説明

研磨パッド溝加工機及び研磨パッド溝加工方法

【課題】切削により発生した切屑を工具から確実に除去し、溝加工を安定して行うことができる研磨パッド溝加工機及び研磨パッド溝加工方法を提供すること。
【解決手段】研磨パッド1の表面に多条の溝を切削形成するための研磨パッド溝加工機において、複数の切刃8が整列突設された多刃工具を有し、研磨パッド1の表面に対して近接した切削位置と離間した非切削位置との間で切刃8が変位可能に構成された切削装置2と、切刃8にエアを吹き付けて冷却するエアブロー装置3、4と、切削により発生した切屑を吸引回収する集塵機5と、切刃8を清掃するためのブラシ9を有し、非切削位置にある切刃8に対して近接した清掃位置と離間した待避位置との間でブラシ9が変位可能に構成された清掃装置6と、少なくともブラシ9の変位を制御する制御装置7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドの表面に多条の溝を切削形成するための研磨パッド溝加工機と研磨パッド溝加工方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、半導体ウエハの表面に導電性膜を形成して、フォトリソグラフィーやエッチング等により配線層を形成する工程や、その配線層の上に層間絶縁膜を形成する工程等が含まれるが、これらの工程によってウエハ表面に金属等の導電体や絶縁体からなる凹凸が生じてしまう。近年、半導体集積回路の高密度化を目的として配線の微細化や多層配線化が進んでおり、ウエハ表面の凹凸を平坦化する技術が重要となっている。ウエハ表面の凹凸を平坦化する方法としては、一般的にCMP(ケミカルメカニカルポリシング)法が採用されている。
【0003】
CMPは、ウエハ表面(被研磨面)を研磨パッドの表面(研磨面)に押し付けた状態で、砥粒が分散されたスラリー状の研磨剤(以下、スラリーという。)を用いて研磨する技術である。CMPで一般的に使用する研磨装置は、例えば図8に示すように、研磨パッド20を支持する研磨定盤21と、被研磨材である半導体ウエハ22を支持する支持台23(ポリシングヘッド)とウエハの均一加圧を行うためのバッキング材と、スラリー24の供給機構25とを備えている。研磨パッド20は、例えば両面テープにより研磨定盤21に装着固定される。研磨定盤21と支持台23とは、それぞれに支持された研磨パッド20と半導体ウエハ22とが対向するように配置され、各々に回転軸26、27を備えている。また、支持台23側には、半導体ウエハ22を研磨パッド20に押し付けるための加圧機構が設けてある。
【0004】
CMPを実施する上では、スラリーがウエハ表面に均一に供給され且つウエハ表面の一定箇所に滞留することがないように、また新たに供給されるスラリーに更新されるようにする必要がある。そのため、従来使用されている研磨パッドの研磨面には、多条の溝が形成されている。下記特許文献1、2には、このような溝を切削加工するための工具として、複数の切刃を整列突設して多刃ユニット化し、多条の溝を同時に切削形成できるように構成した溝加工用工具が開示されている。
【0005】
ところで、研磨パッドに多条の溝を切削形成するにあたっては、リボン状や糸状をなす細長い切屑が発生する場合があり、しかも研磨パッドの材質が高分子材料であるため切削による摩擦で帯電し易いことから、工具の刃先に切屑が絡み付き、加工精度を悪化させるという問題がある。特に、同心円状又は螺旋状に連続する溝の場合、切屑が長尺化し易いため上記の問題が顕著となる。
【0006】
下記特許文献1には、工具の刃先近傍からエアと共にイオンを噴出させ、それにより研磨パッド及び切屑に帯電した静電気を中和させて切屑の付着を防止するとともに、発生した切屑を吸い込みノズルで吸引回収するように構成した装置が記載されている。しかしながら、この装置では、短片状の切屑の付着防止には効果があるものの、上述したような細長い切屑に対しては除去効果が十分でなく、加工精度が適切に確保されない場合がある。特に研磨パッドが大口径である場合には、一度の切削加工で発生する切屑の量が多く、切屑を十分に除去することが難しい。
【特許文献1】特開2003−282503号公報
【特許文献2】国際公開WO2003/083918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、切削により発生した切屑を工具から確実に除去し、溝加工を安定して行うことができる研磨パッド溝加工機及び研磨パッド溝加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る研磨パッド溝加工機は、研磨パッドの表面に多条の溝を切削形成するための研磨パッド溝加工機において、複数の切刃が整列突設された多刃工具を有し、前記研磨パッドの表面に対して近接した切削位置と離間した非切削位置との間で前記切刃が変位可能に構成された切削装置と、前記切刃にエアを吹き付けて冷却するエアブロー装置と、切削により発生した切屑を吸引回収する回収装置と、前記切刃を清掃するためのブラシを有し、非切削位置にある前記切刃に対して近接した清掃位置と離間した待避位置との間で前記ブラシが変位可能に構成された清掃装置と、少なくとも前記ブラシの変位を制御する制御装置と、を備えるものである。
【0009】
本発明に係る研磨パッド溝加工機では、研磨パッドの表面に対して多刃工具の切刃を近接させたり離間させたりすることで、多条の溝を適宜に切削形成することができる。切削により発生した切屑は、回収装置によって吸引回収されるが、本発明では、それに加えて、清掃装置のブラシで切刃を清掃することで切屑を除去できる。このブラシは、非切削位置にある切刃に対して近接した清掃位置と離間した待避位置との間で変位可能に構成されており、切削後の切刃にブラシを近付けて接触させることで、切刃に絡み付いた細長い切屑をも適切に取り除くことができる。かかるブラシの変位は、制御装置によって制御される。また、切刃にエアを吹き付けて冷却することで、その切刃に付着した切屑の粘度を低下させて分離を容易にし、ブラシによる切屑の除去効果を高めることができる。以上のように、本発明によれば、多刃工具の切刃から切屑を確実に除去でき、研磨パッドに対する溝加工を安定して行うことができる。
【0010】
上記において、前記制御装置が、溝加工回数が所定の回数に達したとき又は所定の位置での溝加工が終了したときに、前記ブラシを清掃位置に変位させて前記切刃を清掃するように制御するものが好ましい。これにより、加工効率を過度に低下させることなく、所定の望ましいタイミングで切屑を除去でき、研磨パッドに対する溝加工を安定して且つ効率的に行うことができる。
【0011】
上記において、前記清掃装置が、前記切刃に対して前記ブラシを加工方向後方側から近接させるものであり、前記回収装置が前記切削装置の加工方向前方側に配置されているものが好ましい。かかる構成によれば、切刃に絡み付いた切屑を比較的簡便に分離して除去することができる。また、切削装置の加工方向前方側に回収装置が配置されていることで、切刃から分離された切屑を回収し易くなる。
【0012】
上記において、前記切削装置の加工方向前後の少なくとも一方に前記エアブロー装置が配置されているものが好ましい。また、前記エアブロー装置に代えて又は加えて、研磨パッド及び切屑に帯電した静電気を中和させるイオンを前記切刃に吹き付けるイオンブロー装置を備えるものが、本発明の好ましい実施形態として挙げられる。かかるエアやイオンの吹き付けを加工方向の前方側及び/又は後方側から行うことにより、切屑を分離し易くして、ブラシ清掃による効果改善代を高めることができる。このようなエアやイオンの吹き付けは、それぞれ単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0013】
また、本発明に係る研磨パッド溝加工方法は、複数の切刃が整列突設された多刃工具を用いて、研磨パッドの表面に多条の溝を切削形成する研磨パッド溝加工方法において、前記切刃を前記研磨パッドの表面に近接させて切削を行う切削工程と、前記切削工程の後、前記切刃を前記研磨パッドの表面から離間させる離間工程と、前記離間工程の後、前記切刃が前記研磨パッドの表面から離間している間に前記切刃をブラシで清掃して、前記切刃に付着した切屑を取り除く清掃工程とを備え、前記研磨パッドの表面から離間した位置にある前記切刃に対して近接した清掃位置と離間した待避位置との間で前記ブラシが変位可能に構成された清掃装置と、前記ブラシの変位を制御する制御装置とを用いて、前記清掃工程を行うものである。
【0014】
本発明に係る研磨パッド溝加工方法によれば、上述したように清掃装置のブラシによって切刃に絡み付いた細長い切屑を取り除くことができ、研磨パッドに対する溝加工を安定して行うことができる。清掃装置のブラシは、研磨パッドの表面から離間した位置にある切刃に対して近接した清掃位置と離間した待避位置との間で変位可能に構成されており、その変位が制御装置によって制御されるため、清掃工程を効率良く確実に行うことができる。
【0015】
上記において、溝加工回数が所定の回数に達したとき又は所定の位置での溝加工が終了したときに、前記清掃工程を行うものが好ましい。これにより、加工効率を過度に低下させることなく、所定の望ましいタイミングで切屑を除去でき、研磨パッドに対する溝加工を安定して且つ効率的に行うことができる。
【0016】
上記において、前記清掃工程では、前記切刃に対して前記ブラシを加工方向後方側から近接させるとともに、前記切刃の加工方向前方側に配置された回収装置に切屑を回収させるようにするものが好ましい。かかる方法によれば、切刃に絡み付いた切屑を比較的簡便に分離して除去することができる。また、切刃から分離した切屑を回収装置により回収し易くなる。
【0017】
上記において、前記切削工程にて、前記切刃の加工方向前後の少なくとも一方から前記切刃にエアを吹き付けて冷却するものが好ましい。切刃にエアを吹き付けて冷却することで、その切刃に付着した切屑の粘度を低下させて、ブラシによる切屑の除去効果を高めることができる。また、かかるエアの吹き付けを加工方向前方側及び/又は後方側から行うことにより、切屑が分離し易くなる。
【0018】
上記において、前記エアの吹き付けに代えて又は加えて、研磨パッド及び切屑に帯電した静電気を中和させるイオンを前記切刃に吹き付けることが好ましい。かかるイオンの吹き付けにより、切屑が切刃から分離し易くなり、ブラシ清掃による効果改善代を高めることができる。このようなエアやイオンの吹き付けは、それぞれ単独で又は組み合わせて使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1、2は、本発明に係る研磨パッド溝加工機の構成の一例を概略的に示す側面図である。図3は、その溝加工機が備える切削装置とエアブロー装置とを図1左方から見たときの正面図である。この研磨パッド溝加工機(以下、単に溝加工機と呼ぶ場合がある。)は、研磨パッド1の表面を切削するための切刃8を有する切削装置2と、切削装置2に隣接して配置されたエアブロー装置3、4と、切削により発生した切屑を吸引回収する集塵機5(前記回収装置に相当する。)と、切刃8を清掃するためのブラシ9を有する清掃装置6と、清掃装置6等の動作を制御する制御装置7(図4参照)とを備える。
【0020】
後述するように、研磨パッド1は中心軸回りに回転させられ、その表面は図1において左方から右方に向かって移動する。多条の溝は、研磨パッド1の回転を利用して図1の左方に向かって延設される。したがって、図1左方が加工方向前方側となり、図1右方が加工方向後方側となる。本実施形態では、切削装置2の加工方向前方側にエアブロー装置3が配置され、更にその加工方向前方側に集塵機5が配置されている。また、切削装置2の加工方向後方側にエアブロー装置4が配置され、更にその加工方向後方側に清掃装置6が配置されている。
【0021】
切削装置2、エアブロー装置3、4、集塵機5及び清掃装置6は、一体的にユニット化されており、移動機構10(図4参照)によって一緒に横移動可能に構成されている。この横移動は、研磨パッド1の径方向への移動であり、図1、2では紙面の垂直方向への移動である。また、図1、2に示すように、切削装置2、エアブロー装置3、4及び集塵機5は、移動機構10によって一緒に昇降可能に構成されている。制御装置7は、移動機構10によるこれらの動作も制御する。
【0022】
切削装置2は、図3に示すように、複数の切刃8が横方向に所定のピッチPで整列突設された多刃工具11を有する。多刃工具11は、切刃8と各切刃8間のピッチPを保持するためのスペーサーとを交互に積層して多刃ユニット化し、またはスペーサーと一体化した切刃8を積層して多刃ユニット化し、その多刃ユニットをホルダーに取り換え可能に固装することにより構成できる。この切刃8間のピッチPは、形成する溝ピッチに応じて設定される。
【0023】
各切刃8は、上述した切削装置2の昇降により、研磨パッド1の表面に対して近接した切削位置(図1参照)と、研磨パッド1の表面から離間した非切削位置(図2参照)との間で変位する。研磨パッド1に対する溝加工は、各切刃8が切削位置にあるときに行われる。なお、実際に切削加工が行われる状態では、切刃8の刃先が研磨パッド1の表面に侵入する位置にまで下降している。
【0024】
本発明では、切刃8の形状は特に制限されず、刃物角、前逃げ角及び横逃げ角は、被加工材料、溝形状及び刃物材質などの条件により適宜に変更することができる。また、切刃8の材質も特に制限されず、例えば、炭素鋼、合金鋼、高速度鋼、超硬合金、サーメット、ステライト、超高圧焼結体、セラミックなどが例示される。但し、研磨パッド1の表面への金属残留を防いでウエハ表面の金属汚染を抑制する観点から、切刃8の材質がダイヤモンド等の非金属であることが好ましい。
【0025】
エアブロー装置3、4は、常温以下に保持されたエア(破線の矢印で示す。)を噴出口13、14より噴出し、切刃8に吹き付けて冷却する機能を有する。かかるエアの吹き付け流量は適宜に調整可能である。本実施形態では、噴出口13、14の各々が、切刃8に対向して開口するとともに、切刃8間のピッチPに対応したピッチで横方向に整列配置されている。
【0026】
図3に示すように、切削装置2の加工方向前方側となるエアブロー装置3の噴出口13は、横方向における位相を切刃8と略同じにしつつ、切刃8の刃先の斜め上に設けられている。これにより、切刃8を冷却するに際して、付着した切屑を前方斜め上から押し下げるように作用するため、切屑が切刃8から分離し易くなる。一方、切削装置2の加工方向後方側となるエアブロー装置4の噴出口14は、横方向における位相を切刃8に対してずらしつつ、切刃8と略同じ高さ位置に設けられている。これにより、切刃8を冷却するに際して、噴出したエアが切刃8間を円滑に流動し、切刃8に付着した切屑を後方から押し出すように作用するため、切屑が切刃8から分離し易くなる。
【0027】
清掃装置6は、出力ロッド15を切削装置2に向けて固定されたシリンダ16と、その出力ロッド15の先端に取り付けられたブラシ9とを有する。ブラシ9は、多刃工具11と同等以上の横方向寸法を有しており、本実施形態では円筒形をなしている。図2に示すように、ブラシ9は、出力ロッド15の出退に応じて、非切削位置にある切刃8に対して近接した清掃位置と、その切刃8から離間した待避位置との間で変位する。かかるブラシ9の変位、つまりシリンダ16の駆動は制御装置7によって制御される。
【0028】
本実施形態では、切刃8に対してブラシ9が加工方向後方側から近接して清掃位置に変位する。この清掃位置では、ブラシ9の毛先が切刃8の刃先に接触し、切刃8に付着している切屑が取り除かれる。切削装置2の加工方向前方側には集塵機5が配置されており、除去された切屑は集塵機5に回収される。切屑の除去が終わると、出力ロッド15が引っ込んでブラシ9は待避位置に変位する。
【0029】
ブラシ9の材質は特に制限されないが、切刃8の損傷を回避する観点から、金属材料よりも柔軟性のある樹脂材料が好ましく、例えばナイロン等の合成繊維が挙げられる。また、ブラシ9を導電性材料により形成してもよく、それによってブラシ9を切刃8に接触させた際に、切屑に帯電した静電気を清掃装置6を介して放出でき、切刃8から切屑を分離させ易くして、ブラシ9による清掃効果を高めることができる。
【0030】
本発明では、溝加工の対象となる研磨パッド1として、CMPの技術分野における公知の研磨パッドを限定なく使用することができる。以下、研磨パッド1について簡単に説明する。
【0031】
研磨パッド1は、研磨シート単独で、または研磨シートの裏面に不織布等よりなるクッションシートを貼り付けて構成される。研磨パッド1の研磨面となる表面は、研磨シートにより構成され、この研磨シートに多条の溝が形成されることになる。研磨シートの厚みは特に限定されるものではないが、一般的には1〜3mmである。
【0032】
研磨シートの形成材料は、特に制限されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ハロゲン系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリスチレン、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、エポキシ樹脂、及び感光性樹脂などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。研磨シートは、発泡体及び無発泡体の何れでもよく、被研磨材や研磨条件に応じて任意に選択可能であるが、スラリーの保持性やスクラッチ等の面から発泡体であることが好ましい。
【0033】
既述のように、研磨パッド1の表面には、スラリーを保持・更新するために多条の溝が形成される。溝形状としては特に制限されず、XY格子状溝や同心円状溝、螺旋状溝、偏心円状溝、放射状溝などを連続的又は断続的に設けることができる。また、溝断面形状も特に制限されず、矩形状溝や半円形状溝、U字状溝、V字状溝などを設けることができる。
【0034】
次に、上記の溝加工機を用いて研磨パッド1の表面に多条の溝を切削形成する方法について説明する。図4は、研磨パッドに溝加工を施す際の概略構成を示す平面図である。研磨パッド1は、駆動装置18によって回転駆動されるテーブル17に載置され、中心軸12回りのR方向に沿って回転する。上述した溝加工機は、その研磨パッド1の上方に配置されている。図1、2は、図4を左方向から見たときの側面図であり、テーブル17については図示を省略している。研磨パッド1の回転、つまり駆動装置18の作動は制御装置7によって制御される。
【0035】
研磨パッド1には、中心軸12近傍から外周縁近傍にかけて、可能な限りの広範囲で一様な溝を設けることが好ましい。本実施形態では、同心円状に連続して延びる多条の溝を切削形成する例を示す。かかる同心円状溝や螺旋状溝の場合、一度の切削加工で発生する切屑の量が多いために切屑が長尺化し易い傾向にあり、その切屑が切刃8に絡み付いて加工精度を悪化させるという問題が生じ易い。かかる傾向は、φ500mm以上、特に600mm以上、更にはφ700mm以上の口径が比較的大きい研磨パッドにおいて顕著である。
【0036】
同心円状に連続して延びる多条の溝を切削形成する場合、研磨パッド1の径方向内側から外側に向かって、又は径方向外側から内側に向かって、多刃工具11を順次移動させることになるが、かかる多刃工具11の移動方向は、同心で同一間隔の溝が適切に形成できるものであれば特に制限されない。本実施形態では、研磨パッド1の径方向内側から外側に向かって多刃工具11を移動させる例を示す。
【0037】
図5は、溝加工の手順を示すフローチャートである。まず、溝加工の対象となる研磨パッド1をテーブル17に載置するとともに、その上方にある溝加工機を所定の高さに配置する(S1)。この段階では、図2に示すように、切削装置2、エアブロー装置3、4及び集塵機5が上昇していて、切刃8が非切削位置にある。また、出力ロッド15が引っ込んでいて、ブラシ9が待避位置にある。以下、このような溝加工機の状態を待機状態と呼ぶ。多刃工具11の横方向位置(図4における左右方向位置)は、図4に示すような中心軸12の近傍となる。
【0038】
次に、テーブル17を回転駆動するとともに、溝加工機を所定の高さにまで下降し(S2)、回転する研磨パッド1の表面に切刃8を近接させて、その刃先を所定の深さで侵入させる。これにより、切刃8間のピッチPに対応した間隔で多条の溝を切削形成することができる(S3、前記切削工程に相当する。)。この段階では、図1に示すように、切削装置2、エアブロー装置3、4及び集塵機5が下降していて、切刃8が切削位置に変位している。図4は、切削を開始してから研磨パッド1が約3/4回転した状態を示している。
【0039】
溝ピッチの最小値は1.5mm程度が好ましく、最大値は特に制限されないがスラリーの保持量を多くし、多条の溝を均等配置するために5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。また、溝深さ及び溝幅は特に制限されないが、溝深さが0.3〜1mm、溝幅が0.1〜1mmであるものが例示される。かかるサイズの溝を形成することにより、スラリーの保持・更新を効率的に行うことができる。
【0040】
切削により発生した切屑のうち短片状のものは集塵機5で比較的容易に吸引回収されるが、リボン状や糸状をなす細長い切屑は、切刃8に絡み付いて吸引では容易に回収できない状態となる。研磨パッド1の表面を切削している間、切刃8にはエアブロー装置3、4によってエアが吹き付けられる。樹脂材料からなる切屑は、温度上昇によって切刃8に粘着し易くなるが、かかるエアの吹き付けにより切刃8を冷却することで切屑の粘度を低下させることができ、後工程となるブラシ清掃にて切屑を切刃8から容易に分離できる。エアブロー装置3、4によるエアの吹き付けは、研磨パッド1の表面全域に対する溝加工が完了するまで常時行われるものでもよく、各工程に合わせた適宜のタイミングで行われるものでもよい。後者の場合、制御装置7により吹き付けタイミングを制御することが望ましい。
【0041】
切削を開始してから研磨パッド1が1回転以上し、多条の環状溝が形成されると、溝加工機を所定の高さにまで上昇し(S4)、切刃8を研磨パッド1の表面から離間して非切削位置に変位させ、待機状態とする(S5、前記離間工程に相当する。)。続いて、切刃8が研磨パッド1の表面から離間している間に、清掃装置6のシリンダ16を駆動して出力ロッド15を突き出し、ブラシ9を切刃8に接触させて清掃して、絡み付いた細長い切屑を取り除く(S6、前記清掃工程に相当する。)。この段階では、図2に示すように、切削装置2、エアブロー装置3、4及び集塵機5が上昇していて、切刃8が非切削位置にあるとともに、出力ロッド15が突き出ていてブラシ9が清掃位置に変位する。
【0042】
ブラシ9による切刃8の清掃は、例えば数秒程度で行われ、ブラシ9を適宜に往復動させたり回転させたりすることも可能である。また、ブラシ9による清掃を行う間にも、エアブロー装置3、4により切刃8にエアを吹き付けることが好ましく、それによりブラシ9による切屑の除去効果を高めることができる。
【0043】
切刃8を清掃した後は、ブラシ9を待避位置に変位させ、研磨パッド1の表面全域への溝加工が完了しているのであればテーブル17の回転を停止して溝加工を終了し、完了していないのであれば溝加工機を横方向に移動し、上記S1以降の工程を繰り返して、形成した溝の外周側に新たな溝を切削形成する(S7、S8)。研磨パッド1の表面全域への溝加工を完了したか否かは、例えば溝加工機の横方向位置に基づいて判別できる。
【0044】
以上の方法によれば、切刃8から切屑を確実に除去でき、研磨パッド1に対する溝加工を安定して行うことができる。なお、テーブル17の回転やブラシ9の変位、溝加工機の昇降及び横移動などは、制御装置7により制御される。そのための制御プログラムは制御装置7に予め入力・設定でき、上述した溝加工を自動的に(半自動又は全自動で)行うことができる。
【0045】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、切削装置の加工方向前後両側にエアブロー装置を配置した例を示したが、本発明では、このエアブロー装置に代えて又は加えて、研磨パッド及び切屑に帯電した静電気を中和させるイオンを切刃に吹き付けるイオンブロー装置を備えることができる。樹脂材料からなる切屑は、切削による摩擦で帯電して切刃に付着し易くなるが、かかるイオンの吹き付けによって切刃から分離し易くなり、ブラシによる清掃効果を高めることができる。
【0046】
このようなエアやイオンの吹き付けは、それぞれ単独で又は組み合わせて使用することができる。したがって、上述した前後両側のエアブローに代えて、前後両側のイオンブロー、前方側エアブローと後方側イオンブローとの組み合わせ、又は、前方側イオンブローと後方側エアブローとの組み合わせを適宜に採用することができる。
【0047】
(2)前述の実施形態では、切削加工後に溝加工機が待機状態になったことに引き続いて、ブラシ清掃を行う例を示したが、かかるブラシ清掃を、切削加工後であって溝加工回数が所定の回数に達したとき又は所定の位置での溝加工が終了したときに行うようにしてもよい。これにより、加工効率を過度に低下させることなく、所定の望ましいタイミングで切屑を除去でき、研磨パッドに対する溝加工を安定して且つ効率的に行うことができる。
【0048】
図6は、溝加工回数が所定の回数に達したときにブラシ清掃を行う場合のフローチャートである。S11〜S14については、前述のS1〜S4と同様であるので説明を省略する。この例では、切削加工後に溝加工機が待機状態になると、溝加工回数N(スタート時はN=0)をカウントする(S15)。そして、溝加工回数Nが所定回数Xに到達したか否かを判別し、到達していればブラシ清掃を実施し、未到達であればブラシ清掃を未実施とする(S16、S17)。S18以降の工程は前述のS7以降の工程と同様である。このような動作も制御装置7によって制御できる。回数Xは、上述した作用効果が適切に得られるよう任意に設定できる。
【0049】
図7は、所定の位置での溝加工が終了したときにブラシ清掃を行う場合のフローチャートである。S21〜S24については、前述のS1〜S4と同様であるので説明を省略する。この例では、切削加工後に待機状態になると(S25)、溝加工機が所定の横方向位置にあるか否かを判別し、所定の横方向位置にあればブラシ清掃を実施し、なけれればブラシ清掃を未実施とする(S26、S27)。S28以降の工程は前述のS7以降の工程と同様である。このような動作も制御装置7によって制御できる。上記の所定の横方向位置は、上述した作用効果が適切に得られるよう任意に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る研磨パッド溝加工機の構成の一例を概略的に示す側面図
【図2】本発明に係る研磨パッド溝加工機の構成の一例を概略的に示す側面図
【図3】溝加工機が備える切削装置とエアブロー装置の正面図
【図4】研磨パッドに溝加工を施す際の概略構成を示す平面図
【図5】溝加工の手順を示すフローチャート
【図6】溝加工回数が所定の回数に達したときにブラシ清掃を行う場合のフローチャート
【図7】所定の位置での溝加工が終了したときにブラシ清掃を行う場合のフローチャート
【図8】CMPで使用する研磨装置の一例を示す概略構成図
【符号の説明】
【0051】
1 研磨パッド
2 切削装置
3 エアブロー装置
4 エアブロー装置
5 集塵機(回収装置)
6 清掃装置
7 制御装置
8 切刃
9 ブラシ
11 多刃工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッドの表面に多条の溝を切削形成するための研磨パッド溝加工機において、
複数の切刃が整列突設された多刃工具を有し、前記研磨パッドの表面に対して近接した切削位置と離間した非切削位置との間で前記切刃が変位可能に構成された切削装置と、
前記切刃にエアを吹き付けて冷却するエアブロー装置と、
切削により発生した切屑を吸引回収する回収装置と、
前記切刃を清掃するためのブラシを有し、非切削位置にある前記切刃に対して近接した清掃位置と離間した待避位置との間で前記ブラシが変位可能に構成された清掃装置と、
少なくとも前記ブラシの変位を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする研磨パッド溝加工機。
【請求項2】
前記制御装置が、溝加工回数が所定の回数に達したとき又は所定の位置での溝加工が終了したときに、前記ブラシを清掃位置に変位させて前記切刃を清掃するように制御する請求項1記載の研磨パッド溝加工機。
【請求項3】
前記清掃装置が、前記切刃に対して前記ブラシを加工方向後方側から近接させるものであり、前記回収装置が前記切削装置の加工方向前方側に配置されている請求項1又は2記載の研磨パッド溝加工機。
【請求項4】
前記切削装置の加工方向前後の少なくとも一方に前記エアブロー装置が配置されている請求項1〜3いずれか1項に記載の研磨パッド溝加工機。
【請求項5】
前記エアブロー装置に代えて又は加えて、研磨パッド及び切屑に帯電した静電気を中和させるイオンを前記切刃に吹き付けるイオンブロー装置を備える請求項4記載の研磨パッド溝加工機。
【請求項6】
複数の切刃が整列突設された多刃工具を用いて、研磨パッドの表面に多条の溝を切削形成する研磨パッド溝加工方法において、
前記切刃を前記研磨パッドの表面に近接させて切削を行う切削工程と、
前記切削工程の後、前記切刃を前記研磨パッドの表面から離間させる離間工程と、
前記離間工程の後、前記切刃が前記研磨パッドの表面から離間している間に前記切刃をブラシで清掃して、前記切刃に付着した切屑を取り除く清掃工程とを備え、
前記研磨パッドの表面から離間した位置にある前記切刃に対して近接した清掃位置と離間した待避位置との間で前記ブラシが変位可能に構成された清掃装置と、前記ブラシの変位を制御する制御装置とを用いて、前記清掃工程を行うことを特徴とする研磨パッド溝加工方法。
【請求項7】
溝加工回数が所定の回数に達したとき又は所定の位置での溝加工が終了したときに、前記清掃工程を行う請求項6記載の研磨パッド溝加工方法。
【請求項8】
前記清掃工程では、前記切刃に対して前記ブラシを加工方向後方側から近接させるとともに、前記切刃の加工方向前方側に配置された回収装置に切屑を回収させるようにする請求項6又は7記載の研磨パッド溝加工方法。
【請求項9】
前記切削工程にて、前記切刃の加工方向前後の少なくとも一方から前記切刃にエアを吹き付けて冷却する請求項6〜8いずれか1項に記載の研磨パッド溝加工方法。
【請求項10】
前記エアの吹き付けに代えて又は加えて、研磨パッド及び切屑に帯電した静電気を中和させるイオンを前記切刃に吹き付ける請求項9記載の研磨パッド溝加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−200767(P2008−200767A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36398(P2007−36398)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】