説明

真菌感染の治療法

アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントと、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬を含んで成る組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体とともに有効な抗真菌薬を含んで成る新規組成物および調製物に関し、これらの抗真菌薬は組成物および調製物の中へ組込まれうる。
【背景技術】
【0002】
真菌感染は、集中治療室およびもっと一般的には免疫不全および衰弱患者における患者死亡率の主な原因である(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。真菌感染の存在および持続は、広域スペクトラムの抗真菌の選択的圧力、多くの場合に集中治療室などの施設における患者の長期滞在、感染の診断における問題、および治療で使用される真菌剤の効果に起因させることができる。厳格な衛生管理により病院または他の環境での真菌感染はある程度予防し得るが、感染の発生は依然として深刻な問題であり、これに取組む必要がある。
【0003】
真菌症の大部分の臨床的発現は、主にアスペルギルス・フミガトゥス(Aspergillus fumigatus)によって引き起こされるが、他のアスペルギルス種、例えば、A.flavus、A.terreus、およびA.nigerも免疫不全宿主における重度の感染と関係がある(非特許文献4)。
【0004】
感染の原因である真菌病原菌の検出および診断は、抗真菌薬が特定の菌株に対してより有効でありうるため、その後の療法にとって重要である。特許文献1および特許文献2(参照によりその全体が本明細書で援用される)は、真菌ストレスタンパク質、およびそれに対する真菌病原菌の検出のための感度の高い高特異的試験に使用されうる抗体を開示した。
【0005】
一般的に、アスペルギルス種およびカンジダ種によって引き起こされる真菌感染は、全身抗真菌療法の「標準」とみなされる抗真菌薬アンホテリンBによって治療されている(非特許文献3)。残念ながら、アンホテリンBはそれ自体きわめて毒性であり、その使用は、悪寒、発熱、筋肉痛、または静脈血栓症を含む副作用によって抑制される。他の抗真菌薬としては、経口アゾール系薬(ミコナゾール、ケオコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、ボリコナゾール)および5−フルオロサイトシンが挙げられる。しかし、多くの真菌種は、フルコナゾールなどの抗真菌薬に耐性となっており、これらの種はしばしば、この薬剤が予防的に投与されている患者に発生する。抗真菌耐性株の普及の増加に応じ、かつフルコナゾール、イトラコナゾール、およびアンホテリンBの全身リポソーム系変形など治療薬においてなされた最近の進歩にもかかわらず(非特許文献3)、真菌感染の治療のための有効な薬剤の必要性は依然として強い。
【0006】
上記の必要性は、ヒトまたは真菌感染の治療のための組成物を開示する特許文献3で取組まれている。この組成物は、真菌ストレスタンパク質の保存エピトープに特異的な抗体、hsp90を含んで成り、この抗体は既知のポリエン抗真菌薬、特にアンホテリンBと併用される。具体的には、この抗体(以後、Mycograb(RTM)と呼ぶ)は、多くの真菌種の全体を通じて保存されている、配列番号1の配列を有するペプチドによって表示されているエピトープを認識する。意外にも、多種多様の病理的に重要な真菌株(例えば、カンジダ種)に対するアンホテリンBの効果が抗体の存在下に大幅に増強され、それによって低治療量または同じ用量でより有効な治療のいずれかを可能にし、これが望ましくない副作用の削減を可能にすることが証明された。さらに、特許文献3に開示された組成物は、組成物に使用される真菌薬に本質的に耐性であった真菌感染の有効な治療を可能する。重要なことに、Mycograb(RTM)抗体と併用したフルコナゾール(経口アゾール系抗真菌薬)が、カンジダ株に対してほとんど相乗効果を有さないことがわかった。
【0007】
アゾール系抗真菌薬のすべて、真菌シトクロムP450依存酵素ラノステロール14−α−デメチラーゼを通じて真菌血漿膜の主なステロール成分であるエルゴステロールの合成を阻止することにより、一般的な作用様式を経て作用する。結果として生じるエルゴステロールの削除および14−α−メチル化前駆体の同時の蓄積は、真菌膜におけるエルゴステロールのバルク機能を阻害し、膜の流動性および一部の膜結合酵素の活性を変化させる。正味効果は真菌成長および複製の阻害である(非特許文献5)。
【0008】
Mycograb(RTM)抗体と併用したフルコナゾールはカンジダ株に対してほとんど相乗効果を示さず、経口アゾール系抗真菌薬の作用様式は普通であるため、ミコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、およびボリコナゾールなど他の経口アゾール系抗真菌薬もMycograb(RTM)抗体と併用して相乗効果を示さないことは当然であった。
【特許文献1】英国特許(GB)第2240979号明細書
【特許文献2】欧州特許(EP)第0406029号明細書
【特許文献3】国際公開公報(WO)第01/76627号明細書
【非特許文献1】ゴールド(Gold)、J.W.M.、1984年、Am.J.Med.76:458−463頁
【非特許文献2】クライン(Klein)、R.S.ら、1984年、N.Engl.J. Med.311:354−357頁
【非特許文献3】バーニー(Burnie)、J.P.、1997年、Current Anaesthesia & Critical Care 8:180−183年
【非特許文献4】エスピネル−イングロフ(Espinel−Ingroff)、A.、2003年、J.Clin.Microbiol.41:403−409頁
【非特許文献5】Maertens、J.A.、2004年、Clin.Microbiol.Infect.10(補遺1):1−10頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは現在、アゾール系真菌薬が、アスペルギルスまたはカンジダ株による感染の治療において特許文献3に開示されたMycograb(RTM)抗体とほとんど、またはまったく相乗効果を示さなかったという従来の所見にもかかわらず、Mycograb(RTM)抗体と併用した経口アゾール系抗真菌薬イトラコナゾール、およびボリコナゾールとの間の治療的相乗効果があることを見出した。実験(以下)は、この相乗効果がイトラコナゾールおよびボリコナゾールに限定されるが、未だ試験されていない、または開発中である他の経口アゾール系抗真菌薬もMycograb(RTM)抗体との多少の相乗効果を示しうることを示した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントと、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬とを含んで成る組成物が提供される。
【0011】
さらに、複合調製物、例えば、真菌感染の治療法における同時、別個、または連続の使用のための、アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントと、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬とを含んで成る医薬パックが提供される。
【0012】
さらに、アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントと、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬の使用を特徴とするヒトまたは動物の体の真菌感染の治療法のための薬物の製造方法が提供される。
【0013】
さらに、真菌感染の治療法の薬物の製造方法における、アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントとを含んで成る組成物と、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬を含んで成る抗真菌薬との使用が提供される。
【0014】
予備段階の結果は、ポザコナゾールが同様の相乗効果の結果を達成することが可能であることも示し、したがって本発明は、ポザコナゾール、およびアスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントの組成物、複合調製物、製造および使用方法にも拡大する。
【0015】
抗体またはそれの抗原結合フラグメントは、配列番号1の配列を含んで成るペプチドによって示されるエピトープに特異的でありうる。
【0016】
抗体またはそれの抗原結合フラグメントは、配列番号2の配列を含んで成るペプチドによって示されるエピトープに特異的でありうる。
【0017】
抗体、その製造および使用は公知であり、例えば、ハルロウ(Harlow)、E.およびレーン(Lane)、D.、Antibodies:A Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1999年において開示されている。
【0018】
抗体は、当技術分野で周知の標準の方法を使用して生成されうる。抗体の例としては、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、一本鎖、Fab発現ライブラリーによって産生されるFabフラグメント、および抗体の抗原結合フラグメントが挙げられる(これらに限定されない)。
【0019】
抗体は、宿主の範囲、例えば、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、ヒトなどにおいて生成されうる。それらは真菌ストレスタンパク質、もしくは免疫特性を有するそれのフラグメントまたはオリゴペプチドによる注射によって免疫化されうる。宿主の種によって、さまざまなアジュバントを使用し、免疫応答を増大させることができる。かかるアジュバントとしては、フロイント、水酸化アルミニウムなどのミネラルジェル、およびリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン、およびジニトロフェノールなどの表面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。ヒトにおいて使用されるアジュバントの中では、BCG(ウシ型弱毒結核菌)およびコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)が特に有用である。
【0020】
真菌ストレスタンパク質に対するモノクローナル抗体、またはそれのフラグメントまたはオリゴペプチドは、培養における連続細胞系による抗体分子の産生を提供する方法を使用して調製されうる。これらには、ハイブリドーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法、およびEBVハイブリドーマ法が含まれるが、これらに限定されない(コーラー(Koehler)ら、1975年、Nature、256:495−497頁、コスボル(Kosbor)ら、1983年、Immunol.Today 4:72頁、コート(Cote)ら、1983年、PNAS USA、80:2026−2030頁、コール(Cole)ら、1985年、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss Inc.、ニューヨーク、77−96頁)。
【0021】
また、「キメラ抗体」の製造のために開発された方法、適切な抗原特異性および生物活性を有する分子を得るマウス抗体遺伝子のヒト抗体遺伝子へのスプライシングが使用されうる(モリソン(Morrison)ら、1984年、PNAS USA、81:6851−6855頁、ノイベルガー(Neuberger)ら、1984年、Nature、312:604−608頁、タカダ(Takeda)ら、1985年、Nature、314:452−454頁)。あるいは、一本鎖抗体の製造のために記載された方法が、真菌ストレスタンパク質特異的一本鎖抗体を製造する当技術分野で周知の方法を使用して採用されうる。関連特異性を有するが、明確なイディオタイプ組成物の抗体が、無作為コンビナオリアル免疫グロブリンライブラリーからの鎖シャフリングによって生成されうる(ブルトン(Burton),D.R.、1991年、PNAS USA、88:11120−11123頁)。
【0022】
抗体は、リンパ球集団におけるインビボ産生を誘発することによって、または高特異的結合試薬の組換え免疫グロブリンライブラリーまたはパネルをスクリーニングすることによっても製造されうる(オルランディ(Orlandi)ら、1989年、PNAS USA、86:3833−3837頁、ウィンター(Winter)、Gら、1991年、Nature、349:293−299頁)。
【0023】
抗原結合フラグメントは、例えば、抗体分子のペプシン消化によって産生されうるF(ab’)2およびF(ab’)2のフラグメントのジスフィルド架橋を削減することによって生成されうるFabフラグメントも生成されうる。あるいは、Fab発現ライブラリーを構成し、所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な同定を可能にすることができる(ヒューズ(Huse)ら、1989年、Science、256頁:1275−1281頁)。
【0024】
さまざまな免疫アッセイが所望の特異性を有する抗体を同定するスクリーニングのために使用されうる。確立した特異性を有するポリクローナルまたはモノクローナル抗体のいずれかを使用する競合結合または免疫放射定量測定法の多数のプロトコールが、当技術分野で公知である。かかる免疫アッセイは一般的に真菌ストレスタンパク質もしくはそれのフラグメントまたはオリゴペプチドと、その特異的抗体との間の錯体形成の測定を含む。2つの非干渉真菌ストレスタンパク質エピトープに対して特異的なモノクローナル抗体を利用する特異的2部位、モノクローナルベースの免疫アッセイが使用されうるが、競合結合アッセイも使用されうる(マドックス(Maddox)ら、1983年、J.Exp.Med.、158:1211−1216頁)。
【0025】
例えば、組成物または複合調製物に使用される抗体は配列番号3の配列を含んで成りうる。
【0026】
組成物または複合調製物は真菌感染の治療に使用されうる。真菌感染はアスペルギルス属の生物によるものでありうる。
【0027】
真菌感染は前記抗真菌薬それ自体に耐性でありうる。
【0028】
組成物または複合調製物はヒトまたは動物の体の真菌感染の治療の方法に使用されうる。
【0029】
組成物または調製物はさらに、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤を含んで成る。同様に、本発明の製造の方法またはそれにおける使用も薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤を含んで成りうる。薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤の例は当技術分野で公知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences and US Pharmacopoeia(1984年、マック・パブリッシング・カンパニー(Mack Publishing Company)、イーストン、ペンシルベニア(PA)、米国(USA))を参照されたい。
【0030】
さらに、アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープ、およびイトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬に特異的な治療有効量の抗体またはそれの抗原結合フラグメントをそれを必要とする患者に投与するヒトまたは動物の体の真菌感染の治療方法が提供される。
【0031】
組成物または複合調製物は経口投与されうる。
【0032】
さらに、真菌感染の治療法の薬物の製造方法における、アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントとを含んで成る組成物と、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬を含んで成るキットが提供される。
【0033】
キットは真菌感染の治療における使用のためでありうる。
【0034】
本発明による抗体またはそれの抗原結合フラグメントは検出可能な標識で標識され、またはエフェクター分子、例えば、イトラコナゾールまたはボリコナゾールなどの抗真菌薬、もしくはリシンなどの毒素、または酵素などの薬剤で、従来の方法を使用して抱合されるとともに、本発明はかかる標識抗体または抗体抱合体に拡大する。
【0035】
必要に応じて、抗体の混合物、例えば、本発明による真菌ストレスタンパク質の異なるエピトープを認識する2つもしくはそれ以上の抗体の混合物、および/または異なるクラスの抗体の混合物、例えば、本発明のものまたは異なるエピトープを認識するIgGおよびIgM抗体の混合物が診断または治療のために使用されうる。
【0036】
本明細書で論じられる文献の各々の内容は、その中に引用される文献を含めて、参照によりその全体が本明細書で援用される。
【0037】
本発明は、例示のみによって、組成物およびそれによる実験の特定の実施形態を示す以下の説明からさらに明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
実験
下記の実験では、抗真菌剤アンホテリシンB、カスポファンジン、ボリコナゾール、およびイトラコナゾールと併用したMycograb(RTM)抗体の抗真菌効果が調査された。Mycograb(RTM)抗体は、配列番号1および2の配列を有するペプチドによって表示されるエピトープを認識する。結果は、臨床的に重要なさまざまなアスペルギルス種に対するMycograb(RTM)抗体と組合せたボリコナゾールおよびイトラコナゾールについて意外にも強い相乗効果が明らかにされることを示す。この相乗効果は、真菌感染の臨床治療に対する重要な意義を有する。
【0039】
材料と方法
抗真菌薬
アンホテリシンB(AMB、シグマ(Sigma))、カスポファンジン(Caspo)、ボリコナゾール(VOR)、およびイトラコナゾール(ITZ)の保存溶液を国立臨床検査標準委員会(National Committee for Clinical Laboratory Standards)(M38−A)に従って、グルタミンブロス培地を有し、0.165mmol/リットルモルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)でpH7.0に緩衝されたRPMI 1640中で調製した。AMB保存溶液を100%メチルスルホキシド(DMSO)中の100×シリーズとして調製し、培地中で0.03125〜16μg/mlの濃度範囲に希釈した。カスポファンジン、ボリコナゾール、およびイトラコナゾールを0.03125〜1024μg/mlの濃度範囲で試験し、かつMycograb(RTM)(ノイテック・ファルマ(NeuTec Pharma)plc)を0.25〜1024μg/mlの濃度範囲で試験した。
【0040】
試験単離株
アスペルギルス・フミガトゥス(Aspergillus fumigatus)(2)、A.flavus(1)、A.terreus(1)、およびA.niger(1)の臨床単離株をマンチェスター・ロイヤル病院(Manchester Royal Infirmary)微生物科(マンチェスター(Manchester)、英国(UK))から得た。
【0041】
抗体
配列番号1の配列を有する真菌hsp90ストレスタンパク質エピトープに特異的であるMycograb(RTM)抗体のDNA配列(英国特許(GB)第2240979号明細書および欧州特許(EP)第0406029号明細書に開示)を大腸菌(Escherichia.coli)(オペロン・テクノロジーズ社(Operon Technologies Inc.)、アラメダ、カリフォルニア州(CA)、米国(USA))における発現のコドン最適化によって遺伝子組換えされ、大腸菌(E.coli)発現ベクターへ挿入した。本発明のMycograb(RTM)のアミノ酸配列は、配列番号3の配列を含んで成る(重、軽、およびスペーサードメインを含む)。
【0042】
Mycograb(RTM)抗体は大腸菌宿主で発現され、標準分子生物学プロトコールを使用するイミダゾール交換カラムを使用する親和性クロマトグラフィーによって精製された(例えば、ハーロー(Harlow)とLane、上記、サンブルック(Sambrook),J.ら、1989年、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク、サンブルック(Sambrook),J.アンド(&)ラッセル(Russel),D.、2001年、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)を参照)。Mycograb(RTM)抗体を95%純度まで単離した。
【0043】
Mycograb(RTM)抗体の製剤を以下のように調製した。すなわち、純粋なMycograb(RTM)抗体10mg、医薬グレード(Ph Eur)尿素150mg、およびL−アルギニン(Ph Eur)174mgを含有するバイアルを水5ml中に再構成した。
【0044】
Mycograb(RTM)抗体のアスペルギルス属hsp90との交差反応
免疫ブロット法は、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、アスペルギルス腫、侵襲性アスペルギルス症を有する患者におけるアスペルギルス・フミガトゥスに対する抗体反応を解離するために以前に使用されている。これにより18−92kDaの範囲の分子量の多数の抗原が同定された。88kDaでの1つの抗原がMycograb(RTM)とのその交差反応に基づくhsp90ホモログとして同定された(バーニー(Burnie)、J.P.、およびR.C.マシューズ(Matthews)1991年 J.Clin. MICrobiol.29:2099−106頁)。エピトープマッピングは、Mycograb(RTM)抗体が、A.FumigatusおよびA.nigerにおいて保存されている配列番号2の配列を有するペプチドによって表示されるエピトープに対して反応性であることを示した。
【0045】
抗真菌感受性試験
アンホテリシンB、カスポファンジン、ボリコナゾールおよびイトラコナゾール, およびMycograb(RTM) 抗体の最小阻害濃度(MIC)を国立臨床検査標準委員会(National Committee for Clinical Laboratory Standards)文書(document)M38−Aに従ってブロス微量希釈によって判定した。簡単に述べると、AMB(0.03125〜16μg/ml)、カスポファンジン、ボリコナゾール、およびイトラコナゾール(0.03125〜1024μg/ml)、およびMycograb(RTM)(0.25〜1024μg/ml)の濃度をMIC評価項目およびチェッカーボード滴定によって単独および併用で試験した。接種懸濁液を7日齢サブロー(Sabouraud)プレートからのコロニーをプロービングすることによってグルタミン培地を有する緩衝RPMI中で調製した。懸濁液をアスペルギルス種、0.15−0.17(68%〜70%透過率)に対して0.09−0.11(80%〜82%透過率)に調節した。接種をさらにアッセイ中の抗真菌薬に添加した場合に1:2に希釈した(最終接種(0.4×10〜0.5×10)。単独または併用のAMBおよびMycograb(RTM)については、評価項目は成長をもたらさない濃度(MIC−0)として判定された。マイクロタイタープレートをアスペルギルス種について攪拌せずに48時間37℃下にインキュベートした。単独またはMycograb(RTM)抗体との併用でのカスポファンジン、ボリコナゾールおよびイトラコナゾールについては、MIC評価項目は、成長対照と比べ濁度の顕著な減少をもたらす濃度(≧50%成長阻害、MIC−2)として判定された(キール(Keele)ら、2001年、Espinel−Ingroff 2003年)。最終阻害濃度(FIC)を各薬剤について第2の薬剤の存在下のMICをその非存在下のMICで割ることによって計算した。各組合せについて、2つの部分が生じ、これらは合計されて部分最終阻害濃度を生じた。相乗効果は、≦0.5の値によって規定され、普通は>0.5〜<4.0の値によって規定され、拮抗作用は≧4.0の値によって規定された(マシューズ(Matthews)ら、2003年)。
【0046】
結果
Mycograb(RTM)抗体は、配列番号1の配列を有するペプチドによって表示されるエピトープの認識に加えて、配列番号2の配列を有するペプチドによって表示される保存アスペルギルス種エピトープをも認識する。
【0047】
Mycograb(RTM)抗体と抗真菌薬の併用の効果を検査するインビトロ実験が表1−4に示されている。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
概要
表1−4に示されている結果は、Mycograb(RTM)抗体はそれ自体、特定のアスペルギルス種の成長を阻害することが可能であったが、この抗体をイトラコナゾールと併用した場合に意外にも検査した全種に対する高レベルの抗真菌活性が確認され、この抗体をボリコナゾールと併用した場合にA.nigerを除き検査した全種に対して高レベルの抗真菌活性が確認された。抗体とイトラコナゾール/ボリコナゾールとの間のこの意外な効果は、フルコナゾールなど他の経口アゾール系抗真菌薬、または抗体と併用した場合のアンホテリンBまたはカスポファンジンでは確認されなかった。
【0053】
結論
ここに示されたデータは、Mycograb(RTM)抗体と抗真菌薬イトラコナゾールおよびボリコナゾールとの間には意外な相乗効果があり、これが多種多様の病理的に重要なアスペルギルス株に対する抗真菌活性の増強をもたらすことを明らかに示す。これらの結果は、ヒトまたは動物の真菌感染の治療のためにMycograb(RTM)抗体とともに、イトラコナゾールおよびボリコナゾールのいずれかを含んで成る組成物の使用を可能にする。本発明は、低治療量または同じ用量でより有効な治療のいずれかを可能にし、それによって望ましくない副作用を削減する。
【0054】
本発明のいくつか重要な臨床的意義がある。第一に、アスペルギルス感染の治療におけるイトラコナゾール/ボリコナゾールとMycograb(RTM)抗体の相乗効果の組合せの生成が、最適な治療となる。これはこれらの感染の死亡率および罹患率の削減をもたらす。第二に、イトラコナゾール/ボリコナゾールは薬物が投与される対象における望ましくない副作用と関係がある。例えば、ボリコナゾールは、発熱、頭痛、腹痛、嘔気、嘔吐、下痢、末梢浮腫、皮膚発疹、および視覚障害ときわめて一般的に関係がある。本発明によって提供される相乗効果は、効果を維持し、かつ同時に毒性および有害な副作用を削減しながら低用量のイトラコナゾール/ボリコナゾールのいずれかが使用されうることを意味する。第三に、Mycograb(RTM)抗体の効果に危害を加えない毒性は、調査される高用量のイトラコナゾール/ボリコナゾールの臨床効果を可能にし、さらに臨床結果の改善に貢献するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントと、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬を含んで成る組成物。
【請求項2】
アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントと、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬を含んで成る、真菌感染の治療法における同時、別々、または連続使用のための複合調製物。
【請求項3】
前記抗体またはそれの抗原結合フラグメントが、配列番号1の配列を有するペプチドによって表示されるエピトープに特異的である、請求項1に記載の組成物または請求項2に記載の複合調製物。
【請求項4】
前記抗体またはそれの抗原結合フラグメントが、配列番号2の配列を有するペプチドによって表示されるエピトープに特異的である、請求項1または請求項3に記載の組成物、または請求項2または請求項3に記載の複合調製物。
【請求項5】
前記抗体が配列番号3の配列を含んで成る、請求項3または請求項4に記載の組成物または複合組成物。
【請求項6】
真菌感染の治療法で使用するための請求項1または3〜5のいずれか1つに記載の組成物、または請求項2〜5のいずれか1つに記載の複合調製物。
【請求項7】
前記真菌感染がアスペルギルス属の生物による、請求項6に記載の組成物または複合調製物。
【請求項8】
前記真菌感染が前記抗真菌薬それ自体に耐性である、請求項5または請求項6に記載の組成物または複合調製物。
【請求項9】
ヒトまたは動物の体の真菌感染の治療方法で使用するための請求項1または3〜8のいずれか1つに記載の組成物、または請求項2〜8のいずれか1つに記載の複合調製物。
【請求項10】
アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントと、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬の使用を特徴とするヒトまたは動物の体の真菌感染の治療法のための薬物の製造方法。
【請求項11】
真菌感染の治療法の薬物の製造方法における、アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントとを含んで成る組成物と、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬を含んで成る抗真菌薬の使用。
【請求項12】
前記真菌感染が前記抗真菌それ自体に耐性である、請求項11に記載の組成物の使用。
【請求項13】
請求項1または3〜8のいずれか1つに記載の組成物、または請求項2〜8のいずれか1つに記載の複合調製物の治療有効量をそれを必要とする患者に投与するステップを含んで成るヒトまたは動物の体の真菌感染の治療方法。
【請求項14】
前記組成物または複合調製物が経口投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
アスペルギルス属の生物からのhsp90の少なくとも1つのエピトープに特異的な抗体またはそれの抗原結合フラグメントと、イトラコナゾールおよびボリコナゾールより成る群から選択される少なくとも1つの抗真菌薬を含んで成るキット。
【請求項16】
真菌感染の治療法で使用するための請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記抗体または抗原結合フラグメントが検出可能な標識で標識されている、請求項1または3〜8のいずれか1つに記載の組成物、または請求項2〜8のいずれか1つに記載の複合調製物。
【請求項18】
前記抗体または抗原結合フラグメントがエフェクター分子と共役している、請求項1または3〜8のいずれか1つに記載の組成物、または請求項2〜8のいずれか1つに記載の複合調製物。
【請求項19】
実施例に関連して実質的に前述された発明。

【公表番号】特表2007−533716(P2007−533716A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508962(P2007−508962)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001478
【国際公開番号】WO2005/102386
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(500030172)ニュウテック ファーマ パブリック リミテッド カンパニー (6)
【Fターム(参考)】