説明

直流電圧昇降圧回路

【課題】回路構成を複雑化することなく、デューティ比の決定に入力電圧の変動を直接的に反映させることができると共に、安定した出力電圧を得ることが可能な直流電圧昇降圧回路を提供する。
【解決手段】直流電圧昇降圧回路1a,1a’(1b,1b’)において、入力電圧Vsと目標出力電圧Vo*とに基づき一義的で連続的に定まるデューティ比Dy1(Dy2)を演算し、デューティ比Dy1(Dy2)をスイッチS2(スイッチS1)の指令信号とし、デューティ比Dy1(Dy2)を入力電圧Vsの昇降圧制御用デューティ比δ1(δ2)分だけ加算(減算)したシフトデューティ比Ds1(Ds2)をスイッチS1(スイッチS2)の指令信号とし、デューティ比Dy1(シフトデューティ比Ds2)が零以下ではスイッチS2をオフに固定する一方、シフトデューティ比Ds1(デューティ比Dy2)が1以上ではスイッチS1をオンに固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力電圧を昇降圧して所定の出力電圧を得るための直流電圧昇降圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
変動する直流入力電圧(例えば、エンジン等の動力源と発電機と整流器とを組み合わせた直流電源を入力とした場合)から所定の直流出力電圧を得るための直流電圧昇降圧回路として、例えば、下記特許文献1に記載のものがある。図9は、特許文献1に記載の直流電圧昇降圧回路の概略構成を示す図である。
【0003】
特許文献1に記載の直流電圧昇降圧回路の構成は、図9に示すように、入力電圧Vinを降圧する時は第1スイッチS1を所定のデューティ比でスイッチング(オン/オフ)して第2スイッチS2はオフに固定する一方、入力電圧Vinを昇圧する時は第1スイッチS1をオンに固定して第2スイッチS2は所定のデューティ比でスイッチング(オン/オフ)する構成である。そして、入力電圧Vinを降圧するか又は昇圧するかの昇降圧の動作区分は、比較器CPによって入力電圧Vinと出力電圧Voutとの対比で決定されるようになっている。
【0004】
詳しくは、入力電圧Vin>出力電圧Voutでは、比較器CPはオフ信号(Lowレベル)を出力すると共に比較制御器CCPはデューティ比に基づいて決定されるスイッチング(オン/オフ)信号を出力し、これらの出力信号をスイッチS1と接続するORゲートG1及びスイッチS2と接続するANDゲートG2に入力する。これにより、スイッチS1は比較制御器CCPのデューティ比に基づいてスイッチング制御される一方、スイッチS2はオフ状態となる(降圧動作)。
【0005】
また、入力電圧Vin<出力電圧Voutでは、比較器CPはオン信号(Highレベル)を出力すると共に比較制御器CCPはデューティ比に基づいて決定されるスイッチング(オン/オフ)信号を出力し、これらの出力信号をスイッチS1と接続するORゲートG1及びスイッチS2と接続するANDゲートG2に入力する。これにより、スイッチS2は比較制御器CCPのデューティ比に基づいてスイッチング制御される一方、スイッチS1はオン状態となる(昇圧動作)。
【0006】
ここで、比較制御器CCPのデューティ比は、目標出力電圧Vrと出力電圧(以下、実出力電圧という)Voutとの対比で定まる値である。
【特許文献1】特開昭56−101222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図9に示す従来の直流電圧昇降圧回路の構成では、入力電圧Vinが昇降圧の動作区分の信号としてしか使用されておらず、デューティ比が目標出力電圧Vrと実出力電圧Voutとの対比のみで定まるため、入力電圧Vinの変動に対する応答性が悪い。すなわち、入力電圧Vinが実出力電圧Voutより小さくなると入力電圧Vinの昇圧動作(以下、単に昇圧動作という)を行う一方、入力電圧Vinが実出力電圧Voutより大きくなると入力電圧Vinの降圧動作(以下、単に降圧動作という)を行うことになるが、入力電圧Vinを昇圧するか又は降圧するかは、入力電圧Vinが実出力電圧Voutに対して小さいか又は大きいかによって決定され、比較制御器CCPのデューティ比を得るための信号としては反映されていない。つまり、入力電圧Vinが変動した段階で比較制御器CCPのデューティ比を得るための信号を決定するではなく、入力電圧Vinが変動したことによって実出力電圧Voutが変動することで、比較制御器CCPのデューティ比を得るための信号を決定するので、それだけ、入力電圧Vinの変動に対する応答性が悪い。
【0008】
また、昇圧動作と降圧動作とで第1スイッチS1と第2スイッチS2とのスイッチング対象が切り替わるのであるが、入力電圧Vinが実出力電圧Voutの近傍にある場合(Vin≒Vout)での降圧時の第1スイッチS1に対するデューティ比は1近くであるのに対して、入力電圧Vinが実出力電圧Voutの近傍にある場合(Vin≒Vout)での昇圧時の第2スイッチS2に対するデューティ比は0近くであり、昇降圧の切り替わりでデューティ比が不連続に変化する。すなわち、第1スイッチS1及び第2スイッチS2の昇圧時及び降圧時のデューティ比の演算は、いずれも比較制御器CCPの内部で行われるため、昇降圧の切り替わりの際には、比較制御器CCPが第1スイッチS1へのデューティ比を1近くで決定する動作と、第2スイッチS2へのデューティ比を0近くで決定する動作とが行われることになる。そうすると、比較制御器CCPが急激なデューティ比の変化に対応できず、第1スイッチS1に対してデューティ比が1近くの値となるべきところ0近くの値になったり、或いは第2スイッチS2に対してデューティ比が0近くの値となるべきところ1近くの値になったりというように、昇降圧の切り替わりの際に、正しいデューティ比で安定的にスイッチング制御することができず、従って、安定した出力電圧を得ることができないといった不都合を招く。
【0009】
この点に関し、特許文献1に記載の直流電圧昇降圧回路では、入力電圧Vinが実出力電圧Voutの近傍にあるときには同時にオンとなる期間を設けて第1及び第2スイッチS1,S2をオン/オフ制御している。ところが、このような構成では、回路構成が複雑化する。
【0010】
そこで、本発明は、回路構成を複雑化することなく、デューティ比の決定に入力電圧の変動を直接的に反映させることができ、これにより入力電圧の変動に対する応答性を向上させることが可能であると共に、昇降圧の切り替わりの際にデューティ比を連続的に変化させることができ、これにより、正しいデューティ比で安定的にスイッチング制御でき、従って、安定した出力電圧を得ることが可能な直流電圧昇降圧回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、次の第1及び第2態様の直流電圧昇降圧回路を提供する。
【0012】
(1)第1態様の直流電圧昇降圧回路
入力側から出力側へ第1スイッチ及びインダクタをこの順で直列接続し、前記第1スイッチと前記インダクタとの間においてこれらの接続ラインへ向かう方向を導通方向として第1ダイオードを入出力の両端子に対して並列接続すると共に、出力側へ向かう方向を導通方向として第2ダイオードを前記インダクタの出力側に対して直列接続し、前記インダクタと前記第2ダイオードとの間において第2スイッチを入出力の両端子に対して並列接続するように構成した直流電圧昇降圧回路において、入力電圧と、実出力電圧の目標となる目標出力電圧とに基づき一義的で連続的に定まるデューティ比を演算するデューティ比演算手段を設け、前記デューティ比を前記第2スイッチの指令信号とし、前記デューティ比を少なくとも前記入力電圧と前記目標出力電圧とが等しいときの前記入力電圧の昇降圧制御用デューティ比分だけ加算したシフトデューティ比を前記第1スイッチの指令信号とし、前記デューティ比が零以下(降圧時)では前記第2スイッチをオフに固定する一方、前記シフトデューティ比が零以下では前記第1スイッチをオフに固定し、前記シフトデューティ比が1以上(昇圧時)では前記第1スイッチをオンに固定することを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【0013】
(2)第2態様の直流電圧昇降圧回路
入力側から出力側へ第1スイッチ及びインダクタをこの順で直列接続し、前記第1スイッチと前記インダクタとの間においてこれらの接続ラインへ向かう方向を導通方向として第1ダイオードを入出力の両端子に対して並列接続すると共に、出力側へ向かう方向を導通方向として第2ダイオードを前記インダクタの出力側に対して直列接続し、前記インダクタと前記第2ダイオードとの間において第2スイッチを入出力の両端子に対して並列接続するように構成した直流電圧昇降圧回路において、入力電圧と、実出力電圧の目標となる目標出力電圧とに基づき一義的で連続的に定まるデューティ比を演算するデューティ比演算手段を設け、前記デューティ比を前記第1スイッチの指令信号とし、前記デューティ比を少なくとも前記入力電圧と前記目標出力電圧とが等しいときの前記入力電圧の昇降圧制御用デューティ比分だけ減算したシフトデューティ比を前記第2スイッチの指令信号とし、前記シフトデューティ比が零以下(降圧時)では前記第2スイッチをオフに固定する一方、前記デューティ比が零以下では前記第1スイッチをオフに固定し、前記デューティ比が1以上(昇圧時)では前記第1スイッチをオンに固定することを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【0014】
本発明に係る第1及び第2態様の直流電圧昇降圧回路では、前記デューティ比演算手段にて前記入力電圧と前記目標出力電圧とに基づき前記デューティ比を演算する。すなわち、前記入力電圧を使用して前記デューティ比を演算するので、その入力電圧の変動を直接的に前記デューティ比に反映させることができる。これにより、前記入力電圧の変動に対する応答性を向上させることができる。
【0015】
さらに、本発明に係る第1態様の直流電圧昇降圧回路では、一義的で連続的に定まる前記デューティ比を前記第2スイッチの指令信号とし、前記シフトデューティ比を前記第1スイッチの指令信号とするので、前記第2スイッチへの指令信号を前記デューティ比演算手段の内部で演算した前記デューティ比として昇圧時の指令信号とする一方で、前記第1スイッチへの指令信号を前記デューティ比演算手段の外部で演算した前記シフトデューティ比として降圧時の指令信号とすることができ、従って、前記デューティ比演算手段が従来の如くデューティ比演算の急激な変化を強いられることがないので、昇降圧の切り替わりの際にデューティ比を連続的に(穏やかに)変化させることができ、これにより、正しいデューティ比で安定的にスイッチング制御することができる。
【0016】
また、本発明に係る第2態様の直流電圧昇降圧回路では、一義的で連続的に定まる前記デューティ比を前記第1スイッチの指令信号とし、前記シフトデューティ比を前記第2スイッチの指令信号とするので、前記第1スイッチへの指令信号を前記デューティ比演算手段の内部で演算した前記デューティ比として降圧時の指令信号とする一方で、前記第2スイッチへの指令信号を前記デューティ比演算手段の外部で演算した前記シフトデューティ比として昇圧時の指令信号とすることができ、従って、前記デューティ比演算手段が従来の如くデューティ比演算の急激な変化を強いられることがないので、昇降圧の切り替わりの際にデューティ比を連続的に(穏やかに)変化させることができ、これにより、正しいデューティ比で安定的にスイッチング制御することができる。
【0017】
しかも、本発明に係る第1及び第2態様の直流電圧昇降圧回路では、前記第1及び第2スイッチへのデューティ比を工夫した制御構成としているので、回路構成を複雑化することなく安定した出力電圧を得ることができる。
【0018】
本発明に係る第1及び第2態様の直流電圧昇降圧回路において、前記デューティ比演算手段を前記入力電圧と前記目標出力電圧との目標電圧比率を変数として前記デューティ比を演算する構成とし、前記入力電圧と前記実出力電圧とから演算した実電圧比率と前記目標電圧比率との差をPI演算して得られたPI演算値により前記目標電圧比率を補正する構成としてもよい。ここで、PI演算値とは、前記実出力電圧を前記目標出力電圧に収束させる比例動作に残留誤差を積分する積分動作を加えたPI(Proportinal Integral:比例積分)制御のための演算値である。
【0019】
この特定事項により、前記実出力電圧に基づいて前記デューティ比を補正することができ、従って、前記実出力電圧の応答遅れや回路を構成する各素子の損失による前記実出力電圧の誤差分を補正できるため、前記実出力電圧を前記目標出力電圧に精度よく収束させることができ、これにより、前記実出力電圧の前記目標出力電圧への収束精度を向上させることができる。
【0020】
かかる構成の具体的な態様としては、前記目標電圧比率と前記実電圧比率との偏差に対してPI演算を施し、得られたPI演算値を前記目標電圧比率に加算し、その加算値を変数として前記デューティ比演算手段にて前記デューティ比を演算するものを例示できる。
【0021】
本発明に係る第1及び第2態様の直流電圧昇降圧回路において、前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ大きい値又は所定量だけ小さい値としてもよい。
【0022】
この特定事項により、本発明に係る第1態様の直流電圧昇降圧回路では、前記デューティ比に対して加算する前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ大きい値又は所定量だけ小さい値とするので、前記第1スイッチを前記目標電圧比率の前記昇降圧制御用デューティ比と前記所定量に対応するシフト位置との間の第1範囲でオン状態のまま停止することができる。このように前記第1スイッチを前記第1範囲でオン状態のまま停止できるため、それだけ前記第1スイッチのスイッチング損失を低減させることができる。また、本発明に係る第2態様の直流電圧昇降圧回路では、前記デューティ比に対して減算する前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ大きい値又は所定量だけ小さい値とするので、前記第2スイッチを前記目標電圧比率の前記昇降圧制御用デューティ比と前記所定量に対応するシフト位置との間の第2範囲でオフ状態のまま停止することができる。このように前記第2スイッチを前記第2範囲でオフ状態のまま停止できるため、それだけ前記第2スイッチのスイッチング損失を低減させることができる。なお、この場合、前記目標出力電圧に対して最終的に得られる前記実出力電圧が実質的に前記所定量に対応する分だけシフトすることになるが、前記実出力電圧を高い精度で前記目標出力電圧に一致させる必要がない場合などには前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのスイッチング損失を低減できる点で有用である。
【0023】
一方、前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ小さい値とした場合は、スイッチ素子などの応答遅れなどにより短時間のオン期間やオフ期間が消失する問題点を回避することができる。
【0024】
前記デューティ比演算手段にて前記入力電圧と前記目標出力電圧との目標電圧比率を変数として前記デューティ比を演算する構成とし、前記入力電圧と前記実出力電圧とから演算した実電圧比率と前記目標電圧比率との差をPI演算して得られたPI演算値により前記目標電圧比率を補正する構成とする場合において、前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ大きい値としてもよい。この場合、本発明に係る第1態様の直流電圧昇降圧回路では、前記第2スイッチがオフ状態のまま停止している降圧時で、前記目標電圧比率が1から前記所定量をシフトした分だけ降圧側の第1範囲にあるときには前記第1スイッチをオン状態のまま停止している。このため、前記第1範囲においては、前記PI演算を行わなくてもよい。また、本発明に係る第2態様の直流電圧昇降圧回路では、前記第1スイッチがオン状態のまま停止している昇圧時で、前記目標電圧比率が1から前記所定量をシフトした分だけ昇圧側の第2範囲にあるときには前記第2スイッチをオフ状態のまま停止している。このため、前記第2範囲においては、前記PI演算を行わなくてもよい。
【0025】
従って、前記デューティ比演算手段にて前記入力電圧と前記目標出力電圧との目標電圧比率を変数として前記デューティ比を演算する構成とし、前記入力電圧と前記実出力電圧とから演算した実電圧比率と前記目標電圧比率との差をPI演算して得られたPI演算値により前記目標電圧比率を補正する構成とする場合において、前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ大きい値とする場合、前記目標電圧比率が1近傍の所定の近似範囲にあるときに前記実電圧比率のPI演算を停止することが好ましい。
【0026】
この場合、前記PI演算を停止する前記近似範囲の停止境界値と前記PI演算を再開する再開境界値との間に幅をもたせてもよい。
【0027】
この特定事項により、前記近似範囲の前記停止境界値と前記再開境界値との間で幅をもたせることで、前記目標電圧比率が前記近似範囲の前記停止境界値に到来して前記PI演算を停止し、再び前記目標電圧比率が前記停止境界値を超えて再開側へ移動しても、しばらくは前記PI演算が再開することがなく、前記停止境界値から幅をもった前記再開境界値で前記PI演算を再開させる(ヒステリスとする)ことができ、これにより、前記PI制御の安定性を向上させることができる。
【0028】
本発明に係る第1及び第2態様の直流電圧昇降圧回路において、前記実出力電圧が所定値以上(過電圧)となったときは、前記第1スイッチをオフに固定し且つ前記第2スイッチをオンに固定することが好ましい。
【0029】
この特定事項により、前記実出力電圧が所定値以上(過電圧)となった場合に、前記第1スイッチをオフに固定することで電圧入力を停止すると共に、前記第2スイッチをオンに固定することで当該直流電圧昇降圧回路内の余剰電流を回路内の環流で消費することができる。これにより、当該直流電圧昇降圧回路に起因する前記実出力電圧の上昇を抑制することができる。
【0030】
本発明に係る第1及び第2態様の直流電圧昇降圧回路において、前記入力電圧を発電機から供給する構成とし、前記発電機の回転数又は前記発電機を駆動する駆動源の回転数と、出力側需要負荷とに基づき前記入力電圧を推定する構成としてもよい。
【0031】
この特定事項により、前記入力電圧を測定するために入力側に設けるべき電圧測定手段(例えば、電圧センサ)を省略することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明に係る直流電圧昇降圧回路によると、回路構成を複雑化することなく、デューティ比の決定に入力電圧の変動を直接的に反映させることができ、これにより入力電圧の変動に対する応答性を向上させることができると共に、昇降圧の切り替わりの際にデューティ比を連続的に変化させることができ、これにより、正しいデューティ比で安定的にスイッチング制御でき、従って、安定した出力電圧を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0034】
図1は、本発明に係る第1実施形態の直流電圧昇降圧回路1aの概略構成を示す図である。また、図2は、本発明に係る第2実施形態の直流電圧昇降圧回路1bの概略構成を示す図である。なお、図1及び図2において、実質的に同じ構成作用を有する部材には同一符号を付している。後述する図5及び図6も同様である。
【0035】
[第1及び第2実施形態の共通要素について]
図1及び図2に示す直流電圧昇降圧回路1a,1bは、第1スイッチS1、第2スイッチS2、第1ダイオードD1、第2ダイオードD2、インダクタL及びキャパシタCを備えており、入力側には直流電源(例えば、エンジン)Eと発電機Geと整流器Dとを組み合わせた直流電源)PS、出力側には負荷(例えば、ヒートポンプ型空調装置における電装機器)Peが接続されている。
【0036】
第1スイッチS1及びインダクタLは、入力側から出力側へこの順で直列接続されている。第1ダイオードD1は、直列接続された第1スイッチS1とインダクタLとの間においてこれらの接続ラインへ向かう方向を導通方向として入出力の両端子に対して並列接続されている。第2ダイオードD2は、出力側へ向かう方向を導通方向としてインダクタLの出力側に対して直列接続されている。第2スイッチS2は、インダクタLと第2ダイオードD2との間において入出力の両端子に対して並列接続されている。また、キャパシタCは、第2ダイオードD2の出力側において入出力の両端子に対して並列接続されている。
【0037】
そして、直流電圧昇降圧回路1a,1bは、第1スイッチS1と第2スイッチS2とのスイッチング(オン/オフ)制御を行う制御部10a,10bを備えている。
【0038】
制御部10a,10bは、デューティ比演算手段(例えばデューティ比演算器、以下、デューティ比演算器という)11a,11bと、第1スイッチング制御手段(例えば第1比較器、以下、第1比較器という)13と、第2スイッチング制御手段(例えば第2比較器、以下、第2比較器という)14とを備えている。
【0039】
デューティ比演算器11a,11bは、入力電圧Vsと、実出力電圧Voの目標となる目標出力電圧Vo*とに基づき得られた値λ*を変数λとして、一義的且つ連続的に定まるデューティ比Dy1,Dy2を演算するものである。ここで、一義的且つ連続的に定まるデューティ比Dy1,Dy2とは、後述する昇圧時と降圧時との切り替わりの前後で穏やかに変化するデューティ比をいう。なお、入力電圧Vsは、例えば、直流電圧昇降圧回路1a,1bの入力側に設けられた図示しない電圧測定手段(例えば、電圧センサ)で測定することができる。
【0040】
[第1実施形態について]
図1に示す直流電圧昇降圧回路1aの制御部10aは、加算手段(例えば加算器、以下、加算器という)12aをさらに備えている。
【0041】
図1に示すように、デューティ比演算器11aは、出力側が第2比較器14の入力側の一端子に接続されていると共に加算器12aの入力側の一端子にも接続されている。これにより、デューティ比演算器11aは、デューティ比Dy1を第2比較器14及び加算器12aの双方に送信できるようになっている。
【0042】
加算器12aは、デューティ比演算器11aで演算したデューティ比Dy1に対して入力側の他端子から入力電圧Vsの昇降圧制御用デューティ比(後述する図3のδ1参照)分だけ加算(プラス側にオフセット)するようになっており、出力側が第1比較器13の入力側の一端子に接続されている。なお、昇降圧制御用デューティ比δ1は、それには限定されないが、ここでは、入力電圧Vsと目標出力電圧Vo*とが等しいときの値(すなわち1)である。
【0043】
第1比較器13は、加算器12aからのシフトデューティ比Ds1に基づき第1スイッチS1の第1指令信号P1を生成するようになっており、出力側が第1スイッチS1に接続されている。
【0044】
第2比較器14は、デューティ比演算器11aからのデューティ比Dy1に基づき第2スイッチS2の第2指令信号P2を生成するようになっており、出力側が第2スイッチS2に接続されている。
【0045】
そして、第1及び第2比較器13,14は、デューティ比Dy1が零以下では第2スイッチS2をオフに固定する一方、シフトデューティ比Ds1が零以下では第1スイッチS1をオフに固定し、シフトデューティ比Ds1が1以上では第1スイッチS1をオンに固定するように構成されている。
【0046】
本実施の形態では、直流電圧昇降圧回路1aは、第1演算手段(例えば第1演算器、以下、第1演算器という)15をさらに備えている。この第1演算器15は、それには限定されないが、ここでは、入力電圧Vsに対する目標出力電圧Vo*の目標電圧比率λ*を演算するようになっており、出力側がデューティ比演算器11aの入力側に接続されている。これにより、第1演算器15は、目標電圧比率λ*をデューティ比演算器11aに送信できるようになっている。
【0047】
そして、デューティ比演算器11aは、目標電圧比率λ*を変数λとしてデューティ比Dy1を演算する構成とされている。
【0048】
詳しくは、デューティ比演算器11aは、それには限定されないが、次の式(1)及び式(2)の関係が成り立つように、デューティ比Dy1を演算するようになっている。
【0049】
【数1】

そうすると、シフトデューティ比Ds1は、次の式(3)及び式(4)の関係が成り立つように加算器12aから出力できる。
【0050】
【数2】

図3は、式(1)〜式(4)の関係をグラフに示した図である。なお、図3において、式(1)と式(3)の一部と式(4)とは破線で示している。
【0051】
本実施の形態では、第1及び第2比較器13,14は、それぞれ、入力側の他端子から第1及び第2スイッチS1,S2のスイッチング制御用の所定信号Spが供給されるようになっている。所定信号Spは、0及び1とをピークとする比較信号であり、例えば、ノコギリ波信号や三角波信号等のパルス信号(図示例では三角波信号)を挙げることができる。
【0052】
これにより、第2スイッチS2のためのデューティ比Dy1が零より大きいときには該デューティ比Dy1(式(2))を第2スイッチS2のスイッチング対象として比較信号Spにより該第2スイッチS2の第2指令信号P2を生成し、第2スイッチS2のためのデューティ比Dy1が零以下では、式(1)の破線の位置(比較信号Spを基準にしてオフ側の位置)にあるので、第2スイッチS2をオフに固定することができる。一方、第1スイッチS1のためのシフトデューティ比Ds1が0より大きい且つ1より小さいときには該シフトデューティ比Ds1(式(3)の実線部分)を第1スイッチS1のスイッチング対象として比較信号Spにより該第1スイッチS1の第1指令信号P1を生成し、第1スイッチS1のためのシフトデューティ比Ds1が零以下のときには、式(3)の破線の位置(比較信号Spを基準にしてオフ側の位置)にあるので、第1スイッチS1をオフに固定すると共に、シフトデューティ比Ds1が1以上のときには、式(4)の破線の位置(比較信号Spを基準にしてオン側の位置)にあるので、第1スイッチS1をオンに固定することができる。
【0053】
かかる構成を備えた直流電圧昇降圧回路1aでは、図3に示すように、降圧時(図中α参照)には、第2スイッチS2をオフに固定した状態で(式(1)の破線参照)、式(3)の実線部分のシフトデューティ比Ds1に基づき第1スイッチS1のスイッチング制御を行い、昇圧時(図中β参照)には、第1スイッチS1をオンに固定した状態で(式(4)の破線参照)、式(2)のデューティ比Dy1に基づき第2スイッチS2のスイッチング制御を行う。
【0054】
[第2実施形態について]
図2に示す直流電圧昇降圧回路1bの制御部10bは、減算手段(例えば減算器、以下、減算器という)12bをさらに備えている。
【0055】
図2に示すように、デューティ比演算器11bは、出力側が第1比較器13の入力側の一端子に接続されていると共に減算器12bの入力側の一端子にも接続されている。
【0056】
減算器12bは、デューティ比演算器11bで演算したデューティ比Dy2に対して入力側の他端子から入力電圧Vsの昇降圧制御用デューティ比(後述する図4のδ2参照)分だけ減算(マイナス側にオフセット)するようになっており、出力側が第2比較器14の入力側の一端子に接続されている。なお、昇降圧制御用デューティ比δ2は、それには限定されないが、ここでは、入力電圧Vsと目標出力電圧Vo*とが等しいときの値(すなわち1)である。
【0057】
第1比較器13は、デューティ比演算器11bからのデューティ比Dy2に基づき第1スイッチS1の第1指令信号P1を生成するようになっており、出力側が第1スイッチS1に接続されている。
【0058】
第2比較器14は、減算器12bからのシフトデューティ比Ds2に基づき第2スイッチS2の第2指令信号P2を生成するようになっており、出力側が第2スイッチS2に接続されている。
【0059】
そして、第1及び第2比較器13,14は、シフトデューティ比Ds2が零以下では第2スイッチS2をオフに固定する一方、デューティ比Dy2が零以下では第1スイッチS1をオフに固定し、デューティ比Dy2が1以上では第1スイッチS1をオンに固定するように構成されている。
【0060】
本実施の形態では、直流電圧昇降圧回路1bは、第1演算手段(例えば第1演算器、以下、第1演算器という)15をさらに備えている。この第1演算器15は、それには限定されないが、ここでは、入力電圧Vsに対する目標出力電圧Vo*の目標電圧比率λ*を演算するようになっており、出力側がデューティ比演算器11bの入力側に接続されている。これにより、第1演算器15は、目標電圧比率λ*をデューティ比演算器11bに送信できるようになっている。
【0061】
そして、デューティ比演算器11bは、目標電圧比率λ*を変数λとしてデューティ比Dy2を演算する構成とされている。
【0062】
詳しくは、デューティ比演算器11bは、それには限定されないが、次の式(5)及び式(6)の関係が成り立つように、デューティ比Dy2を演算するようになっている。
【0063】
【数3】

そうすると、シフトデューティ比Ds2は、次の式(7)及び式(8)の関係が成り立つように減算器12bから出力できる。
【0064】
【数4】

図4は、式(5)〜式(8)の関係をグラフに示した図である。なお、図4において、式(5)の一部と式(6)と式(7)とは破線で示している。
【0065】
本実施の形態では、第1及び第2比較器13,14は、それぞれ、入力側の他端子から第1及び第2スイッチS1,S2のスイッチング制御用の所定信号Spが供給されるようになっている。所定信号Spは、0及び1とをピークとする比較信号であり、例えば、ノコギリ波信号や三角波信号等のパルス信号(図示例では三角波信号)を挙げることができる。
【0066】
これにより、第2スイッチS2のためのシフトデューティ比Ds2が零より大きいときには該シフトデューティ比Ds2(式(8))を第2スイッチS2のスイッチング対象として比較信号Spにより該第2スイッチS2の第2指令信号P2を生成し、第2スイッチS2のためのシフトデューティ比Ds2が零以下では、式(7)の破線の位置(比較信号Spを基準にしてオフ側の位置)にあるので、第2スイッチS2をオフに固定することができる。一方、第1スイッチS1のためのデューティ比Dy2が0より大きい且つ1より小さいときには該デューティ比Dy2(式(5)の実線部分)を第1スイッチS1のスイッチング対象として比較信号Spにより該第1スイッチS1の第1指令信号P1を生成し、第1スイッチS1のためのデューティ比Dy2が零以下のときには、式(5)の破線の位置(比較信号Spを基準にしてオフ側の位置)にあるので、第1スイッチS1をオフに固定すると共に、デューティ比Dy2が1以上のときには、式(6)の破線の位置(比較信号Spを基準にしてオン側の位置)にあるので、第1スイッチS1をオンに固定することができる。
【0067】
かかる構成を備えた直流電圧昇降圧回路1bでは、図4に示すように、降圧時(図中α参照)には、第2スイッチS2をオフに固定した状態で(式(7)の破線参照)、式(5)の実線部分のデューティ比Dy2に基づき第1スイッチS1のスイッチング制御を行い、昇圧時(図中β参照)には、第1スイッチS1をオンに固定した状態で(式(6)の破線参照)、式(8)のシフトデューティ比Ds2に基づき第2スイッチS2のスイッチング制御を行う。
【0068】
以上説明した第1及び第2実施形態の直流電圧昇降圧回路1a,1bによれば、デューティ比Dy1,Dy2演算に入力電圧Vs含むパラメータから求めた変数λを使用するため、その入力電圧Vsの変動を直接的に第1及び第2スイッチS1,S2への指令値に反映させることができる。これにより、入力電圧Vsの変動に対する応答性を向上させることができる。
【0069】
さらに、第1実施形態の直流電圧昇降圧回路1aでは、一義的且つ連続的に定まるデューティ比Dy1を第2スイッチS2の指令信号P2とし、シフトデューティ比Ds1を第1スイッチS1の指令信号P1とするので、第2スイッチS2への指令信号P2をデューティ比演算器11aの内部で演算したデューティ比Dy1として昇圧時βの指令信号とする一方で、第1スイッチS1への指令信号P1をデューティ比演算器11aの外部で演算したシフトデューティ比Ds1として降圧時αの指令信号とすることができ、従って、デューティ比演算器11aが従来の如くデューティ比演算の急激な変化を強いられることがないので、昇降圧の切り替わりの際にデューティ比Dy1を連続的に(緩やかに)変化させることができ、これにより、正しいデューティ比Dy1,Ds1で安定的にスイッチング(オン/オフ)することができる。
【0070】
また、第2実施形態の直流電圧昇降圧回路1bでは、一義的且つ連続的に定まる前記デューティ比Dy2を第1スイッチS1の指令信号P1とし、シフトデューティ比Ds2を第2スイッチS2の指令信号P2とするので、第1スイッチS1への指令信号P1をデューティ比演算器11bの内部で演算したデューティ比Dy2として降圧時αの指令信号とする一方で、第2スイッチS2への指令信号P2をデューティ比演算器11bの外部で演算したシフトデューティ比Ds2として昇圧時βの指令信号とすることができ、従って、デューティ比演算器11bが従来の如くデューティ比演算の急激な変化を強いられることがないので、昇降圧の切り替わりの際にデューティ比Dy2を連続的に(緩やかに)変化させることができ、これにより、正しいデューティ比Dy2,Ds2で安定的にスイッチング(オン/オフ)することができる。
【0071】
しかも、第1及び第2実施形態の直流電圧昇降圧回路1a,1bでは、第1及び第2スイッチS1,S2へのデューティ比Dy2,Dy1を工夫した制御構成としているので、回路構成を複雑化することなく安定した出力電圧を得ることができる。
【0072】
[変形例1]
図1及び図2に示す第1及び第2実施形態の直流電圧昇降圧回路1a,1bにおいて、入力電圧Vsに対する実出力電圧Voの実電圧比率λnと目標電圧比率λ*との差λdをPI演算して得られたPI演算値λpにより目標電圧比率λ*を補正する構成としてもよい。
【0073】
図5は、図1に示す第1実施形態の直流電圧昇降圧回路1aにおいて、PI演算値λpにより目標電圧比率λ*を補正する構成とした一例を示す図である。また、図6は、図2に示す第2実施形態の直流電圧昇降圧回路1bにおいて、PI演算値λpにより目標電圧比率λ*を補正する構成とした一例を示す図である。
【0074】
図5及び図6に示す第3及び第4実施形態の直流電圧昇降圧回路1a’,1b’における制御部10a’,10b’は、図1及び図2に示す制御部10a,10bの構成に加えて、第2演算手段(例えば第2演算器、以下、第2演算器という)16と、偏差演算手段(例えば偏差演算器、以下、偏差演算器という)17と、PI演算手段(例えばPI演算器、以下、PI演算器という)18と、補正値加算手段(例えば補正値加算器、以下、補正値加算器という)19とを備えている。
【0075】
第1演算器15は、出力側が偏差演算器17の入力側の一端子に接続されていると共に補正値加算器19の入力側の一端子に接続されている。
【0076】
第2演算器16は、ここでは、入力電圧Vsに対する実出力電圧Voの実電圧比率λnを演算するようになっており、偏差演算器17の入力側の他端子に接続されている。なお、実出力電圧Voは、例えば、直流電圧昇降圧回路1a’,1b’の出力側に設けられた図示しない電圧測定手段(例えば、電圧センサ)で測定することができる。
【0077】
偏差演算器17は、第1演算器15からの目標電圧比率λ*と第2演算器16からの実電圧比率λnとの偏差λdを演算するようになっており、出力側がPI演算器18の入力側に接続されている。
【0078】
PI演算器18は、偏差演算器17からの偏差λdからPI演算値λpを算出するようになっており、出力側が補正値加算器19の入力側の他端子に接続されている。
【0079】
補正値加算器19は、第1演算器15からの目標電圧比率λ*とPI演算器18からのPI演算値λpとを加算した加算値λaを演算するようになっており、デューティ比演算器11a,11bの入力側に接続されている。
【0080】
かかる構成によれば、実出力電圧Voに基づいてディーティ比Dy1,Dy2を補正できるため、目標出力電圧Vo*への収束精度を向上させることができる。
【0081】
[変形例2]
図1及び図2並びに図5及び図6に示す第1から第4実施形態の直流電圧昇降圧回路1a,1b,1a’,1b’において、シフト量(オフセット量)を、昇降圧制御用デューティ比δ1,δ2分よりさらに所定量だけ大きい値としてもよいし、昇降圧制御用デューティ比δ1,δ2分より所定量だけ小さい値としてもよい。図3及び図4の例では、シフト量を昇降圧制御用デューティ比δ1,δ2分(ここでは1)よりさらに所定量(図3中δ1’及び図4中δ2’参照)だけ大きい値としている(図3及び図4中1点鎖線参照)。
【0082】
第1及び第3実施形態の直流電圧昇降圧回路1a,1a’では、図3の1点鎖線で示すように、デューティ比Dy1に対して加算するシフト量を昇降圧制御用デューティ比δ1(ここでは1)分よりさらに所定量δ1’だけ大きい値とすることで、第2スイッチS2をオフに固定している降圧時αにおいて、余計に(すなわち目標電圧比率λ*が1から所定量δ1’をシフトした分だけ降圧側の第1範囲R1にあるときにも)第1スイッチS1をオンに固定することができる。このように第1スイッチSを第1範囲R1でもオンに固定できるため、それだけ第1スイッチS1のスイッチング損失を低減させることができる。
【0083】
また、第2及び第4実施形態の直流電圧昇降圧回路1b,1b’では、図4の1点鎖線で示すように、デューティ比Dy2に対して減算するシフト量を昇降圧制御用デューティ比δ2(ここでは1)分よりさらに所定量δ2’だけ大きい値とすることで、第1スイッチS1をオンに固定している昇圧時βにおいて、余計に(すなわち目標電圧比率λ*が1から所定量δ2’をシフトした分だけ昇圧側の第2範囲R2にあるときにも)第2スイッチS2をオフに固定することができる。このように第2スイッチS2を第2範囲R2でもオフに固定できるため、それだけ第2スイッチS2のスイッチング損失を低減させることができる。
【0084】
一方、前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ小さい値とした場合は、スイッチ素子などの応答遅れなどにより短時間のオン期間やオフ期間が消失する問題点を回避することができる。出力電圧を高精度に制御したい場合にはシフト量として1以下の値を選択し、前記出力電圧を高精度に制御する必要が無い場合にはシフト量として1以上の値を選択すると良い。
【0085】
[変形例3]
第3及び第4実施形態の直流電圧昇降圧回路1a’,1b’において、目標電圧比率λ*が所定の近似範囲(ここでは第1及び第2範囲R1,R2)にあるときに実電圧比率λnのPI演算を停止してもよい。
【0086】
すなわち、第3実施形態の直流電圧昇降圧回路1a’では、第2スイッチS2をオフに固定している降圧時αにおいて、目標電圧比率λ*が近似範囲R1にあって第1スイッチS1をオンに固定しているときには、実電圧比率λnのPI演算を行っても無駄である。また、第4実施形態の直流電圧昇降圧回路1b’では、第1スイッチS1をオンに固定している昇圧時βにおいて、目標電圧比率λ*が近似範囲R2にあって第2スイッチS2をオフに固定しているときには、実電圧比率λnのPI演算を行っても無駄である。
【0087】
従って、第3及び第4実施形態の直流電圧昇降圧回路1a’,1b’において、目標電圧比率λ*が近似範囲R1,R2にあるときに実電圧比率λnのPI演算を停止することで、近似範囲R1,R2での無駄な実電圧比率λnのPI演算を回避することができ、それだけ効率よくPI制御を行うことができる。
【0088】
[変形例4]
変形例3の直流電圧昇降圧回路1a’,1b’において、PI演算を停止する近似範囲R1,R2の停止境界値とPI演算を再開する再開境界値との間に幅をもたせてもよい。
【0089】
図7は、PI演算を停止する近似範囲R1,R2の停止境界値E1とPI演算を再開する再開境界値E2との間に幅γをもたせた構成を説明するための図である。
【0090】
図7に示すように、目標電圧比率λ*がPI演算停止側へ移動して近似範囲R1,R2の停止境界値E1に到達するとPI演算の停止を開始する。その後、目標電圧比率λ*がPI演算再開側へ移動して近似範囲R1,R2の停止境界値E1を超えてもPI演算の停止を維持し(図中γ参照)、目標電圧比率λ*がさらにPI演算再開側へ移動して再開境界値E2に到達したらPI演算の停止を終了してPI演算を再開する。
【0091】
かかる構成によれば、近似範囲R1,R2の停止境界値E1と再開境界値E2との間で幅γをもたせることで、目標電圧比率λ*が近似範囲R1,R2の停止境界値E1に到来してPI演算を停止し、再び目標電圧比率λ*が停止境界値E1を超えて再開側へ移動しても、しばらくはPI演算を再開することがなく、停止境界値E1から幅γをもった再開境界値E2で再開する(ヒステリスとする)ことができ、これにより、PI制御の安定性を向上させることができる。
【0092】
[変形例5]
図1及び図2並びに図5及び図6に示す第1から第4実施形態の直流電圧昇降圧回路1a,1b,1a’,1b’において、実出力電圧Voが所定値以上(過電圧)となったときは、第1スイッチS1をオフに固定し且つ第2スイッチS2をオンに固定してもよい。
【0093】
かかる構成によれば、実出力電圧Voが所定値以上(過電圧)となった場合に、第1スイッチS1をオフに固定することで電圧入力を停止すると共に、第2スイッチS2をオンに固定することで当該直流電圧昇降圧回路1a,1b,1a’,1b’内の余剰電流を回路内の環流で消費することができる。これにより、当該直流電圧昇降圧回路,1a’,1b’に起因する実出力電圧Voの上昇を抑制することができる。
【0094】
[変形例6]
ところで、入力電圧Vsを発電機Geから供給する構成とした場合、出力側需要負荷Peは、発電機Geの回転数N又は発電機Geを駆動する駆動源(例えばエンジン)Eの回転数Nと入力電圧Vsとの関係において、回転数Nに対する入力電圧Vsの傾きに対応している。例えば、発電機Ge又は駆動源Eの単位回転数当たりの入力電圧Vsの変化量(傾き)は、出力側需要負荷Peが小さくなるに従い大きくなり、出力側需要負荷Peが大きくなるに従い小さくなる傾向にある。
【0095】
かかる観点から、発電機Ge又は駆動源Eの回転数Nと、出力側需要負荷Peとに基づき入力電圧Vsを推定する構成としてもよい。
【0096】
図8は、発電機Ge又は駆動源Eの単位回転数当たりの入力電圧Vsの変化量(傾き)が出力側需要負荷Peの大きさに対応して変化する特性を示すグラフである。
【0097】
例えば、図8に示すように、発電機Ge又は駆動源Eの回転数Nと入力電圧Vsとの関係において、回転数Nに対する入力電圧Vsの傾きが出力側需要負荷Peの大きさに対応して変化する特性に対応する換算テーブルや演算式を不揮発性メモリ等の記憶部に予め記憶しておくことができる。こうすることで、出力側需要負荷Peの大きさをパラメータとすることで、回転数Nに対する入力電圧Vsの傾きを求めることができる。そして、この傾きに対して回転数Nをパラメータとすることで、入力電圧Vsを求めることができる。すなわち、出力側需要負荷Peの大きさと回転数Nとが決定されることで、入力電圧Vsを推定することが可能となる。
【0098】
かかる構成によれば、入力電圧Vsを測定するために入力側に設けるべき電圧測定手段(例えば、電圧センサ)を省略することができ、それだけコストを低く抑えることができる。
【0099】
なお、以上の説明ではアナログベースとした各種演算器や比較器などを用いて説明したが、DSPやCPUなどによるディジタルベースの構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係る第1実施形態の直流電圧昇降圧回路の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る第2実施形態の直流電圧昇降圧回路の概略構成を示す図である。
【図3】式(1)〜式(4)の関係をグラフに示した図である。
【図4】式(5)〜式(8)の関係をグラフに示した図である。
【図5】図1に示す第1実施形態の直流電圧昇降圧回路において、PI演算値により目標電圧比率を補正する構成とした一例を示す図である。
【図6】図2に示す第2実施形態の直流電圧昇降圧回路において、PI演算値により目標電圧比率を補正する構成とした一例を示す図である。
【図7】PI演算を停止する近似範囲の停止境界値とPI演算を再開する再開境界値との間に幅をもたせた構成を説明するための図である。
【図8】発電機又は駆動源の単位回転数当たりの入力電圧の変化量(傾き)が出力側需要負荷の大きさに対応して変化する特性を示すグラフである。
【図9】特許文献1に記載の直流電圧昇降圧回路の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0101】
1a,1a’ 直流電圧昇降圧回路
1b,1b’ 直流電圧昇降圧回路
11a,11b デューティ比演算器(デューティ比演算手段の一例)
D1 第1ダイオード
D2 第2ダイオード
Ds1,Ds2 シフトデューティ比
Dy1,Dy2 デューティ比
E 駆動源
E1 停止境界値
E2 再開境界値
Ge 発電機
L インダクタ
N 回転数
Pe 出力側需要負荷
R1,R2 近似範囲
S1 第1スイッチ
S2 第2スイッチ
Vo 実出力電圧
Vo* 目標出力電圧
Vs 入力電圧
γ 停止境界値と再開境界値との間の幅
δ1,δ2 シフト量
δ1’,δ2’ 所定量
λ 変数
λ* 目標電圧比率
λn 実電圧比率
λp PI演算値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側から出力側へ第1スイッチ及びインダクタをこの順で直列接続し、前記第1スイッチと前記インダクタとの間においてこれらの接続ラインへ向かう方向を導通方向として第1ダイオードを入出力の両端子に対して並列接続すると共に、出力側へ向かう方向を導通方向として第2ダイオードを前記インダクタの出力側に対して直列接続し、前記インダクタと前記第2ダイオードとの間において第2スイッチを入出力の両端子に対して並列接続するように構成した直流電圧昇降圧回路において、
入力電圧と、実出力電圧の目標となる目標出力電圧とに基づき一義的で連続的に定まるデューティ比を演算するデューティ比演算手段を設け、
前記デューティ比を前記第2スイッチの指令信号とし、
前記デューティ比を少なくとも前記入力電圧と前記目標出力電圧とが等しいときの前記入力電圧の昇降圧制御用デューティ比分だけ加算したシフトデューティ比を前記第1スイッチの指令信号とし、
前記デューティ比が零以下では前記第2スイッチをオフに固定する一方、前記シフトデューティ比が零以下では前記第1スイッチをオフに固定し、前記シフトデューティ比が1以上では前記第1スイッチをオンに固定することを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【請求項2】
入力側から出力側へ第1スイッチ及びインダクタをこの順で直列接続し、前記第1スイッチと前記インダクタとの間においてこれらの接続ラインへ向かう方向を導通方向として第1ダイオードを入出力の両端子に対して並列接続すると共に、出力側へ向かう方向を導通方向として第2ダイオードを前記インダクタの出力側に対して直列接続し、前記インダクタと前記第2ダイオードとの間において第2スイッチを入出力の両端子に対して並列接続するように構成した直流電圧昇降圧回路において、
入力電圧と、実出力電圧の目標となる目標出力電圧とに基づき一義的で連続的に定まるデューティ比を演算するデューティ比演算手段を設け、
前記デューティ比を前記第1スイッチの指令信号とし、
前記デューティ比を少なくとも前記入力電圧と前記目標出力電圧とが等しいときの前記入力電圧の昇降圧制御用デューティ比分だけ減算したシフトデューティ比を前記第2スイッチの指令信号とし、
前記シフトデューティ比が零以下では前記第2スイッチをオフに固定する一方、前記デューティ比が零以下では前記第1スイッチをオフに固定し、前記デューティ比が1以上では前記第1スイッチをオンに固定することを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の直流電圧昇降圧回路において、
前記デューティ比演算手段を前記入力電圧と前記目標出力電圧との目標電圧比率を変数として前記デューティ比を演算する構成とし、
前記入力電圧と前記実出力電圧とから演算した実電圧比率と前記目標電圧比率との差をPI演算して得られたPI演算値により前記目標電圧比率を補正する構成としたことを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の直流電圧昇降圧回路において、
前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ大きい値としたことを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の直流電圧昇降圧回路において、
前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分より所定量だけ小さい値としたことを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【請求項6】
請求項3に記載の直流電圧昇降圧回路において、
前記シフト量を前記昇降圧制御用デューティ比分よりさらに所定量だけ大きい値とし、
前記目標電圧比率が1近傍の所定の近似範囲にあるときに前記実電圧比率のPI演算を停止することを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【請求項7】
請求項6に記載の直流電圧昇降圧回路において、
前記PI演算を停止する前記近似範囲の停止境界値と前記PI演算を再開する再開境界値との間に幅をもたせたことを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の直流電圧昇降圧回路において、
前記実出力電圧が所定値以上となったときは、前記第1スイッチをオフに固定し且つ前記第2スイッチをオンに固定することを特徴とする直流電圧昇降圧回路。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の直流電圧昇降圧回路において、
前記入力電圧を発電機から供給する構成とし、
前記発電機の回転数又は前記発電機を駆動する駆動源の回転数と、出力側需要負荷とに基づき前記入力電圧を推定する構成としたことを特徴とする直流電圧昇降圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−261160(P2009−261160A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108180(P2008−108180)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】