説明

眼科用組成物

炎症緩和効果に優れると共に、コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズへの消炎剤の吸着が有利に抑制され得る眼科用組成物を提供すること。また、眼脂に対する洗浄効果に優れ、且つ、眼の乾燥感等の不快感を低減して良好な使用感を実現する眼科用組成物を提供する。 水系媒体中に、トラネキサム酸、トラネキサム酸塩及びトラネキサム酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、非イオン性界面活性剤とを、必須の構成成分として併用することによって、眼科用組成物を調製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用組成物に係り、特に、コンタクトレンズをケア(例えば、保存や洗浄等)する際に使用されるコンタクトレンズ用液剤や、コンタクトレンズ装用時に点眼を行なうためのコンタクトレンズ用点眼液として、有利に用いられる眼科用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンタクトレンズの装用によって、特に、角膜・粘膜に対して、物理的な影響が与えられることが知られており、この物理的影響が原因で、炎症が惹起される場合がある。また、近年においては、アレルゲンがコンタクトレンズに付着することにより、眼のかゆみや充血等のアレルギー症状乃至は炎症が引き起こされる可能性があることが、指摘されている。また、コンタクトレンズの装用に起因する上眼瞼結膜の炎症は、眼の乾燥感(ドライアイ)と密接な関係があると言われている。
【0003】
そして、これらの炎症を緩和するために、従来より、様々な点眼液が開発されてきている。例えば、炎症緩和効果を有する消炎剤としては、グリチルリチン酸二カリウムやε−アミノカプロン酸等が知られており、現在では、そのような消炎剤が配合された点眼液が市販されるに到っている。
【0004】
また、特許第3402675号公報(特許文献1)には、グリチルリチン酸やグリチルレチン酸等を必須成分とするコンタクトレンズケア用溶剤が提案されている一方、特許第3256997号公報(特許文献2)においては、ε−アミノカプロン酸を緩衝剤成分として含有した眼科用の水性製剤が、提案されている。
【0005】
しかしながら、上述せる如き、グリチルリチン酸やグリチルレチン酸、ε−アミノカプロン酸等の消炎剤を含有する液剤をコンタクトレンズに適用すると、コンタクトレンズ、中でも、ソフトコンタクトレンズへの消炎剤の吸着・吸蔵が懸念される。このため、それらの液剤は、ソフトコンタクトレンズへの使用が好ましくないものであったのである。そこで、炎症の緩和効果が有利に発現され、尚且つソフトコンタクトレンズに対しても安心して使用することの出来る眼科用組成物が、強く望まれてきている。
【0006】
【特許文献1】特許第3402675号公報
【特許文献2】特許第3256997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、炎症緩和効果に優れると共に、コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズへの消炎剤の吸着が有利に抑制され得る眼科用組成物を提供することにある。また、本発明は、眼脂に対する洗浄効果に優れ、且つ、眼の乾燥感等の不快感を低減して良好な使用感を実現する眼科用組成物を提供することも、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明者は、そのような課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来から、口腔組成物や皮膚外用剤等において、出血防止効果や抗炎症効果を得るために使用されているトラネキサム酸やトラネキサム酸塩、トラネキサム酸誘導体を、消炎剤として用い、そして、かかるトラネキサム酸、その塩及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の消炎剤と、眼刺激を惹起し難い非イオン性の界面活性剤とを組み合わせて使用することにより、炎症緩和効果が良好に発揮されると共に、特にソフトコンタクトレンズに対する消炎剤の吸着を有利に抑制することが出来ることを、見出した。しかも、それら特定の消炎剤と、非イオン性界面活性剤とを併用することで、眼脂に対する洗浄効果が相乗的に高められると共に、不快感の発生が低減され得ることをも、見出したのである。
【0009】
従って、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その第一の態様とするところは、トラネキサム酸、トラネキサム酸塩及びトラネキサム酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と非イオン性界面活性剤とが含有せしめられていることを特徴とする眼科用組成物にある。
【0010】
また、本発明に従う眼科用組成物における第二の態様にあっては、防腐剤、殺菌剤、キレート化剤、緩衝剤、界面活性剤(但し、前記非イオン性界面活性剤を除く)、等張化剤、粘稠剤、清涼化剤、ビタミン類、血管収縮剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が、更に、含有せしめられている構成が、採用される。
【0011】
さらに、本発明に従う眼科用組成物の第三の態様おいては、前記眼科用組成物が、コンタクトレンズ用液剤として、用いられることとなる。
【0012】
加えて、本発明の第四の態様においては、前記眼科用組成物が、前記コンタクトレンズ用液剤の中でも、コンタクトレンズ用点眼液として、使用される。
【0013】
また、本発明に従う眼科用組成物の第五の態様では、前記眼科用組成物が、前記コンタクトレンズ用液剤の中でも、コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューションとして、用いられる。
【0014】
さらに、本発明に従う眼科用組成物の望ましい第六の態様では、前記トラネキサム酸、トラネキサム酸塩及びトラネキサム酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が、0.0001w/w%〜5.0w/w%の割合で含有される一方、第七の態様においては、前記非イオン性界面活性剤が、0.001w/w%〜10w/w%の割合で含有される構成が、採用されることとなる。
【発明の効果】
【0015】
そして、本発明に従う眼科用組成物における、先述した第一の態様によれば、トラネキサム酸、トラネキサム酸塩及びトラネキサム酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が含有されているところから、高い炎症緩和効果(消炎効果)が実現されるのである。
【0016】
また、上記トラネキサム酸、トラネキサム酸塩及びトラネキサム酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の、高い消炎効果を有する化合物(消炎剤)が、非イオン性界面活性剤と組み合わされて、用いられているところから、消炎剤のコンタクトレンズ(特に、ソフトコンタクトレンズ)への吸着乃至は付着が、有利に防止され得るようになっている。このため、本発明の眼科用組成物は、ソフトコンタクトレンズに対しても、また、ソフトコンタクトレンズを装用したままであっても、使用することが出来るのである。
【0017】
しかも、上述せる如き特定の消炎剤と非イオン性界面活性剤との併用によって、非イオン性界面活性剤の界面活性作用が高められ、眼脂に対する洗浄力が顕著に向上することとなる。また、乾燥感等に代表される、眼の不快感が低減され、良好なる使用感が得られるようになっている。
【0018】
また、本発明の第二の態様によれば、含有せしめる成分に応じた更なる機能が、眼科用組成物に付加されることとなる。
【0019】
さらに、本発明に従う眼科用組成物の第三及び第四の態様に従って、コンタクトレンズ用点眼液等のコンタクトレンズ用液剤として使用し、コンタクトレンズの装用中に点眼を行なえば、消炎剤による炎症緩和効果が有利に発現されると共に、装用中のコンタクトレンズから眼脂が除去され、コンタクトレンズの曇り等の発生が有利に防止され得ることとなる。
【0020】
加えて、本発明に従う眼科用組成物の第三及び第五の態様に従って、コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション等のコンタクトレンズ用液剤として使用すれば、コンタクトレンズに付着した眼脂が効果的に除去され得る。更に、そのようなコンタクトレンズ用液剤がレンズ表面に付着した状態で、コンタクトレンズを装用すると、消炎剤による炎症緩和効果が有利に発揮されることとなる。
【0021】
また、本発明の第六及び第七の態様によれば、上述せる如き優れた効果が有利に発現されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ところで、かかる本発明に従う眼科用組成物は、水系媒体を主体とし、その中に、必須の成分として、(A)トラネキサム酸、トラネキサム酸塩、トラネキサム酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、(B)非イオン性界面活性剤とを、組み合わせて含有したところに、大きな特徴を有している。
【0023】
ここにおいて、上記A成分は、高い炎症緩和効果(消炎効果)を実現する成分であって、消炎剤としての作用を奏する。より具体的には、トラネキサム酸(=トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンカルボン酸)は、アミノ酸の1種であり、抗プラスミン作用に基づく出血防止効果並びに抗炎症効果が高く、従来より歯磨き中に添加されており、歯周病予防に有効であることが知られている化合物である。また、アレルギーや感染による炎症性病変の原因となっているキニンその他の活性ペプタイドのプラスミンによる産生を抑制し、血管透過性や、カラゲニン、プラディキニン等の起炎性物質による浮腫を抑制する作用も認められている。
【0024】
また、トラネキサム酸の塩や誘導体にあっても、トラネキサム酸と同様に、高い炎症緩和効果が得られるのである。ここで、トラネキサム酸の塩としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、カリウム等の金属塩や、硫酸塩等が挙げられる。また一方、トラネキサム酸の誘導体としては、例えば、ビタミンAエステル、ビタミンEエステル、ビタミンCエステル、ビタミンDエステル等のビタミンエステル類、フェニルエステル類等のトラネキサム酸のエステル類や、N,N−マレオイルアミノトラネキサム酸等が挙げられる。
【0025】
そして、本発明においては、上述せる如きトラネキサム酸、トラネキサム酸塩、トラネキサム酸誘導体の何れもが、A成分として、使用され得るのであり、それらトラネキサム酸、トラネキサム酸塩、トラネキサム酸誘導体からなる群より、少なくとも1種の化合物が適宜に選択されて、単独で或いは2種以上が組み合わされて、用いられることとなる。
【0026】
また、上記A成分の含有量にあっては、適宜に設定されるものの、その含有量が少なくなり過ぎると、目的とする炎症緩和効果が充分に得られなくなる一方、余りにも多くなり過ぎると、眼刺激や眼障害が惹起されたり、コンタクトレンズの形状又は物性への影響等、眼に対する安全性に問題が発生することが懸念されるところから、眼科用組成物中に、好ましくは0.0001〜5.0w/w%(重量%)、更に好ましくは0.001〜1.0w/w%の範囲で含有されることが望ましい。
【0027】
一方、本発明の必須成分の他の一つとして用いられる(B)非イオン性界面活性剤は、非イオン性であるところから、他の界面活性剤に比して、眼刺激が惹起され難いものとなっている。そして、かかる非イオン性界面活性剤としては、生体への安全性が高く、尚且つ眼科的に許容され得るものであれば、従来から周知のものが何れも、有利に用いられるのであるが、低分子の非イオン性界面活性剤は、コンタクトレンズの内部に取り込まれ易いところから、比較的に高分子の非イオン性界面活性剤が、より望ましい。
【0028】
そして、非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーやその誘導体(例えば、BASF社製のプルロニック、プルロニックR、テトロニック、テトロニックR、具体的には、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー338、ポロクサマー237、ポロクサマー124、テトロニック904、テトロニック908、テトロニック1304、テトロニック1107等);モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(=ポリソルベート20)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(=ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE(60)硬化ヒマシ油等のPOE硬化ヒマシ油;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE−POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等POEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられるが、これらの中でも、眼刺激が少なく、生体への安全性がより高いという理由から、POE−POPブロックコポリマー、ポリソルベート80、POE(60)硬化ヒマシ油が、特に有利に用いられるのである。
【0029】
そして、そのようなB成分を用いることによって、消炎剤たるA成分のコンタクトレンズ(特に、ソフトコンタクトレンズ)への吸着が、効果的に抑制され得るのである。しかも、A成分と併用されることによって、B成分の洗浄力が顕著に高められて、角膜上やコンタクトレンズに付着した眼脂汚れ等も有利に除去されることとなる。
【0030】
また、上記したB成分の含有量にあっては、適宜に設定されるものの、その含有量が少なくなり過ぎると、A成分のコンタクトレンズへの吸着を抑制することが出来なくなったり、表面張力効果や洗浄力効果を充分に得ることが出来なくなる一方、余りにも多くなり過ぎると、眼刺激や眼障害が惹起されたり、コンタクトレンズの形状又は物性への影響等、眼に対する安全性に問題が発生することが懸念されるところから、眼科用組成物中に、好ましくは0.001〜10w/w%、より好ましくは0.005〜1.0w/w%の範囲で含有されることが望ましい。
【0031】
ところで、本発明に従う眼科用組成物においては、前記したA成分及びB成分の他にも、更に必要に応じて、従来より眼科用組成物に用いられている各種の添加成分のうちの1種乃至は2種以上が適宜に選択されて、通常の添加割合において添加せしめられていても、何等差し支えないのである。なお、そのような添加成分は、生体への安全性が高く、尚且つ眼科的に充分に許容され、しかもコンタクトレンズの形状又は物性に対する影響のないものであることが好ましく、また、そういった要件を満たす量的範囲内で用いられることが望ましいのであり、これによって、本発明の効果を何等阻害することなく、その添加成分に応じた各種の機能を眼科用組成物に対して有利に付与することが出来るのである。
【0032】
そして、例えば、本発明の眼科用組成物において、眼やコンタクトレンズに対する消毒効果乃至は殺菌効果、更には、眼科用組成物の防腐・保存効果を有利に発現させるためには、防腐効力乃至は殺菌効力を有する防腐剤や殺菌剤が添加せしめられる。なお、そのような防腐剤や殺菌剤としては、一般に、防腐乃至は殺菌効力と共に、眼やコンタクトレンズへの適合性に優れたもの、更には、アレルギー等の障害の要因となり難いものが望ましく、公知の各種のものの中から、適宜なものが選定され、単独で或いは複数を組み合わせて用いることが出来る。
【0033】
因みに、防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、安息香酸或いはその塩、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、クロロブタノール、過ホウ酸或いは過ホウ酸ナトリウムのような過ホウ酸塩等が挙げられる。また一方、殺菌剤としては、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)等のビグアニド系殺菌剤やポリクオタニウム等の4級アンモニウム塩系殺菌剤等を挙げることが出来る。なお、例えば、本発明に従う眼科用組成物を点眼剤の形態で用いる際において、上記した防腐剤や殺菌剤を用いない場合には、本発明に従う眼科用組成物を、1回で使い切るシングルドーズタイプとして用いたり、特開2002−80055号公報に開示されている如きフィルター付き吐出容器を使用するマルチドーズタイプとして用いることも可能である。
【0034】
また、コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズには、一般に、涙液からの汚れとして、カルシウム等が沈着乃至は吸着する可能性があることから、そのようなカルシウム等の沈着乃至は吸着を防止するべく、眼科用組成物には、キレート化剤も、また、有利に添加せしめられることとなる。そのようなキレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びその塩、例えばエチレンジアミン四酢酸・2ナトリウム(EDTA・2Na)、エチレンジアミン四酢酸・3ナトリウム(EDTA・3Na)等が挙げられる。
【0035】
さらに、眼科用組成物にあっては、そのpH値が大きくなり過ぎても、逆に小さくなり過ぎても、眼に対して刺激を与えたり、眼障害を招来する恐れがあるところから、通常、そのような眼科用組成物のpH値は、適当なpH調整剤や緩衝剤等の添加によって、5.3〜8.5程度、中でも7.0付近に調整されることが望ましい。なお、そのようなpHの調整のために用いられるpH調整剤としては、水酸化ナトリウムや塩酸等が利用される一方、眼科用組成物のpHを前記した範囲に有効に且つ眼に対して安全な範囲に保つための緩衝剤としては、従来から公知の各種のものの中から、適宜に選択されて、用いられることとなる。具体的には、例えば、リン酸、ホウ酸、カルボン酸、オキシカルボン酸等の酸や、その塩(例えば、ナトリウム塩等)、更にはGood−Bufferやトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis−Tris)、炭酸水素ナトリウム等を、眼に対して安全であり、しかもコンタクトレンズに対する影響を少なくすることが出来るという理由から、挙げることが出来る。
【0036】
加えて、本発明に従う眼科用組成物には、前述せる如き非イオン性界面活性剤(B成分)以外にも、本発明の作用・効果を損なわない濃度において、従来から公知のアニオン系界面活性剤や、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤等の各種の界面活性剤が、添加、含有せしめられても良い。
【0037】
また、本発明に従う眼科用組成物にあっては、その浸透圧が大きくなり過ぎても、逆に小さくなり過ぎても、眼に対して刺激を与えたり、眼障害を招来する恐れがあるところから、通常、眼科用組成物の浸透圧は、等張化剤等を添加せしめることによって、200〜450mOsm/kg程度に調整されていることが、望ましい。なお、かかる浸透圧の調整に用いられる等張化剤としては、一般に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、糖アルコール、及び多価アルコール若しくはそのエーテル又はそのエステルからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物が、用いられることとなる。
【0038】
さらに、本発明において、眼科用組成物の粘度を適度に調整すると共に、角膜上における眼科用組成物の滞留時間を延ばしたり、湿潤性や保湿性を有利に向上せしめるためには、粘稠剤(増粘剤)を添加することが出来、かかる粘稠剤の添加によって、眼科用組成物中に含有せしめられた有効成分による作用が効果的に発現されたり、乾燥感等の眼の不快感がより一層有利に低減されるようになる。なお、そのような粘稠剤としては、例えば、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、グルコン酸及びそれらの塩等の多糖類、ムコ多糖類、ヘテロ多糖類等の種々のガム類;ポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等の合成有機高分子化合物;ポリクオタニウム−10の如きカチオン化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体;スターチ誘導体等が有利に用いられる。
【0039】
また、点眼時に爽快感を与えたり、コンタクトレンズ装用時の異物感や痒みを解消すること等を目的として、メントール、ボルネオール、カンフル、ゲラニオール、ユーカリ油、ベルガモット油、ウィキョウ油、ハッカ油、ローズ油、クールミント等の清涼化剤を添加せしめることも、可能である。
【0040】
この他にも、本発明に従う眼科用組成物には、ビタミンA類(パルミチン酸レチノール、β−カロチン等を含む)、ビタミンB、B、B12、酢酸d−α−トコフェロール等のビタミンE類、パンテノール等のビタミン類や、眼球中の強膜血管に作用し、眼の充血を解消すると共に、眼精疲労の回復に効果があるとされる、硝酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン等の血管収縮剤、アスパラギン酸及びその塩、アミノエチルスルホン酸、アルギニン、アラニン、リジン、グルタミン酸等のアミノ酸類等、各種添加成分を、目的とする眼科用組成物の用途に応じて、適宜、添加することが可能である。
【0041】
ところで、かかる本発明に従う眼科用組成物は、上述の如き成分を、従来と同様に、適当な水系媒体中にそれぞれ適量において添加、含有せしめることにより、調製されることとなるのであるが、それに際して用いられる水系媒体としては、水道水や精製水、蒸留水等の水そのものの他にも、水を主体とする溶液であれば、生体への安全性が高く、尚且つ眼科的に充分に許容され得るものである限り、何れも利用することが可能であることは、言うまでもないところである。
【0042】
また、上述の如き成分を含有せしめてなる、本発明に従う眼科用組成物を調製するにあたっては、何等特殊な方法を必要とせず、通常の水溶液を調製する場合と同様に、水系媒体中に各成分を溶解させることにより、容易に得ることが出来るものである。
【0043】
そして、以上のようにして得られる本発明に従う眼科用組成物は、眼に対する安全性に優れ、また、コンタクトレンズの規格変化等の悪影響を惹起するものではないことから、点眼液や、コンタクトレンズ用点眼液、コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション等のコンタクトレンズ用液剤として、有利に用いられるのである。
【0044】
例えば、本発明に従う眼科用組成物を、点眼液として用いる場合には、従来から公知の点眼液乃至は点眼薬と同様に、適量を点眼せしめれば良い。そして、本発明に従う眼科用組成物が眼に投与されると、ストレスやコンタクトレンズの装用等に起因する眼内の炎症が有利に緩和されるのである。また、本発明に従う眼科用組成物は、ソフトコンタクトレンズに対しても、何等悪影響を及ぼすものではなく、点眼に際しては、コンタクトレンズの装用の有無が何等問われることはないのである。特に、コンタクトレンズ装用時に、コンタクトレンズ用点眼液として点眼すると、有効成分の洗浄作用によって、コンタクトレンズに付着した眼脂を除去することも可能となり、以てコンタクトレンズ装用感も高められ、本発明に従う眼科用組成物の機能が最大限に発揮されることとなる。
【0045】
また、本発明に従う眼科用組成物を、上記したコンタクトレンズ用点眼液以外の用途のコンタクトレンズ用液剤として用いる場合には、例えば、かかる眼科用組成物にてコンタクトレンズの洗浄乃至はすすぎを行ない、その後、そのコンタクトレンズの表面に眼科用組成物が付着した状態のまま、コンタクトレンズを装用したり、或いは、かかる眼科用組成物中にコンタクトレンズを一定時間浸漬して保存せしめた後、そのコンタクトレンズを取り出し、そのまま装用するようにすれば良い。このように使用すれば、コンタクトレンズに付着した汚れが洗浄されたり、眼の炎症が緩和される等、本発明による効果が有利に発揮されるのである。
【0046】
なお、上記したコンタクトレンズ用液剤としては、例えば、単一の用途を目的とする、コンタクトレンズ用洗浄液、コンタクトレンズ用濯ぎ液、コンタクトレンズ保存液等の他、洗浄、濯ぎ及び保存等の複数の用途を目的とする、マルチパーパスソリューションが挙げられる。特に、本発明に従う眼科用組成物にあっては、界面活性剤を配合しており、洗浄作用があることや、すすぎを行なったコンタクトレンズを、そのまま眼に入れて消炎効果を得ることが出来るといった特徴を有しているところから、マルチパーパスソリューションとして用いられることが、望ましい。
【0047】
また、本発明に従う眼科用組成物を、コンタクトレンズ用点眼液やコンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション等のコンタクトレンズ用液剤として用いた際に、その対象となるコンタクトレンズとしては、その種類が何等限定されるものではなく、例えば、非含水、低含水、高含水等の全てに分類されるソフトコンタクトレンズ、及びハードコンタクトレンズがその対象となり得るのであって、コンタクトレンズの材質等が、本発明の適用に際して何等問われることはない。特に、本発明に従う眼科用組成物にあっては、消炎剤(A成分)や汚れが付着し易いソフトコンタクトレンズに対しても、有用な効果を発現することが出来るようになっているのである。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0049】
先ず、滅菌精製水に対して、所定の添加成分を、下記表1に示される各種割合においてそれぞれ添加せしめることにより、浸透圧が300mOsm/kg程度とされた実施例1〜6及び比較例1〜10に係る各種眼科用組成物(液剤試料)を、それぞれ調製した。なお、かかる眼科用組成物の調製に際しては、A成分(消炎剤)として、トラネキサム酸を用いる一方、B成分(非イオン性界面活性剤)として、ポロクサマー407、ポリソルベート80、又はPOE(60)硬化ヒマシ油を用いた。その他、緩衝剤としては、ホウ酸及びホウ砂を、防腐剤としては、ソルビン酸カリウムを、清涼化剤としては、1−メントールを、粘稠剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを、キレート化剤としては、エデト酸ナトリウムを、更に、等張化剤としては、プロピレングリコール、塩化ナトリウム及び塩化カリウムを、それぞれ、適宜に用いた。また、比較のために、従来より消炎剤等として用いられている、グリチルリチン酸二カリウムとε−アミノカプロン酸を用意した。そして、得られた各眼科用組成物について、pHを測定し、得られた結果を下記表1に示すと共に、後述する不快感低減持続効果試験を行なった。また、実施例1〜6及び比較例1,6〜10に係る眼科用組成物については、コンタクトレンズへの消炎剤の吸着量の測定を実施した。更に、実施例1〜3及び比較例2〜4に係る眼科用組成物については、後述する脂質可溶化試験を行なった。
【0050】
<不快感低減持続効果試験>
酸素透過性ハードコンタクトレンズ装用者10名、ソフトコンタクトレンズ装用者10名、及びコンタクトレンズを装用していないVDT(Visual Display Terminal)作業従事者10名よりなる、合計30名のボランティアに対して、以下の如き官能試験を行なった。具体的には、ボランティアに対して、1ヶ月の連続した試験期間中に、上記で得られた各眼科用組成物を、点眼液として用いて、1回当たり1〜3滴を、1日に3〜6回の頻度にて点眼し、ボランティア自らが試験期間中の各眼科用組成物による不快感の低減効果を評価し、それぞれの眼科用組成物に対する評価を集計した。そして、集計した結果を、下記の基準にて判定し、その判定結果を、下記表1に示した。
◎:コンタクトレンズ装用時やVDT作業による乾燥感が顕著に軽減され、且つその軽減効果が持続したと回答した人の割合が、70%以上の場合。
△:コンタクトレンズ装用時やVDT作業による乾燥感が顕著に軽減され、且つその軽減効果が持続したと回答した人の割合が、50%以上70%未満の場合。
×:コンタクトレンズ装用時やVDT作業による乾燥感が顕著に軽減され、且つその軽減効果が持続したと回答した人の割合が、50%未満の場合。
【0051】
<コンタクトレンズに対する消炎剤の吸着量の測定>
供試コンタクトレンズとして、ソフトコンタクトレンズ(株式会社メニコン製メニコンソフト72)を選び、上記で得られた実施例1〜6及び比較例1,6〜10に係る眼科用組成物の各20mlに、それぞれ、各10枚のコンタクトレンズを、37℃で、7日間浸漬した後、ソフトコンタクトレンズを取り出し、残液中の消炎剤を、ガスクロマトグラフ法により定量した。そして、かかる定量結果から、レンズ1枚当たりの吸着量を算出し、得られた結果を、下記表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
かかる表1の結果から明らかなように、トラネキサム酸と非イオン性界面活性剤とを併用した、実施例1〜6に係る眼科用組成物においては、不快感低減効果が良好な結果となった。これは、トラネキサム酸特有の苦みが抑えられたこと、また、界面活性剤の表面張力低下の効果より、結膜嚢内に充分にトラネキサム酸が行き渡ったことによるものと推察出来る。また、コンタクトレンズ装用による上眼瞼結膜(所謂、Lid−Wiper部)の炎症と眼の乾燥感とは、密接な関係があるとされ(The CLAO Journal,Vol.28,No.4,2002)、今回のボランティア(コンタクトレンズ装用者)にも同様な症状により、眼の不快感を訴える者が多かったが、上記実施例1〜6に係る眼科用組成物を、点眼液として点眼することにより、不快感が緩和され、快適にコンタクトレンズを使用することが出来るとの意見を、多数得ることが出来た。
【0054】
一方、0.05w/w%のトラネキサム酸と0.1w/w%の非イオン性界面活性剤とを含有する実施例1〜3と、それと同濃度のトラネキサム酸を含有し、且つ非イオン性界面活性剤を含有しない比較例1とを比較した場合、また、0.1w/w%のトラネキサム酸と0.1w/w%の非イオン性界面活性剤とを含有する実施例4〜6と、それと同濃度のトラネキサム酸を含有を含有し、且つ非イオン性界面活性剤を含有しない比較例6とを比較した場合、ソフトコンタクトレンズに対するトラネキサム酸の吸着量は、非イオン性界面活性剤を併用している実施例に係る眼科用組成物の方が、かなり小さな値となっており、消炎剤(トラネキサム酸)の吸着が、飛躍的に抑制されることが分かる。
【0055】
また、従来から消炎剤として使用されているグリチルリチン酸二カリウムを含み、非イオン性界面活性剤を含まない比較例7と、グリチルリチン酸二カリウムと非イオン性界面活性剤とを共に含む比較例8を比較した場合、また、ε−アミノカプロン酸を含み、非イオン性界面活性剤を含まない比較例9と、ε−アミノカプロン酸と非イオン性界面活性剤とを共に含む比較例10とを比較した場合、ソフトコンタクトレンズへの消炎剤の吸着量には、殆んど変化が見られなかった。これにより、従来の消炎剤と非イオン性界面活性剤とを組み合わせても、ソフトコンタクトレンズへの消炎剤の吸着を抑制することが出来ないことが分かる。従って、トラネキサム酸と非イオン性界面活性剤とを併用した眼科用組成物は、従来の消炎剤を用いる場合に比して、ソフトコンタクトレンズへの消炎剤の吸着が飛躍的に抑制され、より安全にレンズを使用できる処方であると言える。
【0056】
<脂質可溶化試験>
脂質に対する洗浄効果を、脂質可溶化速度法によって調べた。即ち、脂質としてのトリグリセリドと色素たるスダンIを99:1の重量比にて混合せしめてなる着色脂質を用いて、それの0.5gを、所定の試験瓶に収容せしめた後、かかる試験瓶に、上記で得られた眼科用組成物の20mlを更に添加、収容し、そして、その試験瓶の開口部を適当な蓋にて覆蓋する操作を、実施例1〜3及び比較例2〜4に係る眼科用組成物についてそれぞれ行なった。そして、かかる試験瓶を、それぞれ、25℃の温度下において、24時間、一定の速度で振盪し、更に所定時間静置した後、各試験瓶内の上澄み液をそれぞれ採取して、それら上澄み液の各々について、分光光度計(株式会社島津製作所製自記分光光度計UV−2200)により、485.5nmの吸光度を測定した。
【0057】
そして、A成分とB成分との併用系(実施例)とB成分単独系(比較例)とにおける、脂質可溶化能の比較を行なうために、上述せる如くして測定された吸光度の値から、比較例2の吸光度に対する実施例1の吸光度の比(相対値)、比較例3の吸光度に対する実施例2の吸光度の比、及び比較例4の吸光度に対する実施例3の吸光度の比を、それぞれ求めて、その結果を下記表2に示した。なお、かかる吸光度比が1よりも大きい、つまり、吸光度が相対的に高いということは、脂質に対する洗浄効果、具体的には、脂質可溶化能において優れていることを意味している。
【0058】
【表2】

【0059】
かかる表2の結果からも明らかなように、トラネキサム酸を含まず、非イオン性界面活性剤を含有する比較例2〜4よりも、非イオン性界面活性剤とトラネキサム酸とを併用している実施例1〜3の方が、脂質可溶化能が高いことが判明した。これは、非イオン性界面活性剤とトラネキサム酸との相乗効果により、溶液の脂質可溶化量も増加するものと考えられる。このため、トラネキサム酸と非イオン性界面活性剤とを併用した眼科用組成物にあっては、コンタクトレンズ用洗浄液に必要とされる効果をも持ち合わせており、マルチパーパスソリューションを含むコンタクトレンズ用洗浄液として、有利に使用することが出来ると言える。また、かかる眼科用組成物は、コンタクトレンズを装用した状態で点眼を行なって、レンズ上の脂質汚れを除去するといった用途に使用される、コンタクトレンズ用点眼液としても、有利に用いられることとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸、トラネキサム酸塩及びトラネキサム酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と非イオン性界面活性剤とが含有せしめられていることを特徴とする眼科用組成物。
【請求項2】
防腐剤、殺菌剤、キレート化剤、緩衝剤、界面活性剤(但し、前記非イオン性界面活性剤を除く)、等張化剤、粘稠剤、清涼化剤、ビタミン類、血管収縮剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が、更に、含有せしめられている請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
コンタクトレンズ用液剤として用いられる請求項1又は請求項2に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
前記コンタクトレンズ用液剤が、コンタクトレンズ用点眼液である請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
前記コンタクトレンズ用液剤が、コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューションである請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項6】
前記トラネキサム酸、トラネキサム酸塩及びトラネキサム酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が、0.0001w/w%〜5.0w/w%の割合で含有されている請求項3乃至請求項5の何れかに記載の眼科用組成物。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤が、0.001w/w%〜10w/w%の割合で含有されている請求項3乃至請求項6の何れかに記載の眼科用組成物。

【国際公開番号】WO2005/025560
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513819(P2005−513819)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009912
【国際出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】