説明

着雪防止パネル

【課題】効率よく着雪の防止が可能な着雪防止パネルを提供する。。
【解決手段】前板と裏板とを備えさせ、この裏板と前板との間に蓄熱材を備えさせ、前記前板の前面に赤外線吸収層を形成させると共に、この赤外線吸収層の前面側の外面を親水面とする。
太陽からの赤外線を前板の前面側で吸収して前記前板が昇温されると共に、この前板からの熱が蓄熱材に伝導して蓄熱され、そしてこの蓄熱された蓄熱材による昇温によって前板への着雪が抑制できる。
また、赤外線吸収層の前面側の外面が親水面となされているので、この親水面に水膜が生じて滑りやすくなされ、前板への着雪が抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外に設置されて標識板や太陽電池パネルとして利用される着雪防止パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外で利用される標識板や太陽電池パネルは、その表面に降雪が付着すると機能が損なわれるため、着雪を防止させるための種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、標識板本体の上部が後方に折曲されて切妻状屋根が形成され、該切妻状屋根面の両傾斜角が水平面に対して60度以上になされていることを特徴とする冠雪を抑制した道路標識板、が本件出願人によって提案されており、ここには、切妻状屋根の表面に親水性処理を施す構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−164523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される道路標識板は、切妻状屋根面を親水性の傾斜面とすることで、屋根面と雪との間に水膜を生じさせて雪の滑落を促すようになされている。本発明はこれを改良して、更に効率よく着雪の防止が可能な着雪防止パネルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。
すなわち本発明に係る着雪防止パネルは、前板と裏板とを備え、該裏板と前板との間に蓄熱材を備え、前記前板の前面に赤外線吸収層が形成されると共に、該赤外線吸収層の前面側の外面が親水面となされていることを特徴としている。
【0007】
本発明に係る着雪防止パネルによれば、前板と裏板とを備え、この裏板と前板との間に蓄熱材を備え、前記前板の前面に赤外線吸収層を形成させるので、太陽からの赤外線を前板の前面側で吸収して前記前板が昇温されると共に、該前板からの熱が蓄熱材に伝導して蓄熱され、そしてこの蓄熱された蓄熱材による昇温によって前板への着雪が抑制できる。また、赤外線吸収層の前面側の外面が親水面となされているので、この親水面に水膜が生じて滑りやすくなされ、前板への着雪が抑制できる。
【0008】
また、前記蓄熱材を、−3℃以上10℃以下に凝固点を有する潜熱蓄熱材とすれば、前記前板の温度を−3℃以上に保ちやすくなされるので、赤外線吸収層の前面側に生じる水膜が凍結されにくくなされてその滑性が維持され、前板への着雪が抑制できるので、好ましい。
【0009】
また、前記親水面は平滑面となされ、該平滑面の最大表面粗さを10μm以下とすれば、外面に凹凸が存在することで、雪氷の滑りが円滑でなくなることや、凹部への空気の滞留による滑雪性の阻害、等の影響がほとんどなくなるので、好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る着雪防止パネルによれば、効率よく前板への着雪を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る着雪防止パネルの実施の一形態を示す(イ)は前方からの斜視図であり、(ロ)は後方からの斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1の蓄熱材を示す、(イ)は正面図であり、(ロ)は(イ)のA−A断面図であり、(ハ)は(イ)のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を図面に基づき具体的に説明する。
図面において、1は道路等に設置されて交通安全に寄与される標識板として用いられる着雪防止パネルである。
本実施形態の着雪防止パネル1は直方体形状に形成されており、その後面に長手方向を横に向けた長尺形状の取付金具2が2個上下に並設されて固定されている。
本実施形態の取付金具2は、アルミニウム押出形材から形成されており、長手方向に沿って設けられて後方へ開口する開口部21aを有する溝部21が形成されている。
また、前記溝部21の開口部21aの両側の縁は、それぞれ溝部21の内側方向へ延設されるように突出する開口縁21bが形成されている。
【0013】
前記溝部21は、その内部に着雪防止パネルを設置場所に固定させるためのボルトの頭部を収納可能な大きさに形成されており、その両縁に形成された各開口縁22はその隙間の幅の大きさが前記ボルトの雄ねじ部分の径より若干大きく形成されている。
前記のボルトは、その頭部を溝部21の内側に摺動可能に収納させ、雄ねじ部分を開口部21aから後方へ突出させて、取付金具2に取り付けられ、設置場所に備えられた雌ネジ部材に螺結されて着雪防止パネル1を固定させるようになされる。
【0014】
直方体形状に形成された着雪防止パネル1は、前方側に配置された平板形状の前板11と、後方側に配置された裏板12とを備えている。この裏板12は、四辺の縁からそれぞれ側板部13が前方へ延設されており、前方に開口する箱形状に形成されている。
前記前板11は箱形状の裏板12の開口部分を塞ぐように配置されて固定されている。
本実施形態の前板11は亜鉛めっき鋼板で形成され、前面側に道路標識を表した標識板である。
【0015】
前記前板11と、裏板12との間に形成された着雪防止パネル1の中空部分には、蓄熱材3、伝熱調整材4、断熱材5が内装されて備えられている。
本実施形態の着雪防止パネル1は、屋外に設置されて照射された日光により前板11が暖められ、その熱が内装された前記蓄熱材3に蓄熱されるようになされている。
そして降雪時において、蓄熱材3の熱が前板11に伝熱されてこれを昇温させ、前板11への着雪を抑制させるようになされている。
【0016】
前記裏板12と蓄熱材3との間には断熱材5が配置され、蓄熱材3の熱が裏板12を介して外方へ放出されないようになされている。
そして、前記前板11と蓄熱材3との間には、伝熱緩和材4が配置されている。これは蓄熱材3から前板11への急激な熱の放出を抑えることで蓄熱材3からの放熱時間を長くし、継続的に前板11への着雪を抑制させるためのものである。
前記の断熱材5及び伝熱緩和材4は、それぞれ蓄熱材3からの伝熱を抑制させるためのものであり、前板11や裏板12の大きさや材質などに応じて、ポリウレタンやポリエチレン等からなるエアマットや発泡材などを選択して用いることができる。
また、断熱材5及び伝熱緩和材4は、前板11や裏板12の大きさや材質などに応じて、その大きさや厚みを調整して形成すればよく、特に伝熱の抑制が必要ない場合は断熱材5や伝熱緩和材4を備えなくてもよい。
【0017】
図3は図1の蓄熱材3を示す、(イ)は正面図であり、(ロ)は(イ)のA−A断面図であり、(ハ)は(イ)のB−B断面図である。
本実施形態の蓄熱材3は、合成樹脂でなる袋体32内に、液状またはゲル状の蓄熱体31が封入されて形成されている。
本実施形態の袋体32は、重ね合わされた2枚のフィルム32a,32bの周縁部33が全周に亘って溶着されて、前板11と略同じ大きさの長方形の袋状に形成されている。
また、前記周縁部33の内側においても、フィルム32aとフィルム32bとを部分的に溶着させた溶着部34を設けており、蓄熱体31が蓄熱材3の中央付近に偏り過ぎることを防止させ、着雪防止パネル1の前板11の縁付近にも蓄熱材3からの熱が十分に伝わるようになされている。
【0018】
また袋体32は、2枚のフィルム32a、32bを周縁部33と溶着部34とで溶着させて形成されているが、具体的には、前記溶着部34は上下方向に沿う直線形状で、横方向へ間隔をあけて複数形成されており、上下方向に長い小袋35が横方向に複数並設させたような形状に袋体32を形成させている。
そして、各溶着部34には、上下方向に沿う直線形状において、部分的に溶着させていない非溶着部34aを設けている。
各溶着部34にそれぞれ非溶着部34aを設けることで、各小袋35の内部が連通され、これに封入された蓄熱体31が各小袋35間を移動できるようになされる。これによって、断熱材5の表面の凹凸に蓄熱体3が追随して取り付けられ、蓄熱材3からの熱伝達の効率を向上させる。また、蓄熱材3に外部から力が働いたときなどにおいても、蓄熱体31が各小袋35間を移動して蓄熱材3が容易に変形し、袋体32の破損を抑制できる。
【0019】
前記袋体32は、上下方向に長い小袋35が横方向に複数並設されるように形成されているが、具体的には各小袋35はフィルム32aが平面形状となされ、フィルム32bがフィルム32aから突出するような形状に形成されており、小袋35はフィルム32b側に蒲鉾形状に突出するような形状に形成されている。
そして、このように形成された蓄熱材3は、フィルム32aが前板11側に、蒲鉾形状に突出するフィルム32bが裏板12側に向くように着雪防止パネル1内に内装されている。
これは、蓄熱材3からの伝熱が裏板12側より前板11側へより効率よくなされるようにしたものであり、着雪防止パネル1内において平面形状のフィルム32aの接触面積が蒲鉾形状に突出するフィルム32bより大きくなされることで、フィルム32aを介する前板11側への伝熱がより大きなものとなされ、前板11への着雪の抑制が効率よくなされる。
尚、本実施形態の蓄熱材3は、フィルム32aを前板11側に向け、蒲鉾形状に突出するフィルム32bを裏板12側へ向けて内装されているが、蓄熱材3からの熱が前板11へ伝熱されて着雪が抑制できれば、フィルム32aを裏板12側に向け、蒲鉾形状に突出するフィルム32bを前板11側へ向けて蓄熱材3を内装させてもよい。
【0020】
本実施形態の着雪防止パネル1は、前板11の前面側に道路標識を表した標識板に形成されているが、図2に示すように、前板11の前面側には赤外線吸収層6が形成されている。
赤外線吸収層6は、前板11に照射される日光の赤外線を吸収してこれを昇温させ、これによって内装される蓄熱材3が効率よく蓄熱するように設けられている。
前記赤外線吸収層6は、透明な基材中に赤外線吸収体61の粒子を均一に分散させて含有させて形成させている。前記赤外線吸収体は粒径800nm以下の大きさに形成させることで、これを含有する赤外線吸収層6について光を透過するように、好ましくはできるだけ透明に近いように形成させ、前板11に設けた道路標識を外から視認可能に形成させている。
前記赤外線吸収体に用いる物質としては、酸化ジルコニウムや酸化アルミニウムや炭化珪素等を用いることができ、これらを選択又は組み合わせて用いても良い。
また、基材は塗膜やフィルムで形成させてよく、一例として透明な塗料に前記赤外線吸収体61を分散させて前板11に塗装し、硬化させた塗膜を赤外線吸収層6としてもよく、あらかじめ赤外線吸収体61を分散、含有させた透明フィルムを前板11に貼着させて赤外線吸収層6を形成させてもよい。
【0021】
また、本実施形態の着雪防止パネル1は、前記赤外線吸収層6の前面側の外面が親水面となされており、具体的には赤外線吸収層6の前面側に外面を構成する親水層7が形成されている。
本発明における親水面とは、親水性を付与されて、好ましくは20℃での水の接触角が60゜以下となされた表面を意味し、より好ましくは20℃での水の接触角が30゜以下となされた表面を意味する。
前板11の外面が親水面となされることで、この親水面に水膜が生じて滑りやすくなされ、前板11へ付着する雪が滑り落ちるようになされて着雪が抑制できる。
尚、水平面に対する前板11の角度を60度以上に設けることで、前板11へ付着する雪が効果的に滑り落ちるので、好ましい。
【0022】
本実施形態の親水層7は、光触媒を含む光触媒含有層で形成されており、これに紫外線が照射されることにより光触媒が活性化され、その表面が親水化され、その外面が親水面となされるように設けている。
尚、光触媒の種類は特に限定されるものではないが、一般には二酸化チタンが好適に用いられる。二酸化チタンは、ルチル型でもよいが、活性の高さからアナターゼ型のものが好ましく、この二酸化チタンに波長領域が300〜400nm付近の紫外線を照射することによって活性化され、その活性化によって強い酸化力が発現されて、表面に付着した汚染物質は分解されると共に、活性化によってその表面は水との接触角でほぼ0〜20度程度まで親水化される。
【0023】
また、親水層7の形成は、光触媒含有層によるものに限るものではなく、表面にオルガノシリケート化合物の含有層を形成させて親水面としてもよく、その他の方法を用いてもよい。
また、本実施形態の親水層7は、赤外線吸収層6と別体に形成させているが、赤外線吸収層6と親水層7とを一体に形成させてもよい。
【0024】
前板11の前面側の外面を親水面とすることで、水膜を生じさせて前板への着雪を抑制できるが、この効果は前板11の温度が−3℃以上であるときに特に有効となる。前板11の温度が−3℃以下となったときには、表面の水膜が凍結するためである。このため、前板11の温度を−3℃以上に維持することが好ましい。
【0025】
蓄熱材3に用いる蓄熱体31は、前板11から伝わる熱を蓄熱できるものであればよく、炭化水素や水などを好適に用いることができる。
また、蓄熱体3に、−3℃以上10℃以下の温度の範囲に凝固点を有する潜熱蓄熱材を用いることで、前板11の温度を−3℃以上に維持できるので好ましい。
蓄熱体3に用いる物質は、一例としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィンなどの炭化水素、具体的には、ノルマルペンタデカン、ノルマルテトラデカン、ノルマルオクタデカン、ノルマルヘキサデカン、ノルマルエイコサン、ノルマルドコサン、ノルマルヘプタデカン、ノルマルオクタデカン、ノルマルトリデカンなどを用いても良い。また、腐敗防止のために煮沸した後適量のヨードチンキを加えた水を用いても良い。
また、水に吸水性高分子、カルボキシメチルセルロース、プロピレングリコール、雲母、寒天などを選択又は組み合わせて加えてゲル化したものを用いてもよく、ゲル化することで取扱性が向上すると共に、袋体32からの液漏れが抑制できる。
また、蓄熱体3に水を用いる場合は、その過冷却を防止するために、スメクタイト、合成ヘクトライト、よう化銀、氷核活性細菌などを添加するのが好ましい。
【0026】
また、本実施形態の着雪防止パネル1のように、赤外線吸収層6と親水層7とを隣接させて設けることで、赤外線吸収して昇温された赤外線吸収層6の熱が直接的に親水層7の温度を上昇させるので、親水層7の温度が低下しにくくなされ、表面の水膜が凍結しにくくなされるので好ましい。この効果は赤外線吸収層6と親水層7とを一体に形成させても得ることができる。
【0027】
尚、本実施形態の着雪防止パネル1は、親水層7の外面に形成される親水面は平滑面となされ、該平滑面の最大表面粗さが10μm以下となるように形成させている。最大表面粗さとは、親水面における微視的に見た凹凸の高さの差であり、親水面においてその差の最大を10μm以下とすることで、外面に凹凸が存在することで、雪氷の滑りが円滑でなくなることや、凹部への空気の滞留による滑雪性の阻害、等の影響がほとんどなくなるので、好ましい。
【0028】
また、本実施形態の着雪防止パネル1は、前板11の前面に道路標識を表した標識板となされているが、これに限るものではない。例えば、前板11を、合成樹脂やガラスを基板として太陽電池セルを設けた太陽電池パネルで形成させてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 着雪防止パネル
11 前板
12 裏板
13 側板部
2 取付金具
21 溝部
21a 開口部
21b 開口縁
3 蓄熱材
31 蓄熱体
32 袋体
32a、32b フィルム
33 周縁部
34 溶着部
34a 非溶着部
35 小袋
4 伝熱緩和材
5 断熱材
6 赤外線吸収層
7 親水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前板と裏板とを備え、該裏板と前板との間に蓄熱材を備え、前記前板の前面に赤外線吸収層が形成されると共に、該赤外線吸収層の前面側の外面が親水面となされていることを特徴とする着雪防止パネル。
【請求項2】
前記蓄熱材は、−3℃以上10℃以下に凝固点を有する潜熱蓄熱材であることを特徴とする請求項1に記載の着雪防止パネル。
【請求項3】
前記親水面は平滑面となされ、該平滑面の最大表面粗さが10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の着雪防止パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−67553(P2012−67553A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215158(P2010−215158)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】