説明

直列群のバッテリまたはキャパシタのセル充電状態および放電状態の分岐を検出する方法

バッテリを充電するためのシステムは、少なくとも2つのリチウムイオンセルを有するバッテリパックを含む。コントローラは、セル単位ベースで個別にdV/dSOCを計算することなく、バッテリパックを全体として表す、計算したdV/dSOCに基づいてバッテリパックの充電状態に関する電圧変化レート(dV/dSOC)を検出する。充電は、dV/dSOCが所定の値に達した時点で終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、米国仮(provisional)出願(番号61/040926、2008年3月31日出願)の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、本発明と合致する実施形態は、直列群(series string)または「パック」のバッテリセルまたはキャパシタセルの充電状態(SOC: state of charge)または放電状態(SOD: state of discharge)の分岐(divergence)を検出するための装置および方法に関するものであり、特に、リチウムイオンバッテリセル群におけるSOCおよびSODの分岐を検出するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現代のポータブル電子機器は、電源として、ほぼ専ら充電式Liイオンバッテリに依存している。このことは、エネルギー蓄積能力、パワー能力、サイクル寿命および安全特性を向上し、コストを削減するための持続した努力を促進する。リチウムイオンバッテリまたはリチウムイオンセルとは、リチウム金属より高いリチウム化学ポテンシャルで相当量のリチウムを格納できるアノードを有する充電式バッテリを指す。
【0004】
例として、直列接続した多数のリチウムセルで形成されたバッテリパックを考える。リチウムバッテリパックの寿命は、そのセルの1つについての電圧が、放電中に所定の閾値(例えば、1.5V)を下回ったり、または充電中に所定の閾値(例えば、3.9V)を上回ると劣化する。このため先行技術は、伝統的にセル電圧を注意深く監視し、セル電圧を特定の範囲内に維持する対策を採っている。
【0005】
問題をより複雑にしているのは、リチウムセル内の製造欠陥により、他の見かけ上同じセルと同量の電荷を保持していない幾つかのセルが生ずることである。このため多数のリチウムセルが直列接続されている場合、欠陥セルが他のセルより急速に放電し、放電中に上述した下閾値に急速に到達する。同様に、こうした欠陥セルはしばしば、充電中に上閾値に達する最初のものになる。こうしたセル間の不均等は、動作中に電荷が再び均等にならない限り、バッテリパックの有効な動作範囲を制限する。
【0006】
リチウムイオンバッテリの内部では、セルの充電状態が変化すると、セル全体を移動する多数のイオンが存在する。先行技術で知られているように、例えば、イオンは、格子構造の特定の場所にフルSOC条件で格納される。SOCが消耗し、またはセルがエネルギーを放電するとともに、セル内のイオンはセルの別の場所にある別の格子構造へ移動する。電子の流れは、セル内のイオンの移動を可能にする負荷によって生ずる。リチウムイオンセルの直列配置、例えば、バッテリパックにおいて、イオンの移動は個々のセル内で生ずる。バッテリパック内の個々のセルが消耗し、即ち、放電格子構造へ移動するイオンが無くなると、電圧がそのセルで増大し、セルまたはバッテリパックにとって回復できない損害を生じさせる可能性がある。
【0007】
リチウムイオンセルは、ニッケル水素セルまたはニッケルカドミウムセルとは異なって、自然に均等化されるものでない。従って、リチウムイオンセルを含むバッテリパックのSOC管理は、従来、個々のセルでのSOCを明らかにすることを必要とする。先行技術のシステムは、各セルがほぼ同量のイオンを有することを確保するためのバランス機構を含む。代替として、各セルがSOCおよびSODに同時に到達するような同一のセルを持つバッテリを細心の注意で製造する試みがなされている。しかしながら、先行技術の手法は、製造者が個々のセルの正確な品質管理および監視を確保するための追加コストを負担することになるため、不都合である。
【0008】
リチウムイオンバッテリまたはキャパシタ、あるいは容量性でファラデー性の保存を含むハイブリッドまたは「非対称(asymmetric)」デバイス等の他の電気化学発電装置が直列群に加わって、単一セルが供給できるものより高い電圧を得る場合、直列群の繰り返し充電および放電により、セルが「不均等(out of balance)」になり、セルの充電状態は直列群に沿って変化する。不均等条件は、セルの繰り返し時の容量減衰レートでの差、あるいは、他の原因のうち、容量減衰レートでの差をもたらすインピーダンスの変化から生じ得る。直列群におけるセルが直列群の組み立て時に容量または充電状態が変化しており、直列群はそもそも完全に均等化されていないことがある。これに限定されないが、動力工具または器具のバッテリ、電気自動車バッテリ、バックアップ電源用バッテリなど、こうしたパックには多くの用途がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで説明するような不均等の直列群は、幾つかの理由で望ましくないことがある。直列群の充電時、直列群が特定のピーク電圧に充電される場合、より低い容量またはより高いSOCのセルが過充電されることがあり、セルの放出(venting)または熱散逸または爆発など、パックの初期故障または危険な状況をもたらす。不均等の直列群の放電時にも同じことが生じ得る。極端な場合、不均等パックの放電は、あるセルを、セルの極性が通常使用時の反対になる「逆電圧(voltage reversal)」にすることがある。リチウムイオンセルでは、これにより負側電流コレクタの溶出をもたらすことがあり、故障またはガス発生をもたらし、セルの機械的破裂を生じさせる。不均等の直列群に関連した問題を回避する先行技術の手法は、個々のセル監視および均等化を有することであり、これは追加の制御回路を必要とし、バッテリ構成のコストおよび複雑さを増加させる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(本発明の例示の実施形態の要旨)
バッテリセルのパックの非限定的な例は、LiMPO正極(Mは、1つ又はそれ以上のFe,Mn,NiまたはCoを含む)、またはLiMnスピネル正極、またはLiTi12負極を利用したリチウムイオンセルを含み、これらのタイプの化合物は、フルSOCに達するとセル電圧の急峻な上昇を示したり、フルSODに達するとセル電圧の急峻な降下を示すリチウム格納材料の典型例である。これはしばしば、広範囲のSOCに渡って一定電圧の存在に起因しており、リチウムが挿入または除去されるときの2相反応から由来する。
【0011】
本発明の一態様によれば、充電および放電の限界に到達したとき、特定のセル化学反応の電圧の特徴的変化を利用して、1つ又はそれ以上の不均等セルの存在を検出し、こうした入力に基づいて充電または放電プロトコルを調整し、過充電または過放電を回避し、危険な状況を回避し、またはパック寿命を延ばす。
【0012】
他の態様によれば、電圧の監視および制御は、パック設計またはパック用の充電器に含まれている。充電器は、充電機能および放電機能を実施でき、パック内の直列群セルの状態を診断するための手段として機能し得る。直列接続された複数セルは、2個程度または、10個または20個あるいはそれ以上の数程度でもよく、セル数の上限は、何れか単一セルの応答の急峻さと比較して直列電圧が測定可能である精度によって制限される。
【0013】
一態様によれば、直列群のセルは定電流で充電され、直列群の電圧−時間応答V(t)、または電圧の1次時間導関数dV/dt,または電圧の2次時間導関数dV/dtが、1つ又はそれ以上の不均等セルの存在を識別するために用いられる。更なる実施形態では、不均等セルの存在および充電終了を検出するために、dv/dSOCが用いられる。
【0014】
幾つかの場合、充電時または放電時に、セルが複数の電圧ステップを示すことがある。パックの充電または放電の際の途中の電圧で別のステップ発生にもかかわらず、検出機構がこうした場合にも使用できる。例えば、セル化学反応がこうしたステップを本質的に有している場合、パック電圧も特徴的な電圧ステップを示すことになる。絶対パック電圧が、充電(放電)時に一定の電圧を超え(未満)でなければならないという追加の条件を適用することによって、パックが充電の上側(下側)近くにある場合のみ、電流制限動作が適用可能である。
【0015】
例示の実施形態において、少なくとも2つのリチウムイオンセルを有するバッテリパックを備えたバッテリを充電するためのシステムが提供される。バッテリパックを全体として表すdV/dSOCの計算値に基づいて、バッテリパックの充電状態に関する電圧変化レート(dV/dSOC)を検出するコントローラが提供され、その結果、dV/dSOCが所定の値に到達した場合に充電が終了する。
【0016】
ある態様によれば、バッテリパックは、直列接続された少なくとも2つのリチウムイオンセルからなる。一態様では、バッテリパックは、nシリーズ(nS)を含むグループからの1つでもよく、ここでnは少なくとも2で、せいぜい10である。少なくとも2つのリチウムイオンセルは、LiFe1−yMnPOを含んでもよく、yは、Mnの種々の濃度を表す。
【0017】
コントローラは、充電を終了させるマイクロプロセッサを含んでもよい。他の態様では、コントローラは、アナログ回路を含む。
【0018】
更なる例示の態様において、マイクロプロセッサは、充電器内のライトと接続しており、ライトは使用者にバッテリパックの充電状態を示す。
【0019】
ある態様において、コントローラは、バッテリパックの内部コンポーネントの温度を検出するように構成され、温度が所定の閾値を超えた場合、充電を終了させる。温度は、サーミスタで検出してもよい。
【0020】
例示の実施形態では、リチウムイオンセルを含むバッテリパックを備えたバッテリ充電器が提供される。バッテリパック全体の単一のdV/dSOCの監視に基づいて、バッテリパックの充電状態に関するバッテリパックの電圧変化レート(dV/dSOC)を決定する回路が提供される。所定のdV/dSOCに到達した場合、バッテリパックの充電を終了させるセンシング回路が提供される。
【0021】
一態様において、充電器は、AC電源またはDC電源からの入力電圧を許容できる安定化スイッチング電源を含む。
【0022】
他の態様において、電源は、マイクロプロセッサによって制御される。マイクロプロセッサは、バッテリパックの電圧および電流の測定値に基づいて充電を終了させてもよい。
【0023】
他の態様において、バッテリパックおよび充電器の少なくとも1つの温度を監視する温度センシング回路が提供される。更なる態様において、電圧センシング回路は、デジタルまたはアナログのコンバータ回路の少なくとも1つを含む。更なる態様において、マイクロプロセッサは、パック内の少なくとも1つのリチウムイオンセルのdV/dSOCを決定する電圧センシング回路と接続される。
【0024】
ある態様において、バッテリパックの充電が、少なくとも1つのリチウムイオンセルのdV/dSOCが所定レートを超えた状態でマイクロプロセッサによって終了される。
【0025】
他の例示の態様において、電圧−容量カーブを「滑らか」にする方法が提供される。これらの場合、バッテリ化学反応が電圧ステップを本質的に有するが、電圧ステップが生ずる容量が変化することがある。非限定的な例として、オリビン(olivine)正極LiMPOまたは、これらのドープまたは変更した組成を考えると、Mが複数の遷移金属、例えば、Fe,Mn,NiまたはCoを含む場合、充電および放電のカーブが明確な電圧ステップを示すことがある。バッテリまたはバッテリパックで特定の組成を用いた場合、放電の際、放電電圧がステップ状の挙動を経験することがあり、バッテリまたはパックが特定の充電状態を通過すると、電圧が比較的急速に降下する。これは、不都合になることがある。バッテリパワーが充電状態に応じて減少し、例えば、動力工具の使用者が、そのパック容量での放電の際、パワー減少を気付くかもしれないからである。
【0026】
更なる例示の実施形態は、少なくとも2つ又はそれ以上のリチウムイオンバッテリセルのバッテリパックを充電し、バッテリパック全体を表すdV/dSOCの計算に基づいて、充電状態に関する電圧変化レート(dV/dSOC)を検出する方法を提供する。該方法は、検出したdV/dSOCを、バッテリパックに関連した所定のdV/dSOCと比較し、比較に基づいてバッテリ充電を終了させることをさらに含む。
【0027】
ある態様において、dV/dSOCの検出は、セルベースでセルのdV/dSOCを個別に検出することなく実施する。他の態様において、バッテリパック充電の終了は、検出したdV/dSOCが、所定のdV/dSOCと等しいか、これを超えた場合に起きる。
【0028】
更なる態様において、該方法は、バッテリパックの温度を検出し、温度測定値に基づいて充電を終了させることを含む。
【0029】
追加の態様によれば、急激な電圧ステップを軽減し、より連続的な放電電圧を得るための方法が提供される。例えば、組成LiFe1−yMnPOを考えると、Mn量、yが増加すると、セル容量のより大きな割合が、より高い電圧の平坦域(plateau)(〜4.0V)に位置し、より小さな割合がより低い電圧の平坦域(〜3.45V)に位置する(電圧はLi/Li+に対して測定される)。従って、単一組成yが、yの値で決定される容量において、比較的急峻な電圧ステップダウンを有することがある。放電の際、電圧を「滑らか」にするために、電極およびセルを製造する場合、yが変化したパウダーを混合させる。yの変化は、故意に導入した「異質(inhomogeneity)」によって単一の焼成パウダーで生産してもよく、その結果、正極材料の粒子がyについて変化する。あるいは、それぞれ単一のy値を有する均質なパウダーを混合して電極に使用してもよい。例えば、y=0.6,0.5,0.4のパウダーを別々に合成し、混合してもよい。最後に、それぞれ異なるy値を有する複数のセルを用意し、パック内で一緒に使用して、滑らかな電圧応答を提供するようにしてもよい。電圧応答の円滑化は、高い放電レートの際に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の非限定的な実施形態の他の態様は、添付図面に関連した下記の説明から明らかになるであろう。
【0031】
【図1a】本発明の例示の態様に従って、〜85%SOCからフルSOCで充電した、均等化したバッテリパックを示すグラフである。
【図1b】本発明の例示の態様に従って、〜85%SOCからフルSOCで充電した、均等化したバッテリパックを示すグラフである。
【図2a】本発明の例示の態様に従って、1つのセルが90%SOC、1つのセルが85%SOC、3つのセルが80%SOCの不均等バッテリパックを示すグラフであり、全体バッテリパック電圧および個々のセル電圧を示す。
【図2b】本発明の例示の態様に従って、1つのセルが90%SOC、1つのセルが85%SOC、3つのセルが80%SOCの不均等バッテリパックを示すグラフであり、個々のセル電圧を示す。
【図3a】本発明の例示の態様に従って、1つのセルが90%SOC、4つのセルが80%SOCの不均等バッテリパックを示すグラフであり、全体バッテリパック電圧および個々のセル電圧を示す。
【図3b】本発明の例示の態様に従って、1つのセルが90%SOC、4つのセルが80%SOCの不均等バッテリパックを示すグラフであり、個々のセル電圧を示す。
【図4】本発明の例示の態様に従って、バッテリパックおよびバッテリ充電器を示す概略図である。
【図5】本発明の例示の態様に従って、バッテリパックおよび個々のセルについて、時間に関する充電電圧および電流を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の例示的で非限定的な実施形態は、上述した不都合および他の不都合を克服している。また、本発明は、上述した不都合および他の不都合を克服することを要求されるものではなく、本発明の例示的で非限定的な実施形態は、不都合の何れもを克服しないこともある。
【0033】
本発明と合致した例示の実施形態は、リチウムイオンバッテリのSOCおよびSODを監視する装置および方法を提供する。一実施形態では、個々のセル電圧を監視して、SOCおよびSODを検出するために、バッテリパック内の各セルについて別個のハードウエア接続は必要でない。個々のセルが過充電されることなく、充分に充電されたバッテリを提供するように、バッテリパック電圧が監視される。従って、先行技術のリチウムイオンバッテリと異なり、過充電または過放電に接近した状態を決定するために、充電器は各セルについて別個の監視ハードウエアを設ける必要がない。充電器は、バッテリパック内の少なくとも1つのセルが、バッテリパック全体についてdV/dtまたはdV/dSOCの監視をベースとした閾値に到達したことに基づいて、充電を終了させてもよい。例えば、バッテリパック全体を表す1つのdV/dtまたはdV/dSOCが監視され、バッテリパック全体としての充電レートを提供する。
【0034】
図1aは、5個のAPR Nanophosphateセル(5s1p構成)直列群を含むよく均等化されたパックの充電電圧V(t)、5個の個別セルの電圧応答、およびパック電圧の導関数dV/dtを示す。パックは、定電流1.5Aで充電し、最初の充電後、各セルは4.2Vを示し、そしてセルを直列に組み合わせる前に各セルを85%SOCまで放電した。図1bは、個々のセル電圧を拡大スケールで示したもので、セルはこれらの電圧−時間応答に極めてよく整合しており、この特定のバッテリ化学反応は、フル充電に接近するまで比較的一定の電圧を示すことが判る。バッテリパック電圧、個々のセル電圧、および時間に対する電圧は、フルSOC状態に到達する際、急峻に上昇することが観察される。測定値のこうした上昇は、個々のセル内のイオンを元の完全充電状態に移動させるのに必要なより多くのエネルギーの結果として発生し、充分なSOCを決定するために使用できる。図はSOCを表しているが、開示した実施形態は、SODを監視するのにも同様に適用可能であることは理解されよう。図1aと図1bは、SOCの百分率に対するdV/dSOCも示している。
【0035】
図2aと図2bでは、1つのセルが90%SOC、1つのセルが85%SOC、3つのセルが80%SOCである不均等パックについて、対応するデータを示す。図3aと図3bでは、1つのセルが他の4つとは不均等であって、90%SOCのものと、他の4つが80%SOCである不均等パックについて、対応するデータを示す。図2a〜図3bは、SOCの百分率に対するdV/dSOCも示している。図2a〜図3bは、2つのセルが他の3つとは不均等であって、完全充電状態により速く到達する直列群を表している。これは、他の3つに対して2つのセルのSOCのドリフトに起因していると思われる。容量のドリフトまたは損失は、リチウムイオンセルの寿命に渡って自然に発生し得る。例えば、リチウムイオンセルは、セル間で変動する温度条件の結果に起因してイオンを失うことがある。図1a〜図3bは、説明目的のための個別の電圧を参照している。本発明の例示の実施形態は、後述のように、個々のセルについて別々に電圧を計算していない。
【0036】
本発明の例示の態様によれば、充電状態に対するパック電圧の充電レートdV/dSOCが高い精度および正確さで測定可能であり、何れか1つのセルがフルSOCに接近する時点を決定するために使用できる。さらに、パックdV/dSOCの限界値が、バッテリパックが完全に充電される時点を決定するために使用できる。例えば、5s1p直列群のAPRセルは、dV/dtが約0.008V/secより大きい充電終期のカットオフを用いて充電できる。このカットオフ値を用いて、セルが不均等であっても、パックを完全に充電し、セルの何れかが過充電状態になるのを防止できるようになる。同様に、dV/dSOCを監視する場合、所定のカットオフが提供されるであろう。
【0037】
他の例示の態様において、ある制限値を超えたdV/dSOCは、少なくとも1つのセルがその充電限界に達していることを示している。例示の検出方法は、dV/dSOCがある値xより大きい時点を検出することを含み、少なくとも1つのセルがその充電限界に達していることを示している。ある値xは、1つのセルで生じたdV/dSOCが閾値に到達した時点を検出するのに充分なある範囲の値を包含するとともに、複数セルが、増加したdV/dSOCを同時に得るシナリオを包含する。例として、dV/dSOC閾値は、90%またはそれ以上のSOCをベースとしてもよい。1つより多くのセルがdV/dSOCの充分な増加を有する場合、バッテリパックのSOCは、より速く立ち上がることになる。1つのセルだけがdV/dSOCの充分な増加を有する場合、バッテリパックのSOCは立ち上がるが、急激なものではない。例示の実施形態は、1つのセルが閾値に到達したことを表すdV/dSOCの増加を検出する閾値が設けられ、その結果、充電が停止したり、あるいは、SODが検出された場合には放電が停止する。これは、1つのセルが過充電したり、過放電や損傷したりするのを防止する。
【0038】
パックをより完全に充電するために、V,dV/dtおよびdV/dtのより複雑な関数が、充電を終了させる時点を検出するために使用できると考えられる。また、定電流条件下では、dV/dtはdV/dSOCと類似しているとともに、使用条件下で電流が変動することが可能である。dV/dSOCは、電流を測定し、時間積分することによって決定でき、SOCおよびdV/dSOCを正確に決定できる。定電流の場合、dV/dtはdV/dSOCに比例する。電流が変化する場合、dv/dt=(di/dt)×R+dv/dSOCとなる。1つの例示の実施形態では、di/dt=ゼロであることが判っている場合、dV/dtが使用できる。dv/dSOCとdv/dtの関係は、dv/dt=i×(dv/dSOC)である。高いSOCでは、dv/dSOCは正の方向に素早く変化し、低いSOCでは、dv/dSOCは負の方向に素早く変化する。
【0039】
本発明の例示の実施形態によれば、バッテリ充電器製品は、AC電源またはDC電源などの電源からの入力電圧を許容でき、1つ又はそれ以上のバッテリセル、例えば、Nanophosphateセルの直列群を充電できる安定化スイッチング電源を含む。電源は、マイクロプロセッサによって制御され、これは充電器(及び/又はバッテリパック)内部の電気的条件および温度条件を監視し、故障状態を検出し、充電器状態および充電進行を表示する。マイクロプロセッサは、パックの直列電圧および電流だけを監視して、再充電中に充電を終了させる時点を決定する。
【0040】
充電器は、人間の介在が可能な限り少ないように安易な操作に設計され、nS(シリーズ)パックを充電するのに充分な汎用的であり、nは1より大きく、例えば、1〜100であり、1〜20でもよく、または1〜10でもよい。例えば、多くの動力工具パックは、2s,5s,6sまたは10sの直列群を利用している。充電器は、最初にメイン出力端子でのバッテリ電圧を検知する。それは、小さな電気負荷をバッテリに適用し、1)必要に応じてパックへの最大充電を低減し、2)バッテリのインピーダンスを決定する。そして、パックを、安定レートで充電電流を保持する、僅かに高い電圧に駆動する。それが充電終期条件、例えば、dV/dtまたはdv/dSOCのレートの急な増加を検出した場合、再充電サイクルを終了する。
【0041】
表示ライトが充電処理中に点灯して、充電中、充電完了およびエラーモードを示すようにしてもよい。さらに、充電器は、温度および電圧を監視し、本体およびパックへの損傷を防止するための動作を行う。入力は、標準の電源コンセント、例えば、ACソケットと接続してもよい。バッテリは、パックを放電するために用いられる同じ接続を通じて出力と接続してもよい(即ち、デバイスのカスタム設計パワー接続)。本発明の例示の態様において、温度センサは、パック内のセルの近似温度を監視するために使用してもよい。
【0042】
図4は、バッテリおよび任意の温度センシングの充電接続を示す。充電器400は、ACまたはDCの電源430と接続される。これにより、充電器400が複数のセルを含むバッテリ群(string)410を充電することが可能になる。充電器400は、温度センサ420を含んでもよい。温度センサ420は、バッテリ群410または充電器400の温度を検知する能力を有する。センサ420は、充電器400に対して、所定の最高温度に到達したときに充電を終了させること示す。充電器400には、マイクロプロセッサ450も含まれており、これは、電圧を測定するセンサ470からの入力および電流測定値を提供するセンサ490からの入力に基づいて、バッテリパックを全体として表すdV/dSOCの測定に基づいてバッテリパックの充電状態に関する電圧変化レート(dV/dSOC)を計算する。測定値は、バッテリパック全体を表すものであり、個々のセルについてではない。例えば、例示の実施形態では、ハードウエアまたは他の手段が、各セルについてdV/dSOCを別々に監視するために、個々のセルについて設けられていない。その代わりに、バッテリ群410内の全てのセルを全体として表す1つのdV/dSOC値が計算される。センサ490は、バッテリに流れる電流値をマイクロプロセッサ450で読み取り可能な信号に変換する。センサ490は、これに限定されないが、バッテリに流れる電流を読み取るように位置決めされたホール効果センサまたは分流器とすることができる。この電流値は、dv/dSOC計算を決定するために用いられる。
【0043】
例示の実施形態では、マイクロプロセッサを含むバッテリマネージャがdv/dSOCを計算するのに関与する。バッテリマネージャは、所定のdv/dSOCに到達した場合、バッテリパックの充電または放電を停止することを補助装置に指示する。例示の実施形態では、ミリ秒ごとに、充電器のマイクロプロセッサ450は、充電器の出力電圧および電流をサンプリングする。充電器およびパック内の温度は、例えば、200ミリ秒ごとにサンプリング可能である。充電器は、通常、測定パック電圧を僅かに上回り、パック電流を固定の所定レート(例えば、1C)に駆動するのに充分高い充電電圧を出力する。しかしながら、バッテリ群内のセルの1つが、所定のSOC閾値範囲以上になったり、100%SOC、または他の所定の基準値になったことを検知した場合、パックへの電圧および電流の供給を停止することになる。
【0044】
パック内の何れかの単一の直列セルのdV/dSOCは、充電サイクル終期近くで上昇するため、パック全体のdV/dSOCも上昇するようになる。従って、直列パック電圧のdV/dSOCを測定することによって充電条件の終期が検出でき、各セルごとにdV/dSOCを個別に測定することは必要でない。図5を参照して、単一セルがその最大SOCに接近すると、dV/dSOCのレートは急に上昇する。
【0045】
dV/dtのレートは、固定の時間間隔で電圧サンプルを取って、引き算および除算の演算を行うことによって測定できる。初期時間t1での第1電圧v1、第2時間t2での第2電圧v2をサンプリングする。dV/dtは、(v2−v1)/(t2−t1)に等しくなる。dV/dSOCを計算するには、初期時間t1での第1電圧v1と第1電流i1、第2時間t2での第2電圧v2と第2電流i2をサンプリングする。dV/dSOCは、(i1+i2)/2で除算したdV/dtに等しくなる。電圧サンプルが、内部(本体)または外部のアナログデジタル変換回路が接続されたマイクロプロセッサ450によって取得できる。マイクロプロセッサ450は、サンプリング電圧のデジタル数値表現でdV/dSOCを計算する。dV/dSOCのレートが所定の閾値より高いと計算された場合、マイクロプロセッサは充電動作を終了できる。他の例示の態様によれば、これは、キャパシタまたはインダクタ、抵抗器、アナログ調整回路の組合せを用いてアナログ回路で行って、微分を実行することも可能である。アナログ回路は、ピーク電圧のdv/dSOCに比例した信号を出力する。この信号は、固定した基準電圧と比較され、基準電圧を超えた場合、充電終期条件を起動する。充電器のマイクロプロセッサは、バッテリへの充電を供給しているか否かに応じて、「充電中」ライトと「充電済」ライトを点灯する。
【0046】
例示の実施形態において、充電器は、1秒に5回、最も熱いパワーコンポーネント近傍内側のポイントを監視する。この温度が予め設定した限界を超えると、充電器は、温度が限界未満に低下するまで出力電流を停止する。充電器は、入力電圧を監視し、入力電圧が範囲外になると、充電電流を遮断する。充電器は、充電終期変曲点についてdv/dSOCを監視し、その条件が検出されると、充電を終了させることになる。しかしながら、何らかの理由で出力電圧が制御不能になって安全動作点(最大定格バッテリ電圧)を超えて上昇すると、充電器は出力電流を遮断する。
【0047】
代替の実施形態では、充電器は、必要に応じて、サーミスタまたは同様な素子を用いてバッテリパック内の温度を測定し、パック内の高温を検出する。この高温条件により、充電器はその充電器電流も遮断することになる。
【0048】
例示の実施形態の上記記載は、当業者が本発明を製作し使用可能なように提示されている。さらに、これらの実施形態への種々の変更が、当業者にとって直ちに明白であろう。ここで規定した包括的な原理および個別の例は、発明才能の使用なしで他の実施形態に適用できるであろう。従って、本発明は、ここで説明した実施形態に限定されることを意図しておらず、請求項の限定およびこれの等価物によって規定される最も広い範囲が付与されることになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのリチウムイオンセルを有するバッテリパックと、
セル単位ベースで個別にdV/dSOCを計算することなく、バッテリパックを全体として表す、計算したdV/dSOCに基づいてバッテリパックの充電状態に関する電圧変化レート(dV/dSOC)を検出するコントローラとを備え、
充電は、dV/dSOCが所定の値に達した時点で終了するようにした、バッテリ充電システム。
【請求項2】
バッテリパックは、直列接続された少なくとも2つのリチウムイオンセルからなる請求項2記載のシステム。
【請求項3】
バッテリパックは、nシリーズ(nS)を含むグループからの1つでもよく、ここでnは少なくとも2で、せいぜい10である請求項1記載のシステム。
【請求項4】
コントローラは、充電を終了させるマイクロプロセッサを含む請求項1記載のシステム。
【請求項5】
コントローラは、アナログ回路を含む請求項1記載のシステム。
【請求項6】
マイクロプロセッサは、バッテリマネージャである請求項4記載のシステム。
【請求項7】
dV/dSOCは、少なくとも1つのセルが、他のセルよりも前に所定値に到達することを示すものである請求項1記載のシステム。
【請求項8】
コントローラは、バッテリパックの内部コンポーネントの温度を検出するように構成され、温度が所定の閾値を超えた場合、充電を終了させるようにした請求項1記載のシステム。
【請求項9】
温度は、サーミスタによって検出される請求項8記載のシステム。
【請求項10】
少なくとも2つのリチウムイオンセルは、LiFe1−yMnPO(yは、Mnの種々の濃度を表す)を含む請求項1記載のシステム。
【請求項11】
リチウムイオンセルを含むバッテリパックと、
セル単位ベースで個別にdV/dSOCを計算することなく、バッテリパックを全体として表すdV/dSOCの計算に基づいて、バッテリパックの充電状態に関するバッテリパックの電圧変化レート(dV/dSOC)を決定する回路とを備え、
所定のdV/dSOCに到達した場合、バッテリパックの充電が終了するようにしたバッテリ充電器。
【請求項12】
充電器は、AC電源またはDC電源からの入力電圧を許容できる安定化スイッチング電源を含む請求項11記載のバッテリ充電器。
【請求項13】
電源は、マイクロプロセッサによって制御される請求項12記載のバッテリ充電器。
【請求項14】
マイクロプロセッサは、バッテリパックの電圧および電流の測定値に基づいて充電を終了させるようにした請求項13記載のバッテリ充電器。
【請求項15】
バッテリパックおよび充電器の少なくとも1つの温度を監視する温度センシング回路をさらに備える請求項11記載のバッテリ充電器。
【請求項16】
電圧センシング回路は、デジタルまたはアナログのコンバータ回路の少なくとも1つを含む請求項13記載のバッテリ充電器。
【請求項17】
マイクロプロセッサは、バッテリパックの直列電圧を全体として決定する電圧センシング回路と接続される請求項13記載のバッテリ充電器。
【請求項18】
バッテリパックの充電が、少なくとも1つのリチウムイオンセルのdV/dSOCが所定レートを超えた状態でマイクロプロセッサによって終了される請求項17記載のバッテリ充電器。
【請求項19】
バッテリパックの温度が所定値を超えた時点で、バッテリパックの充電を終了させる温度センシング回路をさらに備える請求項17記載のバッテリ充電器。
【請求項20】
少なくとも2つ又はそれ以上のリチウムイオンバッテリセルのバッテリパックを用意することと、
バッテリパック全体を表す、計算したdV/dSOCに基づいて、充電状態に関する電圧変化レート(dV/dSOC)を検出することと、
検出したdV/dSOCを、バッテリパックに関連した所定のdV/dSOCと比較することと、
比較に基づいてバッテリパックの充電を終了させることと、を含むバッテリパック充電方法。
【請求項21】
検出したdV/dSOCが、所定のdV/dSOCと等しいかこれを超えた場合、バッテリパック充電の終了が生ずる請求項20記載の方法。
【請求項22】
バッテリパックの温度を検出することをさらに含む請求項20記載の方法。
【請求項23】
温度測定値に基づいて、充電が終了するようにした請求項22記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−520408(P2011−520408A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503118(P2011−503118)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2009/039040
【国際公開番号】WO2009/146048
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(505239219)エイ 123 システムズ,インク. (24)
【Fターム(参考)】