説明

真空断熱材及びガラス繊維

【課題】真空断熱材の芯材に用いるガラス繊維の素材強度を高め、大気圧縮による芯材の高密度化及び繊維接触部の増大を抑制し、芯材部における固体成分の熱伝導を低減することで断熱性能を向上させる。
【解決手段】ガラス繊維からなる芯材2がガスバリア性を有する外包材4で減圧密閉された真空断熱材1であって、前記ガラス繊維は、B23が5乃至12重量%、Al23とCaOとの合計が9乃至12.8重量%を含むアルカリホウケイ酸ガラスであり、ガラスのヤング率が77.8GPa以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱材及びガラス繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の防止を目的に省エネルギー化が望まれており、民生用機器に対しても省エネルギー化の推進が行われている。特に、冷凍冷蔵庫に関しては、冷熱を効率的に利用するという観点から、優れた断熱性を有する断熱材が求められている。
【0003】
一般的な断熱材としては、グラスウールなどの繊維体やウレタンフォームなどの発泡体が用いられている。しかし、これらの断熱材の断熱性を向上するには断熱材の厚みを増大して適用する必要がある。よって、断熱材を設置できる内部空間に制限がある場合や、省スペース化や空間の有効利用が必要な場合には、従来の断熱材の適用は望ましくない。
【0004】
このような課題を解決する一手段として、多孔体からなる芯材と、芯材を外包材によって覆い内部を減圧密閉して構成した真空断熱材がある。真空断熱材は、近年、省エネ競争が激化するなか、より一層、断熱性能の優れた真空断熱材が求められている。
【0005】
一般に、断熱材の伝熱は、固体と気体成分の熱伝導、輻射、対流熱伝達により引き起こされる。一方、外包材内部を減圧してなる真空断熱材は、気体成分の熱伝導と対流熱伝達に関してはその影響は小さい。また、常温以下の温度領域での使用においては、輻射の寄与もほとんどない。
【0006】
よって、常温以下で使用する保冷機器等に適用する真空断熱材においては、固体成分の熱伝導を抑制することが重要となる。そこで、断熱性能に優れる真空断熱材用の芯材として、種々の繊維材料が報告されている。
【0007】
例えば、芯材に、ガラス繊維、セラミック繊維、スラグウール繊維、ロックウール繊維等を用い、平均繊維長1mm以下、平均繊維径0.5乃至3μmと形状を適正化した無機質繊維が熱伝導の方向に対して垂直方向に配向されている真空断熱材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
本構成により、真空断熱材の芯材部分では、伝熱方向に対して一本の繊維を熱が伝わっていくような固体成分の熱伝導ではなく、各繊維間の接触点を介して次々と隣り合う繊維へと熱が伝わっていくため、伝熱方向に対しては接触している繊維間の熱伝導となる。
【0009】
よって、繊維間の接触熱抵抗が存在するため、繊維一本がそのまま伝熱方向へ熱を伝えるような芯材と比べて芯材部分の伝熱を抑制している。さらに、繊維径及び繊維長を制御することにより、汎用性のある無機質繊維の適用が可能で、真空断熱材としての熱伝導率が安定的に0.01W/mK以下としたものである。
【特許文献1】特開平7−167376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の真空断熱材の構成では、汎用性を備え、かつ真空断熱材の芯材部分における固体成分の熱伝導をこれ以上低減することは不可能であった。
【0011】
本発明は、さらに芯材部分における固体成分の熱伝導を低減する新たな設計方針について、以下に述べる。
【0012】
無機質繊維を真空断熱材の芯材として適用した場合、減圧封止後に繊維全体としての反発力が大気圧縮応力と釣り合った状態で内部空間が保持される。この芯材を構成する繊維の素材強度を向上すれば、芯材は高反発性とすることができ、より低い嵩密度の芯材でも内部空間を保持することが実現し、伝熱媒体となる芯材固体を低減することができると考えられる。
【0013】
また、芯材が高反発性となることで、より少ない繊維接触点数でも大気圧縮応力を支えられること、さらには大気圧縮応力による各繊維間の接触部が押し潰されることによる接触面積の増大をも抑制できるのではないかと考えられる。
【0014】
つまり、材料及び製造面でのコストが安価なガラス繊維を芯材として用いる場合、そのガラス素材の強度を高めることができれば、汎用性を備え、かつ真空断熱材の断熱性能をさらに向上させ得ると考えた。
【0015】
また、セラミック繊維を用いる場合には、高強度であるために大気圧縮時にも芯材部分の高密度化を抑制し、断熱性能を高めることは可能であるが、材料コストが高いこと、及び繊維化するための製造コストが極めて高いために汎用断熱材に用いる繊維としては好ましくない。
【0016】
また、スラグウールやロックウールを用いる場合では、汎用ガラス繊維を用いるよりも更に断熱性能が悪化してしまう。これは、汎用ガラス繊維よりも更に強度が低いために、芯材部の高密度化、繊維接点数及びの接触面積増大が生じ、真空断熱材の断熱性能を低下させてしまっていると考えられる。
【0017】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、芯材部分の伝熱を抑制し、真空断熱材の断熱性能を飛躍的に向上させ、かつ製造コストを低減でき、汎用性が高く、さらには、芯材に適用する無機質繊維の機械強度及び耐久性を向上させ、芯材そのものは常圧下で建材等の断熱材としても有用な真空断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、B23が5乃至12重量%、Al23が0乃至7重量%、CaOが2乃至11重量%、Na2OとK2Oとの合計が8乃至20重量%を含むアルカリホウケイ酸ガラスであり、ガラスのヤング率が77.8GPa以上であるガラス繊維を、真空断熱材の芯材に用いたのである。
【0019】
これにより、汎用ガラスにおける素材自体の強度を高めることができるため、真空断熱材の芯材として適用した場合に、減圧封止後の大気圧縮応力による芯材の変形量を小さくでき、高密度化を抑制することができる。また、芯材の支持部となる各繊維同士の接触部においても、接触点数の減少が図れ、かつガラスの変形が小さいことは繊維間の接触部面積が小さいことを意味しており、各繊維間を伝わっていく熱量を低減できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の真空断熱材は、芯材部分における低い嵩密度を維持して、かつ繊維接触部の増大をも抑制することで、芯材部の繊維間伝熱量を低減できる。これにより、芯材固体成分の熱伝導を低減し、真空断熱材の断熱性能を飛躍的に改善する。よって、繊維長、繊維径や積層状態等、品質状態を変えることなく従来通りの製造で高い断熱効果が得られるため、製造が容易である。
【0021】
本来、グラスウールにおけるガラス素材の硬さ及び強度は、断熱性能と無関係といえる物性であったにも関わらず、その素材の機械物性に着目し、より硬く強い繊維とすることで真空断熱材の断熱性能の改善効果が得られるということは驚くべき事実である。
【0022】
また、これらのガラス繊維は、汎用グラスウールよりも高い機械強度を備えるために、取扱いも容易で、一般の建材用グラスウールや、補強材としても有用である。また、B23は溶融剤として機能するため、ガラス繊維製造時の熱エネルギーを抑えることができるだけでなく、従来品でも十分に安全性であるが、B23を5%以上含むガラス繊維は体内においてより迅速に溶解されるために人体安全性もさらに高まる方向である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
請求項1記載の真空断熱材の発明は、ガラス繊維からなる芯材がガスバリア性を有する外包材で減圧密閉された真空断熱材であって、前記ガラス繊維は、B23が5乃至12重量%、Al23が0乃至7重量%、CaOが2乃至11重量%、Na2OとK2Oとの合計が8乃至20重量%を含むアルカリホウケイ酸ガラスであり、前記ガラスは、ヤング率が77.8GPa以上であるものである。
【0024】
これにより、ガラス繊維の素材強度を高め、大気圧縮応力による芯材の高密度化を抑制する。さらには、ガラス繊維の変形量を小さくし、各繊維間の接触面積の増大を抑制できる。
【0025】
以上の作用により、真空断熱材の芯材部分における固体成分の熱伝導を抑制し、断熱性能が向上する。
【0026】
請求項2に記載の真空断熱材の発明は、請求項1記載の発明におけるガラスが、100Pa・sの粘度を示す温度が、990乃至1065℃であるものである。
【0027】
これにより、請求項1記載の作用・効果に加えて、一般的な遠心法による製造が可能である。したがって、製造コストが低減でき、より汎用性が高まる。
【0028】
請求項3に記載の真空断熱材の発明は、請求項1記載の発明におけるガラスが、100Pa・sの粘度を示す温度で失透しないものである。
【0029】
これにより、短繊維のガラス繊維を遠心法等で製造するときに、ガラスの失透が抑制されるので、ガラス繊維を安定的に生産することができる。
【0030】
請求項4に記載の真空断熱材の発明は、請求項1記載の発明における減圧密閉された真空断熱材の熱伝導率が、0.0015乃至0.0019W/mKであるものである。
【0031】
請求項5に記載の真空断熱材の発明は、請求項1記載の発明における減圧密閉された真空断熱材における芯材の嵩密度が、235乃至247kg/mであるものである。
【0032】
請求項6に記載の真空断熱材の発明は、請求項1記載の発明におけるガラス繊維の平均径が1乃至10μmであるものである。
【0033】
ガラス繊維の平均径を10μm以下とすることで、素材の強度を高めた場合において、プラスチックラミネートフィルム等の汎用性の高い外包材を適用しても、繊維による突き刺しピンホールの問題発生を抑制できる。また、ガラス繊維の平均径が1μm未満であれば製造時の熱エネルギーが極端に増大し、汎用性が大きく低下する。
【0034】
以上の作用により、真空断熱材の品質を向上し、生産性を高める。
【0035】
よって、本願の真空断熱材は、安価な材料を用いて構成され、ガラス素材強度が高く、かつ溶融性がよい。また、構造上安定であるために、耐久性が高い。
【0036】
以上の作用により、本願発明に係る真空断熱材は、ガラス単体で用いても極めて安定で、高強度である上に安価で得られるため、従来のグラスウールよりも長期に渡って劣化が小さく、機械強度に優れた汎用断熱材として有用である。
【0037】
また、本発明で使用できるガラスは、ガラス状態になり得るガラス形成酸化物からなる繊維であればよいが、特に汎用性、環境面を混慮すると、SiO2を主成分とするケイ酸塩系、ホウケイ酸塩系のガラスが好ましい。
【0038】
各成分における重量%において、SiO2は減少すれば液相温度が上昇し、ガラスの繊維化時に、ガラスの失透が問題となりガラス繊維の安定的製造が困難となる。また、SiO2の量が増大すれば粘性が高くなることで生産性が低下するため、50乃至70%の範囲が良いが、より好ましくは53.5乃至68%の範囲である。
【0039】
Al23が増加すると液相温度の上昇を招き、また粘性が高くなってしまうために、7%以下、より好ましくは6%以下が良い。また、Al23を含むことで素材強度が向上するために、0.1%以上、より好ましくは0.5%以上含むことが良く、Al23は0乃至7%、好ましくは0.1乃至7%、より好ましくは0.5乃至6%の範囲である。
【0040】
23は5%以上とすることで素材強度を高めることができるが、逆に12%を超えると、素材強度が低下するため5乃至12%の範囲がよく、より好ましくはB23が5.2%乃至12%以上、さらに好ましくは5.5乃至10%の範囲である。
【0041】
Na2OとK2Oとの合計は、20%を超えると素材強度が低下するために20%以下であることが好ましいが、8%未満では溶融温度の上昇により生産性が低下するため、8乃至20%の範囲が良く、より好ましくは10乃至18%の範囲である。
【0042】
また、耐水性の問題からK2Oは5%以下である方が良いが、0.1%以上含むことで粘性の低減効果が大きく、かつ材料コストの問題から、K2Oは0.1乃至3.5%の範囲である方がより好ましい。
【0043】
尚、アルカリ土類金属酸化物は、他のLiO2等を混合してもよく、その場合には素材強度の向上が得られるが、材料コストが増大するため、汎用面でNa2OとK2Oのみであることが望ましい。
【0044】
MgOは、2%以上含むことで素材の強度を向上させ、また、6%を超えると液相温度の上昇を招くため、2乃至6%の範囲が良く、より好ましくは2乃至4.5%の範囲である。
【0045】
CaOは2%以上含むことでMgOと同様にガラス素材の強度を高め、11%を超えると液相温度が上昇するので、2乃至11%の範囲、より好ましくは4乃至11%の範囲である。
【0046】
その他の成分としては、重量%で合計3%未満であれば、ガラス全体への影響はほとんどなく、原料としては不純物を含む天然原料を用いることが可能である。
【0047】
尚、P25を添加することで人体安全性が高まることは公知であり、その他3%以内の範囲で含んでも良い。その場合、ヤング率が低下してしまうことなく、粘性が低下し、生産性が増す。
【0048】
また、ガラスの製造時には、清澄剤を用いると泡切れを良好にし、生産性を向上させるために好ましく、Sb23等の公知のものが適用できる。
【0049】
また、本発明の真空断熱材においては水分吸着剤を使用することができる。使用される水分吸着剤は特に限定されるものではなく、真空断熱材の内部に存在する水蒸気を吸着し、内部雰囲気中の水蒸気量を減少されるものであればよい。
【0050】
一例としては、合成ゼオライト、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、ドーソナイト、ハイドロタルサイトなどの物理吸着剤、アルカリ金属やアルカリ土類金属単体やその酸化物および水酸化物などの化学吸着剤などが適用可能である。さらに、空気成分が吸着できるゲッター材等を併用することで内部の気体成分の熱伝導を低減して、断熱性能を向上させることも可能である。
【0051】
また、本発明の外包材は、プラスチックラミネートフィルムが使用できるが、より高いガスバリア性を付与するためには金属箔や蒸着層が適用できる。なお、金属箔、および蒸着層は公知のもが利用でき、特に指定するものではない。
【0052】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0053】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における真空断熱材1の断面図を示している。
【0054】
図1において、真空断熱材1は、芯材2と水分吸着剤3とを外包材4に挿入し、内部を減圧して構成している。
【0055】
真空断熱材1の作製は、芯材2を140℃の乾燥炉で30分間乾燥した後、ラミネートフィルムの三方を熱溶着によりシールして袋状に成形した外包材4に挿入し、減圧チャンバー内で、外包材4内部が10Pa以下になるように減圧し、開口部を熱溶着により密閉封止している。
【0056】
この時、外包材4は、表面保護層としてポリエチレンテレフタレートフィルム(12μm)、中間層にはアルミ箔(6μm)、熱溶着層として直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(50μm)からなるラミネートフィルムにより構成している。
【0057】
また、水分吸着剤3は、酸化カルシウムを適用している。水分吸着剤3がない場合にも特に問題はないが、水分吸着剤3を備えることで、内部の残存水蒸気を吸着し、端面からの水蒸気侵入による内圧上昇を長期に渡って抑制できる。さらに、ガス吸着剤を併用することでより内圧を低減し、断熱性能を高めることも可能である。
【0058】
一方、芯材2は、ガラス繊維の平均径が3.5μmであるガラス繊維集合体を加圧した状態で加熱し、密度が200kg/m3程度の形状を維持しているボード状のものを用いている。平均繊維径は1μm乃至10μmの範囲のものが品質、生産性の面で好ましい。
【0059】
また、断熱性能及び取扱い性の面で密封後の芯材部嵩密度は210乃至280kg/m3であることがより好ましく、この範囲となるように作製した。芯材部嵩密度は、芯材2のみの重量と密封後のサイズから算出している。
【0060】
ここではバインダーを用いることなく芯材成形を行っているが、バインダーを用いてより低温で芯材2を成形しても良い。また、表面性が問題とならない場合には、ガラス繊維の集合体をそのまま密閉封止しても構わない。その場合には、製造工数が削減するために、生産性が向上する。
【0061】
また、用いたガラス組成の具体的な内容については、実施例の中で詳しく説明するが、本発明におけるガラスを繊維化後にグラスウールとして積層し、芯材2として作製した後に内部を減圧した外包材4で封止し、真空断熱材1を得た。
【0062】
以上のようにして形成した真空断熱材1の熱伝導率を英弘精機製のオートラムダにて測定した。結果、熱伝導率は、平均温度24℃にて0.0015W/mK乃至0.0019W/mKであり、汎用的な硬質ウレタンフォームの10倍以上、従来の真空断熱材と比較しても著しく優れた断熱性能を有していた。
【0063】
このように、本構成により作製した真空断熱材1は、優れた断熱性能を有している。断熱性能の向上は、芯材2に用いたガラス繊維集合体において、ガラス自体の素材強度が高まるにつれてその効果が大きくなることが確認できる。
【0064】
よって、従来、真空断熱材の伝熱要素の大部分を占めていた芯材部における固体成分の熱伝導をガラス素材の強度向上により抑制でき、真空断熱材1の断熱性能が大幅に改善するものである。
【0065】
このことは、ガラス素材強度としてのヤング率の評価結果、及び真空断熱材1の芯材部嵩密度と熱伝導率の関係を確認することからも素材強度と断熱性能の関連は明白である。
【0066】
つまり、ガラスの素材強度向上により、芯材部の嵩密度を小さくして伝熱媒体を低減すること、繊維間の接触点が少なくても減圧圧縮後に内部空間を保持し得ること、芯材を構成する繊維同士間の接触点の変形防止により接触熱抵抗が増大すること、これらの要因により芯材部における固体成分の伝熱量を低減したと考えられる。
【0067】
ガラス素材の強度については、超音波測定法による常温でのヤング率を指標として用いた。すなわち、バルクガラスから30mm×30mm×5mmの試験片を加工し、ガラス試料片中の常温(15乃至30℃)超音波伝播速度と、アルキメデス法による密度とを測定し、常温におけるヤング率を算出した。
【0068】
尚、Fe23は不純物として混入し易いが、特にこれにより問題となることはなく、輻射熱を吸収する効果があるために、輻射の寄与が大きい50℃以上の温度領域での適用には有用である。
【0069】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2におけるグラスウールからなる真空断熱材について説明する。各ガラス組成物は繊維状態に成形を行った。
【0070】
本発明のガラス組成物からなる溶融物を平均繊維径が3.5μm程度になるように繊維化した。ガラス繊維の平均径は、1乃至10μmの範囲が良い。1μm未満では繊維化のコストが極端に増大し、10μmを超える場合は取扱い時に剛性のある繊維による不快感を伴う恐れがある。
【0071】
繊維化工程については、長繊維として連続紡糸、または短繊維として火炎法、遠心法等どのようにして行ってもよいが、生産性を考慮して遠心法によりグラスウールを作製した。チョップストランドマットや、ロービングクロス等のように長繊維を作製した後に加工して断熱材として用いることもできる。
【0072】
このようにして作製したグラスウールを厚み方向に圧縮し、嵩密度が250kg/m3となる時の圧縮強度測定を行った。
【0073】
結果、本発明によるガラス組成物からなるグラスウールの圧縮強度は1020hPa以上であり、従来の汎用的なグラスウールよりも高い圧縮強度を示していた。これは、B23が5乃至12重量%、Al23とCaOとの合計が9乃至12.8重量%含むことで、ガラス素材自体の強度が高まり、グラスウール全体として強度が高まったためである。
【0074】
よって、このように従来のものよりも高い素材強度を有するガラス組成のグラスウールとすることで、グラスウールの圧縮強度は高まり、建材用断熱材や補強材として有用で取扱い性及び施工性の良好なグラスウール(断熱材)を提供できる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例、および比較例を用いて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は本実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
本実施例はガラス組成の重量%において、SiO2が65.0%、B23が5.0%、Na2Oが14.3%、K2Oが0.9%、MgOが3.7%、CaOが9.7%、Fe23等のその他複数成分合計が1.4%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は78.1GPaであった。比較例11よりもヤング率が向上した要因は、B23の増加に伴うものである。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1040℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0077】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1055hPaであった。
【0078】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は246kg/m3、熱伝導率は0.0019W/mKであった。
【0079】
(実施例2)
本実施例はガラス組成の重量%において、SiO2が64.0%、Al23が0.1%、B23が5.2%、Na2Oが14.5%、K2Oが0.1%、MgOが3.6%、CaOが9.5%、ZrO2、ZnO、TiO2、P25、Fe23等のその他複数成分合計が3.0%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は79.2GPaであった。実施例1と比較して、Al23をわずか0.1%加えただけでヤング率の向上を確認できた。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1030℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0080】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1095hPaであった。
【0081】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は243kg/m3、熱伝導率は0.0018W/mKであった。
【0082】
(実施例3)
本実施例はガラス組成の重量%において、SiO2が56.5%、Al23が7.0%、B23が10.5%、Na2Oが13.8%、K2Oが3.5%、MgOが6.0%、CaOが4.0%、Fe23等のその他複数成分合計が0.7%からなるガラスを作成し、その素材ヤング率は83.7GPaであった。比較例14と比べ、CaOを2%以上含む場合にヤング率の向上を確認した。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1040℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0083】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1230hPaであった。
【0084】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は238kg/m3、熱伝導率は0.0016W/mKであった。
【0085】
尚、Al23が7%を超えると液相温度が極端に増大し、繊維化が不可能であった。
【0086】
(実施例4)
本実施例はガラス組成の重量%において、SiO2が62.4%、Al23が6.0%、B23が12.0%、Na2Oが7.9%、K2Oが2.1%、MgOが2.0%、CaOが6.8%、Fe23等のその他複数成分合計が0.8%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は82.0GPaであった。実施例7と比べ、MgOを2%以上含むことでヤング率の向上を確認した。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1060℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0087】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1160hPaであった。
【0088】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は240kg/m3、熱伝導率は0.0017W/mKであった。
【0089】
(実施例5)
本実施例はガラス組成の重量%において、SiO2が68.0%、Al23が1.7%、B23が6.1%、Na2Oが7.7%、K2Oが0.3%、MgOが4.5%、CaOが11.0%、Fe23等のその他複数成分合計が0.7%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は84.8GPaであった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1065℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0090】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1275hPaであった。
【0091】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は235kg/m3、熱伝導率は0.0015W/mKであった。
【0092】
尚、本実施例ではであるアルカリ金属酸化物(Na2OとK2Oの合計)が8%として他の実施例同様に問題なく繊維が得られたが、アルカリ金属酸化物を8%未満とした場合は、粘性が極端に増大し、溶融温度の上昇のため、大幅に生産性が低下した。
【0093】
(実施例6)
本実施例はガラス組成の重量%において、SiO2が58.3%、Al23が0.5%、B23が5.5%、Na2Oが19.6%、K2Oが0.4%、MgOが5.0%、CaOが9.5%、Fe23等のその他複数成分合計が1.2%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は78.5GPaであった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、990℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0094】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1070hPaであった。
【0095】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は244kg/m3、熱伝導率は0.0018W/mKであった。
【0096】
(実施例7)
本実施例はガラス組成の重量%において、SiO2が70.0%、Al23が5.2%、B23が9.8%、Na2Oが8.3%、K2Oが2.0%、CaOが4.0%、Fe23等のその他複数成分合計が0.7%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は77.8GPaであった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1115℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0097】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1050hPaであった。
【0098】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は247kg/m3、熱伝導率は0.0019W/mKであった。
【0099】
(比較例11)
本比較例は一般的なグラスウールであり、ガラス組成の重量%において、SiO2が63.6%、Al23が1.7%、B23が4.0%、Na2Oが14.5%、K2Oが0.8%、MgOが3.8%、CaOが10.0%、Fe23等のその他複数成分合計が1.6%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は75.0GPaであった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1040℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0100】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1010hPaであった。
【0101】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は250kg/m3、熱伝導率は0.0022W/mKであった。
【0102】
(比較例12)
本比較例は、ガラス組成の重量%において、SiO2が55.9%、Al23が0.1%、B23が14.2%、Na2Oが18.5%、K2Oが0.7%、MgOが3.5%、CaOが6.3%、Fe23等のその他複数成分合計が0.8%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は74.9GPaであった。B23が12%を超えたことでヤング率は一般的なグラスウールと同等であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、930℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0103】
また、グラスウールとした時の圧縮強度は1015hPaであり、特に強度の向上効果は得られなかった。
【0104】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は250kg/m3、熱伝導率は0.0022W/mKと一般的なグラスウールを適用した場
合の比較例11と同等であった。
【0105】
(比較例13)
本比較例はガラス組成の重量%において、SiO2が66.8%、Al23が0.9%、B23が6.1%、Na2Oが19.8%、K2Oが1.2%、CaOが4.1%、Fe23等のその他複数成分合計が1.1%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は73.6GPaであった。Na2OとK2Oの合計が20%を超えたことで、ヤング率は低下した。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1035℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0106】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は960hPaであった。
【0107】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は264kg/m3、熱伝導率は0.0025W/mKであった。
【0108】
(比較例14)
本比較例はガラス組成の重量%において、SiO2が68.1%、Al23が5.1%、B23が5.6%、Na2Oが17.0%、K2Oが0.7%、MgOが1.2%、CaOが1.5%、Fe23等のその他複数成分合計が0.8%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は74.5GPaであった。CaOが2%未満であることでヤング率が低下した。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1085℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスの失透は無かった。
【0109】
このガラスを繊維化後に積層し、グラスウールとしたときの圧縮強度は1010hPaであった。
【0110】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したときの芯材部嵩密度は256kg/m3、熱伝導率は0.0024W/mKであった。
【0111】
(比較例15)
本比較例はガラス組成の重量%において、SiO2が58.0%、Al23が1.2%、B23が4.5%、Na2Oが15.0%、K2Oが0.6%、MgOが6.2%、CaOが14.0%、Fe23等のその他複数成分合計が0.5%からなるガラスを作製し、その素材ヤング率は85.7GPaであった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度は、1010℃であった。また、ガラス粘度が100Pa・s(10ポアズ)となるときの温度での失透の有無を調べたところ、ガラスが失透していた。そのため、ガラス繊維を安定的に生産することができなかった。
【0112】
なお、実施例1乃至7、および比較例11乃至15の結果について、表1及び表2にそれぞれまとめた。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
(比較例16)
本比較例はガラス組成を実施例1と同様とし、平均繊維径を11μmとなるようにガラスを繊維化後に積層した。これをグラスウールとした時の圧縮強度は1230hPaであったが、このグラスウールは繊維が太く、取扱い時には手に不快感を感じたため、汎用断熱材としては不適当であった。
【0116】
また、このグラスウールを芯材として、真空断熱材を作製したが、実施の形態に記載の構成のラミネートフィルムでは繊維突き刺しピンホールの発生があり、内部減圧状態の品質を確保することが困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
以上のように、本発明にかかる真空断熱材及びガラス繊維は、ガラスの素材強度を向上し、従来よりも優れた断熱性能を有するものである。その結果、真空断熱材は、さらなる高性能化により用途が広まるだけでなく、ガラス組成物単体としても、建材や車等、強度が要求される部材として適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の実施の形態1における真空断熱材の断面図
【符号の説明】
【0119】
1 真空断熱材
2 芯材
4 外包材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維からなる芯材がガスバリア性を有する外包材で減圧密閉された真空断熱材であって、
前記ガラス繊維は、B23が5乃至12重量%、Al23が0乃至7重量%、CaOが2乃至11重量%、Na2OとK2Oとの合計が8乃至20重量%を含むアルカリホウケイ酸ガラスであり、
前記ガラスは、ヤング率が77.8GPa以上であることを特徴とする真空断熱材。
【請求項2】
前記ガラスは、100Pa・sの粘度を示す温度が、990乃至1065℃であることを特徴とする、請求項1記載の真空断熱材。
【請求項3】
前記ガラスは、100Pa・sの粘度を示す温度で失透しないことを特徴とする、請求項1記載の真空断熱材。
【請求項4】
減圧密閉された真空断熱材の熱伝導率が、0.0015乃至0.0019W/mKであることを特徴とする、請求項1記載の真空断熱材。
【請求項5】
減圧密閉された真空断熱材における芯材の嵩密度が、235乃至247kg/mであることを特徴とする、請求項1記載の真空断熱材。
【請求項6】
ガラス繊維の平均径が1乃至10μmであることを特徴とする、請求項1記載の真空断熱材。
【請求項7】
真空断熱材として、ガスバリア性を有する外包材の中に減圧密閉されるガラス繊維であって、
23が5乃至12重量%、Al23が0乃至7重量%、CaOが2乃至11重量%、Na2OとK2Oとの合計が8乃至20重量%を含むアルカリホウケイ酸ガラスであり、
前記ガラスは、ヤング率が77.8GPa以上であることを特徴とする真空断熱材用ガラス繊維。
【請求項8】
前記ガラスは、100Pa・sの粘度を示す温度が、990乃至1065℃であることを特徴とする、請求項7記載のガラス繊維。
【請求項9】
前記ガラスは、100Pa・sの粘度を示す温度で失透しないことを特徴とする、請求項7記載のガラス繊維。
【請求項10】
真空断熱材として、外包材の中に減圧密閉されたときの熱伝導率が、0.0015乃至0.0019W/mKであることを特徴とする、請求項7記載のガラス繊維。
【請求項11】
真空断熱材として、外包材の中に減圧密閉されたときの嵩密度が、235乃至247kg/mであることを特徴とする、請求項7記載のガラス繊維。
【請求項12】
平均径が1乃至10μmであることを特徴とする、請求項7記載のガラス繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2007−182991(P2007−182991A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330508(P2006−330508)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能、高機能真空断熱材」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】