説明

真空二重構造体の製造方法、排気装置および真空二重構造体

【課題】製品毎の断熱性能が安定した真空二重構造体を提供する。
【解決手段】第1金属製表面材(外側部材14)に凹部16を設けるとともに、凹部16の底に排気孔17を形成し、第1金属製表面材14における凹部16が窪む方向に、凹部16の底と所定の間隔をもって対向するように第2金属製表面材(内側部材11)を配設し、第1および第2金属製表面材14,11の間の空間19を、排気孔17から排気手段(33)によって排気し、第1金属製表面材14の凹部16および第2金属製表面材11の凹部16との対向位置に電極47,49を配置し、第1金属製表面材14の凹部16の底を、第2金属製表面材11に抵抗溶接によって接合して、排気孔17を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魔法瓶に使用される真空二重瓶、電気ポットに使用される真空二重容器、電気ポットの内容器の外側に設けられる真空二重ジャケット、真空二重パイプ、断熱パネルなどの真空二重構造体の製造方法、その排気装置およびこれらによって製造した真空二重構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の金属製の真空二重構造体は、金属製の表面材であるステンレス鋼板からなる内側部材と外側部材とを接合し、これらの間の空間を真空に排気してなる。また、これら内側部材と外側部材との間の真空空間には、輻射伝熱を防止するためにアルミニウムまたは銅の箔が配設されるとともに、所望の真空度を維持するためにゲッターが配設されている。
【0003】
この真空二重構造体を製造する場合には、外側部材に排気孔を設け、この排気孔に筒状をなすチップ管を接合し、真空排気を施した後に前記チップ管を封止して、不要部分を切断する構成としている。または、外側部材に形成した排気孔の周囲にロウ材を配設するとともに、このロウ材の外側に板状をなす封止部材を配設し、真空排気を施した後に加熱によりロウ材を溶融させて、該ロウ材で封止板と外側部材とを密閉状態に封止する構成としている。
【0004】
しかしながら、前者の製造方法では、チップ管の非切断部分が外側部材から突出した状態をなすため、デザイン上の制約が大きく、使用面でも制約が生じる。また、1製品毎に50〜90mm程度の切断されたチップ管が発生するため、無駄が多い。しかも、排気孔にチップ管を接合する際に、ロウ材が必要になるうえ、洗浄工程が必要になる。
【0005】
また、後者の製造方法では、チップ管を使用しないため、デザイン上の制約や、切断したチップ管などの不要部材の発生はない。しかし、真空炉の中で真空排気を施し、引き続いてロウ材を溶融させることによる封止を行う必要があるため、生産数に拘わらず大きな製造設備が必要になるため、やはりコスト高になるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解消するものであり、その真空二重構造体に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【0007】
【特許文献1】特開平10−82591号公報
【0008】
この特許文献には、2枚の金属プレートの間に隙間が形成されるように外周部を接合し、その一方の金属プレートに、排気装置と蒸気発生装置とが接続される出入口が形成されている。そして、出入口の近傍をカシメ工具によって仮封止した状態で、前記出入口を抵抗溶接によって密閉状態に封止する構成としている。
【0009】
しかしながら、この真空二重構造体では、平面状をなす金属プレートに形成した出入口を抵抗溶接により封止するため、その出入口の周囲の変形を予測できない。そして、接合による接触面積が大きくなるように変形した場合、内外への伝熱面積が多くなるため、断熱性能が低下するという問題がある。逆に接合による接触面積が小さくなり過ぎるように変形した場合、接合強度が弱くなり、リークが発生するという問題がある。
【0010】
一方、特許文献に記載の排気装置は、真空ポンプまたは作動流体蒸気発生装置との接続パイプが排気治具に接続され、この排気治具に対して抵抗溶接電極を進退可能に配設するとともに、その電極挿入孔と電極との間を気密リングにより密閉している。そのため、耐久性は低く、気密リングによるシール性能が低下すると、真空二重構造体の真空空間の真空度が低下するという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来の問題に鑑みてなされたもので、製品毎の断熱性能が安定した真空二重構造体の製造方法を提供することを第1の課題とし、この課題を達成できる排気装置および製造した真空二重構造体を提供することを第2の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の真空二重構造体の製造方法は、第1金属製表面材に凹部を設けるとともに、該凹部の底に排気孔を形成し、前記第1金属製表面材における前記凹部が窪む方向に、該凹部の底と所定の間隔をもって対向するように第2金属製表面材を配設し、前記第1および第2金属製表面材の間の空間を、前記排気孔から排気手段によって排気し、前記第1金属製表面材の凹部および前記第2金属製表面材の凹部との対向位置に電極を配置し、前記第1金属製表面材の凹部の底を、前記第2金属製表面材に抵抗溶接によって接合して、前記排気孔を封止する構成としている。
【0013】
この製造方法は、第1金属製表面材に予め設けた凹部に排気孔を形成し、前記凹部の底を対向する第2金属製表面材に対して抵抗溶接によって接合するため、抵抗溶接による排気孔の周囲の変形領域を安定させることができる。その結果、第1および第2金属製表面材の接合に伴う伝熱可能な面積を安定させることができるため、製品毎の断熱性能を安定させることができるうえ、リークの発生を防止できる。
【0014】
この製造方法では、前記第1および第2金属製表面材は、前記凹部の底と対向する前記第2金属製表面材との間に、約1mmから1.5mmの隙間をあけて配設して、前記抵抗溶接を施すことが好ましい。このようにすれば、第1および第2金属製表面材の間の空間を確実に排気できる。また、第1金属製表面材における排気孔の周囲の変形を安定させ、第2金属製表面材との間を確実に密閉することができる。
【0015】
また、前記第1および第2金属製表面材の間の空間を前記排気手段によって約10−1Paまで排気した後に前記排気孔の封止を施し、封止後に加熱することにより前記空間内に配設したゲッターを活性化させることが好ましい。このように、抵抗溶接により排気孔を封止しているため、封止後にゲッターを活性化可能な高温に加熱しても、接合部分にリークが発生することはない。そして、このようにしてゲッターを活性化させることにより、確実に第1および第2金属製表面材の間の空間の真空度を維持することができる。
【0016】
さらに、少なくとも前記第1金属製表面材の凹部と第2金属製表面材との間に、これら金属製表面材より低温で溶融する金属箔を配設することが好ましい。このようにすれば、金属箔によって、第1金属製表面材の凹部の底と第2金属製表面材との間の密着強度を向上できる。その結果、密着性を向上するためのロウ材を使用する必要がないため、ロウ材の構造部材への取り付けや、ロウ材の濡れ性向上のために必要なフラックスの塗布などの処置が不要となり、排気孔の封止工程を大幅に簡略化することができる。
【0017】
そして、本発明の製造方法に適用する排気装置は、対向する金属製表面材の間に形成した内部空間を、一方の第1金属製表面材に他方の第2金属製表面材に向けて窪むように設けた凹部の排気孔から排気して、該排気孔を封止する真空二重構造体の排気装置であって、前記凹部を露出させる開口部を有し、前記凹部の周囲を密閉するシール部材と、前記シール部材の外側に配設され、前記開口部から該開口部の中心線と同軸で延びる第1排気部および該第1排気部から屈曲して延びる第2排気部を有する略L字形状の排気通路と、前記第1排気部と同軸で延びて該第1排気部と連通する挿通孔と、を有する排気治具と、前記排気治具の挿通孔の周囲を囲繞するように配設され、前記挿通孔の軸方向に沿って伸縮可能な伸縮部材と、前記伸縮部材における前記排気治具と反対側の端部に配設され、前記排気治具に対して進退可能に配設した可動治具と、前記可動治具に貫通して固定され、前記伸縮部材および開口部内を通して前記第1金属製表面材の凹部の底を臨む第1電極と、前記第1電極に対して前記第1および第2金属製表面材を挟んで反対側に位置するように配設した第2電極と、を備える構成としている。
【0018】
この排気装置は、第1および第2金属製表面材の間の空間の真空排気を施した後に、引き続いて、第1金属製表面材の凹部の底と第2金属製表面材との抵抗溶接を施すことができる。そして、抵抗溶接を実行するための第1電極は可動治具に接合され、排気治具との間は、伸縮部材により密閉状態を維持したまま進退可能であるため、空間の真空度を低下させることなく、確実に抵抗溶接を施すことができる。また、伸縮部材は気密リングなどのシール手段と比較して耐久性が高いため、使用可能な期間を長期化することができる。
【0019】
また、本発明の真空二重構造体は、対向する金属製表面材の間に形成した内部空間を、一方の第1金属製表面材に形成した排気孔から排気し、前記排気孔を封止してなる真空二重構造体において、前記第1金属製表面材に、他方の第2金属製表面材に向けて窪む凹部を設けるとともに、該凹部の底に前記排気孔を形成し、前記凹部に電極を配置して抵抗溶接によって前記第2金属製表面材に接合することにより、前記排気孔を封止した構成である。
【0020】
この真空二重構造体は、前記凹部を、第1金属製表面材における曲面状をなす外周部に設けたものである。
【0021】
また、前記第1および第2金属製表面材は、少なくとも一端を開口した筒状をなし、その開口端を互いに接合したもので、その接合部分の近傍に前記凹部を設けることが好ましい。このようにすれば、中間部分での余計な放熱を低減できるため、断熱性能の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の真空二重構造体の製造方法および該方法により製造した真空二重構造体は、排気孔を有する凹部の底を対向する第2金属製表面材に対して抵抗溶接によって接合するため、排気孔の周囲の変形領域を安定させることができる。その結果、製品毎の断熱性能を安定させることができるうえ、リークの発生を防止できる。
【0023】
また、この製造方法を実施可能とする排気装置は、抵抗溶接を実行するための第1電極が可動治具に接合され、排気治具との間は、伸縮部材により密閉状態を維持したまま進退可能であるため、空間の真空度を低下させることなく、確実に抵抗溶接を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る排気装置30を用いた製造方法により製造した真空二重構造体である真空二重ジャケット10を装着した電気ポット1を示す。まず、この電気ポット1は、本体2の内部に内容器3を収容固定し、内容器3の底にヒータ4を取り付けて湯沸かし制御および保温制御を実行するものである。内容器3の底にはポンプ5が配設され、このポンプ5から本体2の注口6まで揚水管7が配管されている。また、本体2の上端には蓋体8がヒンジ9により開閉可能に取り付けられ、内容器3の上端開口部から上方への放熱を防止している。そして、本体2と内容器3の間には、本発明に係る円筒状の真空二重ジャケット10が配設され、内容器3の胴部から側方への放熱を防止している。
【0026】
本実施形態の真空二重ジャケット10は、図2(A)および図3に示すように、円筒状の表面材である外側部材(第1金属製表面材)14と内側部材(第2金属製表面材)11とからなり、首部の無い円筒形状をなしている。
【0027】
まず、内側部材11は、上下の端部12A,12Bが中央部13よりも拡径されたものである。外側部材14は、内側部材11と同じ長さを有するとともに、内側部材11の端部12A,12Bの外径よりやや大きい内径を有している。この外側部材14の外面には、内側から外側へ押し広げることで、周方向に環状に延びる補強用の突起15が長手方向に沿って複数箇所に形成されている。また、図2(B)に示すように、外側部材14の下側の開口端近傍には、内向きに窪む凹部16が設けられ、この凹部16の底の中心に排気孔17が形成されている。
【0028】
具体的には、外側部材14には、上端近傍から下端近傍にかけて突起15が等間隔で設けられている。但し、最下端の突起15Aと下側から2番目の突起15Bとは、1つの突起15を形成する間隔分あけて形成されている。そして、この外側部材14において、曲面状をなすように湾曲した外周部である非突起形成部18に、内側部材11に向けて約5mmの直径の円形状をなすように窪む凹部16が設けられている。そして、この凹部16の底の中心に、約1mmの直径の円形状をなす排気孔17が設けられている。
【0029】
前記内側部材11と外側部材14とは、外側部材14の内側に内側部材11が挿入され、それぞれの開口端がシーム溶接により接合されている。そして、排気孔17は、内側部材11と外側部材14との接合部分である開口端の近傍に位置され、凹部16の底を対向する内側部材11にスポット溶接によって接合することにより、封止されている。ここで、シーム溶接とは、円板形状をなす一対の電極を備え、これら電極の間に接合対象部分を配置し、所定電圧を印加することにより、金属材料を連続的に抵抗溶接するものである。また、スポット溶接とは、少なくとも一方が棒状をなす一対の電極を備え、これら電極の間に接合対象部分を配置し、所定電圧を印加することにより、金属材料を部分的に抵抗溶接するものである。
【0030】
また、図2(A),(B)に示すように、内側部材11と外側部材14との間に形成される空間19には、金属箔20と図示しないゲッターとが配設されている。金属箔20は銅やアルミニウムからなり、内側部材11の中央部13の外面に巻き付けるように配設することにより、輻射伝熱を防止するものである。ゲッターは、内側部材11と金属箔20との間に挟み込むように巻き付けるもので、空間19内で発生したガスを吸着することにより所望の真空度を維持するものである。
【0031】
次に、前記構成からなる真空二重ジャケット10の製造方法を説明する。
【0032】
まず、第1金属製表面材である外側部材14は、図4(A)に示すように、ステンレス鋼板を円筒状に巻いて、長手方向に沿って突き合わせた端縁をTIG(Tungsten Inert Gas)溶接によって接合する。ここで、このTIG溶接とは、非消耗のタングステンを電極として用いて溶接するものである。
【0033】
ついで、横(径)方向からの負荷に対する補強を施すために、図4(B)に示すように、内側から外向きに膨出するようにビード加工を施す。この際、一端の近傍に非突起形成部18が形成されるように環状をなす突起15,15A,15Bを長手方向に所定間隔をもって複数形成する。
【0034】
その後、図4(C)に示すように、非突起形成部18にエンボス加工を施すことにより凹部16を形成するとともに、打抜加工を施して排気孔17を形成する。この際、凹部16は、外側部材14の内部に内側部材11を配設した状態で、該内側部材11との間に約1mmから約1.5mmの隙間(図6(B)参照)が形成される深さ(本実施形態では隙間を約3mmとするため、約1.5mm〜約2.0mm)で形成する。ここで、凹部16と内側部材11との隙間が1mmより小さくなると、間に金属箔20が介在することも1つの要因となるが、排気効率が悪くなるためである。また、隙間が1.5mmより大きくなると、凹部16の底と内側部材11とをスポット溶接によって接合する際の接合状態(接触面積)が安定しないためである。そして、接合状態での接触面積を確実に安定させるには、隙間を約1mmに形成することが好ましい。なお、図示では、外側部材14においてTIG溶接を施した位置に凹部16および排気孔17を形成する構成としているが、その位置は限定されるものではない。
【0035】
また、第2金属製表面材である内側部材11は、図5(A)に示すように、ステンレス鋼板を外側部材14の内径より空間19を形成する寸法分小さい外径の円筒状に巻いて、長手方向に沿って突き合わせた端縁をTIG溶接によって接合する。
【0036】
ついで、図5(B)に示すように、開口した上下両方の端部12A,12Bにフレア拡管加工を施して、端部12A,12Bの外径を外側部材14の内径より僅かに小さくなるように拡管する。その後、図5(C)に示すように、内側部材11の中央部13にゲッターを配置した状態で金属箔20を巻き付ける。
【0037】
次に、内側部材11を外側部材14において凹部16が窪む方向である内側に挿入し、これらの開口端が揃うように位置決めし、この状態で、内側部材11と外側部材14の開口端をシーム溶接により接合する。
【0038】
ついで、図6(A)に示すように、外側部材14に形成した凹部16に排気装置30の排気治具33を配置するとともに、外側部材14および内側部材11を挟んで対向するように内側部材11に下側の電極を配置して、空間19を真空排気した後、排気孔17を封止する。
【0039】
なお、この封止前の二重構造体は、図6(B)に示すように、外側部材14と内側部材11の中央部13との間において、突部と凹部16を除く部分には、予め設定した隙間(約3mm)が形成されている。また、外側部材14の凹部16の底と内側部材11の中央部13との間には、同様に予め設定した約1mmの隙間が形成されている。さらに、内側部材11の中央部13と、凹部16を含む外側部材14との間には、金属箔20が介在している。
【0040】
この状態で、ゲッターが活性化しない温度または常温の雰囲気下で排気装置30を動作させ、空間19内を約1×10−1Paまで真空排気を行う。そして、目標の真空度に達すると排気孔17を封止する。その後、複数の真空二重ジャケット10を纏めて加熱炉に配置し、ゲッターが活性化する高温(約600℃)で加熱する。
【0041】
ここで、従来のチップ管や封止板を用いた封止方法の場合、これらの接合のためにロウ材を使用する必要がある。そのため、ゲッターを封止後に加熱して活性化させる場合、ロウ材が溶融する温度(約220℃)より高い温度で加熱することはできない。その結果、使用するゲッターに大きな制限が生じていた。
【0042】
しかし、本実施形態では、外側部材14に形成した排気孔17を抵抗溶接によって接合するため、高温で加熱してもリークの問題が生じることはない。その結果、使用可能なゲッターの制限をなくし、設計の自由度を向上できる。そして、このように、適切なゲッターを希望に応じて選択することにより、外側部材14と内側部材11との間の空間19の真空度を確実に維持することができる。
【0043】
次に、空間19を真空排気した後に、引き続いて排気孔17の封止を行う前記排気装置30について具体的に説明する。
【0044】
まず、この排気装置30は、図示しない枠体に配設されている。この枠体には、外側部材14の外周部を位置決め保持する図示しない保持装置が配設されている。そして、本実施形態の排気装置30は、図7(A),(B)に示すように、大略、シール部材31と、排気治具33と、伸縮部材41と、可動治具45と、第1スポット電極47と、第2スポット電極49とを備えた構成をなす。
【0045】
前記シール部材31はゴム製であり、外側部材14の非突起形成部18の外径より若干小さい内径を有する円弧状をなす長方形状のものである。このシール部材31の中央には、外側部材14の凹部16を露出させる開口部32が形成され、この開口部32を除く領域で外側部材14の外面との間を密閉状態にシールするものである。
【0046】
前記排気治具33は、記シール部材31の外側に密閉状態で配設されるステンレス製のものである。この排気治具33には、真空ポンプ34に接続する排気通路35が形成されている。この排気通路35は、シール部材31の開口部32に連通する第1排気部36と、該第1排気部36に対して屈曲状態で連通する第2排気部37とを有する略L字形状のものである。第1排気部36は、シール部材31の開口部32から該開口部32の中心線と同軸、言い換えれば、固定した外側容器の軸心と開口部32の中心とを結ぶ径方向外側に向けた直線に沿って延びる断面円形状のものである。第2排気部37は、シール部材31の開口部32の中心線に対して直交する方向に延びる断面円形状のものである。この第2排気部37の開口端には、真空ポンプ34に接続する接続パイプ38が接続されている。また、排気治具33には、第1排気部36と同軸かつ同一直径で延びる挿通孔39が設けられている。この挿通孔39は、後述する第1スポット電極47が進退可能に配設されるもので、第1排気部36とで連続した1つの孔をなし、該第1排気部36を介して凹部16および排気孔17を臨むように構成している。また、この挿通孔39の内径は、外側部材14の凹部16の内径より大きく形成されている。さらに、排気治具33において、第1排気部36と反対側の端部には、径方向外向きに突出する固定フランジ部40が設けられている。
【0047】
前記伸縮部材41は、蛇腹形状をなす円筒状のものである。この伸縮部材41は、肉厚が約0.1mmのステンレスからなり、軸方向に沿って所定圧力を負荷すると軸方向に収縮し、その負荷を解除することにより自身の弾性力によって原状に復元(伸張)する。この伸縮部材41の両端には、前記排気治具33および後述する可動治具45に密閉状態で固定するための固定治具42A,42Bが配設されている。これら固定治具42A,42Bは、排気治具33の固定フランジ部40と同一直径をなすステンレス製の円板からなり、その一面の中央部には、伸縮部材41の端部を密閉状態で固定する固定凸部43が設けられている。また、固定治具42A,42Bの中央には、挿通孔39より大径の貫通孔44が設けられている。そして、伸縮部材41は、固定治具42Aを介して排気治具33に密閉状態でネジ止めして固定することにより、挿通孔39の周囲を囲繞し、この挿通孔39の軸方向に沿って伸縮可能に配設される。
【0048】
前記可動治具45は、固定治具42Bに密閉状態でネジ止めして固定されることにより、伸縮部材41における排気治具33と反対側の端部に配設されるステンレス製の円板からなる。この可動治具45には、油圧または空気圧によるシリンダなどからなる図示しない駆動手段により排気治具33に向けて進出可能に構成されている。この可動治具45には、排気孔17と同軸に位置するように装着孔46が設けられている。
【0049】
前記第1スポット電極47は、可動治具45の装着孔46を貫通させてロウ付けにより密閉状態に固定(接合)されるものである。この第1スポット電極47は、その先端の印加部48が外側部材14の凹部16より僅かに小さい断面直径をなすように構成されている。これにより、第1スポット電極47は、伸縮部材41、挿通孔39および開口部32を通して外側部材14の凹部16の底を臨むように配設され、可動治具45を排気治具33に向けて進出させることにより、印加部48が凹部16の外周部にガイドされながら該凹部16内に位置するように構成している。
【0050】
前記第2スポット電極49は、第1スポット電極47に対して外側部材14および内側部材11を挟んで反対側である内側部材11内に、内側部材11の開口端から挿入して配置されるものである。この第2スポット電極49には、内側部材11の内径に沿う円弧面50が形成されている。
【0051】
このように構成した排気装置30は、保持装置によって筒状をなす二重構造体を所定位置に位置決め保持した状態で、図7(A)に示すように、排気治具33および第2スポット電極49で外側部材14および内側部材11を挟み込むように配置する。この際、可動治具45は、駆動手段によって後退した状態とすることにより、第1スポット電極47は、挿通孔39より僅かに小さい本体部分が挿通孔39内に位置し、第1排気部36より直径が小さい印加部48のみが該第1排気部36内に位置した状態をなす。
【0052】
この状態で、真空ポンプ34を動作させることにより、内側部材11と外側部材14との間の空間19を真空排気する。そして、空間19内が所定の真空度に達すると、真空ポンプ34による排気は弱めるが排気動作は継続したまま、図7(B)に示すように、駆動手段を動作させて可動治具45を介して第1スポット電極47を進出させ、印加部48の先端を凹部16の底に位置させる。
【0053】
そして、駆動手段によって可動治具45を介して第1スポット電極47で凹部16を押圧しながら、第1および第2スポット電極47,49間に電圧を印加することにより、図2(B)に示すように、凹部16の底を内側部材11へ向けて変形させ、金属箔20を介在させた状態で接合(抵抗溶接)し、排気孔17を封止する。
【0054】
この際、前記のように外側部材14の凹部16と内側部材11とを金属箔20を介して抵抗溶接するため、外側部材14と内側部材11との間には接合のためのロウ材を使用することなく、外側部材14の凹部16と内側部材11との密着強度を高めることができる。そのため、ロウ材の構造部材への取り付けや、ロウ材の濡れ性向上のために必要なフラックスの塗布などの処置が不要となり、排気孔17の封止工程を大幅に簡略化することができる。
【0055】
このようにして排気孔17の封止が完了すると、真空ポンプ34を停止するとともに、駆動手段によって可動治具45を介して第1スポット電極47を後退させる。
【0056】
このように、本発明の製造方法によって製造される真空二重ジャケット10は、外側部材14に予め設けた凹部16に排気孔17を形成し、この凹部16の底を対向する内側部材11に対して抵抗溶接によって接合するため、抵抗溶接による排気孔17の周囲の変形領域を安定させることができる。その結果、接合に伴う伝熱可能な面積を安定させることができるため、製品毎の断熱性能を安定させることができるうえ、リークの発生を防止できる。また、凹部16は、外側部材14および内側部材11の接合部分の近傍に設けているため、中間部分での余計な放熱を低減でき、その結果、断熱性能の低下を抑制できる。
【0057】
また、この製造方法を実行する排気装置30は、抵抗溶接を実行するための第1スポット電極47を可動治具45に接合し、排気治具33との間は、伸縮部材41により密閉状態を維持したまま進退可能としているため、空間19の真空度を低下させることなく、確実に抵抗溶接を施すことができる。また、伸縮部材41は気密リングなどのシール手段と比較して耐久性が高いため、使用可能な期間を長期化することができる。
【0058】
なお、本発明の真空二重構造体の製造方法およびその排気装置30は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0059】
特に、これらの製造方法および排気装置30によって製造する真空二重構造体は、真空二重ジャケット10に限られず、魔法瓶に使用される真空二重瓶、電気ポット1の内容器3として使用される真空二重容器、真空二重パイプ、断熱パネル等にも適用することができるものである。また、表面材は、内側部材11および外側部材14のような別体に限られず、平坦な外形をなす前記断熱パネルなどでは、1枚の板材を折り曲げて対向する表面材を構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る方法および装置により製造した真空二重構造体である真空二重ジャケットを装着した電気ポットの一部破断側面図である。
【図2】(A)は図1に示す真空二重ジャケットの一部破断正面図、(B)は(A)の部分拡大断面図である。
【図3】封止前の真空二重ジャケットを示す分解斜視図である。
【図4】(A),(B),(C)は外側部材の製造方法を示す正面図である。
【図5】(A),(B),(C)は内側部材の製造方法を示す正面図である。
【図6】(A)ジャケットに排気装置を配置した状態を示す一部破断正面図、(B)は封止前の外側部材と内側部材の状態を示す部分断面図である。
【図7】(A),(B)は排気装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10…真空二重ジャケット(真空二重構造体)
11…内側部材(第2金属製表面材)
14…外側部材(第1金属製表面材)
16…凹部
17…排気孔
18…非突起形成部
19…空間
20…金属箔
30…排気装置
31…シール部材
32…開口部
33…排気治具(排気手段)
34…真空ポンプ
35…排気通路
36…第1排気部
37…第2排気部
38…接続パイプ
39…挿通孔
41…伸縮部材
45…可動治具
47…第1スポット電極
49…第2スポット電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属製表面材に凹部を設けるとともに、該凹部の底に排気孔を形成し、
前記第1金属製表面材における前記凹部が窪む方向に、該凹部の底と所定の間隔をもって対向するように第2金属製表面材を配設し、
前記第1および第2金属製表面材の間の空間を、前記排気孔から排気手段によって排気し、
前記第1金属製表面材の凹部および前記第2金属製表面材の凹部との対向位置に電極を配置し、前記第1金属製表面材の凹部の底を、前記第2金属製表面材に抵抗溶接によって接合して、前記排気孔を封止することを特徴とする真空二重構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第1および第2金属製表面材は、前記凹部の底と対向する前記第2金属製表面材との間に、約1mmから1.5mmの隙間をあけて配設して、前記抵抗溶接を施すことを特徴とする請求項1に記載の真空二重構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第1および第2金属製表面材の間の空間を前記排気手段によって約10−1Paまで排気した後に前記排気孔の封止を施し、封止後に加熱することにより前記空間内に配設したゲッターを活性化させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空二重構造体の製造方法。
【請求項4】
少なくとも前記第1金属製表面材の凹部と第2金属製表面材との間に、これら金属製表面材より低温で溶融する金属箔を配設することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の真空二重構造体の製造方法。
【請求項5】
対向する金属製表面材の間に形成した内部空間を、一方の第1金属製表面材に他方の第2金属製表面材に向けて窪むように設けた凹部の排気孔から排気して、該排気孔を封止する真空二重構造体の排気装置であって、
前記凹部を露出させる開口部を有し、前記凹部の周囲を密閉するシール部材と、
前記シール部材の外側に配設され、前記開口部から該開口部の中心線と同軸で延びる第1排気部および該第1排気部から屈曲して延びる第2排気部を有する略L字形状の排気通路と、前記第1排気部と同軸で延びて該第1排気部と連通する挿通孔と、を有する排気治具と、
前記排気治具の挿通孔の周囲を囲繞するように配設され、前記挿通孔の軸方向に沿って伸縮可能な伸縮部材と、
前記伸縮部材における前記排気治具と反対側の端部に配設され、前記排気治具に対して進退可能に配設した可動治具と、
前記可動治具に貫通して固定され、前記伸縮部材および開口部内を通して前記第1金属製表面材の凹部の底を臨む第1電極と、
前記第1電極に対して前記第1および第2金属製表面材を挟んで反対側に位置するように配設した第2電極と、
を備えることを特徴とする真空二重構造体の排気装置。
【請求項6】
対向する金属製表面材の間に形成した内部空間を、一方の第1金属製表面材に形成した排気孔から排気し、前記排気孔を封止してなる真空二重構造体において、
前記第1金属製表面材に、他方の第2金属製表面材に向けて窪む凹部を設けるとともに、該凹部の底に前記排気孔を形成し、
前記凹部に電極を配置して抵抗溶接によって前記第2金属製表面材に接合することにより、前記排気孔を封止したことを特徴とする真空二重構造体。
【請求項7】
前記凹部を、第1金属製表面材における曲面状をなす外周部に設けたことを特徴とする請求項6に記載の真空二重構造体。
【請求項8】
前記第1および第2金属製表面材は、少なくとも一端を開口した筒状をなし、その開口端を互いに接合したもので、その接合部分の近傍に前記凹部を設けたことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の真空二重構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−144910(P2008−144910A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334725(P2006−334725)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000002473)象印マホービン株式会社 (440)
【Fターム(参考)】