説明

着磁パルサリング及び転がり軸受装置

【課題】温度変化による破損を防ぐことが可能となる着磁パルサリング及びこの着磁パルサリングを備えた転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】着磁パルサリング11は、回転体に一体回転可能に取り付けられる環状の金属製支持部材20と、この支持部材20に固定されかつ複数の磁極が周方向に配列されている環状の磁石部材12とを備えている。磁石部材12は、磁性体粉と、バインダと、ガラス繊維とが含まれた磁石材料によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着磁パルサリング及びこれを備えた転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を支持する転がり軸受装置には、例えばアンチロックブレーキシステムを制御するために、前記車輪の回転速度を検出するためのセンサ装置が組み込まれたものがある。このようなセンサ付き転がり軸受装置は、内軸(回転輪)側に取り付けられた着磁パルサリングと、この着磁パルサリングに対向する磁気センサとを備えている。磁気センサが着磁パルサリングの回転による磁気変化を検出することにより、車輪の回転速度を検出することができる。
【0003】
前記着磁パルサリングとして、例えば、特許文献1に記載されているように、環状の金属製支持部材に、磁性体粉を含む磁石材料を円環状に形成した磁石部材を一体接合した構造が提案されている。
この着磁パルサリングは、例えばインサート成形により製造される。すなわち、支持部材のうち磁石部材の接合部分に接着剤を塗布し、この支持部材を金型内に配置する。そして、磁石部材を構成するための磁石材料を前記金型内に射出し、当該磁石材料を硬化させることにより、磁石部材を支持部材に一体接合させた着磁パルサリングが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−198420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁石部材が、フェライト等の磁性体粉にバインダとして樹脂を混合した磁石材料からなる場合、その磁石部材の線膨張係数は、金属製(例えばSUS430)である支持部材に比べて8倍程度高く、磁石部材の線膨張係数と支持部材の線膨張係数との差が大きい。
このため、磁石部材が支持部材に一体接合されている着磁パルサリングでは、温度変化に起因して磁石部材と支持部材との間に変形量の差が生じ、特に温度変化が大きいと変形量の差も大きくなって、磁石部材が支持部材から剥がれる等、着磁パルサリングが破損するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、温度変化による破損を防ぐことが可能となる着磁パルサリング及びこの着磁パルサリングを備えた転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の着磁パルサリングは、回転体に一体回転可能に取り付けられる環状の金属製支持部材と、前記支持部材に固定されかつ複数の磁極が周方向に配列されている環状の磁石部材とを備え、前記磁石部材は、磁性体粉と、バインダと、微小ガラス材とが含まれた磁石材料によって形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、磁石部材は、磁性体粉及びバインダの他に、微小ガラス材が含まれた磁石材料によって形成されているので、従来の磁性体粉及びバインダのみからなる磁石部材よりも、線膨張係数を低くすることができる。このため、磁石部材の線膨張係数と金属製である支持部材の線膨張係数との差を小さくし、温度変化に起因して支持部材と磁石部材との間に生じる変形量の差を小さくすることができる。この結果、磁石部材が支持部材から剥がれる等の着磁パルサリングの破損を防ぐことが可能となる。
【0008】
また、前記微小ガラス材は、ガラス粉とすることも可能ではあるが、前記微小ガラス材は、ガラス繊維であるのが好ましく、この場合、磁石部材の線膨張係数を低くすると共に、強度(特に引張強度)を高めることができる。
また、前記バインダは、樹脂であるのが好ましく、この場合、バインダがゴムである磁石部材と比較すると、耐摩耗性が優れる。なお、バインダとして樹脂を含む磁石部材の場合、ゴムを含む磁石部材に比べて、脆性が高くなり変形によって破損が生じやすいが、前記のとおり磁石部材には微小ガラス材が含まれていることで、前記破損を防ぐことが可能となる。
【0009】
また、前記磁石部材の線膨張係数は、前記支持部材の線膨張係数の4.5倍以下で3倍以上であるのが好ましく、この場合、温度変化が大きい環境においても、温度変化に起因する着磁パルサリングの破損を防ぐことが可能となる。
【0010】
また、前記微小ガラス材は、前記磁石部材の全重量の内の1%以上で15%以下の重量で含まれているのが好ましい。
微小ガラス材が15%を超えると、バインダ及び磁性体粉が少なくなる。バインダが少ないと、着磁パルサリングを例えばインサート成形する際に、磁石部材を構成する磁石材料の流動性が低下する。また、磁性体粉が少ないと、必要な磁力が得られにくくなる。一方、微小ガラス材が5%未満であると、磁石部材の線膨張係数を低下させる作用が弱くなる。
【0011】
また、前記支持部材は、前記回転体に取り付けられる円筒部と、前記円筒部から径外方向へ延び表面側に前記磁石部材の本体部が固定されている環状のフランジ部とを有し、前記フランジ部は、その外周縁部の裏面側に欠損部が形成されており、前記磁石部材は、前記本体部から前記欠損部まで前記外周縁部を回り込んでいる回り込み部を有しているのが好ましい。
この場合、仮に支持部材のフランジ部から磁石部材の本体部が剥がれたとしても、磁石部材の回り込み部がフランジ部の外周縁部に引っ掛かって、フランジ部から磁石部材が脱落するのを防止することができる。
【0012】
また、前記回り込み部は、前記フランジ部の裏面と同一平面となる平坦な側端面を有しているのが好ましい。
この場合、フランジ部の裏面に、例えばシール部材のシールリップ等の別部材が接触する場合であっても、回り込み部が邪魔となるのを防ぐことができる。
【0013】
また、本発明の転がり軸受装置は、同心状に配置されている固定輪及び回転輪と、前記固定輪と回転輪との間に転動自在に配置された複数の転動体と、前記回転輪に一体回転可能に取り付けられた着磁パルサリングと、前記着磁パルサリングの磁極の変化を検出することにより前記回転輪の回転状態を検出するための磁気センサとを備え、前記着磁パルサリングは、上述した着磁パルサリングであることを特徴とする。
本発明によれば、上記説明したように、着磁パルサリングにおいて、金属製である支持部材に固定されている磁石部材は、磁性体粉及びバインダの他に、微小ガラス材を含む磁石材料によって形成されているので、温度変化に起因して支持部材と磁石部材との間に生じる変形量の差を小さくすることができる。このため、磁石部材が支持部材から剥がれる等の破損を防ぐことが可能となり、信頼性の高いセンサ付き転がり軸受装置が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、着磁パルサリングにおいて、金属製である支持部材に固定されている磁石部材は、磁性体粉及びバインダの他に、微小ガラス材を含む磁石材料によって形成されているので、温度変化に起因して支持部材と磁石部材との間に生じる変形量の差を小さくすることができ、温度変化による破損を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】転がり軸受装置の断面図である。
【図2】着磁パルサリングを説明する断面図である。
【図3】着磁パルサリングの外周側部分の拡大図である。
【図4】支持部材が有するフランジ部の外周縁部及び磁石部材の回り込み部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔1.転がり軸受装置〕
図1は、本発明の転がり軸受装置の断面図である。この転がり軸受装置1は、自動車等の車両本体側にある懸架装置(図示せず)に固定されるものであり、この懸架装置に対して、車輪を回転可能に支持することができる。
【0017】
この転がり軸受装置1は、内軸2と、この内軸2の外周側に同心状に配置されている外輪3と、内軸2及び外輪3の間に配置された転動体である複数個の玉4と、これら複数個の玉4を周方向に所定間隔に保持している保持器5と、内軸2及び外輪3の間に形成されている環状空間の両開口部を塞ぐシール部材6,7と、車両内側(図1では右側)のシール部材7に対向して設けられている磁気センサSとを備えている。
【0018】
本実施形態では、外輪3が、車両本体側に固定される固定輪であり、このために、外輪3の外周部には、車両の懸架装置に固定するための取り付けフランジ3aが形成されている。また、外輪3の内周面には玉4が転動する複列の外輪軌道3b,3bが形成されている。
【0019】
内軸2は、車輪(図示せず)が取り付けられる車軸であり、当該車輪を取り付けるフランジ部2aを有している。つまり、内軸2が、転がり軸受装置1における回転輪となる。この内軸2は、前記フランジ部2aが形成されている内軸本体8と、この内軸本体8の車両内側に嵌合している円環状の内輪部材9とを備えている。内軸2の外周面には、複列の内輪軌道2b,2bが形成されており、これら内輪軌道2b,2bは前記外輪軌道3b,3bに対向している。そして、内輪軌道2bと外輪軌道3bとの間に、複数の玉4が転動自在に配置されている。
【0020】
以上により、複列のアンギュラ玉軸受部を有しているセンサ付き転がり軸受装置1が構成されており、この転がり軸受装置1は、内軸2を外輪3に対して回転可能に支持しており、内軸2に固定される車輪(図示せず)を回転可能に支持することができる。
【0021】
車両内側(図1では右側)に設けられているシール部材7は、外輪3の内周面3cに嵌められて固定された円環状の芯金10と、この芯金10に対向するように内輪部材9に嵌められて固定された円環状の着磁パルサリング11とを有している。着磁パルサリング11は、内輪部材9と一体回転可能である。
【0022】
前記芯金10は、SUS430、SPCC等の鋼製からなり、鋼板をプレス加工することによって形成される。芯金10の内周側には、ゴム製のシールリング10aが加硫接着等により固定されており、このシールリング10aは、芯金10と着磁パルサリング11(後述する支持部材20)との間を密封することで、内軸2及び外輪3の間に形成されている環状空間の開口部を塞ぐことができる。
【0023】
前記着磁パルサリング11は、前記内輪部材9に一体回転可能に取り付けられている環状の金属製支持部材20と、この支持部材20に固定されている環状の磁石部材12とを備えている。
この着磁パルサリング11は、例えば、支持部材20をコアとして金型内に設置し、磁石部材12を構成する磁石材料を前記金型内に射出するインサート成型によって製造することができる。着磁パルサリング11については、さらに後で説明する。
【0024】
前記磁気センサSは、磁石部材12に対して僅かな隙間を有して対向するように配置されており、磁石部材12の磁極の変化を検出することにより内軸2の回転状態(回転速度)を検出するためのセンサである。なお、磁石部材12のうち、磁気センサSが対向している部分を本体部13としている(図2参照)。
【0025】
この磁気センサSは、転がり軸受装置1が搭載される車両の制御装置(図示せず)に接続されており、磁気センサSは、内軸2の回転に応じて変化する着磁パルサリング11の磁極の変化を検出し、検出した磁極の変化に基づく検出信号を前記制御装置に出力する。
そして、制御装置は、磁気センサSから取得した検出信号に基づいて、内軸2の回転速度を求め、車両のアンチロックブレーキシステム等の制御に反映することができる。
【0026】
〔2.着磁パルサリングについて〕
図2は、着磁パルサリングを説明する断面図である。この着磁パルサリング11は、複数の磁極が周方向に沿って所定間隔で配列された環状の磁石部材12と、回転体を構成する内輪部材9(図1参照)に一体回転可能に固定される支持部材20とを備えている。また、本実施形態では、支持部材20(後述のフランジ部22)と磁石部材12との間には接着剤による接着層30が介在している。接着剤は、熱硬化型であるフェノール系又はエポキシ系とすることができる。
【0027】
支持部材20は、SUS430、SPCC等の鋼製からなり、鋼板をプレス加工することによって円環状に形成された部材である。そして、この支持部材20は着磁パルサリング11の芯金となる。
図1と図2において、支持部材20は、内輪部材9の外周面に外嵌して固定されることで内軸2と一体回転可能となる。このため、支持部材20に固定されている磁石部材12も、内軸2に対して一体回転可能となる。
【0028】
支持部材20は、内輪部材9に外嵌している円筒部21と、この円筒部21の一端部から径外方向に延びる環状のフランジ部22とを有しており、断面L字形である。そして、フランジ部22の表面22a側に、磁石部材12の前記本体部13が固定されている。
なお、本実施形態では、フランジ部22は、軸方向に直交する平面に沿った円環形状を有し、このフランジ部22の表面22aは、車両内側(図1では右側)であり、裏面22bは、車両外側(図1では左側)である。
【0029】
また、フランジ部22の裏面22b及び円筒部21の外周面21aは、前記シールリング10aのシールリップ10bが摺接する摺接面となる。この支持部材20は、シール部材7におけるスリンガとしての機能を兼ね備えている。
さらに、支持部材20は、前記のとおり鋼板等の磁性材料によって構成されており、フランジ部22は、磁石部材12に対するバックヨークとして機能し、磁気センサSに向かう磁束ループの磁束密度を高めることができる。
【0030】
磁石部材12は、全体が円環状に形成されており、N極とS極とが周方向に沿って交互に配列されるように着磁されている。そして、磁石部材12は、支持部材20のフランジ部22と一体接合されていることにより、当該支持部材20と一体回転可能となる。
【0031】
磁石部材12は、フェライト系磁性体、ネオジウムやサマリウム等の希土類系の磁性体等からなる磁性体粉と、バインダとの他に、微小ガラス材が含まれた磁石材料によって形成されている。微小ガラス材は、ガラス粉としてもよいが、本実施形態では、ガラス繊維としている。なお、このガラス繊維は、細かく裁断されたものである。
また、バインダは、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂材料であり、この磁石部材12はガラス繊維を含む樹脂磁石材料からなる。バインダは、磁性体粉同士、及び、ガラス繊維と磁性体粉とを結合する機能を有する。
【0032】
また、本実施形態では、ガラス繊維は、磁石部材12の全重量の内の1%以上で15%以下の重量で含まれており、好ましくは、5%以上で15%以下である。
磁性体粉の含有率は、磁石部材12の全重量の内の80%以上で90%以下であり、残りが樹脂バインダである。例えば、ガラス繊維が15%の場合、磁性体粉は80%であり、その残りが樹脂成分である。また、ガラス繊維が5%の場合、磁性体粉は80%以上で90%以下であり、その残りが樹脂成分となる。
【0033】
ガラス繊維が15%を超えて多すぎると、樹脂バインダ及び磁性体粉が少なくなる。樹脂バインダが少ないと、着磁パルサリング11をインサート成形する際に、磁石部材12を構成する磁石材料の流動性が低下する。また、磁性体粉が少ないと、必要な磁力が得られにくくなり、磁気センサSの感度が低下する。一方、ガラス繊維が5%未満であり少なすぎると、以下に説明する磁石部材12の線膨張係数を低下させる作用が、弱くなる。
【0034】
このように、磁石部材12には、磁性体粉とバインダとの他に、ガラス繊維が含まれているので、従来の磁性体粉及びバインダのみからなる磁石部材よりも、線膨張係数を低くすることができる。
従来の磁性体粉及び樹脂バインダのみからなる磁石材料による磁石部材の線膨張係数は、8.3×10−5cm/cm・℃であるのに対し、本発明のガラス繊維を含む磁石部材12の線膨張係数は、4.4×10−5cm/cm・℃となる。なお、この場合のガラス繊維の含有率は、重量あたり1〜5%であり、磁性体粉の含有率は80〜85%であり、残りが樹脂である。
【0035】
ここで、支持部材20の線膨張係数について、及び、磁石部材12と支持部材20との線膨張係数の差について説明する。
支持部材20がSUS430の場合、その線膨張係数は、1.03×10−5cm/cm・℃である。
磁性体粉及び樹脂バインダのみからなる磁石部材が支持部材に固定されている従来の着磁パルサリング(従来例)では、磁石部材の線膨張係数は、支持部材の線膨張係数の約8倍であり、両者の差は非常に大きい。
これに対して、ガラス繊維を含む磁石部材12が支持部材20に固定されている着磁パルサリング11(実施例)では、磁石部材12の線膨張係数は、支持部材20の線膨張係数の約4.3倍であり、両者の差は小さくなる。
【0036】
このように、本発明では、磁石部材12は、磁性体粉及び樹脂バインダの他に、ガラス繊維が含まれた磁石材料によって形成されているので、磁石部材12の線膨張係数を低くすることができる。このため、磁石部材12と金属製である支持部材20との間の線膨張係数の差を小さくすることが可能となり、温度変化に起因して磁石部材12と支持部材20との間に生じる変形量の差を小さくすることができる。この結果、温度変化によって、磁石部材12が支持部材20から剥がれたり、磁石部材12が割れたりする等の着磁パルサリング11の破損を防ぐことが可能となる。
【0037】
特に本実施形態では、磁石部材12の線膨張係数を、当該磁石部材12を固定している支持部材20の線膨張係数の4.5倍以下とすることで、着磁パルサリング11(シール部材7)が組み込まれている転がり軸受装置1の実際の使用環境では当然のことながら、例えば−40℃から120℃まで温度変化を繰り返し生じさせる熱衝撃試験においても、着磁パルサリング11に関して、温度変化に起因するの破損を防ぐことが可能となる。なお、磁石部材12の線膨張係数は、支持部材20の線膨張係数の3倍以上とすることができる。
【0038】
さらに、磁石部材12に含まれている微小ガラス材は、ガラス繊維であるため、磁石部材12の線膨張係数を低くすると共に、強度(特に引張強度)を高めることができ、また、インサート成型後の収縮量を小さくすることもできる。そして、バインダとして樹脂が採用されていることにより、耐摩耗性が優れている。
また、着磁パルサリング11はインサート成型されることにより、高温状態から低温状態へと変化するため、磁石部材12には残留応力が生じるが、ガラス繊維が含まれていることにより、この応力による破損を抑制することができる。
【0039】
〔3.着磁パルサリングの構成について〕
図2において、前記のとおり、着磁パルサリング11の支持部材20は、内輪部材9(図1参照)に外嵌固定される円筒部21と、この円筒部21から径外方向へ延び表面22a側に磁石部材12の本体部13が固定されている環状のフランジ部22とを有している。図3は、この着磁パルサリング11の外周側部分の拡大図である。この図3において、フランジ部22の外周縁部23の裏面22b側には、欠損部24が形成されている。本実施形態の欠損部24は、鋼板がプレスされて製造された支持部材20の前記外周縁部23の、図3では破線で示した角部Eに対して、凸となるアール加工が施されて、当該角部Eが取り除かれたアール加工部24aである。
【0040】
また、欠損部は、外周縁部23の内の少なくとも裏面22b側に形成されていればよいが、本実施形態では、フランジ部22の外周縁部23の表面22a側にも、同様の欠損部25が形成されている。
欠損部24,25は、支持部材20をプレス成型する際に同時に形成されてもよく、又は、プレス成型後の外周縁部23に対して機械加工等を行って形成してもよい。
【0041】
そして、磁石部材12は、本体部13(表面22a)から欠損部24(アール加工部24a)まで、外周縁部23の外側を回り込んでいる回り込み部14を有している。この回り込み部14は、フランジ部22の(アール形状である)外周側端面を全て覆っている。
前記のとおり、着磁パルサリング11は、支持部材20を金型内に設置して、磁石部材12を構成する磁石材料を射出するインサート成型によるため、当該磁石材料が、支持部材の外周縁部23に沿って流れて金型内で欠損部24及びその周囲に充填されることにより、前記回り込み部14を形成することができる。これにより、回り込み部14は、欠損部24に密着して嵌っている構成となる。なお、支持部材20に接着剤が設けられている場合、回り込み部14と欠損部24との間には、接着剤による接着層が介在していてもよい。
【0042】
回り込み部14は、フランジ部22の表面22bに沿って設けられている円環板状の本体部13の外周端部13aから軸方向に延びている軸方向部16と、この軸方向部16の先端内周面から径内方向に突出している爪部17とを有している。爪部17と欠損部24とが嵌り合った状態にあり、また、軸方向部16によって連結されている爪部17と本体部13(外周端部13a)とによって、フランジ部22の外周縁部23を軸方向両側から挟んだ構造となっている。
【0043】
この回り込み部14及び欠損部24によって、磁石部材12と支持部材20とが機械的に結合され、また、強固に結合される。
そして、この磁石部材12の回り込み部14によれば、仮に支持部材20のフランジ部22から、磁石部材12の本体部13が剥がれたとしても、当該回り込み部14(爪部17)がフランジ部22の外周縁部23に引っ掛かって、フランジ部22から磁石部材12が脱落するのを防止することができる。
【0044】
また、図3に示している欠損部24,25は、曲面(アール面)に沿って形成されたアール加工部24a,25aであるため、外周縁部23に沿って形成された回り込み部14には、支持部材20との接触面において、角部(隅部)が生じていない。このため、一体固定されている磁石部材12及び支持部材20が温度変化によって伸縮しても、角部(隅部)による応力集中の発生を防ぐことができ、磁石部材12の割れを防止することができる。
【0045】
さらに、図3において、回り込み部14は、フランジ部22の裏面22bと同一平面となる平坦な側端面15を有している。つまり、回り込み部14は、フランジ部22の裏面22bから車両外側(図1では裏面22bから左側)にはみ出していない。
このため、前記のとおり、フランジ部22の裏面22bには、シール部材7(シールリング10a)のシールリップ10bが接触するが(図2参照)、回り込み部14が邪魔とならない。
【0046】
図4は、フランジ部22の外周縁部23及び回り込み部14の変形例を示す図である。この変形例では、欠損部24は、鋼板がプレスされて製造された支持部材20の外周縁部23の角部Eに対して、面取り加工が施されて、当該角部Eが取り除かれた面取り部24bである。この場合であっても、仮に支持部材20のフランジ部22から、磁石部材12の本体部13が剥がれたとしても、回り込み部14(爪部17)がフランジ部22の外周縁部23に引っ掛かって、フランジ部22から磁石部材12が脱落するのを防止することができる。
【0047】
以上説明した各実施形態に係る着磁パルサリング11によれば、磁石部材12にガラス繊維が含まれていることから、磁石部材12の線膨張係数を従来よりも小さくすることができる。このため、磁石部材12が一体接合されている金属製の支持部材20との線膨張係数の差を小さくし、温度変化に起因して支持部材20と磁石部材12との間に生じる変形量の差を小さくすることができる。この結果、温度変化による着磁パルサリング11の破損を防ぐことが可能となる。そして、この着磁パルサリング11を転がり軸受装置1が備えていることで、信頼性及び耐久性の高い転がり軸受装置1とすることができる。
【0048】
また、本発明の着磁パルサリング及び転がり軸受装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、前記実施形態では、磁石部材12の着磁面が、着磁パルサリング11の軸方向に直交する面(環状の面)であり、磁気センサSによるセンサ方向が軸方向となる場合を説明したが、着磁面が、着磁パルサリングの外周面(半径方向に直交する円筒面)であり、磁気センサによるセンサ方向が半径方向となる構成であってもよい。
【0049】
また、支持部材20の外周縁部23における欠損部24は、図示した形状以外のアンダーカット形状であってもよく、また、磁石部材12の回り込み部14は、その欠損部に応じた形状であればよい。
また、着磁パルサリングは、図1に示した車輪用の転がり軸受装置1以外の回転機器に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1:転がり軸受装置、 2:内軸(回転輪)、 3:外輪(固定輪)、 4:玉(転動体)、 8:内軸本体、 9:内輪部材(回転体)、 11:着磁パルサリング、 12:磁石部材、 13:本体部、 14:回り込み部、 15:側端面、 20:支持部材、 21:円筒部、 22:フランジ部、 22a:表面、 22b:裏面、 23:外周縁部、 24:欠損部、 S:磁気センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に一体回転可能に取り付けられる環状の金属製支持部材と、
前記支持部材に固定されかつ複数の磁極が周方向に配列されている環状の磁石部材と、を備え、
前記磁石部材は、磁性体粉と、バインダと、微小ガラス材とが含まれた磁石材料によって形成されていることを特徴とする着磁パルサリング。
【請求項2】
前記微小ガラス材は、ガラス繊維である請求項1に記載の着磁パルサリング。
【請求項3】
前記バインダは、樹脂である請求項1又は2に記載の着磁パルサリング。
【請求項4】
前記磁石部材の線膨張係数は、前記支持部材の線膨張係数の4.5倍以下で3倍以上である請求項1から3のいずれか一項に記載の着磁パルサリング。
【請求項5】
前記微小ガラス材は、前記磁石部材の全重量の内の1%以上で15%以下の重量で含まれている請求項1から4のいずれか一項に記載の着磁パルサリング。
【請求項6】
前記支持部材は、前記回転体に取り付けられる円筒部と、前記円筒部から径外方向へ延び表面側に前記磁石部材の本体部が固定されている環状のフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、その外周縁部の裏面側に欠損部が形成されており、
前記磁石部材は、前記本体部から前記欠損部まで前記外周縁部を回り込んでいる回り込み部を有している請求項1から5のいずれか一項に記載の着磁パルサリング。
【請求項7】
前記回り込み部は、前記フランジ部の裏面と同一平面となる平坦な側端面を有している請求項6に記載の着磁パルサリング。
【請求項8】
同心状に配置されている固定輪及び回転輪と、
前記固定輪と回転輪との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
前記回転輪に一体回転可能に取り付けられた着磁パルサリングと、
前記着磁パルサリングの磁極の変化を検出することにより前記回転輪の回転状態を検出するための磁気センサと、
を備え、
前記着磁パルサリングは、請求項1から7のいずれか一項に記載の着磁パルサリングであることを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−93125(P2012−93125A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238789(P2010−238789)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000211695)中西金属工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】