説明

研磨液

【課題】磁性部とその凹部内に埋め込まれた非磁性部とを露出させて研磨面を形成する際に、非磁性部の研磨ムラを防止すること。
【解決手段】磁性材料を含む磁性部11と、該磁性部11に形成された複数の凹部120を覆うように埋め込まれた非磁性材料125とからなる複合体15を、磁性部11と凹部120内に埋め込まれた非磁性材料からなる非磁性部12とが露出して平坦な研磨面16を形成するまで研磨するために用いられる研磨液である。研磨液は、上記非磁性材料に対する接触角が10°以下である。好ましくは、研磨液は、界面活性剤を0.01〜20質量%含有することがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料を含む磁性部と、該磁性部に形成された複数の凹部を覆うように埋め込まれた非磁性材料とからなる複合体を研磨するために用いられる研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク(ハードディスク)装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置においては、基板と該基板上に形成された磁性材料とを備える磁気記録媒体が用いられている。磁気記録媒体においては、ユーザーデータを記録するデータ領域と位置情報を記録するサーボ領域が形成されている。
【0003】
例えば図8に示すごとく、ハードディスク装置等の用途においては、基板61上に形成された磁性材料65を備えた円盤状の磁気記録媒体6が回転して、該磁気記録媒体6の表面に浮上させた磁気ヘッド600により磁性材料65の記録部位651に情報68の読み書きを行う。
【0004】
近年、磁気記録媒体6に高密度で情報を記録する要求が高まっており、最新の磁気記録媒体においてはトラック密度110kTPIにまで達している。ところが、さらにトラック密度を高くしていくと、図8に示すごとく、磁性材料65における隣接する記録部位651の間隔が小さくなる。その結果、記録部位651に記録された情報が互いに干渉し、隣接する記録部位651の間652からノイズ69が発生し易くなるという問題があった。かかるノイズ69の発生は、記録部位651からの読み取りエラーを引き起こす。
【0005】
そこで、近年、磁性材料に凹凸を形成し、記録部位を物理的に分離させた磁気記録媒体が開発されている(特許文献1〜5参照)。このような磁気記録媒体には、例えばディスクリート・トラック・メディア(DTM)及びビット・パターンド・メディア(BPM)がある。
図9(a)及び(b)に円盤状のDTMの一例を示し、図10(a)及び(b)に円盤状のBPMの一例を示す。
【0006】
図9(a)及び(b)に示すごとく、DTM8は、円周方向に伸びる凹凸パターンが形成された磁気記録媒体であり、基板80上に、磁性材料からなる凸部81を挟んで凹部82が径方向に交互に形成されている。即ち、円周方向に伸びるように形成された凸部81と凹部82が径方向に交互に形成されている。
【0007】
また、図10(a)及び(b)に示すごとく、BPM9は、周囲から突出し、磁性材料からなる凸部91と、該凸部の周囲に形成された凹部92、93とからなる凹凸パターンが形成された磁気記録媒体である。BPM9においては、基板90上において円周方向に伸びるように形成された複数の凹部92と径方向に伸びるように形成された複数の凹部93によって、磁性材料が分断され複数の凸部91が形成されている。
DTM及びBPMにおいては、磁気ヘッドが高速に回転する磁気記録媒体の凸部に情報を記録したり凸部から情報を読み取ったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開2009−170040号公報
【特許文献5】特開2009−271973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、凹凸パターンを有する磁気記録媒体においては、気流の乱れによる磁気ヘッドの浮上安定性の低下等によって起こりうる磁気ヘッドと凹凸パターンの接触によって、磁気ヘッドや凹凸パターンの破損が懸念される。
これを回避するために、凹凸パターンの凹部を非磁性材料で埋めてしまう手法が考えられる。
【0010】
具体的には、まず、例えばガラス等からなる基板10の表面に磁性材料を含む磁性部11(磁性層)を形成し、該磁性部11に溝(凹部)120を形成して凹凸パターン13を形成する(図1(a)及び(b)参照)。次いで、凹凸パターン13の凹部120を覆うように非磁性材料125を埋め込むことにより、磁性材料を含む磁性部11と、該磁性部11に形成された複数の凹部120を覆うように埋め込まれた非磁性材料125とからなる複合体15を作製する(図1(c)参照)。そして、磁性部11と凹部120内に埋め込まれた上記非磁性材料からなる非磁性部12とが露出して平坦な研磨面16を形成するまで研磨することにより、磁気記録媒体1を作製する(図1(d)参照)。
【0011】
上述の研磨にあたっては、砥粒等を分散させた研磨液を用いて行う湿式研磨が考えられる。しかし、上記磁性部と上記非磁性部とを露出させて平坦な研磨面を形成させる際に用いられる有効な研磨液は開発されていない。
単に砥粒を分散させただけの従来の研磨液を用いると、研磨後の非磁性材料に研磨ムラが発生してしまうという問題がある。この研磨ムラは、非磁性部の表面が波打つ状態になることによって生じる。そのため、研磨ムラが発生すると、研磨面の平坦性が失われることとなる。その結果、例えば上述の磁気記録媒体6においては、情報68の読み書き時に、研磨ムラのある研磨面とその上に浮上させた磁気ヘッド600との接触や、研磨ムラのある研磨面周囲に発生する空気の圧縮等により、磁気ヘッド600の飛行安定性が損なわれるおそれがある(図8参照)。また、非磁性材料の研磨時に研磨ムラが生じることにより、磁性部11を露出させる部分に非磁性材料125が残存してしまうおそれがあり、磁気特性の悪化が発生するおそれがある(図1参照)。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、磁性部とその凹部内に埋め込まれた非磁性部とを露出させて研磨面を形成する際に、非磁性部の研磨ムラを防止することができる研磨液を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、磁性材料を含む磁性部と、該磁性部に形成された複数の凹部を覆うように埋め込まれた非磁性材料とからなる複合体を、上記磁性部と上記凹部内に埋め込まれた上記非磁性材料からなる非磁性部とが露出して平坦な研磨面を形成するまで研磨するために用いられる研磨液であって、
該研磨液は、上記非磁性材料に対する接触角が10°以下であることを特徴とする研磨液にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0014】
上記研磨液は、磁性材料を含む磁性部と、該磁性部に形成された複数の凹部を覆うように埋め込まれた非磁性材料とからなる複合体を、上記磁性部と上記凹部内に埋め込まれた上記非磁性材料からなる非磁性部とが露出して平坦な研磨面を形成するまで研磨するために用いられる。そして、上記研磨液においては、上記非磁性材料に対する接触角が10°以下である。
そのため、上記研磨液は、上記非磁性材料に対して優れた濡れ性を示すことができる。それ故、研磨時に、上記非磁性材料の均一な研磨を可能にし、上記研磨面において、上記非磁性部の研磨ムラの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例にかかる、軟磁性層と中間層と記録磁性層とからなる磁性部を表面に形成した基板の部分断面構造を示す説明図(a)、磁性部に凹部が形成された基板の部分断面構造を示す説明図(b)、基板上の磁性部に形成された凹部を非磁性材料により覆ってなる複合体の部分断面構造を示す説明図(c)、基板上に形成された磁性部の凹部内に非磁性材料からなる非磁性部を埋設させてなる磁気記録媒体の部分断面構造を示す説明図(d)。
【図2】実施例にかかる、研磨加工機用いた研磨加工方法を説明するための図であって、研磨加工時における研磨加工機の側面図(a)及び平面図(b)。
【図3】実施例にかかる、磁気記録再生装置の構成例を示す説明図。
【図4】実施例にかかる、磁気記録媒体におけるデータ領域及びサーボ領域の形成パターンの一例を示す平面図。
【図5】実施例にかかる、磁気記録媒体の部分断面構造を示す説明図であって、データ領域における断面構造を示す説明図(a)、サーボ領域における断面構造を示す説明図(b)。
【図6】基板上の磁性部に形成された凹部を非磁性材料により覆ってなる複合体の部分断面構造であって、データ領域における断面構造を示す説明図(a)、サーボ領域における断面構造を示す説明図(b)。
【図7】従来の研磨方法による研磨終了後の複合体(磁気記録媒体)の部分断面構造を示す説明図であって、データ領域における断面構造を示す説明図(a)、サーボ領域における断面構造を示す説明図(b)。
【図8】従来の磁気記録媒体から情報を読み書きする様子を示す説明図。
【図9】磁性材料に凹凸を形成してなるディスクリート・トラック・メディアからなる磁気記録媒体を示す説明図であって、凹凸パターンの一例を示す平面図(a)及び部分断面図(b)。
【図10】磁性材料に凹凸を形成してなるビット・パターンド・メディアからなる磁気記録媒体を示す説明図であって、凹凸パターンの一例を示す平面図(a)及び部分断面図(b)。
【図11】非磁性材料と、非磁性材料上に滴下した研磨液の液適との接触角を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
上記研磨液は、磁性材料を含む磁性部と、該磁性部に形成された複数の凹部を覆うように埋め込まれた非磁性材料とからなる複合体を、上記磁性部と上記凹部内に埋め込まれた上記非磁性材料からなる非磁性部とが露出して平坦な研磨面を形成するまで研磨するために用いられる。上記研磨液は、上記非磁性材料に対する接触角が10°以下である。
接触角が10°を超える場合には、上記非磁性材料に対する濡れ性が低下し、研磨後の上記研磨面における上記非磁性部に研磨ムラが発生するおそれがある。
接触角は、例えば平坦な板状の非磁性材料125に研磨液Sを滴下したときの接触角θである(図11参照)。
【0017】
上記研磨液は、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤と、水とを含有することが好ましい(請求項5)。
この場合には、上述の接触角10°以下の研磨液を実現し易くなる。また、この場合には、研磨くずを排出させ易くなる。
【0018】
上記研磨液は、上記ノニオン界面活性剤として、アルキル基の炭素数が6〜15でかつポリオキシアルキレンにおけるアルキレンがエチレン又はプロピレンであるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを少なくとも含有することが好ましい(請求項6)。
この場合には、接触角10°以下の研磨液をより一層実現し易くなる。
【0019】
具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えばポリオキシアルキレンデシルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンミリスチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、ポリオキシアルキレンステアリルエーテル、ポリオキシアルキレン2−プロピルヘプチルエーテル等を用いることができる。なお、ポリオキシアルキレンは、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの単体又は混合物の重合物が好ましい。
上記ノニオン界面活性剤としては、上述のポリオキシアルキレンアルキルエーテルの他に、例えばアルキルアミンや脂肪酸アミドなどを併用することができる。
【0020】
また、上記研磨液は、上記アニオン界面活性剤として、アルキル基の炭素数が6〜15でかつポリオキシアルキレンにおけるアルキレンがエチレン又はプロピレンであるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルを少なくとも含有することが好ましい(請求項7)。
この場合にも、接触角10°以下の研磨液をより一層実現し易くなる。また、この場合には、上記アニオン界面活性剤により、上記研磨液は、磁性材料の研磨を抑制する効果を示すことができる。そのため、上記研磨液を用いた研磨時には、上記凹部を覆う上記非磁性材料を優先的に研磨させることができ、上記磁性部と上記非磁性部とを平坦にし易くなる。
【0021】
具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルとしては、例えばポリオキシアルキレンデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンミリスチルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンステアリルエーテルリン酸エステル等を用いることができる。なお、ポリオキシアルキレンは、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの単体又は混合物の重合物が好ましい。
上記アニオン界面活性剤としては、上述のポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルの他に、他のアニオン界面活性剤を併用することもできる。
【0022】
また、研磨液は、上記両性界面活性剤として、2−アルキル−N−カルボキシアルキル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインを少なくとも含有することが好ましい(請求項8)。
この場合にも、接触角10°以下の研磨液をより一層実現し易くなる。
【0023】
具体的には、2−アルキル−N−カルボキシアルキル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインとしては、例えば2−ラウリル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2−ラウリル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2−アルキル(C8〜C18混合)−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2−アルキル(C8〜C18混合)−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等を用いることができる。なお、「C8〜C18混合」は、「炭素数8〜18のアルキルの混合」であることを意味する。
【0024】
また、上記研磨液において、上記界面活性剤の含有量は、0.01〜20質量%であることが好ましい(請求項9)。
上記界面活性剤の含有量が0.01質量%未満の場合には、界面活性剤の添加による上述の作用効果を十分に得ることができなくなるおそれがある。一方、20質量%を超える場合には、研磨液の粘度が上昇し、取り扱い性が低下するおそれがある。より好ましくは上記界面活性剤の含有量は、0.5〜10質量%がよく、さらに好ましくは1〜5質量%がよい。
【0025】
また、上記研磨液は、酸性又は塩基性(アルカリ性)のエッチング剤を含有することが好ましい。
この場合には、上記研磨液における上記非磁性材料に対する化学的な溶解性を向上させることができ、研磨速度を向上させることができる。
【0026】
好ましくは、上記研磨液は、酸性のエッチング剤として、リン酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、アミド硫酸、ポリリン酸、ホスホン酸、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、イタコン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ホスホノヒドロキシ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、及びエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸から選ばれる少なくとも1種を0.01〜30質量%含有することがよい(請求項10)。
また、アルカリ性のエッチング剤としては、水酸化アルカリ、下記の一般式(1)で表される水酸化四級アンモニウム、及びアンモニアから選ばれる少なくとも1種を0.01〜30質量%、及びアルカノールアミンを0.01〜30質量%含有することが好ましい(請求項11)。
【化1】

(式(1)中、R1〜R4は、独立して、ベンジル基、又は炭素数1〜6のアルキル基であり、アルキル基の一部が水酸基で置換していてもよい)
【0027】
これらのエッチング剤を場合には、例えばCoCrPt系、CoCrPtB系、CoCrPtTa系の合金からなる磁性材料や、これらにSiO2、Cr23等の酸化物を加えたグラニュラ構造の磁性材料等からなる磁性材料の溶解を抑制しつつ、Cr、Cu、Ru、Ti、Ta、Al、Si、又はこれらを含む合金などからなる非磁性材料に対する溶解性を向上させることができる。そのため、上記磁性部と上記非磁性部とを平坦にし、平坦な研磨面を形成し易くなる。
【0028】
エッチング剤の含有量が0.01質量%未満の場合には、上記エッチング剤を添加して得られる上述の効果が十分に得られなくなるおそれがある。一方、30質量%を超える場合には、上記凹部に埋め込まれた上記非磁性材料が過剰に溶解し易くなるおそれがある。より好ましくは0.1〜20質量%がよく、さらに好ましくは10質量%以下がよい。
【0029】
塩基性のエッチング剤において、上記一般式(1)におけるアルキル基の炭素数が6を超える場合には、水を含有する研磨液への溶解性が悪化し、析出又は分離してしまうおそれがある。
また、アルカノールアミンとしては、炭素数1〜6のアルカノールを有するものを用いることが好ましい。
アルカノールの炭素数が6を超える場合には、水を含有する研磨液への溶解性が悪化し、析出又は分離してしまうおそれがある。
【0030】
アルカノールアミンとしては、例えば炭素数1〜6のモノアルカノールアミン、炭素数1〜6のジアルカノールアミン、炭素数1〜6のトリアルカノールアミンを用いることができる。これらのアルカノールアミンのNに結合する水素の一部は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。
具体的には、アルカノールアミンとしては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミンなどを好適に用いることができる。これらのアルカノールアミンは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
また、水酸化アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、及び水酸化フランシウム(FrOH)等がある。
【0032】
好ましくは、水酸化アルカリはNaOH、KOH、及びLiOHから選ばれる少なくとも1種であることがよい。
また、好ましくは、上記水酸化四級アンモニウムは、水酸化ベンジルトリエチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化ジメチルジエチルアンモニウム、水酸化2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム、水酸化メチルトリエチルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化トリス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、及び水酸化ジメチルビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であることがよい。
これらの場合には、上記磁性材料に対する化学的な溶解性を抑制しつつ、上記非磁性材料に対する化学的な溶解性をより向上させることができる。
【0033】
また、上記研磨液が酸からなるエッチング剤を含有する場合には、上記研磨液の温度25℃におけるpHは5以下であることが好ましい。
この場合には、上記研磨液による上記非磁性材料の溶解特性をより向上させることができる。pHはより好ましくは3以下がよく、さらに好ましくは2以下がよい。
また、上記研磨液がアルカリからなるエッチング剤を含有する場合には、上記研磨液の温度25℃におけるpHは10以上であることが好ましい。
この場合には、上記研磨液による上記非磁性材料の溶解特性をより向上させることができる。pHはより好ましくは11以上がよく、さらに好ましくは12以上がよい。
【0034】
上記研磨液において、エッチング剤としては、上述の酸またはアルカリのいずれか一方を用いることができる。
【0035】
次に、上記研磨液は、酸化剤をさらに含有することができる。
上記研磨液は、酸化剤として、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、及び過塩素酸過酢酸から選ばれる少なくとも1種を0.01〜5質量%含有することが好ましい。
この場合には、上記非磁性材料に対するエッチングレートを向上させることができる。
上記酸化剤の含有量が0.01質量%未満の場合には、酸化剤の添加による上述の作用効果を十分に得ることができなくなるおそれがある。一方、5質量%を超える場合には、凹部に埋め込まれた上記非磁性材料が過剰に溶解し、上記磁性部と上記非磁性部で高低差が発生し易くなるおそれがある。より好ましくは上記酸化剤の含有量は、0.05〜3質量%がよく、さらに好ましくは0.5〜2質量%がよい。
【0036】
また、上記研磨液は、グリコール類を含有することができる。グリコール類は、研磨時のキズの発生を抑制したり、研磨ムラをより少なくしたりする効果を発揮することができる。グリコール類の含有量は、0.1〜30質量%が好ましい。より好ましくは、1〜20質量%がよい。さらに好ましくは、10質量%以下がよい。
【0037】
また、上記研磨液は、その他の成分として、例えばp−トルエンスルホン酸塩、キュメンスルホン酸塩等の極圧剤としての効果を有する成分を含有することができる。これらは、例えばアルカリのエッチング剤を用いる場合に併用することができる。p−トルエンスルホン酸塩、キュメンスルホン酸塩等の極圧剤の含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。より好ましくは、0.5〜5質量%がよい。
【0038】
上記研磨液は、使用時に適宜希釈して用いることができる。また、上記研磨液には、必要に応じて砥粒等を分散させて用いることができる。
【0039】
上記研磨液は、磁性材料を含む磁性部11と、該磁性部11に形成された複数の凹部120を覆うように埋め込まれた非磁性材料125とからなる複合体15を、上記磁性部11と上記凹部120内に埋め込まれた上記非磁性材料125からなる非磁性部12とが露出して平坦な研磨面16を形成するまで研磨するために用いられる(図1(c)及び(d)参照)。凹部120は、磁性材料で形成した磁性部11に対して例えばイオンミリングなどを行うことにより形成することができる。
【0040】
上記研磨液を用いた複合体の研磨は、例えば図2(a)及び(b)に示すような研磨加工機7を用いて行うことができる。
即ち、例えば複合体15に研磨液Sを供給しながら、複合体15の表面に研磨加工機7の研磨テープ705を押し当てた状態で研磨テープ705と複合体15とを相対的に動かす(図2参照)。これにより、上記複合体15の上記磁性部11と上記凹部120内に埋め込まれた上記非磁性材料からなる非磁性部12とが露出して平坦な研磨面16を形成するまで研磨する(図1(c)及び(d)参照)。
【0041】
上記研磨液が、上記エッチング剤、上記アニオン界面活性剤などを含有する場合には、上記複合体の上記磁性部には形状が異なる上記凹部が形成されていることが好ましい(請求項2)。
この場合には、平坦な研磨面を形成させることができるという、上記エッチング剤、アニオン界面活性剤等を含有する上記研磨液による作用効果が顕著になる。
即ち、図6(a)及び(b)に示すごとく、例えばハードディスク用の磁気記録媒体におけるデータ領域18とサーボ領域19のように、磁性部11に形状が異なる複数の凹部120が形成されている場合には、磁性部11の表面から非磁性材料125を均一な量で形成させたとしても凹部120内に埋め込まれる非磁性材料125の量が異なる。そのため、凹部120を覆う非磁性材料125の高さ(凹部の深さ方向の高さ)が、形状の異なる凹部120同士で異なってしまう。この状態で、非磁性材料125の高さが大きな領域18における磁性部11と凹部120内に埋め込まれた非磁性部125とが露出するまで研磨を行うと、非磁性材料125の高さが小さい領域19においては研磨が進行しすぎて、磁性部11及び非磁性部12の厚みが小さくなる(図7(a)及び(b)参照)。一方、上記特定のエッチング剤及び上記アニオン界面活性剤を含有する上記研磨液を用いると、磁性部11の過剰な研磨を抑制することができるため、凹部120の形状にかかわらず、図5(a)及び(b)に示すごとく、均一な厚みの磁性部11及び非磁性部12を形成させ、平坦な研磨面16を形成することができる。
【0042】
また、上記研磨液が、上記エッチング剤、上記アニオン界面活性剤などを含有する場合には、上記複合体は、上記凹部が形成された上記磁性部と該磁性部の上記凹部を覆うように埋め込まれた上記非磁性材料とからなるユーザーデータ記録用のデータ領域、及び該データ領域とは形状が異なる上記凹部が形成された上記磁性部と該磁性部の上記凹部を覆うように埋め込まれた上記非磁性材料とからなる位置情報記録用のサーボ領域を有する磁気記録媒体であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、ハードディスク用の磁気記録媒体の作製時における上述の研磨において上記研磨液をより好適に用いることができる。特に、上記データ領域及びサーボ領域においては、互いに形状の異なる上記凹部が形成されるため、上述のように、均一な厚みの磁性部及び非磁性部を形成させることができるという、上記エッチング剤、アニオン界面活性剤等を含有する上記研磨液を用いることによる作用効果が顕著になる。
【0043】
上記磁性部は、面内磁気記録媒体用の水平磁性部でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性部でもよい。より高い記録密度を実現できるという観点からは垂直磁性部が好ましい。
上記磁性部は、磁性材料を含有する。上記磁性材料としては、Coを主成分とするCo系合金を用いることが好ましい。
この場合には、上記複合体の研磨後に、特にハードディスク用に好適な磁気記録媒体を作製することが可能になる。また、この場合には、上記研磨液によって上記磁性部が化学的な溶解作用をより受けにくくなる。そのため、より平坦な研磨面を形成し易くなる。
具体的には、例えば、CoCrPt系、CoCrPtB系、CoCrPtTa系の磁性材料や、これらにSiO2、Cr23等の酸化物を加えたグラニュラ構造の磁性材料などを用いることができる。
【0044】
グラニュラ構造の磁性材料としては、例えば少なくとも磁性粒子としてCoとCrとを含み、磁性粒子の粒界部に、少なくともSi酸化物、Cr酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Co酸化物、Ta酸化物、Ru酸化物から選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることができる。具体的には、例えばCoCrPt−Si酸化物、CoCrPt−Cr酸化物、CoCrPt−W酸化物、CoCrPt−Co酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−W酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−Ru酸化物、CoRuPt−Cr酸化物−Si酸化物、CoCrPtRu−Cr酸化物−Si酸化物等が挙げられる。
【0045】
また、上記磁性部は、複数の磁性材料からなる積層構造により形成されていてもよい。
例えば垂直磁気記録媒体の場合には、図1に示すごとく、磁性部11を例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCu等)、FeTa合金(FeTaN、FeTaC等)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoB等)等からなる軟磁性層111と、Ru等からなる中間層112と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金からなる記録磁性層113とを積層して構成することができる。また、軟磁性層111と中間層112との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCr等からなる配向制御膜(図示略)を積層することもできる。なお、上記磁性部11は、ガラスなどの非磁性材料からなる基板10上に形成することができる。
【0046】
また、面内磁気記録媒体の場合には、上記磁性部として、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用することができる。
【0047】
上記磁性部は、スパッタ法等により薄膜として形成することができる。
上記磁性部においては、上記記録磁性層やCoCrPtTa磁性層は、例えば厚み3〜20nmで形成することができる。好ましくは5〜15nmがよい。
【0048】
また、上記磁性部は、上記磁性材料の表面に、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)及びカーボン等からなるバリア膜が形成されていてもよい。
この場合には、上記磁性部が研磨による影響をより一層受けにくくなる。そのため、平坦な研磨面をより一層形成し易くなる。
【0049】
次に、上記非磁性材料としては、例えば、非磁性の合金を用いることができる。
好ましくは、上記非磁性材料は、Cr、Cu、Ru、Ti、Ta、Al、Si、又はこれらを含む合金からなることがよい(請求項4)。即ち、上記研磨液は、Cr、Cu、Ru、Ti、Ta、Al、Si、又はこれらを含む合金からなる非磁性材料を有する上記複合体に対して適用することが好ましい。
この場合には、上記研磨液により、研磨ムラの発生をより防止し易くなる。また、上記研磨液が上記エッチング剤等を含有する場合には、上記非磁性材料が上記研磨液により化学的により溶解されやすくなり、より平坦な研磨面を形成し易くなる。より好ましくは、Cr、Ti、Al、又はこれらを含む合金からなる非磁性材料が好ましい。この場合には、研磨ムラの防止効果がより一層向上する。
【0050】
合金からなる非磁性材料としては、具体的には、例えばTi−Al合金、Cr−Ti合金、Mn−Al合金、Cr−Al合金、Cr−Mo合金、Al−Si合金、Cr−Cu合金、Ti−B合金、Ti−Al−Cr合金、Cr−Ru合金、及びCr−Ta合金等がある。
【実施例】
【0051】
(実施例)
本例においては、実施例及び比較例にかかる複数の研磨液(試料E1〜試料E20及び試料C1〜試料C6)を作製し、これらの研磨液を用いて磁性材料を含む磁性部と、該磁性部に形成された複数の凹部を覆うように埋め込まれた非磁性材料とからなる複合体を研磨する。
【0052】
まず、各種極圧剤、エッチング剤、界面活性剤、酸化剤、及び水を後述の表1〜4に示す配合割合で配合して26種類の研磨液(試料E1〜試料E20及び試料C1〜試料C6)を作製した。
【0053】
なお、表中のノニオン界面活性剤において、ポリオキシアルキレン−2−プロピルヘプチルエーテル(A)としては、ポリオキシアルキレン鎖がエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体であり、グリフィン法によるHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値が13.3程度である化合物を用いた。また、ポリオキシアルキレン−2−プロピルヘプチルエーテル(B)としては、ポリオキシアルキレン鎖がエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体であり、グリフィン法によるHLB値が13.9程度である化合物を用いた。また、ポリオキシエチレンジスチレン化フェノールエーテルとしては、第一工業製薬(株)製の「ノイゲン EA−157」を用いた。また、ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキル(C8〜C18混合)アミンとしては、ライオン(株)製の「エソミン C/12」を用いた。また、オレイン酸アミドとしては、ライオン(株)製の「エソマイド O/15」を用いた。
【0054】
また、表中のアニオン界面活性剤において、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル(A)としては、第一工業製薬(株)の「プライサーフ A215C」を用いた。また、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル(B)としては、第一工業製薬(株)の「プライサーフ A212C」を用いた。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルとしては、第一工業製薬(株)の「プライサーフ A208B」を用いた。また、ポリオキシエチレンデシルエーテルリン酸エステルとしては、第一工業製薬(株)の「プライサーフ A−210D」を用いた。また、ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテルリン酸エステルとしては、具体的には第一工業製薬(株)の「プライサーフ A−208F」)を用いた。
【0055】
また、表中の両性界面活性剤において、2−アルキル(C8〜C18混合)−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインとしては、ライオン(株)の「エナジコール CNS」を用いた。
【0056】
次いで、各試料(試料E1〜試料E20及び試料C1〜試料C6)の研磨液について、温度25℃におけるpHを(株)堀場製作所製の「PHメーターF54」を用いて測定した。pHの測定にあたっては、エッチング剤として酸を含有する試料E1〜E12及び試料C1〜C4については、原液のpHを測定したが、エッチング剤としてアルカリを含有する試料E13〜E20、試料C5、及び試料C6については、表中に示す組成の各試料の原液を水で30質量%に希釈した希釈液についてpHを測定した。その結果を後述の表1〜4に示す。なお、試料E6については、測定機器の測定下限界以下という理由からpHを測定することができなかった。
【0057】
また、各試料の研磨液について、CrTi合金(Cr:50質量%、Ti:50質量%)又はAlTi合金(Al:50質量%、Ti:50質量%)からなる非磁性材料に対する接触角を測定した。具体的には、まず、図11に示すごとく、表面が平坦な板状の非磁性材料125に対して、各各試料の研磨液Sの液適を滴下した。そして、接線との接触角θを測定した。接触角の測定は、協和界面科学(株)製の「DM500」を用いて測定した。
試料E1〜E12及び試料C1〜C4については、CrTi合金からなる非磁性材料に対する接触角を測定し、試料E13〜E20、試料C5、及び試料C6については、AlTi合金からなる非磁性材料に対する接触角を測定した。その結果を後述の表1〜4に示す。
【0058】
次に、本例においては、上述の各試料の研磨液を用いて磁気記録媒体を作製する。
即ち、図1に示すごとく、磁性材料を含む磁性部11と、該磁性部11に形成された複数の凹部120を覆うように埋め込まれた非磁性材料125とからなる複合体15を作製し、各試料の研磨液を用いてこの複合体15を研磨する。そして、磁性部11と上記凹部120内に埋め込まれた上記非磁性材料からなる非磁性部12とが露出して平坦な研磨面16を形成させることにより、磁気記録媒体1を作製する。
【0059】
図3に示すごとく、本例の磁気記録媒体1は、筐体30に内蔵されて磁気記録再生装置3(HDD)として用いられる。
例えば図3に示すごとく、磁気記録再生装置3は、磁気記録媒体1と、磁気記録媒体1を回転駆動する回転駆動部31と、磁気記録媒体1に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド300と、磁気ヘッド300を磁気記録媒体1の径方向に移動させるヘッド駆動部301と、磁気ヘッド300への信号入力と磁気ヘッド300から出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理系34と、これらを内蔵する筐体30とを備える。
【0060】
磁気記録再生装置1においては、本例において作製するディスクリート・トラック型の磁気記録媒体1を採用することにより、磁気記録媒体1に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度を得ることが可能となる。即ち、本例の磁気記録媒体1を用いることにより、記録密度の高い磁気記録再生装置3を構成することが可能となる。
【0061】
本例において作製する磁気記録媒体1の上面図を図4に示す。
同図に示すごとく、本例の磁気記録媒体1は、中心に孔を備えた円盤状であり、ユーザーデータを記録するためのデータ領域18と、位置情報を記録するためのサーボ領域19とを有する。データ領域18における磁気記録媒体1の厚み方向における部分断面図を図5(a)、サーボ領域19における磁気記録媒体1の厚み方向における部分断面図を図5(b)に示す。
図4、図5(a)及び(b)に示すごとく、磁気記録媒体1において、データ領域18及びサーボ領域19は、いずれも基板10上に形成された磁性材料からなる磁性部11と非磁性材料からなる非磁性部12とからなる。
【0062】
本例において、磁性部11は、基板10側から順次積層された軟磁性層111と中間層112と記録磁性層113とからなる。軟磁性層111は、厚み60nmのFeCoB膜からなり、中間層112は、厚み10nmのRu膜からなり、記録磁性層113は、厚み15nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金膜からなる。また、記録磁性層113上には、膜厚3nmの80Co−5Cr−15Pt合金膜(図示略)が形成されている。
【0063】
非磁性部12は、CrTi合金(Cr:50質量%、Ti:50質量%)又はAlTi合金(Al:50質量%、Ti:50質量%)合金からなる。非磁性部12は、磁性部11における記録磁性層113に形成された凹部に埋設されている。
【0064】
図4に示すごとく、データ領域18においては、磁性部11と非磁性部12とがそれぞれ円周方向に沿って伸びるように形成されており、径方向に磁性部11と非磁性部12とが交互に配置されている。また、サーボ領域19においては、磁性部11と非磁性部12とは、略径方向に伸びるように形成されており、径方向と略垂直な方向(円周方向)に交互に配置されている。また、サーボ領域19においては、円盤状の磁気記録媒体1の中心から径方向末端側に向けて幅が徐々に幅が大きくなるように磁性部11と非磁性部12とが形成されている。
【0065】
また、図5(a)及び(b)に示すごとく、データ領域18における磁性部11及び非磁性部12は、サーボ領域19における磁性部11及び非磁性部12と比較して断面形状が異なる。サーボ領域19における非磁性部12はデータ領域18における非磁性部12に比べて大きな幅で形成されている。なお、図4、図5(a)及び(b)に示すデータ領域18及びサーボ領域19における磁性部11と非磁性部12の形成パターンは一例であり、本発明の実施例にかかる研磨液は、その他様々なパターンで形成されたデータ領域及びサーボ領域を形成するために用いることができる。
【0066】
以下、各試料の研磨液を用いた磁気記録媒体の製造方法について詳細に説明する。本例においては、上述のごとく、非磁性部12を構成する非磁性材料がそれぞれCrTi合金(Cr:50質量%、Ti:50質量%)及びAlTi合金(Al:50質量%、Ti:50質量%)合金からなる2種類の磁気記録媒体を作製する。
【0067】
具体的には、まず、付着物が除去され表面が平坦なガラス基板を準備した。ガラス基板としては、Li2Si25、Al23-K2O、Al23−K2O、MgO−P25、Sb23−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスを材質とし、外径65mm、内径20mm、厚み0.8mm、平均表面粗さ(Ra)2Åのドーナツ型の基板を用いた。
【0068】
次に、図1(a)に示すごとく、DCスパッタリング法により、基板10上に厚み60nmのFeCoB膜からなる軟磁性層111、厚み10nmのRu膜からなる中間層112、及び厚み15nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金膜からなる記録磁性層113を形成した。また、記録磁性層113上には、膜厚3nmの80Co−5Cr−15Pt合金膜(図示略)を形成した。このようにして、基板10上に、軟磁性層111と中間層112と記録磁性層113との積層体を備える磁性部11を形成した。
【0069】
次に、所望のパターンで磁性部11と非磁性部12とが形成されるように(図4参照)、図1(b)に示すごとく、磁性層11の記録磁性層113を中間層112が露出するまで部分的に削り取り、非磁性部を形成しようとする部分に凹部120を形成した。凹部120は、イオンミリングにより形成した。このようにして、所望のパターンの磁性部と非磁性部とが形成されるように、図1(b)に示すごとく、磁性部11(記録磁性層113)と凹部120とからなる凹凸パターン13を形成した。
【0070】
次いで、DCスパッタリング法により、図1(c)に示すごとく、磁性部11に形成した複数の凹部120を覆うように、CrTi合金(Cr:50質量%、Ti:50質量%)合金又はAlTi合金(Al:50質量%、Ti:50質量%)合金からなる非磁性材料125を形成し、複合体15を得た。
【0071】
次に、上述のようにして作製した各試料の研磨液を供給しながら研磨機を用いて複合体を研磨した。研磨にあたっては、各試料の研磨液を水で30質量%に希釈し、ダイヤモンド砥粒を濃度1質量%で分散させた液を用いた。
研磨は、図2に示すような研磨加工機7を用いて次のようにして行った。
【0072】
研磨加工機7は、例えば図2(a)及び(b)に示すごとく、円盤状の複合体15を回転駆動するスピンドル701と、複合体15の表面に研磨液Sを供給するノズル702と、供給ロール703と巻き取りロール704との間で走行する研磨テープ705と、研磨テープ705を複合体15の表面に押しつける押圧ローラ706とを備えている。研磨加工機7を用いた研磨においては、スピンドル701に固定された複合体15を周方向に回転させながら、複合体15の表面にノズル702を通じて各試料の研磨液Sを供給し、供給ロール703と巻取りロール104との間で走行する研磨テープ705を複合体15の表面に押圧ローラ706を介して押しつけることによって、複合体15の表面を湿式研磨した。複合体15の回転数は600rpmとし、研磨テープ705の押し付け力を2.0kgf(19.6N)とした。
このようにして、図1(c)及び(d)に示すごとく、凹部120を覆う非磁性材料125を研磨し、磁性部11と凹部120内に埋め込まれた非磁性材料からなる非磁性部12とを露出させ平坦な研磨面16を形成した。このようにして、表面が研磨され平坦な研磨面16を有する磁気記録媒体1を得た。
【0073】
本例においては、CrTi合金又はAlTi合金からなる非磁性材料をそれぞれ用いた複合体に対して、各試料の研磨液を用いた研磨を行った。
具体的には、試料E1〜試料E12及び試料C1〜試料C4については、CrTi合金からなる非磁性材料を用いた複合体の研磨に適用し、試料E13〜試料E20、試料C5、及び試料C6については、AlTi合金からなる非磁性材料を用いた複合体の研磨に適用した。
このようにして得られた磁気記録媒体について次の評価行った。
【0074】
「非磁性部の研磨ムラ」
非磁性部における色むらを目視により確認した。
色むらが目視で確認されたかった場合を「○」とし、色むらが目視で明確に確認された場合を「×」として評価した。その結果を表1〜4に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
表1〜4より知られるごとく、試料C1〜試料C6の研磨液を用いた研磨においては、非磁性部に研磨ムラが発生したが、試料E1〜試料E20の研磨液を用いることにより、非磁性部における研磨ムラの発生を防止できることがわかる。即ち、試料E1〜試料E20は、研磨時における非磁性材料の均一な研磨を可能にし、研磨面において非磁性部の研磨ムラの発生を防止することができる。
なお、本例においては、試料E1〜試料E23の研磨液を用いて、ディスクリート・トラック・メディア(DTM)の磁気記録媒体を製造する例を示したが、本例の研磨液は、ビット・パターンド・メディア(BPM)等の磁気記録媒体の製造にも適用することができる。すなわち、本例の研磨液は、磁性材料を含む磁性部と、該磁性部に形成された複数の凹部を覆うように埋め込まれた非磁性材料とからなる複合体の研磨に適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 磁気記録媒体
11 磁性部
12 非磁性部
125 非磁性材料
15 複合体
16 研磨面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料を含む磁性部と、該磁性部に形成された複数の凹部を覆うように埋め込まれた非磁性材料とからなる複合体を、上記磁性部と上記凹部内に埋め込まれた上記非磁性材料からなる非磁性部とが露出して平坦な研磨面を形成するまで研磨するために用いられる研磨液であって、
該研磨液は、上記非磁性材料に対する接触角が10°以下であることを特徴とする研磨液。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨液において、上記複合体の上記磁性材料には形状が異なる上記凹部が形成されていることを特徴とする研磨液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の研磨液において、上記複合体は、上記凹部が形成された上記磁性部と該磁性部の上記凹部を覆うように埋め込まれた上記非磁性材料とからなるユーザーデータ記録用のデータ領域、及び該データ領域とは形状が異なる上記凹部が形成された上記磁性部と該磁性部の上記凹部を覆うように埋め込まれた上記非磁性材料とからなる位置情報記録用のサーボ領域を有する磁気記録媒体であることを特徴とする研磨液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨液において、上記非磁性材料は、Cr、Cu、Ru、Ti、Ta、Al、Si、又はこれらを含む合金からなることを特徴とする研磨液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨液は、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤と、水とを含有することを特徴とする研磨液。
【請求項6】
請求項5に記載の研磨液は、上記ノニオン界面活性剤として、アルキル基の炭素数が6〜15でかつポリオキシアルキレンにおけるアルキレンがエチレン又はプロピレンであるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを少なくとも含有することを特徴とする研磨液。
【請求項7】
請求項5に記載の研磨液は、上記アニオン界面活性剤として、アルキル基の炭素数が6〜15でかつポリオキシアルキレンにおけるアルキレンがエチレン又はプロピレンであるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルを少なくとも含有することを特徴とする研磨液。
【請求項8】
請求項5に記載の研磨液は、上記両性界面活性剤として、2−アルキル−N−カルボキシアルキル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインを少なくとも含有することを特徴とする研磨液。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の研磨液において、上記界面活性剤の含有量は、0.01〜20質量%であることを特徴とする研磨液。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の研磨液は、エッチング剤として、リン酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、アミド硫酸、ポリリン酸、ホスホン酸、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、イタコン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ホスホノヒドロキシ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、及びエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸から選ばれる少なくとも1種を0.01〜30質量%含有することを特徴とする研磨液。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の研磨液は、エッチング剤として、水酸化アルカリ、下記の一般式(1)で表される水酸化四級アンモニウム、及びアンモニアから選ばれる少なくとも1種を0.01〜30質量%、及びアルカノールアミンを0.01〜30質量%含有することを特徴とする研磨液。
【化1】

(式(1)中、R1〜R4は、独立して、ベンジル基、又は炭素数1〜6のアルキル基であり、アルキル基の一部が水酸基で置換していてもよい)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−812(P2013−812A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131732(P2011−131732)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000180449)四日市合成株式会社 (17)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】