説明

着床制御装置付きエレベーター

【課題】
より高行程,高速化されたエレベーターであっても、着床精度を向上することにある。
【解決手段】
昇降路内の複数の階床を移動する乗りかご1と、釣り合いおもり3と、この両者を移動させるためのメインロープ2と、メインロープ2に駆動力を伝える綱車4と、綱車4を駆動する駆動装置6と、駆動装置6を制御する制御装置10と、を有する着床制御装置付きエレベーターにおいて、メインロープ2の伸縮量を含めて乗りかご1の位置を検出し、着床予定階の位置と乗りかご位置との差により着床予定階までの走行残距離を求め、求めた値により駆動装置6を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの制御装置に関し、特に、高行程を走行しても着床精度の良いエレベーターに好適である。
【背景技術】
【0002】
従来よりビル内において乗りかご位置を検出することが行われ、コストアップと信頼性の低下を防ぎ、着床精度の向上を図るため、乗りかごを駆動する電動機に接続されたパルス発生器の出力パルスや交流速度発電機の出力電圧を波形成形してパルス化し、カウンタやマイコンで計数することによって、移動中の乗りかごの鉛直方向の位置を推定することが知られ、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
また、運行効率を向上するため、かごの現在位置と目的停止階との階高テーブル値の差により走行残距離を算出し、それに応じて加速度を変化させることが知られ、例えば特許文献2に記載されている。
【0004】
さらに、停電のような非常事態によりかごの位置情報が消失された場合にも、運転を復帰するため、各階ごとに違う長さになるような遮蔽板(被検出体)を昇降路に設置し、階ごとに固有の出力を感知することによって、エレベーターかごが何階に位置しているかを検出することが知られ、例えば特許文献3に記載されている。
【0005】
さらに、長尺物を要することなく乗かごの位置を検出するため、乗かごに、複数の光電式センサを設置し、対向する位置に複数の切欠きが設けられた遮蔽板を乗り場毎に配設することが知られ、例えば特許文献4に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭56−117963号公報
【特許文献2】特開2003−267638号公報
【特許文献3】特表2004−521840号公報
【特許文献4】特開2006−188319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術においては、各階床面とかご側床面との誤差,着床誤差を検出して、修正することは考慮されてなく、より高行程,高速化された場合、例えばメインロープの伸縮量により着床誤差が増加する恐れがある。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、より高行程,高速化されたエレベーターであっても、着床精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、昇降路内の複数の階床を移動する乗りかごと、釣り合いおもりと、この両者を移動させるためのメインロープと、該メインロープに駆動力を伝える綱車と、該綱車を駆動する駆動装置と、該駆動装置を制御する制御装置と、を有する着床制御装置付きエレベーターにおいて、前記メインロープの伸縮量を含めて前記乗りかごの位置を検出し、着床予定階の位置と前記乗りかご位置との差により前記着床予定階までの走行残距離を求め、求めた値により前記駆動装置を制御するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メインロープの伸縮量を含めた乗りかご位置を求め、これを用いて乗りかごの駆動装置を制御するので、高行程エレベーターの着床誤差を排除し、正確な着床精度を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例を図1に示し、エレベーターシステムの構成とその動作を説明する。
【0012】
乗客がのる乗りかご1がメインロープ2を介して釣り合いおもり3に接続され、メインロープ2は綱車4,そらせ車5につりかけられている。綱車4は駆動装置(電動機)6によって駆動され、駆動装置6には電源7と電力変換装置8から駆動用電力の給電が行われている。また、駆動装置6の速度や乗りかごの等価的な鉛直方向の位置や移動距離検出はパルス発生器9が駆動装置6に取り付けられており、電動機の回転とともに発生するパルスを制御装置(システム制御器)10が計数することによって制御諸量を算出する。ここで、パルス発生器9は駆動装置6の回転とともにパルスを発生するので電動機の速度検知は正確に行うことは出来るが、綱車4とメインロープ2を介してつり下げられている乗りかご1の速度や位置に関しては、綱車4とメインロープ2との間の粘着駆動の影響を受け、とりわけ乗りかご位置に関しては微少な滑りによる誤差が発生する。
【0013】
また、数百m級の超高層ビルのエレベーターでは走行中の乗りかごの加減速度の変化によってメインロープの長さが伸縮変化し、パルス発生器9が発生するパルスから算出した乗りかご位置はメインロープの伸縮を反映することができず、乗りかご1の床面と各階床面との間のいわゆる着床誤差が生じてしまうことになる。この着床誤差の度合いは、乗りかごが下層階に存在するほどロープ伸縮量が増大するため顕在化する。そこでこの影響を排除するため、1階,2階,…,(n−1)階、n階の乗り場12−1,12−2,12−(n−1),12−n床の手前位置に被検出器11−1,11−2,11−(n−1),11−nを設置するとともに、乗りかご1の側には、被検出器11−*と対向する形で検出器19を設置し、乗りかご1が停止予定階に近づいて、被検出体と対向検知すると、被検出体と床レベルとの距離差X1,X2,Xn−1,Xnに応じて残りの走行距離をロープ伸縮量を含めた形で認識し、この値を使って床合わせのための距離ベースの速度指令を生成する。各階の床面相当位置から被検出体11−*までの距離X*は、メインロープの伸縮現象が顕在化する下層階ほど床面相当位置の近傍に接近設定することにより減速過程におけるメインロープの伸縮が元の状態に沈静化するタイミングで走行残距離を計測するようにした。これにより、床合わせ制御時のロープ伸縮の影響が乗りかごの位置決め制御に混入しないようにシステムを構築することが出来る。
【0014】
図は、乗りかごが下降運転をする際の例を示している。つまり、被検出体11−*の上端と検出器19の下端が対向した際に乗りかごが停止予定位置までの走行残距離X*の点を通過したとして検出する。したがって、図示した検出体11−1〜11−(n−1)は下降運転用の検出体である。最上階n階ではn階に向かう下降運転そのものが存在しないので、下降用の検出体は設置する必要はない。検出体11−nは上昇運転用の検出体で、被検出体の下端と検出器の上端が対向した際に乗りかごが停止予定位置まで走行する残距離を検出するための被検出体である。
【0015】
乗りかごが上層階に存在するため、メインロープの伸縮の影響がパルス発生器9に与える影響が少ないので、被検出体から着床位置までの走行残距離Xnは下層階のそれと比べ大きく設定している。n階以外のこの上昇運転用の各階被検出体は図面の煩雑さを考慮し省略したが、動作はn階と同様で、下層階における走行残距離X*は上層階における走行残距離Xnなどと比較すると小さく設定し、メインロープ伸縮の影響を排除している。
【0016】
なお、停止予定階の近傍の被検出器11−1,11−2,…,11−(n−1),11−nは、停止予定階への残走行距離補正に用いられる他、各階を通過する際に、パルス発生器9から得られる乗りかご位置の通過補正にも利用され、メインロープ伸縮というよりも、綱車4とメインロープとの間の微少滑りの補正にも用いる。
【0017】
さらに、図1では、被検出体11−*と検出器19の組合せ法の他に、二つのプーリ13,14が上下端に設置され、これらのプーリには補助ロープ15が乗りかご1とその両端を接続される形で釣りかけられ、そして、一方のプーリ14はおもり16によって下方に懸垂され、乗りかご1の運転に伴って補助ロープ15も移動し、釣り掛けられたプーリ13の軸端に取り付けられたパルス発生器17が乗りかご移動に伴って発生するパルスを利用する。つまり、パルス発生器17が発生するパルスを計数器18が数え、乗りかご1の移動量を減速過程のメインロープの伸縮量を含めた形で計数することが出来る。この例では、駆動装置6の近傍のパルス発生器9からの速度検出で速度フィードバック系を構築することによりロープ系など機械系の高周波振動成分から離れたパルス検出成分を用いることで、安定して高い開ループゲイン設定を可能としている。一方で、速度指令作成の材料となる乗りかご位置情報は、乗りかご1から補助ロープ15を介して、メインロープ2の伸縮量を内包した形で直接検出するパルス発生器17の情報を取り込む構成として距離ベースの速度指令をこの信号を用いて作成して、これを速度制御系に与えるようにした。このように検出源を分離することにより、乗りかごの位置情報はメインロープの伸縮量を正確に取り込んだ距離ベース速度指令の作成が可能となるとともに、速度帰還制御系の外側の速度指令作成部ゆえに、ノイズ除去のために比較的大きな時定数のフィルタを挿入して信号の安定度を増す処理を行っても速度制御システムへの安定性を損なうような悪影響を回避できる。
【0018】
次に、具体的なソフト処理について手順書を用いて具体的に動作を説明する。ポイントは着床間際の動作なので、減速過程の領域にしぼってその動作について説明する。
【0019】
図2は一定の減速度で乗りかごが減速している状態での速度指令発生処理M100について示している。まず、このタスクは図示していない管理システム(OS)によって一定時間ごと起動される。このタスクは起動されると、まず、処理101で走行残距離Sを停止予定階の位置,乗りかごの位置,惰性で走行する流れ距離Soから求める。そして、判断102で乗りかごが停止予定階からまだ離れているかの判断を行い、YESであれば走行残距離Sは十分大きいのでそのまま何も加工処理せず次の処理に移行し、十分近づいて、残距離Sが残っていなければ、処理103で走行残距離を零と設定して、処理104で減速度指令値α*、走行残距離Sからの平方根演算項と、処理M100内での走行残距離Sの関数ではない一定の低速指令項Vo*の和により速度指令Vd*を算出し、乗りかごを目的停止階に誘導する。
【0020】
図3には停止予定階に近づく減速度の絶対値が減少する速度指令発生処理M200,一定の低速運転処理M300の手順書を示す。このタスクも、図示していない管理システム(OS)によって一定時間ごと起動される。このタスクは起動されると、まず処理201で減速度指令α*が一定の増加分Δαで零に向かって増加する処理を行う。次に、判断202で、減速度指令α*が負または零かどうかの判断を行い、NOであれば、減速度指令α*に零を代入する。そして、処理204で走行残距離Sを求め、判断205で残距離Sの大きさを判断し、零以下なら処理206で走行残距離Sに零を代入し、処理207で速度指令Vd*を作成する。この間の処理は図2の処理101〜104と同じである。
【0021】
ここで、速度指令Vd*のうち、第一項は減速度指令α*,走行残距離Sの関数として求まる項であり、それぞれが零に近づくとこの第一項は零となる。第二項のVo*は固定値の項である。したがって、速度指令が十分小さくなると、この一定の低速度項Vo*だけが出力継続となる。この速度指令Vo*項をレベル近傍で停止させる重要な働きをするのが、着床レベルへの接近検知である。この信号生成に関して、2通りの方式がある。一方が図1の被検出体11−*と検出器19の対向検知による方式であり、他方が、メインロープの伸縮項を含んだ乗りかごの位置検知が可能なパルス発生器17の出力信号を用いる方式である。これらの仕掛けから、停止予定階までの正確な走行残距離のカウントダウンを開始するトリガを得る。
【0022】
トリガは被検出体と検出器との対向割り込みを制御装置10が割り込みとして受け付ける方法や、パルス発生器17の出力から得られる走行残距離が所定値に達したときトリガをかけて、図4の零速度への速度指令発生処理M400のタスクを起動する。このM400は一旦、到達要因トリガで起動されると一定時間ごとに起動がかけられ、一定の低速度指令項Vo*を零値に向かって一定時間ごとに漸減させるタイマータスク処理である。判断401で速度指令Vd*が十分小さくなったか判断し、YESであれば処理403で零値を速度指令とし、NOであれば、一定減少分ΔVを速度指令Vd*から減算して速度指令を減少させる。
【0023】
図5に、この間の速度指令,加速度指令,処理モード番号の関係を示す。一定の減速度のM100モードから減速度が零に向かって増加するM200モードへ、減速度がほぼ零で一定の低速度指令Vo*を発生するM300から低速度指令Vo*から零速度に向かって速度指令が漸減するM400への速度指令発生の推移を示している。さらに、この推移の途中で発生する割り込みIRQ−P1,IRQ−P2のタイミングを併記した。IRQ−P1は乗りかごがメインロープ伸縮の影響を受けない上層階にいる際の定点通過により発生する割り込みタイミングの例であり、IRQ−P2は乗りかごがメインロープ伸縮の影響を受ける下層階にいる際の定点通過により発生する割り込みタイミングの例である。IRQ−P2ポイントは着床位置に十分接近した位置に設定され、IRQ−P1ポイントは着床位置から離れた位置に設定されてもよいポイントである。
【0024】
図6に検出器19に対向する被検出体11−*の形状を示す。(a)はセンシング部を複数個持つ検出器19に対向する複数の割り込みポイントを一枚の板内に有する被検出体である。センサ部を複数持つことから検出器の原価は上昇するが、単純な割り込み処理で複数ポイントの通過検出が可能である。(b)はセンシング部を1つ持つ検出器19に対向する複数の割り込みポイントを有する被検出体である。センサ部を1つとしていることから検出器の原価は抑制できるが、割り込み処理と対向継続時間などのセンサフュージョン(融合)的な処理を施す必要があるものの複数ポイントの通過検出が可能である。このように1つの被検出体に複数の位置到達用検出部を一定距離離して配置しているので、複数地点の通過検出を1つの被検出体の設定作業で完結できるので、被検出体の設定作業を簡素化できる。
【0025】
以上によれば、高行程エレベーターの乗りかご位置をメインロープの伸縮の影響を受けずに検出するので、この情報に基づいて速度指令を生成できるので正確な着床制御が実現できる。また、昇降路内に設置される被検出体の高精度な据え付けを簡素化できること、あるいは昇降路内の各階近傍に設置されるべき被検出体の設置自体を省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態における全体構成図を示すブロック図。
【図2】本発明の一実施の形態における処理手順を示すフローチャート。
【図3】本発明の一実施の形態における処理手順を示すフローチャート。
【図4】本発明の一実施の形態における処理手順を示すフローチャート。
【図5】本発明の一実施の形態における処理手順を示すフローチャート。
【図6】一実施の形態における被検出体の形状を示す平面図。
【符号の説明】
【0027】
1 乗りかご
2 メインロープ
3 釣り合いおもり
4 綱車
5 そらせ車
6 駆動装置
7 電源
8 電力変換器
9,17 パルス発生器
10 制御装置
11−* 被検出体
12−* 各階乗り場
13,14 プーリ
15 補助ロープ
16 張力発生用おもり
18 処理装置
19 検出器
X* 被検出体から床面までの距離
M100 一定減速度での速度指令発生処理
M200 減速度減少時の速度指令発生処理
M300 低速運転処理
M400 零速度への速度指令発生処理
Vd* 速度指令
α* 減速度指令
Δα 減速度指令の増分
S 走行残距離
Vo* 低速速度指令
ΔV 速度指令の減分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内の複数の階床を移動する乗りかごと、釣り合いおもりと、この両者を移動させるためのメインロープと、該メインロープに駆動力を伝える綱車と、該綱車を駆動する駆動装置と、該駆動装置を制御する制御装置と、を有する着床制御装置付きエレベーターにおいて、
前記メインロープの伸縮量を含めて前記乗りかごの位置を検出し、着床予定階の位置と前記乗りかご位置との差により前記着床予定階までの走行残距離を求め、求めた値により前記駆動装置を制御することを特徴とする着床制御装置付きエレベーター。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、前記乗りかごの移動とともに移動する補助ロープと、前記補助ロープの移動に応じてパルスを発生するパルス発生器と、を備え、前記パルスを計数することにより前記メインロープの伸縮量を含めて前記乗りかご位置を検出することを特徴とする着床制御装置付きエレベーター。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、前記乗りかご側に設けた検出器と、前記昇降路側に設けた被検出体とを備え、前記検出器と前記被検出体とが対向することにより前記メインロープの伸縮量を含めて前記乗りかご位置を検出することを特徴とする着床制御装置付きエレベーター。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、前記乗りかご側に設けた検出器と、前記昇降路側に設けられ、階床面との距離が上層階よりも下層階で短くなるように設定された被検出体とを備え、前記検出器と前記被検出体とにより前記乗りかご位置を検出することを特徴とする着床制御装置付きエレベーター。
【請求項5】
請求項1に記載のものにおいて、前記乗りかご側に設けた検出器と、前記昇降路側に設けられ複数個が一体とされた被検出体と、を備え、前記検出器と前記被検出体とにより前記乗りかご位置を検出することを特徴とする着床制御装置付きエレベーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−29596(P2009−29596A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196872(P2007−196872)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】