説明

着色ステンレス箔及びその製造方法

【課題】6価クロムイオンを使用せず、基材ステンレス箔の加工や繰り返し変形でも着色層が剥がれない着色ステンレス箔とその製造方法を提供する。
【解決手段】四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被膜層を有するステンレス箔であって、四酸化三鉄粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、被膜層がクラックを有する着色ステンレス箔。Niイオンと平均粒径0.1〜10μmの四酸化三鉄粒子を含む酸性水溶液中で、ステンレス箔を基材としてカソード電解して、前記ステンレス箔の表面に四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被膜層を形成することで前記着色ステンレス箔を製造する方法。前記被膜層の上に、更に有機樹脂層を積層してなる着色ステンレス箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾等を目的とした黒色もしくは黒化色調を付与した着色ステンレス箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス表面の着色、特に、黒色の着色には、(1)黒染めといわれる化成処理、(2)電着塗装のような塗装、(3)黒色クロムめっきのような電気めっき、(4)電解発色等がある。
【0003】
(1)黒染めは煮沸した濃NaOH水溶液に20〜40分間浸漬し、次のような反応を経てFe3O4の黒色薄膜が生成される。
(i)液中の酸素、酸化剤による表面の酸化:2Fe + 3/2O2 → Fe2O3
(ii)鉄酸ソーダ(不安定な中間化合物)の生成:Fe2O3 + 4NaOH + 1/2O2 → 2Na2FeO4 + 2H2
(iii)鉄酸ソーダの還元によるFe3O4の生成:3Na2FeO4 + 5H2 → Fe3O4 + 6NaOH + 2H2O
(2)塗装は塗布や電着塗装により黒色顔料を堆積させることで黒色表面を得る。
【0004】
(3)黒色クロムめっきは古くから用いられている漆黒調被膜を形成する方法であり、氷酢酸系、フッ化物系、硝酸系、スルファミン酸系などの数多くの処理液があり、計器外層、装身具、ワイパーブレードなど工業的に広く用いられている。
【0005】
(4)電解発色法は特許文献1に示すように、水溶性染料を添加したアルカリ性水溶液中でステンレスに陽極電解処理及び陰極電解処理を交互に繰り返して行うことによって酸化被膜に染料が包含され、黒色を含む濃い色調が得られる。
【0006】
ステンレス箔は、装飾用途等ではその金属光沢が好まれ、ステンレス箔の表面を鏡面仕上げ、つや消し仕上げ、ヘアライン仕上げ等にして利用されている。しかしながら、携帯電話、電卓、パソコン、携帯情報端末、カーナビゲーション、携帯プレーヤー等の電子機器の部材では着色ステンレス箔の要望もあり、黒色に着色したステンレス箔の需要も多くなっている。現在のところ、ステンレス箔を黒色に着色するには、上述の方法を利用して製造されている。
【0007】
一方、特許文献2では、CCDカメラや液晶表示素子などのカラーフィルターに関して、カーボンブラック粒子、黒色酸化鉄粒子、アゾ顔料粒子、着色顔料有機樹脂粒子等の色材粒子を含有した、Ni、Cr、Cu、Au、Ag、Mo、Sn、Zn、Co等の金属メッキ膜を利用したブラックマトリックスの製造法が開示されている。具体的には、実施例として、石英ガラス基体上にカーボンブラック粒子分散のニッケルメッキ膜を施して、遮光と光反射防止の両機能を併せ持つブラックマトリックスとすることが記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開平6−299394号公報
【特許文献2】特開2000-275428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
黒染めの黒色原理は上述のようであるが、全工程としては、一般に、塩酸による前処理、約150℃のアルカリ水溶液中での黒色被膜形成、クロム酸処理からなる。黒色被膜形成のみでは耐食性が低いため、クロム酸による後処理が必要である。また、この着色手法では処理時間が長い等の問題によりroll to rollの連続処理が難しく、低コスト化が困難である。
【0010】
電着塗装する場合は、密着性を向上させるため下地処理として電解クロメート処理が必要である。
【0011】
黒染め及び電着塗装のいずれの場合も、6価クロムイオンを使用する処理が必要となるため、環境問題への配慮から代替技術が求められている。
【0012】
黒色クロムめっきでは、製造工程で6価クロムイオンを使用するため、6価クロムイオンを使用しない手法としてニッケル亜鉛合金めっき、スズニッケル合金めっき、スズニッケル銅合金などが開発されている。しかしながら、前記6価クロムイオンを使用しないめっきでは、ステンレス箔をエッチング加工して利用する場合には、めっき成分であるスズや銅等の異金属元素がエッチャントへ混入し、安定なエッチング加工ができないという問題が生じる。
【0013】
顔料等による黒色化、水溶性染料を添加したアルカリ性水溶液中での電解発色においても、エッチャントへの異金属元素、有機物の混入が避けられず、エッチングに対して同様も問題が生じる。
【0014】
このように黒色に着色したステンレス箔において、環境負荷を低減し、かつ、ステンレス箔がエッチング加工して使用される場合にエッチングに悪影響を与えない黒色ステンレス箔及びその製造方法は未だ見いだされていない。
【0015】
前記のような黒色ステンレス箔以外に、ステンレス箔を黒色に着色する方法として、上述の特許文献2の黒色顔料粒子分散の金属メッキを適用することが考えられる。いわゆる、普通鋼板の防食にも利用されている分散メッキと呼ばれる手法であるが、従来の光学用途や防食用途における分散メッキを利用してステンレス箔を黒色に着色しようとしても、ステンレス箔特有の用途である加工や繰り返し変形される携帯電話等の電子機器部材、中でもキートップ部材では、黒色顔料粒子や金属メッキ膜が剥がれるという問題がある。これは、光学用途や防食用途では欠陥やクラックのない緻密な金属メッキ膜とする必要があり、更に光学用途では結晶性も高くした緻密な金属メッキ膜とされているため、このような緻密な金属メッキ膜構造ではステンレス箔の加工や繰り返し変形に耐えられないからである。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、6価クロムイオンを使用せず、ステンレス箔がエッチング工程されて利用される場合にエッチングに悪影響を与えず、基材ステレス箔の加工や繰り返し変形でも着色層が剥がれない着色ステンレス箔とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者らは、上記課題を解決するために、次のことを見いだし、本発明に至った。黒色の被覆層を構成する元素として、ステンレス箔を構成する元素と同じ元素の中から鉄とニッケルを選択した。このようにすることでエッチャントへのステンレス箔成分以外の異種金属イオンの混入による悪影響を無くした。鉄とニッケルの元素の組み合わせの中でも、四酸化三鉄の粒子を黒色の発色剤とし、前記四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)とを組み合わせた被膜層を形成することによりステンレス箔に黒色表面を付与することを見いだした。更に、前記構成の被膜層にクラックによる隙間を設けることで、ステンレス箔の加工や繰り返し変形にも耐えうる密着性に優れた特性も有することを見出した。すなわち、本発明は以下の要旨とするものである。
(1)四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被膜層を有するステンレス箔であって、前記四酸化三鉄粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、前記被膜層がクラックを有することを特徴とする着色ステンレス箔。
(2)前記被膜層表面の面積Sと前記クラックによる隙間面積Sの和である総表面積(S+S)に対する前記被膜層表面の面積Sの比率を被覆率100×S/(S+S)として、前記被覆率100×S/(S+S)が50%以上100%未満であることを特徴とする(1)記載の着色ステンレス箔。
(3)前記被膜層の平均厚さが0.1〜100μmであることを特徴とする(1)記載の着色ステンレス箔。
(4)前記ステンレス箔の厚さが50〜400μmであることを特徴とする(1)記載の着色ステンレス箔。
(5)前記被膜層の上に、更に有機樹脂層を積層してなることを特徴とする(1)記載の着色ステンレス箔。
(6)前記有機樹脂層の厚さが10〜150μmであることを特徴とする(5)記載の着色ステンレス箔。
(7)前記有機樹脂層が、5〜50μmの厚さで極性をもつ官能基を有するエチレン共重合体からなる層Aと、該層Aの上に、ポリオレフィン系、ポリアミド系又はポリエステル系の熱可塑性樹脂で10〜100μmの厚さを有する層Bとからなることを特徴とする(6)記載の着色ステンレス箔。
(8)Niイオンと平均粒径0.1〜10μmの四酸化三鉄粒子を含む酸性水溶液中で、ステンレス箔を基材としてカソード電解して、前記ステンレス箔の表面に四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被膜層を形成すること特徴とする着色ステンレス箔の製造方法。
(9)Niイオンと平均粒径0.1〜10μmの四酸化三鉄粒子を含む酸性水溶液中で、ステンレス箔を基材としてカソード電解して、その後、前記ステンレス箔を支持電解質のみを含む水溶液でカソード電解して、前記ステンレス箔の表面に四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被膜層を形成すること特徴とする着色ステンレス箔の製造方法。
(10)ポリオレフィン系、ポリアミド系又はポリエステル系熱可塑性樹脂フィルムの表面に極性をもつ官能基を有するエチレン共重合体を融着し、前記融着したフィルムのエチレン共重合体面が前記ステンレス箔の被膜層に接するように積層して、100〜290℃で15MPaの圧力で連続熱圧着することを特徴とする(8)又は(9)に記載の着色ステンレス箔の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、6価クロムイオンを使用せず環境負荷を低減でき、かつ、エッチング工程への悪影響がない着色ステンレス箔とその製造方法を提供することができる。更に、着色層が密着性に優れているので、本発明の着色ステンレス箔は、加工や繰り返し変形等に対しても着色層が剥がれず色落ちし難いという効果を奏する。
【0019】
また、本発明の樹脂ラミネートした着色ステンレス箔は、携帯電話等の電子機器部材、中でもキートップ部材用として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0021】
発明者らが鋭意検討した結果、平均粒径が0.1〜10μmである四酸化三鉄の粒子を黒色の発色剤とし、前記四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)とを組み合わせてなる被膜層で、前記被膜層にクラックによる隙間を設けることで、ステンレス箔が加工されたり繰り返し変形されたりしても優れた密着性を有する着色被膜層にできることを見いだした。
【0022】
前記高密着性の機構については次のように推定している。四酸化三鉄粒子を含有した金属ニッケル層である被膜層が、連続体膜となってステンレス箔の表面を完全に覆っていると、ステンレス箔が加工されたり、ステンレス箔の変形が繰り返えされたりすると前記被膜にクラックが発生しやすく、発生したクラックが伝播しやすくなって、前記クラックの発生や伝播の衝撃で前記被膜が剥離する。しかしながら、前記被膜連続体膜となってステンレス箔の表面を完全に覆っているのではなく、クラックで一部が切断された被膜或いはクラックによって不連続体となった被膜(例えば、図1や図2)とすることで、ステンレス箔を加工や繰り返し変形させても、被膜切断部やクラックによる不連続部でクラックの伝搬が止まったり新たなクラックの発生が起きなかったりするために、前記被膜層が剥離し難くなる。また、前記被膜層に隙間を形成するクラックは、被膜表面から観察できるものでよく、前記被膜厚み方向にステンレス箔基材まで達していてもよいし、膜厚途中で止まっていてもよい。さらに、上層に樹脂層を施す場合は、クラックによる隙間やクラックで不連続体となった隙間によるアンカー効果等によって樹脂層との高い密着性も発現する。
【0023】
更に、四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)とを組み合わせてなる被膜層の表面の面積Sfと前記クラックによる隙間面積Scの和である総表面積(Sf+Sc)に対する前記被膜層表面の面積Sfの比率を被覆率100×Sf/(Sf+Sc)として、前記被覆率100×Sf/(Sf+Sc)が50%以上100%未満であることが好ましい。50%未満の場合、黒色の度合いが不十分となったり、ステンレス箔表面の黒色に濃淡等のムラが生じたりする場合がある。100%の場合、上述のように、ステンレス箔の加工や繰り返し変形によって、前記被膜層にクラックが発生したり、クラックの伝搬が続いたりすることが原因して被膜層が剥離する。前記被覆率は、更に好ましくは、70〜95%である。ここで、前記被膜層の表面の面積Sf及び前記クラックによる隙間面積Scとは、走査型電子顕微鏡(SEM)で、前記被膜層の表面を膜上部から観察して又は写真にして(例えば、図2)計測する100μm×100μmの領域におけるそれぞれの面積であり、前記値から被覆率100×Sf/(Sf+Sc)を算出する。ここで、前記総面積は、(Sf+Sc)=100μm×100μmとなる。本発明の被覆率は、50箇所の100μm×100μmの計測から得られる値を平均したものである。
【0024】
四酸化三鉄(Fe3O4、酸化鉄(II)、Fe2+:Fe3+=1:2)の粒子の平均粒径は、0.1〜10μmである。平均粒径が0.1μm未満の粒子では、粒子の凝集が起こり、黒色の度合いが悪くなる。また、粒子製造にコストがかかるため不向きである。一方、平均粒径が10μmを越えると、粒子が強固に固定化されず、繰り返し変形等で粒子が脱落する。また、上層に樹脂層を施す場合に前記樹脂層との密着性が低下する。前記平均粒径は、更に好ましくは、1〜5μmである。また、エッチャントへのステンレス箔成分以外の異種金属イオンの混入を防止するということを考慮しなければ、特許文献2のようなカーボンブラックや有機顔料の粒子の使用も考えられるが、金属ニッケルより硬い四酸化三鉄粒子を分散する方が、ステンレス箔が加工や繰り返し変形される際に粒子の摩耗や脱落が起こりにくい。
また、二酸化マンガン等の使用も考えられるが、特に金属ニッケルと組み合わせてカソード電解で被膜層を形成する場合には、後述のようにPZC(零電荷点)が約7である四酸化三鉄粒子の方が、PZCが約4である二酸化マンガン粒子よりも酸性の電解浴中でより大きく正に帯電しているので金属ニッケルと同時に効率的析出させられる。その結果、図1や図2のようなクラックも形成しやすくなる。
【0025】
四酸化三鉄粒子と金属ニッケルとを組み合わせてなる被膜層に含まれる四酸化三鉄粒子の含有量は、0.6質量%〜28質量%が好ましい。0.6質量%未満では、黒色の度合いが十分でない場合がある。一方、28質量%を越えると、ステンレス箔基材との接着を確保する金属ニッケルの割合が減るので被膜層の密着性が低下する場合がある。更に好ましい四酸化三鉄粒子の含有量は、3.0質量%〜12.7質量%である。
【0026】
四酸化三鉄粒子と金属ニッケルとを組み合わせてなる被膜層の平均厚さは、0.1〜100μmが好ましい。0.1μm未満の場合、前記被膜層の密着性と黒色の度合いが両立しない場合がある。100μmを越えると、特性には問題ないが、製造にコストがかかり現実的ではない場合がある。ここで、平均厚さとは被膜部分の任意十箇所を1000〜20万倍程度で断面観察して膜厚を実測し平均値を算出した。前記被膜層の平均厚さは、更に好ましくは、1〜50μmである。
【0027】
本発明で使用するステンレス箔の厚さは、50〜400μmが好ましい。50μm未満では、例えばキートップ部材として使用する場合に剛性が足りず、変形して使用できない場合がある。400μm超では、例えばキートップ部材として使用する場合に剛性が大きく使用できない場合がある。
【0028】
ステンレス箔としては特に限定しないが、オーステナイト系、フェライト系及びマルテンサイト系ステンレス箔が挙げられる。具体的には、例えば、SUS304、316、301、430、410等である。また、ステンレスの表面は鏡面仕上げ、つや消し仕上げ、ヘアライン仕上げ等が施されていてもよい。また、ステンレス箔の熱処理として光輝焼鈍、テンションアニール等の焼鈍や急冷されていてもよい。
【0029】
ステンレス箔の表面に、四酸化三鉄粒子と金属ニッケルとを組み合わせてなる被膜層を形成する手法としては特に限定されないが、Niイオンと平均粒径0.1〜10μmの四酸化三鉄粒子を含む酸性水溶液中で、ステンレス箔を基材としてカソード電解して、前記ステンレス箔の表面に四酸化三鉄粒子とニッケル(Ni)からなる被膜層を形成する方法が挙げられる。四酸化三鉄のPZC(零電荷点)は約7であり、酸性水溶液中では四酸化三鉄の粒子表面が正に帯電する。したがって、四酸化三鉄粒子は、電気Niめっきと同じカソード(陰極)上に析出し、四酸化三鉄粒子と金属ニッケルとからなる被膜層がステンレス箔表面に形成さらる。Niイオンと平均粒径0.1〜10μmの四酸化三鉄粒子を含む酸性水溶液となる処理液を構成する成分は、ニッケルイオン源、アノード溶解剤、pH緩衝剤、光沢剤等の添加剤からなる。ニッケルイオン源は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケルが使用できる。塩化ニッケルは、アノード溶解剤としても添加する場合がある。pH緩衝剤は、ホウ酸、蟻酸ニッケル、酢酸ニッケル等を使用する。添加剤は、本発明の効果を妨げないものであり、例えば市販の光沢剤を目的に応じて添加できる。通常は、処理液温度は常温〜80℃の範囲で、pHは7未満の酸性とし、電流密度は1〜300mA/cm2の範囲であるが、処理液組成によって良好な範囲が異なるため、適宜、選択し最適化すればよい。また、処理液を攪拌しながらカソード電解してもよい。膜厚は、例えば、1m秒〜1時間の電解時間で調整できる。本発明の四酸化三鉄粒子と金属ニッケルとを組み合わせてなる被膜層の被覆率を100%未満にする、すなわち、クラックで隙間を形成した構造にするためには、前記条件を制御すれば可能である。金属ニッケルだけの析出ではクラックを形成するのが難しいが、特に、電流密度を高くして四酸化三鉄粒子を金属ニッケルと同時に共析させる条件すれば、前記構造を形成し易くなる。このように通常のめっき処理と類似の方法であるため、roll to rollの設備を用いることにより、連続的に黒色被膜を形成することができるという特徴を有する。
また、四酸化三鉄粒子と金属ニッケルと組み合わせてカソード電解で被膜層をステンレス箔に形成した後、更に、前記ステンレス箔を支持電解質のみを含む水溶液でカソード電解することにより、表層部分だけの四酸化三鉄粒子含有量を減少させて変化させることができる、すなわち四酸化三鉄粒子の濃度傾斜型被膜の形成が可能となる。このような被膜表面の四酸化三鉄粒子含有量の制御によって、着色ステンレス箔の黒色度合いの制御を容易に行うことができる。ここで、支持電解質とは、水に対する溶解度が高く、酸化・還元を受けずに広電位範囲で安定であり、電極反応に悪影響を及ぼさないものであればよい。具体的には、Niイオン源と四酸化三鉄粒子は含まないで、MX、MClO4、R4NX、M2SO4(M=Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、NH4+、X=Cl-、Br-、I-、R=CH3、C2H5、C3H7、C4H9など)などを電解質とする水溶液であるが、任意にpH緩衝剤、などは添加することはできる。前記支持電解質の水溶液の濃度は、0.01M〜2.0Mである。0.01M未満では被膜表面の四酸化三鉄粒子含有量制御を十分に行えない場合がある。また、2.0M超では効果が飽和するため経済的ではない。特に好ましくは、0.05M〜1.3Mである。カソード電解の条件に関し、通常は、支持電解質のみを含む水溶液の温度は常温〜80℃の範囲で、電流密度は1〜300mA/cm2の範囲である。カソード電解時間は、1m秒〜1時間の電解時間で調整できる。
【0030】
四酸化三鉄粒子と金属ニッケルとを組み合わせてなる被膜層の上層に形成する有機樹脂層は、透光性を有せばよく、特に限定されない。また、前記有機樹脂層の厚さは10〜150μmが好ましい。10μm未満では、例えばステンレス箔をエッチング加工して使用する場合、エッチングされて有機樹脂層のみになった部分の強度が不十分となる場合がある。また、150μm超では、例えばキートップ部材として使用してステンレス箔をキーとして変形させる場合に、その変形能が劣って使用できない場合がある。前記有機樹脂層の厚さは、更に好ましくは、20〜100μmである。前記有機樹脂層としては、例えば、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。中でも、好ましくは、ポリオレフィン系、ポリアミド系又はポリエステル系の熱可塑性樹脂である。中でも、携帯電話等の電子機器部材でステンレス箔がエッチングされて使用する場合には、ポリオレフィン系、ポリアミド系、又はポリエステル系の熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、キートップ部材として、その製造時のレジストを除去するために強アルカリ性の現像液に曝され、更にステンレス箔をエッチングするために酸性のエッチング液に曝される化学的に過酷な条件下でも、耐久性を有し、精密裁断が可能であり、加工性に優れるという点で、前記熱可塑性樹脂が好ましい。また、使用過程において、繰り返し変形を加えられても変質しない耐久性を有するという点でも前記樹脂が使用される。
【0031】
前記ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂とは、下記一般式(I)の繰り返し単位を有する樹脂を主成分にし、かつ極性を持つ官能基を含有する樹脂である。主成分とは、式(I)の繰り返し単位を有する樹脂が、50質量%以上で構成することである。
【0032】
-CR1H-CR2R3- (I)
(式中、R1、R2は各々独立に炭素数1〜12のアルキル基または水素を、R3は炭素数1〜12のアルキル基、アリール基又は水素を示す。)
前記ポリオレフィン系樹脂は、これらの構成単位の単独重合体でも、2種類以上の共重合体であってもよい。繰り返し単位は、5個以上化学的に結合していることが好ましい。5個未満では高分子として効果が得られない場合がある。繰り返し単位を例示すると、プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1ペンテン、1-ヘキセン、1−オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の末端オレフィンを付加重合した時に現われる繰り返し単位、イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィンや、スチレンモノマーの他に、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、o-エチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン、末端メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。例示すると、末端オレフィンの単独重合体である低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリへキセン、ポリオクテニレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン等が挙げられる。上記単位の共重合体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ヘキサジエン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボ-ネン共重合体等の脂肪族ポリオレフィンや、スチレン系共重合体等の芳香族ポリオレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記の繰り返し単位を満足していればよい。また、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。また、これらの樹脂は単独もしくは2種類以上混合して使用してもよい。
【0033】
取扱性、汎用性から更に好ましいのは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはこれらの2種類以上の混合物である。
【0034】
前記ポリアミド系の熱可塑性樹脂とは、脂肪族系ポリアミド樹脂であり、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、キシレン基含有ポリアミドのような芳香族ポリアミド樹脂およびそれらの変性物またはそれらの混合物等があげられる。具体的に例示すると、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン4・6が挙げられる。
【0035】
前記ポリエステル系の熱可塑性樹脂とは、ヒドロキシカルボン酸化合物残基のみを、ジカルボン酸残基とジオール化合物残基を、あるいは、ヒドロキシカルボン酸化合物残基とジカルボン酸残基とジオール化合物残基とを、それぞれ構成ユニットとする熱可塑性ポリエステル樹脂である。また、前記熱可塑性ポリエステル樹脂の混合物であっても良い。ヒドロキシカルボン酸化合物残基の原料となるヒドロキシカルボン酸化合物を例示すると、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシエチル安息香酸、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(4'-カルボキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。また、ジカルボン酸残基を形成するジカルボン酸化合物を例示すると、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びアジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。次に、ジオール残基を形成するジオール化合物を例示すると、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、o-ヒドロキシフェニル-p-ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4'-ビフェノール、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジヒドロキシビフェニル、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール及びエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、水添ビスフェノールA等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等が挙げられ、これらは単独で使用することも、また、2種類以上を混合して使用することもできる。また、これらから得られるポリエステル樹脂を単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても良い。
【0036】
前記ポリエステル樹脂は、中でも芳香族ジカルボン酸残基とジオール残基より構成される芳香族ポリエステル樹脂であることが、加工性、熱的安定性の観点から好ましい。また、前記ポリエステル樹脂は、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される構成単位を少量、例えば2mol%以下の量を含んでいても良い。耐熱性や加工性の面から、これらのジカルボン酸化合物、ジオール化合物の組合せの中で最も好ましい組合せは、テレフタル酸50〜100mol%、イソフタル酸及び/又はオルソフタル酸0〜50mol%のジカルボン酸化合物と、炭素数2〜5のグリコールのジオール化合物との組合せである。より好ましいポリエステル樹脂を例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレートなどが挙げられるが、中でもポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレートである。ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレン-2,6-ナフタレートでは、延伸フィルムがより好ましく、二軸延伸フィルムが更に好ましい。これらが好ましい理由として、無延伸フィルムと比較して高弾性率で、かつ塑性変形が小さいことが挙げられる。
【0037】
更に、前記有機樹脂層が、5〜50μmの厚さで極性をもつ官能基を有するエチレン共重合体からなる層Aと、該層Aの上に、ポリオレフィン系、ポリアミド系又はポリエステル系の熱可塑性樹脂で10〜100μmの厚さを有する層Bとからなるのがより好ましい。前記のように有機樹脂層を構成すると、黒色に着色したステンレス箔と有機樹脂層との密着性がより高くなる。特に、ステンレス箔が繰り返し変形される用途、例えば、携帯電話等のキートップ部材では、層Aの剛性率<層Bの剛性率とすることが好ましい。例えば、層Aの曲げ剛性率をGaとし、層Bの引張弾性率をEbとして、Ga<(Eb/3)することである。剛性率Gは弾性率Eと、 G=E/(2+2・ν) (ここで、νはポアッソン比を示す)の関係で示される。理想的変形とすれば、ν=0.5になるので、擬似剛性率G‘=E/3と考えることができる。層Bの剛性率は、材質上、フィルム成形の条件により弾性率が異なることから、フィルム成形後に測定できる引張弾性率Ebから前記擬似剛性率(Eb/3)を算出して用いる。層Aは、層Bのような制約がなく、ステンレス箔の変形に合った曲げ剛性Gbを直接用いるのが適している。したがって、層Aの剛性率<層Bの剛性率の関係を、Ga<(Eb/3)で比較することで、層Aの剛性率<層Bの剛性率の関係を判断できる。
【0038】
前記層Aの厚さが、5μm〜50μmの範囲で、層Aの低剛性率による繰り返し変形の耐久性が高くなる。5μm未満では、応力がかかって変形すると、層Aも中間層として変形するがその変形量が少ないために弾性率(あるいは、擬剛性率)の大きく硬い層Bも大きく変形することになり、結果として有機樹脂層に亀裂が形成されやすくなり、実際の使用に耐えられない場合がある。一方、50μmの膜厚を越えると、十分な変形ができ、応力の緩和も満足できるが、層Aのクリープ変形の影響が大きくなる場合がある。層Aは、より好ましくは、5μm〜30μmの厚さである。
【0039】
前記層Aの曲げ剛性率Gaは、50MPa〜100MPaである方が好ましい。50MPa未満では、キートップ部材として使用した場合、キーとして押す力よりも弱い応力で層Aが変形する場合がある。一方、100MPaを越えると、キートップ部材として使用した場合、層Aがキーとして押す力程度の応力では変形し難くなる場合がある。
【0040】
前記層Aを構成するエチレン共重合体に含まれる極性を有する官能基は、0.5質量%以上10質量%以下である方が好ましい。0.5質量%未満では、ステンレス箔をエッチングして使用する場合に、レジスト現像液及びステンレス箔エッチング液に曝され後の密着性が小さい場合がある。一方、10質量%を越えると、層Aが脆化して樹脂特有の柔軟性が低下したり、層Aと層Bの界面の密着性が低下したりする場合がある。本発明でいう極性をもつ官能基とは、官能基を構成する元素間の、ポーリングの電気陰性度の差が0.5(eV)0.5以上である異なる元素を含むものである。例示すると、-C-O-、-C=O、-COO-、エポキシ基、-CN、-NH2、-NH-、-SO3- 等が挙げられる。また、極性を有する官能基として金属イオンで中和されたアニオン性官能基も前記ポーリングの電気陰性度の差が0.5(eV)0.5以上である異なる元素を含むものである。この場合、金属イオンの例としてはNa+、K+、 Li +、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Mn2+、Al3+、 Y3+等の1価、2 価または3 価の金属陽イオンが挙げられる。極性基を有するユニットを例示すると、-C-O- 基を有する例としてビニルアルコール、-C=O基を有する例としてビニルクロロメチルケトン、-COO- 基を有する例としてアクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル酸及びその金属塩若しくはエステル誘導体、エポキシ基を有する例としてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル等のα, β- 不飽和酸のグリシジルエステル、-CN 基を有する例としてアクリロニトリル、-NH2 基を有する例としてアクリルアミン、-NH-基を有する例としてアクリルアミド、-SO3- 基を有する例としてスチレンスルホン酸、等が挙げられ、またこれらの酸性官能基の全部または一部が上記の金属イオンで中和された化合物が挙げられる。
【0041】
本発明に使用する極性をもつ官能基を有するビニル重合体を例示すると、上記の極性をもつ官能基を有するビニル系ユニットと下記一般式(II)で示される無極性ビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0042】
CR4H=CR5R6 (II)
(式中、R4 、R5 は各々独立に炭素数1 〜12のアルキル基若しくは水素を、R6 は炭素数1 〜12のアルキル基、フェニル基若しくは水素を示す。)
一般式(II)の無極性ビニルモノマーを具体的に示すと、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1- ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等のα- オレフィン、イソブテン、イソブチレン等の脂肪族ビニルモノマー、スチレンモノマーの他にo-、m-、p-メチルスチレン、o-、m-、p- エチルスチレン、t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマーの付加重合体単位等の芳香族ビニルモノマー等が挙げられる。極性をもつ官能基を有するビニル系ユニットと無極性ビニルモノマーとの共重合体を例示すると、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン- 酢酸ビニル共重合体及びこれらの共重合体中の酸性官能基の一部若しくは全部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレン- アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、ブテン- エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等及びそれらの酸性官能基のすべて、または一部が金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂類が挙げられる。アイオノマー樹脂としては、公知のアイオノマー樹脂を広く使用することができる。具体的には、ビニルモノマーとα, β- 不飽和カルボン酸との共重合体で共重合体中のカルボン酸の一部若しくは全部を金属陽イオンにより中和したものである。ビニルモノマーを例示すると、上記のα- オレフィンやスチレン系モノマー等であり、α, β- 不飽和カルボン酸を例示すると炭素数3 〜8 のα, β- 不飽和カルボン酸でより具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル等が挙げられる。金属陽イオンで中和されていない残余の酸性官能基の一部は低級アルコールでエステル化されていても良い。アイオノマー樹脂を具体的に例示すると、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸との共重合体、あるいはエチレンとマレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸との共重合体であって、共重合体中のカルボキシル基の一部若しくは全部がナトリウム、カリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等の金属イオンで中和された樹脂が挙げられる。
【0043】
前記層Bは、上述のように、10μm〜100μmの厚さが好ましい。10μm未満の厚さでは、例えばステンレス箔をエッチング加工して使用する場合、エッチングされて有機樹脂層のみになった部分の強度が不十分となる場合がある。一方、100μmを越える厚さになると、例えばキートップ部材として使用してステンレス箔をキーとして変形させる場合に、その変形能が劣って使用できない場合がある。
【0044】
黒色に着色したステンレス箔の表面に有機樹脂層を積層した着色ステンレス箔の製造方法は特に限定されないが、例えば、(1)樹脂組成物をTダイス付きの押し出し機で溶融混練してフィルム状にし、押し出し直後にステンレス箔に熱圧着する方法。この場合、複数層の同時押出しでも構わない。(2)事前に押し出しもしくは成形したシート又はフィルムを熱圧着、もしくは接着剤等を使用して圧着する方法。この場合、1軸もしくは2軸方向延伸しても、複数層に積層しておいてもよい。(3)樹脂組成物を溶融してバーコーターやロールでコーティングする方法。(4)溶融した樹脂組成物にステンレス箔を漬ける方法。(5)樹脂組成物を溶媒に溶解してロールコートやスピンコートする方法等により、ステンレス箔に積層することが可能である。中でも、作業能率からステンレス箔への積層する方法として好ましいのは、上記(1)及び(2)の方法である。さらに好ましくは、Niイオンと平均粒径0.1〜10μmの四酸化三鉄粒子を含む酸性水溶液中で、ステンレス箔を基材としてカソード電解して、四酸化三鉄粒子とニッケル(Ni)からなる被膜層を形成したステンレス箔の表面に、極性をもつ官能基を有するエチレン共重合体を表面に融着した、ポリオレフィン系、ポリアミド系又はポリエステル系熱可塑性樹脂フィルムを、100〜290℃で1〜5MPaの圧力で連続熱圧着する方法である。前記連続熱圧着の温度は、100℃〜290℃が好ましい。100℃未満では、十分な密着性が得られない場合がある。一方、290℃を越えるとステンレス箔の表面の酸化が進み着色層が剥がれる場合がある。より好ましくは100℃〜250℃である。前記連続熱圧着の圧力は、0.1MPa〜5MPaが好ましい。0.1MPa未満では、十分な密着性が得られない場合がある。一方、5MPaを越えると連続熱圧着装置の加圧機構が複雑になり、製造コストが見合わない場合がある。
また、連続熱圧着の場合、通常、圧着時間は1秒以下である。
【実施例】
【0045】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例にのみに限定されるものではない。本実施例及び比較例に使用するステンレス箔は、厚み40μm、150μm、300μmの新日鐵マテリアルズ(株)製SUS304を使用した。
【0046】
四酸化三鉄粒子と金属ニッケルとを組み合わせてなる被膜層を形成する処理液は、硫酸ニッケル6水和物240g/L、塩化ニッケル6水和物45g/L、ほう酸35g/L、四酸化三鉄子(平均粒径0.1、1、5、10μm)5〜100g/Lでそれぞれ調製した。電解条件は、10〜100mA/cm2で循環セルを用いてカソード電解により被膜を形成した。なお、所定の膜厚になるように電解時間を調整した。このようにして作製した黒色ステンレス箔を以下に示す試験に供した。
【0047】
(a)被膜の状態と被覆率
SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて表面観察をし、前記被膜層のクラックの有無を評価した。さらに、前記被膜上部から被膜表面のSEM写真を撮り、前記写真の100μm×100μmの領域における被膜層表面の面積Sf及びクラックによる隙間面積Scを計測し、前記被膜層表面の面積Sfの比率100×Sf/(Sf+Sc)を計算した。前記計測と計算を50箇所で行い、平均した値を被覆率とした。
【0048】
(b)黒色の度合い
分光測色計(ミノルタ製、CM-2500d)を用いてL*(正反射光除去)を測定し、45未満を黒色と判定して○とし、45-48を△とし、48超を×とした。
【0049】
(c)繰り返し変形耐久性評価試験
曲率半径4mmの合成ゴム(ショア硬度Hs5)製の打鍵治具を用い、4回/秒の周期、3.2Nの荷重で、前記被膜層を有するステンレス箔に両側からの打鍵を100万回繰り返した。この打鍵試験後、前記被膜層の剥離の有無を目視及び顕微鏡観察により確認した。評価結果を、○:剥離なし、△:0.5mm2以下の剥離あり、×:0.5mm2より大きい剥離ありとした。
【0050】
表1に被膜層形成条件と評価結果を示した。No.1、3〜25のいずれの実施例においても、黒色の度合いが良好で、ステンレス箔の繰り返し変形に対しても密着性の優れた着色被膜層を有する黒色ステンレス箔が得られている。No.8は、ステンレス箔は薄いために基材が変形したが、被膜層は密着していた。比較例No.2のように四酸化三鉄粒子の粒径が小さすぎると、粒子が凝集して黒色の度合いが悪くなった。また、比較例No.26のように四酸化三鉄粒子の粒径が大きくなりすぎると、金属ニッケルによる粒子の固着が悪くなり、ステンレス箔の繰り返し変形によって粒子の脱落が見られた。更に、比較例No.27のように、被覆率が100%で完全にステンレス箔を覆ってクラック等が無いサンプルでは、ステンレス箔の繰り返し変形後、金属ニッケルの被膜層に剥離が見られた。
【0051】
【表1】

【0052】
また、表1のNo.2、3、27の黒色ステンレス箔の上に、有機樹脂層を形成し、各種試験に供した。表2に有機樹脂層形成条件と評価結果を示した。層Aには表2のNo.L-1〜L-11、及びNo.L-21〜L-22では三井デュポンポリケミカル(株)製ニュクレルAN4228Cを使用しNo.L-12ではニュクレルAN4214C、No.L-13ではニュクレルN410、No.L-14ではニュレルN035C、No.L-15ではニュクレルAN4213C、No.L-18ではニュクレルAN42115C、No.L-20ではニュクレルN1525を使用した。また、表2のNo.L-16では日本ポリエチ(株)製ノバテックHDHB330を層Aに使用した。窒素流通下、セパラブルフラスコにキシレンを満たし、そこにノバテックHDHB330と無水マレイン酸を質量比99.4:0.6の割合でドライブレンドしたものを入れた。キシレンと無水マレイン酸は特級試薬を用いた。常温にて30分攪拌したのち、120℃に昇温した。次に、キシレンに溶かした化薬アクゾ(株)製カヤヘキサAD50Cを数滴滴下し、さらに4時間攪拌した。この溶液を100℃に冷却してアセトン中に流し込み、かき混ぜ後、ろ過乾燥して樹脂を得た。さらに当該樹脂をアセトンで十分に抽出して未反応の無水マレイン酸を除去し、これを表2のNo.L-17の層Aに使用した。さらにノバテックHDHB330と無水マレイン酸の仕込み質量比を99.8:0.2として同様の手順で作製した樹脂を表2のNo.L-19の層Aに使用した。これらにおける極性を持つ官能基は、無水マレイン酸基もしくはカルボン酸基であるため、水酸化ナトリウムによる酸塩基中和適定により、当該官能基の含有量を測定した。層Bは、表2のNo.L-1、No.L-8〜L-11、及びNo.L-13〜L-20では二軸延伸PETフィルムのユニチカ(株)製エンブレットPETを使用し、No.L-2では延伸ナイロンフィルムのユニチカ(株)製エンブレムONを使用し、No.L-3では延伸PPフィルムの東洋紡(株)製パイレンフィルム-OT-P2111を使用した。層Bとして、表2のNo.L-12ではナイロンの宇部興産(株)製UBEナイロン5033FDX57を使用し、No.L-21では強化ナイロンの三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ノバミッド3021G30を使用し、それぞれ300℃、1MPaでホットプレスして、厚み30μmのシートを作製し、これを使用した。表2のNo.L-4〜L-7、及びNo.L-22では、PET樹脂のユニチカ(株)製MA1346を280℃の押出し温度でTダイスを装着した押出し成形機にてフィルム形状(幅300mm、厚み25μm)に無延伸成形し、これを使用した。層A、層Bの各樹脂組成物の引張り弾性率EbはJIS K7127、曲げ剛性率GaはJIS K7106により測定した。表2のNo.L-1〜L-11、No.L-13〜L-20、No.L-22は、Tダイスを装着した押出し成形機にて、層Aの樹脂を150℃で層Bのフィルムへ溶融押出しして積層フィルムを作製し、これを使用した。No.L-12、No.L-21は層Aの樹脂を層Bのシートと150℃でホットプレスして、積層シートを作製し、これを使用した。これらの積層フィルム及びシートのラミネート条件は200℃、1MPaで行った。また、No.L−23は、表1の黒色ステンレス箔No.2を使用して、No.L-1と同じ有機樹脂フィルムを同条件で有機樹脂層を形成した。No.L-24は、表1の黒色ステンレス箔No.27を使用して、No.L-1と同じ有機樹脂フィルムを同条件で有機樹脂層を形成した。No.L-25は、表1の黒色ステンレス箔No.3を使用して、25μm厚さのポリイミドフィルム(鐘淵化学工業(株)製アピカル)の片面に接着性ポリイミドが塗布されたポリイミドフィルムを200℃、1MPaでラミネートした。No.L-26は、表1の黒色ステンレス箔No.3を使用して、25μm厚さの二軸延伸PETフィルム(ユニチカ(株)製エンブレットPET)を200℃、1MPaでラミネートした。
【0053】
(d) 有機樹脂層の密着強度評価試験
前記樹脂をラミネートした着色ステンレス箔を10mm×120mmに切り出し、ラミネート樹脂の密着強度をピール試験(23℃、180°ピール:JIS K6854-2と同形式、引張り速度20mm/min)で測定した。密着性の評価結果を、○:12N/cm以上、△:6N/cm以上12N/cm未満、×:6N/cm未満として表2に示している。
【0054】
(e) 有機樹脂層の耐レジスト除去・エッチング工程耐久性評価試験
前記樹脂ラミネートした着色ステンレス箔をパターンエッチングした。パターンを形成するために、ノボラック系樹脂と感光剤及び溶媒から成るフォトレジストを用いた。フォトマスクを通して、波長465nmの紫外線を露光し、露光された部分のフォトレジストを劣化させることによりマスクパターンを転写した。強アルカリの水酸化ナトリウム水溶液で露光部のフォトレジストを除去した後、塩化鉄第二水溶液を用いて、フォトレジストが除去されている部位のステンレス箔を除去、エッチングした。最後に、残ったフォトレジストに紫外線を照射、水酸化ナトリウム水溶液により除去した。このようにしてエッチングした後の樹脂ラミネートステンレス箔を目視及び実体顕微鏡で観察し、ラミネートフィルムの剥離の有無を確認した。評価結果を、○:端部剥離等なく良好に密着、×:端部剥離等フィルムの剥離ありとして、表2に示している。
【0055】
(f) 有機樹脂層の繰り返し変形に対する耐久性評価試験
曲率半径4mmの合成ゴム(ショア硬度Hs5)製の打鍵治具を用い、4回/秒の周期、3.2Nの荷重で、前記樹脂をラミネートした着色ステンレス箔のラミネートフィルム側からの打鍵を繰り返し100万回行った。この打鍵試験後、ステンレス箔にラミネートした有機樹脂層の変形、変質、亀裂、剥離の有無を目視観察により確認した。評価結果を、○:変形、変質、亀裂、剥離なし、△:0.5mm以下の変形、変質、亀裂、剥離あり、×:0.5mmより大きい変形、変質、亀裂、剥離ありとして、表2に示している。
【0056】
表2に有機樹脂層を更に積層した着色ステンレス箔の形成条件と評価結果を示した。No.L-1〜L-22及びNo.L-25〜L-26の実施例においては、有機樹脂層を施しても黒色の度合い、及び、四酸化三鉄粒子と金属ニッケルからなる被膜層の繰り返し変形に対する耐久性は良好であり、特に、No.L-1〜L-3、No.L-6〜L-7、No.L-10〜L-11、No.L-13〜L-15、No.L-17〜L-22は、積層した有機樹脂層も耐レジスト性や繰り返し変形にも優れるので携帯電話等のキートップ部材への用途に適用できるものであった。比較例No.L-23〜L-24は、使用した黒色ステンレス箔被膜層の黒色の度合い又は繰り返し変形に対する被膜の耐久性が不十分であるので、有機樹脂層を積層しても同様に不十分なものとなった。
表3には、平均粒径1μmの四酸化三鉄粒子100g/Lを含む処理液中でステンレス箔(150μm厚)をカソード電解して被膜(10μm厚)を形成後、前記カソード電解したステンレス箔を支持電解質のみを含む水溶液中でカソード電解することにより得られた被膜の評価結果を示した。いずれの水準も繰り返し変形による耐久性は十分であった。さらに、No.N-2〜6及びN-8〜12では、電解条件により黒色度合い(L*値)が制御できることも確認された。ここで、前記黒色度合い(L*値)は、分光測色計を用いて測定した。
また、表3のNo.N-3、N-11の黒色ステンレス箔の上に、有機樹脂層を形成し、各種試験に供した。表4に有機樹脂層形成条件と評価結果を示した。評価方法は、上述と同様に行った。層Aには表4のNo.L-26〜L-36、及びNo.L-46〜L-47では三井デュポンポリケミカル(株)製ニュクレルAN4228Cを使用しNo.L-37ではニュクレルAN4214C、No.L-38ではニュクレルN410、No.L-39ではニュレルN035C、No.L-40ではニュクレルAN4213C、No.L-43ではニュクレルAN42115C、No.L-45ではニュクレルN1525を使用した。また、表4のNo.L-41では日本ポリエチ(株)製ノバテックHDHB330を層Aに使用した。No.L-42の層Aには、表2のNo.L-17の層Aと同じ樹脂を使用した。No.L-44の層Aには、表2のNo.L-19の層Aと同じ樹脂を使用した。これらにおける極性を持つ官能基は、無水マレイン酸基もしくはカルボン酸基であるため、水酸化ナトリウムによる酸塩基中和適定により、当該官能基の含有量を測定した。層Bは、表4のNo.L-26、No.L-33〜L-36、及びNo.L-38〜L-45では二軸延伸PETフィルムのユニチカ(株)製エンブレットPETを使用し、No.L-27では延伸ナイロンフィルムのユニチカ(株)製エンブレムONを使用し、No.L-28では延伸PPフィルムの東洋紡(株)製パイレンフィルム-OT-P2111を使用した。層Bとして、表4のNo.L-37ではナイロンの宇部興産(株)製UBEナイロン5033FDX57を使用し、No.L-46では強化ナイロンの三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ノバミッド3021G30を使用し、それぞれ300℃、1MPaでホットプレスして、厚み30μmのシートを作製し、これを使用した。表4のNo.L-29〜L-32、及びNo.L-47では、PET樹脂のユニチカ(株)製MA1346を280℃の押出し温度でTダイスを装着した押出し成形機にてフィルム形状(幅300mm、厚み25μm)に無延伸成形し、これを使用した。層A、層Bの各樹脂組成物の引張り弾性率EbはJIS K7127、曲げ剛性率GaはJIS K7106により測定した。表4のNo.L-26〜L-36、No.L-38〜L-45、No.L-47は、Tダイスを装着した押出し成形機にて、層Aの樹脂を150℃で層Bのフィルムへ溶融押出しして積層フィルムを作製し、これを使用した。No.L-37、No.L-46は層Aの樹脂を層Bのシートと150℃でホットプレスして、積層シートを作製し、これを使用した。これらの積層フィルム及びシートのラミネート条件は200℃、1MPaで行った。No.L-48は、25μm厚さのポリイミドフィルム(鐘淵化学工業(株)製アピカル)の片面に接着性ポリイミドが塗布されたポリイミドフィルムを200℃、1MPaでラミネートした。No.L-49は、25μm厚さの二軸延伸PETフィルム(ユニチカ(株)製エンブレットPET)を200℃、1MPaでラミネートした。
表4に示したように、有機樹脂層を施しても黒色の度合い、及び、四酸化三鉄粒子と金属ニッケルからなる被膜層の繰り返し変形に対する耐久性は良好であった。
【0057】
以上のように、本発明は6価クロムイオンを使用せず、かつ、エッチング工程への悪影響がなく、密着性等の優れた特性を有する黒色ステンレス箔と、その上層に有機樹脂層を有する黒色ステンレス箔、さらにはキートップ部材としても適用できる樹脂ラミネート黒色ステンレス箔が得られた。
【0058】
【表2】

【表3】

【表4】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被覆層の断面写真。
【図2】本発明の四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被覆層の表面写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被膜層を有するステンレス箔であって、前記四酸化三鉄粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、前記被膜層がクラックを有することを特徴とする着色ステンレス箔。
【請求項2】
前記被膜層表面の面積Sfと前記クラックによる隙間面積Scの和である総表面積(Sf+Sc)に対する前記被膜層表面の面積Sfの比率を被覆率100×Sf/(Sf+Sc)として、前記被覆率100×Sf/(Sf+Sc)が50%以上100%未満であることを特徴とする請求項1記載の着色ステンレス箔。
【請求項3】
前記被膜層の平均厚さが0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1記載の着色ステンレス箔。
【請求項4】
前記ステンレス箔の厚さが50〜400μmであることを特徴とする請求項1記載の着色ステンレス箔。
【請求項5】
前記被膜層の上に、更に有機樹脂層を積層してなることを特徴とする請求項1記載の着色ステンレス箔。
【請求項6】
前記有機樹脂層の厚さが10〜150μmであることを特徴とする請求項5記載の着色ステンレス箔。
【請求項7】
前記有機樹脂層が、5〜50μmの厚さで極性をもつ官能基を有するエチレン共重合体からなる層Aと、該層Aの上に、ポリオレフィン系、ポリアミド系又はポリエステル系の熱可塑性樹脂で10〜100μmの厚さを有する層Bとからなることを特徴とする請求項6記載の着色ステンレス箔。
【請求項8】
Niイオンと平均粒径0.1〜10μmの四酸化三鉄粒子を含む酸性水溶液中で、ステンレス箔を基材としてカソード電解して、前記ステンレス箔の表面に四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被膜層を形成すること特徴とする着色ステンレス箔の製造方法。
【請求項9】
Niイオンと平均粒径0.1〜10μmの四酸化三鉄粒子を含む酸性水溶液中で、ステンレス箔を基材としてカソード電解して、その後、前記ステンレス箔を支持電解質のみを含む水溶液でカソード電解して、前記ステンレス箔の表面に四酸化三鉄粒子と金属ニッケル(Ni)からなる被膜層を形成すること特徴とする着色ステンレス箔の製造方法。
【請求項10】
ポリオレフィン系、ポリアミド系又はポリエステル系熱可塑性樹脂フィルムの表面に極性をもつ官能基を有するエチレン共重合体を融着し、前記融着したフィルムのエチレン共重合体面が前記ステンレス箔の被膜層に接するように積層して、100〜290℃で1〜5MPaの圧力で連続熱圧着することを特徴とする請求項8又は9に記載の着色ステンレス箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−308763(P2008−308763A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127482(P2008−127482)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】