説明

真空検知スイッチおよびその真空検知スイッチを用いた吸着支持装置

【課題】爆発性雰囲気の生成が予測される火気使用禁止区域内においても使用可能な真空検知スイッチを提供する。
【解決手段】検知対象空間となる各真空吸着パッド6の真空吸引空間10aに連通する真空検知室18と大気開放する大気圧室19との圧力差に応じて摺動変位するピストン15により、圧縮空気導入ポート26と圧縮空気出力ポート28との間の空気通路を開閉する弁体25を開閉操作する。圧縮空気導入ポート26には空気圧力源8から圧縮空気が供給され、真空吸引空間10aが真空になったときに圧縮空気出力ポート28から検知信号として圧縮空気を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象空間が真空であるか否かを検知して検知信号を出力する真空検知スイッチおよびその真空検知スイッチを用いた吸着支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば工場内でパネル状のワークを吸着支持する吸着支持装置として、真空吸引力によってワークを吸着可能な真空吸着パッド付きのロボットハンドが用いられている。そして、この種のロボットハンドでは、例えば特許文献1に記載のように、真空吸着パッドにワークが吸着されたか否かを確認するためのリードスイッチを設けている。
【0003】
特許文献1に記載の真空吸着パッドは、真空吸着パッドの内部空間である真空吸引空間を真空引きするための空気通路が開閉弁によって開閉されるようになっていて、その開閉弁が開いたことをリードスイッチによって検出するようになっている。つまり、開閉弁が開いて真空吸着パッドの真空吸引空間が真空引きされると上記リードスイッチが実質的にON作動するから、そのリードスイッチが検知信号として出力する電気信号をもって真空吸着パッドがワークを吸着したことを確認できるようになっている。
【特許文献1】特開平11−114863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えばガソリン等の引火性液体を取り扱う工程等では、爆発性雰囲気の生成が予測される火気使用禁止区域内でロボットハンドを動作させる場合がある。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、真空吸着パッドがワークを吸着したことを確認するためのリードスイッチが電気信号を出力するようになっていることから、火気使用禁止区域内で使用する上で好ましくない。
【0005】
また、火気使用禁止区域外へ設置した圧力センサを真空吸着パッドの真空吸引空間に接続し、その圧力センサをもって真空吸着パッドにワークが吸着されたことを確認することも考えられるが、圧力センサと真空吸着パッドを接続する配管を火気使用禁止区域の内外に跨って配設しなければならない上に、その配管によって圧力損失が生じるため、真空吸着パッドにワークが吸着されたことを確実に確認することができないという問題があった。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであって、火気使用禁止区域内においても使用可能な真空検知スイッチおよびその真空検知スイッチを用いた吸着支持装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、検知対象空間の圧力と大気圧との間の圧力差に基づいて動作して空気通路を開閉する弁体を設け、その弁体が上記空気通路を開いたときに、検知信号として圧縮空気を出力するようになっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
したがって、本発明によれば、真空検知スイッチの検知信号として圧縮空気を出力するようになっているため、火気使用禁止区域内においても安全に使用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明のより具体的な実施の形態を示していて、自動車の車体パネルに代表されるようなパネル状のワークWを真空吸着パッド6によって吸着支持する吸着支持装置として、爆発性雰囲気の生成が予測される火気使用禁止区域内で動作するロボットハンド1を示している。
【0010】
図1に示すように、ハンドリングロボットにおけるアーム2先端のリスト部3にロボットハンド1が装着されている。このロボットハンド1は、例えば平面視略矩形状のフレーム4を母体として構成されており、そのフレーム4の下面に複数の真空吸着パッド6がそれぞれポスト5を介して装着されている。そして、ハンドリングロボットの動作によって各真空吸着パッド6をワークWに押し付けつつそれら各真空吸着パッド6を真空引きすることにより、当該各真空吸着パッド6で発生する真空吸引力をもってワークWがロボットハンド1に吸着支持されることとなる。
【0011】
なお、ロボットハンド1に吸着支持されたワークWは、ハンドリングロボットの動作によって所定位置まで搬送され、その搬送先の位置で各真空吸着パッド6を大気開放または各真空吸着パッド6に圧縮空気を導入することにより、ロボットハンド1がワークWを開放することとなる。
【0012】
図2は、各真空吸着パッド6の断面とその各真空吸着パッド6を真空引きするための真空引き回路を示す図である。
【0013】
各真空吸着パッド6は、図2に示すように、他の真空吸着パッド6と並列関係となるように共通の真空引き手段たるエジェクタ7にそれぞれ接続されている。なお、図2では便宜上二つの真空吸着パッド6のみを図示しているが、図示外の真空吸着パッド6も他の真空吸着パッド6と並列関係となるようにエジェクタ7にそれぞれ接続されている。つまり、空気圧力源8からの圧縮空気が電磁弁9を介してエジェクタ7に導入され、そのエジェクタ7による周知のベンチュリ作用をもって互いに並列の関係にある各真空吸着パッド6が一斉にそれぞれ真空引きされることとなる。
【0014】
各真空吸着パッド6は、例えば可撓性のゴム材料から形成された略スカート状のパッド本体10と、そのパッド本体10を一端に支持する略円柱状のホルダ11と、からそれぞれ構成されている。ホルダ11の中心部には、当該ホルダ11の反パッド本体10側端部に設けられた真空引きポート12につながる真空引き通路13が軸方向に沿って形成されていて、その真空引き通路13がパッド本体10の内部空間である真空吸引空間10aに開口している。
【0015】
また、各真空吸着パッド6のホルダ11は、当該ホルダ11と一体に設けられた真空検知スイッチ14をそれぞれ有している。換言すれば、各真空検知スイッチ14は対応する真空吸着パッド6のホルダ11をハウジングとしてそれぞれ構成されている。この各真空検知スイッチ14は、対応する真空吸着パッド6の真空吸引空間10aを検知対象空間とし、その真空吸引空間10aが真空であるか否かを検知して検知信号を出力するようになっている。
【0016】
図3は真空検知スイッチ14の詳細を示す説明図であって、図3の(a)は真空吸引空間10aが真空でない状態、すなわち非真空検知状態の真空検知スイッチ14を示し、図3の(b)は真空吸引空間10aが真空の状態、すなわち真空検知状態の真空検知スイッチ14を示している。なお、図3の(a),(b)では、図2における左側の真空吸着パッド6の真空検知スイッチ14を図示しているが、他の真空吸着パッド6の真空検知スイッチ14も同様に構成されている。
【0017】
真空検知スイッチ14は、図3の(a),(b)に示すように、ホルダ11のうち真空引き通路13の径方向一方側に当該ホルダ11の軸方向へ沿って設けられた空気圧シリンダ16と、その空気圧シリンダ16の反パッド本体10側に対向配置され、空気圧シリンダ16によって開閉操作される開閉弁17と、を有している。
【0018】
空気圧シリンダ16は、摺動可能なピストン15をホルダ11内に収容配置したものであって、そのピストン15のピストン本体15aにより、真空検知室18と大気圧室19をそれぞれホルダ11内に隔成している。すなわち、空気圧シリンダ16のピストン15は、真空検知室18と大気圧室19との間の圧力差に基づいて摺動変位するようになっている。
【0019】
真空検知室18は、ピストン本体15aの開閉弁17側に形成されているとともに、連通路21をもって真空引き通路13と連通しており、その連通路21および真空引き通路13を介して真空吸引空間10aの圧力が真空検知室18に導入されるようになっている。一方、大気圧室19は、ピストン本体15aの反開閉弁17側に形成されていて、大気圧導入路22を介して大気開放されている。なお、大気圧導入路22のうちホルダ11の外部に開口する開口端にはサイレンサ23が設けられている。
【0020】
また、ピストン本体15aの軸方向両側にはロッド部15bが延出していて、そのロッド部15bのうち開閉弁17側端部に引張りコイルスプリングである付勢手段としてのスプリング20が係止されている。すなわち、このスプリング20によってピストン15が大気圧室19側に向けて付勢されている。
【0021】
開閉弁17は、ホルダ11に軸方向へ沿って形成された略段付形状の弁孔24と、その弁孔24内に収容配置された弁体25と、を主要素として構成されている。弁孔24は、その軸方向両側に形成された大径部24a,24bと、それら両大径部24a,24b同士を接続する小径部24cと、を有している。反空気圧シリンダ16側の大径部24aは通路27を介してホルダ11に設けられた圧縮空気導入ポート26と連通している一方、空気圧シリンダ16側の大径部24bは通路29を介してホルダ11に設けられた圧縮空気出力ポート28と連通している。言い換えると、弁孔24と両通路27,29によって圧縮空気導入ポート26と圧縮空気出力ポート28との間を連通可能な空気通路が構成されている。また、圧縮空気導入ポート26には、エジェクタ7の上流側の圧縮空気が供給されるようになっている(図2参照。)。
【0022】
弁体25は、反空気圧シリンダ16側の大径部24aに配置されており、同じく大径部24a内に配置された略円筒状のガイド部30によって軸方向で進退移動可能に案内されている。そして、この弁体25は、大径部24aに配置されたバルブスプリング31によって圧縮空気導入ポート26と圧縮空気出力ポート28との間の空気通路を閉じる方向に付勢されている。つまり、図3の(a)に示す真空検知スイッチ14の非真空検知状態では、バルブスプリング31によって弁孔24のうち反空気圧シリンダ16側の大径部24aと小径部24cとの間の段状部に弁体25を押し付け、圧縮空気導入ポート26と圧縮空気出力ポート28との間の空気通路を閉じている。
【0023】
また、ホルダ11のうち弁孔24の空気圧シリンダ16側に室32が形成されていて、それぞれ空気圧シリンダ16の軸方向に沿った第1プランジャ33および第2プランジャ34が室32に配置されている。詳細には、第1プランジャ33の一端部が空気圧シリンダ16のロッド部15bと対向している一方、第2プランジャ34の反第1プランジャ33側端部が弁孔24に挿入されて弁体25と対向していて、ピストン15が真空検知室18側に摺動変位したときに、弁体25が両プランジャ33,34を介してピストン15に押圧されるようになっている。なお、両プランジャ33,34は、同じく室32に収容されたリターンスプリング35によって空気圧シリンダ16側に付勢されている。換言すれば、弁体25は、真空吸引室10aの圧力と大気圧との間の圧力差に基づいて動作し、圧縮空気導入ポート26と圧縮空気出力ポート28との間の空気通路を開閉するようになっている。
【0024】
さらに、第2プランジャ34には、一端から大気圧が導入され、他端が第2プランジャ34のうち弁体25と対向する端面に開口する大気開放通路34aが形成されている。つまり、図3の(a)に示す真空検知スイッチ14の非真空検知状態では、第2プランジャ34が弁体25に対して所定の間隔を隔てて対向し、大気開放通路34aが弁孔24のうち空気圧シリンダ16側の大径部24bに連通するから、圧縮空気出力ポート28が大気開放されることとなる。
【0025】
以上のように構成した本実施の形態では、ハンドリングロボットの動作をもって各真空吸着パッド6をワークWに押し付けつつ、エジェクタ7によって真空吸引空間10aを真空引きすると、各真空吸着パッド6の真空吸引力をもってロボットハンド1にワークWが吸着支持される。このとき、真空吸引空間10aに連通する真空検知スイッチ14の真空検知室18も真空になることから、図3の(b)に示すように、その真空検知室18と大気圧室19との圧力差をもってピストン15が真空検知室18側に摺動変位する。そして、そのピストン15のロッド部15bが両プランジャ33,34を介して弁体25を押圧し、弁体25がバルブスプリング31の付勢力に抗して変位することにより、圧縮空気導入ポート26と圧縮空気出力ポート28との間の空気通路が開くとともに、第2プランジャ34の大気開放通路34aが弁体25によって閉蓋される。つまり、圧縮空気導入ポート26から供給されている圧縮空気が圧縮空気出力ポート28から検知信号として出力される。
【0026】
そして、真空検知スイッチ14から出力された圧縮空気は火気使用禁止区域外に設置された図示外のコントローラに導入され、そのコントローラで圧縮空気を電気信号に変換して所望の制御がなされることとなる。なお、真空検知スイッチ14から検知信号として出力される圧縮空気をハンドリングロボットの次の動作ステップにおける動力源として用いることも可能である。
【0027】
したがって、本実施の形態によれば、各真空吸着パッド6の真空検知スイッチ14が検知信号として圧縮空気を出力し、その圧縮空気をもって各真空吸着パッド6がワークWを吸着したことを確認できるから、例えばガソリン等の引火性液体を取り扱う工程において、爆発性雰囲気の生成が予測される火気使用禁止区域内でロボットハンド1を動作させることが可能となる。
【0028】
その上、真空検知スイッチ14を真空吸着パッド6のホルダ11と一体に設けているため、真空吸着パッド6の真空吸引空間10aと真空検知スイッチ14とを接続する連通路21における圧力損失を最小限にでき、ロボットハンド1がワークWを吸着したことをより確実に確認できるようになる。
【0029】
さらに、各真空吸着パッド6の動力源となる空気圧力源8からの圧縮空気を真空検知スイッチ14に導入しているため、真空検知スイッチ14のための空気圧力源を別に設ける必要がなく、コスト的に有利となるメリットがある。
【0030】
なお、本実施の形態では、ピストン15が両プランジャ33,34を介して弁体25を押圧するように構成しているが、ピストン15が第2プランジャ34または弁体25を直接押圧するように構成することも可能であるほか、ピストン15自体が弁体として機能するように構成することも可能である。
【0031】
図4は、本発明の第2の実施の形態として、真空検知スイッチ37を真空吸着パッド36と別体に設けた例を示す図である。
【0032】
この図4に示す第2の実施の形態では、単一の真空検知スイッチ37が各真空吸着パッド36と並列関係となるようにエジェクタ7に接続されていて、そのエジェクタ7への圧縮空気の導入によって各真空吸着パッド6および真空検知スイッチ37が一斉に真空引きされるようになっている。つまり、各真空吸着パッド36にワークWを吸着したとき、すなわち各真空吸着パッド36の真空吸引空間10aがいずれも真空になったときに真空検知スイッチ37が検知信号として圧縮空気を出力することとなる。
【0033】
この真空検知スイッチ37のハウジング38は、空気圧シリンダ16を構成するシリンダチューブ38aと開閉弁17を構成するバルブボディ38bとに分割形成されていて、シリンダチューブ38aに設けられた真空引きポート39がエジェクタ7に接続され、その真空引きポート39につながる連通路21が真空検知室18に開口している。なお、他の部分は上述した第1の実施の形態と同様である。
【0034】
したがって、この第2の実施の形態においても上述した第1の実施の形態と略同様の効果が得られるほか、ロボットハンド1がワークWを吸着したことを単一の真空検知スイッチ37をもって確認することができる上に、各真空吸着パッド36の構造が簡単になるから、コスト的に有利となるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態としてロボットハンドを示す図。
【図2】図1における真空吸着パッドの断面とその真空引き回路を示す図。
【図3】図2における真空検知スイッチの詳細を示す説明図であって、同図(a)は非真空検知状態の真空検知スイッチを示し、同図(b)は真空検知状態の真空検知スイッチを示している。
【図4】本発明の第2の実施の形態として各真空吸着パッドと真空検知スイッチおよび真空引き回路を示す図。
【符号の説明】
【0036】
1…ロボットハンド(吸着支持装置)
7…エジェクタ(真空引き手段)
10a…真空吸引空間(検知対象空間)
11…ホルダ(ハウジング)
14…真空検知スイッチ
15…ピストン
18…真空検知室
19…大気圧室
20…スプリング(付勢手段)
24…弁孔(空気通路)
26…圧縮空気導入ポート
27…通路(空気通路)
28…圧縮空気出力ポート
29…通路(空気通路)
38…ハウジング
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象空間が真空であるか否かを検知して検知信号を出力する真空検知スイッチにおいて、
一対のポート間を連通可能な空気通路を有するハウジング内に、検知対象空間の圧力と大気圧との間の圧力差に基づいて動作して上記空気通路を開閉する弁体を設け、
その弁体が上記空気通路を開いたときに、上記両ポートのうち一方のポートから供給した圧縮空気を上記検知信号として他方のポートから出力するようになっていることを特徴とする真空検知スイッチ。
【請求項2】
検知対象空間と連通する真空検知室と大気開放する大気圧室とを隔成するピストンが上記ハウジング内に摺動可能に収容されているとともに、そのピストンが付勢手段をもって大気圧室側に付勢されていて、
真空検知室と大気圧室との圧力差に基づく上記ピストンの摺動変位をもって上記弁体が開閉操作されるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の真空検知スイッチ。
【請求項3】
真空吸着パッドを吸着支持対象物であるワークに押し付けつつその真空吸着パッドの内部空間である真空吸引空間を真空引きし、その真空吸引力によってワークを吸着支持する吸着支持装置において、
上記真空吸引空間を検知対象空間とする請求項1または2に記載の真空検知スイッチを有していることを特徴とする吸着支持装置。
【請求項4】
圧縮空気の導入に基づいて真空吸着パッドの真空吸引空間を真空引きする真空引き手段を備えていて、
真空検知スイッチの一方のポートに上記真空引き手段の上流側の圧縮空気が導入されるようになっていることを特徴とする請求項3に記載の吸着支持装置。
【請求項5】
真空検知スイッチが真空吸着パッドと一体に設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の吸着支持装置。
【請求項6】
真空検知スイッチが真空吸着パッドと別体に設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の吸着支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−243553(P2009−243553A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89740(P2008−89740)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】