説明

眼科治療用エマルション

本発明は、ドライアイを含む眼の疾患の治療に有用な非刺激性眼科用エマルションおよび関連する方法を提供する。より詳細には、本発明の眼科用組成物は、高HLB界面活性剤および低HLB界面活性剤ならびに非極性脂肪族側鎖を有する植物由来トリグリセリドを含有し、治療用非刺激性点眼液を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科的用途に適した水中油型エマルションを開示する。より具体的には、ここに開示される水中油型エマルションは人工涙液としてまたは溶液供給治療剤として使用できる。
【背景技術】
【0002】
水中油型エマルションは、一般的に、少なくとも1種の水溶性界面活性剤層により囲まれていて水相中に懸濁している離散油滴(粒子)を含む水相を含有する。エマルションの安定性は、主に粒子径によって決まる:直径1μmを越える粒子径を有する水中油型エマルションは、安定性が低くなりやすく、乳化されやすく、また貯蔵中に相分離しやすい。したがって、多くの用途において粒子径を小さくすることが望まれており、それは一般的に水相中の界面活性剤濃度の大幅な増加につながる。粒子径がより小さければ、水相により多くの界面活性剤を必要とし、溶液中により多くの遊離した界面活性剤を生じる結合した粒子表面積はより大きくなる。
【0003】
水中油型エマルションは、コンタクトレンズの処理、保管および洗浄に使用する溶液の製造、鎮痛剤および潤滑剤の提供、ならびに治療用組成物の担体としての役割を含む様々な眼科的用途を有する。眼科用エマルションは、特定点眼液であっても多目的溶液であってもよい。特定点眼液として、乾性角結膜炎(ドライアイ)の治療液が挙げられる。ドライアイは、眼の表面から自然に水分が蒸発することにより生じる。ドライアイ治療用組成物は、一般的に、眼がもともと有する水層を修復し、さらなる蒸発を防止するために新しい水層上に油層を付与する水中油型エマルションを含有する。別の態様において、ドライアイ治療用組成物は、シクロスポリンのような疎水性治療剤および/またはカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール、ポリソルベート、プロビドンなどの鎮痛剤も含むエマルションである。さらに、別のドライアイ専用点眼液組成物は、シクロスポリンAのような少なくとも1種の治療剤を含んでいてよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、人工涙液であるかドライアイ治療剤であるかを問わず、眼に対して直接使用する水中油型エマルションを含有する全ての眼科用組成物は、眼の表面に油相が均一にかつ自由に広がる場合に最大の効能をもたらす。さらに、眼科用エマルションは、常に使い勝手のよい点眼を可能とするために、比較的保存安定性であるべきである。しかしながら、多くの水中油型エマルションは、過剰量の遊離親水性界面活性剤を含有する。この遊離親水性界面活性剤は、涙液膜がもともと有する液体成分を押し流し、角膜または結膜を覆うムチン層に損傷を与えることにより、ドライアイを悪化させる。したがって、水相中に眼を損傷する遊離親水性界面活性剤を非刺激性量で含む、小さな粒子径(1μm未満の平均直径)の水中油型エマルションが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、人工涙液として、および治療用組成物の担体として有用な非刺激性水中油型眼科用エマルションならびに関連する方法を提供する。しかしながら、前記全ての態様に共通して、水中油型エマルションの油粒子の平均粒子径(直径)は1μm未満である。本発明において開示する水中油型眼科用エマルションは、これに限定されるものではないが、例えばω−3、ω−6またはω−9油脂として既知の不飽和脂肪酸群などの非極性アルキル鎖を有する油、および非刺激性水中油型組成物を得るための界面活性剤系を含有する。
【0006】
この界面活性剤系は、少なくとも以下の2種の界面活性剤を含む:8以上の親水親油バランス(HLB)を有する第1の界面活性剤、および8未満のHLB値を有する第2の界面活性剤。この界面活性剤系において、親水性界面活性剤と疎水性界面活性剤の比率は、約10:0.5、または10:1、または9:1、または8:1、または7:1、または6:1、または5:1、または4:1、または3:1、または2:1、または1:1であり、約10:約0.5の範囲に含まれる全ての割合および中間比率である。
【0007】
本発明の一態様において、極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖のみを有する少なくとも1種の眼科学的適合性油を選択すること、次いで、眼に局所送達する疎水性治療剤を選択すること、次いで、8未満のHLB値を有する疎水性非コブロック(non−co−block)界面活性剤を選択すること、次いで、8以上のHLB値を有する親水性界面活性剤を選択すること、その後、前記油、前記疎水性治療剤、前記疎水性界面活性剤および前記親水性界面活性剤を、1μm未満の平均粒子径を有する安定なエマルション構造とするのに十分な量の水と混合することを含み、眼に局所適用した場合にこのエマルションが眼に対して刺激性でなく、1種の界面活性剤またはいずれも8以上のHLB値を有する一組の界面活性剤を含む眼科用エマルションと比較して、疎水性治療剤がより効果的に眼に送達する、眼科用エマルションの治療剤送達効果を高めるための方法を提供する。この方法において開示する各段階の順番は特に重要ではなく、単に便宜上、上述のように整理した。
【0008】
一態様において、高HLB成分と低HLB成分の界面活性剤系は、8.0〜25.0のHLB値を有する少なくとも1種の界面活性剤と、1.0〜7.9のHLB値を有する少なくとも1種の他の界面活性剤を含む。
【0009】
別の態様において、界面活性剤系の高HLB成分と低HLB成分のHLB比率は、10.0:4.9である。
【0010】
別の態様において、界面活性剤系の高HLB成分と低HLB成分のHLB比率は、14.5:4.9である。
【0011】
別の態様において、界面活性剤系の高HLB成分と低HLB成分のHLB比率は、10.0:2.0である。
【0012】
別の態様において、界面活性剤系の高HLB成分と低HLB成分のHLB比率は、14.5:2.0である。
【0013】
さらに別の態様において、高HLB界面活性剤はLumulse(登録商標)GRH 40またはLumulse(登録商標)GRH 25であり、低HLB界面活性剤はBrij 72またはBrij 93である。
【0014】
一態様において、非極性油は、ω−3脂肪酸、ω−6脂肪酸またはω−9脂肪酸を含む。
【0015】
一態様において、ω−3脂肪酸、ω−6脂肪酸またはω−9脂肪酸は植物性油または魚油である。
【0016】
本発明において使用される植物油としては、非極性アルキル側鎖を有し、ゴマ油、チェリーカーネル油、パンプキンシード油、麻の実油、亜麻仁油、エゴマ油、大豆油、オリーブ油、菜種油、コーン油およびブラックカラント種油が挙げられる。
【0017】
本発明において使用される魚油としては、非極性アルキル側鎖を有し、タラ肝油、サーモン油、アンチョビ油およびマグロ油が挙げられる。
【0018】
本発明で開示する水中油型の非刺激性眼科用組成物は、これらに限定されるわけではないが緩衝剤、殺菌剤、鎮痛剤、粘度調整剤、金属塩、エマルション安定化剤および治療薬などの添加剤も含んでいてよい。
【0019】
1つの具体的な実施態様で開示される水中油型エマルション眼科用組成物は、1μm未満の平均粒子径を有し、極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖またはアルキル側鎖を有する、ヒマシ油または鉱物油以外の少なくとも1種の油、約10〜14のHLB値を有する親水性界面活性剤、および約4〜6のHLB値を有する疎水性非コブロック界面活性剤を含有する。
【0020】
別の具体的な実施態様で開示される水中油型エマルション眼科用組成物は、0.6μm未満の平均粒子径を有し、極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖またはアルキル側鎖を有する、ヒマシ油または鉱物油以外の少なくとも1種の油、約12〜14のHLB値を有する親水性界面活性剤、および約4〜5のHLB値を有する疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になる。
【0021】
別の具体的な実施態様で開示される水中油型エマルション眼科用組成物は、0.6μm未満の平均粒子径を有し、極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖またはアルキル側鎖を有する、ヒマシ油または鉱物油以外の少なくとも1種の油、約10〜11のHLB値を有する親水性界面活性剤、および約4〜5のHLB値を有する疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になる。
【0022】
さらに別の具体的な実施態様で開示される水中油型エマルション眼科用組成物は、0.6μm未満の平均粒子径を有し、ω−3脂肪酸、ω−6脂肪酸、ω−9脂肪酸およびその混合物からなる群から選択される油(ただしヒマシ油ではない)、およびLumulse(登録商標)GRH 25からなる親水性界面活性剤ならびにBrij 93からなる疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になる。
【0023】
さらに別の具体的な実施態様で開示される水中油型エマルション眼科用組成物は、0.6μm未満の平均粒子径を有し、ゴマ油、およびLumulse(登録商標)GRH 40からなる親水性界面活性剤ならびにBrij 93からなる疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になる。
【0024】
さらに別の具体的な実施態様で開示される水中油型エマルション眼科用組成物は、0.6μm未満の平均粒子径を有し、ゴマ油、Lumulse(登録商標)GRH 40またはLumulse(登録商標)GRH 25からなる親水性界面活性剤、およびBrij 93またはBrij 72からなる疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になり、さらにドライアイの症状に対して有効な量のシクロスポリンAを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1Aは、本発明の教示に従って作製された油滴における疎水性治療剤の分布を示し、図1Bは、先行技術に従って作製された油滴における疎水性治療剤の分布を示す。
【図2】図2は、界面活性剤のタイプに基づく相対的粒子径および表面領域におけるその作用を示す。
【図3】図3は、特に除外されるヒマシ油の極性油側鎖と比較した、本発明で開示する非極性油におけるω脂肪酸側鎖の分子構造を示す。
【図4】図4は、図3の2つの脂肪酸を天然に存在するトリグリセリドとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔用語の説明〕
疑義が生じることを避けるため、本明細書において使用される用語を以下に定義する。特に定義しない用語は、医薬品、エマルション化学または眼科学の分野の当業者に知られている一般的な意味を有する。
【0027】
本明細書で使用する用語「人工涙液」は、ドライアイを含む涙液産生の欠乏に伴う乾燥および刺激を処置するために使用される非刺激性潤滑性点眼液を意味する。これらは、コンタクトレンズを潤すために、および眼の検査においても使用される。
【0028】
本明細書で使用する用語「透明粘性ゲル」は、半固形調製物を意味し、このゲルは透明であり、流動しない。
【0029】
本明細書で使用する用語「洗浄」は、デジタル装置を用いてまたは用いないで、組成物を攪拌する付属装置を用いてまたは用いないで、コンタクトレンズの沈着物および他の汚染物質を緩和するおよび/または除去することを含む。
【0030】
用語「鎮痛剤」は一般的な意味で使用され、また、炎症を起こしたまたは傷ついたレンズおよび/または眼の表面の炎症を和らげる薬剤を意味する。
【0031】
用語「エマルション」は、通常、混ざり合わない2つの液体(例えば油と水)の、動力学的に安定であるが熱力学的には非安定な均質混合物を意味する一般的な意味で用いられる。
【0032】
本明細書において用いられるような用語「多目的組成物」は、コンタクトレンズを眼から外している間の洗浄、濯ぎ、殺菌、再湿潤、潤滑、殺菌、コンディショニング、浸漬、貯蔵およびコンタクトレンズの他の処理などの機能の少なくとも2つを果たすのに有益な眼科用溶液である。また、そのような多目的組成物は、好ましくは、コンタクトレンズを眼に着けている間の、コンタクトレンズの再湿潤および洗浄にも使用し得る。コンタクトレンズを眼に装着している間のコンタクトレンズの再湿潤および洗浄に使用し得る製品は、しばしば、再湿潤剤(re−wetter)または「眼内(in−the−eye)」といわれる。
【0033】
本明細書において用いられるような用語「非刺激性」は、眼の表面に直接的にまたは間接的に塗布した場合に、大多数の利用者が主観的不快感を生じることのない組成物として定義される。利用者の眼の状態および組成物中の1種以上の成分に対する突発性過敏症が、一部の利用者に刺激や不快感を生じることはあると理解される。しかしながら、本明細書で用いられる「非刺激性」は、眼の表面に適用した直後およびその後の適当な期間に、多くの一般的な利用者が経験するであろう全体の反応をいう。
【0034】
本明細書において用いられるような用語「非極性油」とは、限定するものではないがヒマシ油(これは本発明から明確に除外される)などの、側鎖にペンダントしたヒドロキシ基を有しない医薬的適合性植物油または魚油をいう。さらに、形式的には非極性油であるが、鉱物油は植物由来または魚由来ではないため、本明細書において用いられる「非極性油」の定義には含まれず、本発明から明確に除外される。
【0035】
本明細書において用いられる用語「眼科学的適合性」は、平均的な利用者の眼に対して、傷害や長期の不快感を引き起こさない本発明の水中油型組成物の成分を意味する。
【0036】
本明細書において用いられる用語「粒子」とは、水中油型エマルションの水相に懸濁している球状の油滴をいう。
【0037】
本明細書において用いられる用語「ペースト」とは、流動しない半固体状の調製物をいう。
【0038】
本明細書において用いられる用語「再湿潤」とは、コンタクトレンズの少なくとも一部、例えば、少なくとも本質的部分、少なくともコンタクトレンズの前表面へ液体を付加することをいう。
【0039】
用語「安定な」は、その通常の意味で使用され、少なくとも1ヶ月間凝集、乳化および相分離が起こらないことを意味する。「比較的安定」は、使用前に予備振とうを必要とするが、本明細書に記載される他の全ての有益な品質および所望する品質を示す水中油型エマルションをいう。
【0040】
用語「表面活性剤」は、一般的に、下記に定義するような界面活性剤、洗剤または乳化剤を意味する。しかしながら、本明細書において使用されるような「表面活性剤」は、具体的には、多目的溶液のレンズ洗浄活性成分を意味する。しかしながら、本明細書で用いられる用語「表面活性剤」は、表面活性剤が、例えば乳化、安定化剤および可溶化促進剤のような組成物の他の態様を取り得ることを制限する意図はない。
【0041】
用語「界面活性剤」は、一般的にエマルション形成助剤を意味し、例えば、乳化剤、洗剤および他の表面活性剤を含む。用語「乳化剤」、「表面活性剤」、「洗剤」および「界面活性剤」は、本明細書において区別なく使用される。本発明において、界面活性剤系は8以上のHLB値を有する界面活性剤および8未満のHLB値を有する界面活性剤の少なくとも2種の界面活性剤を意味する。
【0042】
本発明は、眼に適用した場合に非刺激性である水中油型エマルションを含有する眼科用組成物を提供する。本発明の眼科用組成物は、眼の表面の潤滑剤(人工涙液)および
時折の痛みや疲れ目から炎症を起こした眼、感染した眼および病気になった眼までの種々の眼の疾患を伴う眼の症状を処置または緩和するために有益である。このような眼の疾患は、多くの場合、治療剤の含まれる局所的適用点眼液を使用して処置される。
【0043】
成功する眼科用エマルション溶液組成物は、2つの重要な特徴を有する必要がある。眼科用エマルション溶液は比較的安定である必要があり、すなわち、多くの用途では使用前に予備的振とうをし得るが、形成されたエマルションは分離したり、凝集したり、または乳化したりすることなく最初の特性を維持しなければならない。固体状(クリーム)のまたは凝固した眼科用エマルションは溶液ではないため、軟膏として使用し得るが、これらは眼科用多目的溶液としては認められない。分離した眼科用エマルション溶液は、使用前に通常、振とうする必要がある。この段階は忘れられやすく、それにより眼やレンズに対して効果のないまたは刺激性のある溶液を適用する利用者を生じる。
【0044】
第2に、眼科用溶液組成物は、眼に適用する場合に非刺激性でなければならない。一般的に、刺激は、水相中に存在する過剰な親油性界面活性剤により引き起こる。水相に過剰な親油性界面活性剤を含む眼科用組成物を眼に適用する場合、界面活性剤が、涙膜がもともと有する液体成分を押し流し、角膜または結膜を覆うムチン層に損傷を与えることにより、眼に刺激を与え、および/またはドライアイを悪化させる。
【0045】
しかしながら、比較的安定な非刺激性眼科用組成溶液を作製することは未だ課題であり、決して完全に満足のいくものではない妥協策に終わっている。このことは、特に、レンズの洗浄効果と利用者の快適さとのバランスをとる必要性が特に困難であり得る多目的溶液に対して言えることである。この理論に縛られたり制限されたりすることなく、本発明者は、水中油型エマルションの安定性および流動特性の少なくとも一部が粒子径によって決まることに気付いた。即ち、より小さい粒子径は、本質的により安定なエマルションになり、より流動的である(眼の表面に均一に広がる)。一実施態様において、本明細書に開示するエマルションは1μm未満の平均粒子径(直径)を有し、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.8μm未満であり、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.6μm未満であり、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.4μm未満であり、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.2μm未満であり、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.1μm未満である。
【0046】
先行技術の水中油型エマルションは、エマルション中の水溶性(高HLB)界面活性剤濃度を高めることにより、安定性の増強およびより小さな粒子径を達成した。しかしながら、この取り組みでは、粒子径を小さくし安定性を高めた一方、眼科用組成物の水相中に存在する遊離親水性界面活性剤の量も増加し、これにより眼を刺激する。
【0047】
驚くべきことに、本発明者は、界面活性剤系と油性成分とを綿密に適合させることにより、所望する粒子径を達成すると同時に、それにより治療用エマルションの全体的な性能を改善しながら、過剰量の遊離界面活性剤により生じる不都合な影響を回避し得ることを見出した。図1は、先行技術の態様(図1B)と比較した本発明の一態様(図1A)を示す。図1は、原寸に比例して描かれる必要はないが、本発明のエマルションがどのように先行技術を上回る所望の特性を達成し得るかを示すのに役立つ。先行技術の態様は、所望のエマルション組成物を得るために、唯一の洗剤Lumulse(登録商標)と極性油、ヒマシ油を組み合わせていることに留意すべきである。しかしながら、本明細書に開示する非極性油と界面活性剤系から構成される本発明の教示に従って作製された代表的な実施態様と比較して、油滴表面のヒドロキシ基の存在は、油滴と接触し得る水相界面活性剤Lumulse(登録商標)の部位数を減少させる。図1Aから、本発明の教示に従って作製されたエマルション組成物により、先行技術の組成物(図1B)と比べて、比例的により多くの水相洗剤〔ここでは例えばLumulse(登録商標)〕が油滴の外面に隔離されており、これが水相中遊離界面活性剤を顕著に少なくし、それにより刺激性のより少ない眼科用溶液をもたらすことが分かり得る。
【0048】
上記に簡単に記載したように、同様に驚くべきことは、本発明の治療用眼科用エマルションの油性成分と組み合わせる最適な界面活性剤系の選択の影響であった。驚くべきことに、本発明者は、油溶性/非水溶性界面活性剤(疎水性界面活性剤)と親水性界面活性剤を組み合わせることにより、非極性油と組み合わせた場合のみであるが、水相中の遊離親水性界面活性剤の量が大幅に減ることを見出した。実際に、本発明者は、単に先行技術におけるヒマシ油と親水性界面活性剤の組み合わせに単に疎水性界面活性剤を添加することは、水相における遊離親水性界面活性剤の量を実際には増加させ、これにより眼への刺激性を悪化させることを見出した。本明細書の実施例において実証されるように、極性油を本明細書に開示する界面活性剤系と組み合わせて用いた場合、粒子径が著しく大きくなることから水相における遊離親水性界面活性剤は増加し、本発明の教示する界面活性剤系を非極性油とともに使用した場合に粒子径を顕著に小さくすることは完全に予測できないだろう(図2Aおよび先行技術の態様を示す図2Bを参照)。
【0049】
本発明は、水相中に懸濁した油滴を含んでなり、この油滴の平均粒子径が直径1μm未満である非刺激性水中油型多目的眼科用エマルションを提供する。ここに開示する水中油型眼科用エマルションは、非極性の脂肪族鎖またはアルキル鎖を有する油、例えば限定するものではないが、ω−3、ω−6またはω−9油として既知の不飽和脂肪酸の油を含む(図3および図4参照)。この水中油型エマルションは、少なくとも1つの親水性界面活性剤および少なくとも1つの疎水性界面活性剤を含む界面活性剤系を含む。さらに、この水中油型エマルションは、他の添加剤、限定するものではないが、例えば鎮痛薬、潤滑剤、粘度調整剤、等張化剤、金属塩、緩衝剤およびシクロスポリンAなどの治療剤を含有してもよい。
【0050】
本発明の水中油型治療用エマルションを作製するために使用し得る非極性の医薬適合性油として、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合をその非極性脂肪族側鎖またはアルキル側鎖に有する植物由来の不飽和脂肪酸が挙げられる。特に好ましくはω脂肪酸を含む。ω−3脂肪酸は、脂肪酸のメチル末端からn−3の位置に炭素−炭素二重結合を有する。ω−6脂肪酸は、n−6の位置(即ち、脂肪酸の末端から6番目の結合)に炭素−炭素二重結合を有する。ω−9脂肪酸は、n−9の位置(即ち、脂肪酸の末端から9番目の結合)に炭素−炭素二重結合を有する。
【0051】
図4に示すように、油は多くは1種以上の脂肪酸タイプのブレンドであり、例えば、本発明の一実施態様において、水中油型エマルションに使用する油はゴマ油である。ゴマ油は、それぞれ約43%のリノレン酸(ω−6脂肪酸)およびオレイン酸(ω−9脂肪酸)を含む(例えば、Dina SC等、Enhancement of skin permeation of ibuprofen from ointments and gels by sesame oil, sunflower oil and oleic acid、Indian J Pharm Sci. 2006; 68:313−316参照)。しかしながら、リノレン酸もオレイン酸も、例えばヒマシ油のように側鎖にヒドロキシ基を有しておらず、そのため、本発明の目的にとって、ゴマ油は(本明細書で使用される用語としての)非極性油である。植物由来ω脂肪酸含有油の他の適当な非限定的な例としては、チェリーカーネル油、パンプキンシード油、麻の実油、亜麻仁油、エゴマ油、およびブラックカラント種油が挙げられる。しかしながら、ヒマシ油(一般的に極性脂肪族鎖またはアルキル鎖を有する)も、鉱物油(完全な非極性油)も本発明の水中油型組成物の製造には適さず、ヒマシ油および鉱物油のいずれも本発明の特許請求の範囲からは明らかに除外される。
【0052】
本発明の教示にしたがって使用される界面活性剤系は、少なくとも2種の界面活性剤:8以上のHLB値を有する第1の界面活性剤(親水性界面活性剤)および8未満のHLB値を有する第2の界面活性剤(疎水性界面活性剤)を含有し、親水性界面活性剤と疎水性界面活性剤の比率は、約10:0.5、または10:1、または9:1、または8:1、または7:1、または6:1、または5:1、または4:1、または3:1、または2:1、または1:1であり、約10:0.5の範囲に含まれる全ての割合および中間比率である。
【0053】
当業者に周知であるように、用語「親水性」および「疎水性」は相対語である。界面活性剤として機能するために、化合物は極性部または荷電した親水性部分ならびに非極性疎水性(親油性)部分を必ず含まなければならない。すなわち、界面活性化合物は、両性でなければならない。非イオン性両性化合物の相対的な親水性および疎水性を特徴付けるために一般的に用いられる実験的なパラメーターは、「HLB」値である。低HLB値の界面活性剤はより疎水性であり、油に対してより大きな溶解性を有し、一方、高HLB値の界面活性剤はより親水性であり、水溶液に対してより大きな溶解性を有する。
【0054】
表1は、界面活性剤の選択のためのHLB値に基づく一般的指標を提供する。
【表1】

【0055】
おおよその目安としてHLB値を使用すると、親水性界面活性剤は一般的に約10を越えるHLB値を有する化合物であり、ならびにHLB基準が通常適用できないアニオン性、カチオン性、または双性イオン性化合物であると考えられる。同様に疎水性界面活性剤は約8未満のHLB値を有する化合物である。界面活性剤のHLB値は、工業的、医薬的および化粧的エマルションの調製を可能にするために使用される単なる大まかな目安であるにすぎないことを認識すべきである。特定のポリエトキシル化界面活性剤を含む多くの重要な界面活性剤に対して、HLB値を決定するために選択した実験的方法によって、HLB値が約8のHLB単位として異なり得ることを報告している(Schott, J. Pharm. Sciences, 79(1), 87−88 (1990))。同様に、ブロックコポリマーを含む特定のポリプロピレンオキシド〔Pluronic(登録商標)(BASF社製)として入手し得るポロキサマー、界面活性剤〕に対して、HLB値は、この化合物の真の物理的化学的性質を正確に反映していない。最後に、市販の界面活性剤は、一般的に純粋な化合物ではなく、しばしば、化合物の複雑な混合物であり、特定の化合物に対して報告されるHLB値は、より正確にはその化合物が主成分である市販製品の特徴を示しているかもしれない。同じ主要界面活性成分を含む異なる市販製品が典型的であり、これらは異なるHLB値を有する。さらに、単一の市販界面活性剤に対してさえ、一定のロット間変動が予想される。これらの内在する問題を考慮して、また、目安としてHLB値を用いて、当業者は本明細書に記載される本発明の使用に適する親水性または疎水性を有する界面活性剤を容易に特定することができる。非限定的な例として、下記の表2を参照。
【0056】
本明細書に記載する担体は、少なくとも1種の親水性界面活性剤を含む。この親水性界面活性剤は、医薬品に使用するのに適した全ての界面活性剤であり得る。適当な親水性界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、双性イオン性または非イオン性界面活性剤であり、非イオン性親水性界面活性剤が特に好ましい。好ましくは、担体は、2種以上の親水性界面活性剤の混合物を含み、より好ましくは2種以上の非イオン性親水性界面活性剤を含む。少なくとも1種の親水性界面活性剤(好ましくは非イオン性親水性界面活性剤)と少なくとも1種の疎水性界面活性剤の混合物も好ましい。
【0057】
特定の界面活性剤の選択は、組成物中で使用される特定のトリグリセリドおよび任意の治療薬を考慮してなされるべきであり、選択した治療薬に対して適当な極性範囲であるべきである。これらの一般的な原則を考慮すると、様々な界面活性剤が本発明の使用に適している。本発明の教示にしたがって使用する界面活性剤系は、少なくとも2種の界面活性剤:8以上のHLB値を有する第1の界面活性剤および8未満のHLB値を有する第2の界面活性剤を含有する。一実施態様において、高HLB成分と低HLB成分の界面活性剤系のHLB比率は、8.0〜25.0のHLB値を有する少なくとも1種の界面活性剤と、1.0〜7.9のHLB値を有する少なくとも1つの別の界面活性剤を含んでなる。別の実施態様において、界面活性剤系の高HLB成分と低HLB成分のHLB比率は、10.0:4.9である。別の実施態様において、界面活性剤系の高HLB成分と低HLB成分のHLB比率は、14.5:4.9である。さらに別の実施態様において、界面活性剤系の高HLB成分と低HLB成分のHLB比率は、10.0:2.0である。別の実施態様において、界面活性剤系の高HLB成分と低HLB成分のHLB比率は、14.5:2.0である。
【0058】
そのような界面活性剤は、下記表の詳細な一般的な化学的区分に区分できる。下記表2に記載されるHLB値は、一般的に対応する市販製品の製造者により報告されたHLB値である。1つ以上の市販製品が記載されている場合、表中のHLB値は、市販品の1つに対して報告される値、報告値の大まかな平均値、または本発明者の判断したより信頼できる値である。本発明を表中の界面活性剤に限定すべきではないことを強調すべきである(この表は代表的なものを示すものであって、使用可能な界面活性剤の限定的なリストではない)。
【0059】
【表2−1】

【0060】
【表2−2】

【0061】
【表2−3】

【0062】
以下は、登録商標である。
・Igepal(登録商標)Rhodia Operations Societe Par Actions Simplifiee France 40 Rue De La Haie Coq Aubervilliers France 93306
・Brij(登録商標)ICI Americas Inc. Corporation(合併により名称変更)Delaware New Murphy Road And Concord Pike Wilmington Delaware 19897
・Merpol(登録商標)Stepan Company Corporation(譲渡による)Delaware 22 West Frontage Road Northfield Illinois 60093
・Lumulse(登録商標)Lambent Technologies Inc. Corporation Georgia 2416 Lynndale Road Fernandina Beach Florida 32024
・Triton(登録商標)X−100は、Union Carbideの登録商標であり、Rohm & Haas Coより購入した。
・Tween(登録商標)ICI Americas Inc. Corporation(合併により名称変更)Delaware New Murphy Road And Concord Pike Wilmington Delaware 19897
【0063】
本明細書で開示する水中油型非刺激性眼科用組成物は、限定するものではないが、例えば緩衝剤、殺菌剤、鎮痛剤、粘度調整剤、金属塩、および治療薬などの添加剤を含んでいてもよい。
【0064】
一実施態様において、粘度調整剤は、ヒアルロン酸およびその塩、ポリビニルピロリドン(PVP)、セルロースポリマー〔ヒドロキシメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース(CMC)〕、デキストラン70、ゼラチン、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80、プロピレングリコール、ポビドン、カルボマー(例えばcarbopol(登録商標))、ポリビニルアルコール、アルギニン酸塩、カラギーナンおよびグアー、カラヤ、アガロース、イナゴマメ、トラガカントおよびキサンタンガムからなる群から選択される。
【0065】
別の実施態様において、殺菌剤は、ポリ[ジメチルイミノ−w−ブテン−1,4−ジイル]クロライド、α−[4−トリス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム]ジクロライド(ポリクオタニウム1(登録商標))、ポリ(オキシエチル(ジメチルイミノ)エチレンジメチルイミノ)エチレンジクロライド(WSCP(登録商標))、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)からなる群から選択される高分子第4級アミンの防腐剤である。
【実施例】
【0066】
実施例1:種々の界面活性剤系による粒子径の比較
【0067】
【表3】

【0068】
表3のデータから、水中油型エマルション中のゴマ油の粒子径が、組成物において低HLB値の(疎水性)界面活性剤(Brij 72のHLB値は、約4.9である)を高HLB界面活性剤(Lumulse(登録商標)GRH−40のHLB値は、約13.5である)と併用した場合に、著しく小さくなることがわかる。組成物中で単独使用した場合には、疎水性界面活性剤と併用した場合と比較して、1μm未満の粒子径を達成するために約2倍近くの親水性界面活性剤が必要となることに留意すべきである。小さな粒子径および組成物中の親水性界面活性剤の濃度の低下により、結果的に低刺激でより効果的な眼科用組成物が得られる。
【0069】
この実施例1は、本発明の教示の重要な態様を実証する。水中油型エマルションの油相への油溶性/非水溶性界面活性剤(低HLB)の添加は、水相中の水溶性(親水性)界面活性剤(高HLB)の量を著しく減少させ、より刺激の少ない眼科用溶液を作り出す。
【0070】
実施例2:治療薬の送達
本発明の教示の別の実施態様において、本明細書に記載した眼科用水中油型エマルションに眼の病気の治療に役立つ治療薬を含有してもよい。治療薬を含む点眼液により治療する眼の病気の非限定的な例としては、限定するものではないが、ドライアイ、緑内障、結膜炎、眼瞼炎、アレルギーおよび感染症などが挙げられる。有用な治療薬としては、限定するものではないが、ステロイド(例えば散瞳薬、デキサメタゾン)、抗ヒスタミン剤、交感神経様作用薬、β受容体遮断薬、副交感神経様作用薬(例えばピロカルピン)、副交感神経遮断薬(例えば、トロピカミドまたはアトロピン)、プロスタグランジン、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)または局所的麻酔剤などが挙げられる。特定の非限定的な例としては、アゼラスチン、ビマトプロスト、シプロフロキシン、シクロスポリンA、フルルビブロフェン、レボカバスチン、オフロキサシン、ピロカルピン、ラパマイシン(および他の抗生物質)、ならびにチモロールが挙げられる。しかしながら、多くの前記治療薬は高疎水性であり、水溶液を用いても眼に効果的に送達しない。したがって、より効果的に疎水性剤を溶解して眼へ引き渡し可能な剤の量を増やすため、水中油型エマルションを開発した。しかしながら、先行技術の疎水性治療薬含有水中油型エマルションは、活性治療薬が油粒子の中心を通って分散し、それにより眼の表面に送達しにくくなるため、しばしば準最適な局所的輸送系をもたらす(図1B参照)。しかしながら、本発明の治療薬含有水中油型エマルションは、粒子の外周に疎水性治療薬が配置する油粒子を生じるため、眼の表面とより接触しやすくなり、先行技術と比較して、より効果的な治療薬の輸送系を形成する。
【0071】
1つの特定の非限定的な例において、シクロスポリンAは眼に送達される疎水性治療薬である。シクロスポリンAは、患者の免疫系の活性を抑え、臓器拒絶反応のリスクを低減するために、後同種異系臓器移植において広く使用される免疫抑制剤である。皮膚、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、骨髄および小腸の移植で研究がなされている。ノルウェーの土壌サンプルから最初に単離されたシクロスポリンAの薬剤の主要な構造は、真菌Tolypocladium inflatumにより生成された11個のアミノ酸(ウンデカペプチド)の環状非リボソームペプチドであり、自然界ではめったにないD−アミノ酸を含有する。
【0072】
本発明の教示にしたがって処置される眼の症状の非限定的な例は、シクロスポリンAを用いたドライアイの症状の処置である。ドライアイは、治療法のない一般的な症状であるが、適当な診断と治療により緩和され得る。この症状は、320万人を超すアメリカ人の中年から老人女性を侵している(Schaumberg D A, Sullivan D A, Buring J E, Dana M R. Prevalence of dry eye syndrome among US women. Am J Ophthalmol 2003 8月; 136(2):318−26)。コンタクトレンズ着用者、コンピューター利用者、乾燥環境下に住むおよび/または乾燥環境下で働く患者、および自己免疫疾患の患者は皆、特にドライアイにかかりやすい。近年、シクロスポリンがドライアイの治療に効果的であることがわかり、シクロスポリンは、主要な先行技術の治療薬含有水中油型エマルションの主な有効成分である(Perry HD等、Evaluation of topical cyclosporine FOR the treatment of dry eye disease. Arch Ophthalmol. 2008 8月;126(8):1046−50参照)。
【0073】
ドライアイの症状を緩和するために、眼科様組成物は、3つの基本的な治療目標を達成しなければならない。第1に、眼の表面に直接、容易にかつ便利に適用できなければならず、これにより、エマルションの水性成分が眼の表面にもともと存在する蒸発する水相を修復し、エマルションの油相が水相上にさらなる蒸発を軽減しまたは防止する層を形成すべきである。第2に、特定の用途に対して使用前に予備的振とうを行うことはできるが、保管中に相が分離するのを防ぐために水中油型エマルションは比較的安定でなければならない(しばしば利用者に振とうの必要性は忘れられ得る)。第3に、水中油型エマルションは、点滴器または他の適用容器から容易に流れ出ることができ、また、保管中に凝固しない、またはペースト化しないように、十分に液体のままで存在しなければならない。したがって、ドライアイや他の眼の病気の治療に用いられる理想的な眼科用水中油型エマルションは、比較的安定であり、許容できる流動特性を有し、かつ眼に対して非刺激性である必要がある。
【0074】
シクロスポリンは、水に不溶性の疎水性治療薬であり、したがって眼に投与する前に溶解させなければならない。先行技術の処方は、シクロスポリンのヒマシ油(極性油)に対する高い溶解性により、シクロスポリンを溶解するためにヒマシ油を用いている。しかしながら、ヒマシ油の極性は、図2Bに示すように油粒子のコア近くに懸濁し、粒子表面から離れた状態のシクロスポリンを含むエマルションを形成する。その結果、結膜組織および角膜組織へのシクロスポリンの移行は、非効率的である。
【0075】
シクロスポリンは、ゴマ油、大豆油および亜麻仁油などの非極性油に対して低溶解性である。本発明者は、油/シクロスポリン混合物への低HLB界面活性剤の添加が治療薬の溶解性を著しく高くして、ヒマシ油含有エマルションの場合と比較して、結膜組織および角膜組織へのシクロスポリンの輸送をかなり高めることを見出した(表4)。図2Aは、本発明の教示にしたがって作製した理論上の油粒子を示す。低HLB界面活性剤(「Brij」)の存在が、シクロスポリンを油粒子の縁に位置させ、この結果、シクロスポリンが油粒子の中核に位置する図2Bと比較して、眼の表面へのシクロスポリンの移動をより容易にすることに留意すべきである。
【0076】
【表4】

【0077】
ヒマシ油/シクロスポリン混合物へのBrijまたは他の低HLB界面活性剤の単なる添加が、ここに教示するように、高効率な治療薬の輸送系をもたらさないことを理解することは重要である。実際に、ヒマシ油エマルションへの低HLB界面活性剤(Brij)の添加は、粒子径を大きくし(これは水相中の遊離親水性界面活性剤(例えばLumulse(登録商標))の劇的な増加を引き起こす)(表5参照)、これにより眼への刺激性を高め、薬剤輸送効率を低下させる。
【0078】
【表5】

【0079】
本発明の教示にしたがって作製した組成物のシクロスポリン輸送効率を、当業者に既知の方法を使用して試験した。5つの試験エマルションを作製し、ニュージーランド白ウサギの眼に投与した。4時間にわたり1時間に1滴ずつ、各液滴を眼に染み込ませた後10分間手動で強制的にまばたきをさせて白ウサギを処理した。角膜および結膜のシクロスポリンA濃度を、最後の滴下の20分後に評価した。
【0080】
表6は、シクロスポリンを含有する市販の態様(第5欄)(比較例で使用した市販のヒマシ油はRestasis(登録商標: Allergan, Inc.製 Irvine、California)と比較した、試験溶液1、2および3の優れた輸送を実証する。表6aは試験エマルション4および5に対する同様のデータを示す。エマルション4は、ゴマ油、Lumulse(登録商標)GRH−25、 Brij 93をエマルション5より50%多く含み、その他の成分は同じである。表6および表6aにおける濃度を重量%で示す。エマルション5の低濃度のBrij 93が(Brij 93とゴマ油の比率が0.12で一定に保たれているにもかかわらず)、角膜へのシクロスポリン輸送を増加させることに留意すべきである。エマルションの主成分としてゴマ油/Brij 93を用いることで組織内濃度は著しく増加する。ウサギにおいて実験的に測定したシクロスポリン濃度を表6に示す(組織重量に対して正規化した)。
【0081】
【表6−1】

【0082】
【表6−2】

【0083】
ここで、驚くべきことに本発明者は、本発明の教示にしたがって作製した治療薬含有眼科用エマルションが、眼の表面への疎水性治療組成物の輸送において、Restasis(登録商標)と比較してより効果的であることを見出した点に留意すべきである。理論に縛られることなく、本発明者は、図1を参照することにより眼へのシクロスポリン輸送において確認された優位性を説明し得ると提案する。図1において、疎水性薬剤が油粒子の縁近くに位置することにより、図1に示すように疎水性治療薬が粒子の中核近くに位置する先行技術の組成物よりも、より速く、そしてより容易に眼の表面へ移動することに留意すべきである。
【0084】
表7は、本発明の教示にしたがって作製した選択されたエマルション成分の濃度範囲を示す。全ての値をエマルションの総重量に対する重量パーセントで示す。本発明の教示に従い作製した水中油型エマルションの一態様において、低HLB界面活性剤の非極性油に対する濃度は比率として表現され得る。この方法により表現した低HLB界面活性剤/非極性油の比率は、約0.002〜4.0であり、好ましくは0.02〜0.4である。
【0085】
表8は、本発明の教示にしたがうドライアイの治療に有益な特定の処方を示す。
【0086】
【表7】

【0087】
【表8】

【0088】
実施例3:人工涙液
驚くべきことに本発明の非刺激性眼科用溶液は人工涙液として有用である。人工涙液は、涙液産生の欠乏およびドライアイによる乾燥および炎症を治療するために使用される潤滑性点眼液である。また、人工涙液は、コンタクトレンズを湿潤するために、および眼の検査において使用され、また環境暴露により引き起こされる定期的な乾燥および眼の炎症を緩和するために使用される。一般的に人工涙液は、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒアルロナン(ヒアルロン酸またはヒアルロネートとも称される)(およびそれらの対応塩およびエステル)を含む鎮痛薬、水、塩、防腐剤、粘度調整剤、等張化剤など、ならびにポリマー等の生理学的適合性添加剤を含有し得るが、通常、自然の涙に含まれるタンパク質が不足している等張液である。本発明者は、本発明の教示に特に有益な態様が、非刺激性であり、眼の表面に潤いを与えることに加えて、天然ω−3脂肪酸を眼に供給する人工涙液水中油型エマルション調製物を提供することを見出した。
【0089】
表9は、本明細書に記載されるような非刺激性水中油型エマルションにおいて使用される一般的成分の非限定的リストを示す。
【0090】
【表9】

【0091】
典型的な非極性油は、限定するものではないがω−3脂肪酸、ω−6脂肪酸、およびω−9脂肪酸を含み、典型的な非極性油としては、限定されるものではないが、ゴマ油、チェリーカーネル油、パンプキンシード油、麻の実油、亜麻仁油、エゴマ油、ブラックカラント種油、タラ肝油、サーモン油、アンチョビ油およびマグロ油が挙げられる。
【0092】
一実施態様において、粘度調整剤または鎮痛薬は、ヒアルロン酸およびその塩、ポリビニルピロリドン(PVP)、セルロースポリマー〔ヒドロキシメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース(CMC)〕、デキストラン70、ゼラチン、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80、プロピレングリコール、ポビドン、カルボマー(例えばcarbopol(登録商標))、ポリビニルアルコール、アルギニン酸塩、カラギーナンおよびグアー、カラヤ、アガロース、イナゴマメ、トラガカントおよびキサンタンガムからなる群から選択される。
【0093】
別の実施態様において、殺菌性防腐剤を添加する。防腐剤としては、限定するものではないが、ポリ[ジメチルイミノ−w−ブテン−1,4−ジイル]クロライド、α−[4−トリス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム]ジクロライド(ポリクオタニウム1(登録商標))、ポリ(オキシエチル(ジメチルイミノ)エチレンジメチルイミノ)エチレンジクロライド(WSCP(登録商標))、およびポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)からなる群から選択される高分子第4級アミンの防腐剤が挙げられる。本発明の教示にしたがって使用される殺菌性防腐剤は、水性液体媒体中に、約0.00001〜約0.01重量/容量%の範囲の濃度で、より好ましくは約0.00005〜約0.001重量/容量%の範囲の濃度で、さらに好ましくは約0.00005〜約0.0005重量/容量%の範囲の濃度で含まれる。
【0094】
本発明において使用するのに適した他の抗生物質は、安定化二酸化塩素液(SCD)〔Purogene(登録商標)はBioCide International, Inc.(Norman, Okla., U.S.A.)の商標であり、Purite(登録商標:Allergan, Inc.の商標)としても入手可能である〕である。二酸化塩素前駆体が含まれる場合、効果的な防腐剤濃度または殺菌剤濃度は、約0.002〜約0.06重量/容積%の範囲である。二酸化塩素前駆体を、他の抗生物質、例えばビグアニド、ビグアニドポリマー、それらの塩およびそれらの混合物と組み合わせて使用し得る。
必要に応じて、緩衝剤、張度調整剤(浸透圧調整剤)および他の化合物を添加することができ、これらは他の段落で記載している。1つの特に有益な非刺激性人工涙液調製物を表10に示す。
【0095】
【表10】

【0096】
調製
本発明のドライアイ治療用組成物用の水中油型エマルションの調製は、一般的に以下の通りである。任意の水溶性ポリマー洗剤を含む水溶性成分である非乳化剤を水相に溶解し、乳化剤を含む油溶性成分を油相に溶解させる。2つの相(油相および水相)を別々に適当な温度まで加熱する。この温度はどちらの場合も同じであり、一般的に、油相中の固体または半固体の油または乳化剤の中で最も高い溶解成分の融点よりも数℃から5〜10℃高い温度である。室温で油相が液体の場合、適当な温度は、所定の実験により、水相中の最も高い溶解成分の融点により決定する。油相または水相の全ての成分が室温で各相に溶解する場合、加熱は必ずしも必要でない。この温度は全ての成分を液体状にするのに十分な温度でなければならないが、成分の安定性を損なうほど高くてはならない。実用的な温度範囲は、一般的に約20℃〜約70℃である。水中油型エマルションを作り出すために、最終油相を、中間水相、好ましくは脱イオン水相(DI水)、あるいは最終水相に穏やかに混合し、適当な分散物を作り、得られた生成物を攪拌しながら、または攪拌せずに冷却する。初めに最終油相を中間水相に穏やかに混合する場合、このエマルション濃縮物を、その後最終水相に適切な割合で混合する。この最終水相は、水溶性ポリマーならびに他の水溶性成分を含む。この場合、エマルションはこの時点ですでに形成されているため、エマルション濃縮物および最終水相は同じ温度である必要はなく、または室温以上に加熱されている必要もない。
【0097】
1つの乳化剤のエチレンオキシド単位の量があまりに大きい場合には、自己乳化の工程で半固体が生じ得る。一般的に、界面活性剤が10を越えるエチレンオキシド単位を有する場合、その界面活性剤および油相を全構成水の中の少量の水(例えば約0.1〜10%)と混合して、まずペースト状の半固体物質を形成し、その後この半固体物質を残りの水と混合させる。その後、水和した乳化剤が完全に溶解し、エマルションが形成されるまで穏やかな攪拌が必要となり得る。
【0098】
一実施態様において、界面活性剤および油を初めに混合し加熱する。その後少量の水相を油相に添加し、ペースト状の半固体物質を形成する。ここで、ペーストは、流動しない半固体調製物として定義される。添加する水相の量は、0.1〜10倍、好ましくは0.5〜5倍、より好ましくは1〜2倍である。ペーストが形成した後、さらなる水を上記と同じ温度でペーストに加える。いくつかの実施態様において、添加する水の量は5〜20倍である。その後、エマルションを穏やかに攪拌する。いくつかの実施態様において、混合を30分〜10時間行ってよい。
【0099】
好ましい実施態様において、その後粒子の大きさを調節する。この目的のために、Horiba LA−920粒径分析器をメーカーの使用説明書にしたがって使用し得る。好ましい実施態様において、次工程に移される前の粒子径は0.08〜0.18μmである。
【0100】
次工程において、粒子を他の水性成分、例えば、水、1種以上の鎮痛薬および緩衝剤(好ましくはホウ酸系)と混合してもよい。必要に応じて、電解液、例えば塩化カルシウム二水和物、塩化マグネシウム六水和物、塩化カリウムおよび塩化ナトリウム、およびKollidon 17 NFを添加してもよい。エマルションの形成に電界液は必要ではないが、眼中の電解質バランスを維持することにより眼球組織の完全性を保つのに非常に役立つ。同様に、緩衝剤は重要ではないが、リン酸ベースの緩衝剤系は好ましい電解液により沈殿し得るため、本発明の一実施態様においてはホウ酸/ホウ酸ナトリウム系が好ましい。
【0101】
pHは6.8〜8.0に、好ましくは約7.3〜7.7に調整する。このpH範囲は組織の維持に最適であり、眼球刺激を回避する。その後防腐剤を添加し得る。好ましい実施態様においては、防腐剤として、安定化二酸化塩素(SCD)(Purogene(登録商標))を添加する。
【0102】
本明細書に記載される水中油型エマルションを、調製後にオートクレーブスチーム滅菌を用いて滅菌してもよく、あるいは、当分野で既知の任意の方法により無菌濾過してもよい。エマルション液滴(または小球あるいは粒子)サイズと特徴が合う場合、滅菌濾過器を用いた滅菌を使用し得る。エマルションの液滴サイズ分布は、エマルションの液滴サイズ分布が滅菌濾過膜のカットオフ粒子径を上回る無菌濾過し得る無菌濾過膜のカットオフ粒子径を完全に下回る必要はなく、濾過膜を通過する際にエマルションが変形または容認し得る変化をし、膜を通過後にもとに戻ることができる必要がある。この特性は、エマルション液滴サイズ分布の所定の試験および濾過の前後に組成物中の総油割合により容易に測定し得る。また、より大きなサイズの液滴物の少量の損失は許容し得る。
【0103】
一般的に、オートクレーブスチーム滅菌の後、無菌濾過または無菌/浄化濾過の前に浄化濾過により、本発明のエマルションを非無菌濾過する。好ましい実施態様においては、エマルションを、0.22μmフィルターを使用して濾過滅菌する。好ましくは98〜99%のエマルションが0.22μmのフィルターを通過すべきである。0.22μmより大きな粒子は、一時的にその形を変化させることにより通過しうることに留意すべきである。好ましい実施態様において、その後、滅菌工程の有効性を確認するために物質を試験する。安定性を保つため、好ましくは25℃以下で保管する。したがって、エマルションを適当な容器内に無菌濾過する。
【0104】
本発明の教示にしたがう組成物を、対象(人または動物)の眼に、対象に所望する治療効果をもたらすのに効果的な量で組成物を投与することを含む方法で使用し得る。そのような治療効果は、眼科用治療効果、および/または、対象のからだの一箇所以上または対象のからだ全体に対して求められる治療効果であり得る。好ましい実施態様において、この治療効果はドライアイの症状の治療および/または緩和である。
【0105】
本発明の水相または水性成分ならびに油相および油相成分は、本発明の組成物において効果的であり、例えば組成物において、その組成物の使用において、処理するコンタクトレンズに対して、処理したレンズの装着者に対して、または眼に本発明の組成物を使用する人または動物に対して、実質的にまたは著しく有害とならないように選択される。
【0106】
本発明の組成物の液状水性媒体または液体水性成分は、媒体または水性成分のpHを所望の範囲に維持するために有効な量で存在する緩衝成分を含む。本発明の組成物は、所望する張性を有する組成物を提供するために、有効量の張度調整成分を含む。
【0107】
本発明の組成物の水相または水性成分は、意図する用途に適合するpHであってよく、多くの場合その範囲は約4〜約10である。リン酸塩、ホウ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ヒスチジン、トリス、ビストリスなどおよびそれらの混合物など、種々の従来の緩衝剤を使用することができる。ホウ酸塩緩衝剤は、ホウ酸およびその塩(例えばホウ酸ナトリウムまたはホウ酸カリウム)を含む。溶液中でホウ酸またはホウ酸塩を生じる四ホウ酸カリウムを使用してもよい。ホウ酸ナトリウム十水和物のような水和物塩も使用し得る。リン酸緩衝剤は、リン酸およびその塩を含む:例えばMHPOおよびMHPO〔式中、Mは、ナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属である〕。水和物塩も使用し得る。本発明の実施態様において、NaHPO・7HOおよびNaHPO・HOを緩衝剤として使用する。用語「リン酸塩」には、溶液中でリン酸またはリン酸塩を生じる化合物も含まれる。さらに、上記緩衝剤に対する有機対イオンも使用し得る。緩衝剤の濃度は、一般的に、約0.01〜2.5重量/容量%、より好ましくは約0.05〜約0.5重量/容量%で変化する。
【0108】
緩衝剤の種類および量は、調製物が、組成物の機能的性能的基準(例えば界面活性剤および保存期間安定性、殺菌効果、緩衝能など)の機能に適合するように選択される。緩衝剤は、眼および本発明の組成物の使用を意図する任意のコンタクトレンズに適合するpHを付与するために選択される。一般的に、人の涙のpHに近いpH(例えば約7.45)が非常に有用であるが、約6〜9、より好ましくは約6.5〜約8.5、さらに好ましくは約6.8〜8.0のpH範囲であってもよい。一実施態様において、本発明の組成物は、約7.0のpHを有する。
【0109】
本発明の組成物の意図する用途に適合した値とするために、本発明の組成物の浸透圧を等張化剤により調整し得る。例えば、組成物の浸透圧は、通常の涙液の浸透圧近くに調整してよく、その値は約0.9重量/容量%の塩化ナトリウム水溶液に等しい。適当な張度調整剤としては、限定するものではないが、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよび塩化マグネシウム;ブドウ糖;グリセリン;プロピレングリコール;マンニトール;ソルビトールなどならびにそれらの混合物が挙げられる。一実施態様において、組成物の張性を調節するために、塩化ナトリウムと塩化カリウムの組み合わせを使用する。
【0110】
等張化剤は、一般的に、約0.001〜2.5重量/容量%の範囲の量で使用される。これらの量は、眼球組織の完全性を維持するために十分な張度を付与するのに有効であることがわかっている。好ましくは、等張化剤を、150〜450mOsm/kg、好ましくは約250〜約330mOsm/kg、より好ましくは約270〜約310mOsm/kgの最終浸透圧値を付与できる量で用いる。より好ましい本発明の水性組成物は、実質的に等張または低張(例えばやや低張、例えば約240mOsm/kg)であり、および/または眼科学的適合性である。一実施態様において、組成物は、約0.14重量/容量%の塩化カリウム、および0.006重量/容量%の塩化カルシウムおよび/またはマグネシウムを含有する。
【0111】
等張化剤および緩衝剤に加えて、本発明の組成物は、例えば本明細書の別の段落で記載したような1種以上の他の物質を、所望する目的、例えばコンタクトレンズおよび/または眼球組織を処理するため、例えば組成物と接触するコンタクトレンズおよび/または眼球組織に有益な特性を与えるために有効な量で含有することができる。一実施態様において、溶液の安定性を保ち、眼球表面のフリーラジカル損傷を低減するために酸化防止剤を添加する。適当な非限定的な例として、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンAおよびブチルヒドロキシトルエン(BHT)が挙げられる。
【0112】
(包装形態または機能の限定を意図するものではないが)包装は、防腐剤を含む多用途薬瓶または単一用途薬瓶であってよい。さらに、大気中酸素への製品暴露を防止または軽減し、これにより製品寿命を保つために窒素ガスを用いて包装してもよい。
【0113】
一実施態様において、組成物はドライアイ治療用の水溶性ポリマーに加えて、第2の治療薬を含む。本発明の組成物は、例えば、少なくとも1種の治療薬を眼にまたは眼を通して輸送するための担体または媒体として有用である。そのような治療用成分が組成物を構成する他の成分と相溶性であり、組成物を構成する他の成分の機能および特性との関係を不当に妨げず、そのような治療用成分が、例えば本発明の組成物に投与された場合に所望の治療効果をもたらし、眼にまたは眼を通して投与された場合に効果的である限り、本発明の組成物は任意の適当な治療用成分を含んでいてよい。例えば、非常に有益な実施態様において、眼へまたは眼を通して、疎水性治療用成分または疎水性治療薬の輸送が遂行され得る。
【0114】
特に明記しない限り、明細書および特許請求の範囲で用いられている、成分や特性の量(例えば、分子量、反応条件など)を表現する全ての数値は、全ての場合において用語「約」により修飾される値であると理解されたい。したがって、特に明記しない限り、明細書および特許請求の範囲において記載される数値パラメータは、本発明により得ようとする所望の特性により変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲に均等論の適用を制限しようとするものではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告された有効数値の特定の数値および一般的な丸め技法を適用することによる特定の数値であると解釈されるべきである。
【0115】
それにもかかわらず、本発明の広い範囲に記載される数値範囲およびパラメータは、近似値であり、特定の実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告された数値である。しかしながら、任意の数値は本質的に、個々の試験測定における標準偏差により必然的に生じる特定の誤差を含む。
【0116】
発明を記載する文脈(特に特許請求の範囲中)において使用される用語「a」、「an」、「the」および同様の指示語は、他に明記されない限り、文脈に明らかに反しない限り、単数および複数の両方を含めるものと解釈すべきである。ここでの数値範囲の記述は、単に範囲内のそれぞれ別々の数値に個別に言及する簡単な方法として用いられることを意図するものである。ここに記載しない限り各個別の数値は、明細書中に個別に記載されているかのように明細書に組み込まれる。ここに記載される全ての方法は、特に明記しない限り、または文脈に明らかに反しない限り、任意の適当な順序で行うことができる。ここで提供される任意のおよび全ての実施例、または例示的な言葉(例えば「例えば〜など」)は、単に発明をより明らかにすることを意図するものであって、クレームされた以外の発明の範囲を限定するものではない。明細書中の言葉は発明の実行に必須の任意の非請求要素を示すものとして解釈すべきではない。
【0117】
ここに記載される代替要素のグループ分けまたは実施態様は、限定として解釈すべきでない。各群の構成要素は個別にまたはここで見出される別の要素の群の他の構成要素との任意の組み合わせにおいて言及およびクレームされ得る。便宜上および/または特許性の理由のために群の1種以上の構成要素が群に含まれ得ること、または群から削除され得ることが予測される。そのような任意の包含または削除が行われる場合、明細書は、修正され、添付の特許請求の範囲において使用されるマーカッシュ群の記載を充足するような群を含むとみなされる。
【0118】
本発明を行うための本発明者が知っているベストモードを含む特定の実施態様が記載される。当然、前述の記載を読むことで当業者にこれらの記載される実施態様のバリエーションが明らかになるであろう。本発明者は、必要に応じて当業者がそのようなバリエーションを使用すると予測し、本発明者は特にここに記載される以外の発明が実行されることを意図している。したがって、この発明は、準拠法により許される限り、添付の特許請求の範囲に記載される主題の全ての修正および等価物を含む。さらに特に記載がない限り、または文脈に明らかに反しない限り、この全ての可能なバリエーションにおける上述した要素の任意の組み合わせも本発明に包含される。
【0119】
ここに記載される特定の実施態様は、さらに、用語「〜からなる」および/または「実質的に〜からなる」を用いる請求項において限定され得る。出願時であるか補正ごとに加えられるかにかかわらず、請求項において使用される場合、移行用語「〜からなる」はクレームで特定されていない任意の要素、工程または成分を除外する。移行用語「実質的に〜からなる」は、特定された材料または工程および基本的な新しい特徴に大きく影響しない材料または工程に請求項の範囲を制限する。クレームされる発明の実施態様は、本質的にまたは明らかにここに記載され使用可能である。
【0120】
さらに、本明細書において特許文献、刊行物を多数参照している。上記の各文献および刊行物は、参照により個別に本明細書中に完全に組み込まれる。
【0121】
最後に、ここに記載される実施態様は、本発明の原則を反映したものであることを理解されたい。使用し得る他の修正は本発明の範囲内である。したがって、限定するものではなく一例として、本発明の代替形態を本発明の教示にしたがって使用し得る。したがって、本発明は正確に示され、記載された発明に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科用エマルションの治療剤送達効果を高めるための方法であって、
極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖のみを有する少なくとも1種の眼科学的適合性油を選択すること、
眼に局所送達する疎水性治療剤を選択すること、
8未満のHLB値を有する疎水性非コブロック(non−co−block)界面活性剤を選択すること、
8以上のHLB値を有する親水性界面活性剤を選択すること、
前記油、前記疎水性治療剤、前記疎水性界面活性剤および前記親水性界面活性剤を、1μm未満の平均粒子径を有する安定なエマルション構造とするのに十分な量の水と混合すること
を含み、眼に局所適用した場合に前記エマルションが眼に対して刺激性でなく、1種の界面活性剤またはいずれも8以上のHLB値を有する一組の界面活性剤を含む眼科用エマルションと比較して、疎水性治療剤がより効果的に眼に送達する方法。
【請求項2】
前記親水性界面活性剤が8.0〜25.0のHLB値を有し、前記疎水性非コブロック界面活性剤が1.0〜7.9のHLB値を有する、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項3】
前記疎水性非コブロック界面活性剤の含有量に対する前記親水性界面活性剤の含有量が10.0〜4.9の比率である、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項4】
前記疎水性非コブロック界面活性剤の含有量に対する前記親水性界面活性剤の含有量が14.5〜4.9の比率である、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項5】
前記疎水性非コブロック界面活性剤の含有量に対する前記親水性界面活性剤の含有量が10.0〜2.0の比率である、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項6】
前記疎水性非コブロック界面活性剤の含有量に対する前記親水性界面活性剤の含有量が14.5〜2.0の比率である、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項7】
前記親水性界面活性剤がLumulse(登録商標)GRH 40またはLumulse(登録商標)GRH 25であり、前記疎水性非コブロック界面活性剤がBrij 72またはBrij 93である、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項8】
非極性アルキル側鎖を有する少なくとも1種の油が、ゴマ油、チェリーカーネル油、パンプキンシード油、麻の実油、亜麻仁油、エゴマ油、大豆油、オリーブ油、菜種油、コーン油およびブラックカラント種油からなる群から選択される、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項9】
非極性アルキル側鎖を有する少なくとも1種の油が、タラ肝油、サーモン油、アンチョビ油およびマグロ油からなる群から選択される冷水魚に由来する、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項10】
緩衝剤、殺菌剤、鎮痛剤、粘度調整剤、金属塩、エマルション安定化剤および治療薬からなる群から選択される添加剤をさらに含む、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項11】
極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖またはアルキル側鎖を有する、ヒマシ油または鉱物油以外の少なくとも1種の油、8以上のHLB値を有する親水性界面活性剤、8未満のHLB値を有する疎水性非コブロック界面活性剤を含有し、水中油型エマルションの直径における平均粒子径が1μm未満である眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項12】
前記親水性界面活性剤が8.0〜25.0のHLB値を有し、前記疎水性非コブロック界面活性剤が1.0〜7.9のHLB値を有する、請求項11に記載の眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項13】
前記疎水性非コブロック界面活性剤の含有量に対する前記親水性界面活性剤の含有量が10.0〜4.9の比率である、請求項11に記載の眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項14】
前記疎水性非コブロック界面活性剤の含有量に対する前記親水性界面活性剤の含有量が14.5〜4.9の比率である、請求項1に記載の眼科用エマルションの治療剤送達効果を増大させる方法。
【請求項15】
前記疎水性非コブロック界面活性剤の含有量に対する前記親水性界面活性剤の含有量が10.0〜2.0の比率である、請求項11に記載の眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項16】
前記疎水性非コブロック界面活性剤の含有量に対する前記親水性界面活性剤の含有量が14.5〜2.0の比率である、請求項11に記載の眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項17】
前記親水性界面活性剤がLumulse(登録商標)GRH 40またはLumulse(登録商標)GRH 25であり、前記疎水性非コブロック界面活性剤がBrij 72またはBrij 93である、請求項11に記載の眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項18】
非極性アルキル側鎖を有する少なくとも1種の油が、ゴマ油、チェリーカーネル油、パンプキンシード油、麻の実油、亜麻仁油、エゴマ油、大豆油、オリーブ油、菜種油、コーン油およびブラックカラント種油からなる群から選択される、請求項11に記載の眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項19】
非極性アルキル側鎖を有する少なくとも1種の油が、タラ肝油、サーモン油、アンチョビ油およびマグロ油からなる群から選択される冷水魚に由来する、請求項11に記載の眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項20】
緩衝剤、殺菌剤、鎮痛剤、粘度調整剤、金属塩、エマルション安定化剤および治療薬からなる群から選択される添加剤をさらに含む、請求項11に記載の眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項21】
極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖またはアルキル側鎖を有する、ヒマシ油または鉱物油以外の少なくとも1種の油、約10〜14のHLB値を有する親水性界面活性剤、約4〜6のHLB値を有する疎水性非コブロック界面活性剤を含有する、平均粒子径が1μm未満である眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項22】
水、極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖またはアルキル側鎖を有する、ヒマシ油または鉱物油以外の少なくとも1種の油、約12〜14のHLB値を有する親水性界面活性剤、約4〜5のHLB値を有する疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になる、平均粒子径が0.6μm未満である眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項23】
水、極性ペンダント基を含まない脂肪族側鎖またはアルキル側鎖を有する、ヒマシ油または鉱物油以外の少なくとも1種の油、約10〜11のHLB値を有する親水性界面活性剤、約4〜5のHLB値を有する疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になる、平均粒子径が0.6μm未満である眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項24】
水、ゴマ油、およびLumulse(登録商標)GRH 25からなる親水性界面活性剤ならびにBrij 93からなる疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になる、平均粒子径が0.6μm未満である眼科用水中油型エマルション組成物。
【請求項25】
ゴマ油、Lumulse(登録商標)GRH 40またはLumulse(登録商標)GRH 25からなる親水性界面活性剤、およびBrij 72またはBrij 93からなる疎水性非コブロック界面活性剤から実質的になり、平均粒子径が0.6μm未満である眼科用水中油型エマルション組成物であって、さらにドライアイの症状に対して有効な量のシクロスポリンAを含有する眼科用水中油型エマルション組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−528876(P2012−528876A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514083(P2012−514083)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/037070
【国際公開番号】WO2010/141586
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(502049837)アボット・メディカル・オプティクス・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT MEDICAL OPTICS INC.
【Fターム(参考)】