説明

着色された光輝性顔料

【課題】 塗料,樹脂組成物,インク,化粧料などに配合される光輝性顔料であって、透明感と光輝感が高く、しかも彩度が高く明確な色彩が得られる着色された光輝性顔料を提供する。
【解決手段】 鱗片状ガラスの表面に、有機顔料を含有するシリカ系皮膜が被覆されていることを特徴とする着色された光輝性顔料である。前記鱗片状ガラスの表面には被覆層が形成され、さらに前記シリカ系皮膜が被覆されていることが好ましい。
この光輝性顔料は、塗料,樹脂組成物,インク,化粧料などに配合されて用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明感や光輝感のある着色された光輝性顔料に関し、特に干渉色を有する着色された光輝性顔料に関する。また、この光輝性顔料を用いた塗料、樹脂組成物、インク、化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光輝性顔料として、鱗片状のアルミニウム粉末,グラファイト片粒子,鱗片状ガラス,銀を被覆した鱗片状ガラス,二酸化チタンもしくは酸化鉄などの金属酸化物で被覆した雲母片粒子などが知られている。
【0003】
これらの光輝性顔料は、その表面が光を反射してキラキラと輝くという特性を有しており、塗料、インク、樹脂組成物、化粧料などに混合され使用される。これら光輝性顔料を、塗料に使用すると塗装面に、インクに使用すると印刷面に、または樹脂組成物に使用すると樹脂成形物の表面に、それら素地の色調と相まって、変化に富み美粧性に優れた独特な外観を与える。
【0004】
一方、金属光沢を有する光輝性顔料としては、アルミニウム粉体、箔状樹脂に金属を被覆したものを粉砕加工したもの、または雲母粉体に金属被覆したものが知られている。これらの光輝性顔料は、金属光沢を有するため、強い光輝感を付与することができ、意匠的に優れた外観を与えることができる。
【0005】
そのため、光輝性顔料は、自動車,オートバイ,OA機器,携帯電話,家庭電化製品などの塗装に用いる塗料や、各種印刷物または筆記用具類などのインク、化粧料に混合されて用いられるなど、幅広い用途で利用されている。
【0006】
なかでも、二酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物を被覆した鱗片状基体は、その表面の被覆層の厚さによって、様々な干渉色を呈する(例えば、特開平10−101957号公報参照)。しかしながら、干渉による発色は、有機顔料等における光の吸収による発色と異なり、鮮明な色調を出すことは困難であった。
【0007】
そこで、特開平7−133211号公報では、平滑面を有する無機基材の表面に色素を含有する金属酸化物ゲルを被覆した着色化粧品顔料が提案されている。また、特開2001−152049号公報においても、無機顔料を用いた金属酸化物ゲル被覆した着色顔料が提案されている。
【0008】
また一方で、金属粉または金属を被覆した粉体は、高い光輝感を与えることができるものの、金属固有の単色で無彩色であるため、様々な意匠性を得ることはできなかった。そこで、有彩色を得るために、金属粉または金属を被覆した粉体に、着色顔料を混合することが行われていた。しかしながら、無彩色である金属粉または金属を被覆した粉体の色が強調され、鮮明な色調が得られにくい、という問題があった。
【0009】
そこで、特公平6−92546号公報では、樹脂コート法などにより個々のアルミニウムフレークに、顔料などを付着させて着色する方法が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開平10−101957号公報
【特許文献2】特開平7−133211号公報
【特許文献3】特開2001−152049号公報
【特許文献4】特公平6−92546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特開平7−133211号の対象技術は、化粧品顔料であるので、実際に使用される無機基材としては雲母となる。この雲母の外観色は白色に近いものが多いので、色素を含有する金属酸化物ゲルで被覆しても、鮮明な色調は得られなかった。
【0012】
さらに、特開平7−133211号の技術では、充分な量の顔料を付着させることが困難なため、鮮明な色調を得ることができなかった。また、顔料の付着量を多くすることができたとしても、顔料の脱落が起こりやすい、工程が煩雑である等の問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、透明感と光輝感が高く、しかも彩度が高く明確な色彩が得られる光輝性顔料の提供を目的とする。さらに、この光輝性顔料を用いた塗料、樹脂組成物、インク、化粧料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、請求項1に記載の発明として、
鱗片状ガラスの表面に、有機顔料を含有するシリカ系皮膜が被覆されていることを特徴とする着色された光輝性顔料である。
【0015】
請求項2に記載の発明として、
前記鱗片状ガラスの表面に被覆層が形成され、さらに前記シリカ系皮膜が被覆されている請求項1に記載の着色された光輝性顔料である。
【0016】
請求項3に記載の発明として、
前記被覆層が、金属酸化物にて形成されている請求項2に記載の着色された光輝性顔料である。
【0017】
請求項4に記載の発明として、
前記金属酸化物が、酸化チタン,酸化鉄,酸化ジルコニウムからなる群のうち少なくとも1種の金属酸化物である請求項3に記載の着色された光輝性顔料である。
【0018】
請求項5に記載の発明として、
前記被覆層が、金属にて形成されている請求項2に記載の着色された光輝性顔料である。
【0019】
請求項6に記載の発明として、
前記金属が、金,銀,白金,パラジウム,チタン,コバルト,ニッケルからなる群のうち少なくとも1種の金属、および/またはそれらの合金である請求項5に記載の着色された光輝性顔料である。
【0020】
請求項7に記載の発明として、
前記シリカ系皮膜は、そのマトリクスが実質的にシリカのみからなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の着色された光輝性顔料である。
【0021】
請求項8に記載の発明として、
前記有機顔料の平均粒径は、10nm〜1μmである請求項1〜7のいずれか1項に記載の着色された光輝性顔料である。
【0022】
さらに、塗料や樹脂組成物、インク、化粧料などに、本発明による光輝性顔料を含ませると、光輝性に優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の着色された光輝性顔料は、鱗片状ガラスに有機顔料を含むシリカ系皮膜を被覆している。鱗片状ガラスは、雲母とは異なり、透明体であり平滑な表面を有しているので、これを基材とする顔料は、透明感と光輝感が高い。また、本発明の光輝性顔料の発色は、基本的に干渉色によらず、有機顔料によるので、彩度が高く鮮やかな色彩を得ることができる。
【0024】
そして、この着色された光輝性顔料を、塗料や樹脂組成物に適用することにより、従来にない深みのある色合いを実現できる。例えば、曲面等を構成する面は、面に対して小さな角度から観察されることも多い。このような場合においても、本発明による光輝性顔料を適用した塗料や樹脂組成物は、鮮明な色調が損なわれないので、好ましい。
【0025】
さらに、基材として、鱗片状ガラスに金属酸化物である酸化チタンを被覆したものを用いると、干渉色を呈する鱗片状ガラスと有機顔料の色の異なる光輝性顔料を得ることができる。この場合、見る角度によって色調が異なる、いわゆるフリップフロップを実現することができ、さまざまな色合いを持つ物品の提供が可能となる。
【0026】
本発明による着色された光輝性顔料は、塗料,樹脂組成物,インク組成物,化粧料,人造大理石成型品,塗被紙など、さまざまな分野に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の着色された光輝性顔料は、鱗片状ガラスに有機顔料を含むシリカ系皮膜が被覆されていることを特徴としている。
【0028】
(基材)
本発明における基材としては、表面の平滑性が高く、かつ透明性の高い鱗片状ガラスを用いる。さらに、この鱗片状ガラスに金属酸化物が被覆されていると、干渉色を呈するので、好ましく用いることができる。また、この鱗片状ガラスに金属が被覆されていると、金属光沢を呈するので、好ましく用いることができる。
【0029】
本発明に用いられる鱗片状ガラスは、ブロー法で製造されるとよい。ブロー法とは、原料カレットを熔融し、熔けたガラスを円形スリットから連続的に取り出し、そのときに円形スリットの内側に設けられたブローノズルから空気等の気体を吹き込んで、熔けたガラスを膨らませながら引っ張ってバルーン状とし、厚みの薄くなったガラスを粉砕して、鱗片状ガラスを得る方法である。
【0030】
このように製造された鱗片状ガラスの表面は、熔融成形時の火造り面における平滑性を維持している。このため、滑らかな表面を有しているので、光をよく反射する。この鱗片状ガラスを、塗料や樹脂組成物等に配合すると、高い光輝感が得られるので好ましい。このような鱗片状ガラスとしては、例えば、日本板硝子(株)より、マイクログラス(登録商標)Rガラスフレーク(登録商標)Rシリーズ(RCF-160,REF-160,RCF-015,REF-015)が市販されている。
【0031】
さらに、この鱗片状ガラスの表面に被覆層を形成してもよい。この被覆層として、例えば、金属酸化物層を形成してもよいし、金属層を形成してもよい。
【0032】
本発明に用いる鱗片状ガラスに金属酸化物を被覆する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スパッタリング法,ゾルゲル法,CVD法またはLPD法など公知の方法を利用することができる。なお、鱗片状ガラスのような粒子状の基材に、金属酸化物を被覆する場合には、金属塩から酸化物をその表面に析出させるLPD法が好ましい。また、干渉色を呈するには高屈折率な金属酸化物が好ましい。特に、ルチル型二酸化チタンを鱗片状ガラスの表面に直接析出させることができる、中和反応を利用した析出方法が最適である。詳しくは、本発明者が特開2001−31421号公報にて提案しており、温度55〜85℃、pH1.3以下のチタン含有溶液から中和反応によりルチル型結晶を析出させる方法である。
【0033】
この鱗片状ガラスに金属酸化物層が被覆され、干渉色を呈するものとしては、例えば、日本板硝子(株)より、メタシャイン(登録商標)RRCシリーズ(MC5090RS,MC5090RY,MC5090RR,MC5090RB,MC5090RG,MC1080RS,MC1080RY,MC1080RR,MC1080RB,MC1080RG,MC1040RS,MC1040RY,MC1040RR,MC1040RB,MC1040RG,MC1020RS,MC1020RY,MC1020RR,MC1020RB,MC1020RG,MC5090FG,MC5090FR,MC5090FB,MC5090FC)が市販されている。
【0034】
また、この鱗片状ガラスに金属が被覆され、光輝感を呈するものとしては、例えば、日本板硝子(株)より、メタシャイン(登録商標)RPSシリーズ(MC5480PS,MC5230PS,MC5150PS,MC5090PS,MC5030PS,MC2080PS,ME2040PS,ME2025PS,MC5480NS,MC5230NS,MC5150NS,MC5090NS,MC5030NS,MC5480NB,MC5230NB,MC5150NB,MC5090NB,MC5030NB,MC1040NB,MC1020NB)が市販されている。
【0035】
鱗片状ガラスの平均粒径や平均厚さは、使用用途によって異なり、特に限定されない。一般的には、平均粒径1〜500μm、かつ平均厚さが0.1〜10μmであることが好ましい。その粒径が大きすぎる場合は、光輝性顔料を塗料や樹脂組成物に配合する際に、鱗片状ガラスが破砕される。特に、酸化チタンが被覆された鱗片状ガラスでは、その断面が露出するので、含まれるアルカリ成分が拡散してくる。
【0036】
一方、その粒径が小さすぎると、塗膜や樹脂組成物中で光輝性顔料の平面がランダムな方向を向いてしまい、また個々の粒子が放つ反射光が弱くなる。このため、光輝感が損なわれてしまう。
【0037】
インクに用いる場合は、粒径の小さい光輝性顔料が好ましく、鱗片状ガラスの平均粒径が1〜40μmで、平均厚さが0.1〜3μmであることが好ましい。
【0038】
(有機顔料)
使用される有機顔料の大きさは、特に制限されるものではないが、平均粒径が10nm〜1μmであることが好ましい。平均粒径が10nm未満の場合は、有機顔料の耐久性が極端に悪くなる。一方、平均粒径が1μmを超えると、有機顔料による隠蔽が大きくなり、光輝感が失われる。そのため、色合いが低下したり、塗膜が薄い場合には塗膜の表面平滑性が損なわれてしまう。
【0039】
有機顔料の含有量は、基材となる鱗片状ガラスの質量に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%未満であり、最も好ましくは0.1〜3.0質量%である。
【0040】
有機顔料の種類としては、特に限定されないが、例えば、フタロシアニン顔料,不溶性アゾ顔料,アゾレーキ顔料,アンスラキノン顔料,キナクリドン顔料,ジオキサジン顔料,ジケトピロロピロ−ル顔料,アントラピリジン顔料,アンサンスロン顔料,インダンスロン顔料,フラバンスロン顔料,ペリノン顔料,ペリレン顔料,チオインジゴ顔料等が挙げられる。
【0041】
有機顔料の具体例としては、自動車用塗料に用いる場合など、耐候性が必要とされる場合は、Color Index Generic Name(以下、C.I.GN.と略す)におけるPigment Green 36、Pigment Red 179、Pigment Blue 15等の顔料を用いることが好ましい。
【0042】
また、化粧料に用いる場合などの有機顔料としては、まず赤色顔料として、赤色2,3,102,104,105,106,201,202,203,204,205,206,207,208,213,214,215,218,219,220,221,223,225,226,227,228,230の(1),230の(2),231,232,405の各号を例示することができる。
【0043】
また、黄色顔料として、黄色4,5,201,202の1,202の2,203,204,205,401,402,403,404,405,406,407を、緑色顔料として、緑色3,201,202,204,205,401,402の各号を例示することができる。
【0044】
さらに、青色顔料として、青色1,2,201,202,203,204,205,403,404の各号を、橙色顔料として、橙201,203,204,205,206,207,401,402,403の各号を例示することができ、このほか、褐色201号,紫色201,401の各号、黒色401号等を例示することができる。
【0045】
また、鱗片状ガラスが金属酸化物で被覆されて干渉色を呈する場合には、鱗片状ガラスの干渉色と、有機顔料の色との組み合わせについては、特に限定はない。なお、この干渉色と有機顔料の色とを近似させると、色の深みを増すことができ、好ましい。
【0046】
干渉色を呈する鱗片状ガラスに、有機顔料を含有するシリカ系皮膜を被覆せずに、塗膜に適用した場合に、特に塗膜面に対して小さな角度から観察すると、若干干渉色が異なって見え、さらに散乱による白濁が観察される。
【0047】
そこで本発明のように、干渉色を呈する鱗片状ガラスに、有機顔料を含有するシリカ系皮膜を被覆し、これを塗膜に適用した場合には、塗膜面に対して小さな角度から観察しても、異なる干渉色は観察されず、さらに白濁も観察されない。この塗膜は、どの角度から見ても色調が安定し、より深い色合いが実現できる。
【0048】
また、この干渉色と有機顔料の色とを異ならせると、見る角度によって色調が異なる、いわゆるフリップフロップを実現することができる。干渉色のみを用いた光輝性顔料におけるフリップフロップでは、光波長の順に色調が変化するが、干渉色と有機顔料の色とを異ならせるフリップフロップでは、自由な色変化を実現することができる。例えば、青と黄、赤と緑などである。
【0049】
(シリカ系皮膜)
有機顔料は、シリカ系皮膜に含有されて、鱗片状ガラスに被覆される。シリカ系皮膜は、例えばゾルゲル法により、粒子状である鱗片状ガラスの表面に簡単に被覆することができるので、好適である。また、シリカ系皮膜は、有機顔料を分散含有させるマトリクスとしても、好ましく用いることができる。
【0050】
シリカ系皮膜は、シリカを主成分とすればよく、実質的にシリカのみからなってもよい。シリカ以外の成分としては、皮膜の屈折率の調整や耐アルカリ性を持たせるために、チタニアやジルコニアなどを含んでいてもよい。
【0051】
有機顔料を含有するシリカ系皮膜は、50nm〜1μmの厚みを有することが好ましい。厚みが50nm以下であると、顔料を充分に含有することができず、色調が薄くなったり、含有された有機顔料が脱落しやすくなったりする。
一方、厚みが1μmを超えると、色調が濃くなることで光輝感が失われたり、有機顔料含有層が剥離しやすくなる。また、コストも高くなってしまう。
【0052】
有機顔料を含有するシリカ系皮膜の形成方法は、加水分解・縮重合可能で珪素を含む有機金属化合物および有機顔料を含有する塗布溶液のなかに、鱗片状ガラスを分散させ、有機金属化合物を加水分解・縮重合させるとよい。こうして、鱗片状ガラスの表面に有機顔料を含有するシリカ系皮膜を被覆することができる。珪素を含む有機金属化合物以外の有機金属化合物としては、例えば、有機チタン化合物や有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物を挙げることができる。なお、有機金属化合物を有機珪素化合物のみとすると、シリカ皮膜とすることができる。
【0053】
塗布溶液に含まれる加水分解・縮重合可能な有機珪素化合物としては、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトラプロポキシシラン,テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシランや、メチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,メチルトリプロポキシシラン,メチルトリブトキシシラン等のメチルトリアルコキシシランを挙げることができる。
【0054】
これらのなかで、比較的分子量の小さいもの、例えば炭素数が3以下のアルコキシル基からなるテトラアルコキシシランが、緻密な膜となりやすいので、好ましく用いられる。また、これらテトラアルコキシシランの重合体で、平均重合度が5以下のものも好ましく用いられる。
【0055】
塗布溶液は、有機珪素化合物を0.5〜20質量%、有機顔料を0.1〜5質量%含有する。塗布溶液は、このほかに、加水分解のための水を含有する。例えば、有機珪素化合物であるシリコンアルコキシドと水との混合割合(モル比)は、シリコンアルコキシドを1とした場合に、水25〜100が好適である。有機珪素化合物および有機顔料の含有比率を変えることにより、最終的に膜中のシリカと有機顔料の比率を調整することができる。
【0056】
塗布溶液には、さらに溶媒を含有する。この溶媒としては、ヘキサン,トルエン,シクロヘキサンのような炭化水素;塩化メチル,四塩化炭素,トリクロルエチレンのようなハロゲン化炭化水素;アセトン,メチルエチルケトンのようなケトン;ジエチルアミンのような含窒素化合物;アルコール類;酢酸エチルのようなエステル等の有機溶媒を用いることができる。これらのなかで、アルコール系溶媒が好ましく用いられ、例えば、メチルアルコール,エチルアルコール,1−プロピルアルコール,2−プロピルアルコール,ブチルアルコール,アミルアルコール等を挙げられる。それらのなかで、メチルアルコール,エチルアルコール,1−プロピルアルコール,2−プロピルアルコールのように、炭素数が3以下の鎖式飽和1価アルコールが、常温における蒸発速度が大きいので、好ましく用いられる。
【0057】
塗布溶液には、さらに触媒を含有する。この触媒の種類としては、水酸化アンモニウム,アンモニア,水酸化ナトリウムなどの、アルカリ触媒が好適に用いられる。この塗布溶液のpHは通常10〜14となる。
なお、ゾルゲル法における触媒としては、塩酸,フッ酸,硝酸,酢酸等の酸触媒がよく用いられる。しかし、本発明に用いる鱗片状ガラスのように、粒子状の基材にシリカ系皮膜を被覆する場合、粒子同士が凝集を起こすため、本発明においては、アルカリ触媒を用いるのが好ましい。
【0058】
この塗布溶液中に、鱗片状ガラスを1〜60質量%分散させ、これを1〜15時間静置させて、有機珪素化合物を加水分解・縮重合させる。こうして、鱗片状ガラスの全表面に、50nm〜1μm厚みを有し、有機顔料を分散含有したシリカ皮膜を形成する。続いて、これを、水洗、濾過し、乾燥を行う。乾燥は、室温〜200℃で3〜5時間行うことが好ましい。
【0059】
本発明に用いる鱗片状ガラスに、さらに耐薬品性、特に耐アルカリ性を付与・向上させるために、その最表面に酸化ジルコニウムや酸化アルミニウム、酸化亜鉛等を被覆してもよい。この酸化ジルコニウムなどの被覆は、例えば公知のLPD法によって行うことができる。
【0060】
(用途)
本発明による着色された光輝性顔料は、安全性が高く安定であり、真珠光沢や虹色干渉色を呈するので、種々の用途に適用することができる。
例えば、樹脂組成物製品の応用としては、化粧料用容器,食品容器,壁装材,床材,家電製品,アクセサリー,文房具,玩具,浴槽,バス用品,履き物,スポーツ用品,トイレ用品などが挙げられる。
インクの応用としては、包装パッケージ,包装紙,壁紙,クロス,化粧版,テキスタイル,各種フイルム,ラベルなどが挙げられる。
塗料の応用としては、自動車やオートバイ、自転車などの外装用,建材,瓦,家具,家庭用品,化粧料,容器,事務用品,スポーツ用品などが挙げられる。
その他の応用として、水彩絵具,油絵具,本革合成皮革,捺染,ボタン,漆器,陶磁器顔料等を挙げられる。
【0061】
化粧料の応用としては、フェーシャル化粧料,メーキャップ化粧料,ヘア化粧料などが挙げられる。これらのなかでも、特に化粧下地,粉白粉などのファンデーション,アイシャドー,ブラッシャー,ネイルエナメル,アイライナー,マスカラ,口紅,ファンシーパウダーなどのメーキャップ化粧料において、この光輝性顔料は好適に使用される。化粧料の形態としては、特に限定されるものではなく、粉末状,ケーキ状,ペンシル状,スティック状,軟膏状,液状,乳液状,クリーム状などが例示される。
【0062】
以下に実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
テトラエトキシシラン 15mL、エチルアルコール 300mL、および純水 60mLを混合する。これに、有機顔料(C.I.GN. Pigment Blue 15:3)の微粒子(平均粒径 約100nm)10質量%含有した溶液を3.0g添加し混合して、塗布溶液とした。
【0063】
次に、この塗布溶液に、金属酸化物である二酸化チタンが被覆された鱗片状ガラス(日本板硝子(株)製、MC1020RB)を30g添加し、撹拌機で撹拌混合する。この鱗片状ガラスは、平均粒径20μmで、平均厚みが1.3μmであり、青色光沢の干渉色を呈している。その後、塗布溶液に、水酸化アンモニウム溶液(濃度25%)を14mL添加する。この状態で2〜3時間撹拌混合しながら、脱水縮合反応させる。こうすると、塗布溶液中で、鱗片状ガラスの表面に、有機顔料を含有するシリカ皮膜を均一に析出させることができる。続いて、濾過および水洗を数回繰り返した後に、乾燥を行い、最後に180℃で2時間熱処理を行った。こうして、有機顔料を含有するシリカ皮膜(膜厚100nm)が被覆された光輝性顔料が得られた。この光輝性顔料は青色を呈した。
【0064】
図1に、得られた光輝性顔料の断面模式図を示した。本発明による着色された光輝性顔料1は、基材として鱗片状ガラス21に、金属酸化物である二酸化チタンの被覆層22が被覆されており、さらに、有機顔料32を分散・含有するシリカ系皮膜31が被覆されている。
【0065】
[実施例2]
実施例1における、青色光沢の干渉色を呈する鱗片状ガラスの代わりに、黄色光沢の干渉色を呈する二酸化チタンが被覆された鱗片状ガラス(日本板硝子(株)製、MC1020RY)を使用した以外は、実施例1と同様にして、光輝性顔料を作製した。
【0066】
[実施例3]
実施例1における、青色光沢の干渉色を呈する鱗片状ガラスの代わりに、銀が被覆された鱗片状ガラス(日本板硝子(株)製、MC2080PS)を使用した。この鱗片状ガラスは、平均粒径80μmで、平均厚みが1.3μmであり、金属光沢を呈している。それ以外は実施例1と同様にして、光輝性顔料を作製した。このようにして、有機顔料を含有するシリカ皮膜(膜厚100nm)が被覆された光輝性顔料が得られた。この光輝性顔料は、金属光沢を有する青色を呈した。
【0067】
[実施例4]
テトラエトキシシラン 4mL、エチルアルコール 75mL、および純水 15mLを混合する。これに、有機顔料(C.I.GN. Pigment Blue 15:3)の微粒子(平均粒径 約100nm)10質量%含有した溶液を0.75g添加し混合して、塗布溶液とした。
【0068】
次に、この塗布溶液に、ニッケルが被覆された鱗片状ガラス(日本板硝子(株)製、MC5090NS)を30g添加し、撹拌機で撹拌混合する。この鱗片状ガラスは、平均粒径90μmで、平均厚みが5.0μmであり、金属光沢を呈している。その後、塗布溶液に、水酸化アンモニウム溶液(濃度25%)を0.9mL添加する。この状態で2〜3時間撹拌混合しながら、脱水縮合反応させる。こうすると、塗布溶液中で、鱗片状ガラスの表面に、有機顔料を含有するシリカ皮膜を均一に析出させることができる。続いて、濾過および水洗を数回繰り返した後に、乾燥を行い、最後に180℃で2時間熱処理を行った。このようにして、有機顔料を含有するシリカ皮膜(膜厚100nm)が被覆された光輝性顔料が得られた。この光輝性顔料は金属光沢を有する青色を呈した。
【0069】
[比較例1]
実施例1における、青色光沢の干渉色を呈する鱗片状ガラスを、有機顔料含有のシリカ膜を形成することなく、そのまま光輝性顔料として用いた。
【0070】
[比較例2]
実施例1における、青色光沢の干渉色を呈する鱗片状ガラスの代わりに、青色の干渉色を呈する二酸化チタンが被覆された雲母(メルク社製、「Iriodin 221」:粒径5〜25μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、光輝性顔料を作製した。
【0071】
[比較例3]
実施例3における、銀が被覆された鱗片状ガラスの代わりに、市販のアルミニウム粉体を使用した以外は、実施例3と同様にして、光輝性顔料を作製した。
【0072】
〔光輝性顔料の評価〕
以上のようにして作製した光輝性顔料をそれぞれ1gとり、アクリル樹脂(日本ペイント社製 アクリルオートクリアースーパー)49g(固形分重量)に混合し、ペイントシェーカーを用いて充分に撹拌して、塗料とした。この混合液をアプリケーターを用いて隠蔽測定紙上に塗布して、常温で放置して十分に乾燥させて、塗膜とした。
【0073】
この塗膜の意匠性を5人の官能試験員に評価させた。官能試験は、日中の太陽光の下で行い、光輝感および色の鮮やかさについて評価した。5人の官能試験員の総合評価結果を、以下にまとめる。
【0074】
・実施例1
光輝感が強く、鮮やかでかつ深みのある青色が観察された。また、塗膜面に対して小さな角度から観察しても、白濁や干渉色の変化による意匠性の損失がなかった。
【0075】
・実施例2
塗膜面に対して直角から観察した場合、光輝感の強い黄色の干渉色が観察された。塗膜面に対して小さな角度から観察した場合、白濁のない鮮やかな色が観察された。
【0076】
・実施例3
金属光沢による光輝感が強く、鮮やかでかつ深みのある青色が観察された。また、塗膜面に対して小さな角度から観察しても、白濁による意匠性の損失がなかった。
【0077】
・実施例4
金属光沢による光輝感が強く、鮮やかでかつ深みのある青色が観察された。また、塗膜面に対して小さな角度から観察しても、白濁による意匠性の損失がなかった。
【0078】
・比較例1
塗膜面に対して直角から観察した場合、青色の干渉色が観察された。塗膜面に対して小さな角度から観察した場合、やや赤みがかった青に変化し、さらに白濁して鮮やかさが損なわれた。
【0079】
・比較例2
色の変化は実施例2と同様である。塗膜面に対して直角から観察した場合でも、光輝感が低く、白く散乱した状態が観察された。さらに、塗膜面に対して小さな角度から観察した場合、白濁の度合いが強かった。
【0080】
・比較例3
金属光沢による光輝感はあるものの、実施例3または実施例4と比較して光輝感が低く、白く散乱した状態が観察された。さらに、塗膜面に対して小さな角度から観察した場合、白濁の度合いが強かった。
【0081】
上記実施例および比較例の結果を検討することにより、以下のことが分かる。
実施例1と比較例1との対比から、有機顔料含有シリカ皮膜を被覆することで、塗膜面に対して小さな角度から観察した場合でも、白濁や干渉色の変化がなく、深みのある色合いを維持できることが分かる。
【0082】
また、実施例2と比較例2との対比から、光輝性顔料の基材として二酸化チタン被覆の雲母を用いると、光輝感が低く、白く散乱した状態が観察される。特に、塗膜面に対して小さな角度から観察した場合、白濁の度合いが強くなり、色合いが大きく劣ってしまう。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明による着色された光輝性顔料の断面模式図である。
【符号の説明】
【0084】
1 光輝性顔料
21 鱗片状ガラス
22 被覆層
31 シリカ系皮膜
32 有機顔料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状ガラスの表面に、有機顔料を含有するシリカ系皮膜が被覆されていることを特徴とする着色された光輝性顔料。
【請求項2】
前記鱗片状ガラスの表面に被覆層が形成され、さらに前記シリカ系皮膜が被覆されている請求項1に記載の着色された光輝性顔料。
【請求項3】
前記被覆層が、金属酸化物にて形成されている請求項2に記載の着色された光輝性顔料。
【請求項4】
前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化鉄、酸化ジルコニウムからなる群のうち少なくとも1種の金属酸化物である請求項3に記載の着色された光輝性顔料。
【請求項5】
前記被覆層が、金属にて形成されている請求項2に記載の着色された光輝性顔料。
【請求項6】
前記金属が、金,銀,白金,パラジウム,チタン,コバルト,ニッケルからなる群のうち少なくとも1種の金属、および/またはそれらの合金である請求項5に記載の着色された光輝性顔料。
【請求項7】
前記シリカ系皮膜は、そのマトリクスが実質的にシリカのみからなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の着色された光輝性顔料。
【請求項8】
前記有機顔料の平均粒径は、10nm〜1μmである請求項1〜7のいずれか1項に記載の着色された光輝性顔料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載された光輝性顔料を含む塗料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載された光輝性顔料を含む樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載された光輝性顔料を含むインク。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載された光輝性顔料を含む化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−176742(P2006−176742A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12197(P2005−12197)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】