説明

睡眠時無呼吸症治療用ペースメーカーシステム

単位時間当たりの無呼吸回数と無呼吸の継続した時間の少なくとも2個のパラメータを含む呼吸に関するパラメータを実測可能で、該実測結果に基づき睡眠時の患者の無呼吸状態を感知することができる無呼吸感知手段を有し、かつ前記無呼吸感知手段による前記各感知パラメータの実測値が予め設定し収納された前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値以上となった場合にはペーシングレートを変更してSAS治療用ペーシングモードに移行な可能なものであることを特徴とするペースメーカーシステムであって、患者の睡眠時の無呼吸症状を検知し、徐脈や無呼吸症状に伴う種々の不都合に対応して、それらを改善するために適しており、また、患者の状況に応じて患者に余計な負担を掛けることなく、さらには患者に適応したペーシングレートとペーシングレート時間を設定できるので、効率的に且つ確実にSASによる症状を改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、患者の睡眠時の無呼吸症状を検知し、徐脈や無呼吸症状等に伴う種々の不都合に対応して、それらを改善するためのペースメーカーシステムに関する。
【背景技術】
唾眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、以下SASともいう)は、通常1晩に30回以上、或いは1時間当り5回以上の頻度で10秒以上の無呼吸が生じる症状として定義されるものであり、その症状の原因として、鼻や喉に原因がある「閉塞型」、大脳、脳幹に器質的、機能的障害がある「中枢型」、それらの混合である「混合型」の3つの型に大別される。
SASを有する患者は、高い割合で徐脈(洞性徐脈・房室ブロック)を合併していることが知られている。このような患者は、多くの場合、ペースメーカーを使用しているが、従来のペースメーカーでは、呼吸・無呼吸の症例の有無に関わらず、一定のペーシングレート、或いはセンサーレートでペーシングするアルゴリズムである。しかしながら、このような一定のペーシングレート、或いはセンサーレートでペーシングを行うと、睡眠時無呼吸症の患者の場合、徐脈が更に進行し、心拍数の減少により肺から脳への循環時間が延長し、脳血流の低下を引き起こす。その結果、更なる無呼吸間隔の延長と酸素飽和度の低下が発生するといわれており、この点の改善が求められていた。また、従来のペースメーカーには、患者の日内変動の再現を目的としてペーシングレートを変更する機能が備わっているが、これがSASを持つ患者には好ましくない作用をもたらす。すなわち、従来のペースメーカーには、安静(睡眠)時に通常のベーシックレートより低めのペーシングレートになるように設定され、安静時の患者の生理的機能における負担を軽減する機能が備わっており、この機能は、一般にレストレート、ナイトレートドロップ、スリープレート等と通常呼ばれている。ところが、SASを有する患者の場合、前記のようなレストレート機能などによってペーシングレートが低下した状態をつくると、無呼吸発生時には、減少している心拍数がさらに減少することになり、その結果徐脈の促進、脳血流への低下、等の様々な問題を引き起こす危険性がある。従って、SASの患者にレストレート機能を備えたペースメーカーを適用することは少なく、万が一適用する場合には、細心の注意が必要であった。このような課題に対して、米国特許第6126611号や国際公開特許WO01/41868A1号に開示されているように、ペースメーカーを無呼吸症患者に対応したものとする研究が行われ、唾眠時の無呼吸をペースメーカーがセンサによって感知すると、ペーシングレートを上げて、徐脈や心拍数現象に伴う身体の不具合を改善しようとするペースメーカーが提案されている。しかし、上記各文献に開示されたペースメーカーは、無呼吸検手段としてセンサ手段を有し、かつ無呼吸を感知した場合に採用するペーシングレートの基準値はあらかじめ設定されているものの、該ペーシングレートの基準値の設定は固定されたものであり、患者の症状によって、自在に適応できるものではなかった。また、閉塞性睡眠時無呼吸など胸郭運動が完全に消失しないタイプの睡眠時無呼吸に対する対応が困難であった。
【発明の開示】
本発明のペースメーカーシステム、特に埋め込み型のペースメーカーシステムの特徴は、単位時間当たりの無呼吸回数と無呼吸の継続した時間の少なくとも2個のパラメータを含む呼吸に関するするパラメータ(以下、感知パラメータともいう)を実測可能で、該実測結果に基づき睡眠時の患者の無呼吸状態を感知することができる無呼吸感知手段を有し、かつSAS治療用ペーシングレートに移行するかどうかの基準値となる前記感知パラメータ値が患者毎に予め設定し収納されるとともに、前記無呼吸感知手段による前記各感知パラメータの実測値が前記予め設定され収納された感知パラメータ値以上となった場合には、ペーシングレートを変更しSAS治療用ペーシングレートに移行させる機能を有するものである。この機能としては、例えばSAS治療用ペーシングモードに移行する基準値を確認した時点において、その時点でのペーシングレートを患者毎に設定されたSAS治療用ペーシングレートに自動的に変更して継続してSAS治療用ペーシンモードに移行可能な機能(SAS機能ともいう)が挙げられる。
また、本発明ペースメーカーシステムにおいては、SAS治療用ペーシングレートに移行するかどうかの基準値となる前記感知パラメータ値は、唾眠時の無呼吸状態が患者にとって悪影響を及ぼす程度のものとなる場合に初めてペーシングレートを増加させてSAS治療用ペーシングレートに移行して患者の症状を改善し、それ以外の軽微な無呼吸状態ではSAS治療用ペーシングレートに移行しないで安静状態を乱さないようにする値のものが好ましい。
すなわち、本発明ペースメーカーシステムは、その無呼吸感知手段はSASイベントが発生しているかどうかは常にモニタリングするが、SASの患者によっては、SASイベントの程度がかなり高度にならない限り生活あるいは健康に支障を来たさない場合もあり、逆にごく軽度のSASイベントであっても支障となる患者の場合があるので、本発明のペースメーカーシステムのSAS治療用ペーシングレートへ移行する際の前記無呼吸感知パラメータの基準値は、SASイベントが発生した時点で一律に行うものではなく、SAS患者の無呼吸状態で生じる個々の症例を考慮して設定可能なものが好ましい。
本発明のペースメーカーシステムにおいては、発生した睡眠時無呼吸症候が患者に悪影響を及ぼすか、否かを判断するための判断指標として、上述のように少なくとも患者の単位時間当たりの無呼吸回数と、無呼吸が継続された時間の2つのパラメータを採用するが、これら無呼吸感知パラメータの基準値の設定に際して、医師は患者の自覚症状や睡眠の質あるいは合併疾患に及ぼす影響、例えば高血圧症、心不全、冠動脈疾患、徐脈性不整脈、頻脈性不整脈など患者の状態や要因などの種々の事情を考慮した上で設定し、本発明のペースメーカーシステムにあらかじめ収納する。したがって、本発明ペースメーカーシステムは、前記のようなSAS治療用ペーシングレートを行うことが可能であるため、SAS患者のSASの症状を改善できるだけでなく、軽微SASの段階では徒にペーシングレートを変更しないので安静状態を乱れさせないようにすることができるので、患者に余分に負担を掛けることなく、SAS治療を有効に行うことが可能となる。
本発明ペースメーカーシステムの別の特徴は、以下のようなペーシングレートの設定、あるいは変更が可能なことにある。このペーシングレートの設定、あるいは変更は、例えばテレメトリ機能(ペースメーカーとの交信)によって得られた新たな情報に基づいて行うことができる。
(1)前記無呼吸が発生した時点で採用するSAS治療用ペーシングレートは、上述のようにあらかじめ各患者に適合したものを医師等により、本発明ペースメーカーシステム中に事前に設定し収納されるが、この事前に収納されたSAS治療用ペーシングレートは収納後に前記のように新たに得られた情報に基づいて変更可能である。このように、本発明ペースメーカーシステムは該システムに事前に収納したSAS治療用ペーシングレートが、新たに得られたより適した情報に基づいて変更可能であることにより、患者の症状をより効率的に改善することができる。
(2)SAS治療用ペーシングに移行した後においても、必要に応じて該SAS治療用ペーシングレートの設定レートを適宜変更できる機能を有する。このような構成とすることにより、採用したSAS治療用ペーシングレートが患者に適合していないと判った時点で、事前に設定したSAS治療用ペーシングレートの設定レートを患者の症状に適したものに変更することが可能となり、その結果、患者の症状を迅速に改善できる。
(3)SAS治療用ペーシングに移行した後、該SAS治療用ペーシングを行った結果、感知パラメータの実測値が、あらかじめ設定した感知パラメータのSAS治療用ペーシングに移行する基準値より低下した場合、SAS治療用ペーシングレートを患者に通常用いられるペーシングレート(ベーシックペーシングレート)に自動的に復元する機能を有する。また、前記ペーシングレート(ベーシックペーシングレート)に自動的に復元する機能は、睡眠時のレストレートが設定されている場合には、前記SAS治療用ペーシングレートを自動的に前記レストレートまで低下させてもよい。また、前記ベーシックペーシングレートまたはレストレートからSAS治療用ペーシングレートへの移行、あるいは前記SAS治療用ペーシングレートから前記ベーシックペーシングレートまたはレストレートへの移行は、いずれの場合も患者の急激な心拍数の変化を防ぐため、前記各移行は徐々に行うことが好ましい。
本発明ペースメーカーシステムの前記感知パラメータを実測する無呼吸感知手段としては、分時換気量(Minuteventilation、以下MVともいう)を計測するMVセンサが、測定した分時換気量の継時的な変動結果により、通常の睡眠状態であるか、あるいは無呼吸状態であるかの判別が困難な閉塞型無呼吸に対しても、両者を確実に判別することができるので、無呼吸感知手段として特に好ましい。また、本発明ペースメーカーシステムは、前記感知パラメータを実測する無呼吸感知手段に加えて、QT時間感知型のセンサーおよび/または心拍数変動パターンを認識できるセンサーを有することにより、閉塞型睡眠時無呼吸か中枢型睡眠時無呼の鑑別を容易に行うことができる。
本発明ペースメーカーシステムは、さらに前記感知パラメータを実測する無呼吸感知手段に加えて、患者の体動を計測することによって、患者が睡眠状態にあることを感知する睡眠感知手段として、加速度(ACC)センサ或いは体動(Activity)センサを備えたものが好ましい。前記のような加速度(ACC)センサ或いは体動(Activity)センサを前記無呼吸感知手段と併用することにより、前記無呼吸感知手段のみを用いる場合に比し患者が無呼吸状態であることを感知することの確実性を一層向上させることができる。
本発明ペースメーカーシステムの別の特徴は、以下に示すような情報を記憶する記憶手段(メモリー)を有することにある。
(1)前記無呼吸感知手段で実測した感知パラメータ値、加速度(ACC)センサあるいは体動(Activity)センサのセンシング結果あるいは実測値、さらには前記各データの変動履歴値。
例えば前記無呼吸感知手段であるMVセンサーのセンシングにより捕らえたMVの変動結果を前記の記憶手段(メモリー)に記憶させ、この変動結果、例えば患者の呼吸の周期や強弱に基づき、患者が通常の睡眠状態か無呼吸状態であるかを認識できるアルゴリズムを用いることにより、無呼吸感知手段の無呼吸感知パラメータのみでは通常の睡眠状態であるか無呼吸状態であるかの検出され難い閉塞型無呼吸に対しても、通常の睡眠状態であるか無呼吸状態であるかの判別を確実に行うことができ、さらに、前記のようにして無呼吸状態であると認識された場合には、測定した分時換気量の経時的な変動結果によりその無呼吸状態が閉塞性か中枢性であるかのタイプの違いについても判断することができる。したがって、前記のような判別結果に基づいて、各タイプの無呼吸に応じてより適切な対応を取ることできるので、さらに患者の症状の改善が期待できる。
(2)前記SAS治療用ペーシングレートに関する履歴。
このSAS治療用ペーシングレートに関する履歴としては、SASが発生した時間帯および終了した時間帯と、そのイベント数及び採用されたペーシングレート等のパラメータが挙げられる。前記のようなパラメータを記憶手段に記憶しておくことにより、どの時点でSAS機能の作動の必要性が有ったか、或いは無かったという確認や、その時点でSAS治療用ペーシングレートが適用されたことによる治療効果が確認でき、さらには前記感知パラメータの基準値の修正や再設定に有効である。
以下、本発明ペースメーカーシステムで採用されるペーシングレートについて詳細に説明する。
(1)無呼吸が発生した瞬間のペーシングレートとしては、基本設定レートであるベーシックペーシングレート、あるいは必ずしも設定する必要はないが睡眠時に特に設定することも可能な覚醒時のペーシングレートよりレートが同じか低いレストレートがある。
(2)SASイベント検出時のペーシングレートがベーシックペーシングレートであれば、SAS治療用のペーシングレートは当然にベーシックペーシングレートより高いものとなる。
(3)SASイベント検出時ペーシングレートが前記レストレートである場合、SAS治療用のペーシングレートは前記レストレートより高いレートとなるが、この場合のペーシングレートは、ベーシックペーシングレートより高いこともあり得るが、また、前記レストレートより高いがベーシックペーシングレートよりも低くなる場合もあることもあり得る。
(4)睡眠時にペーシングを行っていない事例の場合には、SASイベント発生時の自己の心拍数よりも高いペーシングレートをSAS治療用高レートとして採用する。
通常の場合、ペースメーカーは徐脈性不整脈がその適応とされてきたため、ペースメーカー治療が必要な徐脈性不整脈を有し、かつSASも合併している症例が本発明の主たる対象となるものと考えられるので、本明細書においては、本発明を主に睡眠時無呼吸症候群と徐脈性不整脈を合併した患者の場合について説明したが、本発明は必ずしも徐脈性不整脈とSASを合併した症例のみを対象としたものではなく、徐脈を合併しないSAS単独症例をも対象とすることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明のペースメーカーシステムによるSAS検知、およびSASペーシングの機構を説明するフローチャートであり、第2図は、本発明のペースメーカーシステムによる経時的SAS治療法を説明した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本形態のペースメーカーシステムは、SSI(R)、VDD(R)、DDD(R)等様々なモードの機種に対応可能な以下のような構成のものである。
体内に埋め込まれたリードから胸郭インピーダンスを測定する電気回路をペースメーカー本体に内蔵する。この胸郭インピーダンスを測定する電気回路がMVセンサーの一部であり、無呼吸感知手段となる。また、MVセンサーヒストグラムをメモリーする記憶回路をペースメーカー本体に内蔵する。また、本形態のペースメーカーシステムは、レストレートをONにした場合、SAS機能も自動的にONになるように設定されているが、レストレート設定の有無に関わらずSAS機能は任意にON、OFFの単独設定も可能である。また、本形態のペースメーカーシステムは、SASペーシングモードに移行する基準値として、例えば1時間当りSAが5回以上、また1回のSAが10秒以上という基準値があらかじめ設定されているが、これら基準値は医師によって変更可能になっている。この設定基準値以上のSAを出した場合には、本形態のペースメーカーシステムは、SAS機能によってペーシングレートを変更しSASペーシングモードに自動的に移行する。前記SAS機能は、SASペーシングモードに自動的に移行する場合に、SASペーシングレートを実施する時間を自動的に設定する機能をON、OFF設定する機能を有する。前記SASペーシングレートを実施する時間を自動的に設定する機能のON設定でSASペーシングモードに自動的に移行する場合、SASペーシングモードで採用するペーシングレートおよび/またはペーシング期間は、患者毎に予め設定され、前記ペースメーカーシステム中に収納されている。前記ON設定でSASペーシングモードに自動移行した場合、設定した期間の間SASペーシングレートでペーシングを行い、前記OFF設定でSASペーシングモードに自動移行した場合、SAS状態が回復するまでSASペーシングを行い、該SASペーシングでSAS状態が回復した時点でSASペーシングモードでのペーシングを解除し、唾眠中の患者毎に設定された通常のベーシックペーシングレートあるいはレストレートに戻る。ただし、SAS状態が回復しても一定期間、例えば前記ON設定で設定した設定期間中はSASペーシングモードでのペーシングを継続して行う機能を有しても良く、このようなペーシングを継続して行うことにより、重症性睡眠時無呼吸の予防や頻回な心拍変動による患者の覚醒反応の予防のような効果を奏することができる。また、MVセンサーをONにした場合、自動的にSASモニター機能が入り、1時間当りのSAの回数、1回あたりのSAの持続時間の確認をすることができる機能を有しても良い。
第1図は、SAS感知手段によって、患者の睡眠時無呼吸(SA)の有無について前記感知手段によって確認がなされる。前記感知手段によって、SAを感知しない場合(No)には現状のレートのままでメインルーチンに入る。一方、SAS感知手段がSAを感知した場合(Yes)、前記感知手段により所定時間内に予め設定した無呼吸時間のSAが、設定した回数検出されたかの確認を行う(1時間以内に指定した時間の間、SASが指定した回数検出されたか?)。該確認結果が設定した無呼吸時間のSAが、設定した回数検出されない場合(No)には、SASペーシンモードに移行する必要がないと判断して現状と同じSASペーシングレートでメインルーチンに入る。前記感知手段による検知結果が、ペースメーカーシステムに予め設定し収納されたSASペーシンモードに移行させる基準値を超えた場合には、SAS機能によってSASペーシンモードに自動的に移行される(SASペーシング期間ON OR OFF)。このSAS機能では、SASペーシングング時間を自動的に設定できる機能をONおよびOFFにするモードを選択でき、ONのモードを選択した場合(Yes)、設定時間だけ設定されたペーシングングレートで自動的にSASペーシングングを継続して行い(SAS設定レートでSASペーシング期間の間ペーシング)、また、OFFのモードを選択した場合(No)には、前記SAS機能によってペーシングングレートをあらかじめ設定され収納されているSASペーシングングレートに変更してSASペーシングを行い〔SAS設定レートでペーシング開始(期間の設定無し)〕、前記感知手段がSAを感知している期間(No)はそのままのSASペーシングレートを維持するが前記感知手段がSAを感知しなくなった時点(Yes)で、即ち感知手段によって患者のSAS状態を回復することができたという確認ができた時点で、SAS設定レートでのペーシングを停止し(SAS設定レートでのペーシングOFF)、メインルーチンに入る。
第2図において、一点鎖線は睡眠時のペーシングレートとして、60回/分(60ppm)のベーシックレートにおけるSAS治療におけるペーシン履歴、また、実線は50回/分のレストレートにおけるSAS治療におけるペーシン履歴を示す。
時刻(a)において治療すべきSAS状態を検出したので、ペーシングレートを順次増大させ〔経路(1)あるいは(2)〕、80回/分のSASペーシングレートでSAS治療を行った。その結果、時刻(b)において無呼吸状態(SA)状態の解消を検出したので、ペーシングレートを以下に示すような二つの方法の一つを採用して、順次SASペーシングレートあるいはレストレートに戻した。
(1)無呼吸状態(SA)状態の解消を検出した時点、すなわち無呼吸感知手段の感知パラメーター値の実測結果が、前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値の感知パラメーター値以下になった時点〔時刻(b)〕で、直ちに経路(4)あるいは(5)に従い、ペーシングレートを順次減少させ、時刻(c)には、60回/分のベーシックレート、あるいは50回/分のレストレートに戻した。
(2)無呼吸状態(SA)状態の解消を検出した時点、すなわち無呼吸感知手段の感知パラメーター値の実測結果が、前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値の感知パラメーター値以下になった時点〔時刻(b)〕で、直ちにはベーシックレートあるいはレストレートを下げないで一定時間、例えば自動設定したSASペーシング期間内はSASペーシングレートでSAS治療を続行し、SASペーシング設定期間の経過した時刻(c)から経路(6)あるいは(7)に従いペーシングレートを順次減少させ、時刻(d)には60回/分のベーシックレート、あるいは50回/分のレストレートに戻した。前記SAS治療方法は、前記(1)の治療方法に比較して、上述のように無呼吸状態(SA)状態の解消を検出してもSASペーシング設定期間内であれば、さらにこのSASペーシングを継続して行うことにより、重症性睡眠時無呼吸の予防や頻回な心拍変動による患者の覚醒反応の予防のような効果を奏することができる。
なお、あらかじめSASペーシング期間を自動設定した場合、該設定期間が終了する直前の時点でも未だSAが検知されていた場合、該設定期間が経過してもSASペーシングレートを中止せずに設定期間を延長してSASペーシングを続行し、SAが終了したと検知された時点で、前記のようにその時点から直ちに経路(7)あるいは(8)に従い、ベーシックレート或いはレストレート迄、SASペーシングレートを緩やかに落としていく操作を行う。この場合においても、前記(2)と同様にSAが終了したと検知された時点で直ちに前記のペーシングレートを順次減少させる操作を行わず、この操作を一定時間経過後に行ってもよい(ただし、この場合は図2には示されていない)。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明に係るペースメーカーシステムは、単位時間当たりの無呼吸回数と無呼吸の継続した時間の少なくとも2個のパラメータを含む呼吸に関するするパラメータを実測可能で、該実測結果に基づき唾眠時の患者の無呼吸状態を感知することができる無呼吸感知手段を有し、かつ前記無呼吸感知手段による前記各感知パラメータの実測値が予め設定し収納された前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値以上となった場合にはペーシングレートを変更してSAS治療用ペーシングモードに移行な可能なものであることを特徴とし、患者の睡眠時の無呼吸症状を検知し、徐脈や無呼吸症状に伴う種々の不都合に対応して、それらを改善するために適しており、また、患者の状況に応じて患者に余計な負担を掛けることなく、さらには患者に適応したペーシングレートとペーシングレート時間を設定できるので、効率的に且つ確実にSASによる症状を改善できる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位時間当たりの無呼吸回数と無呼吸の継続した時間の少なくとも2個のパラメータを含む呼吸に関するパラメータ(感知パラメータ)を実測可能で、該実測結果に基づき唾眠時の患者の無呼吸状態を感知することができる無呼吸感知手段を有し、かつ前記無呼吸感知手段による前記各感知パラメータの実測値が予め設定し収納された前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値以上となった場合にはペーシングレートを変更してSAS治療用ペーシングモードに移行な可能なものであることを特徴とするペースメーカーシステム。
【請求項2】
前記無呼吸感知手段がMVセンサであることを特徴とする請求項1に記載のペースメーカーシステム。
【請求項3】
SAS治療用ペーシングモードに移行する基準値を確認した時点において、その時点でのペーシングレートを患者毎に設定されたSAS治療用ペーシングレートに自動的に変更して継続してSAS治療用ペーシンモードに移行可能な機能(SAS機能)を有することを特徴とする請求項1または2に記載のペースメーカーシステム。
【請求項4】
前記SAS機能がSASペーシング時間を自動的に設定できる機能を有し、かつ、該機能はONおよびOFFにするモードを選択できるものであることを特徴とする請求項1、2または3に記載のペースメーカーシステム。
【請求項5】
前記SAS機能のSASペーシング時間を自動的に設定できる機能のONのモードを選択した場合、SAS機能によって自動的に設定される時間だけペーシングレートをあらかじめ患者毎に設定されたSASペーシングレートに自動的に変更してSASペーシングを行い、また前記SAS機能のSASペーシング時間を自動的に設定できる機能のOFFのモードを選択した場合には、ペーシングングレートを患者毎にあらかじめ設定されたSASペーシングングレートに変更してSASペーシングを前記無呼吸感知手段がSAを感知している期間は継続して行い、かつ前記無呼吸感知手段の感知パラメーター値の実測結果が、前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値の感知パラメーター値以下になった時点でSAS設定レートでのペーシングを停止して通常のベーシックペーシングレート、あるいはレストレートに戻ることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載のペースメーカーシステム。
【請求項6】
無呼吸感知手段の感知パラメーター値の実測結果が、前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値の感知パラメーター値以下になった時点で、直ちにペーシングレートを順次減少させ、ベーシックレート、あるいはレストレートに戻ることを特徴とする請求項5に記載のペースメーカーシステム。
【請求項7】
無呼吸感知手段の感知パラメーター値の実測結果が、前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値の感知パラメータ値以下になった時点で直ちにはベーシックレートを下げないで、一定時間はさらにSASペーシングレートでSAS治療を続行し、前記一定期間終了後、ペーシングレートを順次減少させ、ベーシックレート、あるいはレストレートに戻ることを特徴とする請求項5に記載のペースメーカーシステム。
【請求項8】
前記一定期間がSASペーシングに移行に際して自動的に設定されたSASペーシング期間であることを特徴とする請求項5に記載のペースメーカーシステム。
【請求項9】
前記SAS治療用ペーシングレートに移行する基準値となる感知パラメータ値が、無呼吸状態が患者に悪影響を及ぼす程度となる感知パラメータ値に基づいて設定されたものであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6,7または8に記載のペースメーカーシステム。
【請求項10】
無呼吸状態が患者に悪影響を及ぼす程度が、患者の合併疾患に及ぼす影響の程度の無呼吸状態であることを特徴とする請求項9に記載のペースメーカーシステム。
【請求項11】
QTセンサおよび/または心拍数変動パターンを認識するセンサーを有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9または10に記載のペースメーカーシステム。
【請求項12】
患者の体動を計測することによって、患者が睡眠状態にあることを感知する睡眠感知手段を備えたことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6,7、8、9、10または11に記載のペースメーカーシステム。
【請求項13】
前記睡眠感知手段が、加速度(ACC)或いは体動(Activity)センサであることを特徴とする請求項12に記載のペースメーカーシステム。
【請求項14】
前記感知パラメータ値を測定する無呼吸感知手段、前記加速度(ACC)センサあるいは体動(Activity)センサ、前記QTセンサ、前記心拍数変動パターンを認識するセンサーおよび前記SAS機能の少なくとも一個の感知結果あるいはセンシング結果の変動履歴が保存される記憶手段(メモリー)を有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11,12または13に記載のペースメーカーシステム。
【請求項15】
無呼吸感知手段であるMVセンサーの変動履歴を利用し、患者が通常の睡眠状態であるか無呼吸状態であるかの判別を確実に行うことができることを特徴とする請求項14に記載のペースメーカーシステム。
【請求項16】
患者が通常の睡眠状態又は無呼吸状態であるかの判別を、前記記憶手段(メモリー)に記憶させた前記無呼吸感知手段の感知パラメータの実測値変動における患者の呼吸の周期や強弱に基づき行うことを特徴とする請求項14または15に記載のペースメーカーシステム。
【請求項17】
前記記憶手段(メモリー)に保存した無呼吸感知手段であるMVセンサーの感知結果あるいはセンシング結果と前記QTセンサーの変動のパターンおよび/または心拍数変動パターンを認識するセンサー感知結果あるいはセンシング結果の変動履歴に基づきにより閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)、中枢型睡眠時無呼吸(CSA)の鑑別が可能なことを特徴とする請求項14、15または16に記載のペースメーカーシステム。

【国際公開番号】WO2005/004986
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503848(P2005−503848)
【国際出願番号】PCT/JP2003/008762
【国際出願日】平成15年7月10日(2003.7.10)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】