説明

石油精製装置の洗浄方法

【課題】石油系溶剤とともに用いることにより十分な洗浄効果を発現することができ、洗浄効率を格段に向上して石油精製装置内の洗浄時間を大幅に短縮することを可能にする洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の石油精製装置用洗浄剤組成物は、石油精製装置の内部を石油系溶剤により非水系で洗浄する際に、石油系溶剤に混合して用いられるものであって、軽油に対する温度25℃における溶解度が10以上である界面活性剤を含有しており、更にテルペン系化合物を含有すると好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製装置用洗浄剤組成物に関し、詳しくは、石油精製装置の内部を石油系溶剤により非水系で洗浄する際に、該石油系溶剤に混合して用いられる石油精製装置用洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製装置の運転に伴い、該装置を構成する熱交換器、配管、加熱炉、脱塩装置等(以下、まとめて「石油精製装置」という)の内部には、石油の一部が熱によって高分子化して生じる重質油分や、装置内壁の金属の劣化によって生じるスラッジ等の汚れ成分(以下、まとめて「汚れ成分」という)が付着する。このような汚れ成分が石油精製装置内に蓄積すると、石油精製効率が低下するおそれがあり、これを防止するために、石油精製装置の内部は定期的に洗浄される。このときの洗浄方法としては、一般に、ジェット水による水洗浄が広く用いられてきたが、洗浄時間を短縮するための方法として、近年、界面活性剤水溶液や石油系溶剤を石油精製装置内に循環させて洗浄する方法が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の界面活性剤水溶液を用いる方法では、洗浄によって大量に発生する廃水の処理に膨大な手間とコストが掛かる割に、その洗浄効果は十分なものではなかった。一方、上記の石油系溶剤を用いる方法では、沈着して塊状になった汚れ成分に対して、該石油系溶剤が十分に浸透しないことから、必ずしも十分な洗浄効果が得られなかった。よって、いずれの方法によっても、十分満足できる洗浄効率の向上及び洗浄時間の短縮を達成することができなかった。
【0004】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、石油系溶剤とともに用いることにより十分な洗浄効果を発現することができ、洗浄効率を格段に向上して石油精製装置内の洗浄時間を大幅に短縮することを可能にする石油精製装置用洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、洗浄に用いる石油系溶剤中に特定の界面活性剤を混合することにより、石油系溶剤への重質油分やスラッジの溶解性が向上されることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の石油精製装置用洗浄剤組成物は、石油精製装置の内部を石油系溶剤により非水系で洗浄する際に、該石油系溶剤に混合して用いられるものであって、軽油に対する温度25℃における溶解度が10以上である界面活性剤を含有することを特徴とする。
【0006】
このような本発明の石油精製装置用洗浄剤組成物(以下、「洗浄剤組成物」という)においては、界面活性剤の界面活性能により、この界面活性剤が含まれる石油系溶剤が汚れ成分に対して速やかに浸透し、汚れ成分中の重質油分の石油系溶剤への溶解が助長され、かつ、汚れ成分中の固化したスラッジが石油系溶剤へ良好に分散される。したがって、石油系溶剤の十分な洗浄効果が奏され、洗浄効率を向上することができる。また、上記界面活性剤は、石油系溶剤への溶解性に極めて優れているので、石油系溶剤と非常によく混合されて良好な界面活性作用が奏される。したがって、洗浄効率を一段と高めることが可能となる。
【0007】
また、本発明の洗浄剤組成物は、テルペン系化合物を更に含有して成ると好適である。テルペン系化合物は、汚れ成分中の重質油分の溶解性に極めて優れた化合物であるとともに、上記界面活性剤との相溶性にも優れている。よって、洗浄剤組成物自体に汚れ成分が十分に溶解されるとともに、界面活性剤の界面活性能が十分に発揮されるので、洗浄効率が更に向上される。また、テルペン系化合物が界面活性剤との相溶性に優れるので、界面活性剤の粘性が大きいときには、テルペン系化合物と混合することにより、洗浄剤組成物の粘性を小さくすることができる。その結果、石油精製装置内への洗浄剤組成物の注入が極めて容易となる。
【0008】
さらに、洗浄剤組成物中の界面活性剤の含有割合が5〜80重量%であり、該洗浄剤組成物中のテルペン系化合物の含有割合が20〜95重量%であると、すなわち、界面活性剤とテルペン系化合物との混合比が重量比で5:95〜80:20であるとより好適である。界面活性剤とテルペン系化合物との混合比がこのような範囲内にあると、石油系溶剤を一層速やかに汚れ成分へ浸透させることができ、また、テルペン系化合物の含有量が相対的に減少して洗浄剤組成物自体の溶媒能が低下してしまうことを防止できる。
【0009】
またさらに、石油系溶剤に上述の洗浄剤組成物を0.5〜20重量%溶解せしめて成るものであると一層好ましい。洗浄剤組成物の含有量(使用量)をこのような範囲に維持すると、汚れ成分中の重質油分の石油系溶剤への溶解を確実に助長することができ、かつ、汚れ成分中のスラッジの石油系溶剤への分散を確実に促進することが可能となる。また、洗浄効率の飽和を防止でき、コストに見合う以上の洗浄効果を得ることができる。
【0010】
なお、本発明において、界面活性剤の溶解度を規定するための溶媒としての「軽油」とは、JISK 2204で規定される「1号軽油」である。また、本発明における界面活性剤の軽油に対する「溶解度」とは、界面活性剤が軽油100gに対して透明に溶解する限度をグラム数で表した数値である。さらに、本発明における「軽質油」とは、石油留分のうち、いわゆる重質留分(A〜C重油、残油)以外の軽質留分及び中質留分、例えば、灯油、軽油、LCO( Light Cycle Oil)等であり、沸点が100〜330℃の石油留分を表すものである。またさらに、「非水系」とは、洗浄の際に、意図的に水を加えないことを意味し、石油精製装置内に蓄積した汚れ成分中に水分が存在するか否かは問わない。また、洗浄剤組成物中に若干の水分が含まれることにより、石油系溶剤に若干の水分が混入されても、もちろん構わない。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の石油精製装置用洗浄剤組成物によれば、石油系溶剤とともに用いることにより十分な洗浄効果を発現でき、洗浄効率を格段に向上して石油精製装置内の洗浄時間を大幅に短縮することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明の洗浄剤組成物は、軽油に対する温度25℃における溶解度が10以上である界面活性剤を含有しており、石油精製装置の内部を石油系溶剤により非水系で洗浄する際に、該石油系溶剤に混合して用いられる。この石油系溶剤としては、汚れ成分を溶解又は分散しうる石油系の溶媒であればよく、例えば、軽質油を好ましく用いることができる。また、界面活性剤の上記の溶解度が10未満であると、上記石油系溶剤、特に、軽質油と十分に相溶し難くなる傾向にある。この場合には、汚れ成分の軽質油への溶解、又は汚れ成分中の固化したスラッジ等の軽質油への分散が良好に行われない傾向にある。
【0013】
上記界面活性剤としては、例えば、石油スルホネート、レシチン、ソルビタンエステル類、脂肪酸エステル類、アルキルエーテル系非イオン、アルキルアリールエーテル系非イオン等が挙げられ、これらに属する化合物又は成分を、単独で又は2種以上混合して用いることができる。石油スルホネートは、石油留分の硫酸精製の際に副生する炭化水素のスルホン酸混合物等であり、例えば、スルホール400、同430、同465、同500(松村石油(株)製;登録商標)が市販されている。また、レシチンとしては、例えば、大豆レシチン、卵レシチン等が挙げられ、市場での供給安定性及び経済性の観点からは、大豆レシチンが好ましい。しかも、大豆レシチンは、固着した汚れ成分への浸透性とスラッジの分散性に優れており、洗浄性能向上の観点から特に有利である。
【0014】
さらに、ソルビタンエステル類としては、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリラウレート、ソルビタントリオレート、ソルビタントリステアレート等が挙げられる。これらのなかでは、ソルビタンモノオレート及びソルビタントリオレートが好ましく用いられる。これらは、その取扱が平易であるとともに、固着した汚れ成分への浸透性とスラッジの分散性に優れているので、洗浄性能向上の観点から好ましい。
【0015】
また、上記のソルビタンエステルに炭素数2〜4を有するアルキレンオキサイドを付加した化合物もソルビタンエステル類として挙げられ、アルキレンオキサイドの付加量としては、1〜3モルであることが好ましい。この付加量が3モルを超えると、石油系溶剤への溶解性が低下する傾向にある。これらのソルビタンエステル類の中では、特に、エチレンオキサイドを1〜2モル付加したソルビタンエステルが、金属劣化で生じたスラッジ分の分散性向上に極めて有効であることから、特に好ましく用いられる。これは、エチレンオキサイドの適量が付加されることにより、ソルビタンエステル類が有する若干の親水性が僅かに程よく高められ、スラッジ中の金属イオン又は金属化合物と石油系溶剤の相溶性が向上されることによると考えられる。
【0016】
また、脂肪酸エステル類としては、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジラウレート、グリセリンジオレート、グリセリントリオレート等、又は、ヒマシ油、ヤシ油、大豆油、菜種油等の植物油等が挙げられる。これらのなかでは、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、グリセリントリオレート、ヒマシ油が好ましく用いられる。これらは、その取扱が平易であるとともに、固着した汚れ成分への浸透性とスラッジの分散性に優れており、洗浄性能向上の観点から好ましい。
【0017】
さらに、ソルビタンエステル類と同様に、上記の脂肪酸エステルに炭素数2〜4を有するアルキレンオキサイドを付加した化合物も脂肪酸ンエステル類として挙げられ、アルキレンオキサイドの付加量としては、1〜3モルであることが好ましい。この付加量が3モルを超えると、石油系溶剤への溶解性が低下する傾向にある。これらの脂肪酸エステル類の中では、特に、エチレンオキサイドを1〜2モル付加した脂肪酸エステルが、金属劣化で生じたスラッジ分の分散性向上に極めて有効であることから、特に好ましく用いられる。これは、上述したソルビタンエステル類の場合と同様に、脂肪酸エステル類が有する若干の親水性が僅かに程よく高められ、スラッジ中の金属イオン又は金属化合物と石油系溶剤の相溶性が向上されることによると考えられる。
【0018】
また、アルキルエーテル系非イオンとしては、炭素数10〜18のアルコールに、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを1〜5モル付加した化合物が挙げられ、アルキルアリールエーテル系非イオンとしては、オクチルフェノールやノニルフェノールに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを1〜5モル付加した化合物が挙げられる。
【0019】
そして、上記の界面活性剤のうち、ソルビタンエステル類、脂肪酸エステル類、アルキルエーテル系非イオン、アルキルアリールエーテル系非イオンとしては、親水性油性バランス値(以下、「HLB値」という)が、好ましくは1〜10であるものが好適である。界面活性剤のHLB値が上記の下限値未満の場合には、汚れ成分中の親水性成分(スラッジ中の金属、金属化合物等)との親和性が十分ではなくなる傾向にあり、このHLB値が上記の上限値を超えると、石油系溶剤及び後述するテルペン系化合物への溶解が不十分となる傾向にある。なお、ここにいうHLB値とは、グリフィンのHLBの値をいう(以下同様)。
【0020】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記界面活性剤に加えて、重質油分を溶解することが可能な化合物を更に含有していると好ましく、このような化合物としては、界面活性剤との相溶性の観点から、テルペン系化合物が特に好ましい。このテルペン系化合物としては、例えば、モノテルペン化合物、セスキテルペン化合物、ジテルペン化合物、トリテルペン化合物等が挙げられ、これらの内では、モノテルペン化合物が好ましい。モノテルペン化合物としては、例えば、d−リモネン、水添リモネン、β−ピネン、ミルセン、テレピネン、カンフェン、トリシクレン、ターピノーレン等のテルペン炭化水素、リナロール、ミルセノール、メントール、ゲラニオール、ターピネオール、ボルネオール、水添ターピネオール等のテルペンアルコールが挙げられ、これらのテルペン系化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのなかでは、石油系溶剤の溶解力を向上するのに極めて優れているd−リモネンが好ましい。また、石油系溶剤として高沸点のものを使用して高温洗浄を行うと、汚れ成分の粘性が低下し、固着した汚れ成分が剥離されやすくなるとともに、石油系溶剤への汚れ成分の溶解や分散が促進される。このときに用いられる界面活性剤及びテルペン系化合物は、沸点が150℃以上であるものが望ましい。
【0021】
さらに、洗浄剤組成物中の上記界面活性剤の含有割合は5〜80重量%であり、同テルペン系化合物の含有割合は20〜95重量%であると一層好ましい。すなわち、界面活性剤とテルペン系化合物との混合比は、重量比で5:95〜80:20であると一層好ましい。この混合比が5:95未満となると、界面活性剤の不足によって石油系溶剤が汚れ成分に速やかに浸透し難くなる傾向にあり、一方、この混合比が80:20を超えると、界面活性は高められるものの、テルペン系化合物量が相対的に減少し洗浄剤組成物自体の溶媒能が低下し、結果として洗浄効果が飽和する傾向にある。またさらに、本発明の洗浄剤組成物は、軽質油に上述の洗浄剤組成物を0.5〜20重量%溶解せしめて成るものであると更に一層好ましい。この洗浄剤組成物の使用量が0.5重量%未満であると、石油系溶剤を汚れ成分へ十分に浸透させ難くなり、かつ、汚れ成分の石油系溶剤への溶解性及び分散性が十分に高められない傾向にある。一方、この使用量が20重量%を超えると、洗浄効率は多少高められるものの、ほぼ飽和する傾向となり、コストに見合う以上の洗浄効果が得られない。
【0022】
また、本発明の洗浄剤組成物を用いて石油精製装置を洗浄する手順としては、例えば、次のような手順が挙げられる。まず、石油系溶剤を混合槽に収容し、この混合槽に本発明の洗浄剤組成物を所定の濃度範囲となるように添加する。そして、これらをよく混合し、石油系溶剤に洗浄剤組成物を溶解させ、更に加熱した後、この石油系溶剤を洗浄対象の石油精製装置内に注入し、ポンプ等によって石油系溶剤を石油精製装置内で循環させる。また、他の手順としては、加熱した石油系溶剤を先に石油精製装置内に所定量注入して循環させた状態で、所定の濃度範囲となる量の本発明の洗浄剤組成物を、石油精製装置内に追加注入してもよい。
【0023】
このような本発明の洗浄剤組成物によれば、界面活性剤の界面活性能により、石油系溶剤が汚れ成分に対して速やかに浸透し、汚れ成分中の重質油分の石油系溶剤への溶解が助長され、かつ、汚れ成分中のスラッジが石油系溶剤へ良好に分散されるので、石油系溶剤の十分な洗浄効果が奏され、洗浄効率を向上することができる。その結果、洗浄時間を従来に比して短縮することができる。また、上記界面活性剤が灯油等の軽質油に対する溶解性に極めて優れており、石油系溶剤と非常によく混合されて良好な界面活性作用が奏されるので、洗浄効率を一段と高めることが可能となる。したがって、洗浄時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0024】
また、洗浄剤組成物がテルペン系化合物を更に含有する場合には、テルペン系化合物が汚れ成分中の重質油分等の溶解性に極めて優れており、かつ、界面活性剤との相溶性にも優れることから、洗浄剤組成物自体に汚れ成分が十分に溶解されるとともに、界面活性剤の界面活性能を十分に発揮させることができる。したがって、洗浄効率を一層向上させることができ、洗浄時間を飛躍的に短縮することが可能となる。さらに、テルペン系化合物が界面活性剤との相溶性に優れるので、界面活性剤の粘性が大きいときには、テルペン系化合物と混合することにより、洗浄剤組成物の粘性を小さくすることができる。その結果、石油精製装置内への洗浄剤組成物の注入が極めて容易となり、洗浄時の作業性を向上させることができる。またさらに、界面活性剤及びテルペン系化合物として沸点150℃以上のものを用いると、石油系溶剤として高沸点のものを使用して高温洗浄を行うことが可能となる。このようにすれば、汚れ成分の粘性を低下させることができ、固着した汚れ成分が剥離されやすくなるとともに、石油系溶剤への汚れ成分の溶解や分散が促進される。したがって、洗浄効率を更に一層向上させることが可能となる。
【0025】
またさらに、当該洗浄剤組成物中の界面活性剤とテルペン系化合物との混合比が重量比で5:95〜80:20となっており、石油系溶剤を一層速やかに汚れ成分へ浸透させることができ、また、テルペン系化合物量が相対的に減少して洗浄剤組成物自体の溶媒能が低下してしまうことを防止できる。その結果、洗浄剤組成物の汚れ成分に対する溶解能と界面活性剤の界面活性能とを十分に発現させることができるので、洗浄効率を更に一層向上させることができる。さらにまた、石油系溶剤中に洗浄剤組成物を0.5〜20重量%溶解せしめて成る場合には、汚れ成分中の重質油分の石油系溶剤への溶解を確実に助長することができ、かつ、汚れ成分中のスラッジの石油系溶剤への分散を確実に促進することが可能となるので、十分な洗浄効率を確実に達成することができる。また、洗浄効率の飽和を防止できるので、コストに見合う以上の洗浄効果を得ることが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
〈テストピースの作製〉実際に洗浄対象となる石油精製装置内に付着した汚れ成分が多様であることを想定し、以下のようにして、アスファルト(汚れ成分)の付着量が異なるテストピースを作製した。まず、冷間圧延鋼板(50mm×25mm×厚さ1.6mm)にアスファルトを0.1g塗布したものを複数用意した。これらを350℃のホットプレート上に置き、1分間、5分間及び10分間焼き付けを行い、3種のテストピースを得た(焼き付け時間が長くなるほどアスファルト分が固化して洗浄が困難になると考えられる。)。以下、焼き付け時間が1分、5分及び10分のものを、それぞれ、テストピース1、2及び3とする。また、アスファルトを塗布する前、及び、アスファルトを塗布して焼き付けた後のテストピースの乾燥重量を測定し、両者の差をとることにより、テストピースに付着したアスファルトの重量W1を測定した。
【0028】
〈洗浄試験〉金属製ポット(容量120cc)に、洗浄剤組成物を添加した軽油若しくは同灯油、又は軽油のみ(それぞれ100cc)と、テストピース1枚を入れて密閉した後、この金属製ポットを130℃の恒温槽に入れた。次いで、この金属製ポットを横回転させて金属製ポット内に液流を発生させた状態で、恒温槽内に1〜3時間保持した後、金属製ポットを恒温槽から外してテストピースを取り出した。テストピースに付着した余分な油分を拭き取った後、180℃の乾燥機で1時間乾燥させ、冷却した後、このテストピースの重量を測定した。この重量と、上記〈テストピースの作製〉で測定したアスファルトを塗布する前のテストピースの乾燥重量との差から、洗浄後にテストピースに残留したアスファルトの重量W2を算出した。そして、以下の関係式(1)により洗浄率を算出した。
【0029】
洗浄率(%)=100−(W2/W1)×100 (1)
【0030】
〈実施例1〜10〉下記表1に示す界面活性剤(詳細を表2に示す)とテルペン系化合物とを、表1中の配合比によって混合し、実施例1〜10の洗浄剤組成物を得た。
【0031】
【表1】



【0032】
【表2】



【0033】
〈洗浄試験結果〉上記実施例1〜10で得た洗浄剤組成物を、石油系溶剤としての軽油又は灯油に対して、表3に示す濃度となるように添加して溶解し、得られた洗浄剤組成物溶液を用いて上記テストピースを洗浄した。得られた結果を表3に示す。
【0034】
【表3】



【0035】
表3において、洗浄例1〜15は、実施例1〜10の洗浄剤組成物を使用してテストピースを洗浄した結果であり、比較洗浄例1及び2は石油系溶剤を単独で使用してテストピースを洗浄した結果である。
【0036】
まず、テストピース2を使用した比較洗浄例1と洗浄例9及び10とを対比すると、比較洗浄例1における洗浄率が47%であったのに対し、洗浄例9及び10における洗浄率はそれぞれ60%及び62%であり、洗浄率の有意な向上が認められた。この結果より、大豆レシチン(界面活性剤)のみから成る洗浄剤組成物が混合された軽油(石油系溶剤)を用いると、従来の軽油のみで洗浄した場合に比して、洗浄性能が明らかに向上されることが確認された。また、テルペン系化合物を含む洗浄例1〜8おける洗浄率は、64%〜73%と更に高い数値を示した。この結果より、界面活性剤及びテルペン系化合物を含有する洗浄剤組成物が混合された軽油(石油系溶剤)を用いると、従来の軽油のみを用いた場合に比して、洗浄効果が一段と向上されることが確認された。
【0037】
次に、テストピース3を使用した洗浄例11及び12と同比較洗浄例2とを対比すると、比較洗浄例2における洗浄率が34%であったのに対して、洗浄例11及び12における洗浄率はそれぞれ52%及び50%であった。この結果より、本発明の洗浄剤組成物が混合された軽油(石油系溶剤)は、極めて固着の度合いが強いアスファルト(汚れ成分)に対しても、良好な洗浄効果を奏することが確認された。また、テストピース1を使用した洗浄例13〜15における洗浄率は99%〜100%であった。この結果より、本発明の洗浄剤組成物が混合された灯油(石油系溶剤)は、固着の程度が弱いアスファルト(汚れ成分)をほぼ完全に除去できることが確認された。
【0038】
これらの試験結果より、本発明の洗浄剤組成物を石油系溶剤とともに用いると、汚れ成分の固着の程度に左右されることなく、すなわち、多様な付着形態の汚れ成分に対して、十分な洗浄効果が得られることが理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油精製装置の内部を石油系溶剤により非水系で洗浄する際に、該石油系溶剤に混合して用いられる洗浄剤組成物であって、軽油に対する温度25℃における溶解度が10以上である界面活性剤を含有することを特徴とする石油精製装置用洗浄剤組成物。
【請求項2】
テルペン系化合物を更に含有して成ることを特徴とする請求項1記載の石油精製装置用洗浄剤組成物。
【請求項3】
当該石油精製装置用洗浄剤組成物中の前記界面活性剤の含有割合が5〜80重量%であり、当該石油精製装置用洗浄剤組成物中の前記テルペン系化合物の含有割合が20〜95重量%である、ことを特徴とする請求項2記載の石油精製装置用洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記石油系溶剤が軽質油であり、該軽質油に前記石油精製装置用洗浄剤組成物を0.5〜20重量%溶解せしめて成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の石油精製装置用洗浄剤組成物。


【公開番号】特開2007−146166(P2007−146166A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340455(P2006−340455)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【分割の表示】特願平11−156546の分割
【原出願日】平成11年6月3日(1999.6.3)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】