説明

直根類の軟化防止方法及びその製品

【課題】直根類、特に、冷凍人参の解凍後の不自然な食感を改善(スポンジ化の軽減:破断歪率の低下)し、加圧加熱殺菌等の加熱殺菌後の歯ごたえを改善する方法を提供する。
【解決手段】カットした直根類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍直根類を解凍及び組織強化し、加圧加熱殺菌等の加熱殺菌することにより冷凍直根類の破断強度を向上させ、破断歪率を低下させて解凍後の不自然な食感を改善し、加圧加熱殺菌等の加熱殺菌後の歯ごたえを改善することを特徴とする直根類の軟化防止方法、該方法を利用して、作製された加圧加熱殺菌食品又は低温殺菌食品、及び半加工食材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直根類の軟化防止方法に関するものであり、更に詳しくは、例えば、冷凍人参や冷凍大根や冷凍ごぼう等の解凍後の不自然な食感を改善し、例えば、レトルト食品やチルド食品の原料としても、加熱殺菌後の歯ごたえを良好に維持することを可能とする新規な直根類の軟化防止方法、該方法により調製した軟化が防止された直根類、レトルト食品用又はチルド食品用直根類、及び該直根類を含むレトルト食品又はチルド食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な冷凍人参は、人参をカットし、ブランチング(90〜100℃、3〜6分程度)した後、凍結することで製造されている(非特許文献1)が、この種の方法では、凍結時に細胞組織へのダメージが生じるため、解凍したときに、不自然な食感となり、例えば、上記冷凍人参を使用して調理、加圧加熱殺菌したときに、歯ごたえのないものとなる、という問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、従来、例えば、野菜類の軟化防止法として、人参を低温下でCa溶液に浸漬した後に40〜70℃に昇温させることで、その後の調理加熱での食品劣化を防止する方法(特許文献1)が提案されている。また、例えば、野菜類の加熱処理方法として、加熱調理する前に、野菜を60〜90℃(好ましくは70〜80℃)の蒸気に直接接触させる加熱処理法により、野菜本来の良好な食感を維持する方法(特許文献2)が提案されている。また、野菜を凍結前に高濃度の糖溶液等に長時間浸漬して野菜類の軟化を防止する方法(特許文献3、4)が提案されている。また、先行文献には、冷凍カット野菜類の製造において、水と接触状態で野菜類をカットし、水さらしをした後、直ちに凍結する方法(特許文献5)が提案されている。
【0004】
更に、先行文献には、冷凍人参に関して、人参を生で凍結し、解凍すると、得られる人参が、ブランチング(100℃、3分)後に凍結し、解凍した場合より硬いこと、また、60℃で予め加熱してから凍結し、解凍した場合は、得られる人参は、ある程度の硬さを維持するが、生人参をブランチングしたものと比べて歪率が大きく、テクスチャーが異なること、更に、生人参を凍結し、解凍した後の歪率は、ブランチングしてから凍結し、解凍した場合の歪率より逆に高いこと、等が示されている(非特許文献2、3、4、及び5)。
【0005】
しかし、従来の方法では、冷凍人参の解凍後の不自然な食感の問題(スポンジ化及び高い歪率の問題)を改善することが難しく、当技術分野では、特に、該冷凍人参を解凍し、加圧加熱殺菌処理した後の歯ごたえを改善(スポンジ化の軽減及び破断歪率の低下)する方法の開発が強く要請されていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−237957号公報
【特許文献2】特開平11−155513号公報
【特許文献3】特開平9−327276号公報
【特許文献4】特開平10−327794号公報
【特許文献5】特公平7−89860号公報
【非特許文献1】(社)日本冷凍食品協会「冷凍食品の事典」p.56(2000)
【非特許文献2】New Food Industry, Vol. 37,No. 6, p.7-14 (1995)
【非特許文献3】Journal of Food Science, vol.59, p.1162 (1994)
【非特許文献4】Journal of Food Science, vol.60, p.132 (1995)
【非特許文献5】Journal of Food Science, vol.60, p.137 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下にあって、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、特に、冷凍人参の解凍後の不自然な食感を改善し、加圧加熱殺菌後の歯ごたえを改善することを可能とする冷凍人参のテクスチャー改善方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、ブランチングを省略して冷凍した冷凍人参を用いることにより、冷凍人参の解凍後のスポンジ化及び破断歪率を軽減及び低下できること、冷凍人参の冷凍保管中の褐変を防止できること、冷凍人参の解凍後の褐変の発現及び増加を防止できること、及び冷凍人参の菌数を低減できることを見出した。更に、当該知見は、大根、ごぼう等の直根類にも有効であるということを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、冷凍人参に代表される直根類の解凍後の不自然な食感を改善し、しかも加圧加熱殺菌等の加熱殺菌後の歯ごたえを改善することを可能とする直根類の軟化防止技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)カットした直根類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍直根類を解凍及び組織強化することにより、冷凍直根類の破断強度を向上させて、破断歪率を低下させて、解凍後の不自然な食感を改善することを特徴とする直根類の軟化防止方法。
(2)カットした直根類を凍結し、次いで、得られた冷凍直根類を、カルシウム溶液中で解凍及び組織強化する前記(1)に記載の方法。
(3)カットした直根類をブランチングを省略して凍結するに当たり、予め酸性溶液に浸漬処理する前記(1)に記載の方法。
(4)酸性溶液が、クエン酸溶液である前記(3)に記載の方法。
(5)直根類が、人参、大根、ごぼうのいずれか1種又は2種以上である前記(1)から(4)いずれかに記載の方法。
(6)カットした人参をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍人参を解凍及び組織強化し、加圧加熱殺菌処理後の破断強度が8×10Pa以上であり、破断歪率が20%以下の性質を有する人参を得る前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の方法で作製された、冷凍直根類の破断強度を向上させて、破断歪率を低下させて、解凍後の不自然な食感を改善したことを特徴とする軟化が防止された食材用直根類。
(8)前記(6)に記載の冷凍人参を原料として使用し、加熱殺菌することにより作製された加熱殺菌済み食品であって、加熱殺菌後の歯ごたえが改善された人参を含有することを特徴とする加熱殺菌済み食品。
(9)加熱殺菌が、加圧加熱殺菌、高温短時間殺菌、低温殺菌のいずれかである前記(8)に記載の加熱殺菌済み食品。
【0009】
次に、本発明について更に詳細に説明する。なお、以下、本発明について、冷凍人参を例として説明する。しかし、本発明は、冷凍人参に限定されるものではなく、人参、大根、ごぼう等に代表される、解凍処理した後にテクスチャーが劣化しやすい直根類全般に適用されるものである。
【0010】
本発明は、カットした人参を、必要によりクエン酸等の酸性溶液に浸漬した後、凍結すること、次いで、この冷凍人参を、必要によりカルシウム溶液に浸漬処理して解凍及び組織強化することを特徴とするものである。更には、当該解凍した人参を他の具材とともに加圧加熱殺菌などの加熱殺菌処理を施して加圧加熱殺菌食品又は低温殺菌食品等の加熱殺菌済み食品とすることを特徴とするものである。上記構成からなる本発明では、解凍及び加圧加熱殺菌などの加熱殺菌処理後の人参の破断強度の向上、破断歪率の低下を実現し、これにより、冷凍人参の解凍後の不自然な食感を改善(スポンジ化の軽減及び破断歪率の低下)し、更には、加圧加熱殺菌又は低温殺菌などの加熱殺菌処理後の歯ごたえを改善するものである。
【0011】
本発明においては、対象とされる直根類の種類として、例えば、人参、大根、ごぼうが代表的なものとして例示されるが、これらに制限されるものではなく、本発明は、例えば、半加工食材、あるいは保存性食品の具材等として用いられ、加圧加熱殺菌等の加熱処理後あるいは解凍処理した後に軟化しやすい野菜類のうちの直根類に適用される。
【0012】
本発明で使用される酸性溶液としては、例えば、クエン酸、酢酸、グルコン酸、アスコルビン酸、強酸性水、電解次亜水などの酸性溶液が例示され、好適には、クエン酸を例示することができるが、これらと同効のものであれば同様に使用することができる(以下、この酸性溶液への浸漬をクエン酸浸漬と記載することがある。)。また、カルシウム溶液としては、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウムなどCa溶液が例示され、好適には、塩化カルシウムを例示することができる。また、本発明において、カット人参のカット方法及び手段は、特に制限されるものではなく、任意の形態にカットした人参が対象とされる。
【0013】
本発明では、カットした人参をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍直根類を解凍及び組織強化する。本発明において、解凍及び組織強化とは、解凍と組織中の酵素の作用による組織強化(硬化)の両方を行うことを意味する。この場合、解凍と組織強化を同時に行ってもよく、解凍後に組織強化を行ってもよいが、前者の方が主に生産効率の向上や褐変防止の面から好ましい。好適には、解凍時に、処理1:解凍時の加熱処理、処理2:解凍時のカルシウム溶液浸漬処理、のいずれかの方法を採用することで、冷凍人参の解凍後の破断強度が向上し、また、人参の場合は破断歪率も低下するという効果が得られる。また、この場合、上記処理1の条件は、45〜75℃で5〜180分好ましくは55〜70℃で30〜40分である。また、上記処理2の条件は、例えば、塩化カルシウム0.1〜4.0%、5〜75℃で5〜120分好ましくは0.25〜1.0%、55〜65℃で10〜30分である。
【0014】
解凍時に、上記処理1と処理2を組み合わせて行うこともでき、上記処理1の後に処理2を行う方法、又は上記処理2の後に処理1を行う方法のいずれでもよい。これらの方法で、解凍後の不自然な食感を更に改善し、例えば、調理後、あるいは加圧加熱後の歯ごたえをより改善する効果が得られる。上記における処理1での加熱媒体としては、蒸気、湯、遠赤外線、マイクロ波、熱風等があり、殊に蒸気、湯が処理物を均一に加熱することができるという点から好ましい。
【0015】
本発明では、カットした人参を凍結する前に、必要によりクエン酸浸漬してもよく、この場合、クエン酸溶液浸漬の条件は、クエン酸1.0%以上(pH2.2以下) では、5〜45℃で5〜60分、クエン酸0.03〜1.0%(pH4〜2.2)好ましくは0.05〜0.2%(pH3.4〜2.7)では、解凍後の食感に悪影響を及ぼさない加熱条件である60℃で3〜10分、65℃で30秒〜3分、70℃で15秒〜1分、85℃で5〜30秒で加熱することが好ましい。
【0016】
各加熱後、冷水(0〜10℃)で急冷することが好ましい。このクエン酸溶液浸漬により、ブランチングを行っていない冷凍人参の貯蔵中の褐変を低減する効果が得られる。また、60℃以上の加熱によって、冷凍人参の菌数(一般生菌、大腸菌群、カビ・酵母、その他の菌)をブランチングしたものと同程度に低減する効果が得られる。
【0017】
本発明では、前述のクエン酸浸漬と前述の予備加熱処理の処理1と処理2を適宜組み合わせることにより、冷凍人参の解凍後の不自然な食感を改善し、例えば、調理後、あるいは加圧加熱後の歯ごたえを改善する効果とブランチングを行っていない冷凍人参の凍結保管中の褐変を低減する効果をより改善することができる。
【0018】
また、ブランチングを行っていない冷凍人参を解凍したとき、その後の放置中の褐変発現を低減する効果が得られる。また、本発明では、60℃以上のクエン酸溶液浸漬により、冷凍人参の菌数をブランチングしたものと同程度に低減する効果が得られる。最も好ましい態様は、クエン酸浸漬−凍結−処理2(0.25〜1.0%、55〜65℃で10〜30分)である。
【0019】
本発明では、上記の工程を適宜併用することにより、冷凍直根類の破断強度を上昇させ、また、顕著な破断歪率の減少により、解凍後及び加圧加熱殺菌等の加熱殺菌処理後の著しいテクスチャー等の食感向上効果が得られる。各工程の採用及び各工程における処理条件は、対象とされる直根類の種類及び品質に応じて任意に選択し、設定することができる。
【0020】
本発明では、例えば、冷凍人参の場合、加圧加熱殺菌後の破断強度を8×10Pa以上、好適には10×10Pa以上、破断歪率を20%以下、好適には18%以下に設定した冷凍人参を製造し、提供することが可能となり、これにより、例えば、半加工食材、あるいは加圧加熱殺菌食品あるいは低温殺菌食品等の加熱殺菌済み食品の原料として好適な冷凍人参を提供することが可能となる。
【0021】
本発明では、カットした直根類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍直根類を解凍及び組織強化するが、上記過程を経ることによって、得られた直根類、殊に人参は破断強度が向上するとともに破断歪率が低下し、それにより、解凍後の不自然な食感を改善することが可能となる。前述のように、上記解凍及び組織強化の過程は、実際には、処理1:解凍時の加熱処理、処理2:解凍時のカルシウム溶液浸漬処理、処理3:前記処理1及び処理2の併用、により行われるが、これにより、冷凍直根類の解凍と同時に、好適には、Caイオンの存在下で、組織中の酵素(ペクチンメチルエステラーゼ等)の作用による組織硬化が行われる。
【0022】
本発明では、ブランチングをしないで凍結した冷凍直根類に、これらの解凍と組織強化を施すこと、好ましくはこれらを同時的に施すことが重要であり、そのいずれの処理を欠いても本発明の目的を達することはできない。また、本発明は、破断強度の上昇及び破断歪率の低下(スポンジ化の軽減)を指標として、冷凍直根類の解凍後及び加圧加熱殺菌等の加熱殺菌後のテクスチャーの評価を行うことをはじめて可能にしたものである。なお、本発明では、加熱殺菌としては、加圧加熱殺菌、高温短時間殺菌、低温殺菌を例示することができる。そして、加圧加熱殺菌の条件としては101〜140℃、90〜3分間、好ましくは、115〜130℃、30〜10分間、高温短時間殺菌の条件としては100〜140℃、600〜1秒、110から135℃、300〜2秒、低温殺菌の条件としては55〜100℃、90〜5分間、好ましくは70〜100℃、60〜10分間を例示することができる。更に、本発明は、破断強度の上昇及び破断歪率の低下によりテクスチャーの向上した冷凍/解凍直根類を、例えば、調理食品の原材料の半加工食材として提供することを可能とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、1)破断強度の上昇及び破断歪率の低下(スポンジ化の軽減)によりテクスチャーの向上した加熱殺菌済み食品用冷凍人参が得られる、2)従来品であるブランチング後に凍結した冷凍人参に見られる解凍後の不自然な食感を軽減し、加圧加熱後の歯ごたえを向上させることが可能な、より自然な食感の冷凍人参を提供することができる、3)従来品であるブランチング後に凍結した冷凍人参と同程度の褐変割合に抑えることができる、4)従来品であるブランチング後に凍結した冷凍人参と同程度の菌数(一般生菌、大腸菌群、カビ・酵母、その他の菌)に抑えることができる、5)半加工食材として、あるいは、加圧加熱殺菌食品用原料として、あるいは低温殺菌食品用原料として好適な、冷凍野菜類を提供できる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(1)方法
本実施例では、カットした人参・大根・ごぼうを凍結した後、加熱解凍し、冷凍人参・大根・ごぼうの解凍後の不自然な食感を改善する効果について調べた。
カットサイズ15mmのダイス人参及び大根、並びに直径20mmのごぼうを15mm毎に輪切りしたごぼう15個づつをブランチング処理をすることなく凍結し、60℃の塩化カルシウム溶液(濃度0.5%)に10分間浸漬して解凍及び組織強化処理を行った。それぞれのサンプルの人参・大根・ごぼうをレオメーター(YAMADEN RE−3305)で突き刺し強度測定を行い、破断強度及び破断歪率を算出した。なお、ロードセル荷重量:20kgf、円形プランジャー:接触面の直径2mmのステンレス製プランジャーを使用した。また、比較例として、ブランチング処理をして凍結し、同様に処理したサンプルについて同様の試験を行った。
【0026】
(2)結果
その結果を表1に示す。表1に示されるように、人参、大根、及びごぼうのいずれについても、上記解凍及び組織強化処理により、破断強度が上昇し、歪率が低下し、テクスチャーの向上した解凍品が得られ、解凍後の不自然な食感を改善する効果が得られることがわかった。
【0027】
【表1】

【実施例2】
【0028】
(1)方法
本実施例では、実施例1で得られた人参・大根・ごぼうの解凍品を用いて加圧加熱殺菌後の不自然な食感を改善する効果について調べた。
実施例方法1において得られた各サンプルをそれぞれ別個にカレーソースに添加し、レトルトパウチ(210g)に充填密封した後、122℃、23分間の条件で加圧加熱殺菌したものを水中に約12時間浸漬し、室温にまで冷却した後、カレーソース中からそれぞれサンプルを取り出して、レオメーター(YAMADEN RE−3305)で突き刺し強度測定を行い、破断強度及び破断歪率を算出した。なお、ロードセル荷重量:2kgf、円形プランジャー:接触面の直径3mmのテフロン(登録商標)製プランジャーを使用した。
【0029】
(2)結果
表2に、人参の破断強度及び歪率を示す。また、表3に、各サンプルを官能評価した結果を示す。また、比較例として、ブランチング処理をしたサンプルについて同様の試験をした結果を示す。表2に示されるように、実施例製品では、破断強度の上昇と歪率の低下がみられ、また、官能評価においても良好な歯応えがあり自然な食感を有しており、加圧加熱殺菌後の不自然な食感を改善する効果が得られることがわかった。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【実施例3】
【0032】
(1)方法
本実施例では、実施例1で得られた人参の解凍品を用いて低温殺菌後の不自然な食感を改善する効果について調べた。
実施例1において得られた人参をそれぞれ別個にカレーソースに添加し、ラミコン容器(250g)に充填密封した後、100℃、50分間の条件で加熱殺菌し、その後は実施例2と同様の方法で冷却した後、カレーソース中からそれぞれサンプルを取り出して、レオメーター(YAMADEN RE−3305)で突き刺し強度測定を行い、破断強度及び破断歪率を算出した。なお、ロードセル荷重量:2kgf、円形プランジャー:接触面の直径3mmのテフロン(登録商標)製プランジャーを使用した。
【0033】
(2)結果
表4に、人参の破断強度及び歪率を示す。また、比較例として、ブランチング処理をしたサンプルについて同様の試験をした結果を示す。表4に示されるように、低温殺菌人参についても、破断強度の上昇及び歪率の低下がみられ、低温殺菌後の不自然な食感を改善する効果が得られることがわかった。
【0034】
【表4】

【実施例4】
【0035】
本実施例では、ブランチングを省略した冷凍人参を解凍したとき、その後の放置中の褐変発現を低減する効果について調べた。
(1)方法
下記の方法で各々処理した人参について、処理直後、室温放置10分後、30分後、60分後、120分後に褐変している人参を取り出し、各時間での褐変発現割合(%)を以下の式で表した。
褐変発現割合(%)=褐変している人参質量(g)/全体の人参質量(g)×100
各放置時間で褐変発現割合(%)と処理直後の褐変発現割合(%)の差を各放置時間での褐変増加量(%)として表した。
【0036】
1)本発明方法
カットした人参をクエン酸浸漬(0.2%、60℃、5分)して凍結し、−20℃冷凍庫で3ヶ月保管した後、解凍時に塩化カルシウム処理(0.5%、60℃、10分)を実施した。
2)従来方法
カットした人参をブランチング(お湯で85℃、5分)して凍結し、−20℃冷凍庫で3ヶ月保管した後、40℃のお湯で3分間解凍した。
【0037】
(2)結果
これらの結果を実施例及び比較例として表5に示す。本実施例方法により、室温放置を行っても褐変発現割合はほとんど増加せず、従来のブランチングを行った冷凍人参と同程度のレベルの褐変発現割合に抑えることができる。なお、それぞれの方法によって得られた人参を実施例2と同様の条件で加圧加熱殺菌した後の破断強度及び破断歪率は、本発明方法:破断強度16×10Pa、破断歪率17%に対し、従来方法:破断強度7×10Pa、破断歪率23%であった。
【0038】
【表5】

【実施例5】
【0039】
本実施例では、ブランチングを行っていない冷凍人参の貯蔵中の褐変を低減する効果について調べた。
(1)方法
下記のようにブランチングを省略した人参と従来法で作製した冷凍人参について、−20℃冷凍庫で3ヶ月保管した後、40℃のお湯で3分間解凍した。その後、褐変している人参を取り出し、褐変発現割合(%)を以下の式で表した。
褐変発現割合(%)=褐変している人参質量(g)/全体の人参質量(g)×100
【0040】
1)本発明方法
カットした人参をクエン酸浸漬(0.2%、60℃、5分)して凍結し、−20℃冷凍庫で3ヶ月保管した後、解凍した。
2)従来方法
カットした人参をブランチング(お湯で85℃、5分)して凍結し、−20℃冷凍庫で3ヶ月保管した後、解凍した。
【0041】
(2)結果
これらの結果を実施例及び比較例として表6に示す。本実施例方法により作製した人参は、ブランチングを行った人参と比較して、冷凍貯蔵中の褐変発現割合を同程度(1%以下)に抑えることができる。
【0042】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0043】
以上詳述したように、本発明は、直根類の軟化防止と冷凍直根類の食感向上方法及びその製品に係るものであり、本発明により、歪率の減少、破断強度の上昇により食感の向上した冷凍人参に代表される冷凍直根類が得られる。本発明により、従来品であるブランチング後に凍結した人参に見られる解凍後の不自然な食感を軽減し、加圧加熱後の歯ごたえを向上させることが可能な、より自然な食感の冷凍人参に代表される冷凍直根類を得ることができる。本発明により、従来品であるブランチング後に凍結した人参と同程度の褐変発現量に抑えることができる。更に、本発明により、従来品であるブランチング後に凍結した人参と同程度の菌数(一般生菌、大腸菌群、カビ・酵母、その他の菌)に抑えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カットした直根類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍直根類を解凍及び組織強化することにより、冷凍直根類の破断強度を向上させて、破断歪率を低下させて、解凍後の不自然な食感を改善することを特徴とする直根類の軟化防止方法。
【請求項2】
カットした直根類を凍結し、次いで、得られた冷凍直根類を、カルシウム溶液中で解凍及び組織強化する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カットした直根類をブランチングを省略して凍結するに当たり、予め酸性溶液に浸漬処理する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酸性溶液が、クエン酸溶液である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
直根類が、人参、大根、ごぼうのいずれか1種又は2種以上である請求項1から4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
カットした人参をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍人参を解凍及び組織強化し、加圧加熱殺菌処理後の破断強度が8×10Pa以上であり、破断歪率が20%以下の性質を有する人参を得る請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法で作製された、冷凍直根類の破断強度を向上させて、破断歪率を低下させて、解凍後の不自然な食感を改善したことを特徴とする軟化が防止された食材用直根類。
【請求項8】
請求項6に記載の冷凍人参を原料として使用し、加熱殺菌することにより作製された加熱殺菌済み食品であって、加熱殺菌後の歯ごたえが改善された人参を含有することを特徴とする加熱殺菌済み食品。
【請求項9】
加熱殺菌が、加圧加熱殺菌、高温短時間殺菌、低温殺菌のいずれかである請求項8に記載の加熱殺菌済み食品。

【公開番号】特開2006−187263(P2006−187263A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3218(P2005−3218)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】