端を、抗体の抗原認識部位以外の部位に結合させることにより、核酸化結合物質を作製することもできる。
【0057】
<検出方法>
本発明の検出方法は、前述のように、目的物質に結合する結合物質を用いて、試料中の目的物質を検出する方法であって、前記結合物質は、最大径50nm以下の修飾物質が結合した結合物質(修飾化物質)であり、
下記(A)工程および(B)工程を含むことを特徴とする。
(A)前記結合物質と試料とを接触させ、前記結合物質と前記試料中の目的物質との結合により凝集体を形成させる工程
(B)前記凝集体を検出する工程
【0058】
本発明によれば、前述のように、前述のような修飾物質が結合した修飾化結合物質を使用することにより、優れた精度および感度で目的物質の検出が可能である。具体例として、本発明の方法によれば、例えば、TIA法では測定し難かった低濃度での測定が可能である。また、LA法よりもバックグラウンドを低減でき、高濃度域におけるプロゾーンの発生を効果的に回避できる。特に、本発明によれば、例えば、試料を希釈しなくとも、効果的にプロゾーンの発生を回避できるため、従来法とは異なり、未希釈試料を用いた検出も可能である。このため、本発明によれば、例えば、従来のLA法やTIA法よりも優れた感度と精度で目的物質の検出が可能である。さらに、本発明によれば、例えば、形成された凝集体を、マイクロオーダーのセル長で、光学的手法により検出する場合であっても、従来の方法では測定できなかった濃度範囲について検出可能である。このように、本発明によれば、例えば、従来の方法では、測定できなかった濃度範囲についても、優れた精度および感度で目的物質の検出が可能になる。以上のことから、本発明は、分析や臨床の分野等において、極めて有用な新たな方法であるといえる。
【0059】
本発明において、前記修飾化結合物質とは、前述の通りである。また、本発明の検出方法では、前記修飾化結合物質として、前記本発明の検出試薬を使用できる。
【0060】
本発明の検出方法は、いわゆるウェット系とドライ系のいずれで行ってもよい。前記ウェット系の場合、前記(A)工程において、前記修飾化結合物質として、例えば、液体試薬である本発明の検出試薬を使用し、前記液体試薬と液体試料とを混合する形態があげられる。また、ドライ系の場合、前記修飾化結合物質として、例えば、乾燥試薬である本発明の検出試薬を使用し、前記乾燥試薬に液体試料を添加して、前記液体試料中に前記修飾化結合物質を、溶解、懸濁または分散させる形態があげられる。後者の場合、前記乾燥試薬は、例えば、セル、チップ、マイクロチップ、マイクロチューブ、マイクロリアクター、マイクロタス、試験管、試験片等の検出用具の所定の領域に配置すればよい。この場合、例えば、前記検出用具の前記乾燥試薬の配置領域に、前記液体試料を供給すればよい。液体試料の供給方法も、何ら制限されず、例えば、直接、乾燥試薬の配置領域に添加してもよい、流路等を通じて配置領域に供給することもできる。なお、本発明の検出試薬を配置した検出用具については、詳細を後述する。
【0061】
前記(A)工程において、前記試料と接触させる前記修飾化結合物質の量は、特に制限されず、例えば、前記目的物質の種類、前記結合物質の種類、前記目的物質と前記結合物質との結合性、前記試料の種類等に応じて適宜決定できる。例えば、試料中に存在する前記目的物質の上限量(上限濃度)が既知である場合や、前記目的物質の検出量(濃度)の上限を設定している場合等は、前記目的物質が前記上限量(上限濃度)存在すると仮定して、これを検出するのに十分量の、前記修飾化結合物質を使用すればよい。この点について、具体的に、前記修飾化結合物質としてビオチンが結合した抗CRP抗体(ビオチン化抗CRP抗体)を用いた、血中CRPの測定を、一例としてあげる。CRPは、前述のように、炎症の指標となる血中タンパク質であり、血中濃度が上限の4〜20mg/100mLで、重篤な炎症とされている。したがって、例えば、未希釈の血液(または未希釈の血漿もしくは血清)を試料とする場合、上限濃度4〜20mg/100mLのCRPを検出するのに十分量のビオチン化抗CRP抗体を試料と接触させることが好ましい。
【0062】
前記修飾化結合物質の量は、前述のように、特に制限されない。一般に、抗原等の目的物質に対する抗体等の結合物質の割合が高い程、測定精度も高くなる。したがって、例えば、予想される試料中の目的物質量に対して、前記修飾化結合物質量(例えば、修飾化抗体量)の比率が高いことが好ましい。
【0063】
前記(A)工程の処理条件は、特に制限されない。処理温度は、例えば、5〜60℃であり、好ましくは20〜35℃である。処理時間は、例えば、1〜30分であり、好ましくは2〜20分である。
【0064】
前記(A)工程において、前記目的物質と前記修飾化結合物質との結合により形成された凝集体を、続く(B)工程において検出する。
【0065】
前記凝集体の検出方法は、特に制限されず、従来公知の方法によって測定できる。前記方法としては、例えば、光学的検出方法があげられ、具体的には、透過光強度の測定、散乱光強度の測定等がある。凝集体の光学的検出により目的物質を検出する方法としては、一般的に、透過光測定を行う比濁法と、散乱光測定を行う比朧法とが知られている。これら比濁法と比朧法とは、異なるコンセプトであることから、一般に、比濁法に使用する試薬を比朧法に使用したり、比朧法に使用する試薬を比濁法に使用することは困難とされており、実際に、同じ目的物質を検出する場合でも、試薬は、各方法に応じて異なる組成や配合となる。これに対して、本発明の検出試薬によれば、前記(A)工程において形成された凝集体を、前記(B)工程において、透過光および散乱光のいずれで検出することも可能である。このため、本発明の検出試薬、検出用具ならびに検出方法は、例えば、既存の透過光測定装置を用いた比濁法や既存の散乱光測定装置を用いた比朧法のいずれにも適用可能である。
【0066】
具体例としてあげた透過光強度、散乱光強度、または透過光強度から算出される吸光度等は、凝集体量と相関関係を示すことから、これらを測定することによって、例えば、反応系における凝集体濃度を算出できる。そして、この凝集体濃度と試料中の目的物質の濃度とは、相関関係にあることから、結果的に、試料における目的物質の濃度や量を算出できる。前記反応系とは、例えば、前記修飾化結合物質(ビオチン化結合物質)と接触させた試料、または、これを含む混合物(例えば、混合液)を意味し、例えば、ウェット系の反応系(反応液)であってもよいし、ドライ系であってもよい(以下、同様)。照射する光の波長は、例えば、260〜1100nmであり、好ましくは310〜400nmである。この測定は、例えば、市販の分光光度計、散乱光測定装置等で測定できる。測定の際のセル長は、特に制限されないが、例えば、10mm等の一般的なセル長はもちろんのこと、後述するマイクロチップやマイクロタス等のマイクロメートルオーダーのセル長(例えば、10〜1000μm、好ましくは100μm)であっても、十分に優れた感度で測定可能である。なお、本発明において、「セル長」とは、例えば、測定時に光が照射される反応系において、照射光の光路方向における反応系の長さをいう。
【0067】
本発明の検出方法においては、中でも、散乱光の測定を行うことが好ましく、特に、以下の方法または散乱光測定装置等を用いて散乱光を測定することが好ましい。このような方法または装置を用いることによって、例えば、散乱光を効率良く感知することができるため、より一層、本発明の検出方法による測定精度を向上することが可能となる。
【0068】
散乱光測定方法の一例を以下に示す。本実施形態における散乱光測定方法は、例えば、光源から反応系に光を照射する光照射工程と、前記反応系に照射された照射光を受光部で受光する受光工程とを有し、前記受光工程において、前記照射光における前記反応系を透過した直接光の前記受光部への到達を遮断し、前記散乱光を前記受光部で受光することを特徴とする測定方法があげられる。散乱光とは、一般に、媒質中で進路を変えた光を意味するが、本発明においては、広義に、反射光や屈折光等の意味も含む。
【0069】
この散乱光測定方法においては、前記反応系を透過した直接光を遮断することで、容易に散乱光の効果的な受光を実現したことが特徴であり、直接光をどのようにして遮断するかは、何ら制限されない。遮断の方法としては、例えば、前記直接光が受光部に到達する前に、試料を透過した直接光を反射させたり、吸収する方法等があげられる。
【0070】
この散乱光測定方法は、例えば、以下に示す散乱光測定装置や後述の検出用具を使用することによって実現できる。以下に、散乱光測定装置の実施形態の一例を示す。なお、本発明は、これらには限定されない。
【0071】
<散乱光測定装置>
本実施形態の散乱光測定装置は、光を照射する光源と、光を受光する受光部と、試料を配置する試料配置部と、光を遮断する遮光部とを有し、前記受光部が、前記光源からの照射光の光路方向に配置され、前記試料配置部が、前記光源と前記受光部との間に配置され、前記遮光部が、試料配置部と前記受光部との間であって、前記試料を透過する直接光の光路途中に配置されていることを特徴とする。本発明において、試料配置部に配置する試料とは、例えば、前記本発明の検出試薬と接触させる前の試料であっても、前記検出試薬と接触させた後の試料(反応系)であってもよく、散乱光を測定する際に、前記試料中の目的物質と前記検出試薬中の前記修飾化結合物質とが反応していればよい。また、光源からの光が照射される試料は、例えば、本発明の検出試薬を接触させた試料、または、これを含む混合物であって、前述の反応系である。
【0072】
本実施形態の散乱光測定装置によれば、例えば、従来の散乱光測定装置のように、散乱光を受光するために受光部を必要な角度に移動させたり、複数の受光部を複数の角度に設置する必要がない。また、本発明の散乱光測定装置によれば、例えば、光源、受光部および試料配置部の位置を固定できる。このように位置関係を安定させることが可能であることから、例えば、測定精度の信頼性を維持することができる。
【0073】
前記遮光部は、例えば、光を吸収したり、光を反射することが好ましい。具体的に、前記遮光部は、光吸収材料または光反射材料を含むことが好ましく、特に光反射材料を含むことが好ましい。また、前記遮光部は、例えば、光吸収材料および光反射材料の両者を含んでもよい。前記光吸収材料としては、特に制限されないが、例えば、黒色塗料、酸化第二銅や酸化コバルト等の黒色粉末(無機粉末)、カーボン、黒色プラスチック、黒アルマイト等があげられる。前記光反射材料としては、特に制限されないが、鏡面材料や鏡面加工材料、白色塗料、酸化チタンや酸化アルミニウム等の白色粉末等があげられる。前記鏡面材料および鏡面加工材料としては、例えば、セラミックや金属等があげられる。前記遮光部は、例えば、全体が、前述のような光吸収材料または光反射材料を含んでもよいし、基材の表面に、前述のような材料をコーティングしたり、前述のような材料を含むフィルムを貼り付ける(シールする)ことによっても形成できる。前者において前記各種材料を混入させる基材の材質、または、後者において前記各種材料でコーティングする基材の材質としては、特に制限されないが、例えば、アクリル等の透過性ポリマーがあげられる。また、受光部を覆うカバー部材において、直接光の遮断が必要な領域が、前述のような材料を含んでもよい。この場合、カバー部材において、前記遮光部以外は、後述するような光を透過する材料から構成されていることが好ましい。また、例えば、受光部を覆うカバー部材の表面において、直接光の遮断が必要な領域に、前述のような材料をコーティングしたり、前述のような材料を含むフィルムを貼り付けてもよい。前記カバー部材は、例えば、前記光を透過する材料から形成されていることが好ましい。
【0074】
前記遮光部は、例えば、光を反射することが好ましい。このように遮光部で光が反射されると、反射光が前記試料に照射されるため、前記試料に、複数回(2回以上)光が照射される。これによって、受光部で受光する散乱光を、より一層増加できる。
【0075】
前記遮光部の大きさおよび形状は、前記試料を透過した直接光を遮断できれば特に制限されないが、例えば、それに加えて、不要な角度の散乱光を同様に遮断できる大きさおよび形状であってもよい。
【0076】
また、本実施形態の散乱光測定装置は、例えば、直接光を遮断する遮光部の他に、さらに、試料を透過した不要な角度の散乱光を遮断する遮光部を備えてもよい。これによって、例えば、必要な角度の散乱光のみを選択して、受光することが可能となる。
【0077】
本実施形態の散乱光測定装置は、例えば、測定の際、前記試料配置部に、試料保持部を有する試料保持用具が配置されることが好ましい。この場合、例えば、前述の光照射工程に先立って、前記試料保持用具の試料保持部に試料を供給(配置)した後、これを前記散乱光測定装置の試料配置部に配置して、前記試料保持用具内の試料に、前記光源からの光(出射光)を照射する。また、前記光照射工程に先立って、前記散乱光測定装置の試料配置部に前記試料保持用具を配置した後、前記試料保持用具の試料保持部に試料を供給(配置)してもよい。前記試料保持用具に供給する試料は、例えば、本発明の検出試薬と接触させる前の試料でもよいし、接触させた後の試料(反応系)でもよい。前者の場合は、例えば、予め前記検出試薬を配置した試料保持用具(例えば、後述する本発明の検出用具)を準備し、前記試料保持用具への試料の供給によって、試料保持用具内で試料と検出試薬とを接触させてもよい。
【0078】
前記試料保持用具としては、例えば、断面形状が凹部である試料保持部を備える構造が例示できる。また、例えば、流路を備える構造であってもよい。具体例としては、試料の導入口、流路および試料保持部を有し、前記導入口と前記試料保持部とが、前記流路で連結された構造が例示できる。また、例えば、導入口および流路を有し、前記導入口と前記流路が連結されており、前記流路の一部が試料保持部を兼ねてもよい。前記試料保持用具が、前記検出試薬を備える場合、その配置部位は特に制限されないが、例えば、試料保持部、導入口と前記試料保持部との間の流路等があげられる。このような試料保持用具としては、特に制限されず、例えば、セル、チップ、マイクロチップ、マイクロチューブ、バイオリアクター等、従来公知の用具が使用できる。
【0079】
前記試料保持用具において、前記試料への照射光の光路方向における前記試料保持部の長さは、特に制限されないが、例えば、10〜1000μmの範囲であり、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは100〜400μmである。この長さは、例えば、セル長、光路長ということもできる。
【0080】
また、前記散乱光測定装置は、例えば、前記試料配置部に、直接、試料が供給(配置)されてもよい。この場合、前記試料配置部としては、例えば、散乱光測定装置内に形成された、試料を保持するための流路や凹部等があげられる。前記試料配置部の形状や大きさは、特に制限されないが、前記試料配置部に試料を配置した際、前記光源からの照射光の光路方向における試料が占める領域の長さ、すなわち、装置内部に充填された試料の前記光路方向の厚みは、例えば、10〜1000μmの範囲であり、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは100〜400μmである。
【0081】
前記散乱光測定装置において、受光部の種類は、特に制限されないが、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトマルチプライヤーチューブ等の受光素子があげられる。受光部における受光素子の数は、特に制限されないが、少ない個数であることが好ましく、特に好ましくは1個である。
【0082】
前記散乱光測定装置において、光源の種類は、特に制限されないが、例えば、LED、LD、レーザー、水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、タングステンランプ等があげられる。また、その波長は、特に制限されないが、例えば、260〜1100nmの範囲であり、好ましくは310〜650nmであり、より好ましくは365〜415nmである。光源から照射される光の直径は、例えば、出射部の絞りで調節できる。前記出射部と光源とは、例えば、光ファイバー等で連結される。
【0083】
前記散乱光測定装置において、光源としては、例えば、小径の光源(「点光源」ともいう)や線光源があげられる。小径の光源の場合、例えば、円周方向での散乱光を受光できることから、感度の向上が可能である。また、線光源の場合、例えば、スリット構造にすることで、感度の向上が可能である。
【0084】
前記散乱光測定装置は、例えば、さらに、受光部が散乱光を受光することにより発生する電圧を増幅する増幅器、電流変化を電圧変化に変化させるI/V回路、電圧をデジタル値に変換するAD変換器等を備えてもよい。また、散乱光測定装置は、さらに、電流値を光強度(散乱光強度)に変換したり、光源の発光を調節したり、電流のデジタル値を光強度(散乱光強度)に変換等するためのCPU等を備えてもよい。
【0085】
以下、本実施形態の散乱光測定装置について、さらなる具体例を、図8〜図10を用いて説明する。これらの実施形態は、試料配置部に試料保持用具を配置して使用する散乱光測定装置の例である。なお、本発明において、散乱光測定装置は、これらの実施形態には制限されない。
【0086】
(実施形態1)
実施形態1は、光源として小径の光源を備える散乱光測定装置の一例である。
【0087】
図8は、試料保持用具が配置された散乱光測定装置の斜視図であり、図9は、図8のA−A方向断面図である。なお、図8は、便宜上、各構成部材を離して表した概略図である。両図に示すように、散乱光測定装置は、光源11、受光部16、第1の遮光部14および第2の遮光部13を備える。本実施形態において、第1の遮光部14は、試料を透過した直接光を遮断するための部材であり、第2の遮光部13は、試料を透過した不要な角度の散乱光を遮断するための部材である。受光部16は、光源11に対向する位置に配置されており、具体的には、光源11からの照射光Xの光路方向に配置されている。また、受光部16の光源11側表面には、第1の遮光部14および第2の遮光部13が配置されている。そして、散乱光測定装置は、使用時において、受光部16上に、第1の遮光部14および第2の遮光部13を介して、試料保持部15に試料が保持された試料保持用具12が配置される。散乱光測定装置において、試料保持用具12が配置される部位が、いわゆる試料配置部である。試料保持用具12は、支持基板12bとカバー基板12aとを含む。支持基板12bの表面には、試料保持部15として、凹状の溝が形成されており、前記溝が形成された表面にカバー基板12aが被覆されている。この散乱光測定装置において、第1の遮光部14は、光源11からの照射光Xのうち、試料15を透過した直接光X’の光路途中に配置されており、第2の遮光部13は、光源11からの照射光Xのうち、試料を透過し、且つ、不要な角度に進路を変えた散乱光の光路途中に配置されている。
【0088】
前記散乱光測定装置において、第1の遮光部14の形状は、特に制限されず、例えば、光源の種類によって適宜決定できる。本実施形態のように光源が小径の光源の場合、第1の遮光部14の平面形状は、円形であることが好ましい。なお、前記平面とは、例えば、試料を透過した直接光が照射される面を意味する。また、散乱光測定装置において、第1の遮光部14は、その中心が前記小径の光源からの照射光の中心と対向していることが好ましい。
【0089】
散乱光測定装置における各部の大きさは、特に制限されず、例えば、試料保持用具12の大きさや、試料保持用具12における試料保持部15の大きさ等によって適宜決定できる。また、既存の分光光度計等の光強度測定装置を利用して、本発明の散乱光測定装置を製造する場合は、例えば、分光光度計の各部の大きさにあわせて、遮光部等の大きさを設定することができる。以下、試料保持用具を一般的なマイクロチップと仮定して、散乱光測定装置の各部の大きさについて述べるが、これらの記載は一例であって、本発明を限定するものではない。
【0090】
第1の遮光部14の大きさは、特に制限されず、例えば、小径の光源11からの照射光の直径や、小径の光源11から照射光が出射される位置と光源側の試料表面との距離、試料保持用具の厚み等を考慮して、適宜決定できる。具体例としては、例えば、小径の光源からの照射光の直径と、前記遮光部の平面の直径との比が、1:2〜1:100であることが好ましく、より好ましくは1:20〜1:100であり、特に好ましくは1:40〜1:60である。なお、ここでいう照射光の直径とは、例えば、出射時の照射光の直径を意味する。
【0091】
第1の遮光部14は、光を遮断できればよく、その厚みは何ら制限されない。同図に示すように、遮光部として光を遮断する部材を配置する場合、厚みの上限は、例えば、1mm以下であることが好ましく、特に好ましくは0.1mmであり、厚みの下限は、例えば、0.05mm(50μm)程度であることが好ましい。また、コーティングやシール等の場合、厚みの上限は、例えば、1mm以下であることが好ましく、特に好ましくは0.1mmであり、厚みの下限は、特に制限されないが、例えば、0.05mm(50μm)程度である。
【0092】
小径の光源からの照射光(例えば、出射時の照射光)の直径は、特に制限されないが、一般的に、20〜800μmであることが好ましく、より好ましくは20〜400μmであり、特に好ましくは40〜100μmである。
【0093】
小径の光源11から照射光が出射される位置と、光源側の試料15表面または試料保持用具12の光源側表面との距離は、特に制限されないが、一般的に、0〜10mmであることが好ましく、より好ましくは1〜5mmであり、特に好ましくは1〜3mmである。
【0094】
光源側の試料15表面と受光部16表面との距離は、特に制限されないが、一般的に、1〜50mmであることが好ましく、より好ましくは1〜20mmであり、特に好ましくは2〜5mmである。
【0095】
試料保持用具12の大きさ、形状、材質等は、特に制限されないが、一般的なマイクロチップが例示できる。一般的なマイクロチップの場合、その大きさは、例えば、全体の長さ20〜200mm、全体の幅20〜150mm、全体厚み0.1〜10mmである。試料保持部15の厚み、すなわち、光源11からの照射光の光路方向の長さ(セル長)は、例えば、10〜1000μmの範囲であり、好ましくは100μmである。
【0096】
試料保持用具12における試料保持部15の形状は、特に制限されないが、例えば、小径の光源の場合、その平面形状が円形であることが好ましい。前記平面とは、例えば、試料保持部15において、光源11からの照射光Xが照射される面を意味する。試料保持部15の平面の直径は、例えば、0.1〜10mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.2mmであり、特に好ましくは0.7〜0.8mmである。また、試料保持部15に保持される試料の体積は、例えば、1〜1000μLであることが好ましい。
【0097】
試料保持用具12の材質は、特に制限されないが、一般的に、バックグラウンドを低減するため、光透過性の材質であることが好ましい。前記材質としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PS(ポリスチレン)等の重合体、ガラス等があげられる。なお、試料保持用具の具体的な形状は、例えば、後述する本発明の検体用具と同様である。
【0098】
この散乱光測定装置を用いて、例えば、以下のようにして前述の散乱光測定方法を実施できる。まず、前述のように、試料保持用具12の試料保持部に試料15を供給した後、これを所定の位置に配置する。なお、試料15は、検出試薬と接触させた後の試料(反応系)であってもよいし、接触前の試料であってもよい。後者の場合は、前述のように、例えば、試料保持用具12に前記検出試薬が配置されており、試料の供給によって、前記試料15と前記検出試薬とが接触することが好ましい。そして、光源11から照射光Xを出射し、試料保持用具12の試料15に照射する。すると、試料15に照射された照射光Xのうち、試料15を透過する直接光X’は、第1の遮光部14で遮断され、下方に位置する受光部16への到達が妨げられる。また、試料15に照射された照射光Xのうち、試料15を透過し、且つ、不要な角度に進路を変えた散乱光は、第2の遮光部13で遮断され、下方に位置する受光部16への到達が妨げられる(図示せず)。他方、試料15との接触により発生した散乱光のうち、試料15を透過し、且つ、第1の遮光部14と第2の遮光部13との間に到達した散乱光は、下方に位置する受光部16で受光される。このように、直接光を遮断し、さらに、不要な散乱光を遮断することで、より効率よく必要な散乱光を受光することができる。なお、第2の遮光部13は、任意であり、本発明を限定するものではない。
【0099】
また、遮光部のうち、特に第1の遮光部14は、光を反射することが好ましい。この場合、図9において、試料15を透過した直接光X’は、第1の遮光部14に到達すると、反射によって試料15の方向に進路を変える。この反射光が試料15に照射されることによって、さらに散乱光が発生するため、散乱光の発生量をより一層増加できる。このため、より一層測定感度を向上することができる。また、第1の遮光部14が光を反射する場合、照射光を照射する側に、さらに、受光部を設けてもよい。このように受光部を設けることで、例えば、試料15を通過した直接光X’のうち再度試料15を通過した直接光を受光することができる。これによって、受光部16で目的の散乱光のみを受光し、且つ、さらなる受光部で試料を透過した直接光(いわゆる透過光)をも受光できる。
【0100】
なお、本実施形態は、受光部16の上に遮光部のみからなる部材13、14を配置する形態であるが、これには制限されない。例えば、前述のような、遮光部を有するカバーを受光部16上に配置してもよい。これは、例えば、光を透過するカバー部材を準備し、遮断が必要な領域に、光を遮断するフィルムをシールしたり、光を遮断する材料をコーティングすること等によって作製できる。
【0101】
(実施形態2)
実施形態2は、光源として線光源を備える散乱光測定装置の一例である。
【0102】
図10は、試料保持用具が配置された散乱光測定装置の斜視図であり、便宜上、各構成部材を離して示した概略図である。なお、特に示さない限りは、前記実施形態1と同様である。
【0103】
本実施形態における散乱光測定装置は、図10に示すように、光源11が線光源であり、第1の遮光部34の平面形状ならびに第2の遮光部33の内枠の形状がそれぞれ四角形であり、試料保持用具12における試料保持部35の平面形状が四角形である以外は、実施形態1と同様である。なお、図10において、矢印Yを長手方向、矢印Zを長手方向に対して垂直方向という。
【0104】
前記散乱光測定装置において、第1の遮光部34の形状は、特に制限されないが、本実施形態のように光源が線光源の場合、前記遮光部の平面形状は、四角形であることが好ましい。なお、前記平面とは、試料を透過した直接光が照射される面を意味する。また、散乱光測定装置において、第1の遮光部34は、その長手方向(Y方向)が、線光源からの照射光の長手方向(Y方向)に対向していることが好ましい。
【0105】
第1の遮光部34の大きさは、特に制限されないが、例えば、前記線光源からの照射光の長手方向(Y方向)の長さと、前記遮光部の前記長手方向(Y方向)の長さとの比が、1:1〜1:100であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:10であり、特に好ましくは1:1〜1:3である。また、前記照射光の長手方向に対する垂直方向(Z方向)の長さと、前記遮光部の前記垂直方向(Z方向)の長さとの比が、例えば、1:1〜1:100であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:10であり、特に好ましくは1:2〜1:5である。なお、本発明において、線光源からの照射光の長手方向(Y方向)の長さとは、例えば、出射時の長さを意味する。
【0106】
出射時における線光源からの照射光の長さ(Y方向の長さ)は、特に制限されないが、一般的に、10〜3000μmであることが好ましく、より好ましくは100〜2000μmであり、特に好ましくは800〜1500μmである。
【0107】
試料保持用具12における試料保持部35の形状は、特に制限されないが、例えば、線光源の場合、その平面形状が四角形であることが好ましい。前記平面とは、例えば、試料保持部35において、光源11からの照射光Xが照射される側の面を意味する。試料保持部35において、前述の長手方向(Y方向)の長さは、例えば、10〜150mmであることが好ましく、より好ましくは20〜100mmであり、特に好ましくは50〜80mmである。また、試料保持部35において、前述の長手方向に対する垂直方向(Z方向)の長さは、例えば、10〜150mmであることが好ましく、より好ましくは20〜100mmであり、特に好ましくは50〜80mmである。
【0108】
<検出用具>
本発明の検出用具は、前述の本発明の検出方法に使用するための検出用具であって、本体と、本発明の検出試薬とを含み、前記本体に、前記検出試薬が配置されていることを特徴とする。
【0109】
本発明の検出用チップは、本発明の検出試薬を含んでいればよく、その他の構成や条件は、何ら制限されない。用具の形状も何ら制限されず、例えば、セル、チップ、マイクロチップ、マイクロチューブ、マイクロリアクター、マイクロタス、試験管、試験片等があげられる。
【0110】
本発明の検出用具には、乾燥状態の本発明の検出試薬が配置されていることが好ましい。本発明の検出試薬は、前述のように、乾燥状態で、長期間、安定に保存可能であることから、これを配置した本発明の検出用具は、前述のような検出感度に加えて、さらに安定性の面においても優れる。このような検出用具を、以下、本発明のドライ系検出用具ともいう。
【0111】
本発明の検出用具は、前述のように安定性に優れることから、例えば、約2〜8℃の条件下、製造時点から約12ヵ月以上保存が可能である。
【0112】
ドライ系検出用具の場合、例えば、使用時、液体試料の添加により、前記液体試料中に前記検出試薬のビオチン化結合物質を溶解または分散できる。これによって、液体試料中の目的物質と前記検出試薬のビオチン化結合物質とが結合して凝集体を形成する。また、ドライ系検出用具は、例えば、使用時、液体試料の添加に先だって、溶媒の添加により、前記溶媒中に前記検出試薬を溶解または分散することもできる。そして、液体試料をさらに添加することによって、前記液体試料中の目的物質と前記検出試薬のビオチン化結合物質とが結合して凝集体を形成する。
【0113】
本発明の検出用具の構造は、前述のように、特に制限されないが、例えば、前記本体が、試料の注入孔、試料保持部および流路を有し、前記注入孔と前記試料保持部とが、前記流路で連結された構造が例示できる。前記試料保持部は、例えば、目的物質と接触させた試料を保持する領域であって、例えば、凝集体を光学検出する際には、保持された試料に光照射を行うことから、光照射部または検出部ともいう。検出の際にこのような検出用具において、前記検出試薬は、例えば、前記流路に配置されてもよいし、前記試料保持部に配置されてもよい。このような検出用具では、例えば、前記注入孔から液体試料を導入すると、前記液体試料は流路を通って前記試料保持部に到達する。前記試料保持部に前記検出試薬が配置されている場合は、例えば、検出試薬と接触させる前の液体試料を供給する。この液体試薬が流路を通って前記試料保持部に到達すると、前記試料保持部で、前記検出試薬が前記液体試料に溶解または分散され、凝集体が形成される。この際、前記試料保持部は、反応部ということもできる。他方、前記流路に前記検出試薬が配置されている場合は、例えば、前記液体試料が前記流路を通った際に、前記検出試薬が前記液体試料に溶解または分散され、前記試料保持部に到達する。この場合、例えば、流路から試料保持部へと移動する前記液体試料中で、凝集体の形成が起こる。そして、凝集体の検出は、例えば、検出用具の前記試料保持部に光を照射して、前述のように、前記試料(反応系)を透過した透過光や、前記試料(反応系)への光照射により発生した散乱光の強度を測定することによって行える。なお、本発明によれば、配置する本発明の検出試薬(ビオチン化結合物質)は、例えば、試料保持部や流路等に吸着し難いため、ラテックス化結合物質を使用する従来のLA法と比較して、バックグラウンドの上昇を防止することができる。
【0114】
また、本発明の検出用具は、前記流路が前記試料保持部(さらに反応部)を兼ねてもよい。この場合、例えば、流路に前記検出試薬が配置されていることが好ましい。そして、使用時に液体試料が供給されて流路を通り、前記流路内の検出試薬の配置部に到達すると、前記検出試薬の配置部で検出試薬が前記液体試料に溶解または分散され、凝集体の形成が起こる。凝集体の検出は、例えば、前述と同様にして、試薬の配置部および反応部を兼ねる検出部に、光を照射して行うことができる。
【0115】
前記本体の材質は、特に制限されないが、前記凝集体の検出に影響を与えない材質であることが好ましい。前述のように、光学的手法により測定を行う場合、前記本体における試料配置部(光照射部)、すなわち、光の照射領域、透過光の検出領域、もしくは、散乱光の検出領域等が、光を通過する材質で形成されていることが好ましく、また、全体がそのような材質で形成されてもよい。このような材質としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)等の重合体、ガラス等があげられる。
【0116】
本発明の検出用具の大きさは、何ら制限されない。目的物質の検出や分析においては、いわゆるマイクロチップ、マイクロリアクター、マイクロアレイ等の小型化されたデバイスが主流となってきている。本発明の検出用具も、例えば、一般的な小型化デバイスと同様の大きさが例示できる。一般的なマイクロチップの場合、その大きさは、例えば、全体の長さ20〜200mm、全体の幅20〜150mm、全体厚み0.1〜10mm、流路の深さ0.01〜1mm、流路の幅0.01〜1mm、流路の長さ10〜200mmが例示できる。このような大きさのマイクロチップに供する試料の量は、例えば、1〜1000μLが好ましい。前記検出試薬が配置された前記流路が前記試料配置部を兼ねており、前記流路の軸方向が照射光方向である場合、前記流路の長さ(すなわち、セル長)は、例えば、マイクロメートルオーダーであり、具体的には、10〜1000μm、好ましくは100μmである。
【0117】
また、近年、目的物質の検出等に使用する検出用具について、さらなる小型化が求められており、いわゆるマイクロタス(μTAS:Micro Total Analysis System)が注目されている。マイクロタスは、一般的に、幅・深さが数十〜数百μmの微細な流路、反応部および試料保持部(例えば、光照射部または検出部ともいう)等が形成された微小なチップからなり、例えば、目的物質の検出に必要なあらゆる処理をその微小なチップ内で実現するシステムである。前述のように、本発明の検出用具の大きさは、何ら制限されないが、前述のように本発明の検出試薬は、例えば、従来のラテックス粒子と異なり、チップ等の基材に吸着して測定感度を低下させるという問題もない。このため、本発明の検出用具は、マイクロタスとしても有用である。マイクロタスの場合、その大きさは、例えば、全体の長さ20〜200mm、全体の幅20〜150mm、全体厚み0.1〜10mm、流路の深さ1〜1000μm、流路の幅1〜1000μm、流路の長さ10〜200mmが例示でき、これに供する試料の量は、例えば、1〜1000μLが好ましい。前記検出試薬が配置された前記流路が前記試料保持部を兼ねており、前記流路の軸方向が照射光方向である場合、前記流路の長さ(すなわち、セル長)は、例えば、マイクロメートルオーダーであり、具体的には、10〜1000μm、好ましくは100μmである。
【0118】
また、前述のように、散乱光を測定する場合、本発明の検出用具は、さらに、光を遮断する遮光部とを備え、前記遮光部が、前記試料を透過する直接光の光路途中に配置されていることを特徴とする。本実施形態において、前記試料とは、例えば、前記本発明の検出試薬と接触させた試料、または、それを含む混合物(例えば、混合液)、すなわち、反応系を意味する。
【0119】
前記検出用具によれば、例えば、従来の散乱光測定装置のように、散乱光を受光するため、受光部を必要な角度に移動させたり、複数の受光部を複数の角度に設置する必要がない。また、前記検出用具によれば、例えば、散乱光測定装置における光源、受光部および試料配置部の位置を固定できる。このように位置関係を安定させることが可能であることから、例えば、測定精度の信頼性もより向上できる。また、検出用具に遮光部を設けるのみで足りることから、例えば、既存の光強度測定装置に適用することができる。
【0120】
前記検出用具における前記遮光部は、試料を通過する直接光の光路途中に配置されていればよく、特に制限されない。また、前記遮光部は、検出用具に配置されていること以外は、前述した散乱光測定装置における遮光部と同様である。また、前記検出用具は、本発明の検出試薬と遮光部を有すること以外は、例えば、前述した散乱光測定装置に使用する試料保持用具と同様である。
【0121】
前記検出用具は、前述のような遮光部を備えていればよく、例えば、既存の分光光度計、散乱光測定装置等の光強度測定装置に配置して使用できる。
【0122】
以下、遮光部を備える検出用具の具体例について、図11および図12を用いて説明する。下記実施形態の検出用具において、本発明の検出試薬の配置部位は、特に制限されず、例えば、光が照射される試料保持部に試料が到達するまでの領域(例えば、流路)や、試料保持部に配置されていることが好ましい。本発明は、これらの実施形態には制限されない。
【0123】
(実施形態3)
実施形態3は、試料保持部の平面形状が円形である検出用具の一例である。本実施形態において、前記試料保持部は、例えば、光照射部または検出部ともいい、前記試料保持部に前記検出試薬が配置されている場合には、反応部ともいう(以下、同様)。なお、本実施形態の検出用具は、遮光部を有する以外は特に制限されない。
【0124】
図11は、検出用具40の斜視図であり、(a)は、便宜上、各構成部材を離して示した概略図であり、(b)は、検出用具40の上面側からの斜視図であり、(c)は、検出用具40の裏面側からの斜視図である。図11に示すように、検出用具40は、支持基板42とカバー基板41とを含む。支持基板42の表面には、流路47と流路47に連結された試料保持部45とが凹状の溝として形成されている。カバー基板41は、支持基板42の凹状の溝が形成された表面に被覆されており、これによって、流路47の末端(図において右端)が試料の導入口46となる。そして、同図(c)に示すように、検出用具40の裏面には、第1の遮光部44と第2の遮光部43とが形成されている。第1の遮光部44は、検出用具40におけるカバー基板41の表面から試料保持部45に保持された試料に照射光を照射した際、試料を透過する直接光の光路途中に形成されている。また、第2の遮光部43は、検出用具40におけるカバー基板41の表面から試料保持部45に保持された試料に照射光を照射した際、試料を透過し、且つ、不要な角度に進路を変えた散乱光の光路途中に形成されている。第2の遮光部43は、任意であり、本発明を限定するものではない。
【0125】
本実施形態の検出用具40に照射する照射光の種類は、特に制限されないが、試料保持部45の平面形状が円形であることから、例えば、小径の光源から出射される光を照射することが好ましい。なお、試料保持部の大きさや、小径の光源からの照射光の条件等は、特に制限されず、前述と同様である。
【0126】
この検出用具40を用いて、例えば、以下のようにして散乱光測定方法を実施できる。まず、検出用具40の導入口46から試料保持部45に試料を供給する。本発明の検出試薬が、例えば、流路47に配置されている場合は、試料の通過によって、検出試薬が試料中に溶解または懸濁され、試料保持部45に到達する。また、本発明の検出試薬が、例えば、試料保持部45に配置されている場合は、試料が流路を通じて試料保持部45に到達し、検出試薬が試料中に溶解または懸濁される。そして、試料を保持させた検出用具40を、既存の分光光度計や散乱光測定装置等の、光を受光してその強度を測定可能な装置に配置する。このような装置の構成は、特に制限されないが、例えば、光を出射する光源と、光を受光する受光部と、試料を配置する試料配置部とを有し、前記受光部が、前記光源からの照射光の光路方向に配置され、前記試料配置部が、前記光源と前記受光部との間に配置された装置があげられる。このような装置の前記試料配置部に検出用具40を配置し、前記光源からの照射光を検出用具40のカバー基板41表面側から試料保持部45の試料に照射する。すると、試料への照射光のうち、試料を透過する直接光は、第1の遮光部44で遮断される。また、試料への照射光のうち、試料を透過し、且つ、不要な角度に進路を変えた散乱光は、第2の遮光部43で遮断される。他方、試料との接触により発生した散乱光のうち、試料を透過し、且つ、第1の遮光部44と第2の遮光部43との間の領域に到達した散乱光は、検出用具40の支持基板42を通過し、検出用具40の下方に位置する受光部で受光される。このように、直接光を遮断し、さらに、不要な散乱光遮断することで、効率よく必要な散乱光を受光することができる。なお、第2の遮光部43は、任意であり、本発明を限定するものではない。
【0127】
なお、検出用具40の内部への試料の供給方法は、何ら制限されず、検出用具40は、例えば、試料を導入するために、さらなる部位を備えてもよい。例えば、カバー基板41は、試料保持部45の上方に空気孔を有してもよい。このような形態によれば、例えば、毛管現象によって、試料の導入口46から内部に試料を導入できる。また、シリンジ等を用いた加圧によって、検出用具40の内部に試料を導入することもできる。また、試料保持部が、さらに、別の流路と連結しており、前記流路の末端開口部から検出用具40の内部を減圧することによって、導入口46より前記内部に試料を導入することもできる。また、前記流路の末端開口部から、例えば、ポンプやシリンジ等を用いて吸引することによって、導入口46より前記内部に試料を導入することもできる。
【0128】
(実施形態4)
実施形態4は、流路が試料保持部を兼ねている検出用具の一例である。なお、本実施形態の試料保持用具は、流路が試料保持部を兼ねている以外は、特に示さない限り、前述した実施形態3の試料保持用具と同様である。
【0129】
図12は、検出用具50の斜視図であり、(a)は、便宜上、各構成部材を離して示した概略図であり、(b)は、検出用具50の上面側からの斜視図であり、(c)は、検出用具50の裏面側からの斜視図である。図12に示すように、本実施形態の検出用具50は、流路57の一部が、光照射を受ける試料保持部55を兼ねており、第1の遮光部54の平面形状ならびに第2の遮光部53の内枠の形状がそれぞれ四角形である以外は、実施形態3と同様である。具体的には、支持基板42の表面には、流路57と流路57に連結された廃液部51とが凹状の溝として形成されている。また、同図(c)に示すように、検出用具50の裏面には、第1の遮光部54と第2の遮光部53とが形成されている。実施形態3と同様に、第1の遮光部54は、試料を透過する直接光の光路途中に形成されており、第2の遮光部53は、試料を透過し、且つ、不要な角度に進路を変えた散乱光の光路途中に形成されている。第2の遮光部53は、任意であり、本発明を限定するものではない。
【0130】
本実施形態の検出用具50に照射する光の種類は、特に制限されないが、試料を保持する流路57(光照射される試料保持部55)の平面形状が四角形であることから、例えば、線光源から出射される光を照射することが好ましい。なお、試料保持部55の大きさや、線光源からの照射光の条件等は、特に制限されず、前述と同様である。
【0131】
本実施形態の検出用具も、例えば、実施形態3の検出用具と同様にして使用できる。また、検出用具50の内部に導入された試料は、例えば、その余剰が廃液部51に送られてもよい。
【0132】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0133】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、下記の実施例および比較例により制限されない。
【実施例】
【0134】
[実施例1]
種々のビオチンとアビジンとを結合した抗CRP抗体を用いて、CRPの測定を行った。
【0135】
(アビジン−ビオチン化抗CRP抗体の作製)
まず、抗CRP抗体にビオチンを結合させた。12.2mg/mLの抗CRP抗体(オリエンタル酵母社)3mLに、10mmol/Lのビオチン水溶液(溶媒:水)494.2μLを加え、その混合液を室温で静置した。前記ビオチンとしては、EZ-Link(登録商標)NHS-LC-LC-Biotin(PIERCE社)およびEZ-Link(登録商標)TFP-PEG3-Biotin(PIERCE社)をそれぞれ使用した。前記混合液を遠心脱塩カラムZeba(商標)Desalt Spin Columns(PIERCE社)に供し、1,000G、2分、20℃の条件で遠心して、未反応のビオチンを除去した。そして、前記カラム内に残ったビオチン化抗CRP抗体を含む溶液を回収し、限外ろ過フィルター(分画分子量100kDa)に供して、3,600rpm、20分、20℃の条件で遠心し、ビオチン化抗CRP抗体を濃縮した。ここで、抗CRP抗体のビオチンラベル率を、HABA置換法により決定した。この結果、抗体1分子あたりビオチンが1分子以上結合していることを確認した。また、続くアビジン化に先立って、ビオチン化抗CRP抗体を含む濃縮液について、タンパク質量を測定した。タンパク質量の測定は、280nmにおける吸光度測定により行った。続いて、ビオチン化抗CRP抗体に、さらにアビジンを結合させた。前述のビオチン化抗CRP抗体を含む濃縮液に、2mg/mL アビジン(Calbiochem社)を含むPBS溶液1.35mLを加え、この混合液を室温で5分間静置した。続いて、前記混合液を限外ろ過フィルター(分画分子量100kDa)に供して、3,600rpm、20分、20℃の条件で遠心し、未反応のアビジンの除去およびアビジン-ビオチン化抗CRP抗体の濃縮を行った。このようにしてアビジン−ビオチン化抗CRP抗体を得た。なお、ビオチンとして、EZ-Link(登録商標)NHS-LC-LC-Biotinを用いたものをアビジン-NHS-LC-LC-biotin化抗CRP抗体といい、EZ-Link(登録商標)TFP-PEG3-Biotinを用いたものをアビジン-TFP-PEG3-biotin化抗CRP抗体という。
【0136】
(乾燥試薬の調製)
前記アビジン−ビオチン化抗CRP抗体を用いて、下記組成の液体試薬を調製した。下記組成において、アビジン-NHS-LC-LC-biotin化抗CRP抗体の添加量は29.3μL、アビジン-TFP-PEG3-biotin化抗CRP抗体の添加量は26.4μLとした。これらの液体試薬29μLをセル長100μmのセルに入れ、それぞれ凍結乾燥により乾燥させた。このようにして、乾燥試薬を配置したセルを作製した。
【0137】
【表3】

【0138】
(CRP濃度測定方法)
ヒト全血から回収したCRPフリーの血清(オリエンタル酵母工業)に、所定濃度となるようにCRP(Capricon Products社)を添加して、検体を調製した。前記所定濃度は、0、1.2、5、6、10、20、42.9、65、78mg/100mLとした。そして、各アビジン−ビオチン化抗CRP抗体を含む乾燥試薬を備えた前述のセルに、各検体20μLを添加し、25℃で4分間インキュベートした後、分光光度計を用いて、透過光を、波長405nm、810nmで測定した。405nmの透過光強度から810nmの透過光強度を差し引いて、吸光度(Abs.(405-810nm))を算出した。
【0139】
これらの結果を、図1(A)および(B)に示す。同図(A)は、各CRP濃度における吸光度を示すグラフであり、同図(B)は、同図(A)におけるCRP濃度0〜10mg/100mLの領域を拡大したグラフである。両図において、○は、ビオチンとしてNHS-LC-LC-biotin、●は、ビオチンとしてTFP-PEG3-biotinを、それぞれ使用した結果である。
【0140】
図1(A)に示すように、CRP10〜78mg/100mLの濃度域においては、ビオチンとしてNHS-LC-LC-biotinおよびTFP-PEG3-biotinのいずれを用いた場合も、CRP濃度にほぼ比例して吸光度が増加した。また、高濃度域において、プロゾーンは見られなかった。さらに、図1(B)に示すように、CRP 0〜10mg/100mLの低濃度域において、いずれのビオチンを用いた場合も、CRP濃度の増加にほぼ比例して吸光度が増加した。また、バックグラウンドは、いずれのビオチンを用いた場合でも、約0.01〜0.02と十分に低い値を示した。
【0141】
以上の結果から、アビジン−ビオチン化抗CRP抗体を使用することによって、試料を希釈することなく、マイクロオーダーのセル長で、約0〜78mg/100mLのCRPを定量的に測定できることが分かった。
【0142】
[実施例2]
抗原CRPとアビジン−ビオチン化抗CRP抗体との比率を変化させて、CRP測定を行った。
【0143】
(アビジン-ビオチン化抗CRP抗体を含む乾燥試薬の調製)
実施例1で調製したアビジン-NHS-LC-LC-biotin化抗CRP抗体29.3μLを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてセル内に乾燥試薬を配置した。
【0144】
(CRP濃度測定方法)
実施例1と同様にして、所定濃度の抗原CRPを含む検体を調製した。前記所定濃度は、0、10、20、78mg/100mLとした。そして、前述のセルに前記検体を添加して、実施例1と同様に吸光度を測定した。なお、検体の添加量は、それぞれ、15、20、40、50、60μLとした。
【0145】
これらの結果を図2に示す。同図は、各CRP濃度における吸光度を示すグラフである。同図におけるプロットは、各検体添加量の結果であり、●は15μL、○は20μL、×は40μL、黒三角は50μL、△は60μLの結果である。
【0146】
図2に示すように、検体添加量が60μLの場合(△)、0〜20mg/100mLの低濃度域においては、CRP濃度に比例して吸光度の増加が確認されたが、20mg〜78mg/100mLの高濃度域においては、プロゾーンが確認された。しかしながら、同図の50μL(黒三角)、40μL(×)、20μL(○)、15μL(●)に示すように、検体の添加量を低減させるにしたがって、つまり、抗原に対する抗体比を増加させるにしたがって、プロゾーンは解消された。特に、同図の●に示すように、検体の添加量を15μLに低減することで、0〜78mg/100mLの範囲、つまり、低濃度域から高濃度域の全域において、CRP濃度に比例して、吸光度が上昇することがわかった。また、バックグラウンドは、検体の添加量にかかわらず、約0.01と十分に低い値を示した。
【0147】
以上の結果から、アビジン−ビオチン化抗体を使用することで、例えば、高濃度域においてプロゾーンが発生した場合でも、抗原に対する抗体比の調節によって、有効に測定精度を向上できることがわかった。また、プロゾーンの発生に関わらず、低濃度域についても、十分に優れた感度での測定が可能であり、また、バックグラウンドも十分に低いことから、優れた測定感度および測定精度を実現できることがわかった。このように、本実施例のアビジン−ビオチン化抗体によれば、試料を希釈することなく、マイクロオーダーのセル長で、約0〜78mg/100mLのCRPを定量的に測定できることが分かった。
【0148】
[実施例3]
アビジンに代えてストレプトアビジンを付加したストレプトアビジン−ビオチン化抗CRP抗体を用いて、CRPの測定を行った。
【0149】
(ストレプトアビジン-ビオチン化抗CRP抗体の作製)
アビジンに変えて、ストレプトアビジン(PIERCE社)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、ストレプトアビジン−ビオチン化抗CRP抗体を作製した。なお、ビオチンとしてEZ-Link(登録商標)NHS-LC-LC-Biotinを用いたものをストレプトアビジン-NHS-LC-LC-biotin化抗CRP抗体といい、ビオチンとしてEZ-Link(登録商標)TFP-PEG3-Biotinを用いたものを、ストレプトアビジン-TFP-PEG3-biotin化抗CRP抗体という。
【0150】
(乾燥試薬の調製)
アビジン−ビオチン化抗CRP抗体に代えて、ストレプトアビジン−ビオチン化抗CRP抗体25.2μLを添加した以外は、前記実施例1と同様にして、液体試薬の調製およびセルへの乾燥試薬の配置を行った。
【0151】
(CRP濃度測定方法)
実施例1と同様にして、所定濃度(0、10、20、78mg/100mL)の抗原CRPを含む検体を調製した。そして、前述のセルに検体を添加して、実施例1と同様に吸光度を算出した。なお、検体の添加量は、ストレプトアビジン-NHS-LC-LC-biotin化抗CRP抗体を含むセルに対して35μL、ストレプトアビジン-TFP-PEG3-biotin化抗CRP抗体を含むセルに対して29.4μLとした。
【0152】
これらの結果を図3に示す。同図は、各CRP濃度における吸光度を示すグラフである。同図において、○は、ストレプトアビジン-TFP-PEG3-biotin化抗CRP抗体を用いた結果であり、●は、ストレプトアビジン-NHS-LC-LC-biotin化抗CRP抗体を用いた結果である。
【0153】
図3に示すように、ストレプトアビジン-TFP-PEG3-biotin化抗CRP抗体を用いた場合、CRP 0〜65mg/100mLの濃度域において、CRP濃度にほぼ比例して吸光度が増加した。また、同図に示すように、ストレプトアビジン-NHS-LC-LC-biotin化抗CRP抗体を用いた場合も、CRP 0〜20mg/100mLの濃度域において、CRP濃度にほぼ比例して吸光度が増加した。また、バックグラウンドは、いずれのストレプトアビジン-ビオチン化抗CRP抗体を用いた場合でも、0.04以下と十分に低い値を示した。
【0154】
以上の結果から、ストレプトアビジンを使った場合でも、低いバックグラウンドで、CRPを定量的に測定できることが分かった。このように、本実施例のストレプトアビジン−ビオチン化抗体によれば、試料を希釈することなく、マイクロオーダーのセル長で、約0〜78mg/100mLのCRPを定量的に測定できることが分かった。
【0155】
[実施例4]
ビオチンのみを結合させたビオチン化抗CRP抗体を用いて、CRP濃度測定を行った。
【0156】
(ビオチン化抗CRP抗体の作製)
アビジンを結合させない以外は、前記実施例1と同様にして、ビオチン化抗CRP抗体を作製した。なお、ビオチンとしては、EZ-Link(登録商標)NHS-LC-LC-Biotin(PIERCE社)を用いた。
【0157】
(乾燥試薬の調製)
アビジン−ビオチン化抗CRP抗体に代えて、ビオチン化抗CRP抗体19.2μLを添加した以外は、前記実施例1と同様にして、液体試薬の調製およびセルへの乾燥試薬の配置を行った。
【0158】
(CRP濃度測定方法)
実施例1と同様にして、所定濃度(0、1.2、3、6、10、20、42.9、78mg/100mL)の抗原CRPを含む検体を調製した。そして、前述のセルに検体を添加して、実施例1と同様に吸光度を測定した。なお、検体の添加量は25μLとした。
【0159】
これらの結果を図4(A)および(B)に示す。同図(A)は、各CRP濃度における吸光度を示すグラフであり、同図(B)は同図(A)におけるCRP濃度0〜6mg/100mLの領域を拡大したグラフである。
【0160】
図4(A)に示すように、CRP 0〜78mg/100mLの濃度域において、CRP濃度にほぼ比例して吸光度が増加した。特に、同図(B)に示すように、従来のTIA法では測定が困難であった低濃度域(CRP 0〜6mg/100mL)においても、CRP濃度にほぼ比例して吸光度が増加した。また、バックグラウンドは、0.01以下であり、十分に低い値を示した。
【0161】
以上の結果から、ビオチンのみが結合したビオチン化抗CRP抗体を使用した場合でも、プロゾーンの影響を受けずに、低いバックグラウンドで、CRPを測定できることがわかった。このように、本実施例のビオチン化抗体によれば、試料を希釈することなく、マイクロオーダーのセル長で、約0〜78mg/100mLのCRPを定量的に測定できることが分かった。
【0162】
[実施例5]
アビジン−ビオチン化抗CRP抗体およびストレプトアビジン-ビオチン化抗CRP抗体を用いて、バックグラウンドの測定を行った。
【0163】
(アビジン-ビオチン化抗CRP抗体およびストレプトアビジン-ビオチン化抗CRP抗体の作製)
アビジンまたはストレプトアビジンと、ビオチン(EZ-Link(登録商標)NHS-LC-LC-Biotin)とを用いて、前記実施例1および実施例3と同様にして、アビジン-ビオチン化抗CRP抗体およびストレプトアビジン-ビオチン化抗CRP抗体を作製した。
【0164】
(乾燥試薬の調製)
アビジン−ビオチン化抗CRP抗体27.8μLまたはストレプトアビジン−ビオチン化抗CRP抗体29.4μLを添加した以外は、前記実施例1と同様にして、液体試薬の調製およびセルへの乾燥試薬の配置を行った。
【0165】
(バックグラウンド測定方法)
ヒト全血から回収したCRPフリーの血清(オリエンタル酵母工業)20μLを、前述のセルに添加して、実施例1と同様に吸光度を算出した。
【0166】
この結果、ストレプトアビジン−ビオチン化抗CRP抗体を用いた場合のバックグラウンドは0.035、アビジン−ビオチン化抗CRP抗体を用いた場合のバックグラウンドは0.019であった。このように、いずれの抗体を用いた場合も十分に低いバックグラウンドを示し、特に、アビジンを使用することで、より一層バックグラウンドを低減できることがわかった。
【0167】
[実施例6]
透過光および散乱光の検出によりCRPの測定を行った。
【0168】
(乾燥試薬の調製)
アビジン−ビオチン化抗CRP抗体として、実施例1で調製したアビジン-NHS-LC-LC-biotin化抗CRP抗体を使用し、実施例1と同様にしてセルに乾燥試薬を配置した。なお、液体試薬における、アビジン-ビオチン化抗CRP抗体の添加量は18μLとした。
【0169】
(CRP濃度測定方法)
実施例1と同様にして、所定濃度(0、0.1、0.5、1、5、10、20、32.5、65mg/100mL)の抗原CRPを含む検体を調製した。そして、前記検体20μLを前述のセルに添加して、実施例1と同様に透過光強度を波長域405nm、810nmで測定して、405nmの透過光強度から810nmの透過光強度を差し引いて、吸光度を算出した。
【0170】
他方、前記検体40μLを以下に示す試料保持用具(セル)に添加して、25℃で4分間インキュベートした後、以下の散乱光測定装置を用いて、散乱光強度(365nm)を測定した。
【0171】
実施例1と同様の液体試薬29μLを、図13に示す試料保持用具60の試料保持部65に供給し、凍結乾燥することによって乾燥させた。このようにして、試料保持用具60に乾燥試薬を配置した。同図は、試料保持用具の一例を示す斜視図であり、便宜上、各構成部材を離して示した概要図である。同図に示すように、試料保持用具60は、支持基板63とカバー基板61とを含む。支持基板63の表面には、試料導入部64、乾燥試薬が配置された試料保持部65、廃液部66、および、これらを連結する流路67が凹状の溝として形成されている。カバー基板61は、支持基板63の試料導入部64と対応する箇所に試料導入口62を備え、支持基板63の前記溝が形成された表面に被覆されている。なお、試料保持用具60において、試料保持部65の平面形状、すなわち、光が照射される面の形状は、円形とした。試料保持用具60の詳細は、以下の通りである。
カバー基板
材質:シリコン系のポリエチレンテレフタレート(PET)
厚み:150μm
支持基板
材質:アクリル樹脂
厚み:5mm(試料保持部の底面から支持基板の底面までの長さ)
試料保持部
直径:1.3mm
深さ:約300μm
【0172】
(散乱光測定装置)
図8に示す散乱光測定装置を組立てた。散乱光測定装置の各部の詳細は、以下の通りである。なお、本実施例においては、図8の試料保持用具12は、前述の図13の試料保持用具60である。
光源:LED(ナイトライド社)
波長:365nm
照射光直径:0.4mm
受光部:フォトダイオード(商品名S2386-44K、浜松ホトニクス製)
第1の遮光部
材質:遮光剤カーボンブラックを50%(w/v)含むアクリル
直径:0.8mm
厚み:10μm
第2の遮光部
材質:遮光剤カーボンブラックを50%(w/v)含むアクリル
内部直径:25mm
厚み:10μm
【0173】
試料保持用具60の導入口62から各検体20μLを添加し、前記検体を試料導入部64から試料保持部65に移動させ、25℃で4分間インキュベートした後、前記散乱光測定装置を用いて、試料保持部65に光を照射して散乱光強度(365nm)を測定した。なお、試料保持用具60は、図8に示す散乱光測定装置において、試料保持部65に光が照射され、試料を透過した直接光が第1の遮光部14で遮光されるように配置されている。
【0174】
これらの結果を図5(A)〜(C)に示す。同図(A)は、対数表示したCRP濃度と、吸光度および散乱光強度との関係を示すグラフである。同図(B)は、同図(A)について、CRP濃度を常数表示したグラフであり、同図(C)は、同図(B)におけるCRP濃度0〜10mg/100mLの領域を拡大したグラフである。これらの図において、○は吸光度、●は散乱光強度の結果をそれぞれ示す。
【0175】
同図(A)〜(C)の○(吸光度)に示すように、透過光測定によれば、低濃度域および高濃度域のいずれにおいても、CRP濃度に比例して吸光度が増加した。また、バックグラウンドも約0.02と十分に低い値を示した。これに対して、散乱光測定では、同図(A)の●(散乱光強度)に示すように、同様に、CRP濃度に比例して散乱光強度が増加したが、同図(C)に示すように、低濃度域における測定感度がより一層向上し、且つ、バックグラウンドも0.001以下と、より一層低い値にできた。以上のように、本実施例によれば、同じ反応液であっても、透過光を測定する比濁法と散乱光を測定する比朧法とで、それぞれCRPの検出が可能であり、さらに、散乱光の測定によって、より一層優れた精度と感度でCRP測定が可能になることが分かった。
【0176】
[比較例1]
従来技術である免疫比濁法(TIA法)により、抗CRP抗体を用いてCRP測定を行った。
【0177】
(乾燥試薬の調製)
アビジン−ビオチン化抗CRP抗体に代えて、抗CRP抗体19.2μLを添加した以外は、前記実施例1と同様にして、液体試薬の調製およびセルへの乾燥試薬の配置を行った。
【0178】
(CRP濃度測定方法)
実施例1と同様にして、所定濃度(0、1.2、3、6、10、20、42.9、78mg/100mL)の抗原CRPを含む検体を調製し、所定量(50、75、100μL)の検体を前述のセルに加えて、吸光度を測定した。
【0179】
これらの結果を図6(A)および(B)に示す。同図(A)は、各CRP濃度における吸光度を示すグラフであり、同図(B)は、同図(A)におけるCRP濃度0〜6mg/100mLの領域を拡大したグラフである。両図において、○は50μL、●は75μL、×は100μLの検体を、それぞれ添加した結果である。
【0180】
図6(A)に示すように、検体100μLを添加した場合(×)、CRP高濃度域において、プロゾーンが発生した。なお、このプロゾーンの発生は、検体の添加量を75μL(●)、50μL(○)と低減するにしたがって、つまり、抗原に対する抗体比を増加するにしたがって解消された。しかしながら、TIA法によっては、さらに、低濃度域において問題が見られた。すなわち、図6(B)に示すように、CRP低濃度域では、検体添加量にかかわらず、濃度に比例した吸光度増加が見られるものの、バックグラウンドと比較してほとんど差がなく、極めて低い吸光度であった。このため、低濃度域での測定感度が不十分であることがわかった。以上の比較例1と前述の各実施例とを比較すると、ビオチン化抗体またはアビジン-ビオチン化抗体を用いた実施例によれば、低濃度域においても優れた感度を示すことから、広い濃度範囲についての測定が可能となり、且つ、プロゾーンの発生も効果的に抑制できることが分かる。
【0181】
[比較例2]
従来技術であるラテックス免疫比濁法(LA法)により、抗CRP抗体を用いてCRP測定を行った。
【0182】
ラテックス結合抗CRP抗体を含む市販試薬(商品名イアトロCRP-EX、三菱化学ヤトロン社)の試薬R1 22.5μLと試薬R2 112.5μLとを、それぞれ別の容器に入れ、凍結乾燥によって乾燥させた。他方、実施例1と同様にして、所定濃度(0、0.5、0.85、3、6、10、20、42.9、78mg/100mL)の抗原CRPを含む検体を調製した。そして、乾燥させた前記R1に検体9μLを添加してR1を溶解し、2分放置した後、この反応液全量で乾燥させたR2を溶解させた。そして、R2の溶解から2分後に、前記実施例1と同様にして透過光の測定と吸光度の算出を行った。
【0183】
これらの結果ならびに前記比較例1における検体添加量100μLの結果を、あわせて図7に示す。同図は、各CRP濃度における吸光度を示すグラフであり、同図(B)は、同図(A)におけるCRP濃度0〜6mg/100mLの領域を拡大したグラフである。両図において、黒三角は、比較例2のLA法の結果、○は、比較例1のTIA法の結果である。
【0184】
図7(A)に示すように、LA法(黒三角)では、CRPの低濃度域において、CRP濃度に比例した吸光度の増加は見られるものの、CRP 3mg/100mLという非常に低い濃度からプロゾーンが発生した。このプロゾーンは、抗原−抗体比を変化させることによっては、これ以上改善することができず、未希釈試料について得られる限界のデータであった。さらに、同図(B)に示すように、バックグラウンドもAbs.0.29と極めて高い値を示した。この結果から、LA法は、TIA法と比較して、低濃度域での測定は可能であるものの、バックグラウンドの問題や、顕著なプロゾーンの問題を有していることから、広濃度範囲での精度および感度が不十分であることがわかった。また、試料を希釈することなく、プロゾーンを解消できないことがわかった。以上の比較例2と前述の各実施例とを比較すると、ビオチン化抗体またはアビジン-ビオチン化抗体を用いた実施例によれば、低濃度域においても優れた感度を示すことから、広い濃度範囲についての測定が可能となり、また、バックグラウンドも十分に低減でき、且つ、プロゾーンの発生も効果的に抑制できることが分かる。このため、前述の各実施例によれば、例えば、試料を希釈することなく、マイクロオーダーのセル長で、広範囲のCRPを定量的に測定できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
以上のように、本発明によれば、前述の修飾化結合物質を使用することにより、優れた精度および感度で目的物質の検出が可能である。具体例として、本発明の方法によれば、例えば、TIA法では測定し難かった低濃度での測定が可能となり、また、LA法ではプロゾーンの発生により測定し難かった高濃度での測定が可能となる。このように、本発明によれば、従来の方法では、測定できなかった濃度範囲についても、優れた精度および感度で目的物質の検出が可能になることから、本発明は、分析や臨床の分野等において、極めて有用な新たな方法であるといえる。
【符号の説明】
【0186】
11:光源
12、40、50、60:試料保持用具
40、50、60:検出用具
13、14、33、34、43、44、53、54:遮光部
15、35、45、55、65:試料、試料保持部
16:受光部
41、61:カバー基板
42、63:支持基板
46、62:導入口
47、57、57:流路
64:試料導入部
51、66:廃液部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的物質に結合する結合物質を用いて、試料中の目的物質を検出する方法であって、
前記結合物質が、最大径50nm以下の修飾物質が結合した結合物質であり、
下記(A)工程および(B)工程を含むことを特徴とする検出方法。
(A)前記結合物質と試料とを接触させ、前記結合物質と前記試料中の目的物質との結合により凝集体を形成させる工程
(B)前記凝集体を検出する工程
【請求項2】
前記修飾物質が、ビオチンおよびビオチン誘導体の少なくとも一方を含む、請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
前記修飾物質が、さらに、アビジンおよびアビジン誘導体の少なくとも一方を含み、前記ビオチンおよびビオチン誘導体の少なくとも一方に、前記アビジンおよびアビジン誘導体の少なくとも一方が結合している、請求項2記載の検出方法。
【請求項4】
前記アビジン誘導体が、ストレプトアビジン、修飾化ストレプトアビジンおよび脱グリコシル化アビジンからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項3記載の検出方法。
【請求項5】
前記修飾物質が、さらに、スペーサーを有し、
前記スペーサーを介して、前記ビオチンおよびビオチン誘導体の少なくとも一方が、前記結合物質に結合している、請求項1から4のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項6】
前記目的物質が抗原であり前記結合物質が抗体である、または、前記目的物質が抗体であり前記結合物質が抗原である、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記(A)工程において、試料と接触させる前、前記修飾物質が結合した結合物質が、乾燥状態である、請求項1から6のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項8】
前記試料が、未希釈の試料である、請求項1から7のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項9】
前記試料が、血液である、請求項1から8のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項10】
前記目的物質が、C反応性タンパク質である、請求項1から9のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項11】
前記(B)工程において、散乱光および透過光の少なくとも一方の検出により、前記凝集体を検出する、請求項1から10のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の目的物質の検出方法に使用する検出試薬であって、
前記目的物質に結合する結合物質を含み、
前記結合物質が、最大径50nm以下の修飾物質が結合した結合物質であることを特徴とする検出試薬。
【請求項13】
前記修飾物質が、ビオチンおよびビオチン誘導体の少なくとも一方を含む、請求項12記載の検出試薬。
【請求項14】
前記修飾物質が、さらに、アビジンおよびアビジン誘導体の少なくとも一方を含み、前記ビオチンおよびビオチン誘導体の少なくとも一方に、前記アビジンおよびアビジン誘導体の少なくとも一方が結合している、請求項13記載の検出試薬。
【請求項15】
前記目的物質が抗原であり前記結合物質が抗体である、または、前記目的物質が抗体であり前記結合物質が抗原である、請求項12から14のいずれか一項に記載の検出試薬。
【請求項16】
請求項1から11のいずれか一項に記載の目的物質の検出方法に使用する検出用具であって、
本体と、請求項12から15のいずれか一項に記載の検出試薬とを含み、
前記本体に、前記検出試薬が配置されていることを特徴とする検出用具。
【請求項17】
前記検出用具が、散乱光および透過光の少なくとも一方を検出するための検出用具であり、セル長が、10〜1000μmである、請求項16記載の検出用具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−32505(P2010−32505A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153465(P2009−153465)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】