説明

研磨パッド

【課題】セルフドレッシング性を発揮させ被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド10は、ウレタン樹脂で形成された発泡シート2を有している。発泡シート2は、湿式成膜法により形成された連続状の発泡構造を有している。発泡シート2には、5重量%以下に制限されたカーボンブラック5と1〜5重量%の範囲のコロイダルシリカ4が母材中に略均一に含有されている。コロイダルシリカ4の平均粒子径は、10nm〜100nmの範囲に制限されている。カーボンブラック5およびコロイダルシリカ4が共に、研磨加工中、発泡シート2の発泡形状を保つ役割を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに係り、特に、湿式成膜法により形成された樹脂製発泡シートを備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用基板、半導体、半導体デバイス用シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等、高精度に平坦性が要求される材料(被研磨物)では、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスでは、半導体回路の高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、シリコンウエハを一層高度に平坦化する技術が重要となっている。液晶ディスプレイでも、大型化に伴い、ガラス基板のより高度な平坦性が求められている。
【0003】
一般に、ハードディスク用基板や半導体デバイス用シリコンウエハ等の研磨には、湿式成膜法で形成されたウレタン樹脂製の発泡シートを備えた研磨パッドが使用されている。湿式成膜法では、ウレタン樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中に浸漬することで樹脂がシート状に凝固再生される。得られた発泡シートでは、内部にウレタン樹脂の凝固再生に伴う多数の発泡が形成されている。すなわち、被研磨物を研磨加工するための研磨面側に微多孔が形成された表面層(スキン層)を有し、表面層より内側に発泡が連続状に形成されている。通常、表面層側に研削処理が施され、表面に開孔が形成されている。このような発泡シートでは、乾式法により形成された研磨パッドと比較すると母材となるウレタン樹脂の強度が不十分であり、内部に形成される発泡の大きさのバラツキや発泡形成の偏りが生じやすく、被研磨物の高度な平坦性を得ることが難しくなる。また、発泡シートのセルフドレッシング性(自己崩壊性)が不十分であると、樹脂が引き伸ばされスラリを保持する開孔を閉塞させてしまう。発泡形成の安定化とセルフドレッシング性の向上を達成させるために、樹脂溶液にカーボンブラック等の非晶質炭素を含む添加剤を配合し、発泡シートの母材を強化させることがある。
【0004】
ところが、ウレタン樹脂にカーボンブラックが配合された発泡シートでは、発泡シートの母材が強化されるものの、カーボンブラックの粒子が凝集体を形成しやすいため、研磨加工時に発泡シートの摩耗に伴い研磨面にカーボンブラックの凝集体が露出する場合がある。その結果、研磨加工により被研磨物の表面にカーボンブラックの凝集体が接触し、スクラッチ等の欠点を生じさせることとなり、高精度な平坦化が難しくなる。カーボンブラックによるスクラッチ等を抑制し、被研磨物の平坦性を向上させるため、カーボンブラックが添加されていない湿式成膜法により形成された保持パッドおよび研磨パッドが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−220838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、被研磨物へのスクラッチ等を抑制することができるものの、発泡シートの母材を強化させる役割を果たすカーボンブラックが含有されていないため、発泡シートの弾性等の性質が安定せず、発泡シートが変形しやすくなる。このため、発泡形成が不安定となることに加え、セルフドレッシング性が悪化し、研磨加工により研磨面の開孔が閉塞されやすくなる。また、開孔が閉塞されやすくなると、研磨加工中に研磨液(スラリ)の循環が悪化するので、安定した研磨加工を行うことが難しくなる。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、セルフドレッシング性を発揮させ被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、湿式成膜法により形成された樹脂製発泡シートを備えた研磨パッドにおいて、前記発泡シートは、5重量%以下の非晶質炭素と1重量%〜5重量%の範囲のコロイダル粒子とが略均一かつ略均等に含有されていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、樹脂製の発泡シートの母材中に、5重量%以下の非晶質炭素と1〜5重量%のコロイダル粒子が略均一かつ略均等に含有されていることで、非晶質炭素とコロイダル粒子とが共に研磨加工中も発泡形状を保つ役割を果たすため、コロイダル粒子が含有された分で非晶質炭素の含有量を5重量%以下の割合に制限しても、研磨加工時の強度を確保しセルフドレッシング性を発揮させることができると共に、非晶質炭素の含有量が少ないので、非晶質炭素によるスクラッチの発生を抑制することができ、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0010】
この場合において、コロイダル粒子の平均粒子径を10nm〜100nmの範囲とすることが好ましい。発泡シートには、1重量%以上の非晶質炭素が含有されていてもよい。発泡シートのショアA硬度を25〜50の範囲とすることができる。非晶質炭素とコロイダル粒子との重量比を2:1〜1:2の範囲とすることが好適である。非晶質炭素をカーボンブラックとしてもよい。コロイダル粒子をコロイダルシリカとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂製の発泡シートの母材中に、5重量%以下の非晶質炭素と1〜5重量%のコロイダル粒子が略均一かつ略均等に含有されていることで、非晶質炭素とコロイダル粒子とが共に研磨加工中も発泡形状を保つ役割を果たすため、コロイダル粒子が含有された分で非晶質炭素の含有量を5重量%以下の割合に制限しても、研磨加工時の強度を確保しセルフドレッシング性を発揮させることができると共に、非晶質炭素の含有量が少ないので、非晶質炭素によるスクラッチの発生を抑制することができ、被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0014】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、湿式成膜法によりウレタン樹脂で形成された発泡シート2を備えている。発泡シート2は、略平坦な研磨面Pを有している。
【0015】
発泡シート2は、本例においては、湿式成膜時に形成された表面層(スキン層)がバフ処理により除去され、その表面に上述した略平坦な研磨面Pが構成されている。発泡シート2には、発泡シート2の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面三角形状の縦長発泡3が形成されている。発泡3は、研磨面P側の径の大きさが、研磨面Pと反対の面側のそれより小さく形成されている。すなわち、発泡3は研磨面P側で縮径されている。発泡シート2では、バフ処理によりスキン層が除去され、発泡3が開孔することで、研磨面Pに開孔9が形成されている。発泡3の間のウレタン樹脂中には、発泡3より小さい微多孔が形成されているが、図1ではそれらの小さい微多孔を省略している。発泡3および微多孔は、不図示の連通孔で網目状につながっている。すなわち、発泡シート2は、湿式成膜法により形成された連続状の発泡構造を有している。また、発泡シート2には、母材(発泡シート2の樹脂部分)中にカーボンブラック5とコロイダルシリカ4とが略均一かつ略均等に含有されている。発泡シート2のショアA硬度は25〜50度の範囲に調整されている。
【0016】
ここで、カーボンブラック5およびコロイダルシリカ4について説明する。カーボンブラック5は、表面に活性基を有するため粒子の凝集体を形成しやすく、カーボンブラック粒子が凝集した一次凝集体を形成し、一次凝集体がさらに凝集した二次凝集体を形成することがある。二次凝集体は通常、数十〜数百μmの大きさで、二次凝集体が発泡シートに多量に含有されていると、研磨加工時に発泡シート2の摩耗に伴い研磨面Pに二次凝集体が露出するおそれがある。このため、被研磨物の表面にスクラッチ等が発生しやすくなる。これに対して、コロイダルシリカ4は、平均粒子径が10〜100nmの範囲で、カーボンブラック5と比較すると小さく、コロイダルシリカ4による被研磨物へのスクラッチ等を回避することができ、研磨加工には殆ど寄与しない。カーボンブラック5およびコロイダルシリカ4はいずれも発泡シート2の母材のセルフドレッシング性促進材として作用するため、コロイダルシリカ4が含有されていることで、カーボンブラック5の含有量を制限しても、研磨加工に十分なセルフドレッシング性を確保することができる。本例では、カーボンブラック5とコロイダルシリカ4との重量比は、2:1〜1:2の範囲に調整されている。このようにすれば、コロイダルシリカ4に対するカーボンブラック5の割合が制限されるため、研磨加工時のカーボンブラック5によるスクラッチ等の発生を抑制することができる。
【0017】
本例では、カーボンブラック5の含有量は、発泡シートの重量に対して1〜5重量%の範囲に調整されている。このため、カーボンブラック5が研磨面に露出する割合が従来よりも小さくなり、スクラッチの発生を抑制することができる。カーボンブラック5が5重量%を超える場合、カーボンブラック凝集体の分散不良が発生し、被研磨物へスクラッチ等が発生しやすくなる。カーボンブラック5が1重量%に満たない場合、コロイダルシリカ4が配合されていても発泡シート2の強度が不十分となる。また、コロイダルシリカ4は、発泡シートの重量に対して含有量が1〜5重量%の範囲に調整されている。コロイダルシリカ4が5重量%を超える場合、発泡シートの自己崩壊性が高くなり、研磨による摩耗が早くなるため、寿命は短くなる。コロイダルシリカ4が1重量%に満たない場合、発泡シート2のセルフドレッシング性が不十分となる。
【0018】
また、研磨パッド10は、研磨面Pと反対の面側に、発泡シート2を支持する支持体6の一面側が貼り合わされている。支持体6には、本例では、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記する。)製のシートが用いられている。支持体6の他面側には、一面側(最下面側)に剥離紙8を有し研磨機に研磨パッド10を装着するための両面テープ7の他面側が貼り合わされている。
【0019】
(製造)
研磨パッド10は、ウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し水系凝固液中でウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生したウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程、バフ処理により厚みを均一化させるバフ処理工程、発泡シート2を支持する支持体6および研磨定盤に装着するための両面テープ7を貼付するラミネート加工工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0020】
準備工程では、ウレタン樹脂、ウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してウレタン樹脂を溶解させる。ウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂からモジュラス5〜30MPaの範囲の樹脂を選択して用い、例えば、ウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、発泡形成を促進させる親水性活性剤およびウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。カーボンブラック5、コロイダルシリカ4は得られる発泡シート2に含有される量が上述した範囲となるように、予めDMFやN、N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の有機溶媒に混合させた有機溶媒混合液が用いられる。得られた溶液を減圧下で脱泡してウレタン樹脂溶液を得る。
【0021】
塗布工程では、準備工程で調製されたウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材に略均一に塗布する。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙を調整することで、ウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)を調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。不織布、織布を用いる場合は、ウレタン樹脂溶液の塗布時に成膜基材内部へのウレタン樹脂溶液の浸透を抑制するため、予め水またはDMF水溶液(DMFと水との混合液)等に浸漬する前処理(目止め)が行われる。成膜基材としてPET製等の可撓性フィルムを用いる場合は、液体の浸透性を有していないため、前処理が不要となる。以下、本例では、成膜基材をPET製フィルムとして説明する。
【0022】
凝固再生工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたウレタン樹脂溶液を、ウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内する。凝固液中では、まず、塗布されたウレタン樹脂溶液の表面側に厚さ数μm程度のスキン層が形成される。その後、ウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりウレタン樹脂が成膜基材の片面にシート状に凝固再生する。DMFがウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層の内側(ウレタン樹脂中)に発泡3および微多孔が形成され、発泡3および微多孔を網目状に連通する不図示の連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな発泡3が形成される。
【0023】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂は、ロール状に巻き取られる。
【0024】
バフ処理工程では、成膜樹脂の表面に形成されたスキン層側にバフ処理を施す。すなわち、圧接治具の略平坦な表面を成膜樹脂のスキン層と反対側の面に圧接し、スキン層側にバフ処理を施す。これにより、一部の発泡3が研磨面Pで開孔して開孔9が形成されると共に、成膜樹脂の厚みが均一化され、発泡シート2が得られる。
【0025】
ラミネート加工工程では、得られた発泡シート2の研磨面Pと反対側の面に支持体6の一面側を貼り合わせ、支持体6の他面側に、両面テープ7の一面側を貼り合わせる。両面テープ7の他面側は剥離紙8で覆われている。汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド10を完成させる。
【0026】
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0027】
本実施形態の研磨パッド10では、発泡シート2の母材(ウレタン樹脂)中に、発泡シートの重量に対してそれぞれ、1〜5重量%のカーボンブラック5と1〜5重量%のコロイダルシリカ4とが含有されている。このため、発泡シート2の強度を確保しつつ、優れたセルフドレッシング性を発揮することができる。セルフドレッシング性を有すると、研磨加工中に研磨面Pでの開孔9の閉塞が抑制されるので、研磨面Pでの開孔9の形状を研磨当初の状態に維持でき、発泡形状を保つことができる。また、開孔9の閉塞が抑制されると、研磨加工中のスラリの循環が良化されるため、安定した研磨加工を行うことができる。更に、コロイダルシリカ4が含有されていることで、カーボンブラック5の含有量を、従来含有された7重量%程度より少ない5重量%以下に制限することができるため、研磨加工時のカーボンブラック5によるスクラッチの抑制効果が高まり、被研磨物の平坦性を向上させることができる。カーボンブラック5の含有量が5重量%を超える場合、カーボンブラック凝集体の分散不良が発生し、研磨加工中に研磨面の摩耗に伴い、カーボンブラックの凝集体が研磨面Pに露出し、スクラッチ等が形成されやすくなる。
【0028】
また、本実施形態の研磨パッド10では、コロイダルシリカ4の平均粒子径は10〜100nmの範囲に制限されている。カーボンブラック5と比較すると平均粒子径は小さいため、コロイダルシリカ4を含有させても、コロイダルシリカ4による研磨加工中の被研磨物のスクラッチ等の発生を回避することができる。コロイダルシリカ4の凝集を考慮すると、コロイダルシリカ4の平均粒子径を10〜30nmの範囲とすることがより好ましい。更に、本実施形態の研磨パッド10では、カーボンブラック5とコロイダルシリカ4との重量比は、2:1〜1:2の範囲に調整されている。カーボンブラック5およびコロイダルシリカ4は、発泡シート2のセルフドレッシング性を適正化する役割を果たし、コロイダルシリカ4に対するカーボンブラック5の割合が制限されるため、発泡シート2の発泡形状を保つための強度を確保することができると共に、研磨加工時のカーボンブラック5のスクラッチの発生を抑制することができる。
【0029】
更に、本実施形態の研磨パッド10では、発泡シート2のショアA硬度は、25〜50の範囲に設定されている。このため、発泡シート2は、研磨加工に適切な硬度を有しているため、研磨面Pの開孔9が閉塞しにくく、セルフドレッシング性が発揮されると共に、過度な摩耗を防ぐことができるため、長寿命化を図ることができる。
【0030】
なお、本実施形態では、発泡シート2に含有されるカーボンブラック5を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、非晶質の炭素材であればよい。例えば、カーボンブラックに代えて非晶質炭素の石炭を使用してもよい。また、カーボンブラックには、その製法により、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等の種類があるが、本発明はカーボンブラックの製法に制限されるものではなく、いずれのものを使用してもよい。製法の異なるカーボンブラックを混合して使用することも可能である。
【0031】
また、本実施形態では、発泡シート2に含有されるコロイダルシリカ4を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、球状や繭状のコロイダル粒子であればよい。例えば、コロイダルシリカ粒子に代えてコロイダルセリア粒子、コロイダルアルミナ粒子等を用いることができる。コロイダルシリカ粒子を用いるようにすれば、表面欠陥となるナノスクラッチ(微細なスクラッチ)をより低減することができる。コロイダルシリカ粒子は、例えばケイ酸水溶液から生成することができる。
【0032】
更に、本実施形態では、発泡シート2としてウレタン樹脂製のシートを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の樹脂を使用してもよい。例えば、ポリエステル樹脂等を使用してもよい。ウレタン樹脂を用いるようにすれば、湿式成膜法により連続発泡構造を容易に形成することができる。
【0033】
また更に、本実施形態では、バフ処理工程で発泡シート2の研磨面P側の面にバフ処理を施す例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スライス機等によりスキン層を除去可能な方法を用いてもよい。また、研磨用途に応じて発泡シート2のスキン層を残して使用してもよい。この場合、研磨パッド10は、微多孔が形成されたミクロな平坦性を有するスキン層を残しているため、仕上げ研磨に適している。
【0034】
更にまた、本実施形態では、発泡シート2の作製時に、ウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離して、支持体6を貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離せず、両面テープ7を貼り合わせ、成膜基材をそのまま支持体6としてもよい。また、発泡シート2と支持体6とが剥離しにくいように、予め接着性のよい樹脂を塗布した成膜基材上にウレタン樹脂を凝固再生させて、成膜基材をそのまま支持体6としてもよい。また、成膜基材に不織布を用いた場合は、発泡シート2から剥離することが難しいため、成膜基材を剥離せずそのまま乾燥させてもよい。つまり、不織布の成膜基材が研磨パッド10の支持体6となる。更に、両面テープ7としては、基材の両面に粘着剤が塗布されていてもよく、基材を有することなく粘着剤のみで構成されてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0036】
(実施例1)
実施例1では、発泡シート2の作製にウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ウレタン樹脂を用いた。このウレタン樹脂を溶解させた30重量%溶液の100部に対して、溶媒のDMFの45部、カーボンブラック5の6.7重量%を含むDMF分散液の10部およびコロイダルシリカ4の20重量%を含むDMF分散液の5部を添加し混合してウレタン樹脂溶液を調製した。このとき、ウレタン樹脂溶液中の固形分総重量に対し、カーボンブラック5の含有量は2.1重量%、コロイダルシリカ4の含有量は3.2重量%であった。得られたウレタン樹脂溶液を凝固液中で凝固再生させ成膜樹脂を形成した後、洗浄・乾燥させ、発泡シート2を製造した。得られた発泡シート2の研磨面P側にバフ処理を施し、支持体6および両面テープ7を貼り合わせることで実施例1の研磨パッド10を製造した。
【0037】
(実施例2)
実施例2では、カーボンブラック5およびコロイダルシリカ4の含有量を変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨パッド10を製造した。すなわち、ウレタン樹脂溶液の調製時にカーボンブラック5の6.7重量%を含むDMF分散液の22部およびコロイダルシリカ4の20重量%を含むDMF分散液の5部を添加し混合した。このとき、ウレタン樹脂溶液中の固形分総重量に対し、カーボンブラック5の含有量は4.5重量%、コロイダルシリカ4の含有量は3.1重量%であった。
【0038】
(比較例1)
比較例1では、カーボンブラックを添加せずコロイダルシリカの含有量を変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。すなわち、ウレタン樹脂溶液の調製時にコロイダルシリカの20重量%含むDMF分散液の5部を添加し混合した。このとき、ウレタン樹脂溶液中の固形分総重量に対し、カーボンブラックの含有量は0.0重量%、コロイダルシリカの含有量は3.2重量%であった。
【0039】
(比較例2)
比較例2では、カーボンブラックの含有量を変えコロイダルシリカを添加しないこと以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。すなわち、ウレタン樹脂溶液の調製時にカーボンブラックの6.7重量%を含むDMF分散液の22部を添加し混合した。このとき、ウレタン樹脂溶液中の固形分総重量に対し、カーボンブラックの含有量は4.7重量%、コロイダルシリカの含有量は0.0重量%であった。
【0040】
(比較例3)
比較例3では、カーボンブラックおよびコロイダルシリカの含有量を変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。すなわち、ウレタン樹脂溶液の調製時にカーボンブラックの6.7重量%を含むDMF分散液の22部およびコロイダルシリカの20重量%を含むDMF分散液の10部を添加し混合した。このとき、ウレタン樹脂溶液中の固形分総重量に対し、カーボンブラックの含有量は4.4重量%、コロイダルシリカの含有量は6.0重量%であった。
【0041】
(比較例4)
比較例4では、カーボンブラックおよびコロイダルシリカの含有量を変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。すなわち、ウレタン樹脂溶液の調製時にカーボンブラックの6.7重量%を含むDMF分散液の40部およびコロイダルシリカの20重量%を含むDMF分散液の5部を添加し混合した。このとき、ウレタン樹脂溶液中の固形分総重量に対し、カーボンブラックの含有量は8.0重量%、コロイダルシリカの含有量は3.0重量%であった。
【0042】
(比較例5)
比較例5では、カーボンブラックおよびコロイダルシリカの含有量を変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。すなわち、ウレタン樹脂溶液の調製時にカーボンブラックの6.7重量%を含むDMF分散液の2.5部およびコロイダルシリカの20重量%を含むDMF分散液の1部を添加し混合した。このとき、ウレタン樹脂溶液中の固形分総重量に対し、カーボンブラックの含有量は0.6重量%、コロイダルシリカの含有量は0.7重量%であった。
【0043】
(比較例6)
比較例6では、カーボンブラックおよびコロイダルシリカの含有量を変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。すなわち、ウレタン樹脂溶液の調製時にカーボンブラックの6.7重量%を含むDMF分散液の33部およびコロイダルシリカの20重量%を含むDMF分散液の10部を添加し混合した。このとき、ウレタン樹脂溶液中の固形分総重量に対し、カーボンブラックの含有量は6.5重量%、コロイダルシリカの含有量は5.8重量%であった。
【0044】
(評価1)
各実施例および比較例の研磨パッドについて、セルフドレッシング性を評価するため、発泡シート(研磨面にバフ処理を施し、開孔を形成させる前のシート)の摩耗量を測定し、摩耗後の研磨面における開孔状態を評価した。摩耗量の測定では、回転型摩耗試験機を用いて以下の試験条件で摩擦摩耗試験を行い、試験前後における発泡シート試料の重量変化を摩耗量として測定した。摩擦摩耗試験では、発泡シート試料を圧子に固定させて保持し、研磨紙が固定された回転盤の上に乗せ、一定荷重をかけながら水を流した湿式研磨条件下で回転盤を一定時間回転させた。摩耗量が2〜3.5mgの範囲であれば、研磨パッドとして好適なセルフドレッシング性を有する。摩耗量が2mgに満たない場合、セルフドレッシング性に劣るため、研磨中に開孔が閉塞しやすく、研磨レートの低下が生じるため研磨パッドとして不適である。摩耗量が3.5mgを超える場合、摩耗が大きく製品寿命が短くなるため研磨パッドとして不適である。また、開孔状態の評価では、摩擦摩耗試験後に研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。評価基準として、発泡シートの強度不足により樹脂が引き伸ばされ開孔の多くが半分以上閉塞している場合を×、研磨面に開孔が残っている場合を○とした。セルフドレッシング性の評価は、摩耗量が上述の範囲内で、かつ開孔状態が良好である場合を○、摩耗量および開孔状態の少なくとも一方が不適である場合を×とした。摩耗量の測定結果および開孔状態の評価結果を下表1に示す。
(摩擦摩耗試験条件)
摩擦摩耗試験機:株式会社井元製作所製、IMC−154D型
研磨速度(回転数):30rpm
荷重:100gf/cm
下定盤側研磨紙;♯1000サンドペーパ
水量:100ml/min
研磨時間:120秒
【0045】
【表1】

【0046】
(評価2)
実施例及び比較例の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨後のアルミニウム基板について、目視でアルミニウム基板の表面に対するスクラッチ発生の有無を外観評価した。スクラッチの有無の評価結果を表1に合わせて示した。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:90g/cm
スラリ:アルミナスラリ(平均粒子径:0.8μm)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:95mmφハードディスク用アルミニウム基板
研磨時間:300秒
【0047】
表1に示すように、カーボンブラックを添加せずコロイダルシリカのみを添加した比較例1では、摩耗量は2.6mgで2〜3.5mgの範囲内であったものの、摩耗により開孔の多くが閉塞されセルフドレッシング性は得られなかった。これは、カーボンブラックが添加されていないため、発泡シートの強度が不十分で、発泡シートが変形しやすく摩耗により樹脂が引き伸ばされたためと考えられる。コロイダルシリカを添加せずカーボンブラックのみを添加した比較例2では、摩耗量は1.8mgを示し上述した範囲より低く、セルフドレッシング性に問題があった。コロイダルシリカの含有量が5重量%を超える比較例3では、摩耗量が5.2mgを示し上述した範囲より大きく、製品寿命が短くなる。これは、コロイダルシリカにより自己崩壊性が高くなり、摩耗が早くなるためである。カーボンブラックの含有量が5重量%を超える比較例4では、摩耗量が5.8mgを示し上述した範囲より大きく、製品寿命が短くなる。また、研磨加工でカーボンブラックの凝集体によるスクラッチが発生した。これは、カーボンブラックの凝集体が分散不良を起こしたためと考えられる。カーボンブラックおよびコロイダルシリカの含有量が1重量%に満たない比較例5では、摩耗量が1.8mgを示し上述した範囲より低く、セルフドレッシング性に問題があった。また、研磨加工でスクラッチが発生した。これは、発泡シートの自己崩壊性が低く、強度が不十分なため摩擦摩耗試験後の開孔の多くが樹脂で閉塞され、摩耗による研磨屑やスラリの砥粒等による目詰まりが原因でスクラッチが発生したと考えられる。カーボンブラックおよびコロイダルシリカの含有量が5重量%を超える比較例6では、摩耗量が5.2mgを示し上述した範囲より大きく、製品寿命が短くなる。また、研磨加工でスクラッチが発生した。これは、研磨加工時にコロイダルシリカの凝集体やカーボンブラック凝集体の分散不良物が研磨屑として発生したためと考えられる。これらに対して、実施例1〜2では、摩耗量はそれぞれ2.8mg、3.4mgを示し両方とも上述した範囲内で、開孔状態も良好であったため優れたセルフドレッシング性を発揮することができた。これは、カーボンブラック5とコロイダルシリカ4とがバランスよく含有されていることで、発泡シートの強度を保ちつつ、自己崩壊性を付与できたためと考えられる。また、実施例1〜2では、アルミニウム基板の表面にはスクラッチは見られなかった。これは、実施例1〜2は、自己崩壊性を発揮させる役割を果たす、適量のコロイダルシリカ4が含有されたことでカーボンブラック5の含有量を5重量%以下に制限できたため、スクラッチを抑制することができたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、セルフドレッシング性を発揮させ被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0049】
2 発泡シート
3 発泡
4 コロイダルシリカ
5 カーボンブラック
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により形成された樹脂製発泡シートを備えた研磨パッドにおいて、前記発泡シートは、5重量%以下の非晶質炭素と1重量%〜5重量%の範囲のコロイダル粒子とが略均一かつ略均等に含有されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記コロイダル粒子の平均粒子径は、10nm〜100nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記発泡シートには、1重量%以上の非晶質炭素が含有されていることを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記発泡シートのショアA硬度は、25〜50の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記非晶質炭素と前記コロイダル粒子との重量比は、2:1〜1:2の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記非晶質炭素は、カーボンブラックであることを特徴とする請求項5に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記コロイダル粒子は、コロイダルシリカであることを特徴とする請求項6に記載の研磨パッド。

【図1】
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【公開番号】特開2011−67923(P2011−67923A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223047(P2009−223047)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】