説明

真空蒸着装置及び電気光学装置の製造方法

【課題】真空蒸着装置において生産性を向上させる。
【解決手段】真空蒸着装置10は、ターゲットチャンバ100、プロセスチャンバ200及び飛行チャンバ300を備える。各チャンバは相互に独立して真空を維持可能に構成されており、ターゲット110から発生する蒸発物質110aは、各チャンバ内の空間を介して、プロセスチャンバ200内で治具900により回動可能に保持された基板210に蒸着される。この際、蒸発物質110aは、スリット部221が形成された遮蔽板220によって基板210への到達が制限される。スリット部221は、治具900が回動することによって生じる基板210上の角速度の相違に対応付けられ、角速度が大きい領域に対応する箇所程大きい開口面積を有しており、蒸着膜の膜特性が良好に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶装置等の電気光学装置に係る無機配向膜を斜方蒸着するのに好適に用いられる、真空蒸着装置及びそれを用いた電気光学装置の製造方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術分野において、コリメータを使用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された成膜装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、真空槽或いは真空チャンバ内にて、ターゲットと成膜対象である基板との間に、ターゲットから基板に向かう粒子を基板の成膜面に対し斜めに向かうように規制するコリメータを配置することによって、装置の小型化が可能となりメンテナンス性が向上するとされている。
【0003】
また、この種の技術分野において、金属酸化膜を電子ビーム蒸着法によって基板表面の斜方から成膜する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−332101号公報
【特許文献2】特開2003−202573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板上に均一に蒸着物質を成膜しようとする場合、蒸着源の物理的な条件及び基板の物理的な条件によって、蒸着源及び基板間の最適距離或いはこれら両者間に必要とされる距離は左右される。生産性を向上させる観点からは、蒸着源及び基板はある程度大きいことが望ましいから、それに伴って蒸着物質の分布の偏りをキャンセルし得る両者間の距離は大きいものとなる。従って、従来の技術の如くコリメータなどによって基板に対し斜めに向かうように蒸着物質を規制することによって装置を小型化し得たとしても、蒸着装置の巨視的な大きさを変化させることは難しく、蒸着装置の生産性を左右するメンテナンス性は十分に改善され難い。即ち、従来の技術には、蒸着装置の生産性を十分に向上させ難いという技術的な問題点がある。
【0006】
特に、液晶装置等の電気光学装置を構成する素子基板や対向基板などの基板に対して、所定のプレティルト角が付与された無機配向膜を斜方蒸着により形成する場合、従来の技術を用いての成膜によれば、真空槽全体の小型化を図りつつ基板面の全域に均一な無機配向膜を形成することは実践上極めて困難である。
【0007】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、生産性を向上させ得る真空蒸着装置及びそれを用いた電気光学装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る真空蒸着装置は、蒸着源を設置するための第1空間を規定すると共に該第1空間を真空に維持することが可能な第1真空槽と、前記第1空間に設置され、前記蒸着源に電子ビームを照射することによって前記蒸着源の一部を蒸発物質として蒸発させる電子ビーム照射手段と、前記第1空間と連通可能であって且つ前記蒸発物質が蒸着膜として蒸着される基板を設置するための空間である第2空間を規定すると共に、少なくとも該第2空間と前記第1空間とが相互に連通した状態において前記第2空間を真空に維持することが可能な第2真空槽と、前記第2空間において前記基板の少なくとも一部が前記蒸着源の少なくとも一部と対面するように前記基板を保持する保持手段と、前記保持される基板が前記第2空間において前記第1空間から飛行する前記蒸発物質の飛行方向に交わる方向に沿って回動するように前記保持手段を回動させる回動手段と、前記蒸着源と前記基板との間に設けられ、前記蒸発物質の前記基板への到達を制限する制限手段とを具備し、該制限手段は、前記基板への到達を制限しない場合に比して、前記蒸着膜が有する膜特性を、所定の膜特性に近付けるように前記基板への到達を制限することを特徴とする。
また、本発明に係る真空蒸着装置は、蒸着源を設置するための第1空間を規定すると共に該第1空間を真空に維持することが可能な第1真空槽と、
前記第1空間に設置され、前記蒸着源に電子ビームを照射することによって前記蒸着源の一部を蒸発物質として蒸発させる電子ビーム照射手段と、
前記第1空間と連通可能であって且つ前記蒸発物質が蒸着膜として蒸着される基板を設置するための空間である第2空間を規定すると共に、少なくとも該第2空間と前記第1空間とが相互に連通した状態において前記第2空間を真空に維持することが可能な第2真空槽と、
前記第2空間において前記基板の少なくとも一部が前記蒸着源の少なくとも一部と対面するように前記基板を保持する保持手段と、
前記保持される基板が前記第2空間において前記第1空間から飛行する前記蒸発物質の飛行方向に交わる方向に沿って回動するように前記保持手段を回動させる回動手段と、
前記蒸着源と前記基板との間に設けられ、前記蒸発物質の前記基板への到達を制限する制限手段とを具備し、
前記制限手段は、前記第2空間と前記第3空間との連通面の少なくとも一部を覆う遮蔽部と、該遮蔽部の一部に形成された開口部とを含み、
前記開口部における前記連通面に沿った面は、前記保持手段が回動する際の中心を規定する軸から遠ざかるに連れて徐々に広がった形状に形成されることを特徴とする。
【0009】
本発明における「第1真空槽」とは、蒸着源(或いは、ターゲットとも称される)を設置するための第1空間を規定すると共に、この第1空間を真空に維持することが可能に構成された、チャンバなどの箱体を表す概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、その形状及び材質などは何ら限定されない。但し、構成材料としては、機械的、物理的及び化学的な安定性に鑑みて金属材料、鉄鋼材料、ガラス材料、陶器又は陶磁器材料などが使用されて好適である。
【0010】
ここで、「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされている空間の状態を包括する概念であり、好適には、蒸発物質が基板上に蒸着される際の膜質に大気雰囲気中に含まれる酸素や窒素などの不純物が影響しない程度に大気圧から減圧された空間の状態を指す。また、係る真空を作り出すための排気機構、排気装置又は排気システムの構成も、係る真空を作り出すことが可能である限りにおいて何ら限定されない。例えば、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、油拡散ポンプ又はターボ分子ポンプなどによって係る真空状態が作り出されてもよい。或いは、これらがその排気特性などに鑑みて予備排気系及び主排気系として複合的に使用されることによって真空が作り出されてもよい。尚、「真空に維持する」とは、このような排気系によって排気される気体の量と、第1真空槽における気体の漏れ量(即ち、リーク量)とが相殺する結果として、一定或いは一定とみなし得る程度に安定した真空度に到達している状態を含む概念である。
【0011】
本発明における「蒸着源」とは、電子ビームで加熱することによって蒸発させることが可能な物質を包括する概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、その材質、形状及びその他の物理特性は何ら限定されない。例えば、蒸着源は、SiOやSiO2などの無機材料であってもよい。また、液晶装置などの電気光学装置における無機配向膜材料として使用可能な無機材料であってもよい。
【0012】
第1空間には、蒸着源の他に電子ビーム照射手段が設置される。ここで、本発明に係る電子ビーム照射手段とは、蒸着源に電子ビームを照射することによって蒸着源の一部を蒸発物質として蒸発させる機構、装置又はシステムのうち、第1空間に設置される少なくとも一部を包括する概念であり、例えば電子銃装置の一部などを指す。例えば、電子銃装置は、一般的にフィラメント、制御系、電源系及び冷却水系などを含むが、本発明に係る電子ビーム照射手段としての電子銃装置は、そのうち第1真空槽内に設置されるものを指す。従って、必ずしも、制御系、電源系及び冷却水系の全てが第1空間内に設置されておらずともよい。例えば、制御装置、電源又は冷却水源などは、第1空間の外部に設置されていてもよい。電子ビーム照射手段によって蒸発した蒸着源の一部は、蒸発物質として第2真空槽内に規定される第2空間に到達する。
【0013】
ここで、本発明に係る「第2真空槽」とは、第1空間と連通可能な第2空間を規定すると共に、少なくとも第1空間と連通した状態において係る第2空間を真空に維持することが可能な、チャンバなどの箱体を包括する概念であり、第1真空槽と同様、その材質や形状などは何ら限定されない。尚、第2空間における真空は、第1真空槽における各種排気系によって実現されるものであってもよい。また、第1空間及び第2空間における物理的数値としての真空度は必ずしも一致しておらずともよい。或いは、第2真空槽に、第1真空槽と同等の或いはそれとは異なる形態の各種排気系が接続され、第2空間が積極的に真空に維持されてもよい。いずれにしても、第1空間と第2空間とが連通した状態において、第2真空槽は、第2空間を真空に維持することが可能である。
【0014】
第2空間には、蒸着源からの蒸発物質が蒸着膜として蒸着される基板が設置される。ここで、第2空間に設置される基板の枚数は、本発明に係る蒸着動作が阻害されない範囲で自由である。従って、本発明に係る真空蒸着装置は、第2空間に基板が一枚設置される所謂バッチ方式の真空蒸着装置であってもよいし、複数の基板が設置される枚葉式の真空蒸着装置であってもよい。但し、基板が複数設置される場合には、同時処理可能な基板枚数が増えるため効率的であり生産性向上への寄与は大きいものとなり得る。
【0015】
一方、第2空間において、基板は、保持手段により、その少なくとも一部が蒸着源の少なくとも一部と対面するように保持される。ここで、「対面して」とは、正対していることのみを表すものではなく、蒸着源又は蒸発物質の飛行方向(即ち、蒸着方向)に対し、一定の傾きをもって基板が設置されてもよい趣旨である。尚、本発明における「保持手段」とは、このように基板と蒸着源の夫々少なくとも一部が相互に対面するように基板を保持することが可能である限りにおいてその態様は何ら限定されない。
【0016】
また、この保持手段は、回動手段の作用により、基板が第2空間において第1空間から、例えば後述の第3空間を介して飛行する蒸発物質の飛行方向に交わる方向に沿って回動するように回動する。基板が回動することにより、基板面の全域或いは比較的広範囲に、均一な無機配向膜等の膜を形成することが可能となる。
【0017】
尚、このような回動手段の作用に鑑みれば、「基板の少なくとも一部が対面する」とは、この回動の過程における少なくとも一部の期間において、保持手段によって保持される基板が、第2空間における第1空間側の連通面の上空を通過する態様も含む趣旨である。
【0018】
尚、回動手段は、保持手段をこのように回動させることが可能である限りにおいてその態様は何ら限定されない。例えば、回動手段は、モータなどの電動機を動力源として保持手段を回転させる装置、機構或いはシステムであってもよい。また、回動手段の一部は、第2真空槽外に設置されていてもよい。例えば、動力系又は制御系などの一部が第2真空槽外に設置されていてもよい。この場合、保持手段を直接回動させている部品又は部材などに対する動力又は制御信号などの供給は、スリップリングなどを介して行われてもよい。
【0019】
また、基板は、回動手段の作用によって最終的に蒸発物質の飛行方向と交わる方向に回動する、即ち、公転するのであるが、このように公転し得る限りにおいて、基板は更に、回動手段或いはそれとは異なる何らかの手段によって自転してもよい。即ち、蒸着膜の膜質を均一化可能である限りにおいて、基板は第2空間において比較的自由に搬送されてよい。
【0020】
尚、回動手段が保持手段を回動させる際の回動特性を規定する制御量、例えば、回転速度などは、例えば予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて決定されていてもよい。
【0021】
尚、第2空間が、蒸着室(或いは、成膜室)としての位置付けであることに鑑みれば、第2真空槽には、第2空間に基板を供給するためのロードロック室(或いは、ロードロックチャンバ)或いは、第2空間から蒸着(或いは、成膜)済みの基板を排出するための搬送室(或いは、搬送チャンバ)などが適宜接続されていてもよい。これら前工程或いは後工程と相関するロードロックチャンバや搬送チャンバなどが接続される場合には、更にこれら各チャンバにおいてプリベイク或いはポストベイクなどの前処理或いは後処理が実行されてもよい。
【0022】
ここで特に、蒸着膜の膜質の観点から生産性向上を追及することを考えた場合には、第1空間から、例えば後述の第3空間を介して飛来する蒸発物質を、回動する基板上に好適に蒸着する必要がある。例えば、基板を回動させることによって基板間の蒸着ムラはキャンセルし得ても、基板内に蒸着ムラが発生することがある。基板内の蒸着ムラは歩留まりの低下を招くから、この場合結局真空蒸着装置の生産性が低下しかねない。そこで、本発明に係る真空蒸着装置は、制限手段の作用により、係る問題を好適に解決している。
【0023】
本発明に係る制限手段は、第2真空槽又はその付近において、蒸着源と基板との間に設けられ、何ら蒸着物質の基板への到達を制限しない場合に比して、基板に形成される蒸着膜が有する膜特性を、所定の膜特性に近付けるように蒸発物質の基板への到達を制限する。
【0024】
ここで、「膜特性」とは、蒸着膜の物理的、機械的、電気的又は化学的な性質を包括する概念であり、例えば、膜厚、屈折率、又は蒸着物質の配向方向などを含む趣旨である。また、「所定の膜特性」とは、このような概念として規定される膜特性の指標を表す。但し、このような指標は、明確に数値的に(即ち、定量的に)与えられておらずともよく、定性的なものとして与えられていてもよい。また、数値的に与えられる場合であっても、適当な範囲として規定されていてもよい。また、「所定の膜特性に近付けるように」とは、即ち、何らの手段を講じない場合、即ち何ら蒸着物質の基板への到達を制限しない場合と比較して、蒸着膜の膜特性が所定のものに幾らかなりとも接近或いは漸近することを含む概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、必ずしも蒸着膜は所定の膜特性を有さずともよい。
【0025】
制限手段は、このように蒸発物質の基板への到達が制限される限りにおいてどのような態様を有していてもよいが、好適には、蒸着源と基板との間に介在するように設置された遮蔽板、シールド又は防着板など物理的に基板への到達を制限するものを指す。但し、制限手段は、これらに限定される訳ではなく、例えば、機械的に、電気的に或いは化学的に蒸発物質の基板への到達を制限する態様を有していてもよい。また、制限手段の材質及び形状などは、蒸着膜が有する膜特性が所定の膜特性に近付く際の材質や形状として、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて決定されていてもよい。
【0026】
このように、本発明に係る真空蒸着装置によれば、制限手段の作用によって、基板上に所定の膜特性で蒸発物質を蒸着することが可能となり、蒸着膜の膜質を向上させることが可能となる。即ち、生産性が向上するのである。
【0027】
本発明に係る真空蒸着装置の一の態様では、前記第1真空槽と前記第2真空槽との間に前記第1及び第2真空槽と夫々着脱可能に設置され、前記第1及び第2真空槽と接続された状態において(i)前記第1及び第2空間と相互に連通可能であり且つ(ii)前記蒸発物質が前記第2空間に向かって飛行するための空間となる第3空間を規定すると共に、少なくとも前記第1及び第2空間と相互に連通した状態において前記第3空間を真空に維持することが可能な第3真空槽を更に具備する。
【0028】
この態様によれば、第1真空槽と第2真空槽との間には、これら第1真空槽及び第2真空槽と夫々着脱可能な第3真空槽が設置される。第3真空槽は、第3空間を規定している。この第3空間は、第3真空槽が第1及び第2真空槽と接続された状態(即ち、着脱可能の「着」に相当する状態)において、第1及び第2空間と相互に連通可能であり且つ蒸着源に対応する蒸発物質が第2空間に向かって飛行するための空間となる。即ち、第1空間と第2空間とは、係る第3空間を介して相互に連通する構成となっている。
【0029】
第3真空槽は、第1及び第2空間と連通した状態において第3空間を真空に維持することが可能である。本発明に係る第3真空槽とは、このような第3空間を規定する筒状物体を包括する概念であり、係る概念が担保される限りにおいてその材質や形状は何ら限定されない。尚、第3空間は、第1真空槽或いはそれに加えて第2真空槽に備わる各種排気系の作用によって真空に維持されてもよいし、第3真空槽に、これらとは別個に排気系が設置されることによって真空に維持されてもよい。
【0030】
尚、第3真空槽と第1及び第2真空槽とは、直接的に接続されてもよいし、間接的に接続されてもよい。ここで、「間接的に接続される」とは、例えば、フランジ、ガスケット若しくはカプラなどのシーリング部材、単に空洞としてのダミーチャンバ又は予備排気チャンバなどを介して接続されることなどを表す。或いは、ゲートバルブなどのバルブ機構などを介して接続されることなどを表す。但し、フランジなどの介在物体を介して間接的に接続される場合であっても、蒸発物質が第1空間から第2空間へと飛行することが可能であることに鑑みれば、これら介在物体が一種の第3真空槽とみなされてもよい。即ち、第3真空槽とは、必ずしも一体に構成された筒状物体でなくてもよい。
【0031】
一方、第3真空槽は、第1及び第2真空槽から取り外すことが可能である(即ち、着脱の「脱」に相当する状態)。尚、第3真空槽を、第1空間及び第2空間を真空に維持した状態で第1真空槽及び第2真空槽から取り外すことを考えれば、第3空間と第1及び第2空間との間には、何らかの真空維持部材が介在していることが好ましい。この場合、例えば装置メンテナンスを行うために第3真空槽を第1及び第2真空槽から取り外した場合であっても、第1空間及び第2空間の真空が破られることがない。真空蒸着装置では、内容積が大きい程必然的に排気に要する時間が増大するから、このように、局所的に真空を維持することが可能である場合、装置メンテナンスに要する時間は確実に短縮化され、生産性が確実に向上するため好適である。
【0032】
尚、このように連通及び隔絶の間で連通状態を切り替えることが可能な手段としては、ゲートバルブと称される板状の開閉弁を好適に使用することができる。また、この場合、ゲートバルブを開閉させるための機構が更に含まれてもよい。このような機構は、第1真空槽と第3真空槽との間、或いは第2真空槽と第3真空槽との間に夫々介在するように設置されたフランジなどに収容されていてもよい。
【0033】
このように第3真空槽は、第1及び第2真空槽から取り外すことが可能であり、故に個別にメンテナンスを行うことが可能に構成される。従って、真空蒸着装置のメンテナンス性が向上し、生産性の向上に寄与している。
【0034】
尚、第3真空槽が第1及び第2真空槽に対し着脱可能に構成されることに鑑みれば、相互に着脱可能であって且つ長さの異なる或いは長さが等しい複数の部分的な真空槽から第3真空槽を構成することによって、真空蒸着装置本体は共通化された状態で、蒸着源と基板との距離を最適化することも容易にして可能であり、膜質最適化の観点からも、生産性の向上に寄与し得るものである。このような部分的な真空槽各々は、全体として第3真空槽を構成する限りにおいて、相互に異なる材質又は形状などを有していてもよい。尚、第3真空槽が、蒸発物質の飛行空間たる第3空間を規定することに鑑みれば、これら複数の部分的な真空槽各々は、真空を保持し得る程度に気密を保って接続される必要がある。その意味では、部分的な真空槽各々は、材質及び巨視的な形状が一致している方がよい。但し、この場合にも、蒸発物質の飛行方向への長さ(即ち、筒の長さに相当)は、相互に異なっていてもよい。
【0035】
本発明に係る真空蒸着装置の他の態様では、前記保持手段は、前記基板の少なくとも一部が、前記第1空間から飛行する前記蒸発物質に対して斜めに対面するように前記基板を保持する。
【0036】
このように構成すれば、例えば、液晶装置等の電気光学装置を構成する素子基板や対向基板などの基板に対して、所定のプレティルト角が付与された無機配向膜を斜方蒸着により形成することが可能となる。即ち、斜方蒸着を好適に行うことが可能となる。この際特に、真空槽全体の小型化を図りつつ基板面の全域或いは比較的広範囲に均一な無機配向膜を形成することが可能となる。
【0037】
本発明に係る真空蒸着装置の他の態様では、前記膜特性は、前記蒸着膜の膜厚を含み、前記制限手段は、前記膜厚が所定範囲に収まるように前記基板への到達を制限する。
【0038】
この態様によれば、蒸着膜の膜厚を均一に形成し得るので、高品質な蒸着プロセスが実現され、真空蒸着装置の生産性を向上させることが可能となる。ここで、「所定範囲に収まるように」とは、基板面の全域、或いは予め所望される領域において、蒸着膜が厳密に均一な厚さで蒸着されていることの他に、要求される品質に鑑みて均一とみなし得る程度の膜厚の範囲で蒸着膜が形成されていることを含む概念である。
【0039】
本発明に係る真空蒸着装置の他の態様では、前記膜特性は、前記蒸着膜の配向状態を含み、前記制限手段は、前記基板への到達を制限しない場合に比して、前記配向状態が均一に近付くように前記基板への到達を制限する。
【0040】
ここで、本発明における「配向状態」とは、蒸発物質が基板上へ蒸着される際の配向の状態を包括し、例えば、基板上に形成される蒸着膜の配向方向を含む概念である。
【0041】
例えば、本発明に係る真空蒸着装置を使用することによって、液晶装置などの電気光学装置に好適な配向膜を形成しようとした場合、例えば、膜厚が均一であっても、蒸着膜の配向方向が不均一となって、配向膜としては好ましくない場合がある。この態様によれば、このような配向方向を含む概念としての配向状態が均一となるように制限手段が蒸発物質の基板への到達を制限するため効果的である。
【0042】
上述の第3真空槽を具備した態様では、前記第2真空槽は、前記第2空間と前記第3空間との連通面の中心が、前記保持手段が回動する際の中心を規定する軸と交わらないように設置されてもよい。
【0043】
このように構成すれば、第2空間と第3空間との連通面の中心が、保持手段が回動する際の中心を規定する軸と交わらない場合、基板は、回動の過程における少なくとも一部の期間に連通面の上空を通過する。この場合、第2空間が係る連通部分よりも十分に広い場合には特に、この連通面の上空において支配的に蒸発物質が蒸着される。従って、蒸着源を効率的に使用可能であると共に第2空間内に複数の基板を設置することが比較的容易に実現される。即ち、真空蒸着装置の生産性が向上し得る。
【0044】
上述の第3真空槽を具備した態様では、前記制限手段は、前記第2空間と前記第3空間との連通面の少なくとも一部を覆う遮蔽部と、該遮蔽部の一部に形成された開口部とを含んでもよい。
【0045】
このように構成すれば、蒸発物質の基板への到達を物理的に制限することが比較的簡便にして可能となる。ここで、「遮蔽部」とは、第2空間と第3空間との連通面の少なくとも一部を覆うことが可能である手段を包括する概念であり、例えば、板状、バルク状或いはそれに準じる形状を有する部材を指す。
【0046】
開口部は、この遮蔽部の一部において第2空間及び第3空間に向って夫々開口した、言い換えれば、遮蔽部における第2空間と第3空間との連通面に沿った面の一部が開口した空間であり、「孔」とみなし得る空間である。尚、「連通面に沿った面」とは、遮蔽部において連通面を覆う面部分を包括する概念である。従って、連通面と厳密な意味で平行である面のみを表すものではなく、巨視的に連通面に沿った面であってもよい。蒸発物質は、主としてこの開口部を介して第2空間に進入することが可能であり、主としてこの開口部における、連通面に沿った面の形状によって、蒸着膜の膜特性が左右される。尚、「連通面の少なくとも一部を覆う」とは、連通面と物理的に密着或いは接触した状態のみを表すものではなく、遮蔽部の概念が担保される程度の間隙を介して連通面の上空に位置することを含む趣旨である。
【0047】
ここで、遮蔽部が、蒸発物質の飛行方向の厚みが無視し得る程度に小さい(即ち、薄い)板状であれば、このように主として開口部の形状に左右される形で、2次元的に蒸発物質の基板への到達が制限される。一方で、遮蔽部が、蒸発物質の飛行方向に有意な厚さを有する場合には、蒸発物質は、開口部を通過する過程で遮蔽部の内壁部分(即ち、開口部を規定する壁)にも衝突することとなり、3次元的に蒸発物質の基板への到達が制限されることとなる。この場合には、開口部の3次元的な形状によって蒸着膜の膜特性が左右される。
【0048】
このように、遮蔽部及び開口部を含む制限手段においては、蒸着膜の膜特性を比較的簡便に且つ詳細に所定の特性に整合させることが可能である。尚、遮蔽部及び開口部の形状は、蒸着膜が所定の膜特性を有するように、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて決定されていてもよい。
【0049】
この第3真空槽を具備した態様では、前記開口部における前記連通面に沿った面の形状は、前記基板が前記第2空間において回動する際の角速度に基づいて決定されてもよい。
【0050】
基板が回動し且つ基板が有意な大きさを有する以上、基板が第2空間を回動する速度は、基板上の部位に応じて、より具体的には回動の中心を規定する軸からの距離に応じて異なることになる。とりわけ、第2空間と第3空間との連通面の中心が、保持手段が回動する際の中心を規定する軸と交わらない場合には、保持手段が回動する際の半径は比較的大きくなり易いから、その影響は顕著なものとなる。即ち、連通面の上空を通過する際の基板の速度(即ち、角速度)は、その内周側(即ち、保持手段の回動の中心軸に向かう側)と外周側(即ち、係る中心軸から遠ざかる側)とで異なることになる。
【0051】
従って、開口部における連通面に沿った面の形状が、係る内周側と外周側とで相違しない場合には、相対的に通過速度の速い外周側の膜厚が内周側のそれと比較して薄くなり易い。そこで、このように開口部における連通面に沿った面の形状が、基板が第2空間において回動する際の角速度に基づいて決定される場合には、このような不具合が解消され、主として所定の膜厚を得易くなって好適である。
【0052】
尚、この態様では、前記開口部における連通面に沿った面の形状は、前記蒸発物質が前記基板上の単位面積に蒸着される時間が、前記基板の全領域において均一となるように決定されてもよい。
【0053】
ここで、上述したように角速度が基板上で異なる場合、典型的には、蒸発物質が基板上の単位面積に蒸着される時間が、回動の内周側程長く、外周側程短くなり易い。従って、これら時間が基板全領域で均一となるように連通面に沿った面の形状が決定されることによって、角速度に起因した蒸着ムラが好適に解消され得る。
【0054】
制限手段が遮蔽部と開口部とを含む態様では、前記開口部における前記連通面に沿った面は、前記保持手段が回動する際の中心を規定する軸から遠ざかるに連れて徐々に広がった形状に形成されてもよい。
【0055】
この場合、連通面の上空を通過する基板における内外周の角速度差が効果的にキャンセルされ得る。ここで、内周側の弧(或いは、一点)と、外周側の弧とを結ぶ線分は直線であってもよいし、曲線であってもよい。
【0056】
蒸着源が点蒸着源とみなし得る程度に小さい場合、蒸着源からの蒸発物質は、蒸着源を中心として等方的に蒸発するから、蒸発物質が等しい膜厚で蒸着する理想的な面(即ち、等膜厚面)は、蒸着源を中心とした球面となる。一方で、蒸着源が点蒸着源とみなせない場合、例えば、微小平面とみなし得る場合には、蒸発物質の等膜厚面は、コサインロー(cosine low)に従う形となり、蒸着源上に仮想的に形成された球面となる。この場合、単に角速度にのみ基づいて開口部の面形状を決定すると、基板の外周部分の膜厚が薄くなり易い。このような場合に備え、開口部の面形状は、内周側から外周側へ向かって曲線的に広がった形状を有していてもよい。
【0057】
尚、この態様では、前記開口部は、前記連通面に沿った面が前記連通面と交わる方向へ伸長した立体形状を有してもよい。
【0058】
この場合、開口部が立体形状を有するため、蒸発物質は3次元的な制約を受ける。即ち、開口部は、コリメータとしての機能を有することになる。従って、例えば、液晶装置などの電気光学装置における斜方膜の形成に効果的である。
【0059】
尚、開口部が立体形状を有する場合、連通面に沿った面は、上下で夫々二面存在し得るが、必ずしも係る二面各々が同一の形状を有する必要はない。例えば、連通面に沿った面のうち連通面と対面する側の方が、他方に較べて大きくなるように開口部の面形状が決定されていてもよい。
【0060】
或いは制限手段が遮蔽部と開口部とを含む態様では、前記開口部は、前記連通面に沿った面が矩形に形成され、該矩形に形成された面が前記連通面と交わる方向へ伸長した立体形状を有してもよい。
【0061】
連通面に沿った面が矩形である場合であっても、連通面と交わる方向(即ち、蒸発物質の飛行方向に沿った方向)へ伸長した立体形状を有する場合には、開口部に前述した如くコリメーション機能を与えることができる。尚、この場合、開口部は、例えば細長いスリット状となる。
【0062】
これら開口部が立体形状を有する態様では、前記開口部は、前記連通面と交わる方向への長さが、前記保持手段が回動する際の中心軸に向かうに連れて徐々に変化するように伸長してもよい。
【0063】
この場合には、開口部に一層効果的なコリメーション機能を付与することも可能である。尚、連通面と交わる方向への長さは、所望されるコリメーションが得られる際の長さとして、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどによって決定されていてもよい。
【0064】
上述した課題を解決するため、本発明に係る電気光学装置の製造方法は、無機材料を前記蒸着源とする請求項1から13のいずれか一項に記載の真空蒸着装置によって前記基板上に電気光学装置用の無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程を具備することを特徴とする。
【0065】
本発明に係る電気光学装置の製造方法によれば、高品質な画像表示を行うことが可能な、投射型表示装置、テレビ、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなどの各種電子機器に使用可能な液晶表示装置などの電気光学装置の製造工程において、無機配向膜を生産性良く蒸着することが可能となる。
【0066】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
<実施形態>
以下、適宜図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0068】
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置10の構成を説明する。ここに、図1は、真空蒸着装置10の模式的斜視図である。
【0069】
図1において、真空蒸着装置10は、ターゲットチャンバ100、プロセスチャンバ200及び飛行チャンバ300を備える。
【0070】
ターゲットチャンバ100は、少なくとも一部が、例えばアルミニウムやステンレス鋼などの金属材料或いは鉄鋼材料で構成された真空槽であり、本発明に係る「第1真空槽」の一例である。
【0071】
ターゲットチャンバ100の内壁部分は、ターゲットチャンバ100の内部に本発明に係る「第1空間」の一例たる空間101を規定しており、空間101には、ターゲット110及び電子ビーム照射系120が設置されている。尚、ターゲットチャンバ100の底面部分の一部は、後述する第1排気系11と接続されており、空間101内の気体をターゲットチャンバ100外に排出することによって、空間101を真空に維持することが可能に構成されている。尚、第1排気系11は、副排気装置(例えば、粗引き用)であるロータリーポンプ及び主排気装置(例えば、本引き用)であるターボ分子ポンプを含む真空排気系である。
【0072】
ターゲット110は、例えば、液晶装置などの電気光学装置において無機配向膜の形成材料となる無機材料のバルクであり、不図示のルツボに載置されている。
【0073】
電子ビーム照射系120は、不図示のフィラメント並びに電源系、冷却水系、制御系及び各種配線部材の一部などを含んでなり、フィラメントから電子ビームを発生させることが可能に構成された、本発明に係る「電子ビーム照射手段」の一例である。
【0074】
また、ターゲットチャンバ100は、未使用のターゲット110を複数格納したターゲット供給用チャンバ14と連接している。ターゲット供給用チャンバ14は、不図示の排気系によって内部の空間15を真空に維持することが可能に構成されており、ターゲットチャンバ100においてターゲット110の残量が減少した場合には、不図示のバルブが開き、真空を保った状態で自動的にターゲット110が交換又は補充される構成となっている。
【0075】
飛行チャンバ300は、ターゲットチャンバ100と同様に少なくとも一部が金属材料或いは鉄鋼材料で形成された筒状の真空槽であり、本発明に係る「第3真空槽」の一例である。飛行チャンバ300は、ターゲットチャンバ100に設置されたターゲット110の直上に設置されている。また、飛行チャンバ300の内壁部分は、飛行チャンバ300の内部に、本発明に係る「第3空間」の一例たる空間301を規定している。
【0076】
尚、飛行チャンバ300の側面部分の一部は、後述する第3排気系13と接続されており、空間301内の気体を飛行チャンバ300外に排出することによって、空間301を真空に維持することが可能に構成されている。尚、第3排気系13は、副排気装置(例えば、粗引き用)であるロータリーポンプ及び主排気装置(例えば、本引き用)であるターボ分子ポンプを含む真空排気系である。
【0077】
飛行チャンバ300における空間301と、ターゲットチャンバ100における空間101との連通状態は、飛行チャンバ300とターゲットチャンバ100との間に介在するゲートバルブ400によって制御されている。尚、ゲートバルブ400については後述する。
【0078】
プロセスチャンバ200は、ターゲットチャンバ100及び飛行チャンバ300と同様に少なくとも一部が金属材料或いは鉄鋼材料で構成された真空槽であり、本発明に係る「第2真空槽」の一例である。プロセスチャンバ200の内壁部分は、プロセスチャンバ200の内部に本発明に係る「第2空間」の一例たる空間201を規定しており、空間201には、複数の基板210が設置されている。基板210は、液晶装置などの電気光学装置に使用されて好適な低温ポリシリコン基板である。
【0079】
空間201において、各基板210は、治具900によりプロセスチャンバ200の内側面に対し一定の傾きを有するように保持されている。治具900は、空間201において、一部がプロセスチャンバ200外に空間201との気密を保って露出するシャフト910(即ち、本発明に係る「回動手段」の一例)に固定されており、シャフト910が図示A方向に回転するのに伴い、図示A方向に同様に回転することが可能に構成されている。
【0080】
尚、プロセスチャンバ200の側面部分の一部は、後述する第2排気系12と接続されており、空間201内の気体をプロセスチャンバ200外に排出することによって、空間201を真空に維持することが可能に構成されている。第2排気系12は、副排気装置(例えば、粗引き用)であるロータリーポンプ及び主排気装置(例えば、本引き用)であるターボ分子ポンプを含む真空排気系である。
【0081】
空間201と、飛行チャンバ300における空間301との連通状態は、プロセスチャンバ200と飛行チャンバ300との間に介在するゲートバルブ500によって制御されている。尚、ゲートバルブ500については後述する。
【0082】
プロセスチャンバ200には、ロードロックチャンバ600が連接している。ロードロックチャンバ600は、その内壁面によって規定される空間601に基板210を複数枚収容してなる真空槽である。
【0083】
ロードロックチャンバ600とプロセスチャンバ200との間の連通状態は、不図示のバルブによって制御されている。基板210が空間201に供給される際には、係るバルブが開き、図示せぬ搬送系により基板210が空間201内に自動的に設置される構成となっている。一方、ロードロックチャンバ600は、不図示の排気系と接続されており、プロセスチャンバ200において蒸着プロセスが実行されている期間中(即ち、バルブが閉まっている期間中)に、空間601に存在する気体を積極的に排気し得る構成となっている。ロードロックチャンバ600は、係る排気系の作用によって、真空を維持した状態でプロセスチャンバ200との間の基板の受け渡しを実行できるように構成されている。
【0084】
尚、プロセスチャンバ200における蒸着(即ち、成膜)が終了すると、成膜済みの基板210は、プロセスチャンバ200に気密を保って連接された不図示の搬送チャンバへ排出される構成となっている。
【0085】
次に、図2を参照して、真空蒸着装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、真空蒸着装置10の模式的な側面断面図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を省略する。尚、図2において、ターゲットチャンバ100、プロセスチャンバ200及び飛行チャンバ300の相対的な位置関係は、説明の煩雑化を防ぐため、必ずしも実際のものと一致しない。
【0086】
図2において、真空蒸着装置10は、制御装置800を備える。制御装置800は、真空蒸着装置10の動作全体を制御する制御ユニットであり、不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などを備える。制御部800は、真空蒸着装置10に備わる不図示のタッチパネル装置、キーボード又は各種操作パネルからの入力操作に応じて、或いは予めROMなどに格納される又は外部供給されるプログラムに従って、真空蒸着装置10の動作を制御することが可能に構成されている。
【0087】
ターゲットチャンバ100と飛行チャンバ300との間には、ゲートバルブ400が設置される。ゲートバルブ400は、バルブ部410、フランジ部420及びバルブ駆動部430を備える。
【0088】
バルブ部410は、金属製の円板状部材である。フランジ部420は、ゲートバルブ400の形状を規定すると共に、ターゲットチャンバ100と飛行チャンバ300とを接続するフランジとして機能するように構成されている。フランジ部420の内部には、バルブ部410を退避させるための退避空間421が形成されている。バルブ部410は、バルブ駆動部430によって駆動される。バルブ駆動部430は、バルブ部410を電気的及び機械的に駆動するシステムであり、一部が気密を保った状態でフランジ部420の外空間へ露出している。バルブ駆動部430による電気的及び機械的な制御によって、バルブ部410は、退避空間421からターゲットチャンバ100に形成された連通口102の直上に相当する空間まで移動することが可能であり、更に、係る直上に相当する空間において、図示位置Bから図示位置Cまで上下移動を行うことが可能に構成されている。また、図示位置Cに位置制御された状態において、バルブ部410は、ターゲットチャンバ100の空間101と、飛行チャンバ300の空間301とを相互に気密を保って隔絶することが可能に構成されている。尚、バルブ駆動部430は、制御装置800と電気的に接続されることによって、制御装置800に上位制御されており、制御装置800から供給される制御信号に応じて、バルブ部410を駆動する構成となっている。
【0089】
一方、プロセスチャンバ200と飛行チャンバ300との間には、ゲートバルブ500が設置される。ゲートバルブ500は、バルブ部510、フランジ部520及びバルブ駆動部530を備える。
【0090】
バルブ部510は、金属製の円板状部材である。フランジ部520は、ゲートバルブ500の形状を規定すると共にターゲットチャンバ100と飛行チャンバ300とを接続するフランジとして機能するように構成されている。フランジ部520の内部には、バルブ部510を退避させるための退避空間521が形成されている。バルブ部510は、バルブ駆動部530によって駆動される。バルブ駆動部530は、バルブ部510を電気的及び機械的に駆動するシステムであり、一部が気密を保った状態でフランジ部520の外空間へ露出している。バルブ駆動部530による電気的及び機械的な制御によって、バルブ部510は、退避空間521からプロセスチャンバ200に形成された連通口202の直下に相当する空間まで移動することが可能であり、更に、係る直下に相当する空間において、図示位置Dから図示位置Eまで上下移動を行うことが可能に構成されている。また、図示位置Eに位置制御された状態において、バルブ部510は、プロセスチャンバ200の空間201と、飛行チャンバ300の空間301とを相互に気密を保って隔絶することが可能に構成されている。尚、バルブ駆動部530は、制御装置800と電気的に接続されることによって、制御装置800に上位制御されており、制御装置800から供給される制御信号に応じて、バルブ部510を駆動する構成となっている。
【0091】
第1排気系11、第2排気系12及び第3排気系13の動作は、制御装置800によって制御されている。この際、各排気系に備わる各真空ポンプの電源のオンオフや電磁弁の開閉を指示する制御信号が各排気系へ供給されることによって、各排気系が制御される。また、制御装置800は、各排気系に備わる電離真空計などの真空計から各チャンバの真空度を表すセンサ信号を取得することも可能に構成されている。
【0092】
電子ビーム照射系120は、電子ビーム駆動系16によってその動作が制御されている。電子ビーム駆動系16は、電子ビーム照射系120に含まれない不図示の電源系及び冷却系の一部から構成される。電子ビーム駆動系16は、制御装置800によって動作が制御されており、制御装置800から供給される、フィラメントへの通電及び冷却水バルブの開閉などを指示する旨の制御信号に応じて電子ビーム照射系120を駆動する。
【0093】
プロセスチャンバ200における空間201において基板210を保持する治具900は、前述した通りシャフト910によって回転駆動されるが、シャフト910は、更に治具駆動部920と電気的及び機械的に接続されており、その回転動作が制御されている。治具駆動部920は、電源及びアクチュエータなどによって構成され、シャフト910と共に、本発明に係る「回動手段」の一例を構成しており、電源から供給される電力によって作動するアクチュエータの動力をシャフト910の回転動力に変換することによって最終的に治具900を回転駆動している。治具駆動部920は、制御装置800によってその動作が上位制御されており、制御装置800からの制御信号に応じてシャフト910を駆動している。
【0094】
プロセスチャンバ200の空間201における、ターゲット110と対面しない部分の一部には、膜厚計700が設置されている。膜厚計700は、赤外線を利用した非接触方式の膜厚計である。膜厚計700は制御装置800と電気的に接続されており、その出力信号が制御装置800に出力される仕組みとなっている。
【0095】
プロセスチャンバ200には、連通口202を覆うように遮蔽板220が設置されている。ここで、図3を参照して、遮蔽板220の詳細について説明する。ここに、図3は、遮蔽板220の模式図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。尚、連通口202は、第2真空槽に形成された開口部であるから、無論相応の厚みを有する部分であるが、本実施形態では、連通口202は、その厚さを無視し得る2次元的な部分として扱うこととする。即ち、この場合、連通口202は、本発明に係る「連通面」の一例として機能する。
【0096】
図3において、遮蔽板220は、連通口202よりも径の大きい金属製の薄い円板状部材であり、本発明に係る「遮蔽部」の一例である。遮蔽板220には、連通口202に沿った面が略扇状に開口した、本発明に係る「開口部」の一例たるスリット部221が形成されており、このスリット部221を介して、プロセスチャンバ200の空間201と飛行チャンバ300の空間301とが相互に連通する構成となっている。遮蔽板220及びスリット部221は、本発明に係る「制限手段」の一例として機能する。
【0097】
飛行空間301(図3では不図示)は円筒状の空間であるから、連通口202もそれに伴って円形に開口している。ここで、連通口202の中心部202aを貫通する軸線Gは、治具900が回動する際の中心を規定する軸である、シャフト910を貫通する軸線Fと平行な位置関係にあり、従って、軸線Gと軸線Fとは相互に交わらない構成となっている。従って、空間301は、第2真空槽200(図3では不図示)の底面部分の中心から偏った位置で空間201(図3では不図示)と連通している。
【0098】
ここで、図4を参照して、遮蔽板220の更なる詳細について説明する。ここに、図4は、図3において開口部221を矢線Hの方向に見下ろした平面図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0099】
図4において、スリット部221は、シャフト910の方向に向かって徐々に狭まった、言い換えれば、シャフト910から遠ざかるに連れて徐々に広がった扇状に形成されている。従って、スリット部221において、図示領域K付近の方が、図示領域J付近よりも開口面積としては大きくなっている。また、スリット部221は、スリット部221の中心線とシャフト910とを平面視的に結んだ延長線Iに対し対称となっている。
【0100】
<実施形態の動作>
次に、図1及び図2を適宜参照して、真空蒸着装置10の動作について説明する。
【0101】
始めに、制御装置800によって空間101、201及び301が夫々所定の真空度となるように、排気系11、12及び13が夫々制御される。一方、制御装置800は、各排気系に備わる電離真空計からの出力信号を一定のタイミングで監視しており、各排気系の排気動作によって各空間が所定の真空度となったか否かについての判断を行うことが可能となっている。また、同様にして、ロードロックチャンバ600における空間601及びターゲット供給用チャンバ14における空間15も夫々に接続された排気系によって所定の真空度となるように排気される。尚、この際、ゲートバルブ400のバルブ部410が、図示位置Cに位置制御されるように、またゲートバルブ500のバルブ部510が、図示位置Eに位置制御されるように、各バルブ駆動部が制御される。即ち、各チャンバ内の空間は、夫々個別に真空排気される。
【0102】
各空間が所定の真空度に到達した場合、制御装置800は、各ゲートバルブのバルブ部を各フランジ部における退避空間に格納し、空間101、201及び301を夫々相互に連通させる。尚、ここでは、各チャンバ内空間の設定真空度が相互に等しく、ゲートバルブが開制御された際の真空度の変動は無視し得る程に小さいものとする。
【0103】
一方、各ゲートバルブが開制御されるのに伴って、制御装置800は、ロードロックチャンバ600における空間601とプロセスチャンバ200における空間201との連通部分に備わるバルブを開け、ロードロックチャンバ600に格納された基板210を所定枚数プロセスチャンバ200に供給する。この際、制御装置800は、治具駆動部920を制御して、ロードロックチャンバ600から供給される基板210を治具900に保持させる。
【0104】
所定枚数の基板210が治具900によって保持されると、制御装置800は、ロードロックチャンバ600との間のバルブを閉め、治具900を、治具駆動部920を介しシャフト910によって回転させると共に、蒸着プロセスを開始する。
【0105】
蒸着プロセスでは、制御装置800は、電子ビーム駆動系16を制御して電子ビーム照射系120から電子ビームを発射させ、ターゲット110に照射させる。電子ビームを照射されたターゲット110は加熱され、その一部が蒸発する。蒸発したターゲットからなる蒸発物質110aは、空間101から連通口102を介して空間301内に突入し、更に空間301内を飛行して、連通口202及び前述した遮蔽板220に形成されたスリット部221を介して空間201に到達し、最終的に、連通口202及び遮蔽板220の直上においてターゲット110に対し斜めに対面配置された基板210に蒸着される。尚、前述した通り、基板210は治具900によって回動可能に保持されており、係る回動の過程において、連通口202上を通過する。従って、「ターゲット110に対し斜めに対面配置された基板」とは、主として連通口202上を通過している基板を指す。蒸発物質110aは、主として基板210が連通口202上を通過する期間において基板210に蒸着される。
【0106】
尚、電子ビーム照射系120における電子ビーム強度(或いは、フィラメント電流値)、治具900の回転速度及びプロセス時間(例えば、空間201に設置された全ての基板に対して蒸着が完了する時間)などは、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって得られた最適な値に設定されており、制御装置800は、基本的にはこのように予め与えられたプロセス条件に従って、真空蒸着装置10の各部を協調的に制御している。また、制御装置800は、蒸着プロセスの実行中に絶えず膜厚計700の出力を監視している。この際、膜厚計700を介して得られる蒸着膜の膜厚に基づいて、蒸着プロセスの自動停止、或いは所定の告知(例えば、アラームなど)などを適宜行うことによって、品質レベルの維持による生産性の向上にも寄与している。更に、制御部800は、前述したターゲット供給用チャンバ14からのターゲット110の供給(或いは、交換)動作も制御している。この際、所定のターゲット供給(或いは、交換)タイミングが訪れる毎に、ターゲット供給用チャンバ14の空間15とターゲットチャンバ100の空間101との気密を相互に保った状態で自動的にターゲット110が供給(或いは、交換)される。従って、ターゲット110は常に効率的に使用され、生産性の向上に寄与している。
【0107】
ここで、本実施形態において、ターゲット110は無機材料であり、基板210上には、無機配向膜が成膜される。この際、基板210は、プロセスチャンバ200の内壁面に対し傾斜して配置されるため、基板表面に、蒸着方向に傾斜して配列された多数の柱状構造物からなる無機配向膜が、蒸発物質110aから良好に形成される。即ち、真空蒸着装置10は、ターゲット110たる無機材料の斜方蒸着が可能に構成されている。このような無機配向膜は、液晶表示装置における配向膜として好適に利用可能であり、この場合、柱状構造物の傾斜方向や傾斜角等を制御することによって、所望の配向膜(或いは、所望の配向方向やプレティルト角)を得ることができ、これによって液晶分子の配向状態を規制することができる。しかも、この無機配向膜によれば、有機配向膜において必要となるラビング処理が必要ないから、その分の工程数等を削減可能である。また、液晶分子を所定の配向状態に維持する力が、有機配向膜に比べて強いという利点も得られる。
【0108】
一方、係る蒸着プロセスにおいて基板210上に形成される蒸着膜の膜質は、遮蔽板220によって好適に制御されている。図3に示すように、空間201と空間301との連通面が、治具900及び治具900に保持される基板210の回動中心から外れた位置に形成されることに伴って、基板210が連通口202上を通過する際の速度、即ち角速度は、基板210上においてシャフト910を貫通する軸線Fとの距離に応じて異なっている。
【0109】
本実施形態におけるスリット部221は、この基板の角速度に対応付けられる形で、角速度が小さい内周側程開口面積が小さく、角速度が大きい外周側程開口面積が大きくなるように、より具体的には、蒸発物質110aが基板210の単位面積に蒸着される時間が基板210の全領域(蒸着対象となる領域)において均一となるように形成されており、基板210が回動することによる基板内の蒸着ムラが解消されている。即ち、スリット部221の効果により、蒸発物質110aは、均一な膜厚で基板210上に形成される。従って、蒸着プロセスにおける歩留まりが向上し、生産性が向上するのである。
【0110】
<変形例>
尚、遮蔽板220に備わるスリット部は、上述のスリット部221に限定されない。例えば、図5に示す形状を採ることもできる。ここに、図5は、本発明の第1変形例に係るスリット部222の平面図である。尚、同図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0111】
図5において、スリット部222は、連通口202に沿った面の形状が、基板210が回動する際の外周側程大きい開口面積を有するように構成されている点では、上述したスリット部221と同様であるが、その開口面積の変化割合がスリット部221と異なっている。即ち、スリット部222における連通口202に沿った面を規定する枠線のうち、周方向と交わる径方向の枠線が、内周側から外周側へかけて円弧状に広がっており、係る連通口202に沿った面の開口面積は、外周側へ向かう程大きく増加する形状となっている。このような形状を有することにより、ターゲットチャンバ100に載置されるターゲット110の大きさや形状などに起因した蒸発物質110aの分布の偏りを好適に補正することが可能となる。
【0112】
<第2実施形態>
連通口202を覆う際の態様は、第1実施形態に係る遮蔽板220に限定されない。このことについて、図6を参照して説明する。ここに、図6は、本発明の第2実施形態に係る遮蔽体1000の模式的斜視図である。尚、同図において図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0113】
図6において、遮蔽体1000は、連通口202を覆うバルク状の物体であり、一部に遮蔽体1000を貫通するスリット部1100を備えた、本発明に係る制限手段の他の一例である。
【0114】
スリット部1100は、遮蔽体1000における、連通口202と対面する面部分に矩形の下方開口面1100aを有し、また、遮蔽体1000における、基板210と対面する面部分に下方開口面1100aと同形の上方開口面1100bを有すると共に、下方開口面1100aから上方開口面1100bにかけて遮蔽体1000を貫通してなるスリット状の空間である。
【0115】
スリット部1100によれば、蒸発物質110aが、スリット部1100を通過する過程で、スリット部1100を規定する遮蔽体1000の内壁面に衝突するため、最終的に上方開口面1100bを通過する蒸発物質110aは、比較的その飛行方向が揃ったものとなる。即ち、本実施形態に係る立体的なスリット部1100によって、蒸発物質110aに対し、好適なコリメーションを与えることができる。
【0116】
既に述べたように、蒸着装置10においては、液晶装置など電気光学装置に好適な無機配向膜を斜方蒸着により蒸着することが可能である。この際、蒸発物質110aのコリメーションが不十分だと、例え蒸着膜の膜厚が均一であったとしても、配向膜として十分に機能し得ない。本実施形態に係るスリット部1100によれば、蒸発物質110aにコリメーションを与えるコリメータとして機能することによって、最終的な蒸着膜を配向膜として十分に機能させ得るので好適である。
【0117】
<変形例>
尚、第2実施形態に係る立体的なスリット部は、上述のスリット部1100に限定されず、様々な態様を採ることが可能である。ここで、図7を参照して、このような本発明の第2変形例について説明する。ここに、図7は、本発明の第2変形例に係る各種スリット部の模式的斜視図である。尚、同図において、図6と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0118】
図7において、遮蔽体1000(不図示)に備わる立体的なスリット部は、スリット部1100において蒸発物質110aの飛行方向(即ち、連通面202と交わる方向)への長さを連続的に変化させた、スリット部1200であってもよい(図7(a))。或いは、下方開口面及び上方開口面が矩形であって、且つ夫々の面積が異なるスリット部1300であってもよい(図7(b))。
【0119】
一方、下方開口面及び上方開口面の形状は矩形に限定されない。例えば、下方開口面及び上方開口面が夫々第1実施形態におけるスリット部221の如く扇状に形成された、スリット部1400であってもよい(図7(c))。更に、スリット部1400において、蒸発物質110aの飛行方向への長さを連続的に変化させた、スリット部1500であってもよい(図7(d))。このような各種スリット部の形状は、最終的に蒸着膜に要求される膜特性に応じて、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて適切に与えられてもよい。
【0120】
<電気光学装置の製造方法>
図8を参照して、上述した本実施形態に係る真空蒸着装置を用いて、電気光学装置を製造する方法について説明する。ここでは、電気光学装置の一例として、一対の基板である素子基板と対向基板間に、電気光学物質の一例たる液晶が挟持されてなる液晶装置を製造する場合について説明する。図8は、その製造の流れを示す工程図である。
【0121】
図8において先ず、一方で、素子基板上に、各種配線、各種電子素子、各種電極、各種内蔵回路等を、既存の薄膜形成技術やパターンニング技術等により、その製造すべき機種に応じて適宜作成する(ステップS1)。その後、上述した実施形態に係る真空蒸着装置10を用いて、素子基板における、対向基板に面することとなる側の表面に、斜方蒸着により所定のプレティルト角を持つ無機配向膜を形成する(ステップS2)。
【0122】
他方で、対向基板上に、各種電極、各種遮光膜、各種カラーフィルタ、各種マイクロレンズ等を、既存の薄膜形成技術やパターンニング技術等により、その製造すべき機種に応じて適宜作成する(ステップS3)。その後、上述した実施形態に係る真空蒸着装置10を用いて、対向基板における、素子基板に面することとなる側の表面に、斜方蒸着により所定のプレティルト角を持つ無機配向膜を形成する(ステップS4)。
【0123】
その後、無機配向膜が形成された一対の素子基板及び対向基板を、例えば紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂等からなるシール材を用いて、両無機配向膜が対面するように貼り合わせる(ステップS5)。その後、これらの貼り合わせられた基板間に、例えば真空吸引等を用いて液晶を注入し、例えば接着剤等の封止材による封止や、更に洗浄、検査などが行われる(ステップS6)。
【0124】
以上により、上述した実施形態に係る真空蒸着装置10による斜方蒸着を用いて形成された無機配向膜を備えた液晶装置の製造が完了する。このように、上述した実施形態に係る真空蒸着装置10を用いて無機配向膜を形成するので、本製造方法によればメンテナンスに要する時間を含めた上での生産効率が顕著に高くなる。
【0125】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う真空蒸着装置及び電気光学装置の製造方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置の模式的斜視図である。
【図2】図1の真空蒸着装置における模式的な側面断面図である。
【図3】図1の真空蒸着装置における遮蔽板の模式図である。
【図4】図3において開口部を見下ろした平面図である。
【図5】本発明の第1変形例に係るスリット部の平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る遮蔽体の模式的斜視図である。
【図7】本発明の第2変形例に係る各種スリット部の模式的斜視図である。
【図8】本発明に係る電気光学装置の製造方法の実施形態に係り、液晶装置の製造の流れを示す工程図である。
【符号の説明】
【0127】
10…真空蒸着装置、100…ターゲットチャンバ、101…空間、110…ターゲット、110a…蒸発物質、120…電子ビーム照射系、200…プロセスチャンバ、201…空間、210…基板、220…遮蔽板、221…スリット部、300…飛行チャンバ、301…空間、400…ゲートバルブ、500…ゲートバルブ、600…ロードロックチャンバ、700…膜厚計、800…制御装置、900…治具、1000…遮蔽体、1100…スリット部、1200…スリット部、1300…スリット部、1400…スリット部、1500…スリット部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着源を設置するための第1空間を規定すると共に該第1空間を真空に維持することが可能な第1真空槽と、
前記第1空間に設置され、前記蒸着源に電子ビームを照射することによって前記蒸着源の一部を蒸発物質として蒸発させる電子ビーム照射手段と、
前記第1空間と連通可能であって且つ前記蒸発物質が蒸着膜として蒸着される基板を設置するための空間である第2空間を規定すると共に、少なくとも該第2空間と前記第1空間とが相互に連通した状態において前記第2空間を真空に維持することが可能な第2真空槽と、
前記第2空間において前記基板の少なくとも一部が前記蒸着源の少なくとも一部と対面するように前記基板を保持する保持手段と、
前記保持される基板が前記第2空間において前記第1空間から飛行する前記蒸発物質の飛行方向に交わる方向に沿って回動するように前記保持手段を回動させる回動手段と、
前記蒸着源と前記基板との間に設けられ、前記蒸発物質の前記基板への到達を制限する制限手段と
を具備し、
該制限手段は、前記基板への到達を制限しない場合に比して、前記蒸着膜が有する膜特性を、所定の膜特性に近付けるように前記基板への到達を制限することを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記第1真空槽と前記第2真空槽との間に前記第1及び第2真空槽と夫々着脱可能に設置され、前記第1及び第2真空槽と接続された状態において(i)前記第1及び第2空間と相互に連通可能であり且つ(ii)前記蒸発物質が前記第2空間に向かって飛行するための空間となる第3空間を規定すると共に、少なくとも前記第1及び第2空間と相互に連通した状態において前記第3空間を真空に維持することが可能な第3真空槽を更に具備する
ことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記保持手段は、前記基板の少なくとも一部が、前記第1空間から飛行する前記蒸発物質に対して斜めに対面するように前記基板を保持する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記膜特性は、前記蒸着膜の膜厚を含み、
前記制限手段は、前記膜厚が所定範囲に収まるように前記基板への到達を制限する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記膜特性は、前記蒸着膜の配向状態を含み、
前記制限手段は、前記基板への到達を制限しない場合に比して、前記配向状態が均一に近付くように前記基板への到達を制限する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記第2真空槽は、前記第2空間と前記第3空間との連通面の中心が、前記保持手段が回動する際の中心を規定する軸と交わらないように設置される
ことを特徴とする請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
前記制限手段は、
前記第2空間と前記第3空間との連通面の少なくとも一部を覆う遮蔽部と、
該遮蔽部の一部に形成された開口部と
を含む
ことを特徴とする請求項2又は6に記載の真空蒸着装置。
【請求項8】
前記開口部における前記連通面に沿った面の形状は、前記基板が前記第2空間において回動する際の角速度に基づいて決定される
ことを特徴とする請求項7に記載の真空蒸着装置。
【請求項9】
前記開口部における連通面に沿った面の形状は、前記蒸発物質が前記基板上の単位面積に蒸着される時間が、前記基板の全領域において均一となるように決定される
ことを特徴とする請求項8に記載の真空蒸着装置。
【請求項10】
前記開口部における前記連通面に沿った面は、前記保持手段が回動する際の中心を規定する軸から遠ざかるに連れて徐々に広がった形状に形成される
ことを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項11】
前記開口部は、前記連通面に沿った面が前記連通面と交わる方向へ伸長した立体形状を有する
ことを特徴とする請求項10に記載の真空蒸着装置。
【請求項12】
前記開口部は、前記連通面に沿った面が矩形に形成され、該矩形に形成された面が前記連通面と交わる方向へ伸長した立体形状を有する
ことを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項13】
前記開口部は、前記連通面と交わる方向への長さが、前記保持手段が回動する際の中心軸に向かうに連れて徐々に変化するように伸長する
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の真空蒸着装置。
【請求項14】
蒸着源を設置するための第1空間を規定すると共に該第1空間を真空に維持することが可能な第1真空槽と、
前記第1空間に設置され、前記蒸着源に電子ビームを照射することによって前記蒸着源の一部を蒸発物質として蒸発させる電子ビーム照射手段と、
前記第1空間と連通可能であって且つ前記蒸発物質が蒸着膜として蒸着される基板を設置するための空間である第2空間を規定すると共に、少なくとも該第2空間と前記第1空間とが相互に連通した状態において前記第2空間を真空に維持することが可能な第2真空槽と、
前記第2空間において前記基板の少なくとも一部が前記蒸着源の少なくとも一部と対面するように前記基板を保持する保持手段と、
前記保持される基板が前記第2空間において前記第1空間から飛行する前記蒸発物質の飛行方向に交わる方向に沿って回動するように前記保持手段を回動させる回動手段と、
前記蒸着源と前記基板との間に設けられ、前記蒸発物質の前記基板への到達を制限する制限手段と
を具備し、
前記制限手段は、
前記第2空間と前記第3空間との連通面の少なくとも一部を覆う遮蔽部と、
該遮蔽部の一部に形成された開口部とを含み、
前記開口部における前記連通面に沿った面は、前記保持手段が回動する際の中心を規定する軸から遠ざかるに連れて徐々に広がった形状に形成されることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項15】
無機材料を前記蒸着源とする請求項1から13のいずれか一項に記載の真空蒸着装置によって前記基板上に電気光学装置用の無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程を具備することを特徴とする電気光学装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−39785(P2007−39785A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9610(P2006−9610)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】