説明

直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒

【課題】 0.2%耐力が830MPa以上の高張力鋼の溶接において、溶接金属の耐割れ性と低温靱性が優れた溶接構造物を得ることのできる、直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒を提供する。
【解決手段】 溶接棒全質量に対する質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.3〜2.5%、Mn:0.5〜2.5%、Ni:1.0〜5.0%、Ti:0.30%超〜0.80%以下、Al:0.002〜0.08%、Cr:0.02〜0.20%を含有し、残部がFe、アーク安定剤、スラグ生成剤、粘結剤および不可避的不純物からなり、前記スラグ生成剤には、少なくとも金属炭酸塩および金属弗化物を、被覆剤全質量に対する質量%で、金属炭酸塩:30〜60%、金属弗化物:11〜23%含有し、溶接棒全質量に対する被覆剤質量で表される被覆率が25〜45質量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.2%耐力が820MPa以上(引張強さ900MPa以上相当)の高強度と低温靭性の両立が求められる鋼構造物を製造する際に用いられる、直流電源溶接機専用の低水素系被覆アーク溶接棒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、溶接構造物の大型化や使用環境の苛酷化に伴い、溶接部への要求特性が厳しくなっている。そのため高強度鋼用の低水素系被覆アーク溶接棒では、高強度と高靭性の両立や良好な溶接作業性の確保が前提となるだけではなく、拡散性水素の低減、全姿勢溶接性の確保、あるいは継手曲げ特性の確保も必要となる。このため、溶接材料の製造段階において原料の化学成分がばらついたり、溶接材料の保管や溶接条件が不適切だったりすると、設計通りの継手性能を確保できなくなる。このように低強度鋼用の溶接材料に比べて、高強度鋼用の溶接材料は、製造方法や溶接条件を正しく管理しなくてはならない。
【0003】
一方、海外で溶接施工を行う場合は、日本国内で主流の交流溶接電源ではなく、直流溶接電源を用いて溶接することが多い。この場合、直流溶接では磁気吹きなどによりアークが不安定化して欠陥やガス成分の巻き込みが生じ易かったり、交流溶接に比べて合金元素の歩留まりが変動しやすいなどの、直流溶接に特有の現象が生じたりする。特に溶接条件の変動に継手特性が影響されやすい高強度用溶接棒において、この直流溶接特有の現象は溶接材料設計上無視できない。そのため直流溶接でも安定して要求特性を確保できる被覆アーク溶接棒の開発が課題となっている。
【0004】
これまで直流溶接電源用に特化した溶接棒はまだ開発されていないが、本発明が課題としている高強度と高靭性を両立する技術として、特許文献1では、引張強さ590MPa級以上の高強度と高靱性を両立した溶接金属を得るために、被覆剤中へのMgの添加あるいはMgの粒度を制限することで靱性を改善する技術が開示されている。また、特許文献2では、引張強さが880〜1180MPaの高張力鋼材用の被覆アーク溶接棒として、鋼材の引張強さと溶着金属中の合金元素との関係を式で規定することにより、溶接金属の耐割れ性と靱性を改善する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3026899号公報
【特許文献2】特許第3354460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明では、直流溶接すると磁気吹きなどによりアークが不安定化し、溶接欠陥や酸素量の増加が生じてしまうため、直流溶接でも要求特性を満足する被覆アーク溶接棒としては不十分である。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の発明では、交流溶接用としても高靱性化が不十分である上、直流溶接するとアークが不安定化するため、さらに靭性が劣化し、欠陥が生じる場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記直流溶接特有の課題を有利に解決し、かつ0.2%耐力が830MPa以上の高張力鋼の溶接において、溶接金属の耐割れ性と低温靱性が優れた溶接構造物を得ることのできる、直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、0.2%耐力が830MPa以上の高張力鋼の溶接において、溶接金属の耐割れ性と低温靱性を高い次元で両立した上で、直流溶接時特有の課題を解決する低水素系被覆アーク溶接棒について鋭意検討した。その結果、適切な量のTiを添加することで直流溶接でもアークが安定化し、欠陥の低減や溶接金属中の酸素量低減が可能となり、それにより溶接作業性が良好で高靭性溶接金属が得られることを知見した。また、Mgの添加量と粒度を調節することにより、溶接金属の靭性改善と拡散性水素量の低減が可能となることも知見した。
【0010】
本発明は、このような新知見に基づき新たに成されたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
【0011】
(1) 被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.3〜2.5%、Mn:0.5〜2.5%、Ni:1.0〜5.0%、Ti:0.30%超〜0.80%以下、Al:0.002〜0.08%、Cr:0.02〜0.20%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.005%以下、O:0.005%以下を含有し、残部がFe、アーク安定剤、スラグ生成剤、粘結剤および不可避的不純物からなり、前記スラグ生成剤には、少なくとも金属炭酸塩および金属弗化物を、被覆剤全質量に対する質量%で、金属炭酸塩:30〜60%、金属弗化物:11〜23%含有し、溶接棒全質量に対する被覆剤質量で表される被覆率が25〜45質量%であることを特徴とする、直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒。
【0012】
(2) さらに、被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で、Mo、Nb、Vの1種または2種以上を合計1.0〜3.0%含有することを特徴とする、上記(1)に記載の直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒。
【0013】
(3) 前記被覆剤中に、平均粒径を120〜250μmに制限したMgを被覆アーク溶接棒全質量に対して0.2〜2.0質量%含有することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒。
【発明の効果】
【0014】
以上詳述したように、低水素系被覆アーク溶接棒において、被覆剤および溶接棒全体の組成、被覆率を規制したので、0.2%耐力が830MPa以上の高強度な溶接金属を対象として優れた靭性が得られる。よって、各種鋼構造物に対する溶接継手の信頼性を大幅に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、0.2%耐力が830MPa以上の高張力鋼の溶接において、溶接金属の耐割れ性と低温靱性が優れた溶接構造物を得ることのできる、直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒に係わるものである。
以下に本発明の直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒における成分限定の理由を詳細に説明する。
【0016】
[溶接棒全体]
本発明では、上記直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒の各成分を溶接棒全体として調整する必要がある。この場合、溶接棒全体の各成分の量は、Tiの場合を例にとると、下記被覆率A(%)を考慮して、次式で表される量である。
〔溶接棒のTi〕(質量%)=〔心線中のTi〕×(100−A)/100
+〔被覆剤中のTi〕×A/100
Tiは、脱酸剤として有効であると同時にアークの安定性に影響を及ぼすため、直流溶接用の溶接棒には最も重要な元素である。
【0017】
図1は、溶接棒全質量に対するTi含有率と溶接ビード1m当たりの欠陥数の関係を示す図である。溶接棒全体におけるTiは、0.30質量%以下だと、図1に示すように直流溶接のビード1m当たりの欠陥数は増加する。Ti含有率が減少するとアーク長が伸びて、アークが磁気の影響を受けやすくなり、窒素を巻き込んだことが欠陥数増加の原因と思われる。また、このような磁気吹きが生じると、窒素だけでなく溶接金属中の酸素含有率が増え、靭性が低下する。一方、図1では0.80質量%を超えても、欠陥数が増加しているが、これはアークの磁気吹きではなく、被覆が乾燥割れしやすくなるためである。このように溶接金属中のTi含有率が増えると、欠陥数が増加する。これらを勘案してTi含有率の範囲を0.30質量%超〜0.80質量%以下とした。さらに、Tiはシャルピー吸収エネルギーに悪影響を及ぼすため、溶接金属の靭性も考慮した場合、より好ましいTi含有率の範囲は0.30質量%超〜0.60質量%以下である。
【0018】
Cは、0.05質量%以下だと、脱酸不足により溶接金属中に気孔が発生し易くなるとともに、十分な固溶強化が得られず溶接金属の強度が不足する。一方、0.15質量%を超えるとマルテンサイトを生成して靭性が劣化する上、耐割れ性も劣るので、溶接棒のC含有率の範囲を0.05〜0.15質量%とした。
【0019】
溶接棒のSiは、溶接金属の脱酸を目的とするものであるが、溶接作業性確保の上からも必要である。溶接棒全体における含有率が0.3質量%未満では、脱酸不足によって溶後金属中に気孔が発生し易く、立面姿勢での溶接作業性が劣化する。一方、2.5量%を超えると溶接金属の靭性が低下するので、溶接棒のSi含有率の範囲を0.3〜2.5質量%とした。
【0020】
Mnは、Siと同様に脱酸剤として重要であり、少なくとも溶接棒全体に0.5質量%含有させなければならないが、2.5質量%を超えると上部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織となり、靭性を劣化させるので、溶接棒のMn含有率の範囲を0.5〜2.5質量%とした。さらに、Mn含有率が1.4%以下であれば凝固時の偏析が低減され、靭性改善の効果が得られる。従って、より好ましいMn含有率の範囲は0.5〜1.4質量%である。
【0021】
Niは、対象とする高強度の溶接金属で溶接棒全体におけるNiが1.0質量%未満になると高靭性を得ることが困難となるので、1.0質量%以上とする必要がある。一方、5.0質量%を超えると溶接金属の粒界が脆化して、粒界破壊が生じて靭性が低下するので、溶接棒のNi含有率の範囲を1.0〜5.0質量%とした。
【0022】
Alは、強力な脱酸剤の一部として有効であり、0.002%以上含有させなければならないが、溶接棒全体において0.08質量%を超えると、脱酸生成物中のAlが溶後金属中に多く残存して酸素量が増加することによって、靭性が劣化するので、溶接棒中のAl含有率の範囲を0.002〜0.08質量%以下とした。
【0023】
Crは、継手の強度確保のために必要な元素であり、溶接棒全体において少なくとも0.02質量%含有させなければならないが、0.20質量%を超えると靭性を劣化させるので、溶接棒のCr含有率の範囲を0.02〜0.20質量%とした。
【0024】
[不純物元素]
PおよびSは、溶接時に最終凝固部に偏析して靭性が低下する。溶接棒のP、Sは、極力低下することが望ましいが、少なくするほど心線の製造コストが上昇する。このため、溶接金属の低温靭性低下に影響の少ない範囲として、溶接棒のP、Sの量を、それぞれ0.02質量%、0.01質量%以下とした。
【0025】
Nは、溶後棒中の含有率を低減すると、溶接金属の靭性向上に有効である。溶接金属中のNは、溶接中に大気中から混入する他に、溶接棒中のNからも混入する。従って、溶接棒中のNをできるだけ低く抑えることが望ましいが、Nを低く抑えるために原料を厳選する必要があり、その結果製造コストが上昇する。このため、溶接金属の低温靭性に悪影響の少ない範囲として、溶接棒のN含有率を0.005質量%以下とした。
【0026】
Oは、溶後棒中の含有率が多いと、溶接中に被覆剤中の脱酸剤や合金剤と反応してその歩留まりを低下させ、溶接金属の性能のばらつきの原因となるほか、溶接金属中に介花物を生じ、靭性低下の原因となる。このため、安定した溶接金属成分の得られる範囲として溶接棒のO含有率を0.005質量%以下とした。
また、溶接棒中に含有させるSi、Mn、Ti、Al等の成分は純金属又は合金状態(例えば、Fe-Si、Fe−Mn、Mn-Si、TiC、Al−Mg、等)で含有させても良い。
【0027】
なお、本発明溶接棒に用いる心線としては、特に規定しないが、JIS G3523に定められた範囲であることが望ましい。
【0028】
本発明溶接棒に含まれる元素の種類および最適添加率は、上記のとおりであり、上記の要件を満足する限り本発明の目的は達成される。
【0029】
さらに、必要に応じて、Mo、Nb、Vの1種または2種以上を、合計1.0〜3.0質量%含有することにより、溶接金属の強度を増加させることが可能である。これらの成分は、それぞれ鋼心線中に含有されるか、あるいは被覆剤中に金属粉や他の金属との合金粉の形で添加される。
【0030】
[被覆剤]
被覆剤の金属炭酸塩とは、CaCO、MgCO、BaCOなどを指し、アークの熱で分解してガスを発生し、アーク雰囲気を大気から保護する働きがある。それらの1種以上の合計が、被覆剤中に30質量%未満だと、シールドガスが不足して溶接金属に大気中の窒素や水素が多量に溶解し、靭性や耐割れ性の劣化を招く。また、被覆剤中に60質量%を超えるとアークが不安定になりビード形状が悪化し、スラグの剥離性も悪くなるので被覆剤中に30〜60質量%の範囲とした。
【0031】
金属弗化物とは、CaF、MgF、AlFなどを指し、溶融スラグの流動性調整のため添加するが、それらの1種以上の合計が、被覆剤中に11質量%未満では溶融スラグの粘性が不足し、スラグの被包性が悪くなり、ビード形状も劣化する。被覆剤中に23質量%を超えて添加すると、被覆筒の形状が不完全となり、アークの安定性が悪くなるので、被覆剤中に11〜23質量%の範囲とした。
【0032】
被覆剤の成分としては、以上の各成分を必須成分とするが、その他の成分は、主として脱酸剤、合金剤、アーク安定剤、スラグ生成剤、粘結剤からなるものである。脱酸剤としてはFe−Si、Fe−Mn、Mnなどの脱酸剤でよい。合金剤はMo、Nb、Vなどを指し、溶接金属の強度増加、耐熱性、耐火性などの向上の目的で、それぞれ必要に応じて添加される。これらはそれぞれの金属粉のほか、鉄および他の金属との合金粉の形で添加される。アーク安定剤、スラグ生成剤とは、鉄分、アルカリ成分、ルチールなどを指す。また粘結剤としては、珪酸カリ、珪酸ソーダなどを指す。
【0033】
さらに、溶接金属の低温靭性を一層効果的に高めるためには、平均粒径を120〜250μmに制限したMgを0.2〜2.0質量%含有するのが好ましい。図2はMgの平均粒径と溶接金属の衝撃吸収エネルギーの関係を示す図である。Mgにより溶接金属における拡散性水素量の増加を最小限にしながら酸素量が低減でき、溶接金属の靭性のばらつきが低減できる。平均粒径120μm未満では、本発明が期待する靭性安定化への寄与が少なく、図2のように−40℃におけるシャルピー吸収エネルギーが合格範囲を下回る。これは粒径が小さいほど、拡散性水素量低減のために実施している高温乾燥時にMgが酸化しやすいためであり、Mgが本来の機能を発揮しないからである。平均粒径が250μmを超える場合においては、溶接金属性能は良好で健全な溶接金属を得ることができるが、塗装時におけるフラックスの流動性に問題があり、生産性を阻害することがある。Mg添加量が0.2質量%未満では十分な脱酸効果が得られず、一方、2.0質量%を超えて添加すると溶接時アークが不安定となり、スパッタが増加するとともにスラグの粘性が低下し、スラグの剥離性が劣化するので、Mgの添加範囲を0.2〜2.0質量%とした。
【0034】
[被覆率]
上記組成の被覆剤を、鋼心線の周囲に、溶接棒全質量に対する被覆剤質量で表される被覆率が25〜45質量%となるように被覆する必要がある。被覆率が25質量%未満では保護筒としての機能が不十分になってシールド不足を生じ、溶接金属中のNが増加して靭性が低下したり、スパッタが増加したり、生成スラグ量の不足によってビード外観が悪化するからである。一方、45質量%を超えると、スラグ量が多くなりすぎるためにスラグ巻き込み等の欠陥が発生し易くなると共に、開先幅の狭い溶接継手に適用した場合に運棒が困難になるからである。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例を説明する。この実施例においては、表1に示す化学成分(残部はFe及び不可避不純物)を有する心線と、表2に示す化学成分を有する被覆剤を用いて、心線径4.0mmの外周に被覆剤を塗布し被覆アーク溶接棒を作製した。被覆剤の残部はFe、アーク剤、スラグ生成剤、粘結剤および不可避的不純物からなる。なお、溶接棒中に含有させるSi、Mn、Ti、Al等の成分は必要に応じて純金属又はFe-Si、Fe−Mn、Mn-Siなど合金状態で使用した。表2に溶接棒全体に対する成分の含有割合を合わせて記載した。
【0036】
得られた各被覆アーク溶接棒を用い、供試母材として厚さ25mmの鋼板にX開先をとりアーク溶接を行った。溶接電源は直流電源を使用し、極性は電極プラス(DCEP)、溶接条件は、溶接電流150A、溶接入熱30kJ/cm、予熱・パス間温度100〜200℃で、立面姿勢で溶接継手を作製し、引張試験及び試験温度−40℃での2mmVノッチ衝撃試験を行った。また、溶接作業性、溶接金属の酸素量を調べた。それらの調査結果を表3に示す。なお、酸素量は0.03質量%未満を○印、0.03質量%以上を×印とした。
【0037】
E1〜E15は、いずれも本発明の要件を全て満たしており、強度、靭性ともに良好な値を示し、また、溶接作業性も良好であった。
【0038】
溶接棒E21〜E34は、比較例を示す。溶接棒E21とE22は、溶接棒中のAlとSiがそれぞれ上限を超えるものであり、靭性が低かった。溶接棒E23は、金属炭酸塩と溶接棒中のTiが上限を超えているので、溶接作業性が悪く、かつ強度が高くなりすぎ靭性が低い。溶接棒E24は、金属弗化物および溶接棒中のMnが外れており、溶接作業性が悪く、かつ靭性が低下した。溶接棒E25は、金属炭酸塩が下限を下回っており、溶接作業性が悪かった。溶接棒E26は、金属弗化物が上限を超えているため溶接作業性が悪く、かつ溶接棒中のNiが下限を下回っており、靭性が低かった。溶接棒E27は、被覆剤中のMgが上限を超えているため、溶接作業性が劣った。溶接棒E28とE29は、溶接棒中のCrとNiがそれぞれ上限を超えており、靭性が低かった。溶接棒E30は、Oが上限を超えているため、気孔が多発し、かつ靭性が低かった。溶接棒E31は、被覆率が下限を下回っており、かつNが上限を超えているため、溶接作業性が悪く、溶接金属中の窒素が増加して靭性が低かった。溶接棒E32は、Mo、Nb、Vの合計量が上限を超えているため、靭性が低かった。溶接棒E33は、Cが条件を超えているため、割れが発生し、かつ靭性が低かった。溶接棒E34は、使用した心線のP、Sが上限を超えるものがあり、本発明溶接棒に比べ、著しく低温靭性が低かった。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】溶接棒全質量に対するTi含有率と溶接ビード1m当たりの欠陥数の関係を示す図である。
【図2】Mgの平均粒径と溶接金属の衝撃吸収エネルギーの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で、
C :0.05〜0.15%、
Si:0.3〜2.5%、
Mn:0.5〜2.5%、
Ni:1.0〜5.0%、
Ti:0.30%超〜0.80%以下、
Al:0.002〜0.08%、
Cr:0.02〜0.20%、
P :0.02%以下、
S :0.01%以下、
N :0.005%以下、
O :0.005%以下
を含有し、残部がFe、アーク安定剤、スラグ生成剤、粘結剤および不可避的不純物からなり、前記スラグ生成剤には、少なくとも金属炭酸塩および金属弗化物を、被覆剤全質量に対する質量%で、
金属炭酸塩:30〜60%、
金属弗化物:11〜23%
含有し、溶接棒全質量に対する被覆剤質量で表される被覆率が25〜45質量%であることを特徴とする、直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒。
【請求項2】
さらに、被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で、Mo、Nb、Vの1種または2種以上を合計1.0〜3.0%含有することを特徴とする、請求項1に記載の直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒。
【請求項3】
前記被覆剤中に、平均粒径を120〜250μmに制限したMgを被覆アーク溶接棒全質量に対して0.2〜2.0質量%含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の直流電源溶接機用低水素系被覆アーク溶接棒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−291802(P2009−291802A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146282(P2008−146282)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】