説明

真空チャック装置

【課題】操作に多大な労力や時間を要せず、しかも各種の工作機械等への取り付けも容易であり、省エネ且つシンプル構造で低コストな真空チャック装置を提供する。
【解決手段】第1と第2のシリンダ室11、12には、それぞれ第1のピストン14、第2のピストン15が軸方向への往復動が可能に内装されている。第1のピストンと第2のピストンとは連結されている。第1のピストンによって、第1のシリンダ室内には第1の空間11a及び第2の空間11bが形成される。第2のピストンによって第2のシリンダ室内には第3の空間12a及び第4の空間12bが形成される。クランプ時には、第2の空間内の流体を排出し、第3の空間内に流体を圧入する。アンクランプ時には、第3の空間内の流体を排出し、第2の空間11b内に流体を圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空圧を利用してワーク(被加工物)を吸着させる真空チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば図10に示すようなものが知られている。
図10は、従来の真空チャック装置の概略構造を示す断面図である。
この真空チャック装置は、例えば直方体の金属ブロック110内に、円筒形状等のシリンダ室111と、これに連通する真空流路112と、ピストンロッド用の挿通孔113が一体的に削成されている。シリンダ室111には、円筒形状等のピストン114が軸方向に往復動自在に収容され、ピストン114の外周面にはリング状のシール材114aが取り付けられている。これによってピストン114の端面とシリンダ室111の内壁面との間で空気圧室111aが形成される。
【0003】
また、ピストン114の中央部には、棒状のピストンロッド115が軸方向に延設されて、このピストンロッド115の端部がシリンダ室111の外部へ突出している。そして、ピストンロッド115の外周面には雄ねじが形成され、これと螺合する雌ねじが挿通孔113に刻設されており、ピストンロッド115の端部115aに取り付けられるハンドルを作業者が回転操作することにより、引きネジ式のピストン114が軸方向に往復動するようになっている。
【0004】
真空流路112の外部開口112aが形成された金属ブロック110の表面側は、ワーク200を吸着するための吸着面110aとなり、その周縁部に沿ってシール材116が環状に周設されている。
【0005】
このような引きネジ方式の真空チャック装置によれば、作業者は、ピストン114が図10(a)に示すようなシリンダ室111の左側の位置にあるときに、吸着面110aにワーク200を載置して、ハンドルを例えば左回転してピストン114を図10(b)の矢印Wの方向へ移動させる。その結果、空気圧室111aが減圧されて、ワーク200を吸着面110aに吸着した状態で保持することができる。
【0006】
また、真空ポンプにより生成した真空吸着力を用いて、ワークを吸着プレートに保持する真空チャック装置も一般的に知られている(例えば特許文献1等参照)。このような真空ポンプを用いた真空チャック装置は、ワークの加工時において切粉等が真空ポンプ内に侵入して真空ポンプの故障を引き起こす不具合がある。
【0007】
そこで、真空ポンプを使用しないで、コンプレッサとこれに接続されるエジェクタとを用いて、コンプレッサからの圧縮空気で真空吸着力を発生させてワークを吸着プレートに保持するエジェクタ方式の真空チャック装置が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−262465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来の真空チャック装置は、次のような問題点があった。
引きネジ方式の真空チャック装置では、手動で引きネジを回転させる必要があるため、操作毎に多大な労力と時間を要する。さらに、引きネジを回転させるためのハンドルのスペース、及び作業者が手に持ってハンドルを回転するためのスペースが必要となる。そのため、この真空チャック装置を各種の工作機械や機械装置等に取り付ける際には、取り付け方向及び取り付け位置に多くの制約が生じ、自在な取り付けが困難である。
【0010】
また、エジェクタ方式の真空チャック装置では、真空圧を保持する、つまりワークを吸着プレートに保持し続けるためには、その間、コンプレッサを連続して稼働する必要があり、空気消費量(電力消費量)が大きな問題となる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、操作に多大な労力や時間を要せず、しかも各種の工作機械等への取り付けも容易であり、省エネ且つシンプル構造で低コストな真空チャック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の真空チャック装置は、隔壁を介して第1のシリンダ室と第2のシリンダ室が形成されたシリンダ本体と、前記第1のシリンダ室の軸方向に延びるシリンダ内壁面との気密が保持されるように、前記第1のシリンダ室に前記軸方向への往復動が可能に内装された第1のピストンと、前記第2のシリンダ室の軸方向に延びるシリンダ内壁面との気密が保持されるように、前記第2のシリンダ室に前記軸方向への往復動が可能に内装された第2のピストンと、前記隔壁を気密に貫通して前記第1のピストンと前記第2のピストンとを連結するロッドと、被加工物を載置して真空吸着するための吸着手段とを備え、前記第1のピストンによって前記第1のシリンダ室内に形成される第1の空間及び第2の空間のうち、前記第1の空間のシリンダ壁を貫通する通気用の第1の貫通孔と、前記第2の空間のシリンダ壁を貫通する流体給排出用の第2の貫通孔と、前記第2のピストンによって前記第2のシリンダ室内に形成される第3の空間及び第4の空間のうち、前記第3の空間のシリンダ壁を貫通する流体給排出用の第3の貫通孔と、前記第4の空間のシリンダ壁を貫通する通気用の第4の貫通孔とを形成して、前記吸着手段の減圧エリアと前記第1の貫通孔とを気密に連通し、前記被加工物を前記吸着手段に真空吸着するクランプ時には、前記第2の貫通孔から前記第2の空間内の流体を排出すると共に、前記第3の貫通孔から前記第3の空間内に流体を圧入し、前記被加工物の真空吸着状態を解除するアンクランプ時には、前記第3の貫通孔から前記第3の空間内の流体を排出すると共に、前記第2の貫通孔から前記第2の空間内に流体を圧入することを特徴とする。
【0013】
この発明の真空チャック装置によれば、シリンダ本体内の第1及び第2のピストンを、流体圧によって1回駆動させるとだけで、吸着手段の減圧エリアに連通する第1の空間内に所要の真空圧を得ることが可能になできる。これにより、ハンドルなどで操作する従来技術のように被加工物の吸着操作に多大な労力や時間を要せず、しかも、真空チャック装置を各種の工作機械や機械装置等に取り付ける際には、自在な取り付けが可能になる。また、構造がシンプル化し、低コストが実現される。
【0014】
また、本発明の真空チャック装置は、前記流体を供給する流体供給源が着脱自在に装着され、前記クランプ時において前記流体供給源からの流体の供給が停止したときに、少なくとも前記第3の貫通孔に連通する流体経路を気密に閉塞するバルブ手段を設けたことを特徴とする。
【0015】
この発明の真空チャック装置によれば、流体供給源をバルブ手段から切り離した場合でも、クランプ時において第1の空間内に生成された真空圧を長時間保持することができる。これにより、エジェクタ方式の真空チャック装置などのように、真空圧を保持するために流体供給源を連続して稼働する必要もなく、空気消費量(電力消費量)が大幅に抑えられ、省エネが実現される。
【0016】
また、本発明の真空チャック装置は、前記吸着手段の減圧エリアと前記第1の貫通孔とを気密に連通する吸引経路に介設され、前記クランプ時に開弁し前記アンクランプ時に閉弁する第1の逆止弁と、前記第1の逆止弁と前記第1の貫通孔との間の前記吸引経路の途中部分から分岐して外部に開口する分岐経路に介設され、前記クランプ時に閉弁し前記アンクランプ時に開弁する第2の逆止弁とを設けたことを特徴とする。
【0017】
この発明の真空チャック装置によれば、吸着手段に被加工物を吸着した状態で複数何回でも真空圧を補充することが可能になり、真空圧の低下等の場合であっても、迅速に対応することができる。
【0018】
また、本発明の真空チャック装置は、前記吸着手段が前記シリンダ本体に取り付けられ、前記吸着手段の減圧エリアと前記第1の貫通孔とをダイレクトに直に連通したことを特徴とする。
この発明の真空チャック装置によれば、吸着手段をシリンダ本体と一体化することができ、真空チャック装置がコンパクト化される。
【0019】
また、本発明の真空チャック装置は、前記シリンダ本体を複数個備え、前記各シリンダ本体の個々の前記第1の貫通孔にそれぞれ連通する吸引経路を結合した結合吸引経路を前記吸着手段の減圧エリアに気密に連通し、前記各シリンダ本体が協働して前記クランプまたは前記アンクランプを行うように構成したことを特徴とする。
この発明の真空チャック装置によれば、真空容量が大幅に増加されるので、強力な真空吸着力を実現することができ、被加工物のサイズが幅広である場合などに対応することができる。
【0020】
また、本発明の真空チャック装置は、水平板状の基台部と、該基台部から垂直に立設された中空のイケール本体とを有し、前記吸着手段は、板状を成して前記イケール本体の側面に水平平行に取り付けられ、前記シリンダ本体は、前記イケール本体の中空に収容したことを特徴とする。
この発明の真空チャック装置によれば、真空チャック装置全体がコンパクト化され、各種の工作機械等への取り付けも容易になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の真空チャック装置によれば、被加工物の吸着操作が簡単になり、各種の工作機械等への取り付けも容易となる。また、大幅な省エネを実現できると共に、シンプル構造であるため低コスト化が実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態に係る真空チャック装置の構成を示す断面模式図である。
【図2】第2の実施形態に係る真空チャック装置の構成を示す断面模式図である。
【図3】第3の実施形態に係る真空チャック装置の構成を示す断面模式図である。
【図4】第3の実施形態に係る別の構成を示す断面模式図である。
【図5】第4の実施形態に係る真空チャック装置の構成を示す断面模式図である。
【図6】図5に示した真空チャック装置の実装形態を示す外観斜視図である。
【図7】図6に示した実装形態の上面図及び側面図である。
【図8】図5の真空チャック装置の他の実装形態を示すイケール治具の図である。
【図9】本発明の真空チャック装置の実装形態を示すイケール治具の図である。
【図10】従来の真空チャック装置の概略構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
<第1の実施形態>
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る真空チャック装置の構成を示す断面模式図である。
この真空チャック装置は、図1に示すように、第1のシリンダ室11と第2のシリンダ室12が隔壁13を介して形成された例えば円筒形状のシリンダ本体10と、このシリンダ本体10に連通する真空吸着器30とを有している。真空吸着器30は、ワーク(被加工物)50を減圧エリアに載置して真空吸着するための吸着手段である。
【0025】
第1のシリンダ室11及び第2のシリンダ室12には、それぞれ第1のピストン14、第2のピストン15が内装されている。具体的には、第1のピストン14は、第1のシリンダ室11に軸方向への往復動が可能に内装されている。同様に、第2のピストン15は、第2のシリンダ室12に軸方向への往復動が可能に内装されている。これら第1のピストン14及び第2のピストン15は、各外周面に溝が刻設され、その中にOリングが収容されている。このため、第1及び第2のシリンダ室11,12の軸方向に延びるシリンダ内壁面10a,10bと第1及び第2のピストン14,15の外周面はそれぞれシールされ、第1の空間11aと第2の空間11bの間、及び第3の空間12aと第4の空間12bの間の気密性がそれぞれ保持される。
そして、隔壁13を貫通する断面円形の貫通孔13aを連結ロッド16が軸方向に往復動自在に嵌通して第1のピストン14と第2のピストン15とを連結している。貫通孔13aの内周面には2つの溝が刻設され、各溝にはOリングが収容されている。このため、第2の空間11bと第3の空間12aの間の気密性が保持される。
【0026】
また、第1のピストン14によって、第1のシリンダ室11内には第1の空間11a及び第2の空間11bが形成される。第1の空間11aのシリンダ壁には、吸引用の第1の貫通孔21が形成され、第2の空間11bのシリンダ壁には、流体給排出用の第2の貫通孔22が形成されている。さらに、第2のピストン15によって第2のシリンダ室12内には第3の空間12a及び第4の空間12bが形成される。第3の空間12aのシリンダ壁には、流体給排出用の第3の貫通孔23が形成され、第4の空間12bのシリンダ壁には、通気用の第4の貫通孔24が形成されている。
【0027】
そして、第1の貫通孔21は、吸引経路21aを介して、真空吸着器30の減圧エリアと気密に連通されている。第2の貫通孔22及び第3の貫通孔23は、それぞれ流体経路22a、23aを介して、4ポート圧力保持型の方向切り替えバルブ60の流体出入ポート61,62に連通している。なお、流体経路22a、23aは、例えばポリウレタン等のビニールチューブから成る。
【0028】
4ポート圧力保持型の方向切り替えバルブ60は、公知であり、4つの流体出入ポート61,62、63、64と、2つの弁体65、66を有している。そして、流体供給源から流体出入ポート63または64を通して供給される圧縮流体(例えば圧縮空気)により2つの弁体65、66を駆動させて、流体経路22a、23aに連通している流体出入ポート61,62の開閉を制御するように構成されている。流体供給源としては、例えば、コンプレッサにより駆動されるエアガンなどが挙げられる。すなわち、流体出入ポート63または64には、流体供給源の先端ノズルが着脱自在に装着されるようになっている。
【0029】
次に、動作を説明する。
ワーク50を真空吸着器30に真空吸着するクランプ時には、ワーク50を真空吸着器30の減圧エリアに載置しておき、第2の貫通孔22から第2の空間11b内の流体を排出し、第3の貫通孔23から第3の空間12a内に流体を圧入する。
具体的には、方向切り替えバルブ60の流体出入ポート64に流体供給源の先端ノズルを装着して圧縮流体をバルブ60内に供給すると、初めに、弁体65が開駆動して、流体経路22aを介して第2の貫通孔22に連通する流体出入ポート61が開口する。その結果、第2の空間11b内に残留していた流体が、流体出入ポート61を介して流体出入ポート63からバルブ60の外へ排出される。
【0030】
続いて、弁体66が開駆動して、流体経路23aを介して第3の貫通孔23に連通する流体出入ポート62が開口する。その結果、第3の貫通孔23から第3の空間12a内に圧縮流体が供給され、第1及び第2のピストン14、15が図1の右側へ移動する。これによって第1の空間11aが減圧され、ワーク50が真空吸着器30に真空吸着する。
【0031】
このようなクランプ時において、方向切り替えバルブ60の流体出入ポート64から流体供給源を切り離すなどして、圧縮流体の供給が停止したときには、少なくとも弁体66が閉駆動して、第3の空間12aに連通する流体出入ポート62を気密に閉塞する。これにより、第1の空間11a内に生成された真空圧を長時間保持することができる。
【0032】
また、ワーク50の真空吸着状態を解除するアンクランプ時には、第3の貫通孔23から第3の空間12a内の流体を排出し、第2の貫通孔22から第2の空間11b内に流体を圧入する。
具体的には、方向切り替えバルブ60の流体出入ポート63に流体供給源の先端ノズルを装着して圧縮流体をバルブ60内に供給すると、初めに、弁体66が開駆動して、流体経路23aを介して第3の貫通孔23に連通する流体出入ポート62が開口する。その結果、第3の空間12a内に残留していた流体が、流体出入ポート62を介して流体出入ポート64からバルブ60の外へ排出される。
【0033】
続いて、弁体65が開駆動して、流体経路22aを介して第2の貫通孔22に連通する流体出入ポート61が開口する。その結果、第2の貫通孔22から第2の空間11b内に圧縮流体が供給され、第1及び第2のピストン14、15が図1の左側へ移動する。これによって、ワーク50の真空吸着状態が解除される。
【0034】
本実施の形態における真空チャック装置によれば、シリンダ本体10内の第1及び第2のピストン14,15を、流体圧によって1回駆動させるとだけで、真空吸着器30の減圧エリアに連通する第1の空間11a内に所要の真空圧を得ることが可能になできる。これにより、ハンドルなどで操作する従来技術のように多大な労力や時間を要せず、ワークの吸着操作を簡単に行うことができる。さらに、ハンドルなどを用いないシンプルな構造であるので、低コストを図ることができると共に、真空チャック装置を各種の工作機械や機械装置等に取り付ける際には、自在な取り付けが可能になる。
【0035】
また、バルブ手段として、圧力保持型の方向切り替えバルブ60を用いることにより、流体供給源をバルブ手段から切り離した場合でも、クランプ時において第1の空間11a内に生成された真空圧を長時間保持することができ、真空圧保持型の真空チャック装置が実現する。これにより、エジェクタ方式の真空チャック装置などのように、真空圧を保持するために流体供給源を連続して稼働する必要もなく、空気消費量(電力消費量)が大幅に抑えられ、省エネが実現される。さらに、1つの流体供給源で複数のクランプに対応することが可能になり、横型マシニングセンタ等の工作機械で使用することもできる。
【0036】
また、シリンダ本体10や連結ロッド16等の装置構成部品について、市販材を使用することにより、大小長短の幅広いサイズの真空チャック装置が低コストで製作可能となる。これにより、利用が想定される様々なサイズのワークに対して、必要な真空圧力や真空容量を持たせることが容易になる。
<第2の実施形態>
【0037】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る真空チャック装置の構成を示す断面模式図であり、図1と共通する要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態の真空チャック装置は、上述した第1の実施の形態における真空チャック装置において、真空吸着器30の減圧エリアと第1の貫通孔21とを気密に連通する吸引経路21a側に、第1の逆止弁71と第2の逆止弁72を設けたものである。
【0038】
具体的には、第1の逆止弁71は、吸引経路21aに介設され、真空吸着器30側から第1の貫通孔21の方向へ流れる空気を通過させ、その逆方向に流れる空気を遮断する。第2の逆止弁72は、第1の逆止弁71と第1の貫通孔21との間の吸引経路21aの途中部分から分岐して外部に開口する分岐経路21bに介設されている。そして、第1の貫通孔21から分岐経路21b側の方向へ流れる空気を通過させ、その逆方向に流れる空気を遮断する。
【0039】
すなわち、第1及び第2のピストン14、15を図2の右側へ移動するクランプ動作を行うと、第1の逆止弁71が開き、第2の逆止弁72が閉じる。第1の逆止弁71が開くことにより、真空吸着器30側から第1の貫通孔21の方向へ空気が流れる。逆に、第1及び第2のピストン14、15を図2の左側へ移動するアンクランプ動作を行うと、第1の逆止弁71が閉じて、第2の逆止弁72が開く。第2の逆止弁72が開くことにより、第1の貫通孔21から分岐経路21bを介してシリンダ本体10の外へ空気が排出される。
【0040】
本実施の形態によれば、真空吸着器30にワーク50を吸着した状態で複数何回でも真空圧を補充することが可能になり、真空圧の低下等の場合であっても、迅速に対応することができる。
<第3の実施形態>
【0041】
図3及び図4は、第3の実施形態に係る真空チャック装置の構成を示す断面模式図であり、図1と共通する要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態の真空チャック装置は、図3及び図4に示すように、真空吸着器30の減圧エリアと第1の貫通孔21とをダイレクトに直に連通した構成となっている。すなわち、図3に示すものは、シリンダ本体10の短手方向の側壁に第1の貫通孔21を設けて、これに真空吸着器30の減圧エリアをダイレクトに直に連通している。図4に示すものは、シリンダ本体10の長手方向の側壁に第1の貫通孔21を設けて、これに真空吸着器30の減圧エリアをダイレクトに直に連通している。
【0042】
本実施の形態の真空チャック装置によれば、配管が介在しないので、真空吸着器30をシリンダ本体と一体化することができ、真空チャック装置をコンパクト化することができる。また、様々な角度や位置でのクランプが可能になる。
<第4の実施形態>
【0043】
図5は、第4の実施形態に係る真空チャック装置の構成を示す断面模式図であり、図1と共通する要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態の真空チャック装置は、図5に示すように、上述したシリンダ本体10と同一構成の2つのシリンダ本体10A、10Bを備えている。各シリンダ本体10A、10Bの個々の第1の貫通孔21にそれぞれ連通する吸引経路21aを結合した結合吸引経路21bが設けられ、その結合吸引経路21bが真空吸着器30の減圧エリアに気密に連通している。さらに、1つの4ポート圧力保持型の方向切り替えバルブ60と各シリンダ本体10A、10Bとを連通するために、流体経路22a、23aが分岐して分岐流体経路22b、23bが形成されている。
【0044】
このような構成の真空チャック装置では、各シリンダ本体10A、10Bが協働してクランプ動作またはアンクランプ動作を行う。
本実施の形態の真空チャック装置によれば、真空容量が大幅に増加されるので、強力な真空吸着力を実現することができ、ワーク50のサイズが幅広である場合などに対応することができる。
<第5の実施形態>
【0045】
図6は、図5に示した真空チャック装置の実装形態を示すイケール治具の外観斜視図であり、図5と共通する要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。また、図7(a)は、図6に示す実装形態の上面図であり、同図(b)はその短手方向の側面図である。
この真空チャック装置は、図6及び図7(a),(b)に示すように、水平板状の基台部80と、該基台部80から垂直に立設された中空の2面イケール本体81とを有するイケール治具として構成される。真空吸着器30は、板状を成して、断面長方形のイケール本体81の長手方向の側面に複数のネジ82で水平平行に取り付けられている。この板状の真空吸着器30には、シール材31がワーク50の載置面の周縁部に沿って環状に周設されている。さらに、環状のシール材31の内側領域には、前記ネジ82が複数存在し、そのネジ82の周囲にOリング32が付設されている。そして、環状のシール材31とOリング32とで囲まれた領域内が減圧エリア33となり、この減圧エリア33には、結合吸引経路21bに連通すしている吸引孔34が開口している。
【0046】
そして、各シリンダ本体10A、10Bが、イケール本体81の中空に収容され、イケール本体81の短手方向の側面には、4ポート圧力保持型の方向切り替えバルブ60が取り付けられている。また、イケール本体81の短手方向の側面には、図示はしていないが、真空圧を計測する圧力計が取り付けられているものとする。
このような実装形態の真空チャック装置によれば、真空チャック装置全体がコンパクト化され、各種の工作機械等への取り付けも容易になる。すなわち、例えば工作機械等のテーブル部あるいはパレットに取り付けられて、ワーク50を位置決めするイケール治具とすることができる。かかるイケール治具を横型マシニングセンタ等の自動パレット交換方式工作機械に取り付ければ、例えば航空機産業等に使用されるアルミ等の材質の薄物ワークの加工用治具として好適に機能し、その分野の加工効率化に寄与することが可能になる。
<第6の実施形態>
【0047】
図8(a)は、図5に示した真空チャック装置の他の実装形態を示すイケール治具の上面図であり、同図(b)はその側面図である。図5及び図6と共通する要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
この真空チャック装置は、図6で示したイケール治具において、2面イケール本体81の長手方向両側面にそれぞれ真空吸着器30A、30Bを取り付けて、2つのワークを真空吸着する構成である。
【0048】
この場合は、図5に示したシステムと同一構成のシステムを2つ用意する。すなわち、中空の2面イケール本体81には、シリンダ本体10A、10Bの他に、シリンダ本体10C、10Dが収容され、イケール本体81の短手方向両側面には、4ポート圧力保持型の方向切り替えバルブ60A,60Bがそれぞれ取り付けられる。
そして、一方のシステムで真空吸着器30Aを作動し、もう一方のシステムで別の真空吸着器30Bを作動する。
<第7の実施形態>
【0049】
図9(a)は、図1、図2、図3または図4に示した真空チャック装置の実装形態を示すイケール治具の上面図であり、同図(b)はその側面図である。図6と共通する要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図9(a)に示すように、本実施の形態におけるイケール治具が、図6に示したイケール治具と異なる点は、イケール本体が断面正方形で中空の4面イケール本体81Aで構成されている点である。すなわち、図9(a),(b)で示したイケール治具において、4面イケール本体81Aの各側面にそれぞれ真空吸着器30A、30B、30C、30Dを取り付けて、4つのワークをそれぞれ独立して真空吸着する構成である。
【0050】
この場合は、図1、図2、図3または図4に示したシステムを4つ用意する。4ポート圧力保持型の方向切り替えバルブ60A,60B,60C、60Dは、図9(b)に示すようにイケール本体81Aの上部に取り付ける。この各システムを用いて、独立に真空吸着器30A、30B、30C、30Dを作動する。
【0051】
なお、本発明は、上記の各実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。その変形例としては、例えば次のようなものがある。
第7の本実施形態では、4つのワークをそれぞれ独立して真空吸着する構成としたが、ワーク2つを組として真空吸着するなど他の構成も可能である。
また、イケール治具の形状は、ワークに合わせた形状であることが望ましく、上記実施の形態に示した形状に限定されない。
【0052】
また、バルブ手段は、圧力保持型を使用したが、流体供給源から切り離しつつ圧力を長時間保持する必要がない場合には、圧力保持型ではない市販の4ポート型切り替えバルブを使用することができる。このような場合でも、上述したようにワークの吸着操作が簡単になる等の効果が得られる。
また、流体供給源から供給される流体は、空気のほか、水や油などの液体であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
10、10A、10B、10C、10D シリンダ本体
11 第1のシリンダ室
11a 第1の空間
11b 第2の空間
12 第2のシリンダ室
12a 第3の空間
12b 第4の空間
13 隔壁
14 第1のピストン
15 第2のピストン
16 ロッド
30、30A、30B 真空吸着器(吸着手段)
50 被加工物
21 吸引用の第1の貫通孔
22 流体給排出用の第2の貫通孔
22a、23a 流体経路
23 流体給排出用の第3の貫通孔
24 通気用の第4の貫通孔
71 第1の逆止弁
72 第2の逆止弁
80 水平板状の基台部
81 イケール本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁(13)を介して第1のシリンダ室(11)と第2のシリンダ室(12)が形成されたシリンダ本体(10)と、
前記第1のシリンダ室の軸方向に延びるシリンダ内壁面(10a)との気密が保持されるように、前記第1のシリンダ室に前記軸方向への往復動が可能に内装された第1のピストン(14)と、
前記第2のシリンダ室の軸方向に延びるシリンダ内壁面(10b)との気密が保持されるように、前記第2のシリンダ室に前記軸方向への往復動が可能に内装された第2のピストン(15)と、
前記隔壁を気密に貫通して前記第1のピストン(14)と前記第2のピストン(15)とを連結するロッド(16)と、
被加工物(50)を載置して真空吸着するための吸着手段(30)とを備え、
前記第1のピストンによって前記第1のシリンダ室内に形成される第1の空間(11a)及び第2の空間(11b)のうち、前記第1の空間のシリンダ壁を貫通する吸引用の第1の貫通孔(21)と、前記第2の空間のシリンダ壁を貫通する流体給排出用の第2の貫通孔(22)と、前記第2のピストンによって前記第2のシリンダ室内に形成される第3の空間(12a)及び第4の空間(12b)のうち、前記第3の空間のシリンダ壁を貫通する流体給排出用の第3の貫通孔(23)と、前記第4の空間のシリンダ壁を貫通する通気用の第4の貫通孔(24)とを形成して、前記吸着手段の減圧エリアと前記第1の貫通孔とを気密に連通し、
前記被加工物を前記吸着手段に真空吸着するクランプ時には、前記第2の貫通孔から前記第2の空間内の流体を排出すると共に、前記第3の貫通孔から前記第3の空間内に流体を圧入し、前記被加工物の真空吸着状態を解除するアンクランプ時には、前記第3の貫通孔から前記第3の空間内の流体を排出すると共に、前記第2の貫通孔から前記第2の空間内に流体を圧入することを特徴とする真空チャック装置。
【請求項2】
前記流体を供給する流体供給源が着脱自在に装着され、前記クランプ時において前記流体供給源からの流体の供給が停止したときに、少なくとも前記第3の貫通孔に連通する流体経路(23a)を気密に閉塞するバルブ手段(60)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の真空チャック装置。
【請求項3】
前記吸着手段の減圧エリアと前記第1の貫通孔とを気密に連通する吸引経路(21a)に介設され、前記クランプ時に開弁し前記アンクランプ時に閉弁する第1の逆止弁(71)と、
前記第1の逆止弁と前記第1の貫通孔との間の前記吸引経路の途中部分から分岐して外部に開口する分岐経路(21b)に介設され、前記クランプ時に閉弁し前記アンクランプ時に開弁する第2の逆止弁(72)とを
設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の真空チャック装置。
【請求項4】
前記吸着手段が前記シリンダ本体に取り付けられ、前記吸着手段の減圧エリアと前記第1の貫通孔とをダイレクトに直に連通したことを特徴とする請求項1または2に記載の真空チャック装置。
【請求項5】
前記シリンダ本体を複数個備え、
前記各シリンダ本体(10A、10B)の個々の前記第1の貫通孔にそれぞれ連通する吸引経路を結合した結合吸引経路(21b)を前記吸着手段の減圧エリアに気密に連通し、
前記各シリンダ本体が協働して前記クランプまたは前記アンクランプを行うように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の真空チャック装置。
【請求項6】
水平板状の基台部(80)と、該基台部から垂直に立設された中空のイケール本体(81)とを有し、
前記吸着手段は、板状を成して前記イケール本体の側面に水平平行に取り付けられ、前記シリンダ本体は、前記イケール本体の中空に収容したことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の真空チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−59823(P2013−59823A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199065(P2011−199065)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(511223028)株式会社イズミコーポレーション (1)
【Fターム(参考)】