説明

研磨用吸着パッド及びその製造方法

【課題】 研磨時には研磨対象物を良好に吸着することができるとともに、研磨後には研磨対象物を容易に脱着することができる研磨用吸着パッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 研磨用吸着パッド11は、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体よりなる板状体19の一方の面を研磨対象物としての液晶ガラス14の吸着面21とし、該吸着面21には内部より密度の高い発泡体の皮膜を有するとともに、その皮膜表面には撥水性付与剤による撥水性を有している。そして、研磨時には研磨用吸着パッド11の表面に液晶ガラス14が吸着され、研磨後には研磨用吸着パッド11から液晶ガラス14が脱着されるように構成されている。研磨用吸着パッド11の吸着面21における接触角は95〜115°であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば研磨対象物としてコンピュータのハードディスクに用いられる液晶ガラスやテレビの画面に用いられる液晶ガラスを研磨して厚さ精度を高める際に、液晶ガラスを保持するために使用される研磨用吸着パッド及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の液晶ガラスを製造する場合には、厚さ精度を高めるため、研磨砥粒としての酸化セリウムを水に分散したスラリーで液晶ガラスの表面を研磨する工程が設けられる。係る研磨工程においては液晶ガラスを保持する必要があり、そのためにポリウレタン発泡体、イソプレンゴム発泡体等の多孔質体が用いられている。そのような多孔質体として例えば、発泡ポリウレタン樹脂からなる多孔質軟質樹脂製シートにより構成された吸着パッドが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。係る吸着パッドは、加圧盤の盤面に貼着され、その吸着パッドに水を介してガラス基板が吸着保持される。一方、ガラス基板と対向する位置には、回転駆動軸により回転する研磨盤上に貼付された研磨布が配置される。そして、ガラス基板を研磨布に押し付け、そこへ酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させたスラリーを供給しながら回転させることにより、ガラス基板の表面が精度良く研磨される。
【特許文献1】特開2004−276133号公報(第2頁、第4頁及び第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、特許文献1に記載の吸着パッドは、ガラス基板の研磨時において研磨用スラリーに晒されることから、吸着パッドの表面から研磨用スラリー(水とその水に分散された研磨砥粒)が吸着パッド内に浸入する。吸着パッド内に研磨用スラリーが浸入すると、研磨用スラリーの浸入部分で進入量に応じて膨らみが生じ、吸着パッドの表面に微小な凹凸が形成される。一方、ガラス基板は吸着パッドの平坦な表面に水を介して吸着されている。吸着パッド表面の状態が平滑ではなく、凹凸部分が形成されていると、その上に存在する水の量が変化し、表面張力が場所によって変わり、吸着パッドに対するガラス基板の吸着性が変化する。その結果、ガラス基板の研磨精度が低下したり、さらにはガラス基板が吸着パッドに対して位置ずれしたりする場合がある。また、ガラス基板の研磨後にガラス基板を吸着パッドから剥がして交換する場合、吸着パッドからガラス基板を容易に剥がすことができることも要求される。
【0004】
そこで本発明の目的とするところは、研磨時には研磨対象物を良好に吸着することができるとともに、研磨後には研磨対象物を容易に脱着することができる研磨用吸着パッド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の研磨用吸着パッドは、研磨対象物を吸着し、その状態で研磨用スラリーにより研磨対象物を研磨するための研磨用吸着パッドであって、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体よりなる板状体の一方の面を研磨対象物の吸着面とし、該吸着面には内部より密度の高い発泡体の皮膜を有するとともに、その皮膜表面には撥水性付与剤による撥水性を有し、研磨時には研磨対象物が吸着され、研磨後には研磨対象物が脱着されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2に記載の発明の研磨用吸着パッドは、請求項1に係る発明において、前記吸着面における接触角は95〜115°であることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明の研磨用吸着パッドの製造方法は、研磨対象物を吸着し、その状態で研磨用スラリーにより研磨対象物を研磨するための研磨用吸着パッドの製造方法であって、ポリエステルポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び撥水性付与剤を含むポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させるに際して、発泡前又は発泡初期に前記原料の温度より低い温度に維持することを特徴とするものである。
【0007】
請求項4に記載の発明の研磨用吸着パッドの製造方法は、請求項3に係る発明において、前記撥水性付与剤は水酸基と疎水基とを有し、その水酸基をポリイソシアネート類のイソシアネート基と反応させ、予めプレポリマー化しておくことを特徴とするものである。
【0008】
請求項5に記載の発明の研磨用吸着パッドの製造方法は、請求項3又は請求項4に係る発明において、前記原料を離型用フィルム上に供給して反応、発泡及び硬化させた後、離型用フィルムを剥離することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の研磨用吸着パッドにおいては、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体よりなる板状体の一方の面を研磨対象物の吸着面とし、該吸着面には内部より密度の高い発泡体の皮膜を有していることから、吸着パッド内への研磨用スラリーの浸入が抑えられ、吸着パッドの表面に微小な凹凸の形成が抑制される。従って、研磨時には研磨対象物を良好に吸着することができる。さらに、前記皮膜表面には撥水性付与剤による撥水性が発現されていることから、吸着パッドの皮膜表面と研磨対象物との間に存在する水が弾かれ、研磨後には研磨対象物を吸着パッドから容易に脱着することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明の研磨用吸着パッドにおいては、吸着面における接触角が95〜115°であり、十分な撥水性を有することから、請求項1に係る発明の効果に加え、研磨対象物の脱着性を向上させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明の研磨用吸着パッドの製造方法では、ポリエステルポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び撥水性付与剤を含むポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させるに際して、発泡前又は発泡初期に前記原料の温度より低い温度に維持するものである。従って、発泡時における温度を低く設定することにより表面に皮膜を形成することができるとともに、撥水性付与剤により表面に撥水性を付与することができる。その結果、請求項1に係る発明の効果を発揮できる研磨用吸着パッドを容易に製造することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明の研磨用吸着パッドの製造方法では、撥水性付与剤は水酸基と疎水基とを有し、その水酸基をポリイソシアネート類のイソシアネート基と反応させ、予めプレポリマー化しておくものである。このため、請求項3に係る発明の効果に加え、撥水性付与剤をポリイソシアネート類と確実に反応させることができ、ポリウレタン骨格に組み込むことができる。
【0013】
請求項5に記載の発明の研磨用吸着パッドの製造方法では、原料を離型用フィルム上に供給して反応、発泡及び硬化させた後、離型用フィルムを剥離するものであり、請求項3又は請求項4に係る発明の効果に加え、離型用フィルムによって発泡体の表面に皮膜を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
まず、液晶ガラスの研磨装置について説明すると、図1に示すように、定盤10上には研磨用吸着パッド11が粘着剤層12を介して固着され、その研磨用吸着パッド11上には水13を介して研磨対象物としての液晶ガラス14が吸着されている。液晶ガラス14は、水13の表面張力により研磨用吸着パッド11上に吸着される。液晶ガラス14は、コンピュータのハードディスクや画面、テレビの画面、携帯電話の画面等に用いられるものである。液晶ガラス14の上方位置には、回転軸15に支持された円盤状の回転治具16が所定の回転速度で回転可能に配設されている。回転治具16の下面には研磨パッド17が固着され、前記液晶ガラス14の表面に摺接されるようになっている。
【0015】
そして、回転治具16が下降して研磨パッド17が液晶ガラス14の表面に接触する状態で、液晶ガラス14表面に研磨用スラリー18が供給され、液晶ガラス14の表面が研磨されるようになっている。研磨用スラリー18としては、例えば研磨砥粒としての酸化セリウムが水に分散されたものが用いられる。この研磨により、液晶ガラス14の厚さ精度が高められる。
【0016】
研磨用吸着パッド11を構成する板状体19は、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体により形成されている。図2は係るポリウレタン発泡体の断面を模式的に示す図であって、同図に示すように、発泡体の両面には発泡体の硬化物による皮膜(スキン層)20a,20bが形成されており、その皮膜20a,20bの厚さは2〜50μm程度である。この皮膜20a,20bの表面が液晶ガラス14を吸着する吸着面21となっている。
【0017】
さらに、発泡体の中心部には低密度層22が形成され、その低密度層22と皮膜20a,20bとの間には中心部の低密度層22より密度の高い高密度層23a,23bが形成されている。すなわち、発泡によって形成されたセル(気泡)24が発泡体の中心部では大きく、その外側では小さくなるため、中心部では密度が小さく、その外側では密度が大きくなる。ポリウレタン発泡体の厚さ方向には、セル24が4〜5個存在し、それらのセル24が連通する連続気泡型の発泡体である。なお、図2に示すポリウレタン発泡体はその構造を模式的に表したものであり、連続気泡構造を表したものではない。
【0018】
板状体19の表面はより平滑であることが好ましいことから、ポリウレタン発泡体の原料を表面が平滑な離型用フィルム上に供給して発泡させた後、離型用フィルムを剥離し、その剥離面を前記吸着面21とする手法を採ることが好ましい。具体的な手法について説明すると、図3に示すように、上下一対の送り出しローラ25、26には各々離型処理された離型用フィルムとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)製の樹脂フィルム27、28が巻回され、両樹脂フィルム27、28が重ね合されるようにして前方(図中では右方)へ送り出されるようになっている。この場合、下部位置の送り出しローラ26は右回転し、上部位置の送り出しローラ25は左回転する。樹脂フィルム27、28としては、アクリル樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム等を用いることができる。
【0019】
上部位置の送り出しローラ25の下方には、ポリウレタン発泡体の原料(液体)31を下方へ開口された供給口29から吐出する原料供給装置30が配設されている。そして、原料供給装置30の供給口29から吐出される原料31が、下部位置の送り出しローラ26から送り出され支持台32に支持された樹脂フィルム28上に供給されるようになっている。原料供給装置30の前方位置には押えローラ33が配設され、両樹脂フィルム27、28間にポリウレタン発泡体の原料31が挟まれた状態で、両樹脂フィルム27、28の上面から押圧し、両樹脂フィルム27、28間の厚さを調整するようになっている。
【0020】
この押えローラ33の前方位置には冷却ボックス34が配設され、冷却ボックス34内がポリウレタン発泡体の原料31による発泡前又は発泡初期にポリウレタン発泡体の原料31の温度より低い温度に保持されている。そして、得られるポリウレタン発泡体の表面に皮膜20を形成するようになっている。具体的には、原料31の温度は常温付近(15〜30℃)に保持され、冷却ボックス34の温度はそれより低い温度、例えば5℃から15℃未満の温度に設定される。皮膜20の厚さは、製造条件によって異なり、冷却ボックス34の温度が低いほど厚くなり、高いほど薄くなるが、通常50〜200μm程度である。
【0021】
冷却ボックス34の前方位置には加熱炉35が設けられ、70〜100℃程度の加熱エアを発泡体に吹き付けて、ポリウレタン発泡体の原料31を反応及び硬化させるようになっている。そして、両樹脂フィルム27,28間に挟まれたポリウレタン発泡体の原料31が押えローラ33の通過後に冷却ボックス34内で低温にて自然発泡され、その後加熱炉35内でさらに反応及び硬化(架橋)されてポリウレタン発泡体が製造されるようになっている。
【0022】
加熱炉の後方上下位置には、巻き取りローラ36,37が配設され、ポリウレタン発泡体表面の樹脂フィルム27、28が剥離され、それぞれ巻き取りローラ36,37に巻き取られるようになっている。このようにして、ポリウレタン発泡体の両表面に皮膜20a、20bが形成され、その表面が平滑に形成される。このポリウレタン発泡体により、又はそれをスライスすることにより、板状体19が得られる。板状体19の表面が平滑になることで、前記液晶ガラス14を安定した状態にて吸着保持することができる。さらに、板状体19の表面には高密度の皮膜20が形成され、その皮膜20は遮断性を有していることから、板状体19の表面で水や研磨砥粒の通過が規制される。
【0023】
また、板状体19は連続気泡構造、すなわちポリウレタン発泡体のセル24が連通する多孔質の構造を有している。連続気泡構造を示す独立気泡率(ASTMD2856に基づく)は20%以下であることが好ましい。この独立気泡率が20%を越える場合には、発泡体内のセル24の連通性が低下する。連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は軟質であり、その発泡体により形成される研磨用吸着パッド11は、液晶ガラス14等の研磨対象物を研磨する際に研磨圧によって研磨対象物が損傷を受けないように、緩衝性を有している。そのため、ポリウレタン発泡体は、一定の架橋密度を有するとともに、復元性を有することが求められる。
【0024】
このような連続気泡構造のセル24を有する多孔質の軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び撥水性付与剤を含むポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させることにより得られる。ポリオール類としては、ポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオールが挙げられるが、撥水性付与剤との非親和性によって撥水性を発現させるために、ポリエステルポリオールが好ましい。ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、それらの変性体、グリセリンにアルキレンオキサイドを付加した化合物等が挙げられる。このポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の数や水酸基価を変えることができる。また、ポリオール類の1種として、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の架橋剤を配合することもできる。
【0025】
架橋剤を含むポリオール類の平均水酸基価は、20〜100(mgKOH/g)であることが好ましい。このような水酸基価を有するポリオール類を用いることにより、ポリイソシアネート類との反応性に優れ、適度に架橋されたポリウレタン発泡体を得ることができる。ポリオール類の平均水酸基価が100(mgKOH/g)を越える場合、架橋密度が高くなり過ぎて発泡体が硬くなり、緩衝性が低下する。一方、平均水酸基価が20(mgKOH/g)未満の場合、水酸基価が小さくなり過ぎ、ポリウレタン発泡体の架橋密度が低くなって発泡体の強度が低下しやすくなる傾向を示す。また、架橋剤を含むポリオール類の平均官能基数は、2.0〜3.0であることが好ましい。この平均官能基数が2.0未満の場合には、ポリウレタン発泡体の架橋密度が低くなって発泡体の強度が不足する傾向を示す。一方、平均官能基数が3.0を越える場合には、架橋密度が高くなり過ぎて発泡体が硬くなり、その結果復元性が悪くなって緩衝性が低下する。
【0026】
次に、ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びそれらのプレポリマー等が用いられる。
【0027】
ここで、ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は好ましくは100〜120である。すなわち、イソシアネート指数は、ポリオール類、架橋剤及び撥水性付与剤の水酸基に基づく活性水素基並びに発泡剤(水)の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものであるが、その値が100を越えるということはイソシアネート基が活性水素基より過剰であることを意味する。イソシアネート指数が100未満の場合には、ポリオール類に対するポリイソシアネート類の反応が不足し、発泡体が軟らかくなって強度が低下する傾向を示す。一方、イソシアネート指数が120を越える場合には、発泡体が硬くなる傾向を示し、緩衝性が低下するようになる。
【0028】
発泡剤はポリウレタンを発泡させてポリウレタン発泡体とするためのものである。この発泡剤としては、水のほかメチレンクロライド等の低沸点化合物、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤のうち水は泡化反応の反応性に優れ、取扱いが良好であることから好ましい。発泡剤の配合量は、通常より少なくして泡化反応の進行を抑え、高密度の発泡体を得るために、ポリオール類100質量部に対して0.03〜0.07質量部であることが好ましい。これにより、密度が600〜800kg/m3の発泡体を得ることができる。発泡剤の配合量が0.03質量部未満では泡化反応が不十分となり、0.07質量部を越えると泡化反応及び架橋反応が過剰となり、発泡体が硬くなりやすい。
【0029】
触媒はポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応を促進するためのものである。係る触媒としては、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N−エチルモルホリン等の3級アミン、オクチル酸スズ等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。
【0030】
前記撥水性付与剤は水酸基と疎水基とを有する化合物である。疎水基としては、炭素数6〜20のアルキル基が挙げられる。撥水性付与剤として具体的には、n−ヘキサノール、n−オクタノール、n−デカノール、n−ステアリルアルコール等の飽和脂肪族一価アルコール(モノオール)が挙げられる。この撥水性付与剤は、ポリイソシアネート類と十分に反応させるため、予めポリイソシアネート類のイソシアネート基と反応させ、予めプレポリマー化しておくことが好ましい。プレポリマー化は、撥水性付与剤とポリイソシアネート類とを例えば常温で撹拌することにより行われる。撥水性付与剤として上記のような一価アルコールを用いることにより、その一価アルコールによって架橋化が抑制され、得られる発泡体の架橋密度が小さくなる。そのため、得られる発泡体の密度が高くなっても硬度を低く抑えることができる。
【0031】
撥水性付与剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり1〜20質量部であることが好ましい。この配合量が1質量部未満の場合、発泡体の表面に十分な撥水性を付与することができず、研磨対象物の研磨後に研磨用吸着パッドから研磨対象物を脱着することが難しくなる。一方、配合量が20質量部を越える場合、架橋化が抑制され、得られる発泡体の架橋密度が小さくなって強度が低下する。
【0032】
ポリウレタン発泡体の原料としては、上記各成分のほか、界面活性剤等の整泡剤、縮合リン酸エステル等の難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等が必要に応じて配合される。
【0033】
そして、ポリウレタン発泡体の原料を反応させて発泡及び硬化させることによりポリウレタン発泡体が製造されるが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類との付加重合反応(ウレタン化反応)、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化(発泡)反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋(硬化)反応である。ここで、上記のポリオール類はポリイソシアネート類と反応してポリウレタンの基本骨格を形成するものである。前記発泡過程でセル24が形成されるが、その形成速度が遅いことから、セル膜が破られてセル24が連通し、連続気泡構造のポリウレタン発泡体が製造される。
【0034】
製造されるポリウレタン発泡体は、その表面すなわち吸着面21における接触角が95〜115°であることが好ましい。接触角が95°未満では、吸着面21に十分な撥水性を付与することができず、研磨対象物の脱着性が低下する。一方、接触角が115°を越えると、研磨対象物の吸着性が低下する。また、発泡体の密度は600〜800kg/m3であることが好ましく、硬度(アスカーA硬度)は6〜15であることが好ましい。発泡体の密度が600kg/m3未満の場合又は発泡体のアスカーA硬度が6未満の場合には、発泡体表面が軟らかくなって研磨対象物の吸着性が低下する傾向を示す。一方、800kg/m3を越える場合又は発泡体のアスカーA硬度が15を越える場合には、発泡体が硬くなって緩衝性が低下する傾向となる。
【0035】
さて、本実施形態の作用について説明すると、研磨用吸着パッド11を構成するポリウレタン発泡体は、その原料を反応させ、発泡及び硬化させるに際して、発泡前又は発泡初期に原料温度より低い温度に維持することにより製造される。このとき、発泡体の表面は内部より温度が低く、発泡が抑えられ、表面には内部より密度の高い皮膜20が形成され、その皮膜20によって水の出入りが抑制される。従って、研磨用吸着パッド11は表面状態が平坦に保持され、研磨時には研磨対象物である液晶ガラス14の吸着力が高められる。
【0036】
さらに、ポリウレタン発泡体の原料にはステアリルアルコール等の撥水性付与剤が配合され、その撥水性付与剤はポリエステルポリオールに対して相溶性が低いことから、原料の反応及び発泡時に表面に移行する。従って、発泡体の表面には撥水性が付与され、液晶ガラス14の脱着性が高められる。
【0037】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の研磨用吸着パッド11においては、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体よりなる板状体19の一方の面を液晶ガラス14の吸着面21とし、該吸着面21には内部より密度の高い発泡体の皮膜20を有している。このため、研磨用吸着パッド11内への研磨用スラリー18の浸入が抑えられ、研磨用吸着パッド11の表面に微小な凹凸の形成が抑制される。従って、研磨時には液晶ガラス14を良好に吸着することができる。さらに、前記皮膜20表面には撥水性付与剤による撥水性が発現されていることから、研磨用吸着パッド11の皮膜20表面と液晶ガラス14との間に存在する水が弾かれ、研磨後には液晶ガラス14を研磨用吸着パッド11から容易に脱着することができる。このように、吸着と脱着という相反する性質をバランス良く発揮させることができる。
【0038】
・ また、研磨用吸着パッド11の吸着面21における接触角が95〜115°であることにより、十分な撥水性を有し、研磨後における研磨用吸着パッド11からの液晶ガラス14の脱着をより容易に行うことができる。
【0039】
・ 研磨用吸着パッド11の製造方法では、ポリエステルポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び撥水性付与剤を含むポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させるに際して、発泡前又は発泡初期に前記原料の温度より低い温度に維持するものである。従って、発泡時における温度を低く設定することにより表面に皮膜20を形成することができるとともに、撥水性付与剤により表面に撥水性を付与することができ、前記の効果を有する研磨用吸着パッド11を容易に製造することができる。
【0040】
・ 研磨用吸着パッド11の製造に際して、撥水性付与剤は水酸基と疎水基とを有し、その水酸基をポリイソシアネート類のイソシアネート基と反応させ、予めプレポリマー化しておくことにより、撥水性付与剤をポリイソシアネート類と確実に反応させることができ、ポリウレタン骨格に組み込むことができる。
【0041】
・ また、研磨用吸着パッド11の製造に際し、原料31を離型用フィルムとしての樹脂フィルム28上に供給して反応、発泡及び硬化させた後、樹脂フィルム28を剥離する方法を採用することにより、樹脂フィルム28によって発泡体の表面に皮膜20を容易に形成することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜6)
まず、変性MDI(4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート)又はポリメリックMDI(P−MDI)を用い、表1に示す撥水性付与剤を混合し、回転数500rpmで1時間撹拌後、24時間常温で放置してプレポリマー(ジイソシアネート)を調製した。
【0043】
【表1】

表1における略号を以下に示す。
【0044】
P−MDI:住友バイエルウレタン(株)製、44V20(NCO含有量31%)
MDI:ピュアーMDI(NCO含有量33.6%)とカルボジイミド変性をしたピュアーMDI(NCO含有量18.4%)を3対7の割合で混合したものである。
【0045】
コノール10D:炭素数10の一価アルコール(水酸基価は370mgKOH/g)
Hv15:ポリブテン、日本石油化学(株)製
次に、ポリウレタン発泡体の原料として、ポリオール類、前記プレポリマー、発泡剤としての水及び触媒を表2に示す配合量で混合した。そして、前述した製造装置及び製造方法によりポリウレタン発泡体を製造した。その場合、冷却ボックス34の温度を10℃、加熱炉35の温度を70℃に設定した。得られたポリウレタン発泡体から樹脂フィルム27,28を剥がしたところ、発泡体表面には皮膜20が形成されていた。その皮膜20の厚さをマイクロスコープで測定したところ、実施例1では0.09mm(90μm)であった。ポリウレタン発泡体の密度、アスカーA硬度及び接触角を下記に示す方法にて測定した。
【0046】
密度(kg/m3):JIS K7222:1999に準じて測定した。
アスカーA硬度:アスカーA硬度計にて測定した。
接触角(°):ポリウレタン発泡体表面における水との接触角を測定した。
【0047】
このポリウレタン発泡体を研磨用吸着パッド11とし、定盤10上に粘着剤層12を介して貼着した。研磨用吸着パッド11上には水13を流し、下記に示す液晶ガラス14を吸着させた。液晶ガラス14の上方位置には下記研磨機の回転治具16に接合された下記の研磨パッド17を配置した。そして、回転治具16を下降させて研磨パッド17を液晶ガラス14に接触させるとともに、酸化セリウムを水に分散させた研磨用スラリー18を研磨部分に供給して液晶ガラス14表面の研磨を行った。そして、研磨時における液晶ガラス14の位置ずれ、液晶ガラス14の交換容易性及び液晶ガラス14の汚染性を下記に示す方法で評価し、それらの結果を表2に示した。
【0048】
液晶ガラス14:直径78mm、厚さ0.7mm
研磨機:ラップマスター社製、卓上研磨機LM−15
研磨パッド17:直径40.6cm(16インチ)、厚さ2mm、ロデールニッタ(株)製、LP77
ガラスの位置ずれ:研磨時において液晶ガラス14が位置ずれするまでの時間を測定した。そして、その時間が24時間以上である場合を○、24時間未満である場合を×とした。
【0049】
ガラスの交換容易性:24時間研磨後に液晶ガラス14を交換するとき、液晶ガラス14を手で容易に外すことができるか否かを評価した。液晶ガラス14を手で容易に外すことができる場合を○、液晶ガラス14を手で容易に外すことができない場合を×とした。
【0050】
ガラスの汚染性:100mm角の液晶ガラス14上へ、縦50mm、横50mm、厚さ1mmのポリウレタン発泡体を載せて50%圧縮し、70℃恒温槽へ24時間放置後の液晶ガラス14への付着物の有無を確認した。付着物が目視にて確認できない場合を○、付着物が目視にて確認できる場合を×とした。
【0051】
【表2】

表2に示した結果から、実施例1〜6においてはいずれも、ポリウレタン発泡体表面の接触角が98〜110°であり、十分な撥水性を示していた。そして、研磨時における液晶ガラス14の位置ずれがなく、研磨後における液晶ガラス14の交換容易性もよく、液晶ガラス14の汚染性も認められなかった。
(比較例1〜5)
比較例1では、撥水性付与剤を変性MDIと反応させたプレポリマーを使用せず、変性MDIをそのまま反応させたほかは、実施例1と同様にして実施した。比較例2においては、撥水性付与剤としてイソブチルアルコールを用いたほかは、実施例1と同様にして実施した。比較例3では、撥水性付与剤としてポリブテンを用いたほかは、実施例1と同様にして実施した。比較例4においては、冷却ボックスの温度を70℃にしたほかは、実施例1と同様にして実施した。比較例5では、撥水性付与剤をP−MDIと反応させたプレポリマーを使用せず、P−MDIをそのまま反応させたほかは、実施例1と同様にして実施した。
【0052】
そして、得られたポリウレタン発泡体の密度、アスカーA硬度及び接触角を測定するとともに、研磨時におけるガラスの位置ずれ、ガラスの交換容易性及びガラスの汚染性を実施例1と同様の方法で評価した。それらの結果を表3に示した。
【0053】
【表3】

表3に示した結果から、比較例1及び比較例5では撥水性付与剤を使用しなかったため、所要の吸着性が得られず、液晶ガラス14の位置ずれが生じた。比較例2においては、撥水性付与剤としてイソブチルアルコールを使用したため、十分な撥水性が発現されず、液晶ガラス14の位置ずれが生じた。比較例3では、撥水性付与剤としてポリブテンを用いたことから、撥水性が発現されて液晶ガラス14の位置ずれは認められなかったが、吸着性が強くなり過ぎて液晶ガラス14の交換が手ではできなかった。比較例4では、冷却ボックス34の温度を70℃に上げたため、ポリウレタン発泡体の表面に皮膜20がほとんど形成されず、液晶ガラス14の交換時に表面で開口したセル24が真空状態を呈し、液晶ガラス14の交換が手ではできなかった。
【0054】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記ポリウレタン発泡体を、図3に示す装置を用いることなく、モールド成形等によりその表面が平滑になるように成形することもできる。
【0055】
・ 板状体の形状を五角板状等の多角板状、円板状、楕円板状等に形成することもできる。
・ 研磨対象物として、磁気ディスク、光磁気ディスク等を用いることもできる。
【0056】
・ ポリウレタン発泡体の原料として親水性親油性比(HLB)が3〜6の界面活性剤を配合し、ポリウレタン発泡体の疎水性(親油性)を高めるように構成することも可能である。
【0057】
・ 研磨砥粒として、シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)等を用いることもできる。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0058】
・ 前記撥水性付与剤は、水酸基と疎水基として炭素数6〜20のアルキル基を有する一価アルコールであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の研磨用吸着パッドの製造方法。この場合、請求項4又は請求項5に係る発明の効果に加え、研磨対象物の脱着性を向上させることができる。
【0059】
・ 前記発泡剤は水であり、その水の配合量はポリオール類100質量部に対して0.03〜0.07質量部であることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の研磨用吸着パッドの製造方法。この場合、請求項3から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、ポリウレタン発泡体の密度を600〜800kg/m3にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】研磨用吸着パッドを定盤上に接着した状態を示す概略断面図。
【図2】ポリウレタン発泡体の内部構造を模式的に示す断面図。
【図3】両面が平滑な板状体を製造する装置の断面を示す概略説明図。
【符号の説明】
【0061】
11…研磨用吸着パッド、14…研磨対象物としての液晶ガラス、18…研磨用スラリー、19…板状体、20、20a、20b…皮膜、21…吸着面、27、28…離型用フィルムとしての樹脂フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨対象物を吸着し、その状態で研磨用スラリーにより研磨対象物を研磨するための研磨用吸着パッドであって、
連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体よりなる板状体の一方の面を研磨対象物の吸着面とし、該吸着面には内部より密度の高い発泡体の皮膜を有するとともに、その皮膜表面には撥水性付与剤による撥水性を有し、研磨時には研磨対象物が吸着され、研磨後には研磨対象物が脱着されるように構成されていることを特徴とする研磨用吸着パッド。
【請求項2】
前記吸着面における接触角は95〜115°であることを特徴とする請求項1に記載の研磨用吸着パッド。
【請求項3】
研磨対象物を吸着し、その状態で研磨用スラリーにより研磨対象物を研磨するための研磨用吸着パッドの製造方法であって、
ポリエステルポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び撥水性付与剤を含むポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させるに際して、発泡前又は発泡初期に前記原料の温度より低い温度に維持することを特徴とする研磨用吸着パッドの製造方法。
【請求項4】
前記撥水性付与剤は水酸基と疎水基とを有し、その水酸基をポリイソシアネート類のイソシアネート基と反応させ、予めプレポリマー化しておくことを特徴とする請求項3に記載の研磨用吸着パッドの製造方法。
【請求項5】
前記原料を離型用フィルム上に供給して反応、発泡及び硬化させた後、離型用フィルムを剥離することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の研磨用吸着パッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−334745(P2006−334745A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164499(P2005−164499)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】