説明

矢板杭

【課題】耐久性及び施工性に優れる矢板杭を提供する。
【解決手段】矢板杭10は、上端を打撃することによって人力で地面に打ち込み可能とされており、断面中空の筒部本体11と、筒部本体11の外周面に形成された一対の継手部12,15とを有しており、これら一対の継手部12,15は、それぞれ、筒部本体11の外周面上に軸方向に沿って延びるリブ部13,16と、これらリブ部13,16それぞれの先端に形成され、かつ、他の矢板杭10の継手部に対して軸方向移動可能でかつ径方向移動不能に嵌合する嵌合部14,17とによって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矢板杭に関する。より詳しくは、土留め、遮水等を行なうのに有用な矢板杭に関する。
【背景技術】
【0002】
目的とする構造物を造るために、土留めや遮水することによって土圧や水圧をささえてボイリング現象等を防止したり、法面や段差の崩壊を防止したりするために、土留工が施されることがある。例えば、河川等の水域内において橋脚を設ける場合等には、鋼管に継手を直接溶接した複数の鋼管矢板杭を地盤に打設して鋼管矢板を敷設する前記土留工が施されている。
しかしながら、前記鋼管矢板杭は、鋼管に継ぎ手を直接溶接した構造を有するため、鋼管のサイズが大きくなりやすく、大きな打設重機を要し、しかも搬送や現場での取り扱いも困難である。
したがって、前記鋼管矢板杭を用いた鋼管矢板は、大きな重機が侵入し難い場所には不向きである。
【0003】
そこで、山間部等のように大型の重機が侵入しにくい場所においては、資材が比較的軽量であり、施工場所への運搬が容易であることから、木製土留柵が設置される場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−113946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記木製土留柵は、当該木製土留柵に用いられる丸太杭が腐食等によって劣化しやすいため、耐久性が低いという欠点がある。また、前記木製土留柵は、機械的強度が小さいため、大きな背面土圧がかかる場所には不向きである。
また、前記丸太杭では、杭の打ち込み方向に垂直な2本の線を含む断面の断面積が大きくなっているため、当該丸太杭を地面に打ち込む際に、丸太杭と地面との接触部分に大きな抵抗がかかり、人力で当該丸太杭を打ち込むのが困難な場合がある。このような場合には、重機を用いて当該丸太杭を地面に打ち込むか、又は掘削用工具で予め掘削した穴に丸太杭を埋め込む必要があるため、施工が困難であることがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れ、かつ施工性に優れる矢板杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の矢板杭は、上端を打撃することによって人力で地面に打ち込み可能な矢板杭であって、断面中空の筒部本体と、この筒部本体の外周面に形成された一対の継手部とを備えており、前記一対の継手部は、前記筒部本体の外周面上に軸方向に沿って延びるリブ部と、このリブ部の先端に形成され、かつ、他の前記矢板杭の前記継手部に対して軸方向移動可能でかつ径方向移動不能に嵌合する嵌合部とを有することを特徴としている。
【0008】
本発明の矢板杭は、筒部本体の外周面上に軸方向に沿って延びるリブ部を有しているため、筒部本体のみの場合と比べて断面二次モーメントが大きくなっている。これにより、筒部本体の機械的強度が向上している。
さらに、本発明の矢板杭では、その本体が断面中空の筒部本体であるため、中実の円柱状の杭と比べて、当該矢板杭の軸方向端部における地面との接触面積が小さくなっている。これにより、地面に打ち込む際に地面から受ける抵抗が小さくなっている。したがって、本発明の矢板杭は、上端を打撃することによって人力で地面に容易に打ち込むことができ、施工性に優れている。
【0009】
本発明の矢板杭では、前記筒部本体及び前記一対の継手部が、軽金属又は軽金属合金により一体に成形されていることが好ましい。この場合、切断等の加工がしやすく、かつ矢板杭をより軽量化することができる。したがって、かかる構成を採用した矢板杭によれば、大型の重機や加工具が搬入しにくい施工場所に容易に運搬することができ、矢板構造を容易に設置することができる。また、かかる構成を採用した矢板杭は、耐久性に優れている。
【0010】
本発明の矢板杭では、前記筒部本体の外周面に、互いに平行な一対の平面部が形成されていることが好ましい。この場合、また、取り付ける対象の構造物と矢板杭との接触面積が大きくなっているので、当該矢板杭に対して構造物を強固に取り付けることができる。
【0011】
本発明の矢板杭では、前記筒部本体の第1の直径方向に沿って配置されており、前記一対の平面部が、前記第1の直径方向と直交する第2の直径方向が法線方向となるように配置されていてもよい。かかる構成を採用した矢板杭を継手部によって複数本連結して矢板構造を形成した場合、前記平面部が矢板構造の前面及び背面に配置される。したがって、横矢板等の板状の構造物の取り付けが容易である。
【0012】
本発明の矢板杭では、前記一対の継手部の一方が、軸方向に長いスリットを有する管状の雌継手部であり、他方が、前記スリットに対して抜け止め状態でスライド自在に嵌合する雄継手部であってもよい。かかる構成を採用した矢板杭では、当該矢板杭を複数本連結して矢板構造を形成する時には、一方の矢板杭の継手部の嵌合部に対して、他の矢板杭の継手部の嵌合部を嵌合させやすい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の矢板杭は、機械的強度に優れ、かつ施工性に優れるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る矢板杭を用いた矢板構造の一例を示す概略説明図である。
【図2】図1に示される矢板構造の一部拡大斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る矢板杭の斜視図である。
【図4】(a)は本発明の一実施の形態に係る矢板杭の平面図、(b)は、矢板杭の正面図である。
【図5】(a)は本発明の一実施の形態に係る矢板杭の右側面図、(b)は、矢板杭の左側面図である。
【図6】図4(b)のA−A’線での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[矢板構造]
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る矢板杭を用いた矢板構造を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る矢板杭を用いた矢板構造の一例を示す概略説明図である。図2は、図1に示される矢板構造の一部拡大斜視図である。なお、本一実施の形態に係る矢板構造1は、図2において、継手側方向に連続している。
【0016】
図1に示された矢板構造1は、沼地や河川等の水域における簡易遮水に用いられている矢板構造である。
矢板構造1は、複数の矢板杭10が、当該矢板杭の径方向に連結した構造を有している。これら矢板杭10それぞれの下側部分は、水面下の地盤40に打撃によって人力で打ち込まれている。そして、水域30の上流側と下流側とにおいて、遮水している。
【0017】
この矢板構造1では、隣り合う2つの矢板杭10は、図2に示されるように、一つの矢板杭10の継手部12の嵌合部14と、他の矢板杭10の継手部15の嵌合部17とが嵌合することにより、互いに連結されている。
そして、嵌合部14と嵌合部17との間の隙間には、時間の経過によって硬化するモルタルや樹脂等の止水剤が充填されている。
【0018】
[矢板杭の構造]
つぎに、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る矢板杭を詳細に説明する。
図3は本発明の一実施の形態に係る矢板杭の斜視図、図4(a)は矢板杭の平面図、図4(b)は矢板杭の正面図、図5(a)は矢板杭の右側面図、図5(b)は矢板杭の左側面図、図6は図4(b)のA−A’線での断面図である。矢板杭10は、図4(b)において軸方向にのみ連続している。なお、背面図は、平面図と同一であり、省略する。
【0019】
矢板杭10は、断面中空の筒部本体11と、この筒部本体11の外周面に形成された一対の継手部12,15とから構成されている。
矢板杭10は、本体が断面中空の筒部本体11とされているので、中実の円柱状の杭に比べて軽量化されている。
したがって、大型の重機を運び込むのが困難な施工場所であっても、人力によって容易に矢板杭10を運搬することができる。
【0020】
また、矢板杭10は、本体が断面中空とされているので、重量あたりの強度が大きくされている。加えて、矢板杭10では、地面に打ち込む際に地面と接触する軸方向端部の表面積が小さくされており、地面に打ち込む際に矢板杭10が地面から受ける抵抗が小さくされている。したがって、ハンディータイプの電動ハンマー等の打ち込み工具を用いて矢板杭10の上端を人力で打撃することにより、矢板杭10を地面に容易に打ち込むことができる。
【0021】
筒部本体11の内径は、通常、50〜120mm程度である。前記内径は、矢板構造1の用途や設置場所、矢板構造1に取り付ける構造物の種類等に応じて適宜設定することができる。また、図3において、筒部本体11の最薄部分における径方向厚さは、通常、3〜6mm程度である。前記径方向高さは、矢板構造1の用途や設置場所、矢板杭10の運搬性等に応じて適宜設定することができる。
【0022】
一対の継手部12,15は、筒部本体11の外周面に形成されている。これら継手部12,15は、筒部本体11の直径方向(第1の直径方向)に沿って配置されている。
継手部12は、筒部本体11の外周面上に軸方向に沿って延びるリブ部13と、このリブ部13の先端(筒部本体11の径方向外方側の一端)に形成された嵌合部14とからなる。嵌合部14は、断面T字状の凸部からなり、リブ部13と一体に形成されている(図4(a)参照)。1つの矢板杭10の継手部12の嵌合部14は、他の矢板杭10の継手部15に対して軸方向移動可能とされており、かつ径方向移動不能とされている。
また、継手部15は、筒部本体11の外周面上に軸方向に沿って延びるリブ部16と、このリブ部16の先端(筒部本体11の径方向外方側の一端)に形成された嵌合部17とからなる。嵌合部17は、断面C字状の凹部からなり、リブ部16と一体に形成されている(図4(a)参照)。かかる嵌合部17は、筒部本体11の軸方向に管状に形成されており、この管状部の軸方向に長いスリットが形成されている。
【0023】
このように、矢板杭10では、筒部本体11の外周面上に軸方向に沿って延びるリブ部13,16を有しているので、断面二次モーメントが大きくなっており、機械的強度が向上している。
リブ部13,16それぞれの径方向高さは、通常、10〜20mm程度である。前記径方向高さは、矢板杭10に求められる機械的強度、矢板構造1の用途、矢板杭10の運搬性等に応じて適宜設定することができる。
【0024】
矢板杭10を複数本連結して矢板構造1を形成する時には、継手部12は雄継手部として用いられ、継手部15は雌継手部として用いられる。すなわち、一方の矢板杭10の継手部12の断面T字状の凸部からなる嵌合部14を、他方の矢板杭10の継手部15の断面C字状の凹部からなる嵌合部17を形成する管内に、スリットに沿って挿入することにより、当該嵌合部14を、嵌合部17のスリットに対して抜け止め状態でスライド自在に嵌合させることができる。これにより、隣り合う2つの矢板杭10を容易に連結させることができる。
【0025】
また、筒部本体11の外周面には、互いに平行な一対の平面部18,19が形成されている。これら平面部18,19は、前記第1の直径方向と直交する第2の直径方向がそれらの法線方向となるように配置されている。
したがって、かかる矢板杭10を複数本連結して矢板構造1を形成した場合、当該矢板構造1の前面側及び背面側それぞれに平面部18,19が配置される。したがって、かかる矢板杭10に対して、横矢板等の板状の構造物を容易に取り付けることが可能になる。
また、平面部18,19では、筒体本体11の断面円弧状の部分と比べて、筒部本体11の法線に沿って構造物の取り付けのためのねじ穴の加工等がしやすくなっている。また、このように構成されているので、構造物との接触面積を大きくすることができることから、構造物が取り付けやすくなっている。
平面部18,19では、径方向に一部肉厚とされている。これにより、筒部本体11の外周面にリブを形成するのと同様に、断面二次モーメントが大きくなり、矢板杭10の機械的強度が向上している。
【0026】
矢板杭10の筒部本体11及び継手部12,15は、アルミニウム合金により一体に形成されている。したがって、矢板杭10の本体が断面中空の筒部本体11とされていることと相俟って、一層軽量化されている。また、アルミニウム合金は加工が容易で、かつ木材等と比べて腐食しにくいので、矢板杭10は、切断等の加工性及び耐久性にも優れている。
【0027】
かかる矢板杭10は、アルミニウム合金を押出成形して筒部本体11、継手部12,15を一体に形成させることによって容易に製造することができる。
また、矢板杭10の筒部本体11及び継手部12,15を構成するアルミニウム合金からなる母材の表面にはアルマイト膜からなる酸化皮膜が形成されている。これにより、矢板杭10では、アルミニウム合金からなる母材の酸化による経年劣化が抑制されている。
【0028】
矢板杭10を用いた矢板構造1の設置は、必要な量の矢板杭10を人力で施工場所に運搬し、ハンディータイプの電動ハンマー等の打ち込み工具を用いて一方の矢板杭10の継手部12と他方の矢板杭10の継手部15とを嵌合させながら、人力で矢板杭10を地面に打ち込むことにより行なうことができる。このとき、必要に応じて、矢板杭10を切断する等の加工を施すことができる。
【0029】
[変形例]
前記実施の形態では、筒部本体11の同一法線上に継手部12,15を配置しているが、本発明においては、求められる矢板構造の形状に応じて、継手部12,15それぞれの配置を設定することができる。
【0030】
また、本発明においては、筒部本体11及び継手部12,15を構成する母材は、アルミニウム合金に代えて、軽金属や、他の軽金属合金であってもよい。
【0031】
本発明においては、矢板杭10の母材の表面には、母材の酸化や、表面損傷を抑制するために、硬質クロムめっき膜、無電解ニッケルめっき膜等のめっき膜や、アルマイト膜以外の酸化皮膜を形成させてもよい。
【0032】
さらに、矢板杭10の継手部12,15の嵌合部14,17の断面形状は、互いに嵌合できる形状であればよく、例えば、両者を断面C字状としてもよい。
【0033】
本発明の矢板杭10は、簡易遮水の用途だけではなく、例えば、法切り斜面における土留め、盛土面における土留め、斜面防災、雪崩防止、樹木の根張り防止等の種々の用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 矢板構造
10 矢板杭
11 筒部本体
12 継手部
13 リブ部
14 嵌合部
12 継手部
13 リブ部
14 嵌合部
18 平面部
19 平面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端を打撃することによって人力で地面に打ち込み可能な矢板杭であって、
断面中空の筒部本体と、この筒部本体の外周面に形成された一対の継手部とを備えており、
前記一対の継手部は、前記筒部本体の外周面上に軸方向に沿って延びるリブ部と、このリブ部の先端に形成され、かつ、他の前記矢板杭の前記継手部に対して軸方向移動可能でかつ径方向移動不能に嵌合する嵌合部とを有することを特徴とする矢板杭。
【請求項2】
前記筒部本体及び前記一対の継手部が軽金属又は軽金属合金により一体に成形されている請求項1に記載の矢板杭。
【請求項3】
前記筒部本体の外周面には、互いに平行な一対の平面部が形成されている請求項1又は2に記載の矢板杭。
【請求項4】
前記一対の継手部が、前記筒部本体の第1の直径方向に沿って配置されており、
前記一対の平面部が、前記第1の直径方向と直交する第2の直径方向が法線方向となるように配置されている請求項3に記載の矢板杭。
【請求項5】
前記一対の継手部の一方が、軸方向に長いスリットを有する管状の雌継手部であり、他方が、前記スリットに対して抜け止め状態でスライド自在に嵌合する雄継手部である請求項1〜4のいずれかに記載の矢板杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−241591(P2011−241591A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114308(P2010−114308)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(508324008)株式会社ラスコジャパン (3)
【Fターム(参考)】