説明

真空処理装置及び真空処理方法

【課題】 被処理物が正しい処理位置にあるかどうかを高い信頼性でもって検知することのできる真空処理装置及び真空処理方法を提供する。
【解決手段】 被処理物によって閉塞可能な開口部を有する処理室と、前記被処理物を、前記開口部を閉塞する位置と、前記開口部から離間された位置との間で移動させるアクチュエータと、前記処理室内に放電を生じさせる電力を供給する電源と、前記放電の電気特性に基づいて前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にあるかどうかを判定する制御装置と、を備えたことを特徴とする真空処理装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空処理装置及び真空処理方法に関し、詳しくは、被処理物自体が処理室の壁の一部として機能した状態で被処理物に真空処理が行われる真空処理装置及び真空処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばディスク状記録媒体のような被処理物を1枚ずつ連続的に真空処理する装置として、特許文献1に開示されたものがある。この装置は、処理室の底に開口部が形成され、その開口部を閉塞するように被処理物がセットされて、被処理物において上記開口部から処理室内に臨む部分にスパッタ成膜等の真空処理が行われる。
【0003】
このような構成の装置において、例えば被処理物の搬送ミスなどにより被処理物が上記開口部を閉塞する位置に正しくセットされなかった場合に、そのままスパッタ処理が行われると、開口部を介して処理室に連設する搬送室内に成膜物質が飛び散り、搬送室及びそこに設置された部品が汚染されてしまう。これを防ぐには、被処理物が上記開口部を閉塞する正しい処理位置にあるかどうかを検知する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献2には、発光素子と受光素子とを備える光学的センサを用いて、被処理物が正しい処理位置にあるかどうかを検知することが開示されている。
【0005】
しかし、光学的センサを用いた場合には、そのセンサの設置箇所によってはセンサにスパッタされた物質が付着してセンサの感度が変化したり、あるいは、被処理物に膜が形成されている場合と形成されていない場合とでセンサの感度が変化してしまい、被処理物の検出信頼性が低下する場合がある。また、被処理物の種類やサイズに応じてセンサの種類や設置箇所を適切に選定する必要があり、さらに搬送機構等の動作の妨げにならない箇所に設置しなければならない等の制約もあり、センサ設置に関しての様々な調整が面倒である。
【0006】
また、被処理物に対して非接触の光学的センサを使う以外にも、被処理物に対して接触するマイクロスイッチ等のセンサを用いることも考えられるが、スパッタ成膜時の熱で被処理物が変形する場合があり、高い検出信頼性を得るのは難しい。さらに、熱影響等でセンサの使用寿命が短くなる問題もある。
【特許文献1】特開2000−64042号公報
【特許文献2】特開平11−140643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、被処理物が正しい処理位置にあるかどうかを高い信頼性でもって検知することのできる真空処理装置及び真空処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、
被処理物によって閉塞可能な開口部を有する処理室と、
前記被処理物を、前記開口部を閉塞する位置と、前記開口部から離間された位置との間で移動させるアクチュエータと、
前記処理室内に放電を生じさせる電力を供給する電源と、
前記放電の電気特性に基づいて前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にあるかどうかを判定する制御装置と、
を備えたことを特徴とする真空処理装置が提供される。
【0009】
また、本発明の他の一態様によれば、
被処理物によって閉塞可能な開口部を有する処理室内に放電を生じさせて、前記被処理物の前記処理室内に臨む部分に前記放電下で処理を行う真空処理方法であって、
前記放電の電気特性に基づいて前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にあるかどうかを判定することを特徴とする真空処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被処理物が正しい処理位置にない場合における不所望の処理を確実に防ぐことができ、装置の汚染や製造歩留まり低下を防げる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる真空処理装置の構成を例示する模式断面図である。
すなわち、第1の実施形態は、本発明を例えば枚葉式マグネトロンスパッタ装置に適用した実施形態である。この第1の実施形態に係る真空処理装置1は、図1に示すように、主として、処理室2と、搬送室3と、被処理物10を処理室2に移動させるアクチュエータ16などを有する搬送機構と、処理室2内に放電を生じさせる電力を供給する電源5と、制御装置4と、ガス導入管7などを有するガス導入機構と、を備える。
【0013】
処理室2は略円筒状の気密容器の内部に形成され、搬送室3は処理室2の内径よりも大きな略円筒状の気密容器の内部に形成される。処理室2は搬送室3の上部に偏心して配置されている。処理室2の底及びこの底の下側に位置する搬送室3の上壁には開口部17が形成され、この開口部17を通じて処理室2と搬送室3とは連通可能となっている。
【0014】
処理室2の上壁内面には、成膜物質からなるディスク状のターゲット18が図示しないバッキングプレート等を介して固定されている。ターゲット18の中心部からはセンターマスク19が下方に延在しており、その下端部は開口部17に位置している。処理室2の上壁外面には磁石装置20が設けられている。磁石装置20は、モータ21により、ターゲット18の中心軸まわりに回転され、ターゲット18のスパッタされる面に回転磁界を与えスパッタによるターゲット18の侵食が面内で均一になるようにする。
【0015】
搬送室3の中央には、底壁を貫通して垂直に延在する回転軸23が設けられ、この回転軸23の下端は、搬送室3の外部下面に固定されたモータ24と連結されている。回転軸23の上端には回転搬送部25が固定されている。回転搬送部25には複数の円形開口が形成され、各円形開口には、リング状のサセプタ26が嵌合支持されている。
【0016】
搬送室3の底壁の下方には、回転軸23を挟んで位置するアクチュエータ16、27が配設されている。各アクチュエータ16、27は、例えばエアシリンダ装置であり、それぞれ、搬送室3の底壁を貫通して搬送室3内で上下に往復運動するロッド14、28を備えている。一方のアクチュエータ16は処理室2の下方に位置し、他方のアクチュエータ27はロードロック用開口部22の下方に位置している。ロードロック用開口部22は、搬送室3の上壁において搬送室3の中心に対して処理室2の開口部17の反対側の位置に形成されている。ロードロック用開口部22は、搬送室3の外部に設置された外部搬送機構36の水平アーム37の両端に固定された真空蓋38a、38bの一方により気密に閉塞される。アクチュエータ16、27はエアシリンダ装置に限らず、油圧シリンダ装置、あるいはモータによってロッド14、28が上下動する構成であってもよい。
【0017】
電源5は例えば直流電源であり、電力供給線15を介してターゲット18に電力を供給する。処理室2の壁部にはガス導入口33が形成され、このガス導入口33に接続されたガス導入管7を介して、例えばアルゴン(Ar)ガス等の放電ガスが処理室2内に導入される。なお、放電ガスとしては、アルゴン以外に、酸素、窒素などのガスを用いてもよい。処理室2内への放電ガスの導入量は、ガス導入管7の途中に設けられたバルブ8を介してマスフローコントローラ6で制御することにより調整される。
【0018】
制御装置4は、例えばマイクロプロセッサを含む回路装置であり、マスフローコントローラ6や電源5の動作を制御する。さらに、制御装置4は、処理室2内に生じた放電の電圧を監視しており、記憶装置9に予め格納された設定値を読み出して比較し、後述するように被処理物10が処理位置に正しく配置されているかどうかの判定を行う。記憶装置9は、例えば半導体メモリ、ハードディスク装置等である。
【0019】
次に、上記真空処理装置1を用いた真空処理について説明する。本実施形態では、例えば被処理物10は光ディスクや光磁気ディスク等のディスク状記録媒体の樹脂製基板であり、この基板に記録層や反射膜等の各種成膜を行う。被処理物10の直径は、例えば120[mm]である。
【0020】
被処理物10は、外部搬送機構36により搬送室3内に搬入される。具体的には、水平アーム37の真空蓋38a、38bの一方がその下面に被処理物10を保持した状態でロードロック用開口部22の上に移動され、そのロードロック用開口部22を気密に閉塞する。このとき、搬送室3内部においてはアクチュエータ27のロッド28が上昇され、その先端部に取り付けられたプッシャ35によりサセプタ26(被処理物10を載置していない)が持ち上げられてロードロック用開口部22の下側縁部に密着されている。この状態で、例えば真空蓋38aに保持された被処理物10はサセプタ26上に移される。その後、ロッド28は下降して、被処理物10を載置したサセプタ26は、回転搬送部25に形成された円形開口に嵌合支持される。なお、搬送室3は、図示しない真空排気系により真空排気され減圧下にある。
【0021】
次に、モータ24により回転軸23が回転され、これにより回転搬送部25が水平面内で回転されて、ロードロック用開口部22に対向する位置にあるサセプタ26及びこれに支持された被処理物10は、処理室2の開口部17に対向する位置に移動される。
【0022】
そして、アクチュエータ16のロッド14が上昇され、プッシャ34の上面に設けられた突起部34aが被処理物10の円形の中央孔に嵌り込み、これにより被処理物10はプッシャ34上にセンタリングされた状態で略水平に支持されてサセプタ26から持ち上げられる。そして、ロッド14のさらなる上昇により、図2に表したように、突起部34aがセンターマスク19の漏斗状の下端部に嵌合すると共に、被処理物10の上側の外周面が、開口部17に嵌合された外周マスク29の下面に密着する。これにより、開口部17は被処理物10によって閉塞されて、処理室2が気密空間とされる。
【0023】
その状態では、図示しない真空排気系により、搬送室3及び排気通路40を介して処理室2内は減圧される。なお、排気通路40を介して減圧する代わりに、処理室2に真空排気系を付設して排気可能としてもよい。
処理室2内には、放電ガスとして例えばアルゴンガスがガス導入管7及びガス導入口33を介して導入されている。ガス流量は、例えば20〜40[sccm]である。開口部17が被処理物10により閉塞された後、処理室2内の圧力が所望の圧力(例えば、0.5〜1[Pa])に安定したところで、電源5をオンさせ、ターゲット18に電力を供給する。この電力の供給により、ターゲット18をカソード、処理室2の壁部をアノードとする放電が生じ、アルゴンガスが電離して処理室2内にプラズマが生起され、加速されたアルゴンイオンによってターゲット18がスパッタされる。ターゲット18の材質は、例えばAg、Alなどである。また、ターゲット18の直径は、例えば180〜200[mm]である。
【0024】
スパッタされたターゲット18の構成原子は、処理室2側に向けられた被処理物10の一方の面において、センターマスク19及び外周マスク29によって覆われていない部分に付着堆積され、被処理物10にターゲット材料の膜が形成される。
【0025】
以上説明した成膜処理が終了すると、ロッド14が下降され、被処理物10はサセプタ26上に戻される。次いで、回転搬送部25が回転され、処理を終えた被処理物10はロードロック用開口部22に対向する位置にサセプタ26ごと回転移動される。そして、ロッド28が上昇され、プッシャ35によりサセプタ26は被処理物10を載置した状態で持ち上げられてロードロック用開口部22の下側縁部に密着され、被処理物10は水平アーム37の真空蓋38a、38bの一方の下面に移される。水平アーム37は真空蓋38a、38bの一方の下面に処理済みの被処理物10を保持し、他方の下面に処理前の被処理物10を保持した状態で水平面内で回転され、これにより、処理済みの被処理物10が搬送室3の外部に搬出されると共に、処理前の被処理物10がロードロック用開口部22に臨む位置に移動される。ロードロック用開口部22に臨む位置に移動された処理前の被処理物10に対しては上述と同様の動作及び処理が行われる。以上のことが繰り返され、被処理物10は1枚ずつ次々と成膜処理される。
【0026】
上述したスパッタ成膜処理中において、被処理物10によって処理室2の開口部17が閉塞されている場合(図2)には正常放電(グロー放電)が生ずる。
図6は、正常放電が生ずる場合の放電電圧のタイムチャートの一例を表す。同図において、縦軸は放電電圧を、横軸は時間を示す。図6には、続けて行われる例えば4回分のスパッタ処理における放電電圧を例示した。図1に示す電源5からは定電力(例えば、3〜6[kW])が供給され、各回の処理を通じて放電電圧は例えば650Vと一定である。なお、ここでの放電電圧は、負電圧であり、本願明細書においては、便宜上、電圧の極性は省略してその絶対値に基づいて説明する。
【0027】
これに対して、搬送室3内やロードロック部における被処理物10の搬送中に被処理物10が落下する等の搬送ミスが起きることがある。
図3は、搬送ミスなどが生じた場合の処理室2の状態を例示する模式図である。
すなわち、プッシャ34に被処理物10が支持されない状態でロッド14が上昇してプッシャ34がセンターマスク19に嵌合してしまうと、図3に示すように処理室2の開口部17は被処理物10によって閉塞されない。
【0028】
この状態では、処理室2内の放電ガスが開口部17を通じて搬送室3に漏れ出すことになり、処理室2内のガス圧力は正常処理(図2に例示したように、被処理物10によって開口部17が閉塞された状態でのスパッタ処理)時より低下する。放電空間のガス圧力によって放電中のインピーダンスは変化することから、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にない場合の放電電圧は、正常処理時から変化する。したがって、放電電圧を監視すれば、被処理物10が処理室2の開口部17を閉塞する位置にあるかどうかがわかる。
【0029】
図4は、放電電圧に異常が生じる場合を例示するタイムチャートである。
同図に示すように、例えば3回目のスパッタ処理の際に、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にセットされなかったとすると、処理室2の圧力は所定値よりも低くなり、このときの放電電圧は例えば800Vとなる。これは、被処理物10が開口部17を閉塞した状態での正常処理のときの放電電圧650Vより大きく、このことから、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にあるかどうかを判定できる。
【0030】
具体的には、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にある場合の正常処理時の放電電圧(例えば650V)を設定値として、予め図1に示す記憶装置9に格納しておく。そして、制御装置4は、各スパッタ処理ごとに放電電圧を例えば電力供給線15より検出して、その検出した放電電圧を、記憶装置9から読み出した設定値と比較し、例えば検出された放電電圧が800Vであったら、今、被処理物10は開口部17を閉塞しておらず、正しい処理位置にないと判定する。
あるいは、正常な状態で放電中の放電電圧等の電気特性値をサンプルホールドし、そのホールド値を基準に被処理物10の有無を判定してもよい。
【0031】
なお、放電電圧の検出は、電力が印加される電極としても機能するターゲット18から検出してもよい。その他、放電電圧を検出できる箇所であれば電力供給線15に限ることはない。
【0032】
以上のように本実施形態によれば、定電力下における放電電圧の変化が処理室2内の圧力と関連することを利用して、被処理物10が正しい処理位置にあるかどうかを判定しており、別途光学的センサや接触式センサを設ける必要がない。この結果、部品点数の増大を抑え、さらにそれらセンサの設置に際しての調整が不要となり手間のかかる工数の増加も抑えることができる。また、センサ感度の変化によって被処理物10の有無を誤って判定してしまうことがなく信頼性が高い。よって、誤って装置を一時的に停止させてしまうことも防げる。以上のことからコスト低減及び生産性向上が図れる。
【0033】
なお、例えばピラニ真空計などにより処理室2内の圧力変化を直接検出することも考えられるが、被処理物10が開口部17を閉塞する場合と閉塞しない場合とでは処理室2内の圧力変化は比較的小さく、信頼性ある精度良い判定は難しい。
【0034】
また、被処理物10によって開口部17が閉塞されている状態において、処理室2内の部品損傷や、被処理物10の品質不良などの原因となる異常放電(アーク放電)が生じた場合には、図7に示すように、そのときの放電電圧は正常処理時の650Vよりも大幅に低下する。被処理物10が開口部17を閉塞しない場合の放電電圧は上述したように例えば800Vであり、これは正常処理時の放電電圧(例えば650V)より大きく、したがって被処理物10が開口部17を閉塞しない場合の放電電圧は、異常放電(アーク放電)の放電電圧より大きいことになり、その異常放電とはっきり区別できる。すなわち、異常放電との混同の心配がない。なお、処理室2内に放電が生じていない場合には、ターゲット18への印加電圧は例えば1350Vとなる。
【0035】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、上記第1の実施形態と同じ構成部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0036】
本実施形態では、図1に例示したような真空処理装置において、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にないと判定されると、放電のみを停止させ、その他一連の動作は、次に搬送されてくる被処理物10に対するスパッタ処理に備えて継続させる。
図5は、本実施形態における処理シーケンスを例示するタイムチャートである。
例えば、3回目に800Vの放電電圧が検出されて、「被処理物10が開口部17を閉塞する位置にない」と制御装置4が判定すると、この制御装置4からの制御信号に基づいて直ちに電源5からの電力供給が停止される。被処理物10が開口部17を閉塞している正常処理時には、1回(1枚の)のスパッタ処理あたり、650Vの放電電圧が例えば1.2秒間持続されるのに対して、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にないと判定された場合には、放電開始からの800Vの放電電圧の持続時間は例えば0.1秒である。
【0037】
このように、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にないと判定された場合には直ちに放電を停止させるので、搬送室3内の汚染を最小限にとどめることができ、この結果装置メンテナンスの周期を長くでき、装置稼働率を向上できる。よって、生産性を高めることができる。
【0038】
また、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にないと判定されても、放電以外のその他一連の処理、例えば処理室2内に導入される放電ガスの導入量制御は停止せずに継続させるものとすれば、次の処理(図5の例では4回目)のときに、単に電源5をオンする操作のみでそのまますぐにスパッタ成膜処理を行える。すなわち、処理室2内が所望のガス雰囲気に安定するのを必要以上に待たずに、図5の例では、先の放電開始時と次の放電開始時との間の時間間隔を一定(例えば2秒)に維持した状態で、次々と処理を行っていくことができる。これによって、全体の処理時間が長引くのを防いで、生産性を高めることができる。
【0039】
電源5より供給される電力は直流に限らず交流であってもよい。交流の場合には放電電圧のピーク値によって被処理物10の有無を判定できる。また、放電電圧に限らず、放電電流、放電インピーダンス、放電出力などの他の電気特性に基づいて被処理物10の有無を判定してもよい。
【0040】
表1は、被処理物10が開口部17を閉塞する位置に有る場合と、無い場合とにおける、放電電圧、放電電流、放電インピーダンス、放電出力の各値の一例を表す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1のデータを得たときの各種条件は以下の通りである。ターゲット18の材質はAgであり、直径は150[mm]、厚さは30[mm]。放電ガスはアルゴンを用いた。放電ガス流量は50[sccm]に設定した。放電時の処理室2内圧力(被処理物10による開口部17閉塞時に到達する圧力)は11.4[Pa]に設定した。電源5の設定電力(直流定電力)は、1kW、3kW、5kWの3通りを設定した。
【0043】
表1中、「Δ|a−b|」は、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にある場合の放電電圧aと、無い場合の放電電圧bとの差(絶対値)を表す。同様に、「Δ|c−d|」は、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にある場合の放電電流cと、無い場合の放電電流dとの差(絶対値)を表し、「Δ|e−f|」は、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にある場合の放電インピーダンスeと、無い場合の放電インピーダンスfとの差(絶対値)を表し、「Δ|g−h|」は、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にある場合の放電出力gと、無い場合の放電出力hとの差(絶対値)を表す。
【0044】
放電電圧の「変化率」は、「Δ|a−b|」/aを表す。同様に、放電電流の「変化率」は、「Δ|c−d|」/cを表し、放電インピーダンスの「変化率」は、「Δ|e−f|」/eを表し、放電出力の「変化率」は、「Δ|g−h|」/gを表す。
【0045】
上記条件にて放電が行われた1秒の間、放電電圧a、b、放電電流c、dをそれぞれ10個測定し、これらに基づいて放電インピーダンスe、f、放電出力g、hをそれぞれ10個求めた。表1中に示される各数値は10個の値の平均値である。
【0046】
図8〜10は、表1のデータをグラフに表したものである。
図8において、横軸は設定電力を、縦軸は放電電圧を表す。
図9において、横軸は設定電力を、縦軸は放電電流を表す。
図10において、横軸は設定電力を、縦軸は放電インピーダンスを表す。
各図において、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にある場合のデータは「菱形のポイント」で表され、被処理物10が開口部17を閉塞する位置にない場合のデータは、「四角いポイント」で表される。
【0047】
表1、図8〜10から明らかなように、正常時(被処理物10が開口部17を閉塞する位置に有る時)の各パラメータ(放電電圧a、放電電流c、放電インピーダンスe)を基準にして、この基準からの各パラメータの変化に基づいて、被処理物10が開口部17を閉塞する位置に無いことを判定できる。
【0048】
放電電圧の場合、例えば、「Δ|a−b|」が80[V]以上であること、または「変化率」が20[%]以上であることから被処理物10が開口部17を閉塞する位置にないと判定できる。放電電流の場合には、例えば、「Δ|c−d|」が0.5[A]以上であること、または「変化率」が20[%]以上であることから被処理物10が開口部17を閉塞する位置にないと判定できる。放電インピーダンスの場合には、例えば、「Δ|e−f|」が60[Ω]以上であること、または「変化率」が50[%]以上であることから被処理物10が開口部17を閉塞する位置にないと判定できる。
【0049】
また、上述した例では定電力型電源を用いたため、放電出力は被処理物の有無に関係なくほぼ一定となり、被処理物の有無によってほとんど変化しない。しかし、ターゲットの材質によっては定電流型電源を使用する場合があり、この場合には被処理物の有無によって放電出力は、はっきりと違いがわかる程度の変化をするので、放電出力も被処理物の有無判定のパラメータとして用いることが可能である。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0051】
本発明は、放電ガス以外にも反応性ガスを用いた反応性スパッタにも適用可能である。また、スパッタ成膜に限らず、スパッタエッチングを行うものにも適用可能である。その他、放電を伴う処理、例えばラジカルによる反応性エッチング、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、表面改質などの処理を行うものにも適用可能である。
【0052】
被処理物10は、ディスク状記録媒体用の樹脂製基板に限らず、例えば、半導体ウェーハ、液晶用ガラス基板等であってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、開口部17は被処理物10のみによって閉塞されるとしたが、被処理物10を支持するトレイやサセプタによっても開口部17の一部が閉塞される構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る真空処理装置の概略図である。
【図2】図1に示す装置の要部拡大図であり、被処理物によって処理室の開口部が閉塞された状態を示す。
【図3】図2において被処理物が支持されない状態でロッドが処理室に向けて上昇してしまい処理室の開口部が被処理物で閉塞されない状態を示す図である。
【図4】正常放電時に、被処理物が処理室の開口部を閉塞する位置にある場合とない場合とにおける放電電圧の違いを示すタイムチャートである。
【図5】被処理物が処理室の開口部を閉塞する位置にないことが検出された場合に直ちに放電を停止させる実施形態を示す放電電圧のタイムチャートである。
【図6】正常放電時に、被処理物が処理室の開口部を閉塞する位置にある場合の放電電圧のタイムチャートである。
【図7】アーク放電が生じた場合の放電電圧のタイムチャートである。
【図8】被処理物が処理室の開口部を閉塞する位置に有る場合と無い場合のそれぞれにおいて、電源の設定電力と放電電圧との関係の一例を示すグラフである。
【図9】被処理物が処理室の開口部を閉塞する位置に有る場合と無い場合のそれぞれにおいて、電源の設定電力と放電電流との関係の一例を示すグラフである。
【図10】被処理物が処理室の開口部を閉塞する位置に有る場合と無い場合のそれぞれにおいて、電源の設定電力と放電インピーダンスとの関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1 真空処理装置
2 処理室
3 搬送室
4 制御装置
5 電源
6 マスフローコントローラ
7 放電ガス導入管
9 記憶装置
10 被処理物
15 電力供給線
16 アクチュエータ
17 処理室の開口部
18 ターゲット
19 センターマスク
29 外周マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物によって閉塞可能な開口部を有する処理室と、
前記被処理物を、前記開口部を閉塞する位置と、前記開口部から離間された位置との間で移動させるアクチュエータと、
前記処理室内に放電を生じさせる電力を供給する電源と、
前記放電の電気特性に基づいて前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にあるかどうかを判定する制御装置と、
を備えたことを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記制御装置は、放電電圧を監視し、この放電電圧が、前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にある状態の放電電圧よりも大きい場合に、前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にないと判定することを特徴とする請求項1記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にないと判定した時には、前記放電を生じさせる電力の前記電源からの供給を停止させることを特徴とする請求項1または2に記載の真空処理装置。
【請求項4】
被処理物によって閉塞可能な開口部を有する処理室内に放電を生じさせて、前記被処理物の前記処理室内に臨む部分に前記放電下で処理を行う真空処理方法であって、
前記放電の電気特性に基づいて前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にあるかどうかを判定することを特徴とする真空処理方法。
【請求項5】
前記被処理物が前記開口部を閉塞する位置にないと判定すると、前記放電を停止させることを特徴とする請求項4記載の真空処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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