説明

睫用化粧料

【課題】 実質的にパラベンや、フェノキシエタノール等の防腐剤を配合せず睫用化粧料に必要な防腐性を確保し、パンダ目になりにくい水中油型睫用化粧料を提供する事。
【解決手段】 エタノール及び1,2−ペンタンジオール、アクリル系ポリマーを配合する事を特徴とする水中油型の睫用化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスカラ下地、マスカラコートを含むマスカラ等の睫用化粧料に関する。さらに詳しくは、パラベン・フェノキシエタノール等の防腐剤を配合せず充分な防腐力効果をえる事のできる水中油型睫用化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
睫用化粧料は、使用部位が目に近い部分である事から、特に刺激面からの安全性及び菌汚染面からの安全性の両方を備えていることが望まれている。しかしながら、菌汚染面を考慮し防腐剤の増量を行うと、刺激のリスクが増大することが知られている。従来化粧料の防腐剤として抗菌スペクトルが広く比較的安全性が高いパラベンが汎用されている。また睫毛用化粧料においても、パラベンが汎用されており、構造の異なるパラベンの併用例えばブチルパラベンと、メチルパラベンの併用や、フェノキシエタノール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール等の併用によって、防腐力を向上させまた防腐剤の使用量を減らす試みがなされている。(特許文献1参照)
また、一部の敏感な使用者に対して使用時にパラベンの刺激を伴う場合を想定し、パラベンを使用しない化粧料の開発が行われている。パラベンを使用しない化粧料の開発で良く用いられる成分として、フェノキシエタノールがある。しかしながら、フェノキシエタノールにおいても一部の敏感な使用者に対しては刺激を感じる場合があり、他の成分と併用することによりフェノキシエタノールの使用量を抑える検討がなされている。(特許文献2参照)
【0003】
【特許文献1】特開H11−310506号公報
【特許文献2】特許第3657395号公報
【0004】
しかしながら、敏感な使用者による、パラベン・フェノキシエタノール等の防腐剤を配合しない睫用化粧料訴求が強く、これら防腐剤を配合しない睫用化粧料の開発が求められてきた。
また、水が配合されない油性化粧料の方が、一般的に菌の増殖しにくいが、連続相である外相が油性の睫用化粧料は、化粧持ちが悪くいわゆるパンダ目になりやすく、さらに化粧が落としにくいという欠点や、揮発性油分の刺激性も問題となる場合があり、水性の睫用化粧料でかつ、防腐剤を配合しない化粧料の開発が求められてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、実質的に防腐剤を配合せず睫用化粧料に必要な防腐性を確保し、パンダ目になりにくいアクリル系ポリマーを配合した水中油型睫用化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、1,2−ペンタンジオール、エタノール及び特定の皮膜形成剤を配合することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、1,2−ペンタンジオール、エタノール及びアクリル系ポリマーの皮膜形成剤を配合することにより、実質的に防腐剤を配合せず、防腐性が確保されたパンダ目になりにくい睫用化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1,2−ペンタンジオール、エタノール及びアクリル系ポリマーを配合することにより、実質的にパラベンや、フェノキシエタノール等の防腐剤を配合しなくとも、同等な防腐効果を持つ睫用化粧料が得られるとともに、パンダ目になりにくい睫用化粧料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳述する。
本発明に用いる、1,2−ペンタンジオールは、従来から保湿成分として市販されており、例えばHYDROLITE−5(シムライズ社製)等の市販品を用いる事ができる。1,2−ペンタンジオールの配合量としては特に限定されないが、睫用化粧料として用いる場合皮膜を可塑化するため、睫用化粧料全量中10重量%以下で使用し特には5重量%以下である事が好ましい。また睫用化粧料として、所望する防腐効果を発揮する為には、睫用化粧料全量中2重量%以上の配合が必要である。
【0010】
本発明に用いるエタノールは、防腐剤の効果を助ける働きがある事が知られている。エタノールの配合量が増加すると、睫用化粧料に含まれるアクリル系ポリマーの溶解或いは分散状態に影響し化粧料の安定性を悪化させる事がある。その為多量に配合する事は困難である。よって、睫用化粧料の性能を発揮する量の皮膜形成剤を配合した場合、充分な防腐効果を発揮することは困難である。
本発明においては、睫用化粧料全量中2.5〜5.0重量%の範囲で配合することが好ましい。
【0011】
本発明に用いるアクリル系ポリマーは、睫用化粧料に配合することにより皮膜を形成させ、化粧もち効果の向上や、カール保持等の睫用化粧料の性能を発揮させる目的で使用される。代表的なものとして、一般的にアクリル系樹脂エマルジョンと呼ばれる、アクリル系ポリマーの水性分散物を用いることが出来る。本発明においては、市販品のアクリル系樹脂エマルジョンを用いる事が可能である。この場合、本発明においては実質的に防腐剤は配合されない為、樹脂エマルジョンが多量の水を含むために生じる菌汚染の発生には充分注意が必要である。
【0012】
前記アクリル系ポリマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル系モノマー単位を含むポリマーであり、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル酸エステル系モノマー単位を含むポリマー(アクリル酸エステル系ポリマーという。)が好ましい。
【0013】
アクリル酸エステル系ポリマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル酸エステル系モノマーの重合体でも、前記アクリル酸エステル系モノマーとそれ以外の他モノマーとを共重合して得られる重合体でも構わない。
【0014】
前記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸エステル系モノマーは1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
【0015】
また、前記他モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、スチレン、エチレン、プロピレン等のオレフィン等が挙げられる。他モノマーは1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
【0016】
本発明においては、アクリル系ポリマーとして、前記アクリル酸エステル系モノマーを主成分とするモノマー混合物の重合体がさらに好ましく、特に、アクリル酸エチル及び/又はメタクリル酸エチルを主成分とするモノマー混合物の重合体が好ましい。
【0017】
また水性分散物でないタイプのアクリル系ポリマーも使用可能であり、例えばアクリル酸アルキルアミド・アクリル酸エステル系共重合体(以下、アルキルアミド系共重合体ともいう。)がある。
【0018】
前記アルキルアミド系共重合体の一モノマー単位であるアクリル酸アルキルアミドを構成するアルキルアミドのアルキル基は、炭素数4〜12のアルキル基が好ましい。さらに好ましくは炭素数6〜10のアルキル基である。特に、オクチル基が好ましい。
【0019】
また、前記アルキルアミド系共重合体の一モノマー単位であるアクリル酸エステルのエステルを構成するアルコールの残基はアルキル基が好ましく、なかでも炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。さらに好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。特に、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0020】
前記アルキルアミド系共重合体のアクリル酸アルキルアミド単位及びアクリル酸エステル単位の比率、それぞれの鎖の長さは任意に設定することができる。なお、前記アルキルアミド系共重合体には、アクリル酸アルキルアミド単位及びアクリル酸エステル単位以外に、通常、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等の単位を含む。このうち、メタクリル酸エステルのエステルを構成するアルコールの残基については、前記アクリル酸エステルの場合と同じである。
【0021】
本発明に用いられる前記アルキルアミド系共重合体は、市販品を用いることが可能であり、市販品の例としては、例えばアンフォマーV42、ダーマクリル79、ダーマクリルLT(以上、日本NSC社製)等が挙げられる。
【0022】
本発明の睫用化粧料への前記アルキルアミド系共重合体の使用に当たって、微粒子の微粉末をアルカリ水溶液と中和して分散体及び/又は溶液として使用される。
【0023】
本発明において用いられる高級脂肪酸アミン塩は、睫用化粧料に高級脂肪酸アミン塩として配合しても構わないが、一般的には高級脂肪酸とアミンをそれぞれ配合し、製造中に反応して塩を形成させることで高級脂肪酸アミン塩を睫用化粧料中に含有させる方法をとる。この場合、睫用化粧料中に過剰の高級脂肪酸が存在しても構わない。前記高級脂肪酸としては,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,アラキン酸,ベヘニン酸,オレイン酸,イソステアリン酸等が挙げられ,これらを一種あるいは二種以上で用いることができる.前記アミンとしてはトリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン,2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール等があげられ,これらを一種あるいは二種以上で用いることができる.高級脂肪酸塩の含有量は、睫用化粧料全量中0.5〜3.0重量%が好ましい。
【0024】
本発明の睫用化粧料には、水を連続相とするO/W型の乳化組成物を形成する。すなわち刺激性が問題となる揮発性油分を高配合しなくても、乾燥速度の速い処方が可能で、また、睫用化粧料が油分に馴染んで目の周りが黒くなる現象、いわゆるパンダ目になりにくい。
【0025】
また本発明において、防腐剤は実質的に配合されない。ここでいう防腐剤とは、パラベン類やフェノキシエタノール等で、薬事法に基き定められた化粧品基準において、別表第3に掲げられた成分をいう。
【0026】
本発明の睫用化粧料には、前記成分の他、通常の睫用化粧料に用いられる他の成分、例えば、粉末・顔料、液状油分、固形油分、前記必須成分以外の高分子化合物・多価アルコール、香料、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤、薬剤等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0027】
上記任意配合成分のうち、粉末・顔料の具体的な例としては、例えば、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、シリカ、酸化アルミニウム、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、雲母チタン、結晶セルロース、ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、シリコン樹脂粉末等が挙げられる。顔料・粉末は1種または2種以上が任意に選択されて配合することができる。
【0028】
また、液状油分としては、常温で液状の油分で通常化粧品で使用されるものであれば特に限定されず、具体的例としては、油脂類、ロウ類、炭化水素、エステル類、脂肪酸類、アルコール類、シリコーン類等が挙げられる。
【0029】
また、固形油分としては、常温で固形状の油分で通常化粧品で使用されるものであれば特に限定さえれず、具体例としては、硬化油、モクロウ等の固形の油脂、ベヘニルアルコール等の固形の高級アルコール、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、オゾケライト等の固形炭化水素、ミツロウ、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、コメヌカロウ、鯨ロウ等の固形のロウ、シリコンワックス等、トリメチルシロキシケイ酸、水素添加エステルガム等の油溶性皮膜形成剤が挙げられる。
【実施例】
【0030】
下記表1の実験例1及び2について一般的に用いられている方法で睫用化粧料を試作し、高級脂肪酸アミン塩の添加によるアクリル系ポリマーの不安定化抑制効果を検証した。
表1

*樹脂分約50重量%
【0031】
実験例1においては、時間や回転数等の混合攪拌条件を変えると、試作時の粘度が変化し、長時間のせん断をかけ続けるほどポリマーが凝集し増粘等する傾向が見られた。しかしながら、実験例2においてはそのような傾向は見られず安定した粘度のものが得られた。
【0032】
上記実験より、高級脂肪酸アミン塩による樹脂の分散安定化が確認されたため、パラベン等の防腐剤を使用しない睫用化粧料の防腐効果について、以下に実施例により本発明を更に詳しく説明する。なお配合量における%は重量%である。以下に本発明で用いた試験法について説明する。
【0033】
[防腐力試験]
試料20gに菌液を接種後混釈平板培養法で、生菌数を測定し2週間経過時まで、生菌数の変化を調べ防腐力を評価した。接種菌は細菌、酵母、カビを用いた。得られた結果を以下の4段階に分類した。
◎ :全ての菌種において直ぐに効果が認められた。
○ :1部の菌種において直ぐに効果が認められないものがあった。
△ :効果が遅く不合格。(製品の種類によっては合格)
× :効果が非常に遅く、防腐効果が認められない。
【0034】
[防腐剤検討]
下記の表2を基本処方として変動成分の割合を変えて検討を行った。変動成分の詳細と防腐力試験結果を表3に示す。
表2

*1 無水ケイ酸及び粘土鉱物の混合物
*2 樹脂分約50重量%
【0035】
表3

【0036】
上記の結果から、エタノール単独では充分な防腐効果が得られず、他の成分と併用する必要がある事が分かる。また、実施例1と比較例3,4の生菌数変化はほぼ同等であり、パラベンやフェノキシエタノールを用いたものと同レベルの防腐力結果が得られた。
【0037】
[実施例2,3]
同様にアクリル系ポリマーとしてアクリル酸アルキルアミド・アクリル酸エステル系共重合体を用いた処方について評価した。
表4

*ダーマクリルLT(日本NSC社製)
【0038】
「比較例5」
実施例4の、1,2-ペンタンジオールを1,3-ブチレングリコールに置き換え、フェノキシエタノール0.3%配合した処方の防腐力を評価したところ、結果は△であった。
【0039】
上記実施例に示した組成物はいずれも、ポリマーの凝集と思われる粘度の増加やゲル化は見られなかった。
以上から分かるように、アクリル系ポリマーを使用した睫毛用化粧料で、フェノキシエタノールやパラベン等の従来の防腐剤を使用しなくても、同等な防腐効果を得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール、1,2−ペンタンジオール及びアクリル系ポリマーを含有し、かつ実質的に防腐剤を配合しない水中油型睫用化粧料。
【請求項2】
アクリル系ポリマーが、アクリル酸アルキルアミド・アクリル酸エステル系共重合体又は、アクリル系樹脂エマルジョンである請求項1記載の水中油型睫用化粧料。
【請求項3】
高級脂肪酸アミン塩を含有する請求項1又は2記載の水中油型睫用化粧料。
【請求項4】
エタノール配合量が2.5〜5.0重量%及び1,2−ペンタンジオール配合量が2.0〜5.0重量%である請求項1〜3のいづれか一項記載の水中油型睫用化粧料。

【公開番号】特開2008−24643(P2008−24643A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198686(P2006−198686)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(390041036)株式会社日本色材工業研究所 (37)
【Fターム(参考)】