説明

真空ポンプ

【課題】ロータやステータが高温になっても、ポンプの排気や圧縮等の性能を向上させるとともに、ポンプの小型化と必要な動力も最少にすることができるようにした真空ポンプを提供する。
【解決手段】複数のローブ72を軸方向に沿って多段に配置した一対のロータ74を、該ローブ72を互いに近接させて互いに平行にポンプケーシング76内に配置した真空ポンプにおいて、ポンプケーシング76は、ロータ74の軸方向に移動自在で、ローブ72の周囲を包囲して該ローブ72との間でガス排気部を構成するケーシング76dを備え、ローブ72とケーシング76dとの間のロータ74の軸方向に沿った距離を、ロータ74の回転中にケーシング76dをロータ74の軸心方向に沿って移動させて調整する距離調整機構88,99を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータとステータの相互作用によりガスを排気するガス排気部を有する真空ポンプに関し、より詳しくは、ロータとステータとの間の距離を微少に設定してロータを回転させることで、ポンプの排気能力を引き出すようにした真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプケーシングの内部に、ロータとステータの相互作用によりガスを排気するガス排気部を有する従来の真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)の一例を図6に示す。この真空ポンプは、ポンプケーシング10の内部にロータ(回転部)Rとステータ(固定部)Sが収容され、これらの間にタービン翼部からなる軸方向翼排気部(ガス排気部)L及びディスク型ロータ部からなる径方向翼排気部(ガス排気部)Lが構成されている。ステータSは、基部14と、その中央に立設された固定筒状部16と、軸方向翼排気部L及び径方向翼排気部Lの固定側部分とから主に構成されている。また、ロータRは、固定筒状部16の内部に挿入された主軸18と、それに取付けられたロータ本体20から構成されている。
【0003】
主軸18と固定筒状部16の間には、駆動用モータ22と、その上下に上部ラジアル軸受24及び下部ラジアル軸受26が設けられている。そして、主軸18の下部には、主軸18の下端のターゲットディスク28aと、ステータS側の上下の電磁石28bを有するアキシャル軸受28が配置され、更に、固定筒状部16の上下2カ所には、タッチダウン軸受29a,29bが設けられている。
【0004】
このような構成により、ロータRの主軸18は、5軸制御型磁気軸受により支承され、駆動用モータ22の駆動に伴って回転する。5軸制御型磁気軸受を更に詳しく説明すると、次のようになる。すなわち、5軸制御型磁気軸受は、図8に示すように、上部ラジアル軸受24の配置位置で主軸18に直交する平面で互いに直交するX,Y軸の計2軸と、下部ラジアル軸受26の配置位置で主軸18に直交する平面で互いに直交するX,Y軸の計2軸と、主軸18の軸心に沿ったZ軸の方向の合計5軸方向で主軸18の位置制御を行って、主軸18を支承するようにしたものである。
【0005】
ここで、上下ラジアル軸受24,26は、主軸18の外周面の位置をセンシングするラジアルセンサと、このラジアルセンサの位置信号に基づいて主軸18を上下ラジアル軸受24,26のステータ内径部の中心位置に保持するように吸引する電磁石から構成されている。これらのラジアルセンサと電磁石は、それぞれ主軸18を中心に対向した位置に配置されている。
【0006】
一方、アキシャル軸受28は、主軸18の下端部に設けられたターゲットディスク28aと該ターゲットディスク28aの位置をセンシングするステータ側に設けられたアキシャルセンサ(変位センサ)により主軸18のZ軸方向の位置をセンシングし、このセンサ出力に基づいて、アキシャル軸受28の上下の電磁石28bのターゲットディスク28aに対する磁気吸引力を調整することにより、主軸18をZ軸方向の予め設定された位置に保持するようになっている。アキシャル軸受28のZ軸方向の位置制御は、より詳しくは、ターゲットディスク28aが、上下の電磁石28b間の一定の位置に位置するように行われる。このような構成によって、ロータRが5軸の能動制御を受けながら高速回転するようになっている。
【0007】
軸方向翼排気部Lのロータ本体20の上部外周には、円盤状の回転翼30が一体に形成され、ポンプケーシング10の内面には、固定翼32が回転翼30と交互に配置されて設けられている。各固定翼32は、その縁部を固定翼スペーサ34で上下から押さえられて固定されている。回転翼30には、内周部のハブと外周部のフレームの間に径方向に延びる傾斜した羽根(図示略)が放射状に設けられており、この高速回転によって気体分子に軸方向の衝撃を与えて排気を行うようになっている。
【0008】
径方向翼排気部Lは、軸方向翼排気部Lの下流側、つまり下方に設けられており、軸方向翼排気部Lとほぼ同様に、ロータ本体20の外周に円盤状の回転翼36が一体に形成され、ポンプケーシング10の内面には、固定翼38が回転翼36と交互に配置されて設けられている。各固定翼38は、その縁部を固定翼スペーサ40で上下から押さえられて固定されている。
【0009】
各固定翼38は、中空の円板状に形成されており、図7に示すように、その表裏面に、中央の穴42と周縁部44の間に渡って螺旋状(渦巻状)の突条部46が設けられ、それら突条部46の間に外側に向かって広がる螺旋状溝48が形成されている。各固定翼38の表の面すなわち上側の面の螺旋状突条部46は、図7に矢印Aで示す回転翼36の回転に伴い、気体分子が、実線の矢印Bで示すように内側に向かって流れるように形成されており、一方、各固定翼38の裏の面すなわち下側の面の螺旋状突条部46は、矢印Aで示す回転翼36の回転に伴い、気体分子が、破線の矢印Cで示すように外側に向かって流れるように形成されている。
【0010】
なお、この例では、固定翼38の表裏両面に突条部46を設けた例を示しているが、表面のみ、或いは裏面のみに突条部46を設けたり、固定翼38には突条部46を設けず、回転翼36に同様の突条部を設けたり、更には、回転翼と固定翼の両方に突条部を設けることも行われている。
このような固定翼38は、通常半割体として、或いは3分割以上として形成し、これを回転翼36と交互になるように固定翼スペーサ40を介して組み上げてからポンプケーシング10内に挿入する。
【0011】
これによって、径方向翼排気部Lにおいて、軸方向の短いスパンの間に固定翼38と回転翼36の間をジグザグに上から下へ向かって進む長い排気経路が構成されて、軸方向の長さを大きくすることなく、高い排気・圧縮性能を有するようになっている。
【0012】
図9は、従来の真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)の他の例を示すもので、この例の図6に示す例と異なる点は、図6に示す径方向翼排気部Lの代わりに、溝排気部(ガス排気部)Lを備え、更にポンプケーシング10の下部外周部及び排気口50を有する排気口構成部材52の外周部に、ここを流れるガスを加熱するヒータ54,56を配置した点にある。
【0013】
すなわち、軸方向翼排気部Lの下方には、ロータ本体20の下端に連接した回転筒状部58の外周面に形成したねじ溝58aと、このねじ溝58aの外周部を囲むようにステータSに固定されて配置されたねじ溝部スペーサ60とから、高速回転するロータのねじ溝58aのドラッグ作用によって排気を行う溝排気部Lが備えられている。
【0014】
このように軸方向翼排気部Lの下流側にねじ溝排気部Lを有することで、広い流量範囲に対応可能な広域型ターボ分子ポンプが構成される。この例では、ねじ溝排気部Lのねじ溝58aをロータR側に形成した例を示しているが、ねじ溝をステータS側に形成することも行われている。
【0015】
図10及び図11は、従来の容積式真空ポンプ(ルーツ型真空ポンプ)の一例を示す。これは、いわゆるルーツ型の多段ポンプであり、主軸70と該主軸70長さ方向に沿って所定の間隔で形成された複数のローブ(歯部)72を有するロータ74を備えている。そして、吸気口76aと吐出口76bを有するポンプケーシング(ステータ)76の内部に、一対のロータ74が互いに平行に、軸受78a,78bを介して回転自在に支持されて配置され、ロータ74の一端にモータ79が連結されている。この例は、図11に示すように、3つのローブ(歯部)72を有する3葉タイプのロータ74を噛み合わせて構成されたルーツ型多段ポンプを示している。
【0016】
このような真空ポンプは、ロータ(ローブ)の形状により、軸方向からロータを見た場合に2葉又は3葉タイプのものをルーツ型真空ポンプ、突起部を円筒に螺旋状に形成したタイプのものをスクリュー型真空ポンプと呼んでいる。排気構造は、一対のロータ74が互いに平行に近接して配置され、このロータ74のローブ72を覆うポンプケーシング(ステータ)76と、この2つのローブ72が形成する空間でガス排気路を形成し、主軸70の回転方向に順次排気ガスを圧縮排気するようになっている。このような排気原理の為、ローブ(ロータ)72とポンプケーシング(ステータ)76の隙間は、非常に微小な寸法に設定されている。この微小な寸法は、ポンプ運転中におけるロータ74の主軸70の回転方向及び径方向への寸法変化を考慮して、組立て時の初期設定で決められている。
【0017】
つまり、主軸70と主軸70を支承する軸受78a,78b、及び軸受78a,78bとステータ76の組立て状態は、モータ79側に位置する軸受78aにより主軸70の軸方向の位置決めを行い、ポンプ運転中の主軸70の温度上昇による寸法変化を考慮して、反モータ側に位置する軸受78bは、主軸70の軸方向の寸法変化(寸法拡大)を許容するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前記のような従来の真空ポンプにあっては、その排気原理上、ガス排気部を構成するロータとステータとの間の隙間は、非常に微小に設定されている。特に、図6に示す真空ポンプの径方向翼排気部Lは、排気されるガスが粘性の殆どない、いわゆる分子流状態で排気能力が十分に発揮される軸方向翼排気部Lから流れてきたガスを、該軸方向翼排気部Lより圧力が高くなるように更に圧縮を行う排気部であり、排気ガスの粘性を利用した排気部となる。このため、径方向翼排気部Lのロータ(回転翼36)とステータ(固定翼38)との間の隙間は、軸方向翼排気部Lのロータ(回転翼30)とステータ(固定翼32)との間の隙間より小さな寸法に設定されている。具体的には、軸方向翼排気部Lのロータとステータとの間の軸方向の隙間は、1〜5mm程度の数mmオーダであるのに対して、径方向翼排気部Lの同寸法は、1mm以下となる。
【0019】
また、同様に図9に示す真空ポンプのように、図1と同様に排気ガスの粘性を利用したねじ溝排気部(ガス排気部)Lにあっても、ロータ(回転筒状部58)とステータ(ねじ溝部スペーサ60)との間の隙間(軸心に対して垂直な方向の間隔)は、同様に1mm以下となる。
【0020】
更に、図10に示す容積型真空ポンプの場合は、図6及び図9に示す真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)より、より高い圧力(大気圧近傍)で運転されるため、ロータとステータとの間の隙間をより小さくして、高い圧力部から低い圧力部への逆流を防止する、いわゆるロータとステータとの間のシール能力を高める必要がある。このため、ロータとステータとの間の軸心方向及び軸心に垂直な方向の隙間は、ポンプ運転(ロータ回転)時に、共に0.1mm以下、より詳しくは数10μmになるように設定される。
【0021】
ここで、これらの真空ポンプの構成部品は、主に金属材料で構成されており、温度の上昇に伴って、真空ポンプの構成部品の寸法が変化する。真空ポンプのポンプケーシングの内部は真空状態となり、排気路を構成するロータ及びステータも、運転時には真空断熱状態となる。一方、真空ポンプ内では、ガスを排気するためにガスの攪拌及び圧縮の状態が繰り返され、それによる攪拌熱、圧縮熱を生じる。更に、ロータに回転運動を与えるために、モータには動力が供給されるが、運転中は、ポンプの負荷に応じてモータ部の発熱も増減する。これらの発熱源により、ロータ及びステータは、運転中、高温状態となり、前述のような寸法変化を生じることになる。
【0022】
このため、ロータとステータとの間の隙間を所望の寸法に設定するには、ロータとステータの初期(高温ではない、いわゆる常温・室温)時の位置関係や寸法を、運転時の温度上昇分を考慮して設定する必要がある。真空ポンプには、前記発熱による過剰な温度上昇を防止するため、一般に水冷や空冷等の冷却手段が講じられているが、冷媒の温度やポンプ周りの外気温等により、冷却の効果が左右される可能性が高く、ロータとステータの温度管理の上では十分ではない。このため、ロータとステータの初期の位置や隙間寸法は、十分な安全率を有するように設定する必要があり、その結果、ポンプの排気性能を十分引き出すことができない。また、排気すべきガスが、真空ポンプ内部で圧力が上昇して、当初の気体の状態から固体の状態に変化する性質を有する場合、固体(反応生成物)がロータとステータとの間の隙間に入り込み、ポンプの運転を不能にしてしまうことがある。このような問題を防止する為、排気路をヒータ等で加熱して高温に保持する方法が採用されているが、このような場合には、ロータやステータが局所的に高温になり、適正な隙間寸法を確保できないという問題があった。
【0023】
上述のように、ロータとステータとの間の隙間が適正に確保されない場合には、ポンプの排気性能が低下するばかりでなく、更に次のような問題も生じる。つまり、図6に示す真空ポンプの径方向翼排気部Lのように、ディスク型のロータ(回転翼36)が、ディスクの表面でステータ(固定翼38)と微少隙間を形成している場合、ロータが高温に曝されて軸心方向に膨張し、回転翼36の吸気側の面(表面)と固定翼38との間の隙間が大きくなると、モータに供給される動力の内、実際のガス排気に供される動力は減少して、隙間が大きくなった部分で単なるガスの攪拌に供される動力分が増加する。これによって、モータの実際のガス排気に供されない無駄な動力が増加し、それに伴って、ポンプ内部での発熱も増加して、ロータとステータとの間の隙間が更に不適正な寸法になり、ポンプのロータの許容温度や、他のロータとステータとの間の隙間寸法等の制限により、運転不可能となることもある。
【0024】
以上のような問題は、図10に示す容積型真空ポンプにおいても同様であり、特に図10に示す真空ポンプでは、ロータの段数が多くなるに従って主軸の長さが長くなり、それに伴い、ポンプ運転時におけるロータとステータとの間の軸心方向に沿った隙間寸法の変化が大きくなる。これに対処するには、ロータとステータとの間の軸心方向に沿った隙間を予め大きく設定する必要があり、上述のような問題が助長されてしまう。
【0025】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、ロータやステータが高温になっても、ポンプの排気や圧縮等の性能を向上させるとともに、ポンプの小型化と必要な動力も最少にすることができるようにした真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に記載の発明は、複数のローブを軸方向に沿って多段に配置した一対のロータを、該ローブを互いに近接させて互いに平行にポンプケーシング内に配置した真空ポンプにおいて、前記ポンプケーシングは、前記ロータの軸方向に移動自在で、前記ローブの周囲を包囲して該ローブとの間でガス排気部を構成するケーシングを備え、前記ローブと前記ケーシングとの間の前記ロータの軸方向に沿った距離を、前記ロータの回転中に前記ケーシングをロータの軸心方向に沿って移動させて調整する距離調整機構を有することを特徴とする真空ポンプである。
【0027】
これにより、ポンプの運転(ロータの回転)中に、ガス排気部を構成するロータとステータとの間の隙間を最適に調整(制御)することで、ポンプの排気能力を最適に保つとともに、ポンプの排気作用に直接的に寄与しない無駄な動力を低減させて、ポンプの排気性能向上と共にポンプの運転時の省エネルギを図ることができる。また、ポンプの局所的な加熱及び冷却によるロータとステータとの間の距離が部分的に不適正となる状態を回避することができる。
【0028】
請求項2に記載の発明は、前記距離調整機構は、前記ロータの自由端までの距離を検出する距離検出部と、この距離検出部からの信号に基づいて、前記ロータを軸心方向に沿って移動させる駆動部とを有することを特徴とする請求項1記載の真空ポンプである。
【0029】
これにより、ロータとステータの距離を常時認識し、この距離に基づいて、ロータとステータの距離を適正な値に調整(制御)することができる。従って、ロータとステータの距離を初期に設定しておき、ポンプの運転状態(ガス量や圧力、冷却状態)等で予想されるロータとステータの距離の変化を考慮する方法と比較して、ロータとステータの距離制御の精度を格段に向上させることができ、ポンプの排気性能向上及び省エネルギとともに、ポンプに動力を供給するコントローラの小型化も図れる。
【0030】
請求項3に記載の発明は、前記ロータと前記ケーシングは、同一の材料、若しくは熱膨張係数のほぼ等しい材料で構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の真空ポンプである。
【0031】
これにより、温度変化に伴うロータとステータとの間の距離の変化を最少にするとともに、ロータ及び/またはステータの制御量も少なく設定することができ、条件が許せば制御量を無くすることもできる。ロータとステータの材料は、熱膨張係数の小さいものが望ましく、この材料としては、例えば、SiCやSi等のセラミックスや比密度の高いアルミニウムとセラミックス材料等の複合材料等が挙げられる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ポンプの運転(ロータ回転)中に、ガス排気部を構成するロータとステータの隙間を最適に制御することにより、ポンプの排気や圧縮等の性能を向上させるとともに、ポンプの小型化と必要な動力も最少にすることができ、これによって、省エネルギ、省スペース化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、図6乃至図11に示す従来例と同一または相当部材には、同一符号を付してその説明を一部省略する。
【0034】
図1は、真空ポンプの要部を示す断面図である。この例は、図6に示す径方向翼排気部(ガス排気部)Lを有する真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)で、ポンプケーシング10の内部に、回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38とが交互に配置されて、径方向翼排気部(ガス排気部)Lが構成されている。また、主軸18は、図6に示す従来例と同様に、上下ラジアル軸受(図示せず)とアキシャル軸受28により、5軸の能動制御を受けながら高速回転するようになっている。
【0035】
固定翼38は、浮遊体80に一体に設けられ、この浮遊体80は、空中に浮遊した状態で、ロータの軸心方向に沿って移動(上下動)自在にポンプケーシング10に保持されている。つまり、この浮遊体80は、回転翼36の周囲を囲繞する円筒状部82を有し、この円筒状部82の内周面の上下方向に沿った所定の位置に固定翼38が一体に連接されている。また、この浮遊体80の外周面にはフランジ部84が、ポンプケーシング10の内周面の該フランジ部84に対応する位置に凹部10aがそれぞれ設けられ、この凹部10aの側面(上下面)に、一対の電磁石等のアクチュエータからなる駆動部86が埋設されている。そして、ポンプケーシング10の凹部10a内に浮遊体80のフランジ部84を位置させ、このフランジ部84を一対の駆動部(電磁石)86で挟み、この駆動部86の吸引力を調整することで、浮遊体80を上下動自在に空中に浮遊させて保持するようになっている。
【0036】
更に、固定筒状部(ステータ)16の最下段に位置する回転翼36と対面する位置に、該回転翼36までの距離を検出する距離検出センサ(距離検出部)88が設けられている。
上記により、ロータの回転中に、径方向翼排気部(ガス排気部)Lを構成する回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との間の距離Dを調整する距離調整機構が構成されている。
【0037】
つまり、この例によれば、ポンプ運転(ロータ回転)中に、最下段に位置する回転翼(ロータ)36と該回転翼36に対面する固定筒状部(ステータ)16との距離を距離検出センサ88によって検出し、この検出値に基づいて、駆動部86を介して固定翼38をロータの軸心方向に沿って移動(上下動)させ、これによって、径方向翼排気部(ガス排気部)Lを構成する回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との間の距離Dを調整(制御)するようになっている。
【0038】
このように、ポンプの運転(ロータの回転)中に、径方向翼排気部(ガス排気部)Lを構成する回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との間の距離Dを調整(制御)することで、ポンプの排気能力を最適に保つとともに、ポンプの排気作用に直接的に寄与しない無駄な動力を低減させて、ポンプの排気性能向上と共にポンプの運転時の省エネルギを図ることができる。また、ポンプの局所的な加熱及び冷却によるロータとステータとの間の距離が部分的に不適正となる状態を回避することができる。
浮遊体80の円筒状部82の上下端部における外周面と、ポンプケーシング10の内周面との間には、円筒状部82の裏面側にガスが回り込むのを防止する、弾性体からなるシール材90が介装されている。
【0039】
なお、この例では、距離検出センサ88を別途設けた例を示しているが、アキシャル軸受28に備えられている変位センサを兼用するようにしてもよく、また、距離検出センサをステータの周方向に複数箇所に設けたり、ロータを挟み込むように対向して設けたりするようにしてもよい。
【0040】
ここで、距離検出センサ88は、ロータが高速回転するため、非接触方式のものが望ましく、ロータの金属部をターゲットとした渦電流型センサや誘導型センサまたは光を利用した光センサ等が用いられる。なお、ロータが非金属性の場合は、金属性部分を追加して設けてもよい。また、距離検出センサ88は、ロータRとステータSとの位置関係において、ロータとステータの距離が最少になるステータ側の箇所や、相対的に排気ガスの腐食等の影響を受けにくいステータS側の箇所に設置することが望ましい。
【0041】
また、この例においては、駆動部86によって固定翼38を移動させるようにしているが、ステータに設けた距離検出センサ88の検出値に基づいて、アキシャル軸受28の電磁石28bの吸引力を調整して、ロータの浮上位置をポンプの運転(ロータ回転)中に変化させるようにしてもよい。これにより、ロータとステータの距離の制御がより正確になり、制御可能域も広くとることができる。
【0042】
更に、ロータやステータを熱膨張係数の少ない材料で構成することが好ましく、これにより、必要な制御量を可及的に少なくすることができる。また、熱膨張係数の同じ材料でロータとステータを構成すればより好ましい。熱膨張係数の小さい材料としては、SiCやSi等のセラミックスや、セラミックスと他の金属材料との複合材料等が挙げられる。
【0043】
図2は、他の真空ポンプの要部を示す断面図である。この例は、図1に示す例と同様に、回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38とから構成される径方向翼排気部(ガス排気部)Lを有する真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)で、固定翼38は、基台部38aと、回転翼36と対向する平板状の可動部38bとから構成されている。そして、基台部38aと可動部38bとの間に、温度の変形によって寸法が変化する、例えば形状記憶合金等からなる熱変形部材(駆動部)92が挿入され、これによって、ロータの回転中に、径方向翼排気部(ガス排気部)Lを構成する回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との間の距離Dを調整する距離調整機構が構成されている。
【0044】
この例によれば、真空ポンプの運転によりロータ及び/又はステータの温度が変化した時に、その温度変化に伴って、回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との間の距離Dが予め設定された所望の値になるように、熱変形部材92を熱変形させることで、回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との距離を常に一定に維持・確保することができる。
【0045】
図3は、更に他の真空ポンプの要部を示す断面図である。この例は、図1に示す例と同様に、回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38とから構成される径方向翼排気部(ガス排気部)Lを有する真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)で、固定翼38を基台部38aと、回転翼36と対向する平板状の可動部38bとで構成し、かつ基台部38aと可動部38bとの間に、ピエゾ素子等の圧電素子(駆動部)94を配置し、更に、基台部38aに回転翼36との距離を検出する距離検出センサ88を設けて、ロータの回転中に、径方向翼排気部(ガス排気部)Lを構成する回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との間の距離Dを調整する距離調整機構を構成している。
【0046】
この例によれば、距離検出センサ88の検出値に基づいて圧電素子94に供給する電力を制御することにより、回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との距離Dを正確にかつ精度よく制御することができる。なお、構成を簡単にするために、距離検出センサを設けることなく、ロータやステータの温度をサーミスタや熱電対等の温度センサで検出して、予め設定された電力を圧電素子94に供給して、回転翼(ロータ)36と固定翼(ステータ)38との距離Dを制御するようにしてもよい。なお、前述のように、ステータの位置制御と、アキシャル軸受28によるロータの位置制御とを併用することもできる。
【0047】
図4は、更に他の真空ポンプの横断面図である。この例は、図9に示す溝排気部(ガス排気部)Lを有する真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)で、ポンプケーシング10の内部に、外周面にねじ溝58a(図9参照)を有する回転筒状部(ロータ)58と、該回転筒状部58の周囲を包囲するねじ溝部スペーサ(ステータ)60が同心状に配置されて、溝排気部(ガス排気部)Lが構成されている。
【0048】
ここで、ねじ溝部スペーサ60は、軸方向に2分割した分割体60a,60bを該分割体60a,60bの分割面で突合せ、この突合せ面にシールを兼用する弾性体96を介在させて構成されている。そして、このねじ溝部スペーサ60とポンプケーシング10との間に、各分割体60a,60bの背部に位置してアクチュエータや圧電素子等の駆動部98が配置され、更にねじ溝部スペーサ60に回転筒状部58との距離(隙間)を検出する距離検出センサ88が配置されている。これによって、ロータの回転中に、溝排気部(ガス排気部)Lを構成する回転筒状部(ロータ)58とねじ溝部スペーサ(ステータ)60との間の距離を調整する距離調整機構が構成されている。
【0049】
つまり、この例にあっては、ねじ溝部スペーサ60と回転筒状部58との距離(隙間)を距離検出センサ88で検出し、その検出値に基づいて、駆動部98を介して、ねじ溝部スペーサ60をロータの軸心と直交する径方向に移動させて、溝排気部(ガス排気部)Lを構成する回転筒状部(ロータ)58とねじ溝部スペーサ(ステータ)60との間の距離を調整(制御)するようにしている。
なお、前述と同様に、距離検出センサを設けることなく、予め採取されたデータに基づき、熱変形部材による距離制御を行うようにしてもよく、また温度センサによる検出値に基づき、アクチュエータや圧電素子による距離制御を行うようにしてもよい。
【0050】
図5は、本発明の実施の形態の真空ポンプの縦断正面図である。この例は、図10に示す容積型真空ポンプ(ルーツ型真空ポンプ)に適用したもので、ポンプケーシング(ステータ)76は、外ケーシング76cと、この外ケーシング76cの内部にロータ74の軸心方向に移動自在に収納した内ケーシング76dとから構成されている。そして、外ケーシング76cと内ケーシング76dとの間には、モータ79側に位置して、内ケーシング76dをロータ74の軸心方向に沿って移動させるアクチュエータ等の駆動部99が配置され、更に外ケーシング76c内部の反モータ側端部には、ロータ74の主軸70の端部までの距離を検出する距離検出センサ88が取付けられている。これによって、ロータ74の回転中に、ガス排気部を構成するローブ(ロータ)72と内ケーシング(ステータ)76dとの間のロータ74の軸心方向に沿った距離を調整する距離調整機構が構成されている。
【0051】
この例によれば、ポンプの運転(ロータ回転)中に、距離検出センサ88でロータ74の主軸70の端部までの距離を検出し、この検出量に基づいて、駆動部99を介して内ケーシング76dをロータ74の軸心方向に沿って移動させ、ガス排気部を構成するローブ(ロータ)72と内ケーシング(ステータ)76dとの間のロータ74の軸心方向に沿った距離を調整(制御)することで、ポンプの排気性能や圧縮性能が最良になるようにすることができる。
【0052】
この例では、ロータの全段数に対応するステータを可動な状態としているが、ロータとステータの距離の微少な段に対応するステータのみを可動な状態にしてもよい。また、この例では、ロータの軸心方向に沿って内ケーシング(ステータ)76dを移動させるようにしているが、内ケーシングの径方向に移動できるようにしてもよい。
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲で変形可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】真空ポンプの要部を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図2】他の真空ポンプの要部を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図3】更に他の真空ポンプの要部を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図4】更に他の真空ポンプの平断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の真空ポンプの縦断面図である。
【図6】従来の真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)を示す断面図である。
【図7】図6の固定翼を示す図である。
【図8】5軸制御型磁気軸受の説明に付する図である。
【図9】従来の真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)の他の例を示す断面図である。
【図10】従来の真空ポンプ(ルーツ型真空ポンプ)を示す断面図である。
【図11】(a)は、図10のロータ断面図で、(b)は、(a)のA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 ポンプケーシング
18 主軸
20 ロータ本体
22 駆動用モータ
24 上部ラジアル軸受
26 下部ラジアル軸受
28 アキシャル軸受
30 回転翼(ロータ)
32 固定翼(ステータ)
36 回転翼(ロータ)
38 固定翼(ステータ)
46 突条部
48 螺旋状溝
54,56 ヒータ
58 回転筒状部
58a ねじ溝
60 ねじ溝部スペーサ
70 主軸(ロータ)
72 ローブ(ロータ)
74 ロータ
76 ポンプケーシング(ステータ)
76c 外ケーシング
76d 内ケーシング
79 モータ
80 浮遊体
82 円筒状部
84 フランジ部
86,98,99 駆動部
88 距離検出センサ(距離検出部)
92 熱変形部材(駆動部)
94 圧電素子(駆動部)
軸方向翼排気部(ガス排気部)
径方向翼排気部(ガス排気部)
溝排気部(ガス排気部)
R ロータ
S ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のローブを軸方向に沿って多段に配置した一対のロータを、該ローブを互いに近接させて互いに平行にポンプケーシング内に配置した真空ポンプにおいて、
前記ポンプケーシングは、前記ロータの軸方向に移動自在で、前記ローブの周囲を包囲して該ローブとの間でガス排気部を構成するケーシングを備え、
前記ローブと前記ケーシングとの間の前記ロータの軸方向に沿った距離を、前記ロータの回転中に前記ケーシングをロータの軸心方向に沿って移動させて調整する距離調整機構を有することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記距離調整機構は、前記ロータの自由端までの距離を検出する距離検出部と、この距離検出部からの信号に基づいて、前記ロータを軸心方向に沿って移動させる駆動部とを有することを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記ロータと前記ケーシングは、同一の材料、若しくは熱膨張係数のほぼ等しい材料で構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−214448(P2006−214448A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136220(P2006−136220)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【分割の表示】特願2002−16686(P2002−16686)の分割
【原出願日】平成14年1月25日(2002.1.25)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】