説明

眼用レンズの処理方法

【課題】一方の主面上に薄い膜が形成されているレンズの他方の主面上に薄い膜を形成する場合に、一方の主面上に形成されている膜の特性が損なわれることを回避する。
【解決手段】最初に、レンズの一方の主面(すでに薄い膜が形成されている主面)上に、疎水的および/または疎油的な膜を形成する。そして、レンズの他方の主面に対して、高エネルギーおよび/または反応性の化学種による処理を行い、その後またはそれと同時に、他方の主面上に無機または有機の膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの主面を有しており、少なくとも第1の面が、レンズの表面特性を変える外側の有機または無機の薄膜を備えている眼用レンズを得る方法に関する。より正確には、2つの主面を有しており、それぞれの面が多層の被膜を備えており、その外側の膜が疎水的なおよび/または疎油的な特性をもつ薄膜である眼用レンズを得ることを可能にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的に、多層の被膜を有する眼用レンズは、真空の封入容器中で、レンズの表面に気化した材料を成膜させることによって得られる。
従来の配置に従うと、レンズは、回転ラックまたはカバーの上に置かれる。回転ラックまたはカバーは、封入容器の上部に位置しており、そして、そこには、レンズが置かれる場所、特に円形の穴部が設けられる。
【0003】
慣用的に、その中では以下の名前が使用される。
−処理領域:封入容器の下の部分に位置する領域であり、封入容器内での内部の比較的低い表面や回転するカルーセルの表面に、堆積して結合する物質の源を有している。
−ラウンドレンズ:丸いレンズ
【0004】
各ラウンドレンズはその外縁でカルーセルと接触して保持されており、被覆される面は、処理領域の方に向けて配置されている。
より正確には、各レンズは、環状でリングの形をしている独立した保持部の上に配列されている。保持部の直径は、わずかにレンズの直径より小さいので、レンズは、その外縁だけで保持部の上に乗っている。リングはまた、リングに良好な位置決めを提供する伸縮性のある手段を含んでいる。
そのような形の組み立て部品は、選択されたカルーセルの穴部の上に配置され、リングは穴の外縁に配置され、そして、適切な固定手段を通じてカルーセルと一体になっている。
【0005】
蒸着される物質は、真空の封入容器の下部に位置しているるつぼ内に配置され、るつぼの方に向けられた電子ビームまたは単純なジュール効果熱源によって、物質が気化されるという性質に従って普通に加熱される。
そして、気化された物質は、処理される面上に堆積する。所望の厚みに達したら、最初の物質の蒸着を終了し、そして、第2の物質の気化を続ける。
一般に、眼用レンズの面のうち一方が完全に処理され、そして、処理されていない面を気化される物質の源の方へ方向づけるために、この面がさかさまにひっくり返される。その後で、レンズの最後の面が第1の面と同様に普通に処理を受ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第2の面の操作における技術的な課題の1つは、第1の面に成膜された膜の完全な状態、とりわけ、最も外側の膜の完全な状態が、維持されなければいけないことである。
この問題は非常に重要である。それは、眼用レンズの最も外側の膜は、表面エネルギーの特性を変化させるために必須であるが、非常に薄い厚みを有しており、普通は30nm以下とされており、更に頻繁に1〜20nmとされており、より好ましくは1〜10nmとされているからである。疎水的なおよび/または疎油的な(oleophobic)膜のような特定の膜の場合には、厚みはわずか2〜10nmにしかならず、更に2〜5nmにしかならない。
【0007】
しかし、基板の表面を、蒸着された分子よりエネルギーが高い化学種(より正確には0.1eV以上高いエネルギーを有する化学種)または反応性の化学種による処理に供する必要が生じる場合がある。すなわち、互いに異なる化学種であり、これらは、基板の表面に接触したときに、化学的に反応するように適合している。
とりわけ、多層被膜が成膜される前に、眼用レンズは、イオン衝撃(特に、希ガス、酸素、もしくはその混成物、窒素、または空気)、プラズマ処理、または無機レンズの場合にはコロナ処理(典型的に、10-2mbarの圧力で酸素プラズマで行われる処理)のような表面処理を受ける。
【0008】
このような活性化処理は、次の膜の成膜の前に、成膜されている膜のうち1つの表面を前処理するために、行ってもよい。
期待されている目的は、本質的に、処理により密着を向上させることである。
また、レンズ表面へのイオン衝撃は、機械的特性を改良するためや特に層を安定させるために(to compact)、層を形成している物質を気化する目的で用いられてもよい。
このような方法は一般的に行われており、「イオンアシスト蒸着(ion-assisted deposition)」またはIADとして知られている。
【0009】
この処理は、主にまだ処理されていない面に対して行われるが、活性化または安定化処理のために発生させられた化学種は、非常に高エネルギーおよび/または反応性であり、すでにレンズの裏面に成膜されている膜を、変化させるのに適合する。特に、処理領域から最も近い位置に置かれているレンズ、すなわちカルーセルや外側の最頂部の周縁部に置かれたレンズに適合する。
【0010】
その上、一般的に行われている場合のように、丸くないレンズであり、厚みが、レンズの着用者の特性(瞳孔の偏りなど)だけではなく対応するフレームに応じて最小とされており、取り付けのための準備ができている最終レンズに全体的に近い形を有するという特徴をもつ、いわゆる「較正済みレンズ」を処理することがたびたびある。
【0011】
このような、その形がもはや円形ではなくその大きさが保持部より小さい較正済みレンズを固定するために、保持部に適応させるための仲介部材が使用される。
このような仲介部材は、全体的にその外縁でレンズを取り囲むために較正済みレンズのサイズに応じて形作られており、保持部材に強固に取り付けられている。このように、上述した保持部材への較正済みレンズの適応が可能とされる。
【0012】
従来使用されていた装置でこのようなレンズの処理を行うことは、困難である。
実際、ラウンドレンズの場合とは異なり、較正済みレンズの表面は、レンズ/仲介部材/保持部材組み立て部品が上に配列しているカルーセルの丸い穴部全体を被覆してはおらず、その結果として、丸い穴部の大部分は、高エネルギーおよび/または反応性の化学種が通過するための開口を形作る。
このように、処理領域の反対側のレンズ面は高エネルギーおよび/または反応性の化学種の影響をより受けやすくなっており、そのような理由のため変化しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、処理領域の反対にある外側の薄い膜に対する変化のいかなる問題をも低減し、またはそれどころか解消するための方法を提供することを目的とし、2つの主面を有し、そのうち第1の面が外側の薄い有機または無機の膜を有している眼用レンズの処理方法であって、
表面に対する物理的衝突および/または化学的修飾の実施を可能にする、高エネルギーおよび/または反応性の化学種による第2のレンズ表面に対する少なくとも1つの処理工程と、
上述した高エネルギーおよび/または反応性の化学種による処理工程と同時にまたはそれに続けて行われる、無機または有機の膜を成膜させるための少なくとも1つ以上の任意の工程とを有し、
高エネルギーおよび/または反応性の化学種による処理工程の前に、一時的な保護膜の成膜が、外側の薄い有機または無機の膜の上に行われることを特徴とする。
【0014】
本発明は、少なくとも一方の面が、一時的な保護層で被覆された外側の薄い有機または無機の膜を有している較正済みレンズに関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に従った方法を実行するための真空処理装置の概略図である。
【図2】図2は、図1に従った装置のカルーセルに設けられた丸い穴部へ較正済みレンズを固定するためのシステムの概略図である。
【図3】図3は、適当な疎水性/疎油性処理と、変化した疎水性/疎油性処理に対して、オイル型製品で湿潤性テストを行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
説明の続きは、添付の図面を参照して行う。
本発明に従って処理されたレンズは、すでにその面の一方が外側の薄い膜で被覆されている。
外側の薄い有機または無機の膜は、好ましくは疎水的なおよび/または疎油的な表面被膜であり、特に、疎水的なおよび/または疎油的な表面被膜は、単層または多層反射防止被膜上に成膜されている。
【0017】
疎水的なおよび/または疎油的な被膜は、通常、反射防止被膜、特に無機物質によるものを有するレンズに、例えば潤滑油の堆積と関係した汚れ易さを減らすために、設けられる。
疎水的なおよび/または親水的な被膜は、14mJ/m2未満、より好ましくは12mJ/m2未満の表面エネルギーを与えることが好ましい(以下の参考文献で明らかにされているOwens-Wendt法に従って算出される表面エネルギーである。参考文献:“Estimation of the surface force energy of Polymers”Owens D. K., Wendt. R. G.(1969)J. APPL. POLYM. SCI., 13,1741−1747)(mJ:milliJoules)。
【0018】
疎水的なおよび/または疎油的な被膜は、反射防止被膜の表面上に、レンズの表面エネルギーを低減させる化合物を被覆することによって得られる。
このような化合物は、例えば、US4410563、EP0203730、EP749021、EP844265およびEP933377の特許など、従来技術の中で幅広く知られている。
【0019】
フッ素化された官能基、特に、1以上のパーフルオロカーボンまたはパーフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物は、最も頻繁に使用される。
例えば、上述した1以上のフッ素化された官能基を有する、シラザン、ポリシラザン、シリコーン化合物が挙げられる。
【0020】
疎水的なおよび/または疎油的な被膜を得るための公知の方法は、フッ素化された官能基とSi−R基(Rは−OH基またはその前駆体であり好ましくはアルコキシル基である)とを有する化合物を、反射防止被膜上に設ける方法である。このような化合物は、反射防止被膜表面上で、直接的にまたは加水分解の後で、重合および/または架橋反応をしうる。
【0021】
レンズ表面エネルギーを低減する化合物の被覆は、上述の化合物の溶液に漬せきさせることにより、または、気相堆積によって一般的に行われ、この最後の被覆様式が好ましい。一般的に、疎水的なおよび/または親水的な被膜は、30nm以下、より頻繁には1〜20nm、好ましくは1〜10nm、更に好ましくは2〜5nmの厚みを有する。
【0022】
どのような保護被膜の成膜の前にも、レンズの光学特性、特にその反射防止特性の検査が、任意に行われうる。
成膜が真空下で行われた場合には、封入容器内は大気圧に戻され、ついで、検査が行われる。
保護膜は、外側の薄い膜の上に直接被覆される。
一般的に言って、保護膜は、種々のレンズ処理工程で続いて起こる外側の薄い膜の特性の変化を避けるために、十分な厚みを有しているべきである。
【0023】
厚みは、偶発的に外側の薄い膜の表面に到達し得る反応性の化学種のエネルギーに応じて選択される。
このようなエネルギーは、基板(レンズ)表面のレベルで電流密度が30〜700μA/cm2となるように、40〜150eVの範囲をとりうる。
【0024】
保護膜の厚みは5nm〜10μmの範囲とすることが好ましく、保護膜は連続的であることが好ましい。
保護膜が無機膜である場合、特に蒸着により成膜される場合には、その厚みは5〜200nmであることが好ましく、10〜200nmであることがより好ましい。
【0025】
本方法が、イオン銃からのイオンやプラズマのような高エネルギーの化学種での処理工程を有する場合には、より厚い保護膜が選択される。
一般的に、保護膜の厚みが不十分である場合には、薄い疎水的なおよび/または疎油的な膜は、十分に保護されなくなる危険性がある。
本発明者は、反対に保護膜の厚みが厚すぎる場合には、特に本質的に無機の保護膜のときには、膜の内部で、機械的な応力が生じ、それは所望の特性に対して不利となりうることを見出した。
【0026】
明らかに、保護膜の材料は、疎水的なおよび/または疎油的な被膜の表面特性を変えないものである方がよく、そして、物質除去後は、レンズの光学および表面特性は保護膜が成膜される前と完全に同じである方がよい。
一時的な保護膜は、無機材料、特に、金属フッ化物、金属フッ化物の混合物、金属酸化物または金属酸化物の混合物からなることが好ましい。
【0027】
フッ化物の例には、フッ化マグネシウムMgF2、フッ化ランタンLaF3またはフッ化セリウムCeF3が含まれる。
有用な酸化物は、チタン、アルミニウム、ジルコニウムまたは酸化プラセオジムである。
酸化アルミニウムと酸化プラセオジムとの混合物が推奨される。
特に推奨され市場で入手可能な材料は、Leybold社製のPASO2である。
【0028】
有機材料から作製される保護膜の例には、例えばテフロン(R)などのポリテトラフルオロエチレンがベースとなっている膜が含まれる。
一時的な保護膜自体は、多層、特に2層でもよい。
その場合、最初に、疎水的なおよび/または疎油的な薄い膜の上に、特に真空下での蒸着によって、厚みが薄い(2〜200nm、好ましくは5〜200nm)無機物の第1の膜が形成され、ついで、この第1の膜の上に有機物の層が被覆されることが好ましい。
有機物の膜は、ラテックスの成膜と硬化によって得られることが好ましい。
適切なラテックスは、アクリルまたはメタクリルラテックス、または、W234とW240という商標でバクセンデン社によって販売されているようなポリウレタンラテックスである。
【0029】
一般に、第1の無機物の膜上に被覆される有機物の膜は、第1の無機物の膜の厚みより格段に厚く、その厚みは典型的には0.2〜10μmの範囲である。
有機物の膜は、良好な機械的保護をもたらし、例えば、膜をその外縁から引っ張るなど、引き剥がすことによって容易に除去することができる。
好ましくは、有機物の膜の材料は、無機物からなる第1の膜と有機物からなる第2の膜との間の界面での密着が、疎水的なおよび/または疎油的な膜と無機物からなる第1の膜との間の界面での密着より高くなるように、選択される。
【0030】
それゆえに、有機物の膜が剥がされたときに、有機物の膜に密着している無機物の膜もまた、除去される。
保護膜は、例えば、スプレー、遠心法、浸せきなど、気相(真空下での成膜)または液相で、どのような適当な従来通りの適切な方法によって被覆されてもよい。
【0031】
一般的に、疎水的なおよび/または疎油的な反射防止被膜は、バキュームベル中での蒸気により成膜され、そして、一時的な保護膜は同じ方法で被覆することが好ましく、それにより、一連の操作は、工程の間にレンズに対する過大な操作をすることなく、連続して行うことができる。
真空成膜の別の利点は、保護膜が被覆される薄膜が、疎水的なおよび/または疎油的な特性を示す場合には、全く濡れ性の問題を生じないことである。
【0032】
保護膜は、好ましくは、疎水性および/または疎油性を有するレンズの表面エネルギーを上昇させることができ、トリミング工程に続けて行われる処理で除去できる材料によって作製されることが好ましい。
特に、保護膜が、疎水性および/または疎油性特性を有するレンズ表面に対する表面エネルギーを増加させる1つまたはそれ以上の物質から作製されているときには、このような特徴は、レンズのトリミングから得られる利点となりうる。
【0033】
実際、眼用レンズは、上述したレンズの両方の凸状および凹状の光学的表面の形状を規定する一連の成形および/または表面仕上げ/研磨操作と、そして、適当な表面処理の工程により作製される。
眼用レンズを得るための最終仕上げ工程はトリミング操作であり、その中に位置する眼鏡のフレームにレンズを適応させるために必要とされるサイズに形を合わせるために、レンズ端面または外縁を、機械加工する。
【0034】
トリミングは、一般的に、上述されたような機械加工を施すダイヤモンド製の外輪を備える研磨装置上で行われる。
レンズは、そのような操作(operation)において、軸の方向に動く固定部材により固定される。
外輪に対するレンズの相対的な動きは、一般的に、所望の形に達するようにデジタルで制御される。
レンズがそのような動きに対して安定して固定されていることが絶対に必要なことは、明らかである。
そのため、トリミング操作の前に、レンズのエーコン位置決め手段、すなわち保持手段、またはエーコンが、レンズの凸状の表面に置かれる。
【0035】
例えば両面接着部材などのり付きチップのような保持パッドが、エーコンとレンズの凸状の表面との間に置かれる。
そのように装着されたレンズは、上述の軸固定部材の1つの上に置かれ、第2の軸固定部材は、一般的にエラストマー性である接合部を通じて、その凹面上でレンズを固定するように適応する。
【0036】
レンズ保持システムが不十分である場合には、機械加工をするときに、エーコンに対するレンズの回転を生じさせうる接線方向のトルク力が、レンズに生じる。
良好なレンズの保持は、主に、保持パッドとレンズの凸面との間の界面での良好な密着に起因する。
【0037】
技術的な問題が、15mJ/m以上のエネルギーをレンズに対して与える一時的な保護層を、疎水的なおよび/または疎水的な表面を含むレンズの上に成膜することによって、解決されることが示された。
その結果として、当該技術分野の中で従来から使用されているパッドに対し、保持パッド/レンズ界面で十分な密着を得ることが可能となる。
【0038】
このように、本発明は、例えば眼用レンズなどの、上述したように定義されており、好ましくは少なくとも15mJ/mに等しい表面エネルギーを分け与える多層、特に2層の一時的な保護膜が上にある疎水的なおよび/または疎油的な被膜を有するレンズに関係している。
一般的に、疎水的なおよび/または疎油的な表面被膜の利用で、表面エネルギーは14mJ/m2未満になり、非常に頻繁に12mJ/m2以下となる。
多層の一時的な保護膜は、レンズの表面エネルギーを、少なくとも15mJ/m2以上の値に上昇させる。
【0039】
表面エネルギーは以下の参考文献で明らかにされているOwens-Wendt法に従って算出される。参考文献:“Estimation of the surface force energy of Polymers”Owens D. K., Wendt. R. G.(1969)J. APPL. POLYM. SCI., 13,1741−1747)
本発明の方法は、外側の薄い有機または無機の膜を有しており、好ましくは疎水的なおよび/または疎油的な膜を有している一方の面にトリミングが施されているレンズにも関係する。
【0040】
図1を参照すると、発明に従った方法を実行するための真空装置1が描かれている。この従来の装置は、処理するレンズを支えるのに適応した丸い開口12を備えるカルーセル11が中にある真空封入容器10と、エネルギーが高いおよび/または反応性が高い化学種と関係して動作する衝撃を与える装置13、例えばイオン銃などと、例えば中心に位置し蒸着させる物質を収容するるつぼを有する電子銃のような第1の物質の蒸発装置14と、第2の物質の蒸発装置15、例えばジュール効果装置などとを有する。
質量流量計のような装置16、17、18も、外部の源(図示せず。)から、アルゴンや酸素のような適当なガスを、衝撃装置に供給したり、装置の封入容器10に供給したりするために備えられている。
【0041】
図1に描かれているように、レンズの裏面の変化は、カルーセル11の外周の頂部11aの表面で起こり、特に、格子状にハッチングされた領域Aで起こる。
図2は、較正済みレンズ20の留め具の詳細を模式的に示している。この較正済みレンズは、較正済みレンズの形に適応する仲介部21で保持される。この場合は、三角形状に開口しているばねが、その支持部(branch)でレンズを挟むことによって、較正済みレンズを保持している。
このような仲介部21自体は、カルーセル11の開口12にラウンドレンズを保持するために使用されている従来通りの保持リング22内で、その3つの頂点で保持されている。
【0042】
本発明の方法は、図1に従った装置を利用して、以下の説明と同じ方法によって施行されうる。
処理されるレンズは、例えば、凹面を気化装置14,15とイオン銃13とに向けて、カルーセル11の開口12に取り付けられる。
そして、イオン衝撃によるレンズ凹面の活性化は、従来通り行われ、その後に、蒸着装置14を通じた多層の反射防止被膜の蒸着を従来通り行い、そしてそれから、疎水的なおよび/または疎油的な被膜からなる外側の薄い膜の作成が、例えばジュール効果装置を通じて行われる。
この発明に従えば、ついで、例えば気化装置14により、外部の一時的な保護膜が形成される。
【0043】
それから、レンズはひっくり返され、凹面の外側の疎水的なおよび/または疎油的な薄膜が変質する危険性なく、凸面が処理される。
レンズの回復と可能なトリミングの後に、一時的な保護膜は除去される。
【0044】
もし、保護膜が外側の膜の表面エネルギーを増加させる物質からできているならば、トリミング操作(operation)の間、エーコン位置決め手段が好適にレンズを支持し続けることができる。
一時的な保護膜の除去工程は、液性の媒介物中で、もしくは乾燥状態でのふき取りにより、もしくはさらにこれら両方を連続して行うことにより、またはさらに2層、特に上述したように無機物質からなる第1の膜と有機物質からなる第2の膜とをからなる2層の場合には、引き剥がすことにより、実行されうる。
【0045】
液性の媒介物中の除去工程は、好ましくは、酸性溶液、特にモル濃度が0.01〜1Nの間であるオルトリン酸溶液で、実行される。
酸性溶液は、陰イオン性、陽イオン性、両性の界面活性剤を含む。
除去工程を行うときの温度は変更可能であるが、一般的に除去工程は室温で行われる。
一時的な保護層の除去は、機械的な行為により行われるのも好ましく、特に、超音波を使用することが好ましい。
【0046】
一般に、除去工程は、酸性溶液のような水性媒介物での処理、乾燥状態でのふき取り、またはその両方の組合せの後に行われる実質的にpH7の水溶液での洗浄工程を含む。
一時的な保護層の除去工程の最後には、レンズは、光学的なかつ表面処理の順序と同様な特性を有し、疎水的なおよび/または疎油的な被膜を有する最初のレンズとほぼ同一になる。
無機物質による一時的な保護層を有するレンズは、進歩的なレンズの当事者によって一般的に使用されているいろいろなインクによって印が付けられうる。
【0047】
この方法は、従来の蒸着による反射防止膜の成膜の場合について、特に開示してきたが、一時的な保護膜は、他の蒸着方法の場合にも有利に使われうる。例えば、10-1〜10-3mbarの圧力下で、堆積する粒子のエネルギーが10〜40eVの範囲をとる蒸着や、10-1〜10-3mbarの圧力下で、エネルギーが1〜10eVの範囲をとるプラズマを利用した化学気相法などである。
【0048】
プラズマを利用した化学的気相反応の従来の例は、以下の反応を含む。
TEOS+O→SiO+排気によって除去されたガスの残留物
Ti(OiPr)+O→排気によって除去されたガスの残留物
TEOS:テトラエトキシシラン Si(OC
Ti(OiPr):チタニウムイソプロポキシド(IV) Ti(OC
プラズマや酸素の存在による前駆体の分解は、Oまたは(Oのように、外側の薄い膜を変化させそうなイオンやラジカル種を発生させる。
【実施例】
【0049】
実施例1
成膜は、両面に、特許出願EP614975の実施例3に対応するポリシロキサンタイプの耐擦傷性被膜を有しており、CR39(R)によって作製された眼用レンズの基板上で実行される。レンズは、超音波洗浄容器中で洗われ、最低3時間、温度100℃で蒸気にさらされる。眼用レンズは、それから処理される。
2つの異なるタイプのレンズが処理される。
−ラウンドレンズ
−図2に示すような較正済みレンズ
【0050】
1.1 疎水的なおよび/または疎油的な反射防止被膜を有するレンズの準備
使用される真空処理装置は、Balzers BAK760で、電子銃と、「end-Hall」マーク2コモンウェルスタイプのイオン銃と、ジュール効果蒸着源とを備えている。
レンズは、カルーセル上に、凹面が蒸着源とイオン銃とにさらされるように置かれる。
ラウンドレンズは、カルーセルの外周の頂部(最も処理を受けやすい領域)とカルーセルの中心部とに、配置される。
較正済みレンズもまた、カルーセルの外周の頂部とカルーセルの中心部との両方に、配置される。
【0051】
真空の吸引は、二次真空(secondary vacuum)に達するまで行われる。
基板の表面は、コモンウェルス社製の、モデルタイプ「end-Hall」マーク2のイオン銃によるアルゴンおよび酸素(ArおよびO)のイオンビームを伴った衝撃により活性化する。銃は、イオンエネルギーが80eVになり、銃の軸線上の基板レベルでの電流密度が40〜70μA/cmとなるように、設定される。基板は、1分間イオン衝撃を受ける。
【0052】
その後、イオン衝撃の中断後に、連続的に行われる成膜が実行され、高い指数(HI)、低い指数(LI)、HI、LI、すなわち、ZrO、SiO、ZrO、SiOからなる4つの光学的反射防止膜が形成される。
【0053】
最後に、疎水的なおよび/または疎油的な被膜は、ダイキン社から販売されているOPTOOL DSX(パーフルオロポリピレン型の化合物)という商標製品の蒸着により、成膜する。
決められた量のOptool DSXは、直径18mmで、ジュール効果るつぼ(タンタル製るつぼ)に備えられる銅製のカップの中に入れられる。
そして、2nmの厚みの疎水的なおよび/または疎油的な被膜が、蒸着により成膜される。
成膜された厚みの検査は、石英のものさしで行われる。
【0054】
1.2 一時的な保護膜の成膜
そして、保護膜の成膜が実行される。
成膜される物質は、化学式がMgFで粒径が1〜2.5mmでMerk社で販売されている化合物である。
蒸着は電子銃により行われる。
成膜される物質の物理的な厚みは20nmで、成膜の速度は0.52nm/sである。
成膜された厚みの検査は、石英のものさしで行われる。
【0055】
その後、封入容器が加熱され、処理チャンバーは、再び室内の雰囲気に置かれる。
そして、レンズはひっくり返され、凸面が処理領域に向くように置かれる。凸面は、凹面と同様に処理される(上述した工程1.1および1.2を再現することによる)。
【0056】
最後の工程で凸面に被覆されたMgFの一時的な膜は、エーコン位置決め操作を行うことを可能とするために、すなわち、保持部材またはエーコンによる上述した面の位置決めを可能とするために、表面エネルギーを増やすことを目的としており、それにより、フレームの形に適応させるためのレンズ外縁の最終的な機械的操作(トリミング)の間、レンズを保持するのに役立つ。
レンズは、研磨装置によりトリミングされ、最終的にフレーム上に搭載される。
【0057】
1.3 一時的な膜の除去
レンズは、一時的な保護膜を除去するために、通常の綿の布によって拭かれる。MgF膜を除去した後の比色の値は、MgF膜がない処理がされた場合と同じである。すなわち、MgF膜とその除去操作は、反射防止処理の色彩的な特徴を、全く変化させない。
【0058】
実施例2
基板は、実施例1で使用されたのと同様の、ワニスが塗られており、CR39(R)によって作製された眼用レンズである。それらは、超音波洗浄容器中で洗浄され、そして、温度100℃で最低3時間蒸気にさらされた。
【0059】
2.1 疎水的なおよび/または疎油的な被膜を有するレンズの準備
使用される真空処理装置は、Leybold LH1104で、電子銃と、マーク2タイプのイオン銃と、ジュール効果蒸着源とを備えている。
レンズは、カルーセル上に、凹面が蒸着源とイオン銃とにさらされるように置かれる。
ラウンドレンズは、カルーセルの外周の頂部(最も処理を受けやすい領域)とカルーセルの中心部とに、配置される。
較正済みレンズもまた、カルーセルの外周の頂部とカルーセルの中心部との両方に、配置される。
真空の吸引は、二次真空(secondary vacuum)に達するまで行われる。
【0060】
その後、イオン衝撃の中断後に、連続的に行われる成膜が実行され、高い指数(HI)、低い指数(LI)、HI、LI、すなわち、ZrO、SiO、ZrO、SiOからなる4つの光学的反射防止膜が形成される。
ZrOからなる第3の膜は、安定性(compaction)を改良するために、技術的アシスト(IAD)の下で蒸着される。イオン銃は、電子銃と同時に操作される。ZrO材質からなるOPTRONは、酸素イオンの流れの下で蒸着される。イオン銃は、イオンエネルギーが120eVになり、イオン銃の銃の軸線上の基板レベルでの電流密度が50〜70μA/cmとなるように、設定される。
【0061】
その後、疎水的なおよび/または疎油的な被膜は、ダイキン社により販売されているOPTOOL DSX(パーフルオロプロピレンパターンを有する化合物)という商標製品のジュール効果による蒸着によって、成膜する。
液体状の製品が、直径18mmで、ジュール効果るつぼ(タンタル製るつぼ)に備えられる銅製のカップの中に注がれる。
そして、2nmの厚みの疎水的なおよび/または疎油的な被膜が、蒸着により成膜される。
成膜された厚みの検査は、石英のものさしで行われる。
【0062】
2.2 一時的な保護膜の成膜
一時的な保護膜は、上述した工程1.2と同じ手法によって、成膜される。
レンズはひっくり返され、凸面は、処理領域に向くように置かれ、上述した工程2.1および2.2をもう一度行うことにより、凹面と同様に処理される。
レンズは、研磨装置によりトリミングされ、最終的にフレーム上に搭載される。
【0063】
2.3 一時的な膜の除去
方法は上述した工程1.3と同じである。
【0064】
比較例1
MgFからなる一時的な保護膜の成膜と除去の工程(工程1.2と1.3)を行わないことを除いて、実施例1が同じようにもう一度行われる。
【0065】
比較例2
MgFからなる一時的な保護膜の成膜と除去の工程(工程2.2と2.3)以外は、実施例2が同じようにもう一度行われる。
【0066】
種々の実施例により得られたレンズは、オイルテストに供される。
オイルテストの説明
オペレータは、WD40社の商標「three in one」で市販されている油滴を、ピペットで、テストされるレンズの凹面または凸面に注ぎ、油滴がそれ自身の重さで表面を流れることができるように、レンズを傾ける。
結果は、以下のように解釈される。
【0067】
良いテスト
オイルは、濡れることなく、収縮している。跡は不連続である。
これは、面エネルギーが非常に弱い場合に得られる結果であり、例えば、Optool DSX処理で得られる疎水的かつ疎油的な膜である。
悪いテスト
オイルは、濡れており、跡が連続的で強くつく。
これは、疎水的かつ疎油的な被膜が、第2の面の処理の間に変化した場合に得られる結果である。
【0068】
テストは非常に選択性があり、表面エネルギーの非常に弱い増加を強調させることができる。
オイルの追跡の解釈は、図3に示されている。結果は、以下の表にまとめられている。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの主面を有し、そのうち第1の面が外側の薄い有機または無機の膜を有している眼用レンズの処理方法であって、
表面に対する物理的衝突および/または化学的修飾の実施を可能にする、高エネルギーおよび/または反応性の化学種による第2のレンズ表面に対する少なくとも1つの処理工程と、
上述した高エネルギーおよび/または反応性の化学種による処理工程と同時にまたはそれに続けて行われる、無機または有機の膜を成膜させるための少なくとも1つ以上の任意の工程と
を有し、
高エネルギーおよび/または反応性の化学種による処理工程の前に、一時的な保護膜の成膜が、外側の薄い有機または無機の膜の上に行われることを特徴とする、眼用レンズの処理方法。
【請求項2】
外側の薄い膜の厚みが、30nm未満であり、好ましくは1〜20nmであり、より好ましくは1〜10nmであることを特徴とする、請求項1に記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項3】
外側の薄い膜は、有機材料の膜であることを特徴とする、請求項1または2に記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項4】
外側の薄い膜は、疎水的なおよび/または疎油的な膜であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項5】
外側の薄い膜は、多層反射防止被膜上に成膜されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項6】
一時的な保護膜は5〜200nmの厚みを有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項7】
一時的な保護膜は連続的であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項8】
一時的な保護膜は、金属フッ化物、金属フッ化物の混合物、金属酸化物または金属酸化物の混合物から形成されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項9】
金属フッ化物は、MgF2、LaF3またはCeF3であることを特徴とする、請求項8に記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項10】
金属酸化物は、TiO2、Al23、ZrO2または酸化プラセオジムであり、金属酸化物の混合物は、アルミナと酸化プラセオジムとの混合物であることを特徴とする、請求項8に記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項11】
一時的な保護膜は、ポリテトラフルオロエチレン膜であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項12】
レンズの第1の面が凹面であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項13】
眼用レンズが較正済みレンズまたはトリミングされたレンズであることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項14】
高エネルギーの化学種のエネルギーは1〜150eVであり、好ましくは10〜150eVであり、より好ましくは40〜150eVであることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項15】
高エネルギーおよび/または反応性の化学種による処理工程は、イオン衝撃であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の眼用レンズの処理方法。
【請求項16】
少なくとも1つの面が、一時的な保護膜で被覆された薄い外側の有機または無機の膜を有する、較正済みレンズ。
【請求項17】
14mJ/M以下の表面エネルギーをレンズに与える疎水的なおよび/または疎油的な被膜を有するレンズであって、多層の一時的な保護膜が前記被膜上に成膜されていることを特徴とする、レンズ。
【請求項18】
一時的な保護膜は、2層膜であることを特徴とする、請求項17に記載のレンズ。
【請求項19】
一時的な保護をする2層膜は、無機質の第1の膜と、第1の膜の上に形成され、有機質の第2の膜とを有することを特徴とする、請求項18に記載のレンズ。
【請求項20】
無機物から形成された第1の膜は、2〜200nm、好ましくは5〜200nmの厚みを有することを特徴とする、請求項19に記載のレンズ。
【請求項21】
有機物の膜は、0.2〜10ミクロンの厚みを有することを特徴とする、請求項19に記載のレンズ。
【請求項22】
無機材料からなる膜は、金属フッ化物、金属フッ化物の混合物、金属酸化物または金属酸化物の混合物を含むことを特徴とする、請求項19〜21のいずれかに記載のレンズ。
【請求項23】
金属フッ化物は、MgF2、LaF3およびCeF3の中から選ばれ、金属酸化物はチタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびプラセオジムの酸化物の中から選ばれることを特徴とする、請求項22に記載のレンズ。
【請求項24】
有機物質の膜は、アクリルラテックス、メタクリルラテックスおよびポリウレタンラテックスの中から選ばれることを特徴とする、請求項19〜23のいずれかに記載のレンズ。
【請求項25】
多層の一時的な保護膜は、レンズに15mJ/m以上の表面エネルギーを与えることを特徴とする、請求項17〜24のいずれかに記載のレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−160484(P2010−160484A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292670(P2009−292670)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【分割の表示】特願2003−557962(P2003−557962)の分割
【原出願日】平成15年1月13日(2003.1.13)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】