説明

研磨布

【課題】スクラッチを抑制し被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨布を提供する。
【解決手段】研磨布は、研磨面Pを有する研磨層2を備えている。研磨層2は、ポリウレタン重合体の紡糸により形成されたポリウレタン弾性糸のモノフィラメントを長手方向に引き揃えた弾性糸束を長手方向と交差する方向にスライスすることで形成されている。研磨層2では、弾性を有する円柱状の多数の弾性材3が周面で外接するように平面状に敷き詰められている。弾性材3は、直径および高さが略均一に形成されている。隣り合う弾性材3は、外接する部分で融着され融着部Mpが形成されている。研磨層2では、弾性材3間に空隙Gaが形成されている。空隙Gaが研磨層2の厚み方向に貫通するように形成され、研磨加工時に生じた研磨屑が空隙Ga内に収容されやすくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨布に係り、特に、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備えた研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来半導体デバイス等の各種材料では、平坦性を確保するために研磨布を使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスの製造では、通常、銅(Cu)配線の層や絶縁層が順次形成され多層化されるが、各層を形成した後の表面(加工面)に研磨加工が行われている。近年では、半導体回路の集積度が急激に増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進められており、加工面を一層高度に平坦化する技術が重要となっている。
【0003】
一般に、半導体デバイスの製造では、化学的機械的研磨(以下、CMPと略記する。)法が用いられている。CMP法では、通常、砥粒(研磨粒子)をアルカリ溶液または酸溶液に分散させたスラリ(研磨液)が供給される。すなわち、被研磨物(の加工面)は、スラリ中の砥粒による機械的研磨作用と、アルカリ溶液または酸溶液による化学的研磨作用とで平坦化される。
【0004】
CMP法による半導体デバイスの研磨加工では、通常、乾式成型法により形成され、被研磨物を研磨加工するための研磨面に開孔が形成された樹脂シートを備えた研磨布が用いられている。研磨加工時には、研磨面に形成された開孔に砥粒が保持されつつ加工面内に分散するように供給されることで加工面の平坦化が図られている。換言すれば、半導体デバイス用の研磨布には、研磨面に開孔が形成されていることが不可欠となる。このような開孔は、乾式成型法により樹脂製の発泡体を形成し、得られた発泡体の表面を研削処理すること、または、発泡体をスライス処理することにより形成することができる。乾式成型法により発泡体を形成する技術として、例えば、成型時の樹脂溶液中に中空微粒子を添加しておく技術が開示されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)。また、樹脂溶液に水を添加しておくことで成型時に気体を発生させる技術(例えば、特許文献6参照)、樹脂溶液に不活性気体を分散させて成型する技術(例えば、特許文献7参照)、樹脂溶液に水溶性微粒子を添加しておく技術(例えば、特許文献8参照)等も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3013105号公報
【特許文献2】特許3425894号公報
【特許文献3】特許3801998号公報
【特許文献4】特開2006−186394号公報
【特許文献5】特開2007−184638号公報
【特許文献6】特開2005−68168号公報
【特許文献7】特許3455208号公報
【特許文献8】特開2000−34416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜特許文献8の技術では、いずれも乾式成型法により形成されるため、得られる樹脂シートが硬質で独立発泡タイプのものが主体となる。このため、研磨面に形成された開孔が砥粒や研磨屑等により目詰まりし閉塞しやすくなる、という問題がある。開孔が閉塞すると、砥粒等が凝集しやすくなり、結果として、被研磨物の加工面に研磨キズ(スクラッチ)を生じるおそれがある。半導体デバイスの研磨加工では、スクラッチが生じると配線を切断するおそれがあり、致命的な欠点となる。研磨加工を中断し、表面をドレッシングすれば、開孔が再生され研磨加工の継続が可能となるが、ドレッシングが必須となることで研磨効率を低下させることとなる。また、硬質の樹脂シートでは、クッション性が不十分なため、クッション性を有する別のシートと貼り合わせることが必要となる。上述したように、半導体デバイスの加工面に要求される平坦性の高度化に伴い、CMP法による研磨精度や研磨効率等の研磨性能に対する要求も高まっており、これにつれ研磨布の開孔径も微細化、均一化が求められるようになってきている。さらには、歩留りを向上させ効率的な製造を目指すうえで、スクラッチ等の致命的な欠点を抑制することができる研磨布が切望されている。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、スクラッチを抑制し被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備えた研磨布において、前記研磨層は、弾性を有し高さが均一な柱状の多数の樹脂材が側面で外接するように平面状に敷き詰められて形成されており、前記樹脂材間に空隙が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、樹脂材の高さが均一なため、樹脂材が敷き詰められて形成された研磨層の厚みが均一化され、樹脂材間に空隙が厚み方向に貫通するように形成されることで研磨屑が収容されやすくなるとともに、樹脂材が弾性を有することでクッション性が発揮されるので、研磨加工時にスクラッチを抑制し被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0010】
この場合において、樹脂材の外接する部分が固着されていることが好ましい。研磨層の研磨面の単位面積あたり、樹脂材間に形成される空隙の面積比率を9%〜30%の範囲とすることができる。樹脂材を、直径が均一な円柱状とすることができる。このとき、樹脂材の直径を10μm〜80μmの範囲、高さを500μm〜5000μmの範囲としてもよい。また、研磨層を、ポリウレタン弾性糸が長手方向に引き揃えられた弾性糸束が長手方向と交差する方向に切断され形成されたものとすることができる。弾性糸束では、隣接するポリウレタン弾性糸が熱融着されていることが好ましい。ポリウレタン弾性糸をモノフィラメントまたはモノフィラメントの複数本が撚りあわされたマルチフィラメントとしてもよい。このとき、モノフィラメントの繊度を1デシテックス〜70デシテックスの範囲とすることができる。また、樹脂材間に形成された空隙が均一な大きさで均等な分散状態で形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂材の高さが均一なため、樹脂材が敷き詰められて形成された研磨層の厚みが均一化され、樹脂材間に空隙が厚み方向に貫通するように形成されることで研磨屑が収容されやすくなるとともに、樹脂材が弾性を有することでクッション性が発揮されるので、研磨加工時にスクラッチを抑制し被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨布を模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨布の一部を拡大して模式的に示す斜視図である。
【図3】実施形態の研磨布の一部を拡大して模式的に示す平面図である。
【図4】実施形態の研磨布を構成する弾性材間に形成された空隙の大きさを示す説明図である。
【図5】別の態様の研磨布を構成する弾性材間に形成された空隙の大きさを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨布の実施の形態について説明する。
【0014】
(構成)
本実施形態の研磨布10は、図1に示すように、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有する研磨層2を備えている。研磨層2には、研磨面Pと反対の面側に、研磨機に研磨布10を装着するための両面テープ5が貼り合わされている。
【0015】
図2に示すように、研磨層2は、弾性を有する円柱状の多数の弾性材3が周面(側面)で外接するように平面状に敷き詰められ形成されている。弾性材3は、直径および高さが略均一に形成されている。弾性材3が略均一な高さを有しているため、研磨層2は、略均一な厚みで形成されていることとなる。また、隣り合う弾性材3は、外接する部分で融着され融着部Mpが形成されている。
【0016】
図3に示すように、弾性材3の間には、3つの弾性材3で画定される空隙Gaが形成されている。弾性材3が円柱状のため、空隙Gaは、研磨層2の厚み方向で貫通するように形成されている。弾性材3が略均一な直径を有しているため、空隙Gaは、略均一な大きさで形成されている。また、弾性材3が敷き詰められ形成された研磨層2では、空隙Gaが略均等に分散された状態で形成されている。換言すれば、研磨面Pでは、空隙Gaにより略均一な大きさの開孔が略均等に分散された状態で形成されている。
【0017】
研磨層2は、ポリウレタン弾性糸が長手方向に引き揃えられた弾性糸束が長手方向と交差する方向にスライスすることで形成されている。ポリウレタン弾性糸としては、ポリウレタン重合体を紡糸することで形成されたモノフィラメント(単繊維)、または、モノフィラメントの複数本が撚りあわされたマルチフィラメントを用いることができる。本例では、モノフィラメントが用いられている。モノフィラメントは、断面円形状に形成されており、繊度が1〜70デシテックス(dtex)の範囲となるように紡糸されている。紡糸されたモノフィラメントが束ねられ、長手方向の長さが500〜5000μmの範囲となるようにスライスされている。このため、研磨層2を構成する弾性材3では、直径が10〜80μmの範囲、高さが500〜5000μmの範囲の円柱状となる。モノフィラメントの繊度や引き揃える本数を変えることで、研磨層2の大きさや空隙Gaの大きさを調整することができる。
【0018】
ここで、弾性材3間に形成された空隙Gaの大きさについて説明する。図4に示すように、空隙Gaは、3つの弾性材3で画定される。弾性材3の直径をDとしたときに、空隙Gaにより研磨面Pに形成される開孔の面積を次のようにして求めることができる。すなわち、3つの弾性材3の中心をそれぞれM1、M2、M3とすると、1辺の長さが直径Dと同じ正三角形M1−M2−M3が形成される。この正三角形M1−M2−M3の面積から、弾性材3の円形断面の面積の1/2を引き算した残りの面積が空隙Gaの開孔の面積となる。このため、研磨面Pの単位面積あたりに形成される空隙Gaの開孔の面積比率Arとしては、式100×{(D×sin60°/2)−(D/2)×π/2}/(D×sin60°/2)で求めることができる。この式によれば、面積比率Arは、弾性材3の直径Dにかかわらずおよそ9.3%となるが、実際にはモノフィラメントを紡糸するときや弾性糸束を形成するときに弾性材3の断面が変形し空隙Gaが縮小しやすくなる。研磨キズの発生を回避するうえでは、弾性材3の断面の変形を抑え、弾性糸束を形成するときの束密度を小さくすることで、面積比率Arを大きくすることが望ましい。本例では、弾性材3の断面の変形を抑えることで、面積比率Arが10〜11%の範囲に調整されている。また、空隙Gaの内部側で3つの弾性材3にそれぞれ外接する仮想円Vcを想定する。この仮想円Vcの直径φは、式D×(1/cos30°−1)で求めることができる。直径φは、空隙Gaの直径に近似する。直径φは、弾性材3の直径Dを10〜80μmの範囲とすれば、理論上、1〜13μmの範囲となるが、弾性材3の大きさ(直径D)だけではなく、弾性糸束の束密度を小さくすること等により調整することができる。本例では、15デシテックスのモノフィラメントが用いられ、理論上5〜6μmの直径φが得られるように調整されている。
【0019】
図1に示すように、研磨層2に貼り合わされた両面テープ5は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の基材5aの両面に接着剤が塗着され接着剤層(不図示)が形成されている。両面テープ5は、一面側の接着剤層で研磨層2と貼り合わされ、他面側の接着剤層が剥離紙5bで覆われている。
【0020】
(製造)
研磨布10は、ポリウレタン重合体を含む紡糸原液を紡糸し、ポリウレタン弾性糸のモノフィラメントを得る紡糸工程、モノフィラメントを引き揃えて弾性糸束を形成する束形成工程、弾性糸束を一定長さにスライスするスライス工程、得られた研磨層2と両面テープ5とを貼り合わせるラミネート工程、を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0021】
(紡糸工程)
紡糸工程では、ポリウレタン重合体を含む紡糸原液を調製した後、紡糸ノズルから高温雰囲気中に吐出する乾式紡糸法によりモノフィラメントを作製する。紡糸原液は、有機ジイソシアネート化合物とジオール化合物とを反応させて調製したイソシアネート基末端プレポリマ(以下、単に、プレポリマという。)に、鎖伸長剤および末端停止剤を有機溶媒中で反応させて調製する。
【0022】
プレポリマの調製に用いられるジオール化合物としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール、ポリオキシプロピレンテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールと、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸等のジカルボン酸の1種または2種以上との反応で生成されるポリエステルジオール化合物、ポリエーテルポリエステルジオール化合物、ポリラクトンジオール化合物、ポリカーボネートジオール化合物、ポリエステルポリカーボネートジオール化合物等の高分子ジオール化合物から選ばれる1種または2種以上を挙げることができる。用いるジオール化合物は、数平均分子量が1000〜2500の範囲のものが可紡性の点で好ましい。また、ジオール化合物にエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等の低分子ジオール化合物やブタノール、ヘキサノール等のモノオール化合物を少量添加、混合してもよいが、上述した高分子ジオール化合物の割合を80重量%以上とすることが可紡性の点で好ましい。本例では、ポリエーテルジオール化合物の中から、数平均分子量が1800のポリオキシテトラメチレングリコールを用いる。
【0023】
また、プレポリマの調製に用いられる有機ジイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の1種または2種以上の組み合わせを挙げることができる。本例では、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いる。
【0024】
プレポリマの調製では、ジオール化合物と有機ジイソシアネート化合物とを、夫々が固化しない温度にて混合し、90℃以下の温度環境下で30〜120分間反応を行い、2個の末端イソシアネート基を有するプレポリマを得る。このとき、ジオール化合物に対する有機ジイソシアネート化合物の量を、110〜210モル%の範囲、好ましくは150〜190モル%の範囲に調整する。ジオール化合物に対する有機ジイソシアネート化合物の量が110モル%に満たないと、得られるモノフィラメントの強度が不十分となり、紡糸工程で糸切れを起こしやすいので好ましくなく、反対に、210モル%を超えると、プレポリマ中に未反応の有機ジイソシアネート化合物が多く残留するため、鎖伸長反応を行っても得られるポリウレタン重合体中に占める低分子鎖ポリウレタンの割合が多くなり好ましくない。
【0025】
得られたプレポリマに、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を2個以上有する鎖伸長剤、および、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を1個有する末端停止剤を有機溶媒中で重合反応させて、ポリウレタン重合体溶液を調製する。重合方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、バッチ式重合法や紡糸ノズルに直結して連続的に供給する連続重合法も採用できる。重合時間としては、重合反応が終了する時間であればよく、例えば、バッチ式重合法では、通常30〜90分間反応させればよい。重合温度は、0〜70℃の範囲で行うことが好ましい。重合温度が低すぎると重合に長時間を要し効率が悪くなり、反対に、高すぎると副反応が促進されるため好ましくない。
【0026】
重合反応に用いられる鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、シクロヘキシレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の1種または2種以上の組み合わせを挙げることができる。また、末端停止剤としては、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチル−n−プロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等を挙げることができる。本例では、鎖伸長剤としてエチレンジアミン、末端停止剤としてジエチルアミンをそれぞれ用いる。
【0027】
ポリウレタン重合体溶液の調製に用いられる有機溶媒は、上述したプレポリマ、鎖伸長剤、末端停止剤および反応生成物であるポリウレタン重合体を溶解することができ、通常用いられる条件下で各物質および反応生成物に対して不活性な極性溶媒であれば特に限定されるものではない。このような有機溶媒として、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等を挙げることができる。本例では、有機溶媒としてDMAcを用いる。なお、紡糸原液中に必要に応じてポリウレタン系の弾性糸の製造に通常用いられる、艶消剤、耐光剤、紫外線吸収剤、ガス変色防止剤等を添加混合させてもよい。
【0028】
調製した紡糸原液を、紡糸ノズルから高温雰囲気中に吐出してモノフィラメントを乾式紡糸する。このときの紡糸条件としては、特に制限されるものではなく、通常用いられる条件であればよい。紡糸ノズルの孔径や紡糸原液の吐出速度と巻取速度、高温雰囲気中の溶媒濃度や温度によりモノフィラメントの繊度を調整することができる。紡糸ノズルの孔数により所望の本数のマルチフィラメントを得ることができるが、本例では、15デシテックスのモノフィラメントが得られるように紡糸ノズルの孔径を設定し、孔数を1個に設定する。得られたモノフィラメントを糸管に巻き取り巻糸体とする。
【0029】
(束形成工程)
束形成工程では、紡糸工程で得られたモノフィラメントの巻糸体から、一定長さのモノフィラメントを引き出し、多数本のモノフィラメントを長手方向に束ねて弾性糸束を作製する。このとき、弾性糸束の長手方向と交差する断面の大きさが研磨層2の大きさとなるように作製する。例えば、所望の断面サイズに合わせた型枠を用いることも可能である。また、織物を作製するときに用いられる成経用ビームに巻き取るようにしてもよい。得られた弾性糸束を加熱雰囲気下で熱処理し隣接するモノフィラメントを周面で熱融着させ融着部Mpを形成する。熱処理温度は、モノフィラメントが加熱により粘着性を発現する温度(粘着温度)より高く、融点より少なくとも10℃程度低い温度に設定する。温度がモノフィラメントの粘着温度を下回ると十分な融着ができず融着部Mpが形成されないことがある。反対に、融点に近すぎると、融着部Mpが大きくなりすぎて空隙Gaを狭めることとなる。
【0030】
(スライス工程)
スライス工程では、束形成工程で得られた弾性糸束を長手方向の一定長さで長手方向と交差する方向にスライスして研磨層2を作製する。スライスするときの長さは、研磨層2の厚みにあわせて設定すればよく、本例では、0.5〜5mmに設定する。スライスには、一般的に用いられるスライス機を使用することができる。得られた研磨層2では、一面側が研磨面Pを構成する。
【0031】
(ラミネート工程)
ラミネート工程では、スライス工程で得られた研磨層2の研磨面Pと反対の面側に、両面テープ5の一面側の粘着剤層が貼り合わされる。このとき、両面テープ5の他面側には剥離紙5bが残されている。その後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨布10を完成させる。
【0032】
被研磨物の研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨布10を装着する。研磨定盤に研磨布10を装着するときは、両面テープ5の剥離紙5bを取り除き、露出した粘着剤層で研磨定盤に貼着する。研磨定盤と対向するように配置された保持定盤に保持させた被研磨物を研磨面P側へ押圧すると共に、スラリ(砥粒を含む研磨液)を供給しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物の加工面が研磨加工される。
【0033】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨布10の作用等について説明する。
【0034】
本実施形態では、研磨層2がポリウレタン弾性糸のモノフィラメントを引き揃えた弾性糸束を一定長さに切断することで形成されており、弾性材3の高さが均一に形成されている。このため、研磨層2の厚みを均一化することができる。また、弾性材3間に形成された空隙Gaが研磨層2の厚み方向に貫通するように形成されている。このため、研磨加工時に生じた研磨屑が空隙Ga内に収容されやすくなり、研磨面Pにおける開孔の目詰まりが生じ難くなる。目詰まりしにくくなることで、研磨加工時には、ドレッシング作業を軽減することができ、研磨効率の向上を図ることができる。また、研磨屑等が研磨面Pで凝集することが抑制されるので、被研磨物に対するスクラッチを抑制することができ平坦性向上を図ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、研磨層2が弾性を有するポリウレタン弾性糸で形成された弾性材3で構成されている。このため、研磨加工時には弾性材3のクッション性が発揮されるので、被研磨物にかかる研磨圧を均等化し平坦性を向上させることができる。研磨層2では、弾性糸束が熱処理されることで隣接する弾性材3が融着部Mpで融着されており、一面側に両面テープ5が貼り合わされている。このため、弾性材3が周面と底面(研磨面Pと反対側の面)とで固定されるので、研磨加工時に研磨層2の変形が生じても弾性材3の脱落を防止することができる。
【0036】
更に、本実施形態では、弾性材3が、弾性糸束をスライスすることで形成されるため、均一な直径の円柱状に形成されている。このため、弾性材3間に形成される空隙Gaが均一な大きさで均等な分散状態で形成されている。これにより、研磨面P内における開孔が均一化、均等化されるので、研磨加工時にスラリの分散状態を均等化し被研磨物の平坦性を向上させることができる。また、研磨面Pの単位面積あたりに形成される空隙Gaの面積比率Arが9〜30%の範囲に調整されている。このため、研磨屑等の収容スペースを十分確保することができる。
【0037】
このような研磨層2を備えた研磨布10では、ポリウレタン弾性糸のモノフィラメントの作製条件等により、研磨面Pにおける開孔の微細化や均一化を図ることができ、クッション性を適正化し、厚みの均一化を図ることができる。このため、多様な被研磨物の特性に合わせて研磨層2を作製することができる。従って、研磨布10は、加工面に対する平坦性の要求が高度化している、例えば、CMP法による半導体デバイス等の研磨加工に好適に使用することができる。
【0038】
従来研磨加工、例えば、CMP法による半導体デバイスの研磨加工では、乾式成型法により形成され、研磨面に開孔が形成された樹脂シートを備えた研磨布が用いられている。得られる樹脂シートが硬質で独立発泡タイプのものが主体となるため、研磨面に形成された開孔が砥粒や研磨屑等により目詰まりし閉塞してしまう、という問題がある。開孔が閉塞すると、砥粒等が凝集しやすくなり、被研磨物の加工面にスクラッチを生じるおそれがある。このため、ドレッシング作業が必須となり、研磨効率の低下を招く。また、硬質の樹脂シートでは、クッション性が不十分なため、クッション性を有する別のシートと貼り合わせることが必要となる。さらには、半導体デバイスの加工面に要求される平坦性の高度化に伴い、CMP法による研磨精度や研磨効率等の研磨性能に対する要求も高まっており、これにつれ研磨布の開孔径も微細化、均一化が求められている。従って、開孔径の微細化や均一化を実現し、クッション性を有する研磨布を得ることができれば、高度な平坦性の要求に応えることができ、歩留りや製造効率を向上させることができる。本実施形態は、これらの問題を解決することができる研磨布である。
【0039】
なお、本実施形態では、ポリウレタン弾性糸のモノフィラメントで形成した弾性糸束をスライスすることで研磨層2を形成する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、個別に形成した弾性材3を両面テープ5の一面側の粘着剤層に敷き詰めるようにして固定することで形成することも可能である。また、本実施形態では、弾性材3が隣接する部分で融着され融着部Mpが形成された例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、個別に形成された弾性材3を両面テープ5上に敷き詰める場合等では、粘着性に優れる粘着剤を選定することで、側面(周面)が固着されていなくても十分な固着力を得ることができる。
【0040】
また、本実施形態では、ポリウレタン弾性糸のモノフィラメントを引き揃え弾性糸束を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。ポリウレタン弾性糸の紡糸工程で紡糸ノズルの孔数を複数とすることでモノフィラメントの複数本で構成される、いわゆるマルチフィラメントを用いるようにしてもよい。この場合、例えば、2〜10本単位で予め仮撚りしながら(モノフィラメント間が接するように軽度に撚りあわされていればよい。)得られたマルチフィラメントを引き揃えて弾性糸束を形成することができる。このようにすれば、モノフィラメントを引き揃えた弾性糸束と比べて空隙の面積比率を大きくすることができる。すなわち、図5に示すように、7本のモノフィラメントで構成されたマルチフィラメントを用いた場合、モノフィラメントの弾性材3で構成されたマルチフィラメントの弾性材13が平面状に敷き詰められることとなる。従って、モノフィラメント間の空隙Gaに加えて、マルチフィラメント間に空隙Gaより大きい空隙Gbが形成される。結果として、研磨面Pでは、空隙Ga、空隙Gbの開孔が形成されるため、研磨屑や砥粒の分散状態を一層均等化することができる。
【0041】
更に、本実施形態では、ポリウレタン弾性糸のモノフィラメントを乾式紡糸法により作製する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、溶融紡糸法や湿式紡糸法により作製するようにしてもよい。また、円形断面に代えて、楕円状や角形状等の異形断面とすることも可能である。空隙Gaの大きさの均一化や分散状態の均等化を考慮すれば、円形断面とすることが好ましい。さらには、ポリウレタン樹脂のみで弾性糸を作製することに代えて、2成分系で断面が海島構造、サイドバイサイド構造、芯鞘構造の弾性糸を作製し弾性糸束を作製してから、いずれか1成分を溶解除去するようにしてもよい。また、本実施形態では、特に言及していないが、乾式紡糸法や溶融紡糸法では、紡糸直後のフィラメントが溶融、軟化した状態のため、この状態で延伸し接圧をかけながら、通常の油剤を付与することなく(オイルレスの状態)引き揃えて弾性糸束を形成することができる。このようにすれば、フィラメントが冷却により固化する過程で隣接するフィラメントが融着されることとなり、熱処理工程を省略することができる。
【0042】
また更に、本実施形態では、繊度が1〜70dtexの範囲のモノフィラメントを紡糸し、弾性糸束を0.5〜5mmの長さにスライスする例を示したが、本発明はこれらに制限されるものではない。スライスする長さについては、研磨層2の厚みとなるため、所望の厚みにあわせてスライス時に調整すればよい。また、空隙Gaの大きさや空隙率を考慮すれば、繊度を2〜30dtexの範囲とすることが好ましく、より好ましくは4〜20dtexの範囲である。
【0043】
更にまた、本実施形態では、研磨面Pの単位面積あたりに形成される空隙Gaの開孔の面積比率Arが10〜11%の範囲、空隙Gaにおける仮想円Vcの直径φが5〜6μmの範囲の例を示したが、本発明はこれらに制限されるものではない。面積比率Arは、上述したように、研磨キズを回避する観点から、弾性材3の断面変形の抑制、弾性糸束の束密度の低減等により大きくなるように調整することが好ましい。面積比率Arとしては、9〜30%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜20%の範囲である。また、仮想円Vcの直径φは、上述したように、モノフィラメントの繊度が1〜70dtexの範囲では、1〜12μmの範囲となるが、被研磨物の平坦性向上を考慮すれば、直径φを2〜8μmの範囲、より好ましくは3〜7μmの範囲である。
【0044】
また、本実施形態では、特に言及していないが、研磨層2が、少なくとも一部に、被研磨物の研磨加工状態を光学的に検出するための光透過を許容する光透過部を有するようにしてもよい。このことは、例えば、光透過部を形成する部分のいくつかの弾性材3を抜き取るようにすれば、研磨層2の厚み方向の全体にわたり貫通する光透過部を形成することができる。このようにすれば、例えば、研磨機側に備えられた発光ダイオード等の発光素子、フォトトランジスタ等の受光素子により、研磨加工中に光透過部を通して被研磨物の加工面の研磨加工状態を検出することができる。これにより、研磨加工の終点を適正に検出することができ、研磨効率の向上を図ることができる。
【0045】
更に、本実施形態では、特に言及していないが、研磨層2の研磨面P側や研磨面Pと反対の面側に研削処理を施すようにしてもよい。このようにすれば、研磨層2の厚みを一層均一化することができる。また、研磨層2と両面テープ5との間に、可撓性を有する樹脂シート等の基材を貼り合わせるようにしてもよい。このようにすれば、比較的柔軟な研磨層2の取扱いを容易にすることができる。
【実施例】
【0046】
次に、本実施形態に従い製造した研磨布10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨布についても併記する。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、次のようにして紡糸原液を調製し、得られたポリウレタン弾性糸のモノフィラメントで研磨層2を作製し研磨布10を製造した。すなわち、数平均分子量1800のポリオキシテトラメチレングリコールの2870部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの595部を45℃にて混合した後、75℃にて80分間反応させて、プレポリマの3465部を得た。このときのイソシアネート基含有量はプレポリマ100g中1880gであった。これとは別に、鎖伸長剤としてエチレンジアミンの44部と末端停止剤としてジエチルアミンの6部とを、0℃に冷やしたDMAcの1262部に加えて十分に攪拌し、鎖伸長剤と末端停止剤との混合溶液を得た。先に得たプレポリマの3400部を、0℃に冷やしたDMAcの5896部に加え、十分に攪拌した後、プレポリマのイソシアネート基に対して、鎖伸長剤と末端停止剤との活性水素基が等モルとなるように鎖伸長剤と末端停止剤との混合溶液を添加し反応させて濃度35%のポリウレタン重合体溶液を調製し紡糸原液とした。
【0048】
得られた紡糸原液を直径0.2mmの1個のオリフィスを有する紡糸ノズルを用いて乾式紡糸した。紡糸速度を300m/分に設定し、20%伸長しながら紙管に巻き取り、15dtexのモノフィラメントの巻糸体を得た。このモノフィラメントで弾性糸束を形成し、スライスした後熱処理して、厚み2.0mmの研磨層2を作製した。得られた研磨層2と両面テープ5とを貼り合わせることで研磨布10を製造した。
【0049】
(比較例1)
比較例1では、末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマ(以下、単に、プレポリマという。)、ジアミン化合物のエチレンジアミン、ポリオール化合物の数平均分子量約1000のポリテトラメチレングリコールに水を分散させた分散液を混合し反応させることでポリウレタン発泡体を成型した。プレポリマとしては、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)の270部、数平均分子量約1000のポリテトラメチレングリコールの292部、ジエチレングリコールの65部を反応させ得られたイソシアネート含有量8.7%のものを用いた。プレポリマ、エチレンジアミンおよび分散液を重量比で100部:21部:5.5部の割合で混合した。このポリウレタン発泡体をスライスすることで、厚み2.0mmのウレタンシートを作製した。得られたウレタンシートと両面テープ5とを貼り合わせることで比較例1の研磨布を製造した。
【0050】
(評価)
次に、各実施例および比較例の研磨布を用いて、以下の研磨条件でハードディスク用のアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨レートを測定した。研磨レートは、研磨加工前後のアルミニウム基板の重量減少から、1分間当たりの研磨量を算出した。また、目視にて、アルミニウム基板のスクラッチの有無、研磨布の研磨面Pにおける目詰まりの有無を判定した。研磨レート、スクラッチおよび目詰まりの測定結果を下表1に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:100g/cm
スラリ:アルミナスラリ(pH:2.0)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:ハードディスク用アルミニウム基板
(外径95mmφ、内径25mm、厚さ1.27mm)
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、比較例1の研磨布では、研磨レートが0.54mg/minを示した。ところが、被研磨物の加工面には多数のスクラッチが認められ、研磨布の研磨面では開孔の目詰まりが認められた。これに対して、実施例1の研磨布10では、研磨レートが0.55mg/minを示し、十分な研磨加工を行うことができた。また、加工面にスクラッチが認められず、優れた平坦性の得られることが確認できた。さらには、研磨布10の研磨面Pでは、空隙Gaの目詰まりが認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明はスクラッチを抑制し被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨布を提供するため、研磨布の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0054】
Ga 空隙
P 研磨面
2 研磨層
3 弾性材(樹脂材)
10 研磨布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備えた研磨布において、前記研磨層は、弾性を有し高さが均一な柱状の多数の樹脂材が側面で外接するように平面状に敷き詰められて形成されており、前記樹脂材間に空隙が形成されていることを特徴とする研磨布。
【請求項2】
前記樹脂材は、外接する部分が固着されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項3】
前記研磨層は、前記研磨面の単位面積あたり、前記樹脂材間に形成される空隙の面積比率が9%〜30%の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の研磨布。
【請求項4】
前記樹脂材は、直径が均一な円柱状であることを特徴とする請求項3に記載の研磨布。
【請求項5】
前記樹脂材は、直径が10μm〜80μmの範囲、高さが500μm〜5000μmの範囲であることを特徴とする請求項4に記載の研磨布。
【請求項6】
前記研磨層は、ポリウレタン弾性糸が長手方向に引き揃えられた弾性糸束が前記長手方向と交差する方向に切断され形成されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の研磨布。
【請求項7】
前記弾性糸束は、隣接する前記ポリウレタン弾性糸が熱融着されていることを特徴とする請求項6に記載の研磨布。
【請求項8】
前記ポリウレタン弾性糸は、モノフィラメントまたは前記モノフィラメントの複数本が撚りあわされたマルチフィラメントであることを特徴とする請求項7に記載の研磨布。
【請求項9】
前記モノフィラメントは、繊度が1デシテックス〜70デシテックスの範囲であることを特徴とする請求項8に記載の研磨布。
【請求項10】
前記樹脂材間に形成された空隙は、均一な大きさで均等な分散状態で形成されていることを特徴とする請求項7に記載の研磨布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−67904(P2011−67904A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221211(P2009−221211)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】