知識創造プロセスにおける技術軌道分析装置および分析方法
【課題】知識創造プロセスの分析に好適な分析装置が提案されていない。
【解決手段】ある一件の特許公報テキストは、ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の要素からなるコンテキスト(一つの問題解決シナリオ)として記述されているものである。従って、Fタームのような特許分類を使用して技術課題、解決手段、作用・効果の3種類のいずれか1つ以上の技術要素の組合せによる論理関数の定義による技術知識特性(分析概念という)の時系列的な出現数の積分として所定の時間軸上に表示する(技術軌道という)ことを特徴とする知識創造プロセスの分析に好適な技術軌道分析装置を提供する。
【解決手段】ある一件の特許公報テキストは、ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の要素からなるコンテキスト(一つの問題解決シナリオ)として記述されているものである。従って、Fタームのような特許分類を使用して技術課題、解決手段、作用・効果の3種類のいずれか1つ以上の技術要素の組合せによる論理関数の定義による技術知識特性(分析概念という)の時系列的な出現数の積分として所定の時間軸上に表示する(技術軌道という)ことを特徴とする知識創造プロセスの分析に好適な技術軌道分析装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
文書データ処理技術は、対象とする文書や特許情報(特許データベース)に関係するキーワード検索や、類似検索方法など分類対象の分類や整理に関する技術が中心的なテーマである。本発明は、特許情報(特許公報テキスト)を知識創造の成果物、特に技術知識の創造活動の結果であると捉えて、その技術知識の累積的な創造の軌跡として分析する技術軌道分析装置およびその分析方法、更に、そのような分析結果を分かり易く描画する技術軌道分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
文書検索や特許データベースに関する分類法として、国際特許分類(IPC)や日本固有の特許分類であるFI,Fタームを使用する方法や文書のテキストに含まれるキーワードや文書のテキストを形態素に分解して統計的なデータ処理で類似度を求める形態素分析方法などがある。
【0003】
従来の文書検索技術では、複数の文書を保有する文書データベースに対して、入力されたキーワードに適合する文書中に出現する単語からキーワードとの関連度が高い単語を選出し、その選出した関連語を新しいキーワードとして追加するキーワード生成部を備え、入力キーワードによる適合文書群を特定の項目が共通あるいは近接の値を持つ複数の集合に分割して、それぞれの集合ごとに求めた関連語候補のうち入力キーワードと関連度の高い関連語候補の和集合を関連語とすることを特徴とする文書検索装置が提案されている。これは、適合文書とみなした文書が実際には適合文書でなかった場合に、関連語として適さないものを選出するというリスクを低減するものである。ここで、特定の項目は、国際特許分類、ファセット分類、Fターム等の特許分類であることとしているが、目的はキーワードに関する文書検索にあり、またキーワード中の各単語の重みをもとに各文書の文書適合度を計算して検索するものがある。(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、入力された複数のデータ(特許公報テキスト)に付属する属性を用いて並び替えをした場合に、データの内容が類似するものを接近するように並び替えて表示することを可能とするデータ表示装置、データ表示方法である。ここでデータに付属する属性にFタームを使用し、共起頻度とハミング距離との少なくとも一方に基づいて、各データを並び替えて表示することを特徴とするデータ表示方法である。これによれば、複数の特許公報テキストの内容が類似するものを近接するように並び替えて表示することを可能とするものがある。(例えば、特許文献2)。
【0005】
あるいは、特許出願を検討しているアイデアの技術的な位置付けを把握するアイデア整理支援装置がある。アイデア整理支援装置において、特許出願を検討しているアイデアを含む電子文書から検索条件を生成する。その検索条件を基に検索し、検索の結果得られた特許文献を取得し、その特許文献からFターム群を抽出する。そして抽出されたFターム群のテーマコードを根ノードとする部分木の構造に従ってFタームマップを表示し、抽出されたFターム群を強調表示するものである。この装置の目的は、あくまで特許出願時のアイデア整理支援である。(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2004−192374号公報
【特許文献2】特開2010−231734号公報
【特許文献3】特開2010−237848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、文書や特許公報テキスト等に関する、文書データ処理技術は、所定のキーワードや文書の内容に類似するものを検索するもの、また、Fターム等の付属する属性により類似するものが接近するように並び替えるもの、あるいは、所定の特許公報テキストのFターム群をその技術的な位置付けを把握するために、Fタームマップ上に強調表示するなどの優れた特性を備えた技術や支援装置が提案されている。
しかし、例えば、特許公報テキストを知識創造活動の成果物(以下、それらの総称として特許公報テキストと呼ぶ)、特に技術知識の創造活動(知識創造プロセス)の結果であると捉えて、その知識創造プロセスを分析しようとする技術的な思想が存在しなかった。その理由は、知識創造プロセスにおける技術軌道を分析する概念(以下、分析概念と呼ぶ)の定義が無かったり、具体的な技術軌道の分析の手段が未確立であったり、加えて単元型の特許分類である国際特許分類(IPC)を使用した場合は、技術軌道分析のための知識特性の精度や識別の粗さなどにより信憑性が不十分である等の問題点があった。さらに、特に学術・研究目的や研究者向けに開発された特許データベースは公開されてはいるが、ファイル・インデックス(FI)やFタームの特許分類を含めるとその容量が膨大になることや、その特許分類が日本固有であるため国際比較ができないなどの理由により、FI,Fタームの特許分類は知識創造に関する研究領域や知識科学等にあまり使用されてこなかった。従って、技術知識を分類するのに適したファセット分類法であるFI,Fタームの特許分類を使用した場合について、本発明のような技術軌道分析方法の効果についは、十分に検討もされていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者らは、上述のような課題に鑑みて、特許公報テキストに付与されている日本固有のFI,Fタームの特許分類を使用した知識創造プロセスの分析の可能性について鋭意研究をすることにより、所定の手順に基づいて実施することにより、知識創造プロセスにおける技術軌道分析が、容易に実現されることを検証することができた。また、本発明の技術軌道分析法において、技術要素をFI,Fタームとして分析することにより、研究開発における技術限界、技術選択や死の谷の問題等における分析についても有効であることを見出した。そこで、このような知識創造プロセスにおける技術軌道分析装置及びその分析方法を提供する。また、その分析結果を分かり易く表示させる技術軌道分析システムを提供する。
【0008】
より具体的には、以下のようなものを提供することができる。
(1)特許公報テキストの分類を技術課題、解決手段、作用・効果の3種類の技術要素としてグループ編成した切り口に関する組合せにより時系列的な出現数の積分として技術軌道を表示する技術軌道分析装置を提供することができる。
【0009】
ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の各要素は、Fタームでグループ編成した時系列データとして表される。ここでは、知識創造プロセスによって、特許データベースに3種類の技術要素が漸進的に蓄積されていることを前提としている。
【0010】
すなわち、ある一件の特許公報テキストは、ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の要素からなるコンテキスト(一つの問題解決シナリオ)として記述されているものである。特許明細書の記載規則として相互に関係する技術要素は、技術課題、解決手段、作用・効果の要素から構成される。また長期的に継続的な特許や発明の知識創造プロセスにおいてコンテキストの各構成要素の差分が累積的に形成されることが予測される。
また技術知識の分類・整理に適しているファセット分類法であるFターム等を使用した分析により、技術知識の多様でダイナミックな知識創造プロセスの分析が可能となる。従って、ある技術テーマに関する少なくとも1種以上の3種類の技術要素についての時間的総和(積分)を示すものとして技術軌道が形成されることが期待される。
【0011】
(2)基本分析手順として知識創造プロセスにおいてその知識創造の成果物である技術課題、解決手段、作用・効果のいずれかの技術要素の組合せを対象として、予め当該技術要素の論理関数によって定義された分析概念を登録することにより、自動的に当該技術要素の論理関数の時間的積分によって表される技術軌道を編集表示することを特徴とする技術軌道分析方法を提供することができる。
【0012】
(3)予め複数の技術要素で構成される技術軌道関係を定義することによって、各技術軌道間の技術距離を計算することにより、自動的に各技術軌道間の技術距離について編集表示することを特徴とする技術軌道分析方法を提供することができる。
【0013】
(4)前記の(2)及び(3)の方法を連結する方法により、知識創造プロセスにおいて、予め技術軌道間関係の定義によって、各技術軌道間の技術距離の推移を、基準となる技術軌道に対する各技術軌道の知識焦点化の効果として編集表示することを特徴とする技術軌道分析システム。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の知識創造プロセスにおける技術軌道分析システムは、特に研究開発プロジェクトにおける技術限界や技術選択に関する分析に優れる。また、このような技術軌道分析方法は、大規模なコンピュータシステムを必要としない。PC(パソコン)における計算ソフトと特許分類データの編集ソフト等の開発環境により、技術軌道分析システムの構築が可能であり、その分析結果を分かり易く処理時間も短時間で分析結果を表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に関する知識創造プロセスにおける実施例の技術軌道分析装置のブロック図である。
【図2】3種類の技術要素の概念を説明するブロック図である。
【図3】技術軌道の概念を説明する表示画面のイメージ図である。
【図4】技術軌道分析方法の基本分析手順フロー図である。
【図5】分析概念入力設定画面のレイアウト図である。
【図6】技術軌道の表示画面のイメージ図である。
【図7】電子ビーム露光のテーマコードに関するFタームリストの説明図である。
【図8】超LSI研究組合のテーマコード順位の表示画面のイメージ図である。
【図9】技術軌道関係入力設定画面のレイアウト図である。
【図10A】Fターム関数データテーブル構成図である。
【図10B】時系列Fターム元データテーブルの全体構成図である。
【図10C】時系列Fタームマトリクスデータテーブルの全体構成図である。
【図11A】テーマコード順データテーブルの構成図である。
【図11B】技術軌道データテーブルの構成図である。
【図11C】技術軌道関係データテーブルの構成図である。
【図12】電子ビーム露光領域に関する技術軌道の画面表示のイメージ図である。
【図13】知識焦点化係数のグラフである。
【図14】期間別組織別の出願件数と知識焦点化係数の一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施例について、図面に基づいてより詳しく説明するが、実施例は説明のための例示であり、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明に関する知識創造プロセスにおける技術軌道分析装置のブロックを図解する。この技術軌道分析装置1は、計算制御部2と各種のデータ類を記憶するデータベース部3から構成される。そして、計算制御部2は、分析概念入力設定12と、技術軌道編集表示13と、技術軌道関係入力設定14と、技術軌道間距離編集表示15と、それらとの入出力制御を行う入出力制御11から構成される。また、データベース部3は、Fターム関数データ21と、時系列Fタームデータ22と、テーマコード順位23と、技術軌道データ24と、技術軌道関係データ25と、技術軌道間距離データ26についてのデータベース管理を行うものである。
【0018】
図2は、3種類の技術要素の概念を説明するブロック図である。特許公報テキストは、人的資産から巧みに切り離された知的資産の代表的な知的財産の一つである。また、ある一件の特許公報テキストは、ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の要素からなるコンテキスト(一つの問題解決シナリオ)として記述されているものである。そして、図2に示すように相互に関係する技術要素は、技術課題、解決手段、作用・効果の要素から構成されると捉える。そうすれば、ある技術領域における長期的に継続的な特許や発明の知識創造プロセスにおいてコンテキストの各構成要素の差分が累積的に(分析されるべき技術軌道)形成されることを前提としている。
【0019】
図3は、技術軌道の概念を説明する表示画面のイメージ図である。ここで、技術軌道を技術課題、解決手段、作用・効果の3種類の技術要素にグループ編成した切り口に関する組合せにより時系列的な出現数の積分として定義する。即ち、ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の各要素は、Fタームでグループ編成した時系列データとして表される。ここでは、特許データベースに3種類の技術要素が漸進的に蓄積されていることを前提としている。また技術知識の分類・整理に適しているファセット分類法であるFタームを使用した分析法の適用により、技術知識の多様でダイナミックな知識創造プロセスの分析が可能となる。
【0020】
また、図3は、技術軌道として、ある技術テーマに関する少なくとも1種以上の3種類の技術要素(基本構成要素)に関する分析概念を時間的総和(積分)として可視化するものである。技術軌道は、Y軸に技術要素であるFタームの出現数、X軸に時間軸、Z軸に分析概念単位の空間に配置されている。簡単のため、ここでは、技術課題(P)、解決手段(S)、作用・効果(E)を個別の技術軌道として表したが、分析概念は、各基本構成要素の論理関数として表すことができる。本願における分析対象は特許公報テキストに限定するものではなく、また、データに付属する属性は、必ずしもFタームに限定するものではなく、特許分類の分解能に固有の限界はあるもののIPCやデータに付属する属性として開発した新しいインデックスであってもよい。
【0021】
図4は、技術軌道分析方法の基本分析手順フロー図である。これは、主に分析概念入力設定を行うステップ2と技術軌道編集表示を行うステップ3及び、技術軌道関係入力設定を行うステップ6と技術軌道間距離の編集表示を行うステップ7の分析手順から構成される。先ず、ステップ1において一連の分析処理のためのイニシエーション(初期設定)を行う。また、分析結果の評価の有効性について分析結果を確認して、十分な分析結果が得られなかった場合や、別の分析概念について技術軌道分析を行いたい場合等は、ステップ2に戻り、分析概念の入力設定を繰り返してやり直せばよいのである。そして、分析評価が有効であれば、ステップ5へリンクする。ステップ5では、各技術軌道に関する技術距離の分析が必要か否かを判定し、不要の場合は、処理を終了する。
技術軌道分析に加えて、技術軌道間距離の分析が必要な場合は、既にステップ3で技術軌道分析を行った複数の技術軌道を指定して、それらの関係入力設定を行うステップ6と技術軌道間距離の編集表示を行うステップ7を行う。また、ここで、複数の技術軌道を指定する場合には、その中で基準となる技術軌道を設定することにより、その基準となる技術軌道とその他の技術軌道間との技術距離の編集表示を行う。そして、複数の期間を設定することにより、それらの期間ごとに技術距離の推移を分析することもできる。
ここで、分岐をともなう判断のステップでは、最終的には分析者による判断を伴うが、予め判断基準を統計処理に組込むことによって機械的な判断によって分析者に警告等をおこない、分析支援を行うこともできるようになっている。
【0022】
図5は、分析概念入力設定画面のレイアウト図である。画面レイアウトは、主に分析概念入力設定画面のタイトル部201、共通設定部202、ボタン部203、明細表示部204、分析概念のボタン押下により表示されるサブウインドウ部205から構成される。ここでは、以下で説明する実施例1に関して1部の内容を示している。ここで、共通設定部202の公報種別は、特許、実用新案などの選択、分類区分は、FI(ファイル・インデックス),FT(Fターム)、IPC(国際特許分類)などの選択、期間区分は、出願日、登録日などの選択を行うことができる。そして、分析名称は、既に設定された分析名称に関する選択ができるようになっている。また、新規に分析概念を設定する場合は、ボタン部203の分析概念ボタンを押下することによって、分析概念設定のサブウインドウ部205が呼び出される。ここでは、分析名称の新規の追加、削除、修正などの設定を行う。例えば、技術要素をFタームの組合せを論理式(添加剤硬化剤の場合を示す)で表し、入力枠に論理式で入力することが可能になっている。このような設定後に、当該分析名称を共通設定部202の分析名称で指定して、ボタン部203で検索ボタンを押下した場合は、明細表示部204に対象となる特許公報テキストの詳細内容が表示される。特に詳細情報として、特許分類のIPC,FI,FTの個数や内容を表示して確認ができるようになっている。共通設定部202と明細表示部203の間には、検索結果の特許公報テキスト件数、分析概念の論理式が表示される。また、1ページで表示されない場合のために、現在のページNoの表示と前項、次項ボタンにより、改ページができるようになっている。尚、指定期間は、検索対象範囲を選択された期間区分に従って出願日であれば、出願日の指定期間の特許公報テキストを検索する。また指定間隔は、当該論理式の技術軌道を描画するときの間隔を指定するものである。ボタン部203の登録は、検索結果の登録に、表示は、検索結果の再表示に、表出力は、表示されている明細表示部204の内容をファイルに出力する場合に使用するものである。メニューボタンは、各画面の呼び出しメニューへの切り替えボタンである。
【0023】
(実施例1)
図6は、実施例1に関する技術軌道の表示画面のイメージ図である。日本における接着剤の添加剤の領域における熱可塑系から熱硬化系への技術選択の技術軌道分析結果として視覚化された表示画面を示したものである。
具体的には、4J040(接着剤、接着方法)の技術領域において接着剤の添加剤の技術限界について、分析概念入力設定12により下記の論理関数を設定し、技術軌道編集表示13により技術軌道分析を行ったものである。
尚、図5は、分析概念入力設定画面のレイアウト図であり、入力枠には、下記の(i)を設定した状態を示したものである。
熱硬化型接着機構の論理式:[4J040JB02+4J040PA30+4J040PA31+4J040PB05]に対して以下のFタームの論理関数(i)および(ii)を分析概念として設定した。
(i)添加剤が硬化剤のFタームの論理式:[4J040JB02 + 4J040PA30 + 4J040PA31 + 4J040PB05] * [KA16]
(ii)添加剤が可塑剤のFタームの論理式:[4J040JB02 + 4J040PA30 + 4J040PA31 + 4J040PB05] * [KA31]
この分析結果である(i)、(ii)の両方の技術軌道を比較してみると、Fターム=”KA16”:硬化剤は添加剤として件数が多く1990年代より増加傾向の技術軌道となっており、Fターム=”KA31”:可塑剤は添加剤として件数が比較的少なく1995年以降から減少傾向の技術軌道を示していると解釈することができる。つまり、この実施例1によれば何らかの理由で熱硬化型接着機構の接着剤の添加剤が可塑剤から硬化剤へと1991年〜1995年にかけて技術選択されていった知識創造プロセスが時系列の技術軌道として可視化されたことになる。当該接着剤の添加剤に関して技術動向の質的調査してみると、熱可塑系では高分子のゴムを主成分としており、溶融粘着度が高く接続厚みを小さくできない限界があるため、熱硬化系の添加剤に関する研究開発を進めている事実と一致することが検証できた。即ち、実施例1では、技術軌道分析までの分析を実施した例を示したものである。
【0024】
(実施例2)
別の実施例2の態様として、本願の技術軌道分析方法を共同研究開発において、どのような知識を創造したかという知識創造プロセスを分析するだけではなく、共同研究開発が参加企業の研究開発テーマに及ぼす効果は何かを分析するために、共同研究開発及びその参加企業を対象にした知識創造プロセスにおける分析を行う場合にも適用可能である。
図7は、電子ビーム露光のテーマコードに関するFタームリストの説明図である。これは、テーマコード:5F056のテーマ名:電子ビーム露光に関するFテーマリストの1部分を示したものである。例えば、Fタームの露光方式(5F056AA00)は、直接描画方式、スポットビームというように階層的に付与され、ドット(・)は、その階層の深さを表している。上記の共同研究開発の実施例として、具体的にエレクトロニクス産業に大きなインパクトをもたらしたナショナルプロジェクトである超LSI技術研究組合(以下、超LSI
研究組合)を取り上げ、その知識創造活動を定量的に調査した結果を説明する。
【0025】
図8は、超LSI研究組合におけるテーマコード順位23の表示画面のイメージ図である。先ず、分析する技術領域を特定する為に、超LSI研究組合を出願人とする共同研究開発の実施期間(1976年〜1980年)における特許出願情報1045件について、テーマコード順位24を表示した画面表示のイメージ図を示したものである。上位から(5F040):絶縁ゲート型電界効果トランジスタ、(5F056):電子ビーム露光、(5F033):半導体集積回路装置の内部配線の順位となっている。このうち、超LSI研究組合における研究成果として、任意の長方形を一度に露光してパターンを描く描画時間を1桁以上も短縮するビーム露光法「可変整形電子ビーム方式」に関係する技術領域のテーマコード(5F056)を分析対象にした。共同研究開発の前期間(1971年〜1975年)、実施期間(1976年〜1980年)、後期間(1981年〜1985年)について、超LSI研究組合と参加企業5社(富士通、日立製作所、三菱電機、日本電気、東芝)の技術軌道分析を行うものとする。超LSI研究組合やその参加企業のFターム等の特許公報テキストに関する時系列Fターム元データ22は、特許庁の特許データベースや商用の特許データベースのデータを使用し、本願の技術軌道分析システムへ取り込んでもよい。
【0026】
分析者等からの要求を受けつけて入出力制御11は、分析概念入力設定12と技術軌道編集表示13により、以下の手順で行われる。ここでは、実施例2について詳細な処理手順について説明する。
(1)技術軌道分析の処理手順
まず、技術軌道を分析するためテーマコード(5F056)が付与された出願特許のFターム元データを抽出して、以下の処理を行う。ここで、技術要素であるFタームによる分析概念としてFタームをテーマコード(5桁)とFターム(4桁)をあわせて9桁と捉えると当該テーマコードに含まれる全てのFターム(4桁)が対象と考えることができる。
(i)出願人が超LSI研究組合と参加企業5社について電子ビーム露光(5F056)のテーマコードが付与された出願特許を抽出する。(Fターム元データ)
(ii)抽出した超LSI研究組合と参加企業5社の当該出願特許1941件について出願順に技術軌道をグラフ化(描画)する。(技術軌道データの描画)
(iii)当該出願特許1941件が付与された全てのFターム2709種類を抽出する。
但し、ここでは技術特性をできるだけ詳細に識別するため、Fタームは最下層まで抽出する。FI,FTはIPCと同様1つの出願特許に複数付与される場合があり、Fターム2709種類とはテーマコード(5F056)以外の全てのFタームについても抽出した結果である。(Fターム元データ)
【0027】
(2)技術距離分析の処理手順
次に、特に基準となる超LSI研究組合の技術軌道に対して、参加企業の技術軌道が一致する現象を知識焦点化として、その程度を知識焦点化係数(一致する場合は、係数値は、1.0となる)として算出するために、超LSI研究組合と参加企業に関して期間ごとの技術軌道の技術軌道ベクトル(以下、TTVと呼ぶ)を求め、各技術軌道の技術距離を求める。
(i)出願特許1941件と出願特許が付与された全てのFターム2709種類のマトリクスを作成する。(時系列Fタームマトリクスデータ)
(ii)出願特許が付与された当該Fタームを技術要素として特許毎にTTVを作成する。
(例:特許iのTTVは、Fi=(0, 0, 1, 1, 0, 0, 1, 0, 1, 0,・・・0))i=1〜2709
(iii)超LSI研究組合(実施期間)のTTV Fcと参加企業(5社)毎、期間毎に分類しTTV Flを合計する。
(例1:超LSI研究組合の TTV Fc =(0,0,4,1,0,0,5,1,4,0,・・・1))
(例2:参加企業j,期間kの TTV Fl =(0,0,3,2,0,0,7,1,2,0,・・・1))
ここで、超LSI研究組合のTTV Fcは、電子ビーム露光のテーマコード(5F056) が付与された出願特許群に関するTTVであり、超LSI研究組合の電子ビーム露光の技術領域における技術要素の知識特性を表す。
(iv)超LSI研究組合(実施期間)のTTV Fc(式1)と参加企業j,期間kのTTV Fl(式2)から、各技術軌道間の技術距離Pclを以下の(式3)でTTV間の角度として計算する。
Fc=(X1,X2, ・・・,X2709) ・・・(式1)
Fl=(Y1,Y2, ・・・,Y2709) ・・・(式2)
Pcl=FcFl/[(FcFc)(FlFl)]1/2 ・・・(式3)
ここで、(式1)と(式2)で表わされる各ベクトルの要素は、期間における技術要素の出現件数のΣ(シグマ)である。
従って、(式1)と(式2)との各ベクトルには、下記の式が成立する。
cosθ=Fc・Fl / [(FcFc)(FlFl)]1/2
即ち、各技術軌道間の技術距離は、Pcl≡Σ(Yi×Xi )/√(ΣYi2×ΣXi2)で計算できる。
【0028】
図9は、技術軌道関係入力設定画面のレイアウト図である。この画面により、超LSI研究組合と参加企業との各技術軌道間について技術距離の関係の入力設定が可能となる。尚、ここでは、知識焦点化係数である技術距離は、基準となる超LSI研究組合と参加企業とのベクトル間の角度として計算できる。図5の画面レイアウトと同様に、画面レイアウトは、主に技術軌道関係入力設定画面のタイトル部301、共通設定部302、ボタン部303、明細表示部304、分析概念のボタン押下により表示されるサブウインドウ部305から構成される。ここでは、以下で説明する実施例2に関して1部の内容を示している。図5のレイアウト図と異なる点として軌道関係名称は、既に設定された軌道関係名称に関する選択ができるようになっている。また、新規に軌道関係名称を設定する場合は、ボタン部303の軌道関係ボタンを押下することによって、軌道関係設定のサブウインドウ部305が呼び出される。ここでは、軌道関係名称の新規の追加、削除、修正などの設定を行う。例えば、新規に軌道関係名称を入力枠に直接入力することが可能になっている。このような設定後に、当該軌道関係名称を共通設定部302の軌道関係名称で指定して、ボタン部303で検索ボタンを押下した場合は、明細表示部304に対象となる技術軌道の詳細内容が表示される。特に詳細情報として、指定間隔毎に集計して各技術軌道の出現件数や基準の技術軌道に対する技術距離の内容が表示されて確認ができるようになっている。関係する技術軌道が多い場合には、複数ページに亘る場合もある。改ページ等の操作は、分析概念入力設定画面と同様である。
【0029】
図10A〜図10Cは、それぞれ、Fターム関数データテーブル構成図、時系列Fターム元データテーブルの構成図、時系列Fタームマトリクスデータテーブルの全体及び各構成図である。ここで、図10Aは、実施例1を、図10Bと図10Cは、実施例2を例として1部のデータを記載したものである。これらのテーブルの内容により、基準である超LSI研究組合に対して、前期間、実施期間、後期間それぞれに、参加企業の各5社の時系列Fタームマトリクスデータにより、各技術距離を計算することができる。
図11Aは、図8に対するテーマコード順データテーブルの構成図である。これは、実施例2のFタームによる論理式において全てのFタームを対象にした場合である。図11Bは、実施例1の図6に対する技術軌道データテーブルの構成図である。図11Cは、実施例2の技術軌道関係データテーブルの構成図である。
【0030】
図12は、技術軌道データ25に対応する実施例2の場合の電子ビーム露光に関する技術軌道の画面表示のイメージ図である。電子ビーム露光のテーマコードに関する1971年〜1985年に至る技術軌道を描画したものである。X軸は出願特許の出願年、Y軸は出願特許件数、Z軸は超LSI研究組合および参加企業の出願人(手前から超LSI研究組合、三菱電機、日本電気、日立製作所、東芝、富士通)について画面表示したものである。
【0031】
当然ながら、手前の超LSI研究組合は、発足した1976年から1980年までの共同研究開発の期間のみに特許出願している。参加企業については、その発足以前から少ないながらも特許出願をおこなってはいるが、実施期間、後期間では前期間と比較にならないほど活発に特許出願を行っている。また各社とも実施期間より後期間の方が特許出願件数はより高く、超LSI研究組合を契機として、参加企業が電子ビーム露光の技術領域においてそれぞれ研究を進めていたことが窺える。このことは、超LSI研究組合においては電子ビーム露光という研究開発テーマに基づいて知識創造活動を行っていたことや、参加企業においても電子ビーム露光という研究開発テーマについて、知識創造活動を活発に行っていたことが分析されたことになる。
【0032】
図13は、超LSI研究組合を基準とした知識焦点化効果のグラフである。期間別組織別に知識焦点化係数をグラフ化し、参加企業の知識焦点化係数の推移プロセスを表したものである。これによれば前期間と比較して実施期間、後期間の特許出願件数と知識焦点化係数が共に高いことが一目して分かる。
また、5社の知識焦点化係数の平均についても、漸次高まっていくことが分かる。つまり、超LSI研究組合の技術軌道を焦点として、参加企業各社の技術特性は、共同研究の実施期間中のみならず、それ以降も同じ技術軌道へと収束していったことが分析されたのである。
【0033】
図14は、技術軌道間距離データ27に対応する実施例2の期間別組織別の出願件数と知識焦点化係数の一覧表である。5F056(電子ビーム露光)に関する技術要素の技術軌道について、超LSI研究組合と参加企業の期間別の出願件数と技術軌道の知識焦点化係数として表されている。
【0034】
本願の技術軌道分析結果により、超LSI研究組合自体が知識創造の主体として知識創造を行っていることが明らかになった。さらに、技術軌道の推移や知識焦点化の効果の分析結果から、超LSI研究組合参加企業5社の技術軌道の知識特性が一致して超LSI研究組合の知識特性に接近しており、電子ビーム露光の技術領域において、参加企業は共同研究実施期間のみならず、実施期間後も非常に強い影響を受けていることが明らかになった。超LSI研究組合の解散後も少なくとも5年間は、参加企業5社は超LSI研究組合における研究開発テーマと同じ技術領域の技術要素に一貫してこだわり、徹底して研究開発を推進していったことが分析される。その結果、電子ビーム露光の技術領域に関する技術要素の深耕が継続的に活発に行なわれたと考えられる。
【0035】
本願の超LSI研究組合における知識創造プロセスにおいて知識焦点化に関する分析は、共同研究開発中のみならず、共同研究開発終了後も参加企業に明確な研究開発目標やテーマを与えたという役割をも、超LSI研究組合は果たしていたことを示唆している。
【0036】
本願の特許公報テキストによる技術軌道と技術距離の概念を使用した調査方法により、超LSI研究組合が参加企業の知識焦点化に及ぼす効果を実証した。その結果、このような調査方法は、共同研究開発の研究開発テーマに関する効果の測定に有効であることを実証することができた。これにより、知識創造プロセスにおける分析に好適な技術軌道分析装置および分析方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 技術軌道分析装置、 2 計算制御部、 3 データベース部、
11 入出力制御、 12 分析概念入力設定、 13 技術軌道編集表示、
14 技術軌道関係入力設定、 15 技術軌道間距離編集表示、
21 Fターム関数データ、 22 時系列Fターム元データ、
23 時系列Fタームマトリスクデータ、 24 テーマコード順位、
25 技術軌道データ、 26 技術軌道関係データ、
27 技術軌道間距離データ、 101 技術要素、 102 技術軌道、
201 分析概念入力設定画面のタイトル部、 202 共通設定部、
203 ボタン部、 204 明細表示部、 205 分析概念のサブウインドウ部、
301 技術軌道関係入力設定画面のタイトル部、 302 共通設定部、
303 ボタン部、 304 明細表示部、 305 軌道関係のサブウインドウ部
【技術分野】
【0001】
文書データ処理技術は、対象とする文書や特許情報(特許データベース)に関係するキーワード検索や、類似検索方法など分類対象の分類や整理に関する技術が中心的なテーマである。本発明は、特許情報(特許公報テキスト)を知識創造の成果物、特に技術知識の創造活動の結果であると捉えて、その技術知識の累積的な創造の軌跡として分析する技術軌道分析装置およびその分析方法、更に、そのような分析結果を分かり易く描画する技術軌道分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
文書検索や特許データベースに関する分類法として、国際特許分類(IPC)や日本固有の特許分類であるFI,Fタームを使用する方法や文書のテキストに含まれるキーワードや文書のテキストを形態素に分解して統計的なデータ処理で類似度を求める形態素分析方法などがある。
【0003】
従来の文書検索技術では、複数の文書を保有する文書データベースに対して、入力されたキーワードに適合する文書中に出現する単語からキーワードとの関連度が高い単語を選出し、その選出した関連語を新しいキーワードとして追加するキーワード生成部を備え、入力キーワードによる適合文書群を特定の項目が共通あるいは近接の値を持つ複数の集合に分割して、それぞれの集合ごとに求めた関連語候補のうち入力キーワードと関連度の高い関連語候補の和集合を関連語とすることを特徴とする文書検索装置が提案されている。これは、適合文書とみなした文書が実際には適合文書でなかった場合に、関連語として適さないものを選出するというリスクを低減するものである。ここで、特定の項目は、国際特許分類、ファセット分類、Fターム等の特許分類であることとしているが、目的はキーワードに関する文書検索にあり、またキーワード中の各単語の重みをもとに各文書の文書適合度を計算して検索するものがある。(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、入力された複数のデータ(特許公報テキスト)に付属する属性を用いて並び替えをした場合に、データの内容が類似するものを接近するように並び替えて表示することを可能とするデータ表示装置、データ表示方法である。ここでデータに付属する属性にFタームを使用し、共起頻度とハミング距離との少なくとも一方に基づいて、各データを並び替えて表示することを特徴とするデータ表示方法である。これによれば、複数の特許公報テキストの内容が類似するものを近接するように並び替えて表示することを可能とするものがある。(例えば、特許文献2)。
【0005】
あるいは、特許出願を検討しているアイデアの技術的な位置付けを把握するアイデア整理支援装置がある。アイデア整理支援装置において、特許出願を検討しているアイデアを含む電子文書から検索条件を生成する。その検索条件を基に検索し、検索の結果得られた特許文献を取得し、その特許文献からFターム群を抽出する。そして抽出されたFターム群のテーマコードを根ノードとする部分木の構造に従ってFタームマップを表示し、抽出されたFターム群を強調表示するものである。この装置の目的は、あくまで特許出願時のアイデア整理支援である。(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2004−192374号公報
【特許文献2】特開2010−231734号公報
【特許文献3】特開2010−237848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、文書や特許公報テキスト等に関する、文書データ処理技術は、所定のキーワードや文書の内容に類似するものを検索するもの、また、Fターム等の付属する属性により類似するものが接近するように並び替えるもの、あるいは、所定の特許公報テキストのFターム群をその技術的な位置付けを把握するために、Fタームマップ上に強調表示するなどの優れた特性を備えた技術や支援装置が提案されている。
しかし、例えば、特許公報テキストを知識創造活動の成果物(以下、それらの総称として特許公報テキストと呼ぶ)、特に技術知識の創造活動(知識創造プロセス)の結果であると捉えて、その知識創造プロセスを分析しようとする技術的な思想が存在しなかった。その理由は、知識創造プロセスにおける技術軌道を分析する概念(以下、分析概念と呼ぶ)の定義が無かったり、具体的な技術軌道の分析の手段が未確立であったり、加えて単元型の特許分類である国際特許分類(IPC)を使用した場合は、技術軌道分析のための知識特性の精度や識別の粗さなどにより信憑性が不十分である等の問題点があった。さらに、特に学術・研究目的や研究者向けに開発された特許データベースは公開されてはいるが、ファイル・インデックス(FI)やFタームの特許分類を含めるとその容量が膨大になることや、その特許分類が日本固有であるため国際比較ができないなどの理由により、FI,Fタームの特許分類は知識創造に関する研究領域や知識科学等にあまり使用されてこなかった。従って、技術知識を分類するのに適したファセット分類法であるFI,Fタームの特許分類を使用した場合について、本発明のような技術軌道分析方法の効果についは、十分に検討もされていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者らは、上述のような課題に鑑みて、特許公報テキストに付与されている日本固有のFI,Fタームの特許分類を使用した知識創造プロセスの分析の可能性について鋭意研究をすることにより、所定の手順に基づいて実施することにより、知識創造プロセスにおける技術軌道分析が、容易に実現されることを検証することができた。また、本発明の技術軌道分析法において、技術要素をFI,Fタームとして分析することにより、研究開発における技術限界、技術選択や死の谷の問題等における分析についても有効であることを見出した。そこで、このような知識創造プロセスにおける技術軌道分析装置及びその分析方法を提供する。また、その分析結果を分かり易く表示させる技術軌道分析システムを提供する。
【0008】
より具体的には、以下のようなものを提供することができる。
(1)特許公報テキストの分類を技術課題、解決手段、作用・効果の3種類の技術要素としてグループ編成した切り口に関する組合せにより時系列的な出現数の積分として技術軌道を表示する技術軌道分析装置を提供することができる。
【0009】
ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の各要素は、Fタームでグループ編成した時系列データとして表される。ここでは、知識創造プロセスによって、特許データベースに3種類の技術要素が漸進的に蓄積されていることを前提としている。
【0010】
すなわち、ある一件の特許公報テキストは、ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の要素からなるコンテキスト(一つの問題解決シナリオ)として記述されているものである。特許明細書の記載規則として相互に関係する技術要素は、技術課題、解決手段、作用・効果の要素から構成される。また長期的に継続的な特許や発明の知識創造プロセスにおいてコンテキストの各構成要素の差分が累積的に形成されることが予測される。
また技術知識の分類・整理に適しているファセット分類法であるFターム等を使用した分析により、技術知識の多様でダイナミックな知識創造プロセスの分析が可能となる。従って、ある技術テーマに関する少なくとも1種以上の3種類の技術要素についての時間的総和(積分)を示すものとして技術軌道が形成されることが期待される。
【0011】
(2)基本分析手順として知識創造プロセスにおいてその知識創造の成果物である技術課題、解決手段、作用・効果のいずれかの技術要素の組合せを対象として、予め当該技術要素の論理関数によって定義された分析概念を登録することにより、自動的に当該技術要素の論理関数の時間的積分によって表される技術軌道を編集表示することを特徴とする技術軌道分析方法を提供することができる。
【0012】
(3)予め複数の技術要素で構成される技術軌道関係を定義することによって、各技術軌道間の技術距離を計算することにより、自動的に各技術軌道間の技術距離について編集表示することを特徴とする技術軌道分析方法を提供することができる。
【0013】
(4)前記の(2)及び(3)の方法を連結する方法により、知識創造プロセスにおいて、予め技術軌道間関係の定義によって、各技術軌道間の技術距離の推移を、基準となる技術軌道に対する各技術軌道の知識焦点化の効果として編集表示することを特徴とする技術軌道分析システム。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の知識創造プロセスにおける技術軌道分析システムは、特に研究開発プロジェクトにおける技術限界や技術選択に関する分析に優れる。また、このような技術軌道分析方法は、大規模なコンピュータシステムを必要としない。PC(パソコン)における計算ソフトと特許分類データの編集ソフト等の開発環境により、技術軌道分析システムの構築が可能であり、その分析結果を分かり易く処理時間も短時間で分析結果を表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に関する知識創造プロセスにおける実施例の技術軌道分析装置のブロック図である。
【図2】3種類の技術要素の概念を説明するブロック図である。
【図3】技術軌道の概念を説明する表示画面のイメージ図である。
【図4】技術軌道分析方法の基本分析手順フロー図である。
【図5】分析概念入力設定画面のレイアウト図である。
【図6】技術軌道の表示画面のイメージ図である。
【図7】電子ビーム露光のテーマコードに関するFタームリストの説明図である。
【図8】超LSI研究組合のテーマコード順位の表示画面のイメージ図である。
【図9】技術軌道関係入力設定画面のレイアウト図である。
【図10A】Fターム関数データテーブル構成図である。
【図10B】時系列Fターム元データテーブルの全体構成図である。
【図10C】時系列Fタームマトリクスデータテーブルの全体構成図である。
【図11A】テーマコード順データテーブルの構成図である。
【図11B】技術軌道データテーブルの構成図である。
【図11C】技術軌道関係データテーブルの構成図である。
【図12】電子ビーム露光領域に関する技術軌道の画面表示のイメージ図である。
【図13】知識焦点化係数のグラフである。
【図14】期間別組織別の出願件数と知識焦点化係数の一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施例について、図面に基づいてより詳しく説明するが、実施例は説明のための例示であり、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明に関する知識創造プロセスにおける技術軌道分析装置のブロックを図解する。この技術軌道分析装置1は、計算制御部2と各種のデータ類を記憶するデータベース部3から構成される。そして、計算制御部2は、分析概念入力設定12と、技術軌道編集表示13と、技術軌道関係入力設定14と、技術軌道間距離編集表示15と、それらとの入出力制御を行う入出力制御11から構成される。また、データベース部3は、Fターム関数データ21と、時系列Fタームデータ22と、テーマコード順位23と、技術軌道データ24と、技術軌道関係データ25と、技術軌道間距離データ26についてのデータベース管理を行うものである。
【0018】
図2は、3種類の技術要素の概念を説明するブロック図である。特許公報テキストは、人的資産から巧みに切り離された知的資産の代表的な知的財産の一つである。また、ある一件の特許公報テキストは、ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の要素からなるコンテキスト(一つの問題解決シナリオ)として記述されているものである。そして、図2に示すように相互に関係する技術要素は、技術課題、解決手段、作用・効果の要素から構成されると捉える。そうすれば、ある技術領域における長期的に継続的な特許や発明の知識創造プロセスにおいてコンテキストの各構成要素の差分が累積的に(分析されるべき技術軌道)形成されることを前提としている。
【0019】
図3は、技術軌道の概念を説明する表示画面のイメージ図である。ここで、技術軌道を技術課題、解決手段、作用・効果の3種類の技術要素にグループ編成した切り口に関する組合せにより時系列的な出現数の積分として定義する。即ち、ある一時点の技術課題、解決手段、作用・効果の各要素は、Fタームでグループ編成した時系列データとして表される。ここでは、特許データベースに3種類の技術要素が漸進的に蓄積されていることを前提としている。また技術知識の分類・整理に適しているファセット分類法であるFタームを使用した分析法の適用により、技術知識の多様でダイナミックな知識創造プロセスの分析が可能となる。
【0020】
また、図3は、技術軌道として、ある技術テーマに関する少なくとも1種以上の3種類の技術要素(基本構成要素)に関する分析概念を時間的総和(積分)として可視化するものである。技術軌道は、Y軸に技術要素であるFタームの出現数、X軸に時間軸、Z軸に分析概念単位の空間に配置されている。簡単のため、ここでは、技術課題(P)、解決手段(S)、作用・効果(E)を個別の技術軌道として表したが、分析概念は、各基本構成要素の論理関数として表すことができる。本願における分析対象は特許公報テキストに限定するものではなく、また、データに付属する属性は、必ずしもFタームに限定するものではなく、特許分類の分解能に固有の限界はあるもののIPCやデータに付属する属性として開発した新しいインデックスであってもよい。
【0021】
図4は、技術軌道分析方法の基本分析手順フロー図である。これは、主に分析概念入力設定を行うステップ2と技術軌道編集表示を行うステップ3及び、技術軌道関係入力設定を行うステップ6と技術軌道間距離の編集表示を行うステップ7の分析手順から構成される。先ず、ステップ1において一連の分析処理のためのイニシエーション(初期設定)を行う。また、分析結果の評価の有効性について分析結果を確認して、十分な分析結果が得られなかった場合や、別の分析概念について技術軌道分析を行いたい場合等は、ステップ2に戻り、分析概念の入力設定を繰り返してやり直せばよいのである。そして、分析評価が有効であれば、ステップ5へリンクする。ステップ5では、各技術軌道に関する技術距離の分析が必要か否かを判定し、不要の場合は、処理を終了する。
技術軌道分析に加えて、技術軌道間距離の分析が必要な場合は、既にステップ3で技術軌道分析を行った複数の技術軌道を指定して、それらの関係入力設定を行うステップ6と技術軌道間距離の編集表示を行うステップ7を行う。また、ここで、複数の技術軌道を指定する場合には、その中で基準となる技術軌道を設定することにより、その基準となる技術軌道とその他の技術軌道間との技術距離の編集表示を行う。そして、複数の期間を設定することにより、それらの期間ごとに技術距離の推移を分析することもできる。
ここで、分岐をともなう判断のステップでは、最終的には分析者による判断を伴うが、予め判断基準を統計処理に組込むことによって機械的な判断によって分析者に警告等をおこない、分析支援を行うこともできるようになっている。
【0022】
図5は、分析概念入力設定画面のレイアウト図である。画面レイアウトは、主に分析概念入力設定画面のタイトル部201、共通設定部202、ボタン部203、明細表示部204、分析概念のボタン押下により表示されるサブウインドウ部205から構成される。ここでは、以下で説明する実施例1に関して1部の内容を示している。ここで、共通設定部202の公報種別は、特許、実用新案などの選択、分類区分は、FI(ファイル・インデックス),FT(Fターム)、IPC(国際特許分類)などの選択、期間区分は、出願日、登録日などの選択を行うことができる。そして、分析名称は、既に設定された分析名称に関する選択ができるようになっている。また、新規に分析概念を設定する場合は、ボタン部203の分析概念ボタンを押下することによって、分析概念設定のサブウインドウ部205が呼び出される。ここでは、分析名称の新規の追加、削除、修正などの設定を行う。例えば、技術要素をFタームの組合せを論理式(添加剤硬化剤の場合を示す)で表し、入力枠に論理式で入力することが可能になっている。このような設定後に、当該分析名称を共通設定部202の分析名称で指定して、ボタン部203で検索ボタンを押下した場合は、明細表示部204に対象となる特許公報テキストの詳細内容が表示される。特に詳細情報として、特許分類のIPC,FI,FTの個数や内容を表示して確認ができるようになっている。共通設定部202と明細表示部203の間には、検索結果の特許公報テキスト件数、分析概念の論理式が表示される。また、1ページで表示されない場合のために、現在のページNoの表示と前項、次項ボタンにより、改ページができるようになっている。尚、指定期間は、検索対象範囲を選択された期間区分に従って出願日であれば、出願日の指定期間の特許公報テキストを検索する。また指定間隔は、当該論理式の技術軌道を描画するときの間隔を指定するものである。ボタン部203の登録は、検索結果の登録に、表示は、検索結果の再表示に、表出力は、表示されている明細表示部204の内容をファイルに出力する場合に使用するものである。メニューボタンは、各画面の呼び出しメニューへの切り替えボタンである。
【0023】
(実施例1)
図6は、実施例1に関する技術軌道の表示画面のイメージ図である。日本における接着剤の添加剤の領域における熱可塑系から熱硬化系への技術選択の技術軌道分析結果として視覚化された表示画面を示したものである。
具体的には、4J040(接着剤、接着方法)の技術領域において接着剤の添加剤の技術限界について、分析概念入力設定12により下記の論理関数を設定し、技術軌道編集表示13により技術軌道分析を行ったものである。
尚、図5は、分析概念入力設定画面のレイアウト図であり、入力枠には、下記の(i)を設定した状態を示したものである。
熱硬化型接着機構の論理式:[4J040JB02+4J040PA30+4J040PA31+4J040PB05]に対して以下のFタームの論理関数(i)および(ii)を分析概念として設定した。
(i)添加剤が硬化剤のFタームの論理式:[4J040JB02 + 4J040PA30 + 4J040PA31 + 4J040PB05] * [KA16]
(ii)添加剤が可塑剤のFタームの論理式:[4J040JB02 + 4J040PA30 + 4J040PA31 + 4J040PB05] * [KA31]
この分析結果である(i)、(ii)の両方の技術軌道を比較してみると、Fターム=”KA16”:硬化剤は添加剤として件数が多く1990年代より増加傾向の技術軌道となっており、Fターム=”KA31”:可塑剤は添加剤として件数が比較的少なく1995年以降から減少傾向の技術軌道を示していると解釈することができる。つまり、この実施例1によれば何らかの理由で熱硬化型接着機構の接着剤の添加剤が可塑剤から硬化剤へと1991年〜1995年にかけて技術選択されていった知識創造プロセスが時系列の技術軌道として可視化されたことになる。当該接着剤の添加剤に関して技術動向の質的調査してみると、熱可塑系では高分子のゴムを主成分としており、溶融粘着度が高く接続厚みを小さくできない限界があるため、熱硬化系の添加剤に関する研究開発を進めている事実と一致することが検証できた。即ち、実施例1では、技術軌道分析までの分析を実施した例を示したものである。
【0024】
(実施例2)
別の実施例2の態様として、本願の技術軌道分析方法を共同研究開発において、どのような知識を創造したかという知識創造プロセスを分析するだけではなく、共同研究開発が参加企業の研究開発テーマに及ぼす効果は何かを分析するために、共同研究開発及びその参加企業を対象にした知識創造プロセスにおける分析を行う場合にも適用可能である。
図7は、電子ビーム露光のテーマコードに関するFタームリストの説明図である。これは、テーマコード:5F056のテーマ名:電子ビーム露光に関するFテーマリストの1部分を示したものである。例えば、Fタームの露光方式(5F056AA00)は、直接描画方式、スポットビームというように階層的に付与され、ドット(・)は、その階層の深さを表している。上記の共同研究開発の実施例として、具体的にエレクトロニクス産業に大きなインパクトをもたらしたナショナルプロジェクトである超LSI技術研究組合(以下、超LSI
研究組合)を取り上げ、その知識創造活動を定量的に調査した結果を説明する。
【0025】
図8は、超LSI研究組合におけるテーマコード順位23の表示画面のイメージ図である。先ず、分析する技術領域を特定する為に、超LSI研究組合を出願人とする共同研究開発の実施期間(1976年〜1980年)における特許出願情報1045件について、テーマコード順位24を表示した画面表示のイメージ図を示したものである。上位から(5F040):絶縁ゲート型電界効果トランジスタ、(5F056):電子ビーム露光、(5F033):半導体集積回路装置の内部配線の順位となっている。このうち、超LSI研究組合における研究成果として、任意の長方形を一度に露光してパターンを描く描画時間を1桁以上も短縮するビーム露光法「可変整形電子ビーム方式」に関係する技術領域のテーマコード(5F056)を分析対象にした。共同研究開発の前期間(1971年〜1975年)、実施期間(1976年〜1980年)、後期間(1981年〜1985年)について、超LSI研究組合と参加企業5社(富士通、日立製作所、三菱電機、日本電気、東芝)の技術軌道分析を行うものとする。超LSI研究組合やその参加企業のFターム等の特許公報テキストに関する時系列Fターム元データ22は、特許庁の特許データベースや商用の特許データベースのデータを使用し、本願の技術軌道分析システムへ取り込んでもよい。
【0026】
分析者等からの要求を受けつけて入出力制御11は、分析概念入力設定12と技術軌道編集表示13により、以下の手順で行われる。ここでは、実施例2について詳細な処理手順について説明する。
(1)技術軌道分析の処理手順
まず、技術軌道を分析するためテーマコード(5F056)が付与された出願特許のFターム元データを抽出して、以下の処理を行う。ここで、技術要素であるFタームによる分析概念としてFタームをテーマコード(5桁)とFターム(4桁)をあわせて9桁と捉えると当該テーマコードに含まれる全てのFターム(4桁)が対象と考えることができる。
(i)出願人が超LSI研究組合と参加企業5社について電子ビーム露光(5F056)のテーマコードが付与された出願特許を抽出する。(Fターム元データ)
(ii)抽出した超LSI研究組合と参加企業5社の当該出願特許1941件について出願順に技術軌道をグラフ化(描画)する。(技術軌道データの描画)
(iii)当該出願特許1941件が付与された全てのFターム2709種類を抽出する。
但し、ここでは技術特性をできるだけ詳細に識別するため、Fタームは最下層まで抽出する。FI,FTはIPCと同様1つの出願特許に複数付与される場合があり、Fターム2709種類とはテーマコード(5F056)以外の全てのFタームについても抽出した結果である。(Fターム元データ)
【0027】
(2)技術距離分析の処理手順
次に、特に基準となる超LSI研究組合の技術軌道に対して、参加企業の技術軌道が一致する現象を知識焦点化として、その程度を知識焦点化係数(一致する場合は、係数値は、1.0となる)として算出するために、超LSI研究組合と参加企業に関して期間ごとの技術軌道の技術軌道ベクトル(以下、TTVと呼ぶ)を求め、各技術軌道の技術距離を求める。
(i)出願特許1941件と出願特許が付与された全てのFターム2709種類のマトリクスを作成する。(時系列Fタームマトリクスデータ)
(ii)出願特許が付与された当該Fタームを技術要素として特許毎にTTVを作成する。
(例:特許iのTTVは、Fi=(0, 0, 1, 1, 0, 0, 1, 0, 1, 0,・・・0))i=1〜2709
(iii)超LSI研究組合(実施期間)のTTV Fcと参加企業(5社)毎、期間毎に分類しTTV Flを合計する。
(例1:超LSI研究組合の TTV Fc =(0,0,4,1,0,0,5,1,4,0,・・・1))
(例2:参加企業j,期間kの TTV Fl =(0,0,3,2,0,0,7,1,2,0,・・・1))
ここで、超LSI研究組合のTTV Fcは、電子ビーム露光のテーマコード(5F056) が付与された出願特許群に関するTTVであり、超LSI研究組合の電子ビーム露光の技術領域における技術要素の知識特性を表す。
(iv)超LSI研究組合(実施期間)のTTV Fc(式1)と参加企業j,期間kのTTV Fl(式2)から、各技術軌道間の技術距離Pclを以下の(式3)でTTV間の角度として計算する。
Fc=(X1,X2, ・・・,X2709) ・・・(式1)
Fl=(Y1,Y2, ・・・,Y2709) ・・・(式2)
Pcl=FcFl/[(FcFc)(FlFl)]1/2 ・・・(式3)
ここで、(式1)と(式2)で表わされる各ベクトルの要素は、期間における技術要素の出現件数のΣ(シグマ)である。
従って、(式1)と(式2)との各ベクトルには、下記の式が成立する。
cosθ=Fc・Fl / [(FcFc)(FlFl)]1/2
即ち、各技術軌道間の技術距離は、Pcl≡Σ(Yi×Xi )/√(ΣYi2×ΣXi2)で計算できる。
【0028】
図9は、技術軌道関係入力設定画面のレイアウト図である。この画面により、超LSI研究組合と参加企業との各技術軌道間について技術距離の関係の入力設定が可能となる。尚、ここでは、知識焦点化係数である技術距離は、基準となる超LSI研究組合と参加企業とのベクトル間の角度として計算できる。図5の画面レイアウトと同様に、画面レイアウトは、主に技術軌道関係入力設定画面のタイトル部301、共通設定部302、ボタン部303、明細表示部304、分析概念のボタン押下により表示されるサブウインドウ部305から構成される。ここでは、以下で説明する実施例2に関して1部の内容を示している。図5のレイアウト図と異なる点として軌道関係名称は、既に設定された軌道関係名称に関する選択ができるようになっている。また、新規に軌道関係名称を設定する場合は、ボタン部303の軌道関係ボタンを押下することによって、軌道関係設定のサブウインドウ部305が呼び出される。ここでは、軌道関係名称の新規の追加、削除、修正などの設定を行う。例えば、新規に軌道関係名称を入力枠に直接入力することが可能になっている。このような設定後に、当該軌道関係名称を共通設定部302の軌道関係名称で指定して、ボタン部303で検索ボタンを押下した場合は、明細表示部304に対象となる技術軌道の詳細内容が表示される。特に詳細情報として、指定間隔毎に集計して各技術軌道の出現件数や基準の技術軌道に対する技術距離の内容が表示されて確認ができるようになっている。関係する技術軌道が多い場合には、複数ページに亘る場合もある。改ページ等の操作は、分析概念入力設定画面と同様である。
【0029】
図10A〜図10Cは、それぞれ、Fターム関数データテーブル構成図、時系列Fターム元データテーブルの構成図、時系列Fタームマトリクスデータテーブルの全体及び各構成図である。ここで、図10Aは、実施例1を、図10Bと図10Cは、実施例2を例として1部のデータを記載したものである。これらのテーブルの内容により、基準である超LSI研究組合に対して、前期間、実施期間、後期間それぞれに、参加企業の各5社の時系列Fタームマトリクスデータにより、各技術距離を計算することができる。
図11Aは、図8に対するテーマコード順データテーブルの構成図である。これは、実施例2のFタームによる論理式において全てのFタームを対象にした場合である。図11Bは、実施例1の図6に対する技術軌道データテーブルの構成図である。図11Cは、実施例2の技術軌道関係データテーブルの構成図である。
【0030】
図12は、技術軌道データ25に対応する実施例2の場合の電子ビーム露光に関する技術軌道の画面表示のイメージ図である。電子ビーム露光のテーマコードに関する1971年〜1985年に至る技術軌道を描画したものである。X軸は出願特許の出願年、Y軸は出願特許件数、Z軸は超LSI研究組合および参加企業の出願人(手前から超LSI研究組合、三菱電機、日本電気、日立製作所、東芝、富士通)について画面表示したものである。
【0031】
当然ながら、手前の超LSI研究組合は、発足した1976年から1980年までの共同研究開発の期間のみに特許出願している。参加企業については、その発足以前から少ないながらも特許出願をおこなってはいるが、実施期間、後期間では前期間と比較にならないほど活発に特許出願を行っている。また各社とも実施期間より後期間の方が特許出願件数はより高く、超LSI研究組合を契機として、参加企業が電子ビーム露光の技術領域においてそれぞれ研究を進めていたことが窺える。このことは、超LSI研究組合においては電子ビーム露光という研究開発テーマに基づいて知識創造活動を行っていたことや、参加企業においても電子ビーム露光という研究開発テーマについて、知識創造活動を活発に行っていたことが分析されたことになる。
【0032】
図13は、超LSI研究組合を基準とした知識焦点化効果のグラフである。期間別組織別に知識焦点化係数をグラフ化し、参加企業の知識焦点化係数の推移プロセスを表したものである。これによれば前期間と比較して実施期間、後期間の特許出願件数と知識焦点化係数が共に高いことが一目して分かる。
また、5社の知識焦点化係数の平均についても、漸次高まっていくことが分かる。つまり、超LSI研究組合の技術軌道を焦点として、参加企業各社の技術特性は、共同研究の実施期間中のみならず、それ以降も同じ技術軌道へと収束していったことが分析されたのである。
【0033】
図14は、技術軌道間距離データ27に対応する実施例2の期間別組織別の出願件数と知識焦点化係数の一覧表である。5F056(電子ビーム露光)に関する技術要素の技術軌道について、超LSI研究組合と参加企業の期間別の出願件数と技術軌道の知識焦点化係数として表されている。
【0034】
本願の技術軌道分析結果により、超LSI研究組合自体が知識創造の主体として知識創造を行っていることが明らかになった。さらに、技術軌道の推移や知識焦点化の効果の分析結果から、超LSI研究組合参加企業5社の技術軌道の知識特性が一致して超LSI研究組合の知識特性に接近しており、電子ビーム露光の技術領域において、参加企業は共同研究実施期間のみならず、実施期間後も非常に強い影響を受けていることが明らかになった。超LSI研究組合の解散後も少なくとも5年間は、参加企業5社は超LSI研究組合における研究開発テーマと同じ技術領域の技術要素に一貫してこだわり、徹底して研究開発を推進していったことが分析される。その結果、電子ビーム露光の技術領域に関する技術要素の深耕が継続的に活発に行なわれたと考えられる。
【0035】
本願の超LSI研究組合における知識創造プロセスにおいて知識焦点化に関する分析は、共同研究開発中のみならず、共同研究開発終了後も参加企業に明確な研究開発目標やテーマを与えたという役割をも、超LSI研究組合は果たしていたことを示唆している。
【0036】
本願の特許公報テキストによる技術軌道と技術距離の概念を使用した調査方法により、超LSI研究組合が参加企業の知識焦点化に及ぼす効果を実証した。その結果、このような調査方法は、共同研究開発の研究開発テーマに関する効果の測定に有効であることを実証することができた。これにより、知識創造プロセスにおける分析に好適な技術軌道分析装置および分析方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 技術軌道分析装置、 2 計算制御部、 3 データベース部、
11 入出力制御、 12 分析概念入力設定、 13 技術軌道編集表示、
14 技術軌道関係入力設定、 15 技術軌道間距離編集表示、
21 Fターム関数データ、 22 時系列Fターム元データ、
23 時系列Fタームマトリスクデータ、 24 テーマコード順位、
25 技術軌道データ、 26 技術軌道関係データ、
27 技術軌道間距離データ、 101 技術要素、 102 技術軌道、
201 分析概念入力設定画面のタイトル部、 202 共通設定部、
203 ボタン部、 204 明細表示部、 205 分析概念のサブウインドウ部、
301 技術軌道関係入力設定画面のタイトル部、 302 共通設定部、
303 ボタン部、 304 明細表示部、 305 軌道関係のサブウインドウ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
知識創造プロセスにおいて、その知識創造の成果物である技術課題、解決手段、作用・効果の3種類のいずれか1つ以上の技術要素の組合せを当該技術要素により、予め技術知識特性(以下、分析概念と呼ぶ)として記憶することにより、自動的にその分析概念の時系列的な出現数の時間的積分として所定の時間軸上に描画する(以下、技術軌道と呼ぶ)ことを特徴とする技術軌道分析装置。
【請求項2】
知識創造プロセスにおいて、その知識創造の成果物である技術課題、解決手段、作用・効果の3種類のいずれか1つ以上の技術要素の組合せを当該技術要素により、予め分析概念として記憶することにより、自動的にその分析概念を技術軌道として編集表示することを特徴とする技術軌道分析方法。
【請求項3】
知識創造プロセスにおいて、予め複数の分析概念の技術軌道関係を記憶することによって、基準とする技術軌道と各技術軌道間との技術距離を計算することによって、自動的に各技術軌道間の技術距離について編集表示することを特徴とする技術軌道分析方法。
【請求項4】
前記請求項2及び請求項3の方法を連結する方法により、予め予め複数の分析概念の技術軌道間関係を記憶することによって、基準とする技術軌道と各技術軌道間との技術距離を計算することによって、各技術軌道間の技術距離の推移を基準となる技術軌道に一致する現象として、自動的に各技術軌道に関する知識焦点化の効果として編集表示することを特徴とする技術軌道分析システム。
【請求項1】
知識創造プロセスにおいて、その知識創造の成果物である技術課題、解決手段、作用・効果の3種類のいずれか1つ以上の技術要素の組合せを当該技術要素により、予め技術知識特性(以下、分析概念と呼ぶ)として記憶することにより、自動的にその分析概念の時系列的な出現数の時間的積分として所定の時間軸上に描画する(以下、技術軌道と呼ぶ)ことを特徴とする技術軌道分析装置。
【請求項2】
知識創造プロセスにおいて、その知識創造の成果物である技術課題、解決手段、作用・効果の3種類のいずれか1つ以上の技術要素の組合せを当該技術要素により、予め分析概念として記憶することにより、自動的にその分析概念を技術軌道として編集表示することを特徴とする技術軌道分析方法。
【請求項3】
知識創造プロセスにおいて、予め複数の分析概念の技術軌道関係を記憶することによって、基準とする技術軌道と各技術軌道間との技術距離を計算することによって、自動的に各技術軌道間の技術距離について編集表示することを特徴とする技術軌道分析方法。
【請求項4】
前記請求項2及び請求項3の方法を連結する方法により、予め予め複数の分析概念の技術軌道間関係を記憶することによって、基準とする技術軌道と各技術軌道間との技術距離を計算することによって、各技術軌道間の技術距離の推移を基準となる技術軌道に一致する現象として、自動的に各技術軌道に関する知識焦点化の効果として編集表示することを特徴とする技術軌道分析システム。
【図1】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図6】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図6】
【公開番号】特開2012−108802(P2012−108802A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258239(P2010−258239)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者である日本創造学会事務局が2010年10月16日に発行した刊行物ISSN1883−0749 「日本創造学会 第32回研究大会論文集」
【出願人】(710012999)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者である日本創造学会事務局が2010年10月16日に発行した刊行物ISSN1883−0749 「日本創造学会 第32回研究大会論文集」
【出願人】(710012999)
【Fターム(参考)】
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