説明

研磨パッド

【課題】シリコンベアウエハ、ガラス、化合物半導体基板およびハードディスク基板等において良好な鏡面を形成するために使用される仕上げ研磨パッドにおいて、研磨時の被鏡面研磨面のスクラッチ・パーティクル等の欠陥が少なく、かつ、被鏡面研磨面の表面粗さが小さくなる安定した研磨特性が得られる仕上げ研磨パッドを提供する。
【解決手段】異なる3種以上の層からなる研磨シートaとクッションシートbを有する研磨パッドであって、前記研磨シートaの表層が湿式凝固法で得られるポリウレタンを主成分とする多孔質ポリウレタン層cであり、その他の層のいずれかが圧縮弾性率が0.08MPa以上0.25MPa以下の発泡プラスチック層dであり、前記表層の多孔質ポリウレタン層cと前記発泡プラスチック層dとの間に厚み10〜45μmのプラスチックフィルム(e)が介在されてなる研磨パッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンベアウエハ、ガラス、化合物半導体基板およびハードディスク基板等において良好な鏡面を形成するために使用される仕上げ用に好適な研磨パッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、研磨シートは、合成繊維と合成ゴム等からなる不織布や編織布を基材にして、その上面にポリウレタン系溶液が塗布され、湿式凝固法によりポリウレタン系溶液が凝固されて連続気孔を有する多孔層の表皮層が形成され、必要に応じてその表皮層の表面が研削、除去されることにより(以下、表面が研削されたものをスエードと表現することがある。)、製造されている(特許文献1参照。)。
【0003】
このような研磨シートからなる研磨布は、既に、液晶ガラス、ガラスディスク、シリコンウエハ、化合物半導体基板およびハードディスク等の電子部品用表面鏡面研磨のための粗研磨から仕上げ用研磨パッドまで広く使用されている。しかしながら、近年、鏡面研磨面の測定機器の発達とあいまって、ユーザーからの要求品質が高くなり、ますます精度の高い鏡面研磨が出来る研磨パッドが求められており、一層の研磨シートとクッション層から構成される研磨布が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、かかる技術では、研磨時の被鏡面研磨面のスクラッチ・パーティクル等の欠陥を少なくし、同時に被鏡面研磨面の表面粗さを小さくすることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−335979号公報
【特許文献2】特開平11−277408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の背景に鑑み、シリコンベアウエハ、ガラス、化合物半導体基板およびハードディスク基板等において良好な鏡面を形成するために使用される仕上げ研磨パッドにおいて、研磨時の被鏡面研磨面のスクラッチ・パーティクル等の欠陥が少なく、かつ、被鏡面研磨面の表面粗さが小さくなる安定した研磨特性が得られる仕上げ用に好適な研磨パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明の研磨パッドは、異なる3種以上の層からなる研磨シート(a)とクッションシート(b)を有する研磨パッドであって、前記研磨シート(a)の表層が湿式凝固法で得られるポリウレタンを主成分とする多孔質ポリウレタン層(c)であり、その他の層のいずれかが圧縮弾性率が0.08MP以上0.25MPa以下の発泡プラスチック層(d)あり、前記表層の多孔質ポリウレタン層(c)と前記発泡プラスチック層(d)との間に、厚み10〜45μmのプラスチックフィルム(e)が介在してなることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の研磨パッドの好ましい態様によれば、前記のプラスチックフィルム(e)の平均引張り弾性率は、3.5〜5.5GPaである。
【0008】
本発明の研磨パッドの好ましい態様によれば、前記のクッションシート(b)は発泡プラスチックからなり、前記の研磨シート(a)と前記クッションシート(b)の間に、厚み100〜300μmのプラスチックシート(f)が介在されてなることである。
【0009】
本発明の研磨パッドの好ましい態様によれば、前記の表層の多孔質ポリウレタン層(c)に、当該多孔質ポリウレタン層(c)の厚みより溝深さが小さい格子状溝が形成されていることである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリコンベアウエハ、ガラス、化合物半導体基板およびハードディスク基板等において、良好な鏡面を形成するために使用される仕上げ用に好適な研磨パッドにおいて、研磨時の被鏡面研磨面のスクラッチ・パーティクル等の欠陥が少なく、かつ、被鏡面研磨面の表面粗さが小さくなる安定した研磨特性が得られる仕上げ用に好適な研磨パッドが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施例1で得られた研磨パットを例示説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の研磨パッドは、異なる3種以上の層からなる研磨シート(a)とクッションシート(b)で基本的に構成されている研磨パッドである。本発明で用いられる研磨シート(a)の表層は、湿式凝固法で得られるポリウレタンを主成分とする多孔質ポリウレタン層(c)であり、その他の層のいずれかは発泡プラスチック層(d)で構成されている。そして、表層の多孔質ポリウレタン層(c)と発泡プラスチック層(d)との間に、プラスチックシート(e)が介在されている。
【0013】
まず、本発明で用いられる研磨シート(a)を構成する表層の多孔質ポリウレタン層(c)について説明する。
【0014】
本発明において、上記の湿式凝固法とは、ポリウレタンを有機溶媒に溶解させたポリウレタン溶液をシート状の基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させることにより、上記多孔質ポリウレタン層(c)を製造する方法である。
【0015】
本発明における多孔質ポリウレタン層(c)は、ポリウレタン樹脂の凝固再生に伴う微多孔が緻密に形成された厚さ数μm程度の表面層(スキン層)を有しており、内部(表面層の内側)にスキン層の微多孔より平均孔径の大きい多数の好適には50μm〜400μm程度の粗大孔が形成された内部層を有している。スキン層に形成された微多孔が緻密なため、スキン層の表面はミクロな平坦性を有している。このスキン層表面のミクロな平坦性を使用して、被研磨物であるシリコンベアウエハ、ガラス、化合物半導体基板およびハードディスク基板等の仕上げ研磨加工が行われている。
【0016】
本発明で用いられるポリウレタンとは、末端に複数の活性水素を有するプレポリマと複数のイソシアネート基を有する化合物から重合されたウレタン結合またはウレア結合を有する重合体である。末端に複数の活性水素を有するプレポリマは、主鎖骨格によってポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系およびポリカプロラクタン系等のプレポリマに分類することができる。
【0017】
上記湿式凝固法に使用される有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびN−メチルピロリドン等の極性を有する溶媒が用いられる。上記ポリウレタンを溶解させる溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)が特に好適に用いられる。
【0018】
上記のポリウレタン溶液には、他の樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホン等を適宜配合することができる。また、ポリウレタン溶液に、必要に応じて、カーボンを代表とする有機顔料、表面張力を下げる界面活性剤および撥水性を付与できる撥水剤等を添加することもできる。
【0019】
本発明で用いられる基材の例としては、綿、レーヨン、ポリアミド、ポリエステルおよびポリアクリロニトリル等の繊維またはこれらの混合物よりなる編織布や不織布、あるいはこれらに合成ゴムやポリウレタン等の樹脂を含浸して得られるシート類、又はポリエステルフィルム等が挙げられる。
【0020】
ポリウレタンの凝固再生後にこれらの基材を剥離することにより、最上層の表層を得ることができる。
【0021】
基材に上記ポリウレタン溶液を塗布する手段の例としては、ロールコーター、ナイフコーター、ナイフオーバーロールコーターおよびダイコーター等が挙げられる。ポリウレタン溶液を塗布した後、多孔質層を形成させる凝固浴には、DMFとは親和性を有するが、ポリウレタンは溶解しない溶媒を使用する。一般的には、水または水とDMFの混合溶液が使用される。
【0022】
本発明における多孔質ポリウレタン層(c)の厚みは、300μm〜1200μmが好ましく、より好ましくは350〜700μmである。
【0023】
次に、本発明で用いられる研磨シート(a)を構成する発砲プラスチック層(d)について説明する。本発明において、多孔質ポリウレタン層(c)以外のその他の層の発砲プラスチック層(d)は、その圧縮弾性率が0.08MPa以上0.25MPa以下であることが重要である。
【0024】
本発明で用いられる発泡プラスチック層(d)とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ネオプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコンゴムおよびフッ素ゴム等の発泡体のことである。
【0025】
発泡プラスチック層(d)の製造方法としては、上記の樹脂に発泡剤を添加した後、加熱して発泡させる乾式発泡方法や、樹脂の構成する官能基と反応してガスを発生させる添加剤を混合して発泡させる乾式発泡方法等が挙げられ、上層の湿式凝固法の様な湿式発泡方法と異なる方法であるが、均一な密度分布でかつ圧縮弾性率を制御しやすいという観点から、乾式製膜法が好ましく用いられる。このような樹脂の中で、見かけ密度を比較的容易にコントロールすることができるという点でポリウレタンを主成分とする樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
本発明における圧縮弾性率は、断面積1cmの圧子を用いて0gf/cmから50gf/cmまで加圧したときの、16gf/cmと40gf/cmのひずみ率(初期厚みに対する圧縮歪量)から算出した値である。本発明においては、発泡プラスチックシート(d)の圧縮弾性率は0.08MPa以上0.25MPa以下であることが重要であり、好ましくは0.09〜0.20MPaであり、より好ましくは0.10〜0.15MPaである。
【0027】
圧縮弾性率が0.08MPa未満の場合は、被鏡面研磨面の表面粗さが小さくならない。また、圧縮弾性率が0.25MPaを超える場合は、スクラッチ・パーティクル等の欠陥が多くなる。
【0028】
ここでスクラッチとは、研磨の際にウエハ表面に生じた細かい傷のことであり、パーティクルとは研磨の際にウエハ表面に付着したパッド屑、ウエハ屑およびスラリー屑等の付着物のことである。
【0029】
本発明において、発泡プラスチック層(d)の厚みは、150μm〜550μmが好ましく、より好ましくは200μm〜450μmである。厚みが150μmより小さい場合、安定した研磨特性が得られないことがあり、また厚みが550μmより大きい場合、被鏡面研磨面のスクラッチ・パーティクル等の欠陥が多くなる懸念がある。
【0030】
本発明におけるクッション層(b)とは、研磨機定盤の微細な凹凸を吸収し、研磨パッドの研磨面を平らならしめるためのものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ネオプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコンゴムおよびフッ素ゴム等の発泡体、各種織物、あるいは各種不織布等が用いられる。これらの中でも、より厚みが均一なものを得やすいという観点から、発泡体が好ましく用いられる。
【0031】
本発明において、クッション層(b)の見かけ密度は、0.1〜0.5(g/cm)であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.4(g/cm)である。見かけ密度が0.1(g/cm)より小さい場合、安定した研磨特性が得られないことがあり、また、見かけ密度が0.5(g/cm)より大きい場合、被鏡面研磨面のスクラッチ・パーティクル等の欠陥が多くなる傾向を示す。
【0032】
本発明において、クッション層(b)の厚みは、500μm〜1300μmが好ましく、より好ましくは600μm〜1100μmである。厚みが500μmより小さい場合、安定した研磨特性が得られないことがあり、また厚みが1300μmより大きい場合、被鏡面研磨面のスクラッチ・パーティクル等の欠陥が多くなる懸念がある。
【0033】
本発明において、研磨シート(a)を構成するプラスチックフィルム(e)は、厚みが10〜45μmの高分子樹脂からなるフィルムのことである。厚みが45μmより大きくなるとスクラッチ・パーティクル等の欠陥が多くなる。また、厚みが10μmより小さい場合、被鏡面研磨面の表面粗さが小さくならない。
【0034】
本発明で用いられるプラスチックフィルム(e)を形成する材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂およびポリフェニレンスルフィド等から製膜されるフィルムのことである。このような中で、ポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートがより好ましく用いられる。
【0035】
本発明で用いられるプラスチックフィルム(e)は、平均引っ張り弾性率が3.5GPa以上5.5GPa以下であることが好ましい。平均引張り弾性率とは、ポリエチレンテレフタレートフィルムは製膜時に異方性があるので、MD(製膜方向)とTD(製膜方向と垂直方向)の引張り弾性率の平均値を表す。平均引っ張り弾性率が3.5GPaを下回る場合は、被鏡面研磨面の表面粗さが大きくなる傾向がある。また、平均引っ張り弾性率が5.5GPaを越える場合は、スクラッチ・パーティクル等の欠陥が多くなる傾向がある。
【0036】
本発明において、平均引張り弾性率は、短冊形状にして引張り応力を加え、初期の最初の傾きから求める。測定装置として、オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTF−1210などが上げられる。測定条件としては、試験速度は20cm/分で試験片形状は幅10mmで試料長100mmのダンベル形状である。
【0037】
本発明で用いられる多孔質ポリウレタン層(c)とプラスチックフィルム(e)は、接着剤で貼り合わせする。接着剤としては、アクリル樹脂系接着剤、α−オレフィン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤およびホットメルト接着剤が挙げられるが、ウレタン樹脂系接着剤やホットメルト接着剤が短時間で接着できるという点で好ましく用いられる。ウレタン樹脂系接着剤については、各種有機溶剤に接着剤を溶解させたものをラミネーターで乾式塗工する方法を好適な例として挙げることができる。
【0038】
ホットメルト接着剤として、日立化成ポリマー(株)製の“ハイボン”(登録商標)シリーズ、三井武田ケミカル(株)の“タケメルト”(登録商標)MAシリーズ、東亜合成(株)の“アロンメルト”(登録商標)Rシリーズ、新田ゼラチン(株)の“ニッタイト”(登録商標)ARXシリーズ、およびコニシ(株)の“ボンド”(登録商標)KUMシリーズを挙げることができる。
【0039】
接着剤の厚みは、接着力が高く維持できているという点で、30〜150μmが好ましく、40〜100μmがより好ましい。
【0040】
本発明で用いられる発泡プラスチック層(d)とプラスチックフィルム(e)との接合には、接着剤で貼り合わせる方法と、プラスチックフィルム(e)に発泡プラスチック層(d)を熱融着する方法が挙げられる。接着剤としては、アクリル樹脂系接着剤、α−オレフィン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤およびホットメルト接着剤が挙げられるが、ウレタン樹脂系接着剤やホットメルト接着剤が短時間で接着することができる。
【0041】
本発明で用いられる研磨シート(a)とクッションシート(b)の間に介在されるプラスチックシート(f)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂およびポリフェニレンスルフィド等から製膜されるプラスチックシートのことである。
【0042】
プラスチックシート(f)の厚みは、100μm〜300μmが好ましく、より好ましくは150μm〜250μmである。厚みが100μmより小さい場合、被研磨基板の縁ダレが大きくなることがあり、また、厚みが300μmより厚くなると被鏡面研磨面のスクラッチ・パーティクル等の欠陥が多くなる傾向がある。
【0043】
本発明の研磨パッドを積層形成する手順としては、例えば、各層を一層ずつラミネートしていく手順が挙げられる。また、2層目に直接表層を湿式凝固製膜する手順も挙げられ、この場合も3層目以下を順番にラミネートしていけば良い。
【0044】
具体的な積層手順の例としては、まず、プラスチックシート(f)にクッションシート(b)をラミネートし、次いでプラスチックシート(f)の反対面に発泡プラスチック層(d)をラミネートし、さらにクッションシート(b)の反対面に裏面テープをラミネートする。発泡プラスチック層(d)の反対面にプラスチックフィルム(e)をラミネートし、最後にプラスチックフィルム(e)の反対面に多孔質ポリウレタン層(c)をラミネートする。ラミネートには、ウレタン系接着剤を用いることが好ましい。
【0045】
本発明の研磨シートの厚みは、好ましくは500μm〜1200μmであり、より好ましくは600μm〜1100μmである。
【0046】
本発明の研磨パッドの研磨層表面には、安定した研磨特性を得るために、上層の多孔質ポリウレタン層(c)の上面に、格子状溝が形成されていることが好ましい。さらに、安定した研磨特性を得るために、溝幅0.8mm以上1.2mm以下で、かつ、溝ピッチ7.5mm以上15mm以下で、かつ、溝深さは上層の多孔質ポリウレタン層の厚みより小さい正方格子状溝を設けることが好ましい。溝深さが上層の多孔質ポリウレタン層の厚みより深いと、下層の発泡プラスチック層にスラリーが侵入して、研磨特性が不安定となり好ましくない。
【0047】
本発明の研磨パッドは、シリコンベアウエハ、ガラス、化合物半導体基板およびハードディスク基板等に良好な鏡面研磨面を形成するのに好適に使用される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって、さらに本発明の詳細を説明する。しかしながら、本実施例により本発明が限定して解釈される訳ではない。研磨評価および各測定は以下のとおりに行った。
【0049】
〔研磨評価〕
岡本工作機械製作所製研磨装置(型式:SPP600)を使用し、二次研磨(SUBA400パッド使用)上がりの6インチシリコンベアウエハを用いて、次の条件で研磨評価を行った。
・プラテン回転:46rpm
・ウエハヘッド回転:49rpm
・ヘッド荷重:100g/cm
・スラリー量:700ml/min(スラリー:コロイダルシリカスラリー砥粒濃度1%)
・ 研磨時間:15分。
【0050】
〔圧縮弾性率の測定〕
カトーテック社製自動化圧縮試験機(KESFB3−AUTO−A)を使用して、次の条件で測定した。本機を用いて0gf/cmから50gf/cmまで加圧したときの、16gf/cm(0.00157MPa)と40gf/cm(0.00392MPa)のひずみ率から算出した。(5回測定の平均値)
・ひずみ率:(初期厚み−所定圧力時の厚み)/初期厚み
・ 圧縮弾性率:(0.00392−0.00157)/(ひずみ率40gf/cm2−ひずみ率16gf/cm2
〔MPa〕
・圧子面積:1.0cm
圧子速度:0.02mm/sec
上限荷重:50gf/cm。
【0051】
〔見かけ密度の測定〕
・ 30mm×30mmに打ち抜かれたサンプルの厚みと重量から算出した。
【0052】
〔表面粗さ〕
ZYGO社製走査型白色干渉計(NEW VIEW 6300)を使用して研磨後のウエハ表面のRaを測定した。(5回測定の平均値)
〔スクラッチ・パーティクル等の欠陥数〕
トップコン社製ゴミ検査装置商品名“WM−3”を使用して、0.5μm以上の欠陥数を測定した。(ウエハ2枚でのn=2測定の平均値)
〔平均引張り弾性率〕
オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTM−100を用い、次の条件で測定した。(5回測定の平均値)
・試験片形状:幅10mm、試料長100mmのダンベル形状
・試験速度:20cm/分。
【0053】
次に、各層の製造方法を例示する。
【0054】
〔多孔質ポリウレタン層1の製造方法〕
ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂25質量部を、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)100質量部に溶解した。さらに、これにカーボンブラックを2質量部と疎水性活性剤を2質量部添加し、ポリウレタン溶液を調整した。
【0055】
次いで、ポリエステルフィルム基材の上に上記ポリウレタン溶液をナイフコーターで塗布し、水浴に浸漬してポリウレタンを凝固再生し、水による洗浄でポリウレタン中のDMFを除去した後、水分を乾燥し、最後にポリエステルフィルム基材を剥離することにより凝固再生ポリウレタンシートを作製した。
【0056】
得られた凝固再生ポリウレタンシートの微多孔形成面を、#200のサンドペーパーでバフ掛けすることにより、開口径の調整された厚み400μm、見かけ密度0.25g/cm、圧縮回復率0.5%の多孔質ポリウレタン1を得た。
【0057】
〔発泡プラスチック層1の製造方法〕
分子量2800のポリエチレングリコール100質量部、1,4−ブタンジオール5質量部、4,4′−メチレンビス(o−クロロアニリン)5質量部、触媒としてのアミン触媒(DABCO)0.4質量部、整泡剤としてのシリコーン整泡剤(KF6002;信越化学工業社製)3.0質量部、発泡剤としての水0.2質量部、およびイソシアネートとしてのMDIの38質量部を混合撹拌し、剥離ライナー上にコーティングして発泡させつつ、100℃の温度で20分間加熱を行い、厚み300μm、見かけ密度0.49g/cm、圧縮回復率55%、圧縮弾性率0.11MPaのポリエーテル型軟質ポリウレタン発泡プラスチック層1を得た。
【0058】
〔発泡プラスチック層2の製造方法〕
分子量2800のポリエチレングリコール100質量部、1,4−ブタンジオール5質量部、4,4′−メチレンビス(o−クロロアニリン)5質量部、触媒としてのアミン触媒(DABCO)0.4質量部、整泡剤としてのシリコーン整泡剤(KF6002;信越化学工業社製)4.0質量部、発泡剤としての水0.3質量部、およびイソシアネートとしてのMDIの38質量部を混合撹拌し、剥離ライナー上にコーティングして発泡させつつ、100℃の温度で20分間加熱を行い、厚み800μm、見かけ密度0.20g/cm、圧縮回復率55%、圧縮弾性率0.05MPaのポリエーテル型軟質ポリウレタン発泡プラスチック層2を得た。
【0059】
〔発泡プラスチック層3の製造方法〕
分子量3200のポリエチレングリコール80質量部、分子量2800のポリプロピレングリコール20質量部、1,4−ブタンジオール6質量部、4,4′−メチレンビス(o−クロロアニリン)4質量部、触媒としてのアミン触媒(DABCO)0.3質量部、整泡剤としてのシリコーン整泡剤(KF6002;信越化学工業社製)3.5質量部、発泡剤としての水0.3質量部、およびイソシアネートとしてのMDIの45部を混合撹拌し、剥離ライナー上にコーティングして発泡させつつ、100℃の温度で20分間加熱を行い、厚み300μm、見かけ密度0.51g/cm、圧縮回復率35%、圧縮弾性率0.20MPaポリエーテル型軟質ポリウレタン発泡プラスチック層3を得た。
【0060】
〔発泡プラスチック層4の製造方法〕
分子量2500のポリエチレングリコール100質量部、1,4−ブタンジオール4質量部、4,4′−メチレンビス(o−クロロアニリン)7質量部、触媒としてのアミン触媒(DABCO)0.4質量部、整泡剤としてのシリコーン整泡剤(KF6002;信越化学工業社製)3.0質量部、発泡剤としての水0.2質量部、およびイソシアネートとしてのMDIの60部を混合撹拌し、剥離ライナー上にコーティングして発泡させつつ、100℃の温度で20分間加熱を行い、厚み300μm、見かけ密度0.53g/cm、圧縮回復率75%、圧縮弾性率0.25MPaのポリエーテル型軟質ポリウレタン発泡プラスチック層4を得た。
〔発泡プラスチック層5の製造方法〕
分子量3500のポリエチレングリコール100質量部、1,4−ブタンジオール5質量部、触媒としてのアミン触媒(DABCO)0.25質量部、整泡剤としてのシリコーン整泡剤(KF6002;信越化学工業社製)3.0質量部、発泡剤としての水0.3質量部、およびイソシアネートとしてのMDIの35質量部を混合撹拌し、剥離ライナー上にコーティングして発泡させつつ、100℃の温度で20分間加熱を行い、厚み300μm、見かけ密度0.33g/cm、圧縮回復率45%、圧縮弾性率0.13MPaのポリエーテル型軟質ポリウレタン発泡プラスチック層5を得た。
【0061】
〔発泡プラスチック層6の製造方法〕
分子量2900のポリエチレングリコール100質量部、1,4−ブタンジオール3質量部、4,4′−メチレンビス(o−クロロアニリン)10質量部、触媒としてのアミン触媒(DABCO)0.4質量部、整泡剤としてのシリコーン整泡剤(KF6002;信越化学工業社製)3.0質量部、発泡剤としての水0.3質量部、およびイソシアネートとしてのMDIの23質量部を混合撹拌し、剥離ライナー上にコーティングして発泡させつつ、100℃の温度で20分間加熱を行い、厚み300μm、見かけ密度0.50g/cm、圧縮回復率90%、圧縮弾性率0.05MPaのポリエーテル型軟質ポリウレタン発泡プラスチック層6を得た。
【0062】
〔発泡プラスチック層7の製造方法〕
分子量2800のポリエチレングリコール100質量部、1,4−ブタンジオール5質量部、4,4′−メチレンビス(o−クロロアニリン)25質量部、触媒としてのアミン触媒(DABCO)0.4質量部、整泡剤としてのシリコーン整泡剤(KF6002;信越化学工業社製)3.0質量部、発泡剤としての水0.2質量部、およびイソシアネートとしてのMDIの45質量部を混合撹拌し、剥離ライナー上にコーティングして発泡させつつ、100℃の温度で20分間加熱を行い、厚み300μm、見かけ密度0.34g/cm、圧縮回復率55%、圧縮弾性率0.30MPaのポリエーテル型軟質ポリウレタン発泡プラスチック層7を得た。
【0063】
〔発泡プラスチック層8の製造方法〕
分子量2800のポリエチレングリコール100質量部、1,4−ブタンジオール5質量部、4,4′−メチレンビス(o−クロロアニリン)5質量部、触媒としてのアミン触媒(DABCO)0.4質量部、整泡剤としてのシリコーン整泡剤(KF6002;信越化学工業社製)4.0質量部、発泡剤としての水0.3質量部、およびイソシアネートとしてのMDIの38質量部を混合撹拌し、剥離ライナー上にコーティングして発泡させつつ、100℃の温度で20分間加熱を行い、厚み300μm、見かけ密度0.20g/cm、圧縮回復率55%、圧縮弾性率0.08MPaのポリエーテル型軟質ポリウレタン発泡プラスチック層2を得た。
【0064】
[実施例1]
厚み190μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シートに発泡プラスチック層1を接着し、次いで、発泡プラスチックス層1の反対面にPET製のフィルム(厚み:43μm、平均引張り弾性率:3.5GPa)を貼り付けた。PET製フィルムの表側に多孔質ポリウレタン層1を接着した。次いで、PETシートの反対面にクッションシートの発泡プラスチック層2を接着し、さらに発泡プラスチック層2の反対面に裏面テープを貼り付け積層体とした。それぞれの層の接着には、ウレタン系の接着剤を使用した。
【0065】
得られた積層体を、直径610mmに円抜きして研磨パッドとした。図1に、実施例1で得られた積層体(研磨パッド)の模式断面図を示す。図1において、研磨パットは、上部から順に、多孔質ポリウレタン層(c)、プラスチックフィルム(e)および発砲プラスチック層(d)が積層されて研磨シート(a)が構成され、更にその下部に、プラスチックシート(f)を介して発砲プラスチックからなるクッションシート(b)が積層され、その下部に裏面テープ(g)が貼り付けられている。
【0066】
得られた研磨パッドを用いて、岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0067】
[実施例2]
実施例1のPET製フィルムを厚み12μm、平均引張り弾性率5.2GPaのものに代え、発泡プラスチック層1の代わりに発泡プラスチック層2使用したこと以外は、実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0068】
[実施例3]
実施例1のPET製フィルムを厚み38μm、平均引張り弾性率4.5GPaのものに代え、発泡プラスチック層1の代わりに発泡プラスチック層3使用したこと以外は、実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0069】
[実施例4]
実施例1のPET製フィルムをポリフェニレンスルフィド製、厚み38μm、平均引張り弾性率5.5GPaのものに代え、発泡プラスチック層1の代わりに発泡プラスチック層4使用したこと以外は、実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0070】
[実施例5]
実施例1のPET製フィルムをナイロン6製、厚み45μm、平均引張り弾性率3.8GPaのものに代え、発泡プラスチック層1の代わりに発泡プラスチック層5使用したこと以外は、実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0071】
[実施例6]
実施例1と同様の積層体の表層(多孔質ポリウレタン層)に、NCルーターにて溝幅1mm、溝ピッチ10mm、溝深さ0.35mmの格子状溝を形成した研磨パッドを作成し、研磨をおこない欠陥数および表面粗さの測定をおこなった。表1に示すように良好であった。
【0072】
[比較例1]
実施例1のPET製フィルムの貼り付けを省略したこと以外は、実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように欠陥数および表面粗さとも不良であった。
【0073】
[比較例2]
実施例1のPET製フィルムを厚み8μm、平均引張り弾性率5.3GPaのものに代えたこと以外は、実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように欠陥数および表面粗さとも不良であった。
【0074】
[比較例3]
実施例1のPET製フィルムを厚み50μm、平均引張り弾性率3.7GPaのものに代えた以外は実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように欠陥数が不良であった。
【0075】
[実施例7]
実施例1のPET製フィルムを厚み38μm、平均引張り弾性率3.3GPaのものに代えたこと以外は、実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0076】
[実施例8]
実施例1のPET製フィルムを厚み42μm、平均引張り弾性率5.9GPaのものに代えたこと以外は、実施例1と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0077】
[比較例4]
実施例3の発泡プラスチック層3を発泡プラスチック層6に代えたこと以外は、実施例3と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように表面粗さが不良であった。
【0078】
[比較例5]
実施例3の発泡プラスチック層3を発泡プラスチック層7に代えたこと以外は、実施例3と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように欠陥数が不良であった。
【0079】
[実施例9]
実施例5の厚み190μmのPETシートを90μmの発PETシートに代えたこと以外は、実施例5と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0080】
[実施例10]
実施例5の厚み190μmのPETシートを320μmの発PETシートに代えた以外は実施例5と同じ条件で研磨パッドを製作した。得られた研磨パッドを用いて岡本研磨機でシリコンウエハを研磨し、欠陥数および表面粗さを測定した。表1に示すように良好であった。
【0081】
[実施例11]
実施例1と同様の積層体の表層(多孔質ポリウレタン層)に、溝幅1mm、溝ピッチ10mm、溝深さ0.45mmの格子状溝を形成した研磨パッドを作成し、研磨をおこない欠陥数および表面粗さの測定をおこなった。表1に示すように良好であった。
【0082】
【表1】

【符号の説明】
【0083】
a.研磨シート
b.クッションシート
c.多孔質ポリウレタン層
d.発砲プラスチック層
e.プラスチックフィルム
f.プラスチックシート
g.裏面テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる3種以上の層からなる研磨シート(a)とクッションシート(b)を有する研磨パッドであって、前記研磨シート(a)の表層が湿式凝固法で得られるポリウレタンを主成分とする多孔質ポリウレタン層(c)であり、その他の層のいずれかが圧縮弾性率が0.08MPa以上0.25MPa以下の発泡プラスチック層(d)であり、かつ前記表層の多孔質ポリウレタン層(c)と前記発泡プラスチック層(d)との間に厚み10〜45μmのプラスチックフィルム(e)が介在されてなることを特徴する研磨パッド。
【請求項2】
プラスチックフィルム(e)の平均引張り弾性率が、3.5〜5.5GPaであることを特徴とする請求項1記載の研摩パッド。
【請求項3】
クッションシート(b)が発泡プラスチックからなり、研磨シート(a)と前記クッションシート(b)の間に、厚み100〜300μmのプラスチックシート(f)が介在されてなることを特徴とする請求項1または2研磨パッド。
【請求項4】
表層の多孔質ポリウレタン層(c)に、当該多孔質ポリウレタン層(c)の厚みより溝深さが小さい格子状溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の研磨パッド。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−101339(P2012−101339A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253725(P2010−253725)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(591086407)東レコーテックス株式会社 (29)
【Fターム(参考)】