説明

真空吸着装置

【課題】 耐久性に優れ、吸着面の平坦度が良好で、しかも製造が容易な真空吸着装置を提供する。
【解決手段】 真空吸着装置10は、半導体ウエハWを吸着保持するための、セラミックス/ガラス複合多孔体からなる載置部11および該載置部11の外周に設けられたセラミックス/ガラス複合多孔体からなる環状載置部12と、載置部11と環状載置部12との間に形成された中間ガラス部13と、載置部11の気孔に連通する吸引孔15を備え、載置部11および環状載置部12を支持する支持部14と、を具備する。載置部11と支持部14との間、環状載置部12と支持部14との間、載置部11と中間ガラス部13との間、環状載置部12と中間ガラス部13との間をそれぞれ、実質的に隙間なく各部が直接に接合された構造となした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体ウエハやガラス基板等を吸着保持する真空吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体装置の製造工程においては、半導体ウエハを搬送、加工、検査する場合に、真空吸引力を利用した真空吸着装置が広く用いられている。このような真空吸着装置としては、吸着面に開口した複数の貫通孔を有するものが一般的であったが、この場合には貫通孔のみが吸着作用を示すために、吸着面内の吸着力が不均一となりやすく、これによって半導体ウエハの加工精度が低下する等の問題を生じていた。
【0003】
そこで、半導体ウエハのより均一な吸着を行うために、多孔質な載置部を有する真空吸着装置が検討されている。例えば、特許文献1には、図6の垂直断面図に示すように、多孔質な吸着部材91と、吸着部材91を支持する支持部材92と、から構成された真空吸着装置90が開示されている。支持部材92は、吸着部材91を囲うように配置され、多孔質な隔壁部92bと、吸引孔93が形成され、吸着部材91と隔壁部92bを支持する緻密質セラミックスからなる支持部92aと、を有している。
【0004】
ここで、吸着部材91と支持部92aとの間、吸着部材91と隔壁部92bとの間、および隔壁部92bと支持部92aとの間はそれぞれ、ガラスまたは樹脂接着剤によって接着されている。なお、図6においては、ガラスまたは樹脂接着剤による接着層を符号94で示している。
【0005】
しかしながら、真空吸着装置90では、吸着部材91の支持部92aへの固定に接着剤等を用いているために、この接着剤等が吸着部材91の内部に浸透して接着剤の厚みが不均一になり、接着強度にばらつきが生じ易い。このため、実使用を重ねると、接着強度の弱い部分で剥離が生じ、吸着部材91が浮き上がってしまうという問題が生ずる。また真空吸着装置90の吸着面(表面)を平坦にする加工を行う際には、このような接着層に厚みのばらつきがあると、平坦度を高めることが困難になる。さらに吸着部材91と隔壁部92bとの間を接着剤等で均一な接着力で接着するためには、吸着部材91と隔壁部92bに高い寸法精度が要求されるため、生産性がよいものではない。
【特許文献1】特開平6−8086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、耐久性に優れ、吸着面の平坦度が良好で、しかも製造が容易な真空吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、被吸着体を吸着保持するための、セラミックス/ガラス複合多孔体からなる載置部および当該載置部の外周に設けられたセラミックス/ガラス複合多孔体からなる環状載置部と、
前記載置部と前記環状載置部との間に形成された中間ガラス部と、
前記載置部の気孔に連通する吸引孔を備え、前記載置部および前記環状載置部を支持する支持部と、
を具備し、
前記載置部と前記支持部との間、前記環状載置部と前記支持部との間、前記載置部と前記中間ガラス部との間、前記環状載置部と前記中間ガラス部との間はそれぞれ、実質的に隙間なく各部が直接に接合された構造となっていることを特徴とする真空吸着装置、が提供される。
【0008】
この真空吸着装置は、略緻密質セラミックスからなる器状の支持部を作製する工程と、所定のセラミックス粉末と第1のガラスの粉末とを含む第1のスラリーを調製する工程と、作製した第1のスラリーを支持部に充填し、第1のガラスの軟化点以上の温度で焼成して、セラミックス/ガラス複合多孔体を形成する工程と、形成されたセラミックス/ガラス複合多孔体の外周部または支持部の内周部を除去して載置部を形成する工程と、この載置部の外周側面に第1のガラスよりも軟化点の低い第2のガラスの粉末を含むガラスペーストを塗布し、第2のガラスの軟化点以上の温度で焼成して、中間ガラス部を形成する工程と、所定のセラミックス粉末と第2のガラスよりも軟化点の低い第3のガラスの粉末とを含む第2のスラリーを調製する工程と、載置部と支持部の内壁との隙間にこの第2のスラリーを充填し、第3のガラスの軟化点以上の温度で焼成して、セラミックス/ガラス複合多孔体からなる環状載置部を形成する工程と、を経て製造されたものであることが好ましい。ここで、ガラスペーストの焼成温度は第1のガラスの軟化点よりも低い温度とし、また、第2のスラリーに由来する成形部の焼成温度は第2のガラスの軟化点よりも低い温度とすることが、好ましい。
【0009】
載置部と環状載置部の開気孔率はともに20%〜50%の範囲にあり、載置部の平均気孔径は10μm〜150μmの範囲にあり、環状載置部の平均気孔径は載置部の平均気孔径の5%〜60%の範囲にあることが好ましく、さらに、環状載置部の開気孔率は載置部の開気孔率よりも小さいことが好ましい。これにより、吸着性能、吸着面の面精度、構造部材としての機械的強度等でバランスの取れた特性が得られるようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の真空吸着装置では、載置部、環状載置部、支持部、中間ガラス部のうち、隣接する各部が実質的に隙間なく直接に接合されているために、各部間の接合強度のばらつきが少なく、しかも接合強度を高めることができる。これにより高い耐久性が得られる。また、真空吸着装置を構成する各部が実質的に隙間なく直接に接合されているために、真空吸着装置の吸着面を平坦化処理する際の平坦度の追い込みが容易となる。こうして吸着面の平坦度が高められることにより、被吸着体を均一に吸着することができる。特に被吸着体が薄い板材の場合には、その板材の平坦度を良好に維持することができるので、その板材から製造される製品の品質を高めることができる。さらに、スラリーを用いて載置部と環状載置部を形成する製造方法を用いると、寸法精度の高い部品を準備する必要がないので、生産性を高め、生産コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。ここでは、被吸着体として半導体ウエハを取り上げ、この半導体ウエハを吸着保持する真空吸着装置について説明することとする。
【0012】
図1は真空吸着装置10の水平断面図であり、図2は図1中の線AAを含む垂直断面図である。真空吸着装置10は、円板状の載置部11と、載置部11の外周を囲うように設けられた環状載置部12と、載置部11と環状載置部12との間に形成された中間ガラス部13と、載置部11および環状載置部12を支持する器状の支持部14と、を備えている。図1および図2に示すように、半導体ウエハWは、載置部11全体と環状載置部12の内側を覆うようにして、真空吸着装置10に吸着保持される。
【0013】
載置部11はセラミックス/ガラス複合多孔体からなる。つまり、載置部11は、所定のセラミックス(例えば、アルミナ、炭化珪素等)と第1のガラスから構成され、連通する気孔(つまり、開気孔)を有する多孔質組織を有している。中間ガラス部13は第2のガラスからなる多孔質層である。環状載置部12は別のセラミックス/ガラス複合多孔体からなる。つまり、環状載置部12は、アルミナや炭化珪素等の所定のセラミックスと第3のガラスから構成された多孔質組織を有している。
【0014】
載置部11と中間ガラス部13と環状載置部12にそれぞれ用いられる第1〜第3のガラスはそれぞれ異なる軟化点を有している。これは、後述する真空吸着装置10の製造方法から明らかなように、載置部11、中間ガラス部13、環状載置部12の順番で逐次焼成を行うために、先に形成された部に含まれるガラスが後の焼成により軟化、溶融することがないようにするためである。例えば、第1のガラスとしては軟化点が1000℃近傍のアルミノ珪酸塩系ガラスを、第2のガラスとしては、軟化点が900℃近傍のホウ珪酸系ガラスを、第3のガラスとしては軟化点が800℃近傍のホウ珪酸系ガラスを、それぞれ選定することができる。
【0015】
載置部11と支持部14との間、環状載置部12と支持部14との間、載置部11と中間ガラス部13との間、環状載置部12と中間ガラス部13との間はそれぞれ、実質的に隙間なく各部が直接に接合された構造となっている。「実質的に隙間なく各部が直接に接合された構造」とは、各部の界面が直接に接して接合された状態をいう。例えば、載置部11を構成する第1のガラスが焼成により軟化して支持部14の表面(支持部14に形成された凹部底面)に融着し、載置部11が支持部14と実質的に隙間なく直接に接合された構造が実現される。
【0016】
このように真空吸着装置10では、各部間に高い密着性と強く均一な接着性を得ることができるため、各部の接合界面における剥離の発生と、剥離による吸気漏れの発生を抑制することができ、半導体ウエハWの吸着保持性能を長時間にわたり、高く維持することができる。
【0017】
また真空吸着装置10では、このように載置部11と支持部14、環状載置部12と支持部14がそれぞれ実質的に隙間なく直接に接合されているので、真空吸着装置10の吸着面の平坦度を所定の値(例えば、1μm未満)に絞り込む研削、研磨加工において、吸着面の平坦度を高めることが容易となる。これにより、半導体ウエハWを吸着保持した際の半導体ウエハWの平坦度を高めることができる。
【0018】
載置部11の開気孔率は20%以上50%以下であることが好ましく、かつ、その平均気孔径は10μm以上150μm以下であることが好ましい。載置部11の開気孔率をこのような範囲とする理由は、載置部11を構成する多孔体の開気孔率を調整するには、多孔体の構成原料であるセラミックス粉末およびガラス粉末の充填率を調整する必要があるが、20%未満または50%超の開気孔率が得られるようにセラミックス粉末およびガラス粉末を、後述する載置部11の形成方法に示されるように、焼成収縮や変形を起こすことのないように充填することは困難だからである。また、前記範囲内であれば、圧損が大きくなって、十分な吸着力を得ることが困難となったり、十分な機械的強度を得ることができなかったり、吸着面の平坦性が低下したりすることはない。また、平均気孔径を前記範囲とするのは、平均気孔径が10μm未満では圧損が大きくなって吸着力が弱くなるおそれがあり、逆に150μm超では吸着面の面精度(吸着面の平坦度と気孔に起因する微小凹凸の形態)が悪化するおそれがあるからである。
【0019】
環状載置部12の開気孔率は20%以上50%以下であることが好ましく、かつ、その平均気孔径は載置部11の平均気孔径の5%以上60%以下であることが好ましい。載置部11と同様に開気孔率を20%未満、50%超とすることは困難であり、また、このような範囲内であれば、載置部11との間に段差が生じたり、吸着面において半導体ウエハWが接していない領域から吸気漏れが発生したりすることを、抑制することができる。平均気孔径が載置部11の平均気孔径の5%未満では載置部11との間に段差が生じるおそれがある。一方、平均気孔径が載置部11の平均気孔径の60%超では、環状載置部12からの吸気漏れが多くなるおそれがある。このように、真空吸着装置10において、環状載置部12を設けることの重要さは、吸着面の平坦化処理における加工精度を高めること、および吸気漏れを抑制して均一に吸着させることにより半導体ウエハWの平坦度を高めることにある。
【0020】
上述の通りに、載置部11と環状載置部12にはそれぞれ好ましい平均気孔径の範囲があるが、このような条件を満足すること前提として、環状載置部12の平均気孔径は載置部11の平均気孔径よりも小さいことが好ましく、さらに、環状載置部12の開気孔率は載置部11の開気孔率よりも小さいことがより好ましい。これにより、環状載置部12からの吸気漏れの発生を抑制する効果を高めることができる。
【0021】
ただし、載置部11の開気孔率と環状載置部12の開気孔率が大きく異なると、機械的強度の差が大きくなるために、真空吸着装置10の吸着面を平坦化する処理の際に、載置部11と環状載置部12との間に段差が生じやすくなり、これによって半導体ウエハWを吸着保持した際の半導体ウエハWの平坦度が悪化し、また、吸着面と半導体ウエハWとの間に隙間が空いて、吸気漏れが発生するおそれがある。したがって、環状載置部12の開気孔率と載置部11の開気孔率の差は、両部間に段差が生じない範囲に調整する必要がある。
【0022】
中間ガラス部13は、載置部11の側面における吸気漏れをなくし、半導体ウエハWを均一に吸着することにより、その平坦度を高めることを目的として設けられる。しかしながら、実質的に中間ガラス部13により完全に吸気漏れをなくすことは困難である。何故なら、中間ガラス部13を厚くすると、載置部11の側面からの吸気漏れを抑えることはできるが、中間ガラス部13の研削・研磨性が載置部11および環状載置部12と異なるために、吸着面の平坦化処理の際に段差が生じて平坦度が低下し、これによって半導体ウエハWの平坦度が低下し、また、吸着面と半導体ウエハWとの間に隙間が生じて吸気漏れが発生するおそれがあるからである。逆に、中間ガラス部13を薄くしすぎると、吸着面の平坦度を高めることはできるが、載置部11の側面を封止できず、載置部11の側面からの吸気漏れが多くなるために、半導体ウエハWを均一に吸着することが困難となるからである。したがって、中間ガラス部13は、載置部11の側面からの吸気漏れが多くならないように、かつ、吸着面の平坦度が高められるように、その厚みを設定することが好ましく、具体的には、0.3mm〜3.0mmの範囲とすることが好ましい。
【0023】
支持部14は、好ましくはアルミナ、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニアから選ばれたセラミックスから構成される。支持部14は、実質的に開気孔を有しておらず、かつ、真空吸着装置10を所定の場所に設置して使用するために必要な機械的強度が確保されるように、緻密質である。
【0024】
この支持部14の底板には複数の吸引孔15が鉛直に形成されており、各吸引孔15は載置部11が有する開気孔と連通している。そこで、支持部14の吸引孔15に真空ポンプ等の吸引装置を取り付けて吸引を行うと、吸引孔15に連通する載置部11の開気孔および中間ガラス部13を介して載置部11の開気孔に連通する環状載置部12の開気孔を通して、載置部11および環状載置部12の表面全体に吸引力が発生し、これにより半導体ウエハWを吸着保持することができる。
【0025】
真空吸着装置10において半導体ウエハWを吸着保持する吸着面は、製造工程の最終段階において、載置部11の表面と環状載置部12の表面と支持部14の外周部の上面とを同時に研削、研磨加工することにより形成される。この平坦化処理では、支持部14は緻密質で研削・研磨抵抗が高いが、載置部11および環状載置部12は多孔質で支持部14より研削・研磨抵抗が小さいために、載置部11および環状載置部12が削られやすくなる。しかし、上記の通りに載置部11と環状載置部12の開気孔率や平均気孔径を調整し、さらに載置部11と環状載置部12がそれぞれ支持部14と実質的に隙間なく直接に接合された構造とすることにより、各部間に段差が生ずることを防止し、平坦度の良好な吸着面を形成することができる。
【0026】
本発明に係る真空吸着装置は、真空吸着装置10のように、その平面形状が円形のものに限定されるものではなく、吸着保持する被吸着体の形状に応じた変形が可能である。例えば、真空吸着装置の平面形状は略四角形であってもよい。
【0027】
次に、真空吸着装置10の製造方法について説明する。最初に、支持部14となる器状のセラミック部材を作製する。例えば、アルミナ等のセラミックス粉末に所定量のバインダを加えて造粒処理し、これを一軸プレス成形し、さらにCIP成形して、円板状のプレス成形体を作製する。続いて、このプレス成形体を器状に加工し、さらに最終的に吸引孔15となる貫通孔を内底の所定位置に形成する。こうして得られた加工体を、必要に応じて脱脂処理した後、所定の雰囲気、温度、時間で焼成することにより、支持部14となる器状のセラミック部材を得ることができる。続いて、こうして作製した支持部14の吸引孔15に、後に説明するように支持部14に第1のスラリーを充填することができるように、樹脂等の焼失材料を充填する。なお、支持部14の作製にあたっては、プレス成形体を仮焼し、得られた仮焼体を器状に加工し、さらに貫通孔を形成する加工を施し、その後に焼成処理を行ってもよい。
【0028】
続いて、載置部11を形成するための第1のスラリーを調製する。この第1のスラリーは、セラミックス粉末(好ましくは、アルミナ粉末または炭化珪素粉末)および第1のガラスの粉末に、水またはアルコール等の溶剤を加えて、ボールミル、ミキサー等の公知の方法を用いて混合することにより、作製することができる。なお、水またはアルコール等の添加量は、特に限定されるものではないが、セラミックス粉末の粒度、第1のガラスの粉末の添加量を考慮して、適切な流動性が得られるように、調節することが好ましい。
【0029】
載置部11の開気孔率と平均気孔径の調節は、基本的に、原料粉末であるセラミックス粉末の粒度分布を調整することによって行うことができる。また、セラミックス粉末と第1のガラスの粉末の配合比率を変えること、第1のスラリーの粘度を変えること、第1のスラリーの支持部14への充填率を変えること、粒子状樹脂、繊維状樹脂、カーボン粉末等の焼失材を添加すること等によっても、載置部11の開気孔率と平均気孔径を制御することができる。
【0030】
載置部11の開気孔率を20%〜50%とし、平均気孔径を10μm〜150μmとするためには、セラミックス粉末として平均粒径が20μm〜500μm以下のものを用い、第1のガラスの粉末としては、その平均粒子径がこのセラミックス粉末の平均粒径よりも小さいものを用いることが好ましい。具体的には、第1のガラスの粉末の平均粒径は、セラミックス粉末の平均粒径の1/3以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。これは、第1のガラスの粉末の平均粒径がセラミックス粉末よりも大きいと、セラミックス粉末の充填が阻害されて、後のガラス軟化点以上での焼成時に焼成収縮を起こしてしまうからであり、この場合、焼成により形成される多孔体にクラックが発生し、均一な組織の多孔体を得ることができなくなる。
【0031】
また、セラミックス粉末に対して添加する第1のガラスの粉末の量は、使用するセラミックス粉末の粒径(粒度分布)や焼成温度におけるガラスの粘性等を考慮して定められるが、多過ぎるとセラミックス粉末の充填が阻害されて焼成収縮が生じ、逆に少な過ぎるとセラミックス粉末の結合強度が低下し、脱粒や欠け等が生ずる。このため、ガラス粉末の量は、所望の結合強度、平均気孔径が得られる範囲においてできるだけ少ないことが好ましく、具体的には、概ね、セラミックス粉末100質量部に対して5〜30質量部とすることが好ましい。
【0032】
さらに第1のガラスとしては、その熱膨張係数が、載置部11のもう一方の構成成分であるセラミックス材料の熱膨張係数より小さいものを用いることが好ましい。これにより、焼成段階で支持部14の表面(界面)と実質的に隙間なく直接に接合される載置部11を形成することが容易となり、また、載置部11において結合材としての役割を有するガラスに圧縮応力が加わった状態を作り出すことができる。ガラスは一般的に引張強度に弱いために、ガラスに圧縮応力が加わった状態とすることにより、載置部11の強度が高められ、研削加工時の脱粒や欠け等の発生を抑制することができる。
【0033】
こうして作製した第1のスラリーを支持部14(つまり、器状のセラミック部材)に充填する。このとき必要に応じて、第1のスラリー中の残留気泡を除去するための真空脱泡処理や充填率を高めるための振動を加えるとよい。支持部14に充填された第1のスラリーを十分に乾燥した後、第1のガラスの軟化点以上の温度で焼成することにより、多孔体が形成される。このときの焼成温度が第1のガラスの軟化点より低いと、支持部14と多孔体を十分に一体化することができないが、反対に焼成温度が高過ぎると変形や収縮が生じるために、軟化点以上のできるだけ低い温度で焼成することが望ましい。
【0034】
次いで、支持部14に形成された多孔体の外周部分または支持部14の内周部分を機械加工して除去することにより、載置部11が形成される。続いて、こうして形成された載置部11の側面に第1のガラスよりも軟化点の低い第2のガラスの粉末を含有するガラスペーストを、例えば、焼成後の厚さが0.3mm〜3.0mmとなるように塗布し、乾燥させ、第2のガラスの軟化点以上の温度で、好ましくはさらに第1のガラスの軟化点未満の温度で、焼成する。これにより載置部11に焼成収縮や変形が生ずることを防止しつつ、載置部11との密着性が高い中間ガラス部13を形成することができる。
【0035】
中間ガラス部13の形成後には、中間ガラス部13と支持部14との間には環状溝が残っている状態となるので、以下に説明する、アルミナ粉末等のセラミックス粉末および第2のガラスよりも軟化点の低い第3のガラスの粉末を含む第2のスラリーをこの環状溝に充填し、第3のガラスの軟化点以上の温度で、好ましくはさらに第2のガラスの軟化点未満の温度で、焼成する。こうして、載置部11の変形や収縮、支持部14の内壁面および中間ガラス部13と密着性が高い環状載置部12を形成することができる。なお、中間ガラス部13を形成しておくことにより、第2のスラリーを前記環状溝に充填した際に第2のスラリーが載置部11へ吸収されることが抑制される。
【0036】
この第2のスラリーは、第1のスラリーと同様に、セラミックス粉末と第3のガラスの粉末に水またはアルコール等の溶剤を加えて、ボールミル等の公知の方法により混合することにより作製することができる。開気孔率が20%〜50%で、平均気孔径が載置部11の平均気孔径の5%〜60%の環状載置部12を形成するためには、セラミックス粉末として平均粒径が10μm〜100μmのものを用いることが好ましい。
【0037】
第3のガラスの粉末としては、その平均粒子径がこのセラミックス粉末の平均粒径よりも小さいもの、具体的にはセラミックス粉末の平均粒径の1/3以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。また第3のガラスの粉末の添加量は、セラミックス粉末100質量部に対して、5〜30質量部とすることが好ましい。環状載置部12を構成するセラミックス材料に対して第3のガラスに要求される熱膨張性等の性質は、載置部11の場合と同様である。
【0038】
こうして環状載置部12が形成されたら、その表面(つまり、載置部11の上面、環状載置部12の上面、支持部14の外周の上面)を、平坦度が最終的に例えば1μm以下となるように、研削、研磨処理する。これにより真空吸着装置10が得られる。
【0039】
上述した真空吸着装置10の製造方法は、支持部14に第1のスラリーを流し込む前に、最終的に環状載置部12が形成される部分に樹脂を充填しておく(例えば、樹脂リングを配置する)ことにより、第1のスラリーに由来する多孔体の外周部の除去加工を不要とする製造方法に変更することができる。
【実施例】
【0040】
(実施例1〜7および比較例1,2)
実施例1〜7、比較例1,2に係る真空吸着装置として、図1,2に示した構造を有するものを、上述した第1,第2のスラリー等を用いた製造方法にしたがって作製した。支持部14は緻密質アルミナからなり外径:φ250mm、高さ(厚さ):50mm、深さ:40mmの形状を有し、その熱膨張係数は8.0×10-6/℃である。また、この支持部14の当初の内径はφ200mmであるが、第1のスラリーを充填、焼成した後にその内周部を切削除去することにより、最終的にその内径をφ210mmとした。
【0041】
実施例1〜7および比較例1,2に係る各真空吸着装置を製造するための第1のスラリーおよび第2のスラリーにそれぞれ使用したアルミナ粉末、ガラス粉末、水の配合比、ならびにアルミナ粉末とガラス粉末の平均粒径は、表1に示す通りである。各種の第1のスラリーの作製に用いた各種の第1のガラスの粉末について、その平均粒径は表1の通りであるが、アルミノ珪酸ガラスであること、熱膨張係数は45×10-7/℃であること、その軟化点は950℃であること、は共通である。また、各種の第2のスラリーの作製に用いた各種の第3のガラスの粉末について、その平均粒径は表1の通りであるが、ホウ珪酸ガラスであること、その熱膨張係数は40×10-7/℃であること、その軟化点は750℃であること、は共通である。中間ガラス部13を形成するためのガラスペーストには、平均粒径が5.0μmで、軟化点が830℃のホウ珪酸系ガラス粉末が含まれている。第1のスラリー注型後の焼成は1000℃で、ガラスペーストの焼成は900℃で、第2のスラリー注型後の焼成は800℃で、それぞれ行い、その後に吸着面の平坦度を1μm未満とすべく、研削、研磨加工を行った。
【0042】
(比較例3)
比較例3に係る真空吸着装置として、図3に示す構造のものを作製した。この比較例3に係る真空吸着装置20は、外径:250mm、内径:φ190mm、高さ(厚さ):50mm、深さ:40mmの形状を有する器状の略緻密質なアルミナ製の支持部21に、実施例3に係る真空吸着装置の作製に用いた第1のスラリーと同じスラリーを充填、乾燥、焼成して載置部22を形成し、得られた焼成体の表面を研削、研磨加工して、作製されたものである。したがって、載置部22と支持部21とは、実質的に隙間なく直接に接合されている。なお、図3に示す符号23は吸引口である。
【0043】
(比較例4)
比較例4に係る真空吸着装置として、図4に示す構造のものを作製した。この図4に示す真空吸着装置30は、支持部14と、表1に示す平均気孔径および開気孔率を有する市販のアルミナ多孔体を円板状に加工した載置部31と、表1に示す平均気孔径および開気孔率を有する市販のアルミナ多孔体をリング状に加工した環状載置部32とを、ガラスペーストを用いて接着(つまり、ガラスペーストを塗布、焼成して接着)し、その後に吸着面の研削、研磨処理を行うことにより作製されたものである。なお、図4において、符号33がガラス接着部33を示しているが、実際のガラス接着部33は、例えば、数μm〜数十μm程度の薄い層である。
【0044】
(比較例5)
比較例5に係る真空吸着装置として、図5に示す構造を有するものを作製した。この図5に示す真空吸着装置40は、表1に示す平均気孔径および開気孔率を有する市販のアルミナ多孔体を円板状に加工した載置部41を、比較例3の作製に用いた支持部と同じ支持部21に、ガラスペーストを用いて接着し、その後に吸着面の研削、研磨処理を行うことにより作製されたものである。なお、図5において、符号43がガラス接着部を示しているが、実際のガラス接着部43は、例えば、数μm〜数十μm程度の薄い層である。
【0045】
(評価方法)
作製した各真空吸着装置の吸着面の平坦度は真直度測定装置により測定した。また、各真空吸着装置について、アスピレータを用いて0.05MPaの吸引圧でφ200mmの半導体ウエハを吸着保持し、そのときの半導体ウエハの平坦度を真直度測定装置により測定し、その平坦度が1μm未満の場合を合格とした。スラリーを用いて載置部、環状載置部を作製した真空吸着装置(実施例1〜7、比較例1,2)については、半導体ウエハの平坦度を測定した後に、真空吸着装置を破壊し、載置部や環状載置部の破片を用いて、アルキメデス法により開気孔率を、水銀圧入法により平均気孔径を求めた。
【0046】
(評価結果)
評価結果を表1に併記する。実施例1〜7では、真空吸着装置の吸着面の平坦度を1μm未満とする平坦化処理加工を容易に行うことができ、また吸着保持時の半導体ウエハの平坦度も1μm未満に抑えることができた。また載置部と環状載置部の平均気孔径が同等である実施例3〜5を比べると、環状載置部の開気孔率が小さい実施例5における半導体ウエハの平坦度が最も優れていた。これに対して、比較例1,2では、吸着面の平坦度は1μm未満とすることができたが、半導体ウエハの平坦度が1μm以上となった。これは環状載置部の平均気孔径が大きいことから吸気漏れが大きくなり、均一に半導体ウエハを吸着することができなかったためと思われる。また比較例3では、環状載置部が形成されていないため載置部と支持部との研削量の相違により段差が生じ、吸着面の平坦度を1μm未満とすることはできなかった。さらに比較例4,5では、支持部と載置部等とがガラスペーストによって接着されているために、吸着面の平坦度を1μm未満とする加工が困難であり、その結果、半導体ウエハを吸着保持した際の平坦度も悪かった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の真空吸着装置は、例えば、半導体ウエハやガラス基板等の搬送装置、加工装置、検査装置等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る真空吸着装置の水平断面図。
【図2】図1中に示す線AAを含む垂直断面図。
【図3】比較例に係る真空吸着装置の垂直断面図。
【図4】比較例に係る別の真空吸着装置を示す断面図。
【図5】比較例に係るさらに別の真空吸着装置を示す断面図。
【図6】従来の真空吸着装置を示す垂直断面図。
【符号の説明】
【0050】
10;真空吸着装置
11;載置部
12;環状載置部
13;中間ガラス部
14;支持部
15;吸引孔
20;真空吸着装置
21;支持部
22;載置部
23;吸引孔
30;真空吸着装置
31;載置部
32;環状載置部
33;ガラス接着部
40;真空吸着装置
41;載置部
43;ガラス接着部
90;真空吸着装置
91;吸着部材
92;支持部材
92a;支持部
92b;隔壁部
93;吸引孔
94;接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を吸着保持するための、セラミックス/ガラス複合多孔体からなる載置部および当該載置部の外周に設けられたセラミックス/ガラス複合多孔体からなる環状載置部と、
前記載置部と前記環状載置部との間に形成された中間ガラス部と、
前記載置部の気孔に連通する吸引孔を備え、前記載置部および前記環状載置部を支持する支持部と、
を具備し、
前記載置部と前記支持部との間、前記環状載置部と前記支持部との間、前記載置部と前記中間ガラス部との間、前記環状載置部と前記中間ガラス部との間はそれぞれ、実質的に隙間なく各部が直接に接合された構造となっていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項2】
略緻密質セラミックスからなる器状の前記支持部を作製する工程と、
所定のセラミックス粉末と第1のガラスの粉末とを含む第1のスラリーを調製する工程と、
前記第1のスラリーを前記支持部に充填し、前記第1のガラスの軟化点以上の温度で焼成して、セラミックス/ガラス複合多孔体を形成する工程と、
前記セラミックス/ガラス複合多孔体の外周部または前記支持部の内周部を除去して前記載置部を形成する工程と、
前記載置部の外周側面に前記第1のガラスよりも軟化点の低い第2のガラスの粉末を含むガラスペーストを塗布し、前記第2のガラスの軟化点以上の温度で焼成して、前記中間ガラス部を形成する工程と、
所定のセラミックス粉末と前記第2のガラスよりも軟化点の低い第3のガラスの粉末とを含む第2のスラリーを調製する工程と、
前記載置部と前記支持部の内壁との隙間に前記第2のスラリーを充填し、前記第3のガラスの軟化点以上の温度で焼成して、セラミックス/ガラス複合多孔体からなる前記環状載置部を形成する工程と、を経て製造されたものであることを特徴とする請求項1に記載の真空吸着装置。
【請求項3】
前記載置部は、その開気孔率が20%〜50%、その平均気孔径が10μm〜150μmであり、
前記環状載置部は、その開気孔率が20%〜50%であり、その平均気孔径は前記載置部の平均気孔径の5%〜60%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空吸着装置。
【請求項4】
前記環状載置部の開気孔率が前記載置部の開気孔率よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の真空吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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