説明

破砕機用油圧シリンダ

【課題】強大な破砕力と機体の軽量化を同時に達成し得る破砕機用油圧シリンダを提供する。
【解決手段】この油圧シリンダ30は、そのピストンロッド50の軸受部に形成する2平面をピン穴56と同軸のザグリ穴55で形成し、ピン穴56の内径とザグリ穴55の内径に対応する内径およびアームピン70の外径に対応する内径を有する段付きブッシュ60をピン穴56に嵌着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレームに軸支された破砕アームを油圧シリンダで開閉し破砕対象を挟圧破砕する破砕機に用いられる油圧シリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
図6に斜視図を示すように、破砕機100は、フレーム110に軸支された破砕アーム20を油圧シリンダ130で開閉させて解体建造物や砕石等の対象物を挟圧破砕する装置である(特許文献1を参照)。破砕機に求められる性能としては、破砕力が強大であること、破砕アームの開ロ幅が大きくてかつ開閉速度が速いこと、および、耐久性が高いこと、が挙げられるが、機体が軽いということも非常に重要である。
【0003】
強大な破砕力を得るためには破砕アームを開閉する油圧シリンダを高出力型にするのが近道である。しかし、高出力の油圧シリンダはチューブ径が大きくなり、機体の重量が増大してしまう。さらに、機体の重量が増大すると作業性が悪化するだけでなく、破砕機を搭載する台車のクラスを1ランクアップしなければならない場合も出てくるので重量増は避けなければならない。
【0004】
また、高出力型ではない油圧シリンダ、すなわち、径大ではない通常のチューブ径の油圧シリンダを用いて破砕力を高める方策として、破砕アーム形状の最適化があるものの、破砕アームの開ロ幅を犠牲にすることなく破砕力を増大させることはできない。
そこで、通常のチューブ径の油圧シリンダを用い、破砕アームの開ロ幅を維持しながら破砕力を増大する方策としては、破砕機に供給する圧油を昇圧する増圧弁(特許文献2を参照)が有効である。
【0005】
増圧弁という破砕機能向上手段は、破砕機において必須の潮流をなすようになり、各社がそれぞれ形式を変えながら増圧弁を採用することが多くなった。これにより、通常のチューブ径の油圧シリンダを使用して機体の重量を制限しながら強大な破砕力を得ることが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−18364号公報
【特許文献2】特許第3497549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この増圧弁によれば、その増圧比を高めることで油圧シリンダに供給する圧油をより一層高圧化して油圧シリンダのチューブ径を従来よりも縮小しつつも強大な破砕力を得ることが可能である。
しかしながら、チューブ径を縮小できると機体の重量が低減できるのは勿論のこと、油圧シリンダの製作コストも削減が見込めるはずであるものの、実際にはチューブ径がある一定のレベルからさらに縮小されることはなかった。
【0008】
その理由は、油圧シリンダ130を枢支するアームピン170(図6参照)は破砕力に見合った強度および面圧を確保できる直径が必要であり、アームピンの直径を維持しながらピストンロッドの直径を小さくすると、ピストンロッドのロッドクレビス(軸受部)における平坦部の面積を確保することが困難になるためである。ロッドクレビスの平坦部の面積が少なくなるとアームピンを装着するピン穴とロッドクレビスの外径が形成する形状が断面視において薄い円弦状となりその鋭角状の頂点に応力が集中してしまう。
【0009】
また、仮に平坦部の厚さ(すなわちクレビス幅、または2面幅)を薄くすることで平坦部の面積を確保しようとすると、アームピンとピン穴の接触面積が減少してピストンロッド伸長時の面圧が高くなりピン穴の変形、アームピンのカジリ、およびアームピンの早期磨耗が発生するという問題があった。したがって、これまでの破砕機においては増圧弁を装備することで本来発揮でき得る最大限の作用効果を享受できていたとはいえなかった。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、強大な破砕力と機体の軽量化を同時に達成可能な破砕機用油圧シリンダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、フレームに軸支された破砕アームを油圧シリンダで開閉し破砕対象を挟圧破砕する破砕機に用いられ、供給する圧油の圧力を増強する破砕機能向上手段を有する油圧シリンダであって、当該油圧シリンダは、そのピストンロッドの軸受部に形成する2平面をピン穴と同軸のザグリ穴で形成し、前記ピン穴の内径とザグリ穴の内径に対応する内径およびアームピンの外径に対応する内径を有する段付きブッシュを前記ピン穴に嵌着したことを特徴とする。
ここで、本発明に係る破砕機用油圧シリンダにおいて、前記段付きブッシュは、ザグリ穴側壁の凹の段部の内径に対応する外径を有する大径部と、前記ピン穴の内径と対応する外径を有する小径部とを備え、前記大径部の厚さが、前記2平面の平坦部とザグリ穴の段差よりも僅かに大きく設定されるとともに、前記フレームとの摺接は大径部の端面が受け持っていることは好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軸受部の2平面は面積が確保されるので応力集中が発生することはなく、シリンダ伸長時のアームピンの面圧はピン穴部とザグリ部とに振り分けられて保持される。したがって、アームピンの外径をそのままに、ピストンロッドの直径を縮小することが可能であり油圧シリンダの径を小さくすることができる。
そして、この破砕機には破砕機能向上手段(例えば増圧弁)が設けられているので、破砕機に供給される圧油は高圧化されており強大な破砕力が発揮される。よって、強大な破砕力と機体の軽量化を同時に達成可能な破砕機用油圧シリンダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる破砕機用油圧シリンダを装着した破砕機の一実施形態の正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明にかかる破砕機の油圧シリンダの一実施形態の斜視図である。
【図4】本発明にかかる破砕機の油圧シリンダの一実施形態の説明図であって、同図(a)はその軸受部の平面図、(b)は正面図、(c)は(b)でのB−B断面図である。
【図5】本発明にかかる破砕機の油圧シリンダの一実施形態の軸受部の斜視図である。
【図6】従来の破砕機の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、この破砕機1は、フレーム10に軸支された一対の破砕アーム20と、この破砕アーム20とフレーム10との間に装着されてその伸縮動作によって破砕アーム20を開閉する油圧シリンダ30とを有する。
フレーム10の上端には、破砕機1をパワーショベル等の台車に装着するためのブラケット90が図示しない旋回機構を介して設けられており、このブラケット90内には破砕機能向上手段として増圧弁80が配設されている。フレーム10の下部には、支軸12によって一対の破砕アーム20が開閉可能に軸支されている。
【0014】
フレーム10の上部と破砕アーム20との間には、それぞれアームピン70を支軸として油圧シリンダ30のピストンロッド50とシリンダチューブ40が軸支されており、この油圧シリンダ30の伸縮によって破砕アーム20が開閉する。この破砕機1のシリンダレイアウトは、ピストンロッド50がフレーム10側に軸支される、いわゆる倒立シリンダレイアウトを採用している。この倒立シリンダレイアウトによりロッドガードが不要となり機体重量の低減に繋がるが、その一方でロッド内に圧油通路を設けることが必要となる。なお、図2に断面図を示すように、フレーム10に対するアームピン70の各軸支部には、ストレートタイプのブッシュ11が嵌着されている。そして、アームピン70の両端には、凹の段部が形成され、この凹の段部に嵌合する凸の段部を有してアームピン70の径よりもひとまわり大きい円盤状のカバー71がボルト72によって軸方向両側から固定されている。
【0015】
次に、上記油圧シリンダ30についてより詳しく説明する。
図3に斜視図を示すように、この油圧シリンダ30は、中空円筒状のシリンダチューブ40内に、ピストンロッド50が進退自在に摺嵌されている。シリンダチューブ40の一端にはチューブクレビス41が設けられており、このチューブクレビス41にはアームピン70を装着するためのピン穴42が設けられている。このピン穴42にはストレートタイプのブッシュ(図示略)が嵌着される。
【0016】
ピストンロッド50は、図4に示すように、棒状のロッド本体50aの基端側に不図示のピストンヘッドを有し、先端側にロッドクレビス51が設けられており、ピストンヘッドがシリンダチューブ40内を摺動するよう構成されている。ロッド本体50a内にはポート58に連通する圧油の通路(図示略)が形成されている。
ここで、この破砕機1の油圧シリンダ30においては、ロッドクレビス51は、図2に示すように、段付ブッシュ60を介してアームピン70と接触するようになっている。
【0017】
詳しくは、このロッドクレビス51は、図3および図4に示すように、その外観形状が、円筒部52とこの円筒部52に連続する球形頭部53とによって構成され、これらの側面に互いに平行な平坦部54が2面形成されている。この一対の平坦面54はクレビス面とも呼ばれ、その厚さをクレビス幅とも2面幅ともいう。円筒部52の外径はロッド本体50aの外径よりも若干小さく設定されている。円筒部52にはポート58が設けられており、このポート58が前記増圧弁80を介して圧油源と油圧ホース(いずれも図示略)で接続される。
【0018】
ロッドクレビス51には、その中心軸と直交し、かつ平坦面54に垂直な軸を軸心とするピン穴56が形成されている。そして、平坦面54には、このピン穴56と軸心を同じくするザグリ穴55が形成されている。すなわち、ザグリ穴55のザグリ穴側壁57(図4(b)参照)とピン穴56は同軸であり、ザグリ穴55と平坦部54は平行の関係にある(図4(a)参照)。
【0019】
なお、ザグリ穴55はザグリ穴側壁57がピン穴56と同軸であればよく、円形頭部53方向(図4(b)の右方向)には延出した平面となっている。また、ザグリ穴側壁57の高さが徐々に減じていきゼロとなる箇所には薄肉部が形成されるので、切上げ加工が施されて切上部57aが形成されている(図4(a)参照)。
ピン穴56には、図2に示すように、段付ブッシュ60が嵌着される。この段付ブッシュ60は、ザグリ穴側壁57の凹の段部の内径(曲率)に対応する外径を有する大径部61と、ピン穴56の内径と対応する外径を有する小径部62とを備え、また、その内径63は、アームピン70の外径に対応している。
【0020】
また、この段付ブッシュ60は、その大径部61の厚さ、すなわち端面64と段付面65の面幅が、平坦部54とザグリ穴55の段差よりも僅かに大きく設定されており、フレーム10との摺接は図2に示すように端面64が受け持っている。したがって、ロッドクレビス51のクレビス幅は、対向する段付ブッシュ60の端面64同士の幅ということになる。
【0021】
次に、この破砕機1を用いての破砕作業、および油圧シリンダ30の作用・効果について説明する。
この破砕機1での破砕作業に際しては、まず、ポート58に増圧弁80を介して油圧ホース(図示略)を接続する。次いで、油圧シリンダ30の短縮側に圧油を供給して破砕アーム20を開き、台車のブームを駆動して破砕アーム20が破砕対象に正対するよう位置決めする。そして、油圧シリンダ30の伸長側に圧油を供給して破砕アーム20を閉じて破砕対象を狭圧破砕する。
【0022】
破砕アーム20が破砕対象を挟圧破砕する際は、上述のように油圧シリンダ30の推力が破砕アーム20の先端側へと伝達して破砕が行われるが、その反力がフレーム10、破砕アーム20、および油圧シリンダ30に作用することになる。
この破砕機1においては、油圧シリンダ30には増圧弁80により高圧に昇圧された圧油が供給されており、強大な破砕力が作用する一方で発生する反力も大きくなる。このとき、油圧シリンダ30において上記の反力は、油圧シリンダ30両端のクレビス41、51に作用する。具体的にはクレビス41、51とアームピン70との接触面に反力が作用するが、接触面積が大きい程、単位面積当たりの反力、すなわち面圧が小さくなり部材が破損するおそれは少なくなる。
【0023】
ここで、この破砕機1の油圧シリンダ30は、図3にも示したように、チューブクレビス41については径大なためピン穴42の長さが長くアームピン70との接触面積を大きくできるので、面圧を低く設定することが可能である。他方、ロッドクレビス51は径小なので、通常であればクレビス幅を確保しつつアームピンとの接触面積を維持することは難しい。
【0024】
この点に対し、この破砕機1の油圧シリンダ30においては、図2に示したように、段付ブッシュ60を介してアームピン70と接触するので、クレビス幅が対向する段付ブッシュ60の端面64の幅として十分である。そして、図4(c)に示すように、ロッドクレビス51とアームピン70の見かけ上の接触面積、すなわち面圧保持面積Sは、小径部62が担保するS1、および大径部61が担保するS2(×2倍)の合計ということになり、チューブクレビス41と比べても何ら面圧保持面積に遜色がない。
【0025】
したがって、この破砕機1の油圧シリンダ30によれば、ピストンロッド50の径を小さく設定することができ、これにより、油圧シリンダ30全体の径を小さくすることが可能となる。すなわち、この破砕機1の油圧シリンダ30によれば、その高出力によって破砕アーム20に強大な破砕力を発生させることが可能でありながら外径を絞ることが可能となる。
【0026】
以上説明したように、この破砕機1の油圧シリンダ30によれば、強大な破砕力と機体の軽量化を同時に達成することができる。なお、本発明に係る破砕機用油圧シリンダは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、油圧シリンダの使用形態が、上記実施形態のようにフレームと各破砕アームをそれぞれ接続する2本シリンダタイプの破砕機ではなく、破砕アーム同士を接続する1本シリンダのタイプの破砕機であってもよい。
【0027】
また、上記実施形態のようにフレームに対して一対の破砕アームが開閉する、いわゆる大割タイプの破砕機ではなく、フレームの先端が破砕顎を形成し一つの破砕アームのみが開閉するいわゆる小割タイプの破砕機に使用されてもよい。
また、上記実施形態のように油圧シリンダのレイアウトを、ピストンロッドがフレーム側に軸支される倒立シリンダレイアウトではなく、油圧シリンダを上下反転してチューブ側をフレームに軸支してもよい。
さらに、破砕機能向上手段として、本実施形態の増圧弁に加え、増速弁を同時に装備することで破砕アームの無負荷時の閉じ速度をより加速して作業効率の向上を図ってもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 破砕機
10 フレーム
11 ブツシユ
12 支軸
20 破砕アーム
30 油圧シリンダ
40 シリンダチューブ
41 チューブクレビス
42 ピン穴
50 ピストンロッド
50a ロッド本体
51 ロッドクレビス
52 円筒部
53 球形頭部
54 平坦部
55 ザグリ穴
56 ピン穴
57 ザグリ穴側壁
57a 切上部
58 ポート
60 段付ブッシュ
61 大径部
62 小径部
63 内径
64 端面
65 段付面
70 アームピン
71 カバー
72 ボルト
80 増圧弁(破砕機能向上手段)
90 ブラケット
S 面圧保持面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームに軸支された破砕アームを油圧シリンダで開閉し破砕対象を挟圧破砕する破砕機に用いられ、供給する圧油の圧力を増強する破砕機能向上手段を有する油圧シリンダであって、
当該油圧シリンダは、そのピストンロッドの軸受部に形成する2平面をピン穴と同軸のザグリ穴で形成し、前記ピン穴の内径とザグリ穴の内径に対応する内径およびアームピンの外径に対応する内径を有する段付きブッシュを前記ピン穴に嵌着したことを特徴とする破砕機用油圧シリンダ。
【請求項2】
前記段付きブッシュは、ザグリ穴側壁の凹の段部の内径に対応する外径を有する大径部と、前記ピン穴の内径と対応する外径を有する小径部とを備え、前記大径部の厚さが、前記2平面の平坦部とザグリ穴の段差よりも僅かに大きく設定されるとともに、前記フレームとの摺接は大径部の端面が受け持っていることを特徴とする請求項1に記載の破砕機用油圧シリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−81400(P2012−81400A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229010(P2010−229010)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(594149398)古河ロックドリル株式会社 (50)
【Fターム(参考)】