説明

真空成膜用マスク及び成膜装置

【課題】基板の角部においてもマスクと基板の密着性を確保することができる真空成膜用マスクを提供する。
【解決手段】開口が設けられている金属箔10と、金属箔10を固定する金属フレーム11と、金属フレーム11の内縁の辺部に設けられ、金属箔10を介して基板20を支持する基板受け部12と、から構成され、基板20を金属箔10上に載置したときに、基板20の辺部が基板受け部12にて支持されており、基板20の角部が基板受け部12にて支持されていないことを特徴とする、真空成膜用マスク1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成膜用マスク及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子とは、陰極と陽極との間に流れる電流によって、両電極間にある薄膜上の有機化合物層が発光する電子素子である。ここで有機EL素子は自発光性であるため、視認性が高く薄型軽量化が可能であるため、特にモバイル用アクティブマトリクス型パネルへの応用展開が進められている。
【0003】
ところで有機EL素子の製造工程においては、有機EL素子の耐水性が低いことや、不純物の影響を大きく受けることから、ドライプロセスである蒸着法、及びスパッタリング法によるマスクパターニングが多用されている。
【0004】
ここでマスクパターンニング使用されるマスクには、高精度であること、熱変形量が小さいことが要求されている。一方、マスクの構成部材であって所定の位置に開口部を有する金属箔は、それ自体の剛性が弱いため、テンションがかかった状態でフレームに固定されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図4は、従来の真空成膜用マスク及びその使用例を示す模式図であり、(a)は平面図であり、(b)は、(a)のAA’断面を示す断面図である。図4に示される真空成膜用マスク100は、金属フレーム110と、金属フレーム110に固定される金属箔111からなるものである。ここで図4の真空成膜用マスク100を使用して成膜を行う際には、基板120を金属箔111に載置する。このとき図4(b)に示されるよう、基板120の辺部や角部は金属フレーム110によって支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−171290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで高精細な表示装置を製造する場合、有機材料や無機材料のマスクパターニングを行うが、その際に、マスクと基板の密着不良によるパターニング精度の低下、パターン形状の不良、隣接画素との重なり等が問題となる。またこのパターニング精度の低下は、基板の中央部よりも基板の角部で顕著に現れる。
【0008】
ここで図4に示すようにマスク上に基板を載置した場合、基板は自重によりマスク上で撓む。このとき基板の剛性と金属箔の剛性とでは大きな差がある(基板の剛性の方が大きい)ので、特に基板の角部においては、基板120は金属箔111と同じ形状に撓むことができない。このため基板の角部においては、基板が撓んだ形状と撓んだ基板により押された金属箔の形状の差が大きくなるので、基板と金属箔との間にできる隙間が大きくなる。従って、基板の角部においてパターニング精度は著しく低下する。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされるものであり、その目的は、基板の角部においてもマスクと基板の密着性を確保することができる真空成膜用マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の真空成膜用マスクは、開口が設けられている金属箔と、
該金属箔を固定する金属フレームと、
該金属フレームの内縁の辺部に設けられ、該金属箔を介して基板を支持する基板受け部と、から構成され、
該基板を該金属箔上に載置したときに、該基板の辺部が該基板受け部にて支持されており、
該基板の角部が該基板受け部にて支持されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板の角部においてもマスクと基板の密着性を確保することができる真空成膜用マスクを提供することができる。即ち、本発明の真空成膜用マスクは、基板の角部において、撓んだ基板の形状と基板の自重で押されて撓んだ箔の形状が同じとなるため、基板の角部においてマスクと基板の密着性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の真空成膜用マスクにおける第1の実施形態を示す模式図であり、(a)はマスクの平面図であり、(b)は、(a)のAA’断面を示す断面図であり、(c)は、(a)のBB’断面を示す断面図であり、(d)は、(a)のCC’断面を示す断面図である。
【図2】本発明の真空成膜用マスクにおける第2の実施形態を示す模式図であり、(a)はマスクの平面図であり、(b)は、(a)のAA’断面を示す断面図であり、(c)は、(a)のBB’断面を示す断面図であり、(d)は、(a)のCC’断面を示す断面図である。
【図3】本発明の成膜装置における実施形態の例を示す模式図である。
【図4】従来の真空成膜用マスク及びその使用例を示す模式図であり、(a)は平面図であり、(b)は、(a)のAA’断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の真空成膜用マスクは、開口が設けられている金属箔と、該金属箔を固定する金属フレームと、該金属フレームの内縁の辺部に設けられ、該金属箔を介して基板を支持する基板受け部と、から構成される。また本発明の真空成膜用マスクは、基板を金属箔上に載置したときに、基板の辺部は基板受け部にて支持されている一方で、基板の角部は基板受け部にて支持されていない。
【0014】
また本発明の成膜装置は、上述した特徴を有する真空成膜用マスクを備えている。
【実施例1】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の真空成膜用マスクの実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の真空成膜用マスクにおける第1の実施形態を示す模式図である。図1において、(a)はマスクの平面図であり、(b)は、(a)のAA’断面を示す断面図であり、(c)は、(a)のBB’断面を示す断面図であり、(d)は、(a)のCC’断面を示す断面図である。
【0017】
図1の真空成膜用マスク1は、金属フレーム10と、この金属箔10を固定する金属フレーム11と、金属フレーム11の内縁部に設けられる基板受け部12と、から構成される。
【0018】
ここで図1の真空成膜用マスク1は、使用する際に、金属箔10上に基板20を載置させる。このとき基板20の辺部は、図1(b)及び(c)に示されるように、金属箔10を介して基板受け部12に支持される。一方、基板20の角部は、図1(d)に示されるように、金属箔10上に載置されているが、基板受け部12によって支持されていない。
【0019】
従って、基板20の角部において、撓んだ基板20の形状と基板20の自重で押されて撓んだ金属箔10の形状が同じになるので、基板20の角部においても基板20と金属箔10とが密着した状態になる。従って、真空成膜を行った際に、基板20の角部におけるパターニング精度の低下、パターン形状の不良、隣接画素との重なり等が生じなくなる。
【0020】
以下、各構成部材について説明する。
【0021】
金属箔10は、所定の位置に開口(図示せず)を有する金属製の薄膜である。また金属箔10は、図1(a)に示されるように、金属フレーム11の外縁部の所定の位置でテンションをかけた状態で固定されている。金属箔10の固定方法としては、例えば、スポット溶接が挙げられるが、これに限定されるものではない。溶接する代わりに接着剤や粘着テープを使用して金属箔10を固定してもよい。
【0022】
金属フレーム11は、剛性の強い金属材料からなるフレームである。図1(a)に示されるように、金属フレーム11の内縁の広さは、基板20の広さよりも広いことが望ましい。こうすることで、図1(d)に示されるように、基板20の角部が金属箔10にのみ載置される状態になる。このため、基板20の角部において基板20と金属箔10との密着性が確保される。
【0023】
基板受け部12は、図1(a)に示されるように、金属フレーム11の内縁の辺部の一部に設けられている。基板受け部12は、金属フレーム11の内縁の辺部の一部に設けられていれば、設ける位置及びその形状については特に限定されるものではない。ただし図1(d)に示されるように、基板20の角部と金属箔10との密着性を確保するためになるべく金属フレーム11の内縁の角部に近づかない位置に設けるのが好ましい。
【0024】
また基板受け部12は、金属フレーム11の内縁を切削加工して形成する方法や、金属フレーム11とは別個の部材を溶接や接着等の方法により金属フレーム11の内縁(の辺部)に取り付ける方法により、金属フレーム11の内縁の辺部に設けることができる。
【0025】
ここで基板受け部12は、金属フレーム11の上面に対して水平に設けてもよいが、基板の撓みを考慮して、逆テーパ形状になるように傾斜をつけながら設けてもよい。また金属フレーム11に対して段差をつけながら基板受け部12を設けてもよい。
【0026】
図1の真空成膜用マスク1は、従来のマスクによりも金属フレーム11の幅を狭くすることができるので、金属フレーム11自体の重量が軽くなる。このため成膜時においてマスク搬送の負荷が低下する。
【0027】
図1の真空成膜用マスク1において、金属箔10上に載置される基板20は、自重のみでマスク1上に固定されていてもよいし、押さえ板や重りを使用して固定されていてもよい。
【実施例2】
【0028】
図2は、本発明の真空成膜用マスクにおける第2の実施形態を示す模式図である。図2において、(a)はマスクの平面図であり、(b)は、(a)のAA’断面を示す断面図であり、(c)は、(a)のBB’断面を示す断面図であり、(d)は、(a)のCC’断面を示す断面図である。以下、本実施例について、実施例1と相違する点を中心に説明する。
【0029】
図2の真空成膜用マスク2は、図1の真空成膜用マスク1と比較して、基板受け部12を設ける領域を広くしている。基板受け部12を設ける領域を広くすることにより、マスク自体の強度を高くすることができる。
【0030】
ここで基板受け部12を設ける領域は、金属箔10の剛性を考慮した上で、適宜設定される。一般に、真空成膜用マスクの精細度が高い場合は、金属箔10に設けられる開口は、その形状が複雑になったり、開口の数が多くなったりする。その結果、金属箔10全体の剛性が小さくなるので、金属箔10上に基板20を載置したときに基板20の加重によって金属箔10が破損しないようにするために、基板受け部12を適宜設ける必要がある。
【0031】
また金属箔10に非常に強いテンションをかけて金属フレーム11に固定する場合にも金属箔10の剛性を考慮して基板受け部12を適宜設ける必要がある。このとき金属箔の剛性が相対的に弱い場合は基板受け部12を広めに設けるのが好ましい。
【0032】
尚、図2の真空成膜用マスク2においても基板の角部やその近傍に基板受け部12は設けない。こうすることで、図1の真空成膜用マスク1と同様に、基板20の角部において、撓んだ基板20の形状と基板20の自重で押されて撓んだ金属箔10の形状が同じになるので、基板20の角部においても基板20と金属箔10とが密着した状態になる。従って、真空成膜を行った際に、基板20の角部におけるパターニング精度の低下、パターン形状の不良、隣接画素との重なり等が生じなくなる。
【0033】
ところで、図2の真空成膜用マスク2を構成する基板受け部12は、金属フレーム11の内縁、具体的には、当該内縁の角部を適宜切削加工することにより形成される部材である。ここで基板受け部12は、図1の真空成膜用マスク1を構成する基板受け部12と同じように、金属フレーム11の上面に対して水平に設けてもよいが、基板の撓みを考慮して、逆テーパ形状になるように傾斜をつけながら設けてもよい。また金属フレーム11に対して段差をつけながら基板受け部12を設けてもよい。
【実施例3】
【0034】
次に、図面を参照しながら本発明の成膜装置について説明する。
【0035】
図3は、本発明の成膜装置における実施形態の例を示す模式図である。図3の成膜装置30は、図1の真空成膜用マスク1と、有機EL素子を構成する薄膜を形成するための蒸着源31と、を備える。尚、使用する真空成膜用マスクは、図2の真空成膜用マスク2であってもよい。
【0036】
図3に示されるように、基板の有機EL素子構成面と蒸着源31とは真空成膜用マスクを挟んで対向した状態に位置する。
【0037】
ここで上記実施例1及び実施例2で述べたように、基板の角部は真空成膜用マスク1に備える金属フレームによって支えられていないので、基板の角部においても基板とマスクが密着性は良好である。
【0038】
このため本発明の成膜装置で製造される有機EL素子は、基板の角部においてもパターン精度の低下、パターン形状の不良、隣接画素との重なり等が生じず、良好な品質の有機EL素子が得られる。
【符号の説明】
【0039】
1:真空成膜用マスク、10:金属箔、11:金属フレーム、12:基板受け部、20:基板、30:成膜装置、31蒸着源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口が設けられている金属箔と、
該金属箔を固定する金属フレームと、
該金属フレームの内縁の辺部に設けられ、該金属箔を介して基板を支持する基板受け部と、から構成され、
該基板を該金属箔上に載置したときに、該基板の辺部が該基板受け部にて支持されており、
該基板の角部が該基板受け部にて支持されていないことを特徴とする、真空成膜用マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の真空成膜用マスクを備えることを特徴とする、成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214050(P2011−214050A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82033(P2010−82033)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】